第11章 エージェンシーとシグナリング (補1)

・ 逆選択(抜)
(adverse selection)
(補1)第11章 エージェンシーとシグナリング
良いものを選びたいのに、逆に市場には悪いものばかりが
残ってしまう状況
P293∼
10章のMM命題
完全資本市場を仮定 → 情報の格差がないことが前提
アカロフの「レモンの原理」
But
現実には、情報の非対称性がある
不良品、欠陥品
余分な取引コストがかかる
(例) 中古車市場の場合
情報の非対称性が存在すると、良質の車を保有する売り手が
いなくなり、最終的には欠陥車だけが市場にあふれる
資本構成や配当政策などに影響を与える可能性?
11.1 情報の非対称性とは
つまり...
「悪貨が良貨を駆逐する」(グレシャムの法則)
(asymmetric information)
取引の当事者間において情報格差があり、情報が均一に
分布していないこと
ベンチャーファイナンス
04/1/10
中古車市場
こうした情報の非対称性があると、さまざまな
問題が生じる
なぜか?
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ベンチャーファイナンス
04/1/10
保険市場の場合
売り手と買い手の間で保有する情報が異なる
(例)車のくせ、欠陥など
売り手
情報の非対称性
良質の車の売り手は
損 (売らない!)
情報の
非対称性
被保険者
買い手
健康状態についての
情報が多い
情報がわからない
情報が多い
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健康な人は
保険に入らない
欠陥の可能性を予想して
安く買おうとする
健康状態についての
情報がわからない
均一に高めの保険料を設定
病気にかかりやすい人ばかりが
保険に入る
※ 実際にはこのようなことが起こらないように
国民健康保険などの制度がおかれている
欠陥車をもつ売り手だけが残る
こうした現象は保険市場において、よく観察される
ベンチャーファイナンス
04/1/10
保険会社
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・ モラルハザード(道徳的危険、倫理の欠如)
(moral hazard)
取引関係を結んだ後で、相手が行動を観察できないことを利用して、
自分の利益のために相手に損害を与えるような行動をすること
→ 「ぬけがけ」
ベンチャーファイナンス
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04/1/10
(例) 保険市場 (火災保険、医療保険、自賠責保険など)
エージェンシー関係
保険に入ることで、事故を減らそうとする努力を怠る
→ 事故の頻度が増えて、損害が増大
→ 結果として保険料は上昇
労働市場
依頼人
(プリンシパル)
VS
ひとりだけサボル → 結果として皆の給料が下がる など
(例)
株主
依頼人
患者
VS
VS
VS
11.2 エージェンシー理論
経営者
弁護士
医者
(所有と経営の分離)
情報優位
さまざまな取引において存在する関係を依頼人(プリンシパル)と
代理人(エージェント)との間での権限の委託・受託関係ととらえて
分析する理論
他者に一定の行為を代行させる契約関係
ベンチャーファイナンス
04/1/10
代理人
(エージェント)
agent
principal
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利害関係の
衝突
自分の利益を優先してしまう
いかにしてエージェントに対して
プリンシパルの利益に反しない行動をとらせるか?
(例) エージェントの行動を監視する仕組み(モニタリング)
情報公開
報酬制度の工夫 など
ベンチャーファイナンス
04/1/10
エージェンシーコストの発生
6
1
※ エージェンシーコストとは
エージェンシー関係において、エージェントがプリンシパルの
利益を犠牲にして自分の利益を追求しないようにさせるため
のコスト、あるいは結果として生じてしまった損失
外部投資家
区別できない
(例) モニタリングコスト(社外取締役や監査人への支払い)
モラルハザードによって生じる損失 など
企業におけるエージェンシー問題
・ 株主 (P)
VS
経営者(A)
浪費的支出
過度のリスク回避、責任回避 など
・ 債権者(P)
VS
ハイリスクな投資プロジェクトへの投資 など
7
(債務不履行の可能性を高める)
質の低い企業(L企業)
資金調達の際のエージェンシーコスト
相反
(債権者 VS 経営者、株主)
B/E
10章のMM理論を前提に企業価値との関係を
示すと?
V
(法人税のみ)
両方の合計
(総コスト)を
最小にする
(エージェンシーコストあり)
VU
0
9
・ シグナリング理論による説明
最適な資本構成はさらに変化する
最適資本構成
B/E
ベンチャーファイナンス
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10
・ シグナリング理論による説明
資本構成はシグナルとして有効に機能する
多くの負債調達
L企業
負債調達をあまりおこなわない
配当支払いはシグナルとして機能する
企業内部から外部投資家への情報伝達手段となる
区別できる
区別できる
H企業
(理由) 多くの負債調達にはコストがかかる
but L企業には高コストで負担できない
H企業
高額の配当支払い
L企業
支払えない
(理由) 配当の増配 → 将来の利益確保に対する
経営者の自信の表明
負債を利用しようとはしない
配当政策
負債の
エージェンシーコスト
(倒産コストあり)
ベンチャーファイナンス
04/1/10
11.5
8
株式の
エージェンシーコスト
倒産による債務不履行を防ぐためのコスト
負債比率の上昇 → エージェンシーコストの上昇
※ 負債の利用は株主にとってのエージェンシーコストを
低下させる
(理由) 経営者の持株比率の上昇
返済義務が経営者の浪費的支出を抑制
債権者からの監視
(例) 巨額の配当 巨額の負債調達など
総コスト
最小
(株主 VS 経営者)
経営者の行動を監視するコスト (株主負担)
負債比率の上昇 → エージェンシーコストの低下
※
負債のエージェンシーコスト
→ H企業にとっては損
どうするか?
(H企業の経営者)
多少のコストを負担しても、L企業にとっては
模倣できない(高コストのため)シグナルを送る
ベンチャーファイナンス
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エージェンシーコスト
情報の非対称性が資本構成にどのような影響を与えるか?
・ エージェンシー理論による説明
株式のエージェンシーコスト
情報優位
質の高い企業(H企業)
外部投資家は
それぞれの質に
みあった評価が可能
資本構成
11.4
企業内部者
企業についての
情報がわからない
両方を平均的な質で評価
株主(A)
有限責任のみ
ベンチャーファイナンス
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シグナリング理論
11.3
(9章参照)
・ エージェンシー理論による説明
L企業にはコストが高くて模倣
できない
配当支払いはエージェンシーコストを削減する
(理由) 配当の支払いは、経営者の浪費的支出を減らし、
株主にとって経営者への監視になる
ベンチャーファイナンス
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ベンチャーファイナンス
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