2007年AGS年次総会スペイン バルセロナで開催 - 東京大学 AGS推進室

第 6 号 2007 年 8 月 31日発行
東京大学 AGS 研究会
〒 113-8654
東京都文京区本郷 7-3-1 東京大学国際連携本部 AGS 推進室
TEL: 03-5841-1548 FAX: 03-5841-2303
Vol.6
2007年AGS年次総会スペイン バルセロナで開催
期間:2007年3月18日‒21日 場所:バルセロナ カタロニア工科大学
AGS (Alliance for Global Sustainability) はマサチュー
係者が約 25 名、AGS の研究プロジェクト関係の学生及び
セッツ工科大学 (MIT)、スイス連邦工科大学、チャルマーズ
AGS学生組織であるAGS UT Student Community の学生、
工科大学 ( スウェーデン ) 及び東京大学の 4 大学による、地
及び一般学部学生合わせて約 16 名、総勢 41 名が参加した。
球環境を維持しつつ人間活動の持続的発展をめざす国際研究
東京大学からは論文、ポスター合わせて 19 件の発表がなさ
共同体で、1996 年から今日まで協定を変更更新しつつ、現
れた。日本からは東京大学のほか AGS の助成企業および京大、
在第 3 期 (2006 年から 5 年間 ) に入り、精力的な活動を続
阪大、北大など IR3S ( サステイナビリティ学連携研究機構 )
けている 。
の参加大学から 8 名の参加を得た。18 日夕方にはレセプショ
この AGS の年次総会は毎年 1 回 3 月に行われている。昨
ンが行われ、本会議は 19 日からスタートした。
年は東京大学が当番校となり、タイのバンコクで開催した。
本会議に先立つ 3 月 18 日の午前には
“New thinking in
今年の年次総会はチャルマーズ工科大学が当番校となり、サ
urban futures”
と題したエグゼクティブフォーラムが開催さ
ステイナビリティの教育に関してチャルマーズ工科大学と協
れ、これからの都市のあり方について世界のトップクラスの
力関係にあるバルセロナ ( スペイン ) のカタロニア工科大学に
専門家による講演、パネルディスカッションおよびそれに対
て開催され、
“Pathways to our common future”
をテーマ
する議論が行われた ( 写真上 )。
として、環境に配慮しつつ、経済的にも社会的にも発展して
同じ 18 日、早朝から総長・学長あるいは副学長による経営
いく近未来を築いていくために私たちがこれから何をどうし
役員会 (AGB 会議 ) が開催され、会長の小宮山総長をはじめ
たらよいかが議論された。
参加大学の学長あるいは副学長が出席した。また、午後には
スペイン、スウェーデン、スイスなどの欧州、米国、日本を
コーディネータも参加して国際諮問役員会 (IAB 会議 ) が行わ
はじめとするアジア他から政府自治体・学界・産業界関係者、
れ、AGS の運営、支援する研究プロジェクトの状況、将来計
学生も含め総勢 220 名を超える参加者があった。
画について意見交換を行った。
東京大学からは小宮山総長はじめ、教官や職員など大学関
1
1
年次総会 第1日
の活動を重視しつつ、4 大学が協力して進めるフラッグシッ
3 月 19 日
ププロジェクトとして、2005 年から「エネルギー」
、2006
年から「食糧と水」を推進している。また将来の各分野でサ
第 1 日目の午前にはこの年次総会の主催校であるチャル
ステイナビリティを視野においたリーダーを育成するための
マーズ工科大学学長で、今年の AGB 会議の会長となった
教育にも重点を置いている。午後のオープンフォーラムは 2
Karin Markides 学長の開会の挨拶、会場となったカタロニ
日目も行われ、これら AGS の重点領域である「エネルギー」
、
ア工科大学の Antoni Giró Roca 学長 (Rector) の歓迎の挨
「食糧と水」
、
「教育」がテーマとされ、どの会場も満員の中で
拶につづき、5 件の基調講演があった。午後は 4 つの会場に
活発な議論が行われた。オープンフォーラムの後、夕方には
分かれてオープンフォーラムが行われた。
ポスターセッションが開催された。
第 3 期の AGS の活動は参加 4 大学がそれぞれの地域で
の二つのフラッグシッププログラムが実施されており、現在、
Opening speech
evolution of urban future が新たなプログラムとして考えら
Karin Markides,
President, Chalmers University of Technology
れている。
今回の会議は東大がホストをし、成功裏に開催されたバ
教育チームのアクティビティーとしては YES プログラム
ンコクの 会 議 の 次に開 催 され る、
「pathway to common
が AGS 初期の段階で実施されており ( 現在は ETHZ (ETH
future」をメインテーマとした会議である。今回は以前より
チューリッヒ ) の活動として AGS の活動からは離れている )、
協力があり、Sustainability に関して積極的な活動を行って
アジアでは東大を中心に IPoS という教育プログラムが実施
いるカタロニア工科大学と共同で開催している。今回は数多
されている。
くの口頭発表、ポスター発表、100 名を超える参加者が世界
2007 ∼ 2008 年、私は AGB の議長となるわけではある
各国から来ている。AGS では「エネルギー」と「食糧と水」
が、上記の活動を支援してゆきたい。
2
ベルの取り組みを行っている。この 5 分野の活動は教育プロ
Welcome speech
グラムの一環として実施されており、今回の AGS 年次総会も
Antoni Giró Roca, Rector, Technical University of
Catalonia
様々な省エネルギー、省資源の観点からその運営方針を定め
UPC は 2015 年を当面の目標としたサステイナビリティに
ている。このような活動は学内に設置されている Center for
関する様々なプログラムを展開しているところである。それ
Sustainability が中核となり、5 分野の活動推進、相互調整、
らの活動は 1) 建設とエネルギー、2) 水、3) 社会責任、4) 土
学生との連携、また、今回のような学外ネットワークとの連
地利用、5) 材料に分けられてそれぞれ責任者を定めて全学レ
携を担当している。
1) Keynote speeches
“Global energy scenarios meeting low
atmospheric CO2 concentration targets”
“One Planet Budgeting with the Ecological
Footprint: Building an Empirical Base for
Sustainable Development”
Christian Azar,
Researcher and advisor to the Swedish government
on climate affairs
Mathis Wackernagel,
Founder and Executive Director of Global Footprint
Network
Christian Azar は、アムステルダムが雪のため空港が閉鎖
されたとのことで、到着が遅れ、コーヒーブレイクの後の発
ワッケルナゲル博士は「One planet Economy: An Em-
表となった。彼は、タイトルを「Global energy scenarios
pirical Baseline for SD」というタイトルで講演を行った。
meeting low atmospheric CO2 concentration target」
同博士は Global Footprint Network に籍を置く研究 者で
から
「Changing Tide」
と変え、
温暖化対策としてのエネルギー
あ る。Ecological foot print と sustainability index の 国
問題を議論した。Azar and Rodhe という論文を引用してい
別、地域別の違いを紹介しアメリカなどが非常に大きな環
たので、出身は、ストックホルム大学の大気化学かもしれない。
境影響があると分析している。また、日常的な行動に関す
温暖化対策として、省エネ、ライフスタイルの変化、天然ガス、
る ecological footprint の定量的な値を示し、どのような
再生エネルギー、原子力、炭素貯留などの話をした。印象的
行為が地球的な環境に影響が高いかを例示した。どのように
であったのは、原子力についてかなり多くの時間を割き、イラ
Ecological footprint が sustainability の 評 価 と し て 役 立
ンの例を引きながら、現在の原子力をめぐる条約が、核を持っ
つかの説明を行い、そのプロモーションに関する紹介を行っ
ている国と持っていない国にとって異なる基準をとっている
た。また、Global Footprint Network の活動も紹介し、特
こと、そして、原子力の平和利用と核兵器の製造に関する区
に ecological Footprint の世界的な規格化が必要であると
別がつかないことなどをあげ、否定的であった。また、バイ
説いた。
オ燃料に関しては、スウェーデンでは、炭素税の導入によっ
てバイオ燃料の導入が進んだこと、とくに、地域暖房に関し
て石油の寄与が低いことが印象的であった。また、アジアで
のヤシ油のプランテーションの急激な増加に危惧を示してい
た。また、炭素貯留に関して、バイオ燃料の炭素貯留を行う
ことで、マイナスの排出量になる、という提案は、意表を突
かれた感じがする。石炭などの炭素隔離・貯留をするのなら、
バイオ燃料などからの炭素隔離・貯留もありうるわけで考え
るべき問題と感じた。そのほか、炭素税のかけ方に関しても
さまざまな問題があることを指摘していた。しかしながら、こ
のような話は、総論が多く、具体的にどうか ? という点では
明快な意見は聞かれなかったように思う。結局、いろいろな
思惑の中で Sustainnability が語られていることの証拠と思
われる。
“Sustainability pathways from the perspective
of Catalonia”
Frederic Ximeno,
General Director for Environmental Policies and
Sustainability in the Government of Catalonia
3
Frederic Ximento が、
「Sustainability pathways from
数などの増加が理解出来る以上の速度で起こっている。例え
the perspective of Catalonia」と題して、カタロニア政
ば、
炭酸ガスはこのまま行くと2020 年には 430ppmに達し、
府の立場からサステイナビリティに関して講演を行った。
2050 年にはどこまで増加するかと心配される。
カタロニアという言葉が何回も出てきて、
「スペインはどこに
2.「持続可能な発展」とは ?
行った ?」と少し異様な感じがしたが、相当に、地域に関す
Sustainability という言葉はもともと水産、森林運営、軍、
る自信があるのであろう。講演の中では、いろいろな言葉が
企業の財務分析のような分野で使われていた科学的 / 技術
飛び交っていたが、なぜか、抽象的な言葉が多く、具体性は
的な概念であった。そして「持続可能な発展 (Sustainable
なかったような印象である。温暖化対応に関しても、事務局
Development)」 に つ い て は Brundtland Commission が
を作る、部局連合の委員会を作る、憲章を設定する、と述べ
1987 年に「持続可能な発展とは、将来の世代の欲求を充た
ていて、
「役所仕事はどこでも同じだな」という印象をもっ
しつつ、現在の世代の欲求を満足させるような発展である」
た。もっとも、このような批判は、我々にも向けられるわけで、
という有名な定義を示した。
Sustainability に関する問題は、具体性に欠けるところで
現在では Sustainability は組織運営や報告の指針となる骨
あろう。
組みや将来に対するビジョンなど多岐にわたって使われるよ
うになった。
自然の限界に抗して継続して指数関数的な成長を志向する
“Lighthouses of Hope: Where is Sustainable
Development happening at Scale?”
危険性を最初にローマクラブが警鐘した。当時は主に経済学
者を中心に激しい攻撃を受けたが、30 年以上を経た今残念
Alan AtKisson,
Executive Director of Earth Charter International
ながらローマクラブの警鐘が正しかったことが証明されてし
まった。
指数関数的な発展は行過ぎて崩壊するか、ダイナミックな
平衡状態に達するかである。
そこで人々は「持続可能な発展」を念頭において多種多様
な活動を行っている。
AtKisson 氏は出来るだけ単純化して、Sustainability とは
「永久に継続可能な所定のシステムのなかでの条件、傾向とダ
イナミックスのセット」し、
持続可能な発展は「Sustainability
の方向で継続的な革新システムの変更の方向性を持ったプロ
セス」と定義した。
3. 持続可能な発展のための鍵
1)「持続可能な発展」には倫理観が基本にあると強調した。
・科学技術は「持続可能な発展」の理解と実践の手段を提
供する。
・政策と経済は実際のスケールでの変更の推進を奨励する
引き金となる。
・しかし、規範と価値観という倫理的なコミットメントがな
いと何も起こらない。
・倫理観と価値観は具体的な解決策のためのデザインクラ
イテリアと責任メカニズムを構成する。
持続可能な発展 (Sustainable Development) の実践につ
例として、インターネットのデザインをあげて、もし解放性
いては、AtKisson 氏は指標作成、システムや政策作成、トレー
や相互シェアー、参加などの価値観の代わりに管理されたア
ニングプログラム、政府や企業の戦略プラン、書物、音楽な
クセス、個人の所有権、専門家の意見というような価値観で
ど色々な活動を通じて係わってきた。
推進されていたならと考えて見れば良いと説いた。
その結果キーとなる学問として学んだことは、科学、分析、
その後で、The Earth Charter の紹介をした。The Earth
技術、政策論、経済学などなどであるが、それだけでは十分
Charter Initiative について、1987 年の Brundtland Com-
ではないと考えている。
mission を出発点として 1994 年から 3 段階で現在に至る
1. 世界の情勢について
活動を紹介した。核心となる価値観は自然に対する敬意、普
世界規模での変化が、人口、水の消費、炭酸ガス、車の台
遍的な人権、経済的な公平さと平和の文化であり、核心とな
4
る原則は「地球と生命をその全ての多様性において敬意を払
排出物削減に挑戦し、持続可能なセメント製造を目指してい
う」ということなど 16 件ある。
るかを紹介した。
4.「灯台」と「航路標識」の探索
製造プロセス、製品化、廃棄プロセス各々で排出物が発生
The Earth Charter の「灯台イニシアティブ」は大スケー
する。
ルで持続可能で平和的な発展を例示で説明するもので、
「航
一方でセメント需要は今後の消費拡大が見込めるため大き
路標識イニシアティブ」は小スケールで強力、インスピレー
くなると予想している。
ションに富んだそして真に平和的な例示を紹介するものであ
セメント製造上のインパクト
る。具体的な例として、
「灯台」ではアラル海湖水の過剰使
・セメント製造時に副産物の無機物類が 2.15 トン
用による湖の消滅危機から北部部分の回復状況、ボリビアの
・消費エネルギーが 10.8GJ
Eforestal “Bolfor”
(
) で計画的な森林保全と伐採による地域
・炭酸ガス発生量が 188,800 万トン
住民の収入増につながる木材輸出振興策、アフガニスタンの
WBCSD(the World Business Council for Sustain-
地雷撤去と農業活性化支援などがある。一方「航路標識」では、
able Development; 持続可能な開発のための世界経済人
英国の慈善基金の支援によるインドの Energy Tree Project
会議)はセメント工業の持続可能な開発を支援した。
では村レベルでの廃棄物の削減、風力タービン購入設置など
具体的な施策
を紹介した。
・クリンカーで製造して粉砕時にリサイクルした無機物類
を混合してセメントにする。
“Pathways to a sustainable cement industry
— dealing with waste”
・廃棄物管理でリサイクル推進
Manuel Soriano Baeza,
Sustainable Development Manager, Holcim España
徹底的な取り組みで競争力もある持続可能なセメント製造
・Re-use、リサイクル、エネルギー回収を徹底した
の効率化を達成し、Holcim Espania は欧州におけるセメン
スペインのセメント企業“Holcim Espania”が如何にして
ト企業のリーダーの一つである。
車の計画出力と実出力をリアルタイムに示す WEB サイトが
2) Open Forum 1
紹介され、風車の系統との連系がヨーロッパにおいてさらに
1A Energy — technologies and systems
オープン・フォーラム 1 として開催された「エネルギー技
進んでいることを印象付けた。
術とシステム」は、カタルーニャ工科大学・Balas 博士の司
持続社会を構築可能とする技術を議論するとき、必ずしも
会のもとに 8 件の論文が発表され、満室状態のおよそ 30 人
従来型の要素技術に基づいた深い専門的な議論を行うことが
の熱心な聴講者のなかで進行した。チャルマーズ工科大学か
重要とは限らず、さまざまな新しい技術やシステムの紹介を
らの論文は 5 件で、バイオ燃料を中心に据え、さまざまな規
行い、異なった分野における科学技術の新しい話題と問題解
模の電力系統におけるそれらの役割を発表した。カタルーニャ
決方法について学ぶことが重要であることを示すフォーラム
工科大学からは 2 件の講演が行われ、マイクログリッドを中
であった。残念だったのは、並行してバイオマスの発表が別
心とした再生可能エネルギーの話題が中心であった。特筆す
室で行われ聴講できなかったこと、そして小さな部屋であっ
べきは、チャルマーズ工科大学は、北欧における発電システ
たこともあり希望者全員が入室できなかったことである。次
ムにおいて、1990 年基準に対して 2020 年 20%、2050
回はエネルギー技術については大きな部屋で開催され、可能
年 60% の炭酸ガス排出削減を前提に、再生可能エネルギー
なかぎりパラレルではない形態で、多くのメンバーと議論で
の導入を明確に謳い、それを実現可能にする大きな技術とし
きることを望む次第である。
てバイオ燃料のさまざまな要素技術の開発を行い、キャンパ
ス内において、その実践を試みていることであった。天然ガ
1B Energy — policies for changing course
スとバイオ燃料との混合や、燃料電池を用いたプラグインの
オ ー プ ン フ ォ ー ラ ム 1B で は、
「policies for changing
ハイブリッド自動車などのアイデアも披露された。
course」をテーマに、TU Delft、Chalmers、UPC (3 名 ),
東大からは、再生可能エネルギーの代表として、風車の新
MIT、NCE Iran、US DOE、東京大学、JR 東海から、10 件
技術とアジアへの展開が紹介された。ヨーロッパを中心とし
の論文発表が行われた。
て開発されてきているが、日本を含むアジアの気象条件など
発表の殆どは、建築物の省エネを対象に、エネルギー削減
に配慮したデザインの必要性、そして洋上風車への発展が急
量のモニタリング、大学における教育などの取り組み、情報
務であることが訴えられた。系統連系の問題解決策として、
システムの必要性、あるいは基準の重要性などについての考
気象シミュレーションを用いた出力予測システムを紹介した
えを述べたものが大半を占めた。JR 東海からは、東海道新幹
のに対して、カタルーニャ工科大学からスペインにおける風
線の CO2 排出実績の報告がなされ、航空機などとのより効果
5
的な交通手段の組み合わせの重要性の議論が行われた。
すものであるが、LCA による環境影響の総合的な評価、コス
上記以外の発表では、US DOE の Audrey Lee 氏による発
トの評価のように数量的に客観的な評価を目指すものと、食
表が興味深い。これは、石油価格変動を考慮した場合の、エ
糧生産との競合のような社会的な側面に焦点を当てるものが
タノールなどに対する税優遇措置の財政への影響を議論した
あり、より具体的な問題点に関心が移ってきていることがわ
ものである。発表では、
税優遇措置の価値評価の試算が示され、
かる。エネルギー源としてのバイオマス利用は、わが国にとっ
エタノール燃料開発の是非に関する議論が行われた。本学か
ても重要な課題であり、検討の具体化が進んでいる。この問
らは、新領域創成科学研究科の湊隆幸准教授が発表を行った。
題はハイテク技術と従来型の技術の適用の可能性があり、ま
内容は、ポスト京都議定書に関して、製品やサービスの消費
た先進国と発展途上国の双方において適用が可能である。し
によるCO2 削減評価を提案したものである。
ハイブリッドカー
かし、それぞれのケースで問題になる事項は異なると考えら
の削減量を事例として示しながら、将来的な政策として事業
れる。技術の分野でも微生物の分野から化学工学的な分野、
ベース (CDM など ) に加えて、市場を通じた民間技術の評価
より具体的な面から学際的な協力が必要であることが痛感さ
を行うことの潜在性が議論された。
れた。次回の来年の AGS の年次大会の時には、もっと現実
的な議論がこのバイオマス利用を巡ってなされるであろう。
1D Food and water aspects of water systems
オープンフォーラム 1D では、水システムに関する発表が
行われ、空間スケールはグローバルな水収支からローカルな
水管理の問題まで、アプローチも現状分析から問題解決手段
の提案、共同研究プロジェクトの紹介まで、実に多種多様な
発表が行われた。こじんまりした会場で、講演者と聴衆の距
離も近く、コーヒーブレイクの時間も割いて非常に活発な議
論が行われた。
東京大学生産技術研究所の沖大幹氏は再生水資源と水需要
1C Energy — biomass and biorefineries
オープンフォーラム 1C「エネルギーとバイオ精製」は
の将来予測を取り上げ、スウェーデンのチャルマーズ大学の
Magdalena Svanstrom の司会の元に行われた。ここでは、
Thomas Pettersson 氏は経済学的な観点から水危機へのリ
とりわけ将来のエネルギーにとって重要で現在世界的に注目
スク管理について話された。両氏とも持続可能な水供給は食
されているバイオマスについての活発な議論が行われた。バ
糧生産やエネルギー問題を絡めたシナリオ提言やさまざまな
イオマスには大きいポテンシャルがあるというおおざっぱな
分野の技術者・研究者の連携の必要性を強調している点で共
報告が少数なされていた 1、2 年前の段階から、はるかに現
通していた。また、両氏の提案以外にもどのような要素や分
実的な段階にバイオマス利用が進んできたということが今回
野が関わってくるかについて聴衆を交えた議論がなされた。
フォーラムのテーマに取り上げられた背景にある。
チャルマーズ大学の Greg Morrison 氏と南アフリカ共和国
取り上げられたテーマには、メタン発酵 ( バイオガス生産 )
のベンダ大学の O.S.Fatoki 氏の発表はアフリカ大陸における
などの従来から存在する技術の適用、
“Biorefinery ( バイオ
調査研究に基づいたものであった。Morrison 氏は水供給シ
精製 )”
という言葉から示されるように、新しい技術を使って
ステムの供給者と利用者の意識のギャップについて、Fatoki
バイオマスを燃料化する技術、またバイオマス利用がもたら
氏は都市の水システムの SDI (Sustainable Development
す農業への影響やライフサイクルアセスメント (LCA) などで
Index; 持続可能な発展指標 ) に関して発表された。東京大学
あった。
TIGS の福士謙介氏は砒素のリスクと世界の砒素サイクルを
具体的なテーマのうちのいくつかを示すと以下の通りで
中心に話され、同じく東京大学 TIGS の本多了氏は農村の発
あった。
展に伴う土地利用変化と水汚染との関連について話された。
①南インドの農業生態地域の植林事業の問題、②ベトナム
開発途上国における水問題といってもスケールも視点もさま
における稲のもみがらの熱源としての利用、③バイオガスへ
ざまの問題があり、それらが複雑に連関している場合が多い。
の転換による有機物利用、など従来の技術を用いたものにつ
したがって、対策も一つの解があるわけではなく地域特性に
いての議論が行われ、さらに超臨界水酸化による分解の活用
影響されやすいこともその対処が困難である理由であると感
などによって、リグニンなどの難分解性物質のように従来資
じた。
源化できなかったバイオマスのバイオ精製の可能性について
スペインのカタロニア工科大学の Esther Llorens 氏は自
議論が行われた。
然の自浄作用を生かした廃水処理の提案、Oscar Alfranca
これらの議論の内容は、もちろんバイオマスの可能性を示
氏はぶどう園灌漑における廃水再利用の技術的・経済的側面
6
か ら の モ デ ル 解 析、KIWA の Theo van den Hoven 氏 は
が必要であるという意識の共有である。実にさまざまな研究
EU の資金供出による大規模な水供給共同研究プロジェクト
者がさまざまな視点から地球の水の持続可能性についての研
TECHNEAU の紹介を行った。
究を行っているが、それぞれの参加者が、自分とは全く別の視
フォーラム全体を通して強く感じたことは、参加者がみな、
点の研究になにかしらの関連性を見出しているように思えた。
現在・将来の水問題に対処するためには分野を問わない協力
3) Poster Session
て今回は地元スペインからの発表も見られた。セッション後、
AGS 年次総会では公募による発表の機会としてポスター
国際審査パネル 6 人による最優秀ポスター選考会が行われ、
セッションを設けている。とくに AGS に関わって研究や活動
一般参加者の投票と審査員の投票を総合して最優秀ポスター
を行っている若い研究者や学生に発表と交流の場を作るとい
賞を決定した。最優秀ポスター賞のための表彰式は総会最終
うのがポスターセッションの大きな役割と位置づけられてい
日の全体セッションの中で行われ、下記の 4 編が表彰された。
る。今年も、公募により集まった 35 編のポスターを一同に
スペインからの 1 編を除き、EPFL-Chalmers-MIT の共同研
展示して、会議初日の 17:30 ∼ 18:30 にポスターセッショ
究の成果が 1 編、UT-Chalmers の協力の成果が 2 編という
ンが行われた。夕方から夜にかけての時間に、軽食とワイン
受賞結果であり、AGS と言う枠組みにより国際的な研究協力
などの飲み物を片手にポスターを見て回るというのはこの
が進みつつあることが明確に示されていた。
AGS 年次総会の恒例である。UT、MIT、Chalmers に加え
< 最優秀ポスター賞 >
1) SOCIAL PERCEPTION OF A RESEARCH CENTRE ON CLEAN COAL COMBUSTION: THE IMPORTANCE
OF THE LOCAL CONTEXT
Solá, R., Prades, A., Gamero, N., Sala, R., Oltra, C. CIEMAT, Barcelona, Spain.
2) HIGH YIELD METHANE GENERATION FROM WET BIOMASS AND WASTE
J.S. Luterbacher , M. Fröling , F. Maréchal , F. Vogel , J. W. Tester
*
†
*
††
†††
* EPFL, Lausanne, Switzerland, † Chalmers University of Technology, Göteborg, Sweden,
†† Paul Scherrer Institut, Villigen, Switzerland,
††† MIT, Cambridge, Massachusetts, USA.
3) A Novel Biological Treatment Process for Sustainable Groundwater Management in Agricultural Areas
Oskar Modin , Kensuke Fukushi , Kazuo Yamamoto
*
†
††
* Department of Urban Engineering, The University of Tokyo,
† Integrated Research System for Sustainability Science (IR3S), The University of Tokyo,
†† Environmental Science Center, The University of Tokyo.
4) TEACHERS PERCEPTION OF SUSTAINABLE DEVELOPMENT: A STUDY OF ENGINEERING COURSES
Akiko Sasaki , Greg Morrison
*
†
* The University of Tokyo, Japan,
†Chalmers University of Technology, Göteborg, Sweden.
7
2
年次総会 第2日
“The role of education for pathways to
sustainability; examples from the Nissan
Science Foundation”
3 月 20 日
阿部 榮一 ( 財 ) 日産科学振興財団 常務理事
2 日目午前には 2 件の基調講演があり、午前の後半、午後
はオープンフォーラムが開催された。
日産科学振興財団 (NSF) で今年から始めた 2 つのサステイ
ナビリティ教育プログラムの話をされた。
1) Keynote speeches
Nissan Workshop in IPoS 2006 は
“Cars and Trans-
“What path can bring humanity peacefully
back down below the limits to growth?”
portation in 2050”
をテーマとし、急激な経済発展をしてい
る東南アジアで大きな問題となっている交通問題、その持続
Dennis L. Meadows, Author of Limits to growth
性について参加した学生に議論をしてもらうことを目的とし
て行われた。アジアを中心とした大学院生 20 人が参加し、
講演者のメドー氏は、1972 年 MIT の助教授時代にロー
マクラブから委嘱されて研究成果をとりまとめ、
「成長の限
講義や水素製造・燃料電池の見学・実習を行うとともに、ケー
界」を著した。加速度的な工業化、資源の枯渇、環境の悪化、
ススタディとして実際に古都鎌倉を歩き、鎌倉の将来の市民
急速な人口増加などを 100 年先まで分析し、このまま進行
生活、交通、エネルギー問題を議論した。参加者はアジアと
すれば 100 年以内に地球上の成長は限界点に達するという
グローバルな持続的発展についての多様性と複雑性を発見し、
ものであった。
参加者間の連帯を肌で感じた。
今回の講演の冒頭で、34 年経ってもその結論には変わり
一方、Nissan Leadership Program for Innovative En-
がないものの、状況は変り、資源とエネルギーの消費は持
gineers (LPIE Projects) は 企 業、大 学からの 若 手が 参 加
続可能なレベルをすでに超えてしまっていることを述べた。
し、ヒューマニティと持続的発展を両立させて社会の多様
1972 年にはスローダウンすればよかったが、現時点では持
なニーズに応えるための創造力を育てることを目的として
続可能なレベル以下に戻さなくてはならなくなっていること
いる。例として、東大の鎗目先生が中心となって進めている
を人口、工業生産量、金属利用量、炭酸ガス濃度などの具体
Sustainable Shrimp Farming in Vietnam を上げ、生産国
的データを上げて示した。これらを戻すための技術の果たす
での環境を保持して消費者に安全な食料を供給するため、特
役割の限界も述べ、目先の効果に惑わされずに長期的視点で
別価格の設定や技術・知識面でのバックアップを含め具体的
捉え、エネルギー消費量を抑えても満足感が得られるような
な方策がこのプログラムの中で提案された。
文化・生活様式への転換、ルールの変更が必要であることを、
聴いている人を巻き込む演出も交えてアトラクティブに強調
した。
8
Chalmers 工科大において実施している、学部生対象の 5
2) Open Forum 2
週間におよぶ必修 ESD 科目とそれをサポートする仕組み
2A Energy — policies and pathways
本フォーラムでは、前日午後に行われたエネルギーに関す
づくりについて紹介し、必修 ESD 科目に必要な内容を「概
る 3 つのセッションで行われた議論の概要について Simon
念」
、
「問題の原因と解決法」
、
「専門家の役割」の 3 つに分
Harvey (Chalmers, facilitator) から報告が行われた後、6
けて整理した。
件の講演と質疑が行われた。
A. Graham 氏 (MIT)
Daniel Favrat (EPFL) からは、エネルギー供給に関するさ
世界の様々な地域で蓄積されつつあるサステイナビリティ
まざまな技術・システムの統合評価と、Tokyo Half Project
教育に関する知見の交換・共有を目的として、ヨーロッパ、
で利用された統合評価の基盤となるモデルの統合システムの
北米、アジアなどからサステイナイビリティ教育関係者を
重要性について紹介された。Jan Kjarstad (Chalmers) から
幅広く招いて開催した国際ワーキングセッション“Going
は EU の Energy efficiency action plan の概要が紹介され、
Global”について紹介した。参加者の経験をクラスタリン
化石エネルギーから再生エネルギーへの転換に関してそのタ
グして、9 つのトピックにまとめることができたので、第
イムフレームなどが議論された。また、交通分野でのエネル
二回セッションでトピックごとに分科会をつくってさらに
ギー転換の方向性などについてフロアとの議論が行われた。
議論を深めることが報告された。
Alexander Kusko (Exponent Inc.) からは持続可能なエネル
C. Paten 氏 (Griffith 大 )
ギー源を考えるうえで消費者からの視点の重要性が指摘され、
サステイナビリティ教育のツールとして開発した
特に代替エネルギー源を利用した場合の電力の質や安定性に
Engineering Sustainable Solutions Program と、SD
ついての配慮が必要であることが述べられた。Ali Ahmadian
に関する研究・教育に貢献することを目的としてかつ同意
(Chalmers) からはイランにおけるエネルギー供給に関する社
している Natural Edge Project を紹介した。
会・制度面での課題、再生エネルギーのポテンシャルが紹介
M. Onuki 氏 (UT)
された。Daniel Garcia (UPC) からは、
“Equity”
をどのように
サステイナビリティに関するサマーワークショップ YES、
定義し、異なる国々の間で GHG 排出負荷をどのように割り
IPoS に続く、AGS 教育チームの新しい取り組みとして始
当てていくかについて 5 つの考え方が提案された。Stephen
まった Teaching Energy and Climate (TEC) プロジェ
Connors (MIT) からは環境に優しく信頼性の高いエネルギー
クトを紹介した。TEC プロジェクトは、AGS 各大学ごと
サービスを確立するために、利用側での効率改善、エネルギー
に異なる対象に対して、エネルギーと気候変動に関する 1
源の分散、エネルギー供給ネットワークの改善、の 3 項目が
週間程度の短期集中教育プログラムを実施するというもの
重要であるとの意見が述べられた。さらに、風力や太陽光な
で、すでに第一回を開催した MIT と東大のプログラムが報
どの再生エネルギーの利用における需要供給の時間的な変動
告された。
について議論され、供給側と利用側をいかに効率的につなぐ
J. Roset 氏 (UPC)
必要があるかについて紹介された。
サステイナビリティ教育で重要なのは、情報が少なくとも
これらの講演に引き続いて、Magdalena Svanstrom の
高校レベル以上の全ての人に行き渡ることだと指摘し、結
モデレートのもとに総 合討論が 行われた。特に Stephen
果の可視化やメッセージをグラフィカルにわかりやすく伝
Connors が述べた 3 項目を中心にどのような Pathway が考
えることの重要性を指摘した。
えられるかについてさまざまな議論がされた。なお、フォー
以上の事例紹介を踏まえ、サステイナビリティ教育で重視
ラム全体を通じて、会場の座席数を大幅に超える 50 名強の
すべきことについて議論が行われ、高等教育やエンジニア
聴衆が参加して活発な議論が行われた。
教育におけるサステイナビリティ教育でとりいれるべきコン
ポーネントは揃いつつあることが認識された。しかし、一般
市民への人文科学的教育や、政策立案者への教育まで考えて
2B Education—advances in support of the
pathways approach
いくべきことも指摘された。また、説教型ではなくて体験型・
オープンフォーラム 2B-Education-advances in support
学び型の教育の重要性や、多様性への理解・尊重と多様性の
of the pathways approachでは、
各地のサステイナビリティ
中でのコミュニケーション法の重要性が認識された。
教育の取り組みやが報告された。
J. Segalas 氏 (UPC)
ヨーロッパにおいて SD 教育を取り入れている 19 の工科
2C Food and water—aspects of food systems,
policy and pathways
大に対してインタビューを行い、SD 教育の教育方針とし
アジア工科大学の Athapol Noomhorm and Dr. Peeyush
て重要な点を抽出した。
Soni は、
“What Sustainability Means for Food Export
M. Svansrom 氏 (Chalmers 工科大 )
and Agricultural Value Addition?”
と題した発表を行った。
9
その中で、アスパラガスの生産を例に取って、畑における栽培・
3) Open Forum 3
収穫から流通までの過程を詳細に検証しながら、食料生産に
3B Food and water
おける持続可能性の意味を議論した。チャルマーズ工科大学
「水と食料」の 3 回目のセッションでは、実践的な問題への
の G. Olivieri, P. Neri, F. Bandini, and A. Romani は、
“Life
取り組み (outreach) やモデルに関する 5 題の発表があり ( 司
Cycle Assessment of Tuscany Olive Oil Production”
会 Sebastien Rauch 氏 ( チャルマーズ工科大学 ))、複数の
を発表し、イタリアのトスカーナ地方におけるオリーブ・オ
発表者が、ステークホールダー ( 利害関係者 ) 間の建設的な
イル生産のライフ・サイクル・アセスメントを行った結果を
対話の実現が課題であることを指摘した。また総合討論 ( 司
報告した。その結果からは、電力の大量使用が環境へダメー
会 Amanda Graham 氏 ( マサチューセッツ工科大学 )) では、
ジを与えていることが判明した。同じくチャルマーズ工科大
「情報の共有」
、
「科学とステークホールダー間の対話のバラン
学 の Nicolas Copin and Laurier Poissant は、
“Atrazine
ス」
、
「( 技術を支え政策立案者の助けになる ) 制度の重要性」
Dispersion Modelling Yamaska Watershed (Canada,
などのキーワードが出された。
「教育」に関して、倫理的な面
Quebec)”の発表を行った。ChemCAN 6.0 というモデル
を工学教育にどのように反映させるか、という問題意識が指
を使い、化学的性質、地理的データ、排出データを考慮して、
摘されていたが、この点は十分には議論できなかった。
アトラジンの分散を検証した結果を報告した。ロンドン大学
Sverker Molander 氏と Sebastien Rauch 氏 ( チャルマー
の Kolade Oluwaseun O. は、
“Composting and Organic
ズ工科大学 ) は、水と食料の供給と需要に関する包括的なモ
Farming for Aldeney”
と題した発表を行った。その中で、コ
デルを紹介し、生産者、消費者、政府、人口の増加と経済成
ンポスティングは離れたコミュニティーにとって特に適して
長、農業と生態系サービスの関係を提示し、
“pathway”
戦略を
おり、その実行のためには法律や政策的な整備が必要である
発展させる展望について述べた。
との報告がされた。東京大学の鴨下顕彦は、
“Reflection on
Michael Moore 氏 (Stockholm International Water
Food and Water So That Future Generation Can Make
Institute) は、700 名もの専門家を含む国際水管理研究所と
Decisions̶A Perspective of Agronomy Science on
の合同プロジェクトの紹介の中で、集約的な生産のみに傾斜
Rice Example”という発表を行った。その中で、科学の役
してきた近代農業管理を見直し、総合的な生態系サービスを
割として、システム科学、実験科学、地域科学を挙げ、将来
向上させる農業政策を提案し、環境のフロー評価と社会科学
世代と地域社会に対する責任に関する教育の重要性を指摘
を含む評価の必要性を述べた。
した。東 京 大 学 の 鎗目雅は、
“Securing Food Safety and
参加者からは、代替的農業を提言する際に、歴史的に農業
Environmental Protection: A Proposal for Sustainable
近代化を推進してきた生産部局の専門家を十分に含めるべき
Shrimp Farming in Vietnam”
と題した発表を行った。ベト
ことが指摘された。また、タイで王室プロジェクトとして貧
ナムにおけるエビ養殖の持続不可能な状況に関して、その問
困解消と経済発展のために推進されてきた複合農業の考え方
題点として多数の零細農家に対して短期的な収入へのインセ
(New Theory) が類似概念として紹介された。また、途上国
ンティブが働いていることが分析結果として上げられ、持続
の農村の「貧困層」に生態系サービスを教育するためには、
可能なエビ養殖の実現へ向けて、ある程度の地域を対象とす
「 貧困層 」 をきめ細かく定義して、現場に即した対応が必要で
る技術的及び組織的なエリア・マネジメント、現地の環境保
あると指摘された。
全や食品安全に関わる情報コモンズ、及び日本における拡大
Martin Sjöstdet 氏 ( イ ェ ー テ ボ リ 大 学 ; Göteborg
消費者責任の重要性を指摘した。全体として、基本的なデー
University) は、数少ない社会政治学分野の参加者として、水
タの収集・分析に関する科学的なアプローチが重視されると
と食料をバランスよく供給するための社会制度の整備の重要
ともに、生産・流通・消費に関わる様々なステーク・ホールダー
性を説明した。ちなみに、スウェーデンなど北欧諸国は、ア
の間における対話・合意を促すための、情報共有・制度設計
フリカ諸国への援助を重視しており、Sjöstdet 氏は、途上国
の重要性が指摘された。
での社会的公正や機会の均等の実現のために、経済学から政
治学に転向した。
Anna Jöborn 氏 (IVL スウェーデン環境研究所 ) は、水プ
ロジェクトでは、対象地域の水管理の歴史の認識や初期の段
階からの政策立案者のプロジェクトへの関与の重要性などを
述べたが、
創造的な対話が容易ではないことも正直に述懐した。
10
第 2 日目の夕方には港にあるスペイン料理レストランで
パーティが行われた。今回の年次総会ではできるだけ温暖化
ガスの放出を少なくするために初めに参加者全員に公共乗物
の 10 回分のフリーチケットが配られた。ホテルからは皆その
チケットを使って地下鉄で会場まで行った。このパーティの
中で長年 AGS の発展に貢献され、この 3 月に定年退職とな
る東京大学 AGS 推進室の浅尾さんにチャルマーズ工科大学
の Karin Markides 学長から記念品が贈呈された。
3
年次総会 第3日
べきである。
3 月 21 日
今 後 Research、Education、 そし て Outreach 全 て を
バランスよく展開させていかなければならない。これまで
Research が 主 で あ り、Education、Outreach が 十 分 で
第 3 日にはパネルディスカッションが行われ、コーヒーブ
はなかった。AGS 参加大学の役割は、複雑化する問題解決
レイクの後にベストポスター賞の発表、表彰式があった。
の道筋を提示することであり、産官と協力し、REO を駆使
(ベストポスター賞は 1 日目のポスターセッションの項に
し、サステイナビリティのために、社会を新しい pathway
記載されています。
)
へ移行させてゆくことではないか。そのためには従来の
Research だけでなく、Education、Outreach を強化して
Pathways panel presentation and discussion
いかなくてはならない。
ディスカッションパートでは、これまでのセッション別に
討論された内容が発表された。討論の要旨は以下の通り。
「Food and Water」の分野におけるサステイナビリティ
を目指すための課題は、
「エネルギーとの関係」
、
「文化の多
様性」
、
「廃水再利用」
、
「発展の指標や理解」
、
「教育」等、多
岐にわたる。そのためそれらを解決するための (pathway)
も一つではない。Pathway を見出すには①現状とあるべき
姿を認識する、②科学的技術的に検討する、③対話、と大き
く 3 つの方法がある。いずれの方法でも、課題解決のための
施策はプラクティカルでなくてはならない。
エネルギー分野の課題は「技術とシステム」
「制度による
生活の変化」
「バイオマス」に分けて討議された。課題は、
エネルギーサービスの効率的な活用促進のための理解やシス
テム、エネルギーシステムの多様性、社会基盤の近代化、行
動や生活様式の変化、情報の共有化にある。強力かつ倫理的
な政策、問題解決型で創造的、かつ発展途上国や社会に受容
される研究が必要である。そのために AGS の研究が更に学
際的であるべきであり、AGS が社会とのコミュニケーション
を深め、AGS の研究成果が社会に明確に認められることが
望ましい。
年次総会の最後に、来年の年次総会の主催校 MIT から、
サステイナビリティには教育が無くてはならない。教育方
法は従来の講義主体ではなく、プロジェクトベース、集中コー
来年の年次総会はボストンで 1 月に開催するとの発表があり
スなど、活動的形態で、かつ、社会学、倫理、多様性といっ
閉会となった。3 月は東京大学の卒業式の時期と重なること、
た分野も包含された内容でなければならない。地域のサステ
日本の企業にとって決算期であることを配慮してもらい来年
イナビリティ教育のシステムが必要であり、そのためには産
は 1 月開催となった。
業界、ビジネススクール、政策提言者との関係を築いていく
11
AGS 年次総会 2007 における学生コミュニティーの活動
東京大学 AGS 学生コミュニティ (AGS-UTSC)
2007 年 3 月にバルセロナで開催された年次総会に、東京大学 AGS 学生コミュニティー (AGS the University of
Tokyo Student Community 以下 AGS-UTSC) より 8 名が参加した。
AGS-UTSC は、サステナビリティに関する国際会議・学会へのメンバー派遣や、海外の大学の学生コミュニティーと
の交流を通して、学生としての種々の国際的な活動を行っており、年次総会への参加は、その中心的な活動の一つである。
毎年 10 名程度の学生が参加している。
本年は、学部 4 名・修士 2 名・博士 2 名 ( うち留学生 3 名 )、機械工学・都市工学・社会基盤・農学・法学・技術経営戦略学・
医学と、多岐にわたる学科のメンバーが参加した。
参 加 趣 旨 : AGS-UTSC で
行っている活動の発信と活動
基盤となるネットワーク構築
を目的とし、ポスター発表、
他の参加者との交流を通じ
て、参加者各人の視点からの
サステナビリティに対する考
察を行った。以下、AGS 年
次総会への参加者 5 名の感
想をまとめる。詳細レポート
は、下記ウェブサイトにて公
開している。
http://ags-utsc.org/
agsam2007/
*AGS-UTSC: サステナビリティに関す
る活動・研究を行う大学院生を中心
総長と学生参加者
< 参加した学生の声 >
とした学生コミュニティー
じて、会議において
“サステナビリティ”
を問うときには、独自
・サステナビリティ国際会議の姿 ( 井上智弘 )
の会議スタイルが必要であると強く感じていた。多分野から
・持続可能な社会における大学の役割 ( 荒川あゆみ )
の専門家が共通の未来を描くにあたって、国際性・学際性に
・
“Change Maker”( 友澤孝規 )
より生じるコミュニケーションギャップにどう対処するのだろ
・情報のマーケティング ( 富田茉莉 )
うか。漠然としたヴィジョンを共有し、それを支える専門的な
・AGS 年次総会 2007 で出会った人々、そして学生とし
議論も同時に行う難しさをどう克服するのだろうか。今回の
ての想い ( 恩賀万理恵 )
参加では、サステナビリティのための独特の会議スタイルに
着目し、学会のあるべき姿について考察した。
2. 2007 年の AGS 年次総会
サステナビリティ国際会議の姿
年次総会開催の際にも、会議自体が新たな道筋・可能性を
模索するための装置である、と述べられていた。プレナリー
機械工学専攻博士課程 井上智弘
1. 学会におけるサステナビリティを考える
セッションでの講演者は、概念やヴィジョンから語り、コミュ
AGS 年 次 総 会 は、AGS に 関 わ り、 サ ス テ ナ ビ リ テ ィ
ニケーションのあり方などにも言及していた。分科会では、
に貢献する多くの研究者・企業が集まる国際会議である。
Energy, Food and Water, Education の視点から、会期を
2007 年年次総会のテーマは、
“Pathways to our common
通して議論が発展する特異な形式の試みがあった。
future”
。毎年、主催者は様々な趣向を凝らしている。
3. 分科会スタイルでの試み
私は、過去 2 回の年次総会への参加と、ワークショップや
分科会発表者は、3 枚のスライドと限定されており、短時
シンポジウムへの参加 / 主催や AGS-UTSC 運営の経験を通
間で概要のみを語ってもうらことを意図したものだった。これ
12
は、参加者が互いの専門分野に対して門外漢であることを考
この考えが賛同されるものであるなら、今の参加者にはその
えると、一つの面白い試みといえる。実際、話す内容は、よ
意識が希薄な人も多く、ここではすれ違いが生じてしまうこ
りシンプルかつ分かりやすく、発表者はスライドより参加者
とが懸念される。
を意識したものとなった。一方で、必ずしも主催者側の意図
最終日の発表は非常に興味深いものであった。しかし、こ
は十分には伝わらず、普段話す多くの研究内容を 1 枚に凝縮
こでの考えは広く普及し、またその考えを応用していく人が
させてしまうなど、結局 1 つのスライドにはいる情報量の多
いてこそ、意義があるのだと思う。年次総会での結果をいか
さゆえに、理解しにくくなるという欠点もあった。発表者は、
にまとめ発信するか。その議論をいかに次につなげるか、が、
なれない突然の形式要請に、発表の分かりやすさと研究内容
今後の課題になるのではないだろうか。
の量との間で、ジレンマが浮き出ているものでもあった。発
5. サステナビリティを問う学会のあり方
表者に感想を聞いてみたところ、この試みにストレスを感じ
サステナビリティに答えはない。ともすると、漠然とした、
ている人も少なくはなかった。理想的な試みの一方で、参加
ありふれた議論で終わってしまいがちである。別々の分野の
者への敬意の示し方という点で、一つの課題が浮き彫りになっ
専門家が議論することによって、生み出される
“共通の概念・
たともいえよう。
ヴィジョン”
、また、その共有した考えからそれぞれの専門分
いくつかの分科会では、発表の後に包括的な議論を試みる
野での発展、このサイクルを求めて、変化していきながら、
ワークショップがあった。エネルギーの分科会では、
“エネル
学会の形式を模索することが、AGS 年次総会のあるべき形な
ギーのための Pathway とは何か”
について、研究者の発表を
のかもしれない。
踏まえて議論された。サステナビリティのヴィジョンを共有
するために、多様な専門家の間でこのような包括的議論が行
われることは、不可欠なものであると思う。しかしながら、漠
然とした議論に陥ってしまい、中枢的な専門家が集まり話し
合うことにもったいなさも感じた。例えば、
「そもそも将来選
択に、何が正しいかなど分からない」
「技術は既にあるのだか
ら、いかに利用すべきかである」
「技術進歩時代が重要だ」
「そ
もそも教育者を教育し、より効果的な教育を行うべきだ」と
いった議論があった。それぞれ重要な意見ではあるが、議論
を聞くほどに愕然としてしまった。それは、あまりに漠然とし
た話であり、ある程度エネルギーに精通していればどこでも
聞くありふれた言葉ばかりだったからだった。専門家が多様
であるがゆえに、一般論に陥り、専門家の専門的たるゆえん
分科会ブレインストーミングの様子
が剥奪されているかのような議論に感じた。
4. ブレインストーミング会議という姿
持続可能な社会における大学の役割
最終日に、これらの分科会での議論がまとめて発表された
が、ただ、概念的な意見の羅列のように思われた。主催者が
農学生命研究科 農学国際専攻 国際情報農学研究室
どの意見に賛同するでもなく、また AGS としての意見を述べ
荒川あゆみ
るわけでもない。
1. 準備を通して
それらの不満を感じながら聞く中で、ふと、気が付いたこと
昨年から AGS 学生コミュニティーの運営委員会として活動
がある。それは、
「サステナビリティに、
答えはない」
ということ。
を行ってきたが、そもそも私たちを支えて下さっている AGS,
ここで行われていたことは、他分野の仲間とともに、ブレイン
Alliance for Global Sustainability とは、どんな組織、また
ストーミングを行い、漠然とした概念を共にすることだったの
はコミュニティーで、そこでは何が議論され、行われている
ではないか、ということ。
のか、ということは明確に知ることができない状態であった。
学会参加では、常に、それぞれが出した彼らなりの答えを
AGS のコミュニティーを肌で感じること、年次総会への学生
聞くことを目的としている。そして、その手法を学ぶ。しかし、
派遣のもつ意味、そして、Sustainability が社会において語
この会議目的はむしろ、互いのアイデアから根本にあるアイ
られるとき、その社会で大学はどのような役目を負うのかを
デアを参照するにとどめることである、と感じた。サステナ
考えてみたい、それが私の参加の動機であった。
ビリティのための学会は、研究の紹介ではなく、共通の概念
学生コミュニティー運営委員からの派遣者 5 名に加え、
を得るためのアイデアの紹介の場ではないか、と考えたとき、
AGS と関わる研究室等からの公募により派遣者をきめた。私
いままで考えていた不満や疑念が少し解消される気がした。
たち運営委員の最初の作業は派遣応募者からの派遣者決定
13
であった。短い派遣希望者募集期間の中でも、10 名ほどの
熱心な学生からの応募があった。このことからも、AGS 年
次総会への学生派遣という活動に対する学生側のニーズを
再確認することができた。同じ学生である私たちが「選考す
る」立場にあることを困難に感じながらも、選考においては
1. 本学生コミュニティーへの今後の貢献意志 2. 派遣者全体
での専門、学年などのバランス を重視し、面接と書類選考
によって 3 名の派遣者を選定した。学生コミュニティーへの
貢献意思を重視したのは、この学生派遣を通しての学生への
「投資」を、個人のみでなく、学生コミュニティー全体への利
益につなげる必要があるためである。また、専門、学年を多
様にすることで、この派遣グループ内でも、学際的な議論を
行うこと、派遣者間でも多様なつながりを生むことを目指し
“サステナブル・キャンパス”の説明をする様子
た。その結果、今回はこの 8 名がバランスの非常によい、チー
ムワークも取れる素晴らしいチームとなり、今回の学生派遣
※ 2007 年度は、大学としてサステナビリティのためにできることに学生と大
活動の基盤となったように思う。
学が協働して取り組む “ サステナブル・キャンパス ” というプロジェクトが
2. AGS 年次総会
始動している。
AGS 年次総会は、私自身が参加経験のある「学会」といっ
たものとは大きく異なっていた。今回の総会には大きくテー
“Change Maker”
マが設けられ、プログラムそれぞれが一つの流れの中で行わ
れていく造りとなっていたこと、ディスカッションなどのイ
工学部システム創成 友澤孝規
ンタラクティブな時間が所々に設けられていたこと、
「成長の
1. はじめに
限界」の著者や、Earth Charter のディレクターなど、社会
自分はサステナビリティに関する知のフロンティアがど
の中で研究者ではなく発信者として活動している方々を講師
うなっているのかに元々興味があり、今回 AGS-UTSC の
として招いていたことなどに対して、驚くとともに、これが
Executive Board( 運 営 委 員 ) の メン バ ー とし て、初 め て
AGS にふさわしい総会の形なのではないかと感じた。
AGS 年次総会に参加を希望した。これまで学部生だったこと
3. 持続可能な社会における大学の役割
もあり、国際的な会議に参加する経験もそこまでなかったの
今回の総会では、持続可能な社会を築くにおいての大学の
で、自分の視野を広げ、今後の研究を更に発展させていく本
役割はどうあるべきか、という議論が多く聞かれた。大学は
当にいい機会に巡りあえたと思った。
より「教育」に力を入れるべきであるという意見と、そもそ
2. SSS から AGSAM へ
も研究型大学としての「研究」を第一に進めるべきだという
AGS 年次総会が行われる 10 日ほど前に、AGS から生ま
意見があった。私は個人的には、大学の中でも特に AGS に
れた学生コミュニティーである World Student Community
加盟している大学には、これら両方をバランスよく行ってい
for Sustainable Development (WSC-SD) の 年 次 総 会 も
くことが必要だと思った。これらがトレードオフである必要は
兼 ね た、Student Summit for Sustainability (SSS) に、
ないだろう。
AGS-UTSC からの派遣という形で参加・運営支援をしていた。
私たち学生にとってこの議論は非常に興味深かった。しか
一人一人が社会を良い方向へ変えていこうとする
“Change
し、大学が具体的にはどうやって「教育に力を入れる」のか、
Maker”
として Action を起こせるようになろうというコンセ
どうやって学生を巻き込んでいくのか、という部分はまだあ
プトの元、学生が NPO や教授を巻き込んで実施したもので、
まり見えてはこなかった。議論の中で、私たちも学生の立場
非常に有意義な会であった。この会議で示された Change
から「教授、研究者、大学本部にはもっと学生とのインタラ
Maker という存在を AGS 年次総会の中でも見出せるかなぁ
クションをもってほしい」と求めてきたが、
そのインタラクショ
という期待と、この会議で自分が Change Maker に近づくた
ンの具体的な形を作っていくにあたっては、学生が積極的に
めの示唆を得たいという願望を抱きつつ、AGSAM に望むこ
関わっていく必要を感じた。今後大学において学生が、教育
ととなった。
の受け手という消極的な態度ではなく、これからの大学を創っ
3. 当日 ‒Change Maker という存在 ‒
ていくステークホルダであると自覚し、活動することができ
Change Maker は 確 かに 存 在してい た。各 大 学 の 先 生
たら、また新しい大学の姿が見えてくるように思う。
方 は も ち ろ ん、Global Footprint Network の Executive
Director など、様々な立場の方が、人類の明るい未来のひと
14
情報のマーケティング
つの形であるはずの Sustainable Future に向かって、研究・
教育・社会貢献など、多様なアプローチによっていいインパ
法学部 富田茉莉
クトを与えようという人々が多く集っていたように感じた。自
1. 情報量と情報の伝達
分はまだ学者の卵であるが、ここで出会った先輩達に恥ずか
AGS 年次総会で耳にした最も興味深い議論のひとつは巷で
しくないような存在にならなければなぁと思った。
得られる情報量に関するものであった。在る者は主要ステー
4. 当日 ‒Change Maker への示唆 ‒
クホルダに決断を下してもらうにはもっと情報が必要である
Change Maker である自分を確立するには多くの解決すべ
と主張し、また在る者は我々はすでに十分すぎる情報を提供
き問題があることを実感した。その中で一番大きな問題が言
していると反論した。しかしある会話の中で私たちはひとつ
語能力の至らなさである。インパクトの多くは言語を通して
の解にたどり着いた。もしかしたらすでに情報は十分にある
なされるし、また効果的にインパクトを与えるには、英語で
のかもしれない ( 確かに 21 世紀は情報の海の時代である ) が、
語られる文脈をしかと押さえている必要性が高いので、その
もしかしたら伝えるべき人々に適切な形で情報が行き渡って
ための素養をもっと養わなければと強く感じた。それは世界
いないのかも知れないのではないか、と。
で認められる学者となるためにも必要とされることであるの
2. わかる技術
だろう。また他に得られた重要な示唆は、サステナビリティ
たとえば Energy ‒policies for changing course の分科
における社会科学的アプローチの少なさだった。自分は工学
会ではエコ設計のビルのような新技術が普及するには、その
出身であるが、専門は経済やファイナンスなど社会科学的ア
情報をビルのデザイナーが理解する言葉 ( 彼らの言語 ) に直
プローチに根ざしたものであるので、このようなアプローチ
し、直ちに使える実用的なものにすることで『分かる ( 納得で
からサステナビリティに貢献する技術などにフォーカスを当
きる )』技術にしなければならないことが指摘されていた。同
てることは、自分が Sustainable Future を実現するのに必
様に政治家やトップマネジメントが学術的な論文を読み解く
要な存在となる一つの道であると感じた。
のを期待するのは誤りであり、それを翻訳し、フレーミングし
5. おわりに
なおして、理解しやすく使えるツールにしなければならない
このような会議で得た示唆を生かし、ますます社会に貢献
可能性は無いだろうか ?
できるような存在となれるよう精進していこうと思う。またこ
このアイデアはマーケティングを専門にしている人と会話し
こで得た情報、知識を他の人に伝えていくことで効果的な啓
ている中で気づかされた考え方であった。この考えを使って会
蒙活動になれば幸いである。
議を再度評価してみるとまた学べることが発見されて面白い。
思えば個人的に特に印象に強く残り、インパクトがあった発表
とはコンサルタント出身でグローバル・フットプリントの創設・
理事のマティス・ワッカナゲル、スウェーデン政府へのアドバ
イザーのクリスチアン・アザーらの発表であった。アイデアを
『売り』
慣れている人々だ。決して内容よりプレゼンテーション、
悪く言えばパフォーマンスを、重視するつもりではない。当然
勝負する内容が伴っていなければ話にならないだろうが、同時
そのアイデアをどのようにプレゼンするか、という視点も忘れ
てはならないことに気づかされた。
3. おわりに
自分自身もポスターセッションでアイデアの表現方法に関
して注意をいただき ( ポスターセッションに関する報告、富田
茉莉を参照 )、日頃よく言われ、常識と思われることであって
も実際に実現するのは容易ではないこと痛感し、常にこうし
ポスター発表の様子
た意識を持ち合わせている重要性を認識した。
15
AGS AM07 で出会った人々、そして学生としての
3. 熱い世界の学生達と…
想い
また、総会中に出会ったスウェーデンの学生達が受けてい
る修士プログラムも非常に興味深く、また彼ら自身がサステ
工学部社会基盤学科 恩賀万理恵
1. 私のねらい・想い
ナビリティをより学びたい、実際に活動していきたいというと
この度 AGS 年次総会に参加するにあたって、主に私達学
ても強い熱意を持っており、そういった学生とも知り合うこと
生が最近どの様な活動をしていて、これから何をしたいのか
で、これから活動していく上の、共に学び共に動いていく新
といったことを、世界の様々な大学や機関から来られた教授
たな仲間を得ることができました。
方や研究者、他の学生たちに伝え、より多くの理解と協力を
4. これからへ
得ることが私の中で一つの大きな目的であり力を入れて行っ
一方で、学生がもっと声を上げていかなければいけないな
たことでした。同時に、特に先生方はどういった学生の活動
と感じる面もあります。内容はもちろんのこと、
「どのように
を求めているのか、もしくはどのようなものを価値のあるも
して」私たちの活動を人に伝えるかという点も重要だという
のと考えているのかも知りたいと考えていました。
ことを再認識しました。
2. 様々な大学の教授と…
今回学生の顕在的・潜在的活力を見せるという点ではある
それを実現するにあたり、私はとにかく学生の熱意を見せ
程度達成できたと考えています。ただしこれからも、この度
ることに努め、多くの方からご意見や助言、有益な情報を得
の経験で得たもの、知識やネットワークを生かしながら、試
ることができ非常に良い経験となりました。
行錯誤し実際の行動に移すことで、サステナブルな社会に貢
例えば、フランスからいらしていた二人の先生方からは文
献できるよう、皆と協力して精進したいと思います。
系理系共同で新しく作ったサステナビリティに関する教育プ
ログラムについてお聞きすることができました。これは通常
の専門の授業と併用したコースとなっているため、専門と同
時に受講することができるとのことでした。何より私が驚き、
特筆すべきなのが、これが生徒自身の声から生まれたものだっ
たという点でした。生徒からこういった授業が必要だとの強
い希望があり実現したプログラムだというのです。この様に
大学が学生の声を聞き入れ、実際に動いた実例を聞くことが
できたのもこれからの活動の大きな励みになったように思い
ます。
議論する学生の様子
AGS 年次総会 2007 における学生コミュニティーの活動
おわりに ‒ 国際会議への学生派遣 ‒
2001 年からこれまでの AGS 年次総会への参加では、ポスター発表やワークショップの実施などを行ってきました。私は、
2005 年からの参加ですが、慣れない学生の国際学生参加意義に、当初はいささか戸惑いも感じていました。会議から何を得る
かはもちろんのこと、
“サステナビリティ”
をキーワードとして多分野からの専門家が学際的に話し合う国際会議へ、学生が参加する
役割、学生コミュニティーの役割が何であるか、模索の段階であったからです。
今回の参加では、学生の柔軟性と好奇心から新たな旋風を巻き起こすという課題を新たな試みとして、会期中にも参加意義を何
度も問い直しながら、学生の主張を広めることに尽力してきました。会議において行われた議論から専門家の見識を学びながら、
メンバーそれぞれが、各自の得意な分野を活かした自主的な活動を行うことができたと思います。
来場者に積極的に働きかけて行った議論とその見解は、
「会議の構成とヴィジョン」
「参加学生によるネットワーク」
「研究とサ
ステナビリティのつながり」という 3 つの視点からレポートにまとめてありますので、ぜひそちらもご覧ください。(http://agsutsc.org/agsam2007)
AGS 年次総会への参加は、研究や種々の活動をしていく学生にとって、新しい息吹と活力を与えてくれたものと思います。こ
のような素晴らしい機会をくださった AGS と、協力いただいた多くの教員・学生に、この場を借りて深く御礼を申し上げます。
この経験を、AGS 学生コミュニティーに限らず、学生全体に、還元していくことができるよう、今後も活動を続けていきたいと
思います。本当に有難うございました。
AGS-UTSC 2006 年度代表 : 井上智弘
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