コンクリート地際部における非接触・非破壊検査システム 細見 直史*1

A-8
コンクリート地際部における非接触・非破壊検査システム
キーワード:調査方法、非破壊検査、新技術、コスト縮減、効率化
細見
直史*1
入部
孝夫*1
貝沼
重信*2
山田
隆明*3
永野
徹*3
2.非接触・非破壊検査システム
1.はじめに
下路トラス橋の斜材とコンクリート床版との境界部
2-1
渦流探傷検査
ECT はきず信号(欠損体積)が電磁誘導現象によりコ
や鋼製橋脚基部の地際部に著しい腐食損傷が数多く報告
1)
されている 。図-1 に示す地際構造は、鋼アーチ橋の垂
イル(センサー)の電圧変化で得られるため、非接触で
直材や波形鋼板ウェブ PC 橋、複合トラス橋の斜材、高圧
導体の高速検査が可能である。しかし、従来の装置では
鉄塔や標識照明柱の基部などに多用されており、今後、
センサーが腐食の上側を通過する必要があるため、地際
2)
。これらの腐食は、局部
腐食部の検査には適用困難であった。そこで、ECT を鋼
的かつ板厚方向に進行する損傷で、腐食の進行性が著し
材のコンクリート地際部の腐食検知に適用するために、
く高く、コンクリートに埋設された目視できない部位に
新たに腐食検知用渦流センサーを開発した。このセンサ
も生じることが少なくない。目視できない地際部を検査
ーを用いることで、腐食生成物や塗装を除去することな
するには、コンクリートのはつり作業や地際部に生じた
く、非接触で短時間かつ効率的な検査を実現した。さら
浮さびを除去するなどの多大な労力を要する。
に、ECT により欠損体積に応じた信号変化から地際部の
同様の腐食損傷が懸念される
地際部の腐食損傷の非破壊検査法は、超音波を用いた
平均腐食深さを推定する方法がないため、地際部の平均
方法が主として検討されてきた。しかし、超音波探傷を
腐食深さを推定する手法 3)を考案した。
適用する場合、鋼材表面の腐食生成物や塗膜を除去する
2-2
検査波形による腐食深さの推定 3)-4)
必要があり、腐食した鋼材表面の凹凸が超音波の入射反
渦流探傷センサーの電圧変化は、センサーがきず直上
射の障害となることなどから、超音波で腐食損傷を検出
(最大の腐食深さ位置)を通過した際に最大となり、こ
することは原理上、困難であった。そこで、渦流探傷検
の最大の電圧変化を検出することで腐食欠損体積が求め
査(以下、ECT)を用いて ECT 探傷波形の非線形回帰分
られる。図-2 に示すように、鋼材の地際部分において、
析を行うことで、地際部の目視できない部位における腐
その延在方向に対して直交する方向に人工きずを通過す
3)
し、非接触で地際
るようにセンサーを走査させた場合の探傷波形を図-3
部の残存平均板厚の検査が可能な非破壊検査システムを
に示す。図中に青で示す探傷波形は、断面欠損の体積減
食損傷の位置と平均腐食深さを推定
4)
。また、実際の鋼製橋脚基部を対象に本検査
少による電圧低下の累積を示している。赤実線は探傷波
システムによる試験調査を実施し、検査結果と腐食表面
形に近似するガウス関数の非線形回帰分析により近似し
性状の 3 次元計測結果とを比較することで、その妥当性
た確率密度関数を示している。探傷波形はガウス関数に
開発した
5)
および作業性を確認した 。
ほぼ一致している。しかし、腐食が最も著しい部位は、
センサー
鋼板
100
矩形断面人工きず
X
走査方向
0
幅
:W
深さ :D
Y 断面積:A
0 センサー位置 Y
c
d
b
ガウス関数
探傷波形
a
走査原点:スリットきず直近
a:最大振幅
b:標準偏差
地 際
腐食損傷
材質:SM490
寸法:400×9×200mm
地際腐食部
コンクリートとの境界
図-1 地際腐食損傷
図-2 渦流探傷検査
*1
株式会社
*2
東京鐵骨橋梁
九州大学大学院
*3
図-3 対比試験片と探傷波形
技術本部
技術研究所
工学研究院社会基盤部門
日本電測機株式会社
71
電圧-V
技術研究所
c:最大振幅
の位置
d:初期値
-0.57V
センサー
-1.36V
-1.30V
-1.27V
鋼材
(a) きず通過
(b) きず直近
非接触
図-5 非接触・自動渦流探傷装置
図-4 ガウス関数を用いた非線形回帰分析の結果
図-7(b)
(a) 検査対象部位
鋼製橋脚基部
(b) 最大欠損部
図-7 検査対象部位と測定範囲
図-6 対象橋脚
コンクリートの埋設部近傍であるため、きずを通過させ
2-3
平均腐食深さの推定手法 5)
地際腐食損傷部の ECT および平均腐食深さの推定は、
る走査は困難である。そのため、センサーにより直接最
大の電圧変化を検知できず、最大の欠損断面を求められ
以下で示す手順で行った。この結果から、地際腐食損傷
ない。そこで、目視できない部分の腐食深さ(残存板厚)
部の残存平均板厚を評価した。
を評価するためには、腐食損傷による最大電圧の変化を
1) 対比試験片を用いて探傷機器の感度調整を行う。
推定する必要がある。
2) 実構造物の ECT を実施する。
図-3 に示す対比試験片の ECT 波形の一例を図-4 に示
3) ECT 波形の非線形回帰分析を行い、ガウス関数の最
す。図-4(a)は、きずを通過させた場合の ECT の走査波
大電圧振幅、電圧振幅の標準偏差、最大振幅の位置、
形を示している。図中に青プロットで示す ECT 走査波形
および振幅の初期値のパラメータを推定する。
の最大電圧振幅が-1.36V であるのに対し、赤実線の非線
4) 対比試験片の感度調整値と実構造物の被検査材の諸
形回帰分析による最大電圧振幅を-1.27V と推定している。
条件を用いて 3)の推定結果から地際平均腐食深さ D
その推定誤差は-7%程度であり、複数回実施したものの
と地際腐食位置 Y を計算する。
5) 被検査材の腐食前の板厚は設計板厚とし、設計板厚
同様の結果であった。また、回帰分析の収束条件を厳し
から地際平均腐食深さを差引くことで、残存平均板
くしても推定結果に差は生じなかった。
厚を算出する。
きず直近までセンサーを走査した際の探傷波形を図
-4(b)に示す。図-4(a)に示す人工きずを通過させた ECT
なお、残存平均板厚の推定には、文献 4)の対比試験片に
走査波形の最大振幅に対し、きず直近で走査を停止した
よる ECT の考察結果から、以下の仮定を用いた。
ECT 波形の最大振幅は、-0.57V と 40%程度の信号しか得
1) 延在方向に対して直交する方向に走査した ECT 波形
は、ガウス関数に従う。
られていない。しかし、非線形回帰分析を行うことで
-1.30V の最大振幅が推定でき、その推定誤差は約-4%で
2) 非線形回帰分析の収束条件は 0.05%以下とする。
あり、きずを通過させた場合と同程度の結果が得られた。
3) 地際腐食損傷部の欠損断面を矩形断面にモデル化し
て平均腐食深さを算出する。
さらに、検査精度の向上と効率化を図るためために、図
-5 に示すような非接触・自動渦流探傷装置を開発した。
72
図-9(a)
X
(a) 腐食損傷(検査前)状況
(b) ECT 結果
鋼材
地際
コンクリート
Y
最大振幅の位置
仮想腐食幅
(c) 地際からの腐食位置
D 地際
Y
板厚
(d) 平均腐食深さの推定値
図-8 地際平均腐食深さの推定結果
3.実証試験調査 5)
3-1
3-3
対象構造物
精度検証結果
ECT 後に鋼製橋脚基部の根巻きコンクリートをはつ
地際腐食損傷部の腐食損傷調査は、角形鋼製門型ラー
り、地際腐食部をブリッドブラスターによるケレンを行
メン橋脚の基部を対象に実施した。対象橋脚の全景写真
った。ケレン後の最大欠損部の計測結果を図-9(a)に示す。
を図-6 に、検査対象部位、測定範囲および目視調査にお
次に、セルフポジショニング・レーザースキャナ(以下、
ける最大欠損部を図-7 に示す。調査を実施した対象部位
ハンディースキャン 3D と呼ぶ。)
(Creaform 社製)、およ
の使用鋼材は SM400A であり、橋脚柱の幅は 2050mm、
びレーザ変位計を用いた現場設置型の XY スキャナ(以
板厚は 19mm である。なお、調査時における対象橋脚の
下、現場レーザ変位計と呼ぶ。)(東骨社製)による腐食
供用年数 T は 31 年(1981 年 10 月竣工)である。
表面形状の 3D 計測(測定ピッチ 1mm)を行った。その
3-2
結果を図-9(b)および(c)に示す。なお、地際部を印象材
調査結果
地際部の平均腐食深さの推定結果を図-8 に示す。図
により型取りし、レーザ変位計搭載の卓上 XY スキャナ
-8(a)は検査前の腐食状況であり、図-8(b)は ECT による
(九大製)により、測定ピッチを 0.2mm とした腐食表面
電圧振幅変化のコンター図を示している。ECT による電
形状のデータの詳細計測も行った。3 種類の計測方法に
圧測定では、橋脚材端から 300~1200mm 付近の地際近
よる腐食表面形状の計測結果は、それぞれ計測時間や測
傍で大きな電圧変化が生じた。ECT 波形の非線形回帰分
定ピッチが異なるものの、同様の傾向を示していた。こ
析から算出した地際腐食位置、および平均腐食深さの推
こでは、計測間隔 1mm ピッチで格子状のデータが比較
定値を図-8(c)、および(d)に示す。地際からの腐食位置
的広範囲に採取できる現場レーザー変位計の計測結果を
は、地際からコンクリート埋設部側に 10mm 程度であり、
用いて ECT の計測結果の推定精度を検証する。
その平均腐食深さ Dmean は 2~3mm 程度、最大値 Dmax を
現場レーザー変位計による最大欠損部の計測結果と
約 5mm と推定した。
ECT による推定結果を図-9(d)に示す。図中に示す赤プ
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(a) ケレン後の腐食表面
単位(mm)
(c) 現場レーザー変位計
推定誤差
±1mm(2σ)
(b) ハンディースキャン 3D
(d) 推定結果との比較
図-9 腐食表面形状の 3D計測結果
ロットは ECT による平均腐食深さの推定結果であり、青
プロットは現場レーザ変位計による最大腐食深さを示し
ている。ECT による推定値は、実測値と同様の傾向を示
しており、その推定誤差は±1mm(2)程度であった。
5.まとめ
コンクリートに埋設された鋼部材の地際腐食損傷に
対して,前処理(コンクリートのはつり,鋼材の塗装,
浮さび等の除去作業)が不要な非破壊検査技術を開発し
た。鋼製橋脚基部を対象に実証試験を行ったところ、ECT
による平均腐食深さの推定値は、その実測値と同程度の
傾向を示し、その推定誤差は±1mm(2)程度であった。
【参考文献】
1) 日本道路協会:道路橋補修・補強事例集 2007 年版,
山海堂, 2007.
2) 土木学会:日経コンストラクション 2011 年 10 月 10
日号,2011.
3) 入部孝夫,細見直史,貝沼重信,山田隆明,永野徹:地際
腐食損傷部の平均腐食深さの推定による残存平均板厚推
定方法(特願 2013-071117).
4) 細見直史,入部孝夫,貝沼重信,山田隆明,永野徹,片山
英資:鋼部材のコンクリート地際における残存板厚の評
価・予測(その 1),第 68 回年次学術講演会,2013.
5) 入部孝夫,細見直史,貝沼重信,山田隆明,永野徹,片山
英資:鋼部材のコンクリート地際における残存板厚の評
価・予測(その 2),第 68 回年次学術講演会,2013.
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