欧州委員会は気候変動・エネルギーパッケージの採択を歓迎(34KB)

NEDO海外レポート
NO.1037,
2009.1.28
【環境・エネルギー】気候変動およびエネルギーパッケージ
欧州委員会は気候変動・エネルギーパッケージの採択を歓迎
2008 年 12 月 17 日、欧州議会での気候変動・エネルギーパッケージに対する投票によ
り、欧州連合(EU)は、低炭素経済に移行しエネルギー安全保障を高めるための懸案に決着
をつけた。2008 年 1 月の欧州委員会による提案に完全に沿う形で、法的拘束力のある目
標に関して合意に達した。すなわち、2020 年までに、温室効果ガスの排出を 20%削減し、
再生可能エネルギーの比率を 20%にまで高め、エネルギー効率を 20%向上させるという
ものである。議論の末、排出枠取引制度(emissions trading system: ETS)、ETS 対象外部
門での温室効果ガス排出量削減の割当、環境的に安全な二酸化炭素回収・貯留(carbon
capture and storage: CCS)のための法的枠組みのみならず、車両からの二酸化炭素(CO2)
排出や燃料の品質に関連した提案に至るまで、合意が成立することになったのである。こ
れほどまでに広範囲で、かつ法的拘束力を持つ CO2 排出削減を確約した世界初の地域とし
て、欧州は気候変動に対する闘いを主導している。今回の投票は、2009 年末までにデン
マークのコペンハーゲンで到達すべき、気候変動に関する意欲的な国際的合意に向け大い
に貢献するものである。
José Manuel Barroso 欧州委員会委員長は、次のように述べた。
「EU の気候変動および
エネルギーパッケージは、気候変動によってもたらされる危機と、現在進行中の経済金融
危機に対する解決策の一部なのです。このパッケージは、ますます炭素制約的な世界で欧
州の産業が競争力を高める、環境に優しい『ニューディール』政策であるとも言えます。
低炭素経済への移行は革新を促し、新しいビジネスチャンスを提供し、環境関連の新規雇
用を生み出すでしょう。
」
欧州委員会の Stavros Dimas 環境担当委員は、
「今回の非常に重要な投票は、気候変動
に取り組む私たちの決意について、国際社会に明確なシグナルを送るものです。国際社会
も、我々に続くべきであると確信することになるでしょう。このパッケージには、2020
年までに温室効果ガスの排出を 20%削減するという目標の達成に向けて EU が実施すべ
き具体的な措置が盛り込まれています。これは、もし他の先進国が同様の約束を実施する
なら私たちは 30%にまで削減率を高めるという、包括的な国際合意の一環として行った私
たちの約束を再確認するものでもあります。
」と語った。
Piebalgs エネルギー担当委員は、次のように話した。「私は、この結果にとても満足し
ています。しばしば交渉は難航し、夜更けまで議論することもありました。しかしその結
果、再生可能エネルギーが主要な役割を担う低炭素エネルギー経済にむけて EU を軌道に
乗せる、本当に目を見張るような法案ができました。
」
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環境との一体性を維持
今回の合意は、2008 年 1 月 23 日に欧州委員会によって提出された提案の構造を維持し
ている。最も重要なものは、2020 年までに達成すべき 3 つの約束である。①温室効果ガ
スの排出を少なくとも 20%削減する、②最終エネルギー消費の 20%は再生可能エネルギ
ー源で確実に賄う、および③エネルギー効率を 20%向上させる。このパッケージはまた、
満足すべき国際合意が達成された場合には、温室効果ガス排出の削減を 30%にまで高める
という明確な提案を含んでいる。
欧州議会での投票結果は、経済のすべての部門に対して長期的な法的拘束力を持つ排出
削減目標に関する歴史的な合意である。2020 年までに達成すべき同様の目標に合意した
国々は、世界中で他には存在しない。
再生可能エネルギー用の拘束力のある目標
再生可能エネルギーに関する欧州指令は、2020 年に再生可能エネルギーの比率を 20%
にするという EU の目標を達成するために、各加盟国に対して法的拘束力を持つ目標を設
定した。同指令は、費用効果的に目標を達成できるよう、協力メカニズムを創設する。ま
た、行政的な障壁や負担などを取り除き、10%という運輸部門における再生可能エネルギ
ーの使用目標を確認し、環境負荷のかからないバイオ燃料だけを確実に支持するために、
世界で初めてバイオ燃料の持続可能性基準を導入する。
更に意欲的な ETS
拡大した EU 排出枠取引制度(EU ETS)は、世界最大の温室効果ガス排出枠取引制度で
あり、より大きな世界規模の炭素市場で中核的な役割を果たしている。2020 年の段階で
2005 年対比 21%の削減が達成されるよう、2013 年から毎年、EU レベルで排出に上限を
設けることになっている。
この合意は、ETS におけるアローワンス 1 のオークション(競売)2 のレベルを増大さ
せることになる。ほとんどの新規加盟国は暫定的な無償アローワンスを申請できるという
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第二取引期間(2008∼2012 年)終了時まで、各加盟国は、排出枠の国家配分計画(National
Allocation Plan : NAP)を作成し、欧州委員会の承認を受けた上で、対象施設に排出枠(アローワ
ンス)を交付する。2013 年から始まる第三取引期間では、EU 全域をカバーする単一の排出量上
限(キャップ)が設けられる。
各施設に排出量上限を設定するので「キャップ・アンド・トレード制度」といわれる。これに
対して京都メカニズムの CDM(クリーン開発メカニズム)による排出権は「クレジット」と呼
ばれている。
第一取引期間(2005∼2007 年)および第二取引期間(2008∼2012 年)では、アローワンスは無償で
配布されるが、第三取引期間が開始する 2013 年からは、オークション制度が導入される。電力
業界はすべてのアローワンスをオークションで調達しなければならない。他の産業でも順次、無
償配布からオークションに切り替わり、同期間が終了する 2020 年には原則としてすべてのアロ
ーワンスがオークションにかけられる。ただし、カーボンリーケージ(注 3 参照)のおそれのあ
る産業には、無償配布される。(文末の参照用文献①)
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選択肢がある一方で、電力会社はアローワンスをオークションで購入しなければならない
というルールが設定される見通しである。カーボンリーケージ 3 のおそれのない産業施設
は、2013 年に 20%、2020 年に 70%、2027 年に 100%のアローワンスをオークションで
購入するよう求められる予定である。カーボンリーケージをもたらすおそれのある事業者
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でも、最も効率的な技術に投資していれば、入手可能な最良の技術を基にした基準に応
じて、アローワンスを無償で受け取ることができる。全体として、50%以上のアローワン
スが 2013 年からオークションにかけられ、その比率が年々上昇するということである。
改正された EU ETS は、域外からのオフセットクレジット 5 の利用を容認している。し
かし、域内で十分な排出削減レベルを確実に達成するため、クレジットの利用は削減量の
半分以下に抑えられている。
加盟国は、オークション収入の少なくとも半額を気候変動対策に使用しなければならな
い。
すべての加盟国による公正な貢献
今回の合意は、域内の温室効果ガス総排出量のおよそ 60%を占める運輸、建設、農業お
よび廃棄物部門における小規模排出者に対しても影響がある。2020 年までに、これらの部
門からの排出は 2005 年対比で平均 10%削減されなければならないが、一人当たり GDP
に応じて各加盟国に割り振られる。同合意は、各加盟国の国別目標を尊重するが、2013
年から 2020 年まで年々直線的軌道で拡大する排出削減目標に法的拘束力を持たせ、毎年
モニタリングを行って加盟国の遵守状況をチェックするとしている。ただし、排出削減目
標の軌道への柔軟的対応の余地も盛り込まれている。
二酸化炭素回収・貯留(CCS)への枠組み
CO2 の地中貯留に関する指令は、環境に対するダメージの可能性や信頼性に関する問題
を管理するための法的枠組みを提供している。強化された炭素市場は、投資を喚起する長
期的なインセンティブを提供すると見られる。その一方で、CO2 の回収・貯留のための最
大 12 の商業規模実証プロジェクトの建設と運用を刺激するため、また EU における革新
的な再生可能エネルギー実証技術を促進するため、EU ETS の下で新規加入者用に確保し
てあるアローワンスの中から最大 3 億アローワンス(3 億トン分)を放出する予定である。
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厳しい国際競争に曝されている企業が、その活動拠点を排出規制の厳しい地域から規制の緩い地
域に移すことにより、温室効果ガス排出の移転(=漏れ出す、リーク)を招いてしまうこと。
カーボンリーケージの懸念のある産業分野のリストは 2009 年末にまでに欧州委員会から発表さ
れる。(文末の参照用文献①)
京都議定書で認められたクレジットのこと。具体的には、共同実施(Joint Implementation: JI) と
クリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism: CDM)実施により取得したクレジッ
トのことで、JI 実施により発行されるクレジットを ERU (Emission Reduction Units)、CDM
実施により発行されるクレジットを CER (Certified Emission Reductions)という。(文末の参
照用文献①)
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新車からの CO2 排出削減のための拘束力ある目標
新車(乗用車)に対する排出基準を設定するという提案に関しても合意に達した。これ
は、加盟国の EU ETS 対象外の部門での排出削減目標の達成努力を支援する重要なツール
である。この新法案は(燃料品質指令などの補足的な措置とともに)
、新車からの CO2 の
排出を 2012 年に平均 120g/km にまで確実に削減するために、法的拘束力のある排出目標
を設定することになる。合意に至った法案は、2012∼2015 年にかけて段階的に目標を導
入するものの 6、2020 年までに CO2 の排出を 95g/km にするという厳格な長期目標を設定
することで、欧州委員会の提案に示された全体としての意欲的な努力目標のレベルを維持
している。この提案は、非 EU ETS 部門に求めている排出削減目標の達成に、平均して
1/3 程度寄与すると見られる。
燃料品質指令に関する合意は、すべての燃料生産段階において 2020 年までに 6%の温
室効果ガスの排出を削減するよう、燃料供給者に義務づける計画である。これは 2012 年
に見直されるが、その時には国際プロジェクト、CCS および乗用車用の電力などを通じて、
2020 年までに温室効果ガス削減のレベルを 10%にまで増加させるという意欲的な目標の
導入を目指すことになる。
世界へのメッセージ
このパッケージの採択は、今や EU が世界と共有すべき厳格かつ広範囲な法的ツール一
式を持っていることを示している。
次のステップは、オークションのルール設定、無償アローワンスのためのベンチマーク
の定義づけ、および報告に関する規制の準備など、今回の合意を実施するための技術的問
題の解決である。2009 年にコペンハーゲンで気候変動に関する国際的合意が達成されたと
きには、更なる調整が必要となろう。
この修正により、EU ETS は世界的なものとなり、真に全世界的な炭素市場を確立する
ための重要な礎となるのである。
参照用文献:詳細に関しては以下のサイトを参照されたい。
①ETS について→ Questions and Answers on the revised EU Emissions Trading
System (MEMO/08/796)
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EU 域内で販売される新車のうち、2012 年には 65%、2013 年には 75%、2014 年には 80%が規
制(120g/km)の対象となる。2018 年までの罰則は、規制値を超えた 1g 目は 5 ユーロ、2g 目
は 15 ユーロ、3g 目は 25 ユーロ、4g 目以上は 1g につき 95 ユーロである。2019 年以降は、超
過分 1g につき一律 95 ユーロになる。(文末の参照用文献④)
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(http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/08/796&format
=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en)
②共同作業について→ Questions and Answers on the Decision on effort sharing
(MEMO/08/797)
(http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/08/797&format
=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en)
③CCS について→ Questions and Answers on the directive on the geological storage of
carbon dioxide (MEMO/08/798)
(http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/08/798&format
=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en)
④乗用車からの CO2 について→ CO2 from passenger cars (MEMO/08/799)
(http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/08/799&format
=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en)
⑤燃料の品質について→ Fuel Quality Directive (MEMO/08/800)
(http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/08/800&format
=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en)
翻訳:吉野
晴美
出典:Climate change: Commission welcomes final adoption of Europe's climate and
energy package
(http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=IP/08/1998&format=
HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en)
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