センター所有機器(2) 分析化学と地球化学の間 専門委員 田切美智雄 全自動蛍光X線分析装置 (XRF) 茨城大学機器分析センターも 3 年目となり、組織 や運営体制も少しずつ固まってきたようである。と いっても、大学内ではまだまだ情報が伝わっていないことが多く、専門委員としても利用 者を増やすことと利用の便宜を図ることに一層の努力が求められている。そんな中、セン ター発足一年目に概算要求特別設備費によってXRFが導入された。この概算要求は理学 部地球科学科発足を契機に、地球科学科が理学部内で長年要求して実現したものである。 途中から分析センター構想が練られ、当初から発足の際には地球科学科から移管する予定 で要求が続けられた。センター発足から余り間をおかずに第一号新設機器として設置され たことは、センターの今後の発展が希望に満ちていることを感じさせる。 XRFは一次 X 線を試料に照射し、吸収された2次 X 線エネルギーによって発生する元 素固有の蛍光 X 線エネルギーを測定して試料中の元素濃度を求めるものである。XRF の特 徴はいろいろな形態の試料の非破壊分析が可能なこと、主成分から微量成分(ppm)ま での分析が可能なことである。 センターには(株)リガク製3270型が試料自動交換機(48試料)とともに設置れ ている。X 線管にはRhターゲットを用い、定格電圧60kV、電流80mAで最大出力3 kW である。検出器はシンチレーションカウンタとプロポーショナルカウンタの2種を装 備し、分光結晶も6枚を装備して、元素 B から U までをカバーする。本機の操作および分 析条件の設定、さらにデータ処理は全てPC−9801DA7で行われる。自動分析プロ グラムを内蔵し、定量分析・定性分析、さらにファンダメンタルパラメータ法による分析 が可能である。 さて、地球科学で何故 XRF かということを述べたいと思います。物質の化学分析といい ますと、分析化学の分野がまず挙げられます。化学分析に関する手法を開発し、理論的根 拠を与える学問として分析化学は大変重要です。しかし、一般に大学や研究所では最先端 の分析手法や理論の研究が主流で、この世のいろいろな試料の分析になると、ちょっと苦 手としています。 地球科学的試料、例えば岩石や鉱物は分析対象試料としては大変やっかいなものです。 多くの場合ありとあらゆる元素を含んでいて、しかもその化合状態も種々雑多です。例え ば、太平洋海底から採取された玄武岩中には水溶性の鉱物からどんな薬品でも溶かすこと のできない鉱物までいろんなものが含まれています。地球科学では物質の化学的状態を知 ることは地球の歴史を紐とくためにも自然災害を防止するためにも大変重要なことです。 私が学生だった今から20年以上前、岩石や鉱物の化学分析には高い熟練と長時間の重 労働が必要でした。その後多くの分析機器が開発されても、地球上の鉱物にとって最も重 要なSiO2の分析には多大の時間を必要としました。私も茨城大学に赴任した当初は湿 式分析をしており、白金ルツボを用いての1回の分析に約1週間かかりました。このよう なことでは広大な地球を理解するには気の遠くなるような時間が必要です。しかし10数 年前から普及してきた XRF はこの分野を約10分でしてしまいます。しかも、非常に簡単 な前処理のみで分析にかかれます。 地球科学を研究する者にとって、これは大きな意味を持ちます。化学分析のために取ら れていた大半の時間を思考へ回すことができたのです。別な言い方をすると、分析技術だ けで研究者になれた時代から、思考を要求される時代になったのです。分析機器はまさに 研究者の道具でしかないのです。これは取りも直さず、機器分析センターの立脚点です。 全自動蛍光X線分析装置(XRF)
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