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Title
連続連想の分類とその特徴
Author(s)
糸山, 景大; 小佐々, 慎二; 江口, 武; 八重石, 幸博; 太田, 公治; 林下, 功
Citation
長崎大学教育学部教科教育学研究報告, 6, pp.87-92; 1983
Issue Date
1983-03-30
URL
http://hdl.handle.net/10069/29976
Right
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連続連想の分類とその特徴*
糸 山 景 大** ・小佐々 慎 二***1・江 口
武***2
八重石 幸 博***3・太 田 公 治***4・林 下
功***5
(昭和57年11月1日受理)
Classification for Association Process and Each Feature
Kagehiro ITOYAMA,Shinji KOSAZA,Takeshi EGUCHI,
Yukihiro YAEISHI,Kohji OHOTA and Isao HAYASHITA
(Received November1,1982)
あらまし 連続連想あるいは多ヒント連想における連想の諸過程を考察するために,
これまで行ってきた連続連想の調査の中から実例を拾い出しつつ連想過程の分類を行
なった。連想過程には大まかに,接近連想,類似連想および対比(反対)連想の三っ
の連想のタイプがあるが,これらの連想過程の定義に基づき,連想と文脈上の構造を
対比させることによって,連想過程を更にいくつかの形に分類した。また分類された
個々の連想過程の特徴を抽出すると共に,連想の情報論的なつながりについても言及
した。
1.まえがき
「連想」という問題は,人間の知覚や記憶,あるいは概念の形成といった諸作用と深く関
係するものであり(1),このため個人の経験,観察,知識(量)等の違いによって,想起される
言葉は種々に変化していく。連想を連続して行った場合は,個人の興昧や趣味に近い部分
の言葉は出やすくなるという現象は,上述のことを良く示している。また連想が概念形成
に深くかかわっていることからも,連想を広げていくうちに,新しい概念を生みだす可能
性は十分にある。即ち,連想は人問の創造性とも深くかかわっており,創造性開発,ある
いは能力開発の部分に積極的に適用されるべきものであろう。最近,工学分野,特に情報
工学や計算機工学から連想に対する研究が進められているが,この研究課題の一つに,現
在のノイマン式の電子計算機から,非ノイマン形式の電子計算機(創造力のある計算機)
への接近の手段として,連想が問題とされている(2)。
*本研究は電子通信学会,教育技術研究会(1982年11月13日,東京)において発表予定。
**長崎大学教育学部工業技術教室
***連想研究会(昭和57年8月,共同研究グループとして発足)メンバー。
***1世知原町立世知原小学校,***2勝本町立勝本中学校,***3長崎市立片渕中学校
***4佐賀県鹿島市立鹿島西部中学校,***5奈良尾町立奈良尾中学校
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長崎大学教育学部教科教育学研究報告 第6号
この「連想」の問題を解明するためには,連想の過程(刺激語一反応語の関係)の分類
と,その特徴抽出がなされねばならない。即ち,刺激語一反応語間の文脈上の構造および
その特徴,または非文脈的である場合の連想の特徴が明らかにされねばならない。連想の
構造が明らかにされることは,情報論的にも重要な意味をもつ。
本報告では,これまで筆者らが調査した連続連想および多ヒント連想の調査の中から見
出し得た実例をもとに,連想過程に対する文脈上の構造,特徴,あるいは文脈を見出しえ
な’い場合の特徴を述べている。
連続連想の調査は,中学生に対して行なったものであり,刺激語は6語,被調査人数は
1362名,1人当りの連想語数は平均25語で,延べ約20万回の連想が行なわれたことになる。
連想過程の実例は,この約20万回の連想の中から抽出し,分類に供した。
多ヒント連想では,文脈上の構造あるいは連想過程の違いをもとに種々のヒントの組合
せを作意的に作り連想を行わせうる。即ち多ヒント連想の結果を,個々の連想過程と対比
させることによって,連想過程のもつ特徴を多ヒント連想の結果で考察しうる面がある。
本報告でも,いくつかの連想過程に対し,多ヒント連想の結果を対比させ,特徴を抽出す
るのに供した。尚,多ヒント連想の調査は大学生(長崎大学,教育学部100名,医学部52
名,合計152名)対象であり,10組の多刺激語群に対し連想を行なわせた。
2.連想過程の分類
2−1 連想過程の定義
連想の過程として,従来から言われてきたものとして,接近連想,類似連想および対比
(反対)連想がある(3)。これら三つの連想過程を定義すると,次の(玉〉∼⑯のように表わ
(i)接近連想:時問的,空問的に同時に想起される連想。同時性の連想
(ii)類似連想:同一性もしくは共通性をもって想起される連想。同一性の連想
㈹ 対比連想:状態,形容,動作が互に対極に存在するものの連想。
しうる。このうち,㈹の対比連想は,類似連想の最も極端な場合に相当し,その意味では
反類似連想とも呼びうる。
(i)∼㈹に示した各連想過程の定義に従って,筆者らも文脈上の構造とその構造に基づく
順序関数の形式で(4),連想過程の細分化を行い,連想の情報論的な考察を進めてきた(5)。し
かしながら,連続連想や多ヒント連想の連想過程の構造の分析を進めていくうちに,筆者
らが以前に示し得た連想過程だけでは説明しえない実例が多数現われてきた。そこで,上
述した連想過程の定義に従って,実際に現われた連想過程に対し,連想の文脈上の構造を
明らかにすると共に,その連想過程の特徴についても言及した。
2−2 接近連想過程
(a)主述連想過程:∫(0,V)
名詞一動詞,名詞一形容詞の関係で,文脈上は,主語一述語の構造となる。
○っばめ一→飛ぶ:っばめ(は空を)飛ぶ 0→V:∫(0,V)I c (1)
○リンゴー→赤い:リンゴ(の色は)赤い 0→V:∫(0,V)l A (2)
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連続連想の分類とその特徴(糸山・小佐々・江口・八重石・太田・林下)
上記の特別な場合として,名詞一名詞の関係で
:∵二:森 }・一・’:∫(…り1・(3)
がある。式(3)は,文脈上は式(2)の構造と同じであると考えうる。
(b)修飾連想過程:∫(M,O)
動詞一名詞,形容詞一名詞の関係で,文脈上は名詞を修飾する構造となる。動詞一名
詞の場合は,動詞の連体形をとり,連体修飾語として次の名詞にかかる。
灘二,曼ゴ:鷲ンゴ }M一・・凧・) (4)
(c)状況連想過程:∫(O,0’)
名詞一名詞の関係で,文脈上は主語一述語一目的語(または補語)の目的語または補
語が連想されるもので,式(1)の0に対するCが連想されている。
1夏嘆:器が黒:蕪麟力謬ξ難1}・一・’・∫(…り(・)
(d)因果連想過程:∫(V,V’)
動詞一動詞,動詞一形容詞の関係で,文脈上は相互が因果関係の構造となるもの。
講二藷1!れる:醸蒔llれる}V−V・:瓶Vり (6〉
(e)分割連想過程:∫(O,O’)
本来,1個の言葉を2語またはそれ以上に分割して連想したもので,一般的には名詞
一名詞の関係ぞある。
:轟二繕轟請ノ臨、ま,召禾,5,年、、月}・一・’:∫(…り(7)
特別な例として,文章を分割し連想したものがある。
○からす→なぜなくの→カラスの勝手
2−3 類似連想過程
(a)質類似連想過程
◎体言的質類似連想:∫(0,0’)
名詞一名詞の関係で,文脈上は「…AもBも同じ…」の構造となる。
◎用言的質類似連想:∫(V,V’),∫(V,O)
動詞一動詞,形容詞一形容詞,形容詞一名詞の関係で,動作,状態の類似性に着目し
た連想。文脈的構造は,必ずしも有しない。
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長崎大学教育学部教科教育学研究報告 第6号
○黒 い一→陰気 / V→0 ∫(V,V’) (1①
(b)音韻類似連想過程:∫(0,0’)
一般に名詞一名詞の関係で,音の遊び(駄ジャレ)である。文脈上の関係はない。
1嘉㌫㍑藷㌻臓鵬一ノレ}・一・・:∫(…HD
特別な例として,次に示すような音類似連想と分割連想を組み合せた連想過程がある。
○高い→ビ ル →ロビンソン →クルーソー
(ビルディング)(ビル・ロビンソン)(ロビンソン・クルーソー)
このような連想は,接近連想とも類似連想とも言い得るが,本論文では,文脈のなさ,
音の類似性を強調している点を考慮して,類似連想として取り扱う。
また音類似連想の一っとして,次の連想過程もある。
◎尻取り連想過程:∫(0,0〆)
1鵬二猛袈線,}…α・∫(…り(12)
2−4 対比(反対)連想過程
(a)対比連想過程:∫(0,0’),∫(V,V〆)
名詞一名詞,動詞一動詞,形容詞一形容詞の関係で,物事の対極に位置する言葉が連
想されるもの。文脈上は「Aの反対はB」の形である。
oノッポー→チビ:ノッポの反対はチビ 0→0’ :∫(0,0〆) (13〉
齢二瓢翻麟慧}V−V’・∫(V・Vり (14)
対比連想は,質類似連想過程の最も極端な場合に相当することは,式(8),(9)と式(13),(14)
を比較すると明白である。
3.各連想過程の特徴および多ヒント連想との比較
接近連想過程と類似連想過程を比較するとき,互の特徴的な点として,類似連想過程で
は,言葉の意味のもつ質の類似性ないしは言葉の音韻による類似性を見出す,グルーピン
グの能力が必要となる。この能力を高めるためには,個々人の興味等から生まれるかなり
の知識量が必要である。このため,連続連想において多数の連想を行なっている生徒は,
ほとんど例外なく,かなり多数の類似連想過程を含んでいる。即ち,類似連想の量は,そ。
の個人の知識量に深く依存している。
これに対し,接近連想過程においては,知識よりむしろ,個人の経験,観察力といった
ものに強く左右される。例えば,接近連想の中の(c)状況連想過程において,「チューリップ」
は「春」に咲くのか,「花だん」で咲くのか,「並んで」咲くのか,「赤い」色なのか,「愛
らしい」花なのかというように,経験や観察力の違いによって,連想される言葉は大きく
異なってくる。同じことは,修飾連想過程においても認められることであり,接近連想で
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連続連想の分類とその特徴(糸山・小佐々・江口・八重石・太田・林下)
は,知識より経験が支配的であるといえる。
連想の諸過程と人間の創造性の問題を結びつけて考えると,知識の量と状況に応じたそ
れら知識の組み合せの二つの要因に帰着しうると思われる。人間の創造性開発,能力開発
を促進する手段の一つに,こうした連想による方法が有効な手段と考えられている原因が,
ここにあるものと考えている。
日本語の特徴的な連想過程として,類似連想過程のうち音韻類似連想過程がある。この
連想は,日本語のもつ同音異義語の多さに起因するものと思われるが,一種の音韻の遊び,
即ち駄ジャレがいかに深く生活の中に溶けこんでいるかを示す好例である。
大学生に対して行なった多ヒント連想のうち,本論文と関係のある次の三つの刺激語群に
ついて,連想過程との比較を行なってみた。表1に多ヒント連想の結果を示したが,一番
目の刺激語群は,状況連想過程における,目的語二語を刺激語群とし,コーヒーを飲む状
況を意図的に連想させている。第2刺激語群は,主述連想過程の主語(対象)とその属
性を刺激語の組とした。第3刺激語群では,同じく主述連想における,主語と述語を刺
激語の組とし,述語のもつ状況を連想させようとした。なお,表中,最多反応語の情報量
1は,反応者数の比率(%)を,一種の確率Pとみなして,次式によって算出したものである。
︵15︶
1二一1092P (bit)
表1 多ヒント連想の結果(調査人数152名)
最多反応語
〔答一ヒ杢〕
喫茶店
反応数(人)
99 ﹀109︵10︶
刺 激 語
茶 店)
黄 色
黄)
〔綻一リツで〕
104 ︶132︵28︶
〔バ畜ナ〕
春
98
比率(%)
最多反応語の
報量(bit)
71.7
0.48
86.8
0.20
64.5
0.63
表1に示しているように,接近連想過程で,主述連想過程の主語(対象)とその属性の
場合,あるいは状況連想過程における目的語同志の組み合せによる多ヒント連想では,非
常に意図的な連想性想起を起こさせうる。即ち作意的に連想を行なわせることも可能であ
る。これに対し,主述連想過程ぞ,主語と述語の組を刺激語群とする場合,その反応語
(一般には述語の状況が回答される)は経験や観察力の違いによって,変化のある回答と
なる。
類似性のある刺激語同志を組にした場合は,その反応語は非常に散らばる。一般的に類
似連想によって,意図する言葉を連想させることは困難であり,情報論的に言えば,類似
連想過程は情報量が大きい。これに対し,接近連想過程は,意図する言葉に導き易く,そ
の意味では情報量は小さいものとなっている(6)。
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長崎大学教育学部教科教育学研究報告 第6号
4.む す び
(1)連想過程には,接近連想,類似連想および対比連想の3連想過程がある。このうち,
接近連想過程では(a)主述,(b)修飾,(c)状況,(d)因果,(e)分割の諸連想過程に,類似連
想過程では(a)質的類似,(b)音韻類似に分類しうる。
(2)類似連想過程は個々人の興味等による知識の量に強く依存し,接近連想過程では,経
験や観察力に依存した連想となる。
参考文献
10乙34﹃0腐︾
A.P.ルリヤ(天野清訳):言語と意識,金子書房,P.79(昭和57).
市川,上林,:連想プロセッサ(1),信学誌,vol.64,P.609(1981).
産業教育研究所:記憶力を鍛える法,日本文芸社,P.28(1979).
T.コホネン(中谷和夫訳):システム論的連想記憶,サイエンス社,P.5(1980).
糸山,小佐々:中学校生徒の連続連想に対する情報論的考察,信学技報,E T−5,P.37(1981).
糸山,江口:中学校生徒の連続連想に対する情報論的考察(その2),信学技報,ET82−7,P.41
(1982).