買い物弱者の買い物支援策に対する潜在需要量に関する基礎的分析

(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部
第47回(平成26年度)研究発表会 論集
学生発表アブストラクト №203
買い物弱者の買い物支援策に対する潜在需要量に関する基礎的分析
1.はじめに
和歌山工業高等専門学校
大隈 ゆき
和歌山工業高等専門学校
伊勢
和歌山工業高等専門学校
櫻井 祥之
昇
通の整備状況は良好とは言えない。
近年、我が国の地方都市を中心に深刻化しつつある買い
また、2008 年に策定された「第 1 次日高川町長期総合計
物弱者問題の解決に資することを目的として、各地の買い
画」における「まちの各環境に対する満足度(26 項目)
」
物支援事例の収集・整理に基づく買い物支援策検討マニュ
でも、不満側に示された 6 項目の中で「交通機関の便利さ」
アルの策定
1),2)
、既存統計データやアンケート調査等によ
及び「買い物の便利さ」が上位を占める結果となっている
3)-5)
ことから、買い物弱者に対する買い物支援策の検討が喫緊
って得られた RP データに基づく買い物弱者数推計手法
や高齢者の買い物支援策選択モデル
6),7)
の構築等、学術・
の課題であると言える。
実務の両面から様々な知見の蓄積が進んでいる。
このような地域レベルでの対応が求められる問題につ
いては、住民・行政・事業者・学識経験者等の多様な主体
旧美山村
による協議・検討が行われるケースが散見されるが、その
旧中津村
際、買い物支援に関する先進事例や、既存統計データ及び
旧川辺町
RP データに基づく種々の分析結果に加えて、仮想的状況下
での選好意識データ(SP データ)に基づく分析結果もしば
しば活用される。
そこで、本研究では、平成 25 年度買い物弱者対策関連
図-1 日高川町の位置
8)
事業計 365 事業 の内訳の上位 3 つの取り組みに該当する
買い物支援策(移動支援、移動販売、宅配)に着目し、買
3.アンケート調査の概要
い物弱者の個人属性や地域特性と買い物支援策に対する潜
本研究では、生鮮食料品に関する買い物に着目し、その
在需要量との関連分析を行うことで、各種の買い物支援策
買い物支援策の潜在需要量の要因について明らかにするこ
の潜在需要量推計手法の確立のための基礎的知見を得るこ
とを目的に、個人属性、周辺交通環境、周辺買い物環境、
とを主たる目的とする。
買い物困難度、買い物行動実態、買い物支援ニーズを主た
る項目として、2012 年 10~12 月に日高川町全域にアンケ
2.対象都市の概要
ート調査を実施した(回収世帯:1066 世帯(1749 部)
、回
本研究で対象とした和歌山県日高川町は、和歌山県中央
収率:35.5%)
。なお、調査対象は、無作為に抽出した世帯
2
部に位置し、東西約 35km、南北約 10km、総面積 331.65km
における世帯員(幼児・学生を除く)のうち、65 歳以上の
の広大な土地を有する(図-1)
。また、総人口 10,509 人、
世帯員を優先に 2 名とした。
世帯数 3,750 世帯と人口規模は小さく、人口密度も 31.7 人
/km2 と極めて低い一方で、高齢化率は 30.5%と全国平均
4.買い物支援策の潜在需要量に関する要因分析
(20.1%)を大きく上回り、加えて、核家族化や人口減少が
本分析に際して、全サンプルの中から買い物に困難を感
進行している。
じているサンプルを抽出し、一元配置分散分析を用いて各
町の南西部に位置する中心市街地には鉄道路線(紀勢本
種買い物支援策に対する潜在需要量と個人属性及び地域特
線)が敷設されているものの、2 駅(1 駅は御坊市内)のみ
性との関連性について分析した。なお、分析結果について
で、その運行頻度も 1 時間に 1 本程度である。また、地域
は、統計的に有意と認められた指標のみ示すこととする。
公共交通については、
民間の路線バスやコミュニティバス、
また、本分析における潜在需要量とは、買い物支援策が導
乗合タクシーが運行されているが、鉄道と同様に、その運
入あるいは改善された場合の想定利用頻度から現在の利用
行頻度は 2~8 本/日と低いのが現状であり、本町の公共交
頻度を差し引いた量のことである。
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第47回(平成26年度)研究発表会 論集
学生発表アブストラクト №203
4.1 外出支援の潜在需要量に関する要因分析
表-3 宅配の潜在需要量に関する要因分析結果
外出支援の潜在需要量については、加齢や低質な周辺環
境が外出による買い物を抑制していると読み取ることがで
きる。さらには、自動車・バイクを利用できる人ほどその
潜在需要量が高いことから、自動車やバイクでの買い物を
余儀なくされていると言えよう(表-1)。
表-1 外出支援の潜在需要量に関する要因分析結果
年齢
自動車・バイク
利用可能性
最寄り駅
周辺交通 までの徒歩時間
環境 最寄りバス停
までの徒歩時間
周辺買い
宅配の有無
物環境
65 歳未満
65~74 歳
75 歳以上
あり
なし
20 分以下
21 分以上
20 分以下
21 分以上
あり
なし
平均潜在需要量(回/日・人) 検定
0.0
0.2
0.4
0.6 結果
男性
女性
70 歳未満
個人
年齢
属性
70 歳以上
6 分以下
歩行可能時間
6 分以上
あり
宅配の有無
なし
周辺買い
物環境 買い物支援者の有無
あり
(毎回頼める人の有無) なし
***
性別
**
**
**
**
***:1%有意, **:5%有意, *:10%有意
平均潜在需要量(回/日・人) 検定
0.0
0.2
0.4
0.6 結果
説明変数
個人
属性
説明変数
5.まとめ
*
本研究では、一元配置分散分析及び独立性の検定により
***
買い物弱者の各種買い物支援策に対する潜在需要量に関す
*
る規定要因を明らかにした。
さらに、
全体の分析を通じて、
**
1)移動販売や宅配に比べて外出支援に対する潜在需要量が
**
***:1%有意, **:5%有意, *:10%有意
4.2 移動販売の潜在需要量に関する要因分析
多い、2)自動車やバイクでの買い物を余儀なくされている、
3)身体的な理由から極めて外出が困難な人にとって宅配サ
移動販売の潜在需要量については、身体機能や自動車・
ービスの充実の必要性が高い等の特徴(課題)を示すこと
バイク利用可能性、周辺環境といった要因が潜在需要量の
ができた。今後は、各種買い物支援策の潜在需要量推計モ
多寡に影響しており、外出支援と類似した傾向が確認でき
デルを構築することで、地域に合った買い物支援策を検討
た(表-2)。その一方で、中心市街地までの距離が遠くなる
するための更なる知見の集積が必要不可欠である。
ほど移動販売に対するニーズが低下するといった当初の想
定とは異なる傾向も示された。そこで、さらに、
「居住地域」
謝辞
と「移動販売の有無」に関する独立性の検定を行ったとこ
本研究は、JSPS 科研費若手研究(B)25820253 の助成を受
ろ、有意性が発現したことから、本町では中心市街地から
けた研究成果の一部である。また、本アンケート調査の遂
離れた地域ほど移動販売サービスが充実しており、大幅な
行にあたり、日高川町役場ならびに日高川町民に多大な協
需要喚起が見込めないことを明らかにすることができた。
力を頂いた。ここに記して感謝の意を表したい。
表-2 移動販売の潜在需要量に関する要因分析結果
説明変数
平均潜在需要量(回/日・人) 検定
0.0
0.2
0.4
0.6 結果
旧川辺町
居住地域
旧中津村
旧美山村
個人
3 分未満
属性 歩行可能時間
3 分以上
あり
自動車・バイク
利用可能性
なし
周辺交通 最寄りバス停までの 20 分以下
環境 徒歩時間
21 分以上
最寄り生鮮食料品店 1km 以下
までの距離
1km 以上
周辺
あり
買い物 移動販売の有無
なし
環境
あり
宅配の有無
なし
***
*
**
*
**
***
***
***:1%有意, **:5%有意, *:10%有意
4.3 宅配の潜在需要量に関する要因分析
宅配の潜在需要量についても、外出支援や移動販売と同
様に、加齢に伴う身体機能の低下が影響していることが示
唆される中、周辺交通環境に関する指標や外出による買い
物利便性に関する指標に有意性が見られなかった(表-3)。
このことは、宅配が 3 つの買い物支援策において唯一、外
出を必要としないサービスであることから、身体的な理由
から極めて外出が困難な人にとってニーズが高いことが起
因しているものと考えられる。
参考文献
1) 経済産業省:買い物弱者応援マニュアルver.2.0(買い物弱者
を支えていくために~24の事例と7つの工夫~), 2011.
2) 農林水産省:買い物困難者等支援策活用ガイド, 2014.
3) 農林水産省:食料品アクセス問題の現状と対応方向-い
わゆるフードデザート問題をめぐって-, 2012.
4) 伊勢昇, 荘司匡岐ほか:個人属性と地域特性を考慮した
買い物困難判別に関する要因分析, 交通工学研究発表
会論文集, Vol.33, pp.463-466, 2013.
5) 平井寛, 南正昭:盛岡市在住高齢者における買い物弱者
人口の推計, 土木計画学研究・講演集(CD-ROM), Vol.46,
5pages, 2012.
6) 倉持裕彌, 谷本圭志, 土屋哲:中山間地域における買い
物支援に関する考察-移動販売に着目して-, 社会技術
研究論文集, Vol.11, pp.33-43, 2014.
7) 谷本圭志, 大西健太:高齢者の心身機能に応じた生活支
援サービスの選択に関する考察, 土木計画学研究・講演
集(CD-ROM), Vol.45, 4pages, 2012.
8) 経済産業省:平成25年度買い物弱者対策関連事業予算
等(国・地方公共団体)の取りまとめについて,
<http://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/kaimon
oshien25.html> (2014/05/02最終閲覧).
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