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エリアレビュー・大腸癌
座談会 大腸癌の一次治療における
抗EGFR抗体薬の位置付け
—最新の臨床試験の結果からみた今後の治療戦略—
神戸大学大学院医学研究科
愛知県がんセンター中央病院
国立がん研究センター
外科学講座食道胃腸外科学教授
薬物療法部部長
生物統計部門部門長
掛地 吉弘氏(座長)
室 圭氏
山中 竹春氏
切除不能・進行大腸癌のファーストラインにおける治療を検討した研究として、抗 EGFR 抗体薬を
用いた PRIME 試験 OS アップデート解析、PEAK 試験、FIRE-3 試験の結果が今年に入って相次いで
発表された。さらに、抗 EGFR 抗体薬の使用にあたり、現在は KRAS エクソン 2 遺伝子変異の解析が
行われているが、その他の RAS 遺伝子変異を解析する必要性を示唆するデータも報告された。これ
らの臨床試験の結果をどのように解釈し、いかに今後の診療に応用すべきだろうか。
本座談会では、神戸大学大学院医学研究科外科学講座食道胃腸外科学教授の掛地吉弘氏に座長を
務めていただき、愛知県がんセンター 中央病院薬物療法部部長の室圭氏、国立がん研究センター 生
物統計部門部門長の山中竹春氏に、最近発表された臨床試験の結果の解説、ならびに近い将来の切
除不能・進行大腸癌患者に対する治療戦略の考え方について議論していただいた。
パニツムマブを用いた PRIME 試験の OS アップデート解析結果
掛地 パニツムマブ+ FOLFOX4 と FOLFOX4 を比較した PRIME 試験の全生存期間(OS)のアップ
デート解析結果が、今年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表されました。まず私からPRIME 試験の
結果について紹介します。
001
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本試験は、欧州、カナダ、南米、南アフリカ、オーストラリアで実施されたグローバルな無作為化
フェーズ 3 試験です。主要評価項目はKRAS 遺伝子エクソン2 変異の有無別の無増悪生存期間(PFS)
でした。ランダム化登録症例 1183 例をパニツムマブ+ FOLFOX4 の治療群と FOLFOX4 単独のコ
ントロール群に分け、腫瘍組織を採取してKRAS 遺伝子を調べています(図 1)
。
図1■PRIME試験 試験プロファイル
スクリーニング
(n=1378)
除外
(選択基準を満たさず)
(n=195)
ランダム化登録症例
(n=1183)
パニツムマブ 6.0mg/kg(2週に1回)
FOLFOX4(2週に1回)
+FOLFOX4(2週に1回)
(n=590)
(n=593)
腫瘍組織採取
KRAS遺伝子解析可能例
(n=546)
腫瘍組織採取
KRAS遺伝子解析可能例
(n=550)
KRAS遺伝子野生型
パニツムマブ+FOLFOX4
KRAS遺伝子変異型
パニツムマブ+FOLFOX4
(n=325)
(n=221)
KRAS遺伝子野生型
FOLFOX4
(n=331)
KRAS遺伝子変異型
FOLFOX4
(n=219)
(Douillard JY, et al. J Clin Oncol 2010; 28: 4697-4705)
プライマリー 解析は過半数である 54 %の OS イベントが発現した時点で行われました。最終解析
は最後の症例が登録してから 30 カ月後に解析することが事前に設定され、最終解析時には 68 %の
OS イベントが発現しました。
この 2 つの解析において、KRAS エクソン2 野生型症例に対し、パニツムマブ+ FOLFOX4の忍容性
が認められるとともに、パニツムマブ+ FOLFOX4 群は FOLFOX4 群と比較して PFS を有意に改善す
ることが分かりました。OS に関しては、この 2 つの解析の時点では有意差はないものの、パニツムマ
ブを併用することによるOS の延長傾向が認められました。
一方、KRAS エクソン 2 変異型症例に対しては、パニツムマブを併用しても、FOLFOX4 群と比較し
て、生存曲線は下回る結果でした。
002
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今回発表されたのは、探索的検討としての OS アップデート解析であり、82 %のイベント発現時に
実施されました。つまり成熟した OS データセットでの解析結果といえます。なお、この試験で調べ
られた KRAS 遺伝子エクソン 2 の変異は、わが国の実臨床で検査されている KRAS コドン 12、13 の変
異を意味しています。
解析の結果、KRAS エクソン2 野生型症例において、FOLFOX4 単独群に比べ、パニツムマブ併用群
の OS は有意に上回っていました(図 2)。中央値は FOLFOX4 単独群の 19.4 カ月に対してパニツム
マブ併用群が 23.8 カ月です(ハザード比 0.83、p = 0.027)。一方、KRAS エクソン 2 変異型症例で
は、FOLFOX4 単独の 19.2 カ月に比べて、パニツムマブ併用群は 15.5 カ月と短い結果でした(ハザ
ード比 1.16、p = 0.162)
。
図2■PRIME試験 KRAS エクソン2野生型症例の全生存期間(OS)
OS アップデート解析(82%の OS イベント発現時)
100
90
パニツムマブ+FOLFOX4
FOLFOX4単独
イベント数n/N(%)
中央値(月)
(95% CI)
256/325 (79)
23.8 (20.0 - 27.7)
279/331 (84)
19.4 (17.4 - 22.6)
ハザード比=0.83 (95% CI:0.70 - 0.98)
80
p=0.027
生存率︵%︶
70
60
50
40
30
20
10
0
0 2 4 6 8 10121416182022242628303234363840424446485052545658606264666870
期間(月)
Patients at risk
パニツムマブ
325 315 310 289 266 242 227 217 205 191 172 161151 144 132 123 111 101 94 87 78 68 63 59 54 49 42 39 25 20 17 12 6 2 0 0
+FOLFOX4
FOLFOX4単独 331 321 304 285 267 245 226 209 191 172 157 148129 118 111 105 96 85 77 68 61 52 45 43 40 38 32 27 17 12 10 5 3 3 1 0
(Douillard JY, et al. ASCO 2013, Abstract #3620)
3 つの時点で OS が解析されましたが、KRAS エクソン 2 野生型において、プライマリー 解析では
OS 中央値がパニツムマブ併用群は 23.9 カ月、FOLFOX4 単独群が 19.7 カ月。最終解析の時点でも
23.9 カ月と 19.7 カ月。そして今回のアップデート解析の結果は 23.8 カ月と 19.4 カ月と、OS 中央
値はそれほど変わっていません。ハザード比も、プライマリー 解析の時点で 0.83、最終解析の時点
で 0.88、今回が 0.83 と大きな変化はないのですが、イベント数が増えてきたことから、p 値はそれ
ぞれ 0.072、0.171、0.027となっています。
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後治療が OS に影響している可能性がありますが、後治療で抗 EGFR 抗体薬が使用された割合は、
KRAS エクソン 2 野生型において、FOLFOX4 単独群で 27 %、パニツムマブ併用群が 17 %でした。イ
リノテカン、オキサリプラチン、5-FUの使用は FOLFOX4 単独群で 66 %、パニツムマブ群は 62 %と、
いずれもパニツムマブ併用群で少なく、この傾向は KRASエクソン 2 変異型でも同様でした。
以上のように、PRIME 試験の中で、最もイベント数が成熟した OS の推定値を用いた今回の探索
的解析によって、KRAS エクソン 2 野生型症例における、パニツムマブを併用することの OS に対する
確かな有効性が示されたといえます。また、切除不能・進行再発大腸癌症例に対してパニツムマブ
+ FOLFOX4 療法を行う場合は、適切な投与対象を選択するために KRAS 遺伝子検査は極めて重要
であることも示唆されました。
PRIME 試験 OS データの統計学的な解釈
掛地 では、この結果について、山中先生に統計学的な面から解説をいただきます。
山中 OS の解析で行われる生存時間解析では、症例数よりもイベント数(観測死亡数)の方が重要
です。実際、症例数が多くてもイベントが 1 件も起こっていなければ、Kaplan-Meier 曲線は 100%
のままです。イベント数が増えるにつれ、データから得られる情報量は多くなっていきます。
PRIME 試験では OS に関する解析は今回を含めて 3 回行われていますが、今回の解析では解析対
象 656 例の 80%以上にイベントが観測されており、過去 2 回の解析に比べて OS 曲線の推定精度が
向上しました(図 3)
。
普段は煩雑になるため省略されることが多いのですが、OS 曲線の上下に95%信頼区間(信頼曲線)
を描くことができます。イベント数が増えると、この信頼区間の幅が狭くなります。これが「生存曲
線の推定精度が上がる」ということの定量的な意味です。信頼区間の幅が狭くなることの意義につ
いては直観的な理解の通りで結構です。さらに、追跡期間が延長されたことにより長期間の推定が
可能になったことがわかります。
ハザード比の推定精度に関しても同様のことが言えます。1 回目から 3 回目のハザード比の点推
定値と 95 %信頼区間を見ますと、3 回目では信頼区間が狭くなっています(図 4)。以前の解析に比
べ、ハザード比約 0.8 という数値の確からしさがより高まったということだと思います。
このように OS アップデート解析の主な目的の 1 つは、イベント数を蓄積することで情報量を増や
し、推定精度を高めることにあります。PRIME 試験の 3 回目の解析の意義は、推定精度のより高い
OS 曲線が得られたこと、ハザード比約 0.8 と中央値(MST)の 4 カ月強の延長という数字の確からし
さが高まったこと、これらの点にあると思います。
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図3■PRIME試験 生存曲線の推定
ASCO 2013
ASCO 2011
JCO 2010
100
100
80
80
80
60
60
60
40
40
40
20
20
20
生存率︵%︶
100
0
0
12 24 36 48 60 72
期間(月)
0
0
12 24 36 48 60 72
期間(月)
0
0
12 24 36 48 60 72
期間(月)
(山中竹春氏 提供)
参考:Douillard JY, et al. J Clin Oncol 2010; 28: 4697-4705
Douillard JY, et al. ASCO 2011, Abstract #3510
Douillard JY, et al. ASCO 2013, Abstract #3620
図4■PRIME試験 ハザード比の推定
0.50
1.00
1st look HR=0.83 (0.67‒1.02)
54%
2nd look HR=0.88 (0.73‒1.06)
3rd look HR=0.83 (0.70‒0.98)
68%
82%
■ イベント発現率
(山中竹春氏 提供)
PRIME 試験アップデート解析の臨床上の意義
掛地 PRIME 試験のアップデート解析の結果について、臨床家の立場から室先生はどうお考えですか。
室 山中先生の統計的な解説は非常に分かりやすく、受け入れられるのですが、その一方で、プライ
マリー 解析で PFS は有効性を示したが、OS はその時点では示せなかったことをやはり重いこととし
て考えるべきではないか、という意見があります。アップデート解析で、パニツムマブの併用効果は
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OS でも認められたということなのですが、試験結果の解釈として、どういう結論が正しいのか、山中
先生のご意見を聞きたいと思います。
山中 PRIME 試験では OS は副次評価項目です。一般にプライマリー 解析(PFS 解析)の時点では
OS 解析に必要なイベント数(死亡数)が得られているとは限らないので、その時点の OS 解析の結果
を深く議論することはあまり重要ではありません。また、アップデート解析を繰り返す、すなわち、
検定を繰り返すほどたまたま有意な差が観察されやすくなるという検定の多重性については、副次
評価項目ですから論点でないように思います。
今回の解析の意義は、先にも述べましたように、推定精度が高くなり、FOLFOX 単独に対するパ
ニツムマブの上乗せ効果の確からしさが得られたということです。また、CRYSTAL 試験に続き、抗
EGFR 抗体薬の OS 延長効果が「再現性を持って」確認されたという点は重要で、大腸癌領域の重要
なエビデンスになると思います。
室 FOLFIRI に対するセツキシマブの併用効果を評価した CRYSTAL 試験も、解析を繰り返して、
OS でベネフィットが出ていますが、今回の解析と似たようなことだと理解してよろしいですか。
山中 おっしゃるとおりです。CRYSTAL 試験の 2009 年の報告(NEJM2009)では、KRAS 野生型
症例において、OS に関するハザード比は 0.84(95 %CI:0.64-1.11、p=0.22)でした。その後のア
ップデート解析の報告(JCO 2011)ではハザード比 0.796(95 % CI:0.67-0.95、p=0.0093)と報
告され、セツキシマブのOS 延長効果が示されています。
室 一方で、副次評価項目であれば検定の多重性を考慮する必要がなく、OS がやはり重要で、アッ
プデートされた成績こそが大事だということになれば、OS を主要評価項目にせずに PFS を設定して
おき、OS はイベント数が多くなりデータが成熟したところで見ればいいのではないか。それが OS で
のベネフィットを示す一番良い方法ではないかとということになってしまい、試験が全てそういっ
た方向に向かうのではないか、ということが懸念されるのですが、その点についてはどのように思わ
れますか。
山中 一般に、PFS に対して症例数設計された臨床試験では、OS 解析に必要な死亡イベント数が確
保されるとは限りません。情報量(死亡イベント数)が少なければ、偽陰性の確率は上昇します。そ
のようなケースでは、OS で差が認められなかったときに、本当に差がないのか、それとも差はあるが
単に情報量(死亡イベント数)が少なかっただけなのか区別がつかないところが問題になります。ま
た、死亡イベント数が多くなければ、OS 曲線の推定精度は高いものになりません。
今回は、パニツムマブを併用することによる生存延長効果が大きかったため、PFS に対して設計さ
れた症例数でも結果が得られたのですが、効果の差があまり大きくない場合には評価が難しくなる
でしょう。
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掛地 進行癌に対しての化学療法の一番の目的は生存期間を延ばすことですから、OS が真のエンド
ポイントになるかと思います。最近、PFS と OS が相関していることがいろいろな癌種で検証されて
いる一方で、OS そのものが長くなるほど、PFS と OS が相関しなくなることも統計学的に言われてい
ます。大腸癌の治療成績は、Best Supportive Care で 6 〜 8 カ月程度とされていたのが、今では 24
カ月を超え、分子標的薬の併用により30カ月に近づいています。OS が延びている現状で、臨床試験
の主要評価項目をどうするのかは大きな課題でしょう。
ただ、今回のように比較的データがそろった段階で、パニツムマブによる OS での有意性が認めら
れたという結果は、ある程度信頼性がおけると考えられるということですね。
いま日本では一次治療の 75 %程でオキサリプラチンベースの化学療法が選択がされているかと思
います。オキサリプラチンベース治療の組み合わせとして、抗 EGFR 抗体薬を併用したことで OS の
有意な延長が得られたのはこの PRIME 試験が初めてだと思います。この臨床試験の解釈を実臨床
にどのように応用していくかという点について、室先生、いかがですか。
室 例えばベバシズマブ+ FOLFOX の併用による OS への上乗せ効果は NO16966 試験で示されて
いませんし、セツキシマブ+ FOLFOX の併用はOPUS 試験という小規模な試験での報告があるのみで、
一次治療のデータとしては十分ではありません。そう考えた場合に、これほど大きな試験で OS での
ベネフィットが示されたことは非常にインプレッシブですし、今後、オキサリプラチンとの併用での
一次治療を考える場合にはパニツムマブは非常に重要な選択肢の1つになると思います。
FIRE-3 試験の結果
掛地 次に抗 EGFR 抗体薬と抗 VEGF 抗体薬を比較した最近の臨床試験から、まず FIRE-3 試験につ
いて、室先生に紹介いただきます。
室 FIRE-3 試験は、切除不能大腸癌の初回治療として KRAS 野生型症例 592 例を対象に、FOLFIRI
+セツキシマブと FOLFIRI +ベバシズマブという head-to-head の比較試験です(図 5)。ドイツの
AIO グループによる試験で、最初、ランダム化フェーズ 2 試験として始まり、その後、プロトコルが改
訂され、KRAS 野生型のみが対象となりました。またランダム化フェーズ 3 試験になった時点でもエ
ンドポイントは変えなかったため、主要評価項目を奏効率にしている点が通常のフェーズ 3 試験と
は異なります。
ASCO で発表された奏効率は、ITT 集団でセツキシマブ群 62 %、ベバシズマブ群 58 %、オッズ比
1.18 で、有意差は認められませんでした。また PFS は、生存曲線がほとんど重なっており、中央値は
セツキシマブ群 10.0 カ月、ベバシズマブ群 10.3 カ月でした。
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図5■KRK-0306(FIRE-3)試験:試験デザイン
FOLFIRI※+セツキシマブ
切除不能な大腸癌
セツキシマブ:初回投与は400mg/m2 120分静注 初回治療
KRAS野生型
毎週250mg/m2を投与 60分静注
R
N=592
FOLFIRI※+ベバシズマブ
ベバシズマブ:2週おきに5mg/kgを投与 30-90分静注
主な登録基準:
※FOLFIRIは2週おきに投与
18歳以上、組織学的に切除不能な大腸癌と診断
ECOG PS 0-2
術後補助化学療法の終了から登録までに6カ月以上の患者は含む
2008年10月にプロトコルを改訂、KRAS 野生型のみの患者とする
ドイツとオーストリアの150施設が参加
(Stintzing S, et al. ASCO 2013, Abstract #LBA3506)
一方、OS はセツキシマブ群がベバシズマブ群を有意に上回る結果でした。中央値はセツキシマブ
群が 28.7 カ月、ベバシズマブ群が 25.0 カ月と、3.7 カ月の開きがあり、ハザードも 0.77 でした。た
だ、14 〜 15 カ月までは 2 群の生存曲線がほぼ重なっており、それ以降、離れていくという特徴的な
カーブが示されています(図 6)
。
図6■KRK-0306(FIRE-3)試験:全生存期間(OS)―ITT集団
イベント数n/N(%) 中央値(月) 95%CI
1.0
FOLFIRI+セツキシマブ 158/297(53.2%)
28.7
24.0-36.6
FOLFIRI+ベバシズマブ 185/295(62.7%)
25.0
22.7-27.6
ハザード比=0.77(95%CI:0.62-0.96)
0.75
p=0.017
生存割合
0.50
0.25
0.0
0
12
24
36
48
60
72
期間(月)
Number at risk
セツキシマブ群
297
218
111
60
29
9 ベバシズマブ群
295
214
111
47
18
2 (Stintzing S, et al. ASCO 2013, Abstract #LBA3506)
これに関し、いろいろな議論がありました。1 つが、二次治療以降の治療の影響ではないかという
ことです。ASCO から一カ月後に行われた世界消化器癌学会(WCGC)では後治療の結果が報告され
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ました。セカンドライン治療が行われた割合は、セツキシマブ群が78.5%、ベバシズマブ群が76.4%
とほとんど変わりません。二次治療に使われたフッ 化ピリミジン系抗癌剤、オキサリプラチン、イリ
ノテカンの割合も、両群間に違いはなく、後治療に使う薬の頻度の違いが OS に影響したとは言えな
いことが示唆されます。ただ、ベバシズマブはセツキシマブ群では約 47%、ベバシズマブ群では17%、
逆に抗 EGFR 抗体薬はセツキシマブ群では 15%、ベバシズマブ群では 41%に使われており、差があ
りました。
またセツキシマブ群の二次治療として最も多く行われたのは、FOLFOX あるいは XELOX といった
オキサリプラチンベースの化学療法単独あるいはオキサリプラチンベースの化学療法+ベバシズマ
ブでした(図 7)
。ベバシズマブ群でも、オキサリプラチンベースの化学療法単独が最も多いのですが、
オキサリプラチンベースの化学療法+ベバシズマブよりも、イリノテカンベースあるいはオキサリプ
ラチンベース+抗 EGFR 抗体薬が使われています。
図7■KRK-0306(FIRE-3)試験 二次治療レジメン
患者割合(%)
化学療法単独
ベバシズマブ+化学療法
抗EGFR抗体+化学療法
FOLFIRI+セツキシマブ
FOLFIRI+ベバシズマブ
N=204(100)
N=191(100)
6.4
5.8
26.0
30.4
フッ化ピリミジン系抗癌剤
オキサリプラチンベース
4.4
4.7
オキサリプラチンベース
29.4
11.5
イリノテカンベース
12.4
0.5
イリノテカンベース
2.0
15.2
オキサリプラチンベース
6.4
18.3
4.9
5.8
8.3
7.9
フッ化ピリミジン系抗癌剤
抗EGFR抗体
その他
(Modest DP, et al. WCGC 2013, Abstract #O-0029)
日本では FOLFIRI +ベバシズマブの後はおそらく FOLFOX +ベバシズマブという使い方が多くな
ると思われますが、この試験ではそれほど使われていません。後治療の内容について、AIO の医師に
聞いたところ、beyond progression という考え方がまだ出ていない時期の試験で、まだ実臨床に反
映していなかったためと答えていました。
PEAK 試験でも示された有意な OS 改善
掛地 続いて、PEAK 試験について解説をお願いします。
室 PEAK 試験は、一次治療における FOLFOX ベースに併用する薬剤としてパニツムマブとベバシ
ズマブを比較検討するランダム化フェーズ2 試験です(図 8)
。主要評価項目はPFS、副次評価項目は
OS、奏効率、切除率、安全性、バイオマーカー評価となっています。
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図8■PEAK試験 試験デザイン
治療群1
試験終了
治療後の追跡
治療群2
安全性の追跡
ランダム化
スクリーニング
+mFOLFOX6(2週に1回)
試験薬による治療終了
パニツムマブ 6.0mg/kg(2週に1回)
ベバシズマブ 5.0mg/kg(2週に1回)
+mFOLFOX6(2週に1回)
・腫瘍測定は8週間隔(±7日)に実施した
・試験薬はPD、死亡、試験参加の撤回まで投与した
登録症例:KRAS野生型の切除不能進行・再発大腸癌285例
30日間
試験終了まで
(+3日)
3カ月(±28日)
間隔で追跡
プライマリー解析のデータカットオフ:2012年5月30日
追加のOSアップデート評価のデータカットオフ:2013年1月3日
(Schwartzberg LS, et al. ASCO 2013, Abstract #3631)
この試験で注意すべきは、主たる目的が仮説検定ではなく、PFS のハザード比の点推定および信
頼区間の推定になっていることです。フェーズ 3 試験ではなく、フェーズ 2 試験であることには留意
しておく必要があります。
PFS の定義としては、ランダム化後に最初に PD と評価されるまでの期間ないしは最後の腫瘍径測
定から 60 日以内に死亡した日までの期間とし、カットオフ日までにイベントが発現しなかった症例
は、最後に腫瘍径を測定した日を打ち切り(センサー)とするデザインになっています。また主要評
価は主治医判定で行われています。
今年の ASCO-GI で報告された 2012 年 5 月 30 日時点の PFS 中央値は、パニツムマブ群 10.9 カ月、
ベバシズマブ群 10.1 カ月で、両群間に有意な差は認められていません。ASCO で発表された 2013
年 1 月 3 日時点の PFS では、若干パニツムマブ群が上回っているように見えますが、PFS 中央値はパ
ニツムマブ群が 10.9 カ月、ベバシズマブ群が 10.1 カ月、ハザード比が 0.84 で、有意差は認められま
せんでした(図 9)
。
OS については、ASCO-GI 発表時点では、打ち切り症例も多く、イベント発現率は 30 %前後でした
が、ハザード比が 0.72 であり、生存曲線を見る限りではパニツムマブ群は有望ではないかと思わせ
る結果でした(図 10 左)
。そして ASCO での発表データでは、イベント発現率がパニツムマブ群 37 %、
ベバシズマブ群 55%(2 群計 45.6%)となり、ハザードも 0.62、95 %信頼区間の幅も縮まって有意
差がついています(図 10 右)
。
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図9■PEAK試験 無増悪生存期間(PFS)
(データカットオフ:2013年1月3日)
1.0
無イベント割合
0.9
KRAS exon2野生型症例での解析
イベント数 n/N(%) 中央値(月)
(95%CI)
0.8
パニツムマブ+mFOLFOX6
100/142(70)
10.9(9.7-12.8)
ベバシズマブ+mFOLFOX6
108/143(76)
10.1(9.0-12.0)
0.7
ハザード比=0.84(95%CI:0.64-1.11)
0.6
p=0.22
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
0
2
4
6
8
10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 42
期間(月)
(Schwartzberg LS, et al. ASCO 2013, Abstract #3631)
図10■PEAK試験 全生存期間(OS)
KRAS エクソン2野生型症例
1.0
KRAS エクソン2野生型症例
1.0
プライマリー解析(ASCO GI 2013)
0.9
0.9
0.7
0.7
追跡
0.6
0.5
生存割合
0.8
生存割合
0.8
0.6
0.5
0.4
0.4
0.3
0.3
0.2
0.1
0
0.2
イベント発現率 30.5%
0.1
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 42 44
期間(月)
イベント数
n/N(%)
中央値(月)
(95%CI)
パニツムマブ
+mFOLFOX6
36/142
(25)
NR
(28.8-NR)
ベバシズマブ
+mFOLFOX6
51/143
(36)
25.4
(22.9-29.5)
ハザード比=0.72(95%CI:0.47-1.11) p=0.14
NR:到達せず
011
アップデート解析(ASCO 2013)
Schwartzberg LS, et al.
( )
ASCO GI 2013, Abstract #446
0
イベント発現率 45.6%
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 42 44
期間(月)
イベント数
n/N(%)
中央値(月)
(95%CI)
パニツムマブ
+mFOLFOX6
52/142
(37)
34.2
(26.6-NR)
ベバシズマブ
+mFOLFOX6
78/143
(55)
24.3
(21.0-29.2)
ハザード比=0.62(95%CI:0.44-0.89) p=0.009
Schwartzberg LS, et al.
( ASCO 2013, Abstract
#3631 )
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この生存曲線は先ほどの FIRE-3 試験とも若干似ており、最初は 2 群が同じような角度ですが、後
半になると、ベバシズマブ群が低下して、2 本の曲線が開いていく傾向を示しています。それと一点、
特筆すべきはパニツムマブ群のOS が34.2 カ月であり、ランダム化フェーズ 2 試験のデータとは言え、
非常に良好な成績でした。
FIRE-3 試験と PEAK 試験の統計学的な解釈
掛地 では山中先生から2 つの試験について、特にOS に関して統計学的な解説をお願いします。
山中 FIRE-3 試験と PEAK 試験は、ベースの化学療法が FOLFIRI と FOLFOX の違いがありますが、
ともにベバシズマブに対する抗 EGFR 抗体薬のOS 延長の可能性が示唆されました。
FIRE-3 試験では、OSイベント数が十分成熟してない(immature)のため今後のフォローアップ解
析が必要ですが、MST は約 4 カ月の延長、ベバシズマブ群に対するハザード比は 0.77 という結果が
得られています。PEAK 試験では、ランダム化フェーズ2 試験なので、過大推定(overestimate)の可
能性がありますが、MST は約 10 カ月の延長、ベバシズマブ群に対するハザード比は 0.62という結果
が得られています。MST やハザード比の推定自体は今後の検討が必要ですが、大腸癌一次治療の最
新データから得られる探索的な知見として、抗 EGFR 抗体に期待が持てる結果が得られたと感じます。
なお、後治療に関しては、先ほども話題になりましたが、FIRE-3 試験ではベバシズマブ群の BBP
(Bevacizumab Beyond Progression)への移行割合が少ないことが指摘されています。FIRE-3 試験
のベバシズマブ群では二次治療にベバシズマブを使った、すなわち、BBPへの移行割合は17%でした。
参考データとして、本邦で行われたS-1 +オキサリプラチン(SOX)+ベバシズマブとmFOLFOX6
+ベバシズマブを比較するSOFT 試験では BBP 移行割合が 34%でしたので、日本であれば17%から
さらに+ 20%程度、BBP の割合を増やすことは可能だったかもしれません。一方、TML 試験におい
て全例(100%)にBBPを行った場合、化学療法単独に対してMST 換算で1.4カ月の上乗せ効果でし
た。これらの数値を基にしますと、FIRE-3 試験の後治療として仮にBBP 移行割合が20%増えたとし
て、ベバシズマブ群全体のOSにさほど大きなインパクトは与えられないのではないかと感じます。
さらに実際には、ベバシズマブ群の二次治療に化学療法単独ではなく抗 EGFR 抗体薬(+化学療法)
が多く使われています。二次治療において BBP の割合が増えれば、その分、抗 EGFR 抗体薬の使用
割合は減るはずです。BBP の割合が増えることで OS がもし大きく異なるとすれば、二次治療での抗
EGFR 抗体薬とBBPの間に大きな差がなければなりませんが、それは考えにくいのではないでしょうか。
以上から、後治療としての BBP 移行割合が 2 群間の OS に影響を与える可能性は限定的であるよう
に思います。いかがでしょうか。
012
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室 山中先生の疑問は納得できるところがありますね。日本では BBP がかなり広く行われ、ベスト
レジメンだという意識が結構強く、FIRE-3 試験での BBP の割合が少ないのではないかという主張の
根拠になっていると思います。ただ FIRE-3 試験については、現時点の結果だけでは評価できないと
いう意見があり、その多くはそもそも日本ではファーストラインに FOLFIRI がまだ根付いていない
という点を指摘しています。
掛地 今年の WCGC で、FIRE-3 試験を発表した演者は後治療には差がなかったとしましたが、ディ
スカッサントはハザード比が「0 カ月から 24 カ月まで」と「36 カ月以降」では 1.0 であるが、24 カ月
〜 36 カ月ではハザード比が1.0 と異なっている、という議論をしていました。
山中 ディスカッサントのハザード比の解釈は間違っています。
OS のカプランマイヤー 曲線は、24 カ月まで 2 つの曲線はほぼ重なっているように見えますので、
この期間のハザード比はほぼ 1 です。一方、24 カ月以降は、特に 36 カ月以降も含めてセツキシマブ
群がベバシズマブ群を上回っており、ハザード比は 1 未満になります。ディスカッサントは「36 カ月
以降は 2 つの曲線がほぼ平行になっているのでハザード比は 1 である」と解釈していますが、ここの
部分のハザード比は1 未満です。
後治療の影響に関しては、いま得られているデータでは説明には不十分で、もしかしたら後治療が
関係しているのかもしれないですが、それは分かりません。responder 集団の存在などが影響して
いるのかもしれません。
掛地 もう 1 つの解釈として、Deepness of response の違い、つまり腫瘍縮小効果が異なり、PFS
では差がつかなかったが、OS で差がついたのではないかという考え方があります。Deepness of
response に関し、FIRE-3 試験では副次評価項目に入っていますので、今後明らかになってくるかと
思います。
RAS 遺伝子変異による OS 解析
掛地 それではRAS 遺伝子変異の有無に関する新しい知見を、室先生からご紹介ください。
室 従来、KRAS 野生型と言えば、エクソン 2 のコドン 12、13 だったわけですが、それ以外でもエク
ソン 3 にコードされているコドン 61、エクソン 4 のコドン 117、146 なども知られています。NRAS
でもエクソン 2、3、4 で変異があります。今年の ASCO ではパニツムマブを用いた 20020408 試験
と PRIME 試験、PEAK 試験において、KRAS エクソン 2(コドン 12、13)以外の遺伝子変異について
のバイオマーカー解析結果が報告されました。
013
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20020408 試験は、サードラインにおけるパニツムマブ単独と Best Supportive Care と(BSC)
の比較試験です。クロスオーバーを許容しないデザインの試験で、パニツムマブの PFS における優越
性が検証されました。バイオマーカー 解析では、保管されている腫瘍標本からDNA を抽出しており、
KRAS および NRAS のエクソン2、3、4 遺伝子変異の評価は、従来の方法に加え、次世代シークエンサ
ー、サンガー法によるDNAシークエンスおよびWAVE 法を用いています。
この結果、KRAS エクソン 2 変異型は全体の約 40%を占めており、これを除いた KRAS エクソン 2
野生型(60%)におけるPFSのハザード比は0.45 でした。KRASエクソン3、4 とNRASエクソン2、3、
4 のいずれかに変異がある症例は約 10 %を占めており、この 10%を除いて、つまり 50%に相当する
いずれの RAS 遺伝子も野生型(ALL RAS 野生型)の患者群で見ますと、ハザード比が 0.36 になりま
した。なお、60%の患者群、50%の患者群の検討で、いずれの場合でも BSC 群の PFS は約 7 カ月と
違いがありませんでした。
一方、いずれかの RAS 遺伝子が変異型の場合、つまり 40 %の KRAS エクソン 2 変異型といずれかの
RAS 遺伝子変異がある 10%の計 50%の症例では、2 群間に有意差はありません。したがって、この
試験により、KRAS/NRAS は予後因子ではなく、効果予測因子であることも確認されたと思います。
同様の解析が PRIME 試験と PEAK 試験でも行われました。PRIME 試験ではプライマリー 解析の
段階ですが、OS ハザード比は 0.83、p 値は 0.072 でした。しかし 10%の minor 遺伝子変異症例を
除外しますと、ハザード比は 0.78、p 値が 0.043 となり、パニツムマブ群の MST も 23.9 カ月から 26
カ月に延長しています。
PEAK 試験では、KRAS エクソン 2 野生型の PFS はアップデート解析でもハザード比 0.84(95 %
CI:0.64-1.11、p=0.22)と有意差がつかなかったのですが、ALL RAS 野生型での解析ではハザード
比 0.66(95 %CI:0.46-0.95、p=0.03)と有意な差が示されました。今後、パニツムマブに関して
は KRAS エクソン 2 のみならず、エクソン 3、4、そして NRAS2、3、4 とマイナーな RAS 変異も評価し、
患者を選択して投与する方向に動いていくと推察されます。
掛地 対象集団を絞り込んでいくことで、より良好な生存の延長効果が得られるということですが、
海外における変異の検査方法の現状はいかがでしょうか。
室 私の知る限りでは、実地臨床ではまだ KRAS エクソン 2 で判断していることが多いようですが、
大学や各施設の検査室では KRAS エクソン 3、4、あるいは NRAS や BRAF のデータを蓄積している段
階であると聞いています。ただ、今回の結果を受けて、今後、パニツムマブの使用に関しては ALL
RAS 野生型に制限するといったことが求められてくると思います。
掛地 遺伝子変異に関して、山中先生はどうお考えですか。
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山中 臨床研究においては、結果の再現性がとても重要です。今回の一連の報告に関しては、複数
の試験において、コントロール群の違いや治療ラインの違いを超え、一貫して、ALL RAS 野生型で有
意な差が再現・確認されていますので、今回の結果は今後の治療戦略を考える上で大きな要因にな
ると思われます。
今後の切除不能・進行大腸癌患者に対する治療戦略の考え方
掛地 ここまでの議論で、一つは抗 EGFR 抗体をファーストラインで使うことで OS が延長されるこ
と、もう一つは分子標的薬をファーストラインからセカンドラインと使い続けたほうが全体の生存
を延ばすことができるのではないかということが示唆されました。また遺伝子レベルでどの集団に
どの薬剤を使うかという点に関しても、臨床試験から少しずつデータが出てきたと言えます。今回
の臨床試験の結果から、現時点での治療戦略が変わっていくかどうか、あるいは今後検討していき
たい課題など、ご意見をお願いします。
室 OS の視点から、抗 EGFR 抗体薬がファーストラインにおいて有用な治療となり得る可能性があ
るという示唆が得られたことは確かです。抗 EGFR 抗体薬に感受性の高い EGFR dependent tumor
が、抗 EGFR 抗体薬に最初に曝露されることで腫瘍のバイオロジーが変化して非常におとなしくなり、
OSの延長につながると考えることもできます。最近、抗 EGFR 抗体薬の耐性機序やrechallenge など、
バイオロジカルな報告があるので、そういった検討が是非なされて欲しいと思います。
ただパニツムマブとセツキシマブは同じ抗 EGFR 抗体薬であり、効果という点では同じと思ってい
たのですが、それが果たしてそうなのかどうかが少し分からなくなってきました。例えばパニツムマ
ブでは RAS を細かく見ていくといったバイオマーカーの絞り込みが検討されているのに対し、セツキ
シマブでは十分に行われておらず、Deepness of response のような考え方が主張されています。そ
の辺をもう少し整理して、統一化を図っていくことが望まれます。今後 FIRE-3 試験での詳細な RAS
の結果が発表される予定ですので、注目したいと思います。
掛地 山中先生はいかがですか。
山中 臨床試験によって再現性を持って得られた結果は、臨床の中で重要視されるべきです。実地
診療では、ファーストラインでの抗 EGFR 抗体と抗 VEGF 抗体の比較に関心が集まっており、今後
FIRE-3 試験の OS アップデート解析や、先に話題となった CALGB80405 試験の結果が待たれます。
これらの結果が、今回の ASCO の報告を再現性を持って確認できるかどうかを期待をもって見守り
たいと思います。再現性が確認できれば、実地診療は変わると思います。
掛地 我々 外科医は、最初に腫瘍の縮小効果が得られるのであれば、ファーストラインから抗 EGFR
抗体薬を使って、できるだけ手術に持っていきたいという思いがあります。今日はその辺の議論はし
なかったのですが、手術という治療法を加えて治療成績を上げるという考え方がありますので、今後
015
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いろいろな使い方を考えていく必要があるかと思います。今回の試験結果は実地診療に影響を及ぼ
すでしょうか。
室 フ ァ ー ス ト ラ イ ン で 抗 EGFR 抗 体 を 使 う ケ ー ス は 増 え る と 個 人 的 に は 思 っ て い ま す が、
CALGB80405 試験の結果、特に副作用のデータを見ないと判断できないという意見も多いのは事
実です。ただ CALGB80405 試験で KRAS 野生型に対し、OS で差がついた場合はガイドラインも変
わるでしょう。
掛地 本日は臨床試験の結果から、抗 EGFR 抗体薬による生存の延長が示され、遺伝子変異の観点
から見たバイオマーカーによって効果の期待できる集団を絞り込めることも分かってきました。今後、
治療ガイドラインそのものが変わっていく可能性もありますし、いまわれわれが手元で使える薬をど
う選択し、どう使っていくかといった治療戦略にも影響を与える結果であったと思われます。
大腸癌領域においては、治療成績が向上し、患者の生存期間が確実に延びています。これは何よ
り患者にとって福音でしょうし、治療をする我々にとっても嬉しいことであり、今後さらに生存を延
ばす治療戦略を検討していきたいと思います。ありがとうございました。
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