32.痛風・高尿酸血症・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大野 岩男 338

疾患
代謝・栄養
JSLM 2012
痛風・高尿酸血症
痛風・高尿酸血症
[要 旨] 痛風の基礎病態である高尿酸血症は増加傾向にあり,現在では成人男性における高尿酸血症の頻度は
25 ∼ 30%とされており,痛風の患者数は本邦において 60 ∼ 70 万人に達すると推定されている。高尿酸血症は
生活習慣病と密接に関連することが知られており,最近の研究成績からは高尿酸血症が高血圧,腎障害,心血
管疾患と密接に関連することが明らかになってきている。痛風は激烈な疼痛で突然に発症する単関節炎であり,
圧倒的に男性に多い。痛風関節炎の治療としては,コルヒチン,NSAID,ステロイドの 3 種類の薬剤が用いられ
る。高尿酸血症はその成因によって尿酸産生過剰型と尿酸排泄低下型に大別されるが,高尿酸血症の治療薬の
選択として,前者には尿酸生成抑制薬(アロプリノール,フェブキソスタット)を後者には尿酸排泄促進薬(ベ
ンズブロマロン,プロベネシド)を使用するのが原則となる。治療目標血清尿酸値は血清尿酸値 6 mg/dL 以下
とされている。
[キーワード] 痛風,高尿酸血症,痛風腎,アロプリノール,フェブキソスタット
性関節炎では関節変形をきたすことがあり,同部位には
痛風の臨床症状
痛風結節を伴っていることも多い。ここで痛風結節や慢
痛風(痛風関節炎)は激烈な疼痛で突然に発症する単
性痛風関節炎は,早期から高尿酸血症が治療されるよう
関節炎であり,圧倒的に男性に多い。痛風関節炎の好発
になったことから最近では少なくなってきている。
部位としては第 1 中足趾節関節であり,同部位に発赤,
腫脹,圧痛,局所熱感を認める。発作は 24 時間以内にピー
クに達し,通常 7 ∼ 10 日で完全に消失するとされてい
痛風の診断に要する検査
痛風の検査は図 1 のようにすすめる。
る。
痛風の罹病期間が長い症例では尿酸塩を中心とした肉
芽腫である痛風結節がみられる。痛風結節は第 1 中足趾
節関節,肘頭滑液包,耳介などにみられ,無痛性である
1. 基本的検査
1)高尿酸血症の定義
ことが多く,大きさは 1 mm 程度から 6 ∼ 7 cm 程度ま
血清尿酸値には著明な性差があることが知られてい
で様々である。結節内は白色チョーク状の物質で満たさ
る。女性ホルモンが尿酸の尿中排泄を増加させるために,
れており,皮下の結節では時に自潰して尿酸塩に富む内
成人女性の血清尿酸値は成人男性より明らかに低いが,
容物が排出されることがある。痛風関節炎を繰り返す慢
閉経後には次第に上昇しその差は小さくなってくる。高
痛風疑い
健診にて高尿酸血症を指摘
第一中足趾節関節腫脹などの臨床症状
基本的検査
血清尿酸値
血清クレアチニン値
尿検査(蛋白尿,尿潜血,尿 pH,尿浸透圧,NAG,β 2MG,α 1MG)
高尿酸血症の病型分類(尿酸産生過剰型,尿酸排泄低下型,混合型)
腎臓超音波検査(腎結石,痛風腎の診断)
関節X線検査
確定診断に要する検査
関節液検査(尿酸塩の針状結晶とそれを貪食する好中球)
必要に応じて行われる検査
関節超音波検査
痛風結節の病理検査
図 1 痛風が疑われた場合の検査のフローチャート
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尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第 2 版
1)
では,高
のクリアランスおよび排泄量により決定されており,尿
尿酸血症は性・年齢を問わずに,血漿中の尿酸溶解度を
酸クリアランス< 7.3 ml /分を尿酸排泄低下型,尿酸
もとに 7.0 mg/dL を超えるものと定義されている(図 2)。
排泄量> 0.51mg / kg /時を尿酸産生過剰型としてい
また,女性においては,血清尿酸値が 7.0 mg/dL 以下で
る(表 1)1)。
目次
巻頭
検査値
アプローチ
症候
あっても,血清尿酸値の上昇とともに生活習慣病のリス
一般
4)X 線検査
クが高くなることが知られている。これに対しては潜在
する疾患の検査と生活指導を行うが,尿酸降下薬の適応
骨・関節の X 線検査において尿酸塩による骨破壊像
症候
ではないとされている。
である骨びらん像(overhanging margin など)を認める。
循環器
また,痛風発作中の血清尿酸値は低値を示すことがあ
痛風の骨びらんは,軟骨下骨の骨粗鬆症を認めないこと,
り,診断的価値は高くない。
関節裂隙が保たれていることなどが関節リウマチとは異
症候
呼吸器
なる。
2)尿検査
症候
痛風患者では,通常蛋白尿は示さないが,尿 pH6.0 以
2. 確定診断に要する検査
1)関節液検査
下の酸性尿を示すことが多い。尿潜血陽性(顕微鏡的血
尿)は尿路結石の存在を示唆する。痛風の腎合併症で
痛風の確定診断には,可能な限り関節液検査を行い,
ある痛風腎では,腎髄質障害がおこるために早期から
偏光顕微鏡にて負の複屈折性を有する尿酸塩の針状結晶
フィッシュバーグ尿濃縮試験における最高尿浸透圧の低
とそれを貪食する好中球を証明することが勧められてい
下をみる。また尿細管障害のマーカーである N- アセチ
症候
血液
症候
腎臓・尿路
る。
ル  -D グルコサミニダーゼ(NAG), 2 ミクログロブリ
ン( 2MG), 1 ミクログロブリン( 1MG)などの上
消化器
3. 必要に応じて行われる検査
症候
疼痛
1)超音波検査
昇をみる。
超音波検査により腫脹関節内や軟部組織への尿酸塩結
3)高尿酸血症の病型分類
晶の沈着(尿酸塩結晶の沈着は高輝度のエコー像として
高 尿 酸 血 症 は そ の 成 因 か ら 尿 酸 産 生 過 剰 型( 約
砂粒状,微小結節状に観察される)を診断する。
10%),尿酸排泄低下型(約 60%),および両者の混在
また腹部超音波検査により腎結石や痛風腎を診断す
した混合型(約 25%)に分けられる。病型分類は尿酸
る。超音波検査上,正常腎では腎髄質は腎皮質より低い
疾患
神経
疾患
呼吸器
疾患
循環器
血清尿酸値正常
治療が有効である
エビデンス
高尿酸血症
疾患
消化器
疾患
尿酸塩沈着症
(痛風)
ある
腎臓・尿路
疾患
内分泌
生活習慣病
マーカー
男性
検討されて
いない
女性
疾患
代謝・栄養
血清尿酸値
5.0
6.0
7.0
8.0
9.0 (mg/dL)
:正常, :生活指導, :高血圧・虚血性心疾患・糖尿病・メタボリックシンドローム
などでは状況に応じて薬物治療を考慮, :薬物治療
図 2 高尿酸血症の定義
疾患
乳腺・
女性生殖器
疾患
血液・
造血器
表 1 尿中尿酸排泄量と尿酸クリアランスによる病型分類
病型
尿中尿酸排泄量
(mg/kg/時)
尿酸クリアランス
(mL/分)
尿酸産生過剰型
> 0.51
および
≧ 7.3
尿酸排泄低下型
< 0.48
あるいは
< 7.3
混合型
> 0.51
および
< 7.3
疾患
免疫・
結合織
付録
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疾患
代謝・栄養
JSLM 2012
表 2 痛風関節炎の診断基準
エコーレベルを示すが,痛風腎では腎皮質よりも高いエ
痛風・高尿酸血症
コーレベルに描出される hyperechoic medulla の所見を
1.尿酸塩結晶が関節液中に存在すること
呈する。
2.痛風結節の証明
3.以下の項目のうち 6 項目以上を満たすこと
2)病理検査
結節の生検標本の病理検査にて尿酸塩を中心とした肉
芽腫である痛風結節を認める。但し,痛風結節は診断上
価値があるがその出現頻度は低い。
a)
2 回以上の急性関節炎の既往がある
b)
24 時間以内に炎症がピークに達する
c)単関節炎である
d)関節の発赤がある
e)第 1MTP 関節の疼痛または腫脹がある
f)片側の第 1MTP 関節の病変である
痛風の診断
g)片側の足関節の病変である
h)痛風結節(確診または疑診)がある
痛風関節炎は,以前から高尿酸血症を指摘されている
i)血清尿酸値の上昇がある
患者の第 1 中足趾節関節などに発赤,腫脹を伴う急性関
j)X 線上の非対称性腫脹がある
節炎が出現した場合に診断できる。診断基準はアメリカ
k)発作の完全な寛解がある
リウマチ学会のものがよく用いられている(表 2)2)。確
定診断の上で重要なことは可能な限り腫脹関節より関節
液を採取し偏光顕微鏡で観察し好中球に貪食された尿酸
1 ナトリウムの針状結晶を証明することである。
4)細菌性関節炎
細菌感染による関節炎で,関節炎症状が急速に進行す
る。黄色ブドウ球菌や  溶連菌などによる敗血症症状
痛風の鑑別診断
の一つとして起こる血行性の化膿性関節炎であり,単関
節炎で起こることが多い。関節破壊が急速に進行するの
痛風の鑑別診断には関節部の発赤,疼痛,腫脹をきた
で注意が必要である。また関節近くの皮膚感染症からの
す疾患がすべて含まれることになる。以下に鑑別を要す
波及,関節穿刺や手術の合併症で起こることもある。
る代表的な疾患の特徴を示す。
5)峰窩織炎
1)偽痛風
関節炎ではなく皮下の感染性炎症である。足背に出現
関節軟骨に沈着したピロリン酸カルシウムの結晶が関
すると痛風関節炎と見誤ることがある。皮下の炎症であ
節腔に脱落することによって生じる結晶誘発性関節炎で
ることから関節部に圧痛はなく,関節部の他動的運動に
ある。膝関節に好発し,X 線写真で軟骨の石灰化像を認
ても疼痛は増強しない。
めることが特徴である。関節液検査にて白血球に貪食さ
れた,偏光顕微鏡にて正の複屈折性を示すピロリン酸カ
ルシウムの結晶を認め,高齢者,女性に多い。
6)外反母趾
第 1 中足趾節関節が外反変形した状態で,X 線写真で
は関節面は比較的正常であり,女性に多い。靴などの圧
2)関節リウマチ
自己免疫機序に基づく慢性炎症性多発性関節炎であ
迫により滑液包炎を起こすと痛風関節炎と類似の症状を
示す。
り,女性に多い。高率に朝のこわばりがみられ,対称性
多発性関節炎がみられる。リウマチ因子,抗 CCP 抗体
が陽性となる。
痛風・高尿酸血症の治療
1. 痛風関節炎の治療
3)回帰性リウマチ
痛風関節炎は疼痛が激しく短期間ではあるが著しく患
再発性の発作性関節炎をくりかえす原因不明の疾患で
者の QOL を低下させる。また痛風関節炎の経験は,原
あり,発作の間欠期には無症状であることなど,痛風関
因となる高尿酸血症の長期治療へ導入する上でも重要で
節炎に類似する。1 つの関節に突然,発赤,疼痛,腫脹
あり,関節炎の沈静化をもって治療が終了したと考えて
を伴った関節炎が出現し,通常は 1 日∼数日で自然軽快
はならない。痛風関節炎の治療としては,コルヒチン,
する。関節炎は膝,手,手指関節にみられることが多い
NSAID,ステロイドの 3 種類の薬剤が用いられる。コル
が,痛風の好発部位である第 1 中足趾節関節にはみられ
ヒチンは痛風発作の前兆期に少量のみ予防的に用いる。
ることは少ない。
発作極期には NSAID の短期大量投与が推奨されている。
ステロイドは経口投与や関節内投与などで用いられ,重
- 340 -
症関節炎,多発性関節炎,NSAID が使用できない腎機
泄促進薬は尿中尿酸排泄量を増加させこれらの合併症を
能低下患者などに使われる。また痛風発作時に血清尿酸
増悪させる可能性があるので好ましくなく,病型にかか
値を変動させると発作の増悪を認めることが多いため,
わらず尿酸生成抑制薬で尿酸排泄量を抑制する必要があ
発作中には尿酸降下薬を開始しないことが原則となる。
る。
目次
巻頭
検査値
アプローチ
症候
3)治療目標血清尿酸値
2. 高尿酸血症の治療
1)治療方針
一般
治療目標血清尿酸値は,痛風発作回数の減少および痛
症候
痛風・高尿酸血症の治療目的は,まず痛風関節炎の発
風発作の予防の観点から,および関節液の尿酸結晶減少
循環器
症を防ぐことである。さらに,高尿酸血症の合併症であ
の観点からも,血清尿酸値 6 mg/dL 以下を治療目標とし
る腎障害(痛風腎),尿路結石を発症,進展させないこ
て良いとのエビデンスが出ている。Shoji らは血清尿酸
とはより重要となる。また痛風・高尿酸血症には脂質異
値と痛風発作再発率を後方視的に検討した成績におい
常症,高血圧,耐糖能異常,肥満などの生活習慣病が高
て,痛風発作再発率は血清尿酸値の低下と共に低下して
症候
率に合併することが知られ,このような合併症が虚血性
おり,尿酸降下薬の投与量を考慮すると目標血清尿酸値
消化器
心疾患や脳血管障害の発症率を高くしていると考えられ
としては 6 mg/dL 以下が良いと報告している 3)。
ているので,血清尿酸値のコントロールだけでなく,合
併症に対する十分な配慮も重要となってくる。高尿酸血
症の治療指針を図 3 に示す 1)。
症候
血液
4)尿路管理
コントロール不良の痛風・高尿酸血症患者では,高尿
酸血症,高尿酸尿症が持続するために腎合併症である痛
2)尿酸降下薬の選択
症候
呼吸器
風腎と尿路合併症である尿路結石症が問題となる。
尿酸降下薬には尿酸生成抑制薬(アロプリノール,フェ
痛風腎・尿路結石の治療・予防には,低プリン食とア
ブキソスタット)と尿酸排泄促進薬(プロベネシド,ベ
ロプリノールや フェブキソスタットを用いた高尿酸血
ンズブロマロンなど)がある。高尿酸血症はその成因に
症・高尿酸尿症対策に加えて,尿量を 1 日 2000 ml 以上
よって尿酸産生過剰型と尿酸排泄低下型に大別される
保つように飲水指導を行い,また食事療法(尿をアルカ
が,前者には尿酸生成抑制薬を後者には尿酸排泄促進薬
リ化する食品,但し腎機能障害患者には低カリウム食と
を使用するのが原則となる。ただし,尿路結石の既往や
低蛋白食が必要)と尿アルカリ化薬(クエン酸 K・クエ
保有例あるいは中等度以上の腎機能障害例には,尿酸排
ン酸 Na 配合剤など)により尿 pH を 6.0 ∼ 7.0 に保つ尿
症候
腎臓・尿路
症候
疼痛
疾患
神経
疾患
呼吸器
疾患
循環器
疾患
高尿酸血症
血清尿酸値>7.0mg /dL
消化器
痛風関節炎または痛風結節
腎臓・尿路
疾患
あり
なし
疾患
内分泌
血清尿酸値<8.0mg/dL
血清尿酸値≧8.0mg/dL
疾患
代謝・栄養
合併症*
あり
疾患
なし
血清尿酸値<9.0mg/dL
乳腺・
女性生殖器
血清尿酸値≧9.0mg/dL
疾患
血液・
造血器
生 活 指 導
疾患
薬物治療
薬物治療
薬物治療
図 3 高尿酸血症の治療指針 1)
*:腎障害,尿路結石,高血圧,虚血性心疾患,糖尿病,メタボリックシンドロームなど㧔腎障害と
尿路結石以外は血清尿酸値を低下させてイベント減少を検討した介入試験は未施行㧕
免疫・
結合織
付録
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疾患
代謝・栄養
JSLM 2012
路管理が重要となる。
痛風・高尿酸血症
5)生活指導
参考文献
1)高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第 2 版,日本痛風・
痛風・高尿酸血症患者の治療には薬物療法ばかりでは
核酸代謝学会ガイドライン改訂委員会編.大阪 : メディ
なく生活指導が重要となってくる。生活指導は,食事療
カルレビュー社 ; 2010.
法(適正なエネルギー摂取,プリン体・果糖の過剰摂取
制限,十分な飲水),飲酒制限,運動の推奨が中心となる。
2)Wallace SL, Robinson H, Masi AT, et al. Preliminary
criteria for the classification of the acute arthritis of
primary gout. Arthritis Rheum 1977; 20: 895-900.
専門医にコンサルテーションするポイント
3)Shoji A, Yamanaka H, Kamatani N. A retrospective study of
the relationship between serum urate level and recurrent
専門医にコンサルテーションすべき症例を以下に示
attacks of gouty arthritis: evidence for reduction of
す。
recurrent gouty arthritis with antihyperuricemic therapy.
・腎障害を伴う痛風関節炎
Arthritis Rheum 2004; 51: 321-5.
・多発性痛風関節炎や痛風結節を有する治療抵抗例
・家族性若年性高尿酸血症腎症
・尿流障害・水腎症のある尿路結石症例
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(大野岩男)