CONTENTS 本書について ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 6 第 1 章 電子線の吸収線量評価 1.1 はじめに ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 9 1.2 平行平板型電離箱を用いた測定 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 12 1.3 電離箱に固有の補正係数 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 14 1.4 電子線線量評価の流れ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 25 1.5 加速器の出力校正 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 35 1.6 任意の深さの吸収線量の測定 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 37 第 2 章 電子線のエネルギー変動の確認 2.1 エネルギー変動の確認 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 39 2.2 日常のエネルギー変動の確認 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 39 第 3 章 水ファントムスキャナーによるスキャン測定 —基準線量計による相対測定— (Reference chamber と Field chamber の比率測定) 3.1 サンプリングタイム一定測定での Reference detector の役割 ‥‥‥‥‥‥ 43 3.2 水ファントムスキャン測定における イオン再結合および極性効果の影響 ‥‥‥ 46 第 4 章 固体検出器による深部吸収線量百分率の測定 4.1 はじめに ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 59 4.2 固体検出器による吸収線量評価 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 61 4.3 ダイヤモンド検出器による相対深部線量評価 ‥‥‥‥‥‥‥ 65 3 CONTENTS 4.4 小照射野の深部吸収線量百分率評価の実際的対応 ‥‥‥‥‥ 68 4.5 今回の解析結果における問題点 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 68 第 5 章 電子線ビームの深部線量曲線と治療可能域 5.1 はじめに ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 71 5.2 水中深部線量曲線 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 71 5.3 臨床的観点からみた飛程とモニタ単位数(MU 値)の関係 ‥‥ 76 5.4 臨床でみられる特別な条件での注意 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 78 付録 A.電子箱における収集効率 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 83 B.実行 SSD の算出‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 89 索引 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 92 4 本書について 日本放射線治療専門技師認定機構では,これまでに放射線治療技術の 標準化を目指し「放射線治療技術の標準」を刊行した.本書は姉妹本と して電子線の線量評価の実際的な面を中心にまとめた.特に,臨床にお いて遭遇する問題について詳述している.今後,実際的な問題や最新の 話題といったテーマを限定したこのような書籍の発行を通じ,教科書の ような網羅的にならない小冊子によって,実務者の要求を満たしていき たいと考えている. 放射線を測定する検出器には,検出器固有の特性がある.本書では, 代表的な検出器である電離箱については,極性効果とイオン再結合の処 理法を具体的な数値データに基づいて述べた.電極間に有限な電位差を 設けて,発生したイオンと電子の収集を行う電離箱においては,イオン の完全な収集はかなわない.電離箱の絶縁システムの中への電子の流入 も起こりうる現象である.これは極性効果として表れる. 電子線の線量評価において必須の測定項目である電離量半価深を求め るためには,深部電離量百分率を得なければならない.すなわち,深部 方向の線量勾配を完全に把握することが要求される.このとき,水ファ ントムスキャンシステムがよく利用される.したがって,電離箱の特性 をスキャンシステムの中で論じることも当然必要となる.水ファントム スキャナーを用いてデータを得る場合には,出力変動監視用検出器とフ ィールド線量計の測定値の比率を測定値とするのが一般的である.この 6 ようなデータにおける極性効果やイオン再結合の補正係数について具体 的に追求されることは少ない.本書では,この比率に基づく深部量百分 率に関してこれらの補正係数の影響を検討した.その結果,実務的に補 正係数を無視できるのはどのような場合かを示した. 種々の臨床条件の線量評価をするためには,検出器として電離箱に固 執できない場合も当然ある.そのような状況において固体検出器は有用 である.固体検出器には半導体検出器,ダイヤモンド検出器あるいは MOSFET などがある.これらは小型化が可能であり,小照射野の線量 評価において有用である. その他,電子線の線量評価で遭遇するいくつかの点について,言及さ れることの少なかった項目についても触れた. 浅学非才ゆえに不適切な説明に終わっている部分も多々ある.これか らの皆さんの指摘を待ってよりよい説明となるよう,今後も実際的勉学 をつづけていければよいと考えている.今後とも,皆さんのご教示をお 願いする. 2008 年 4 月 保科正夫 7 第 1 章 電子線の吸収線量評価 第1章 電子線の吸収線量評価 1.1 はじめに 電子線の吸収線量を標準測定法 01 1)に準拠して評価するための方法 を,具体的データに基づいて示す.電子線の場合,深さに伴うエネルギ ーの変化があるため,阻止能比をエネルギーに応じて評価する必要があ る.また, 線質 Q に伴う種々の擾乱補正係数の中で Pcav が,円筒形(Farmer 形)電離箱の場合には校正深でのみ明らかであるが,その他の深さで不 明である.その結果,線量評価における基本指標である線量半価深 R 50 の決定に必須の深部電離量百分率(PDI)の評価を円筒形電離箱で行う ことができない.したがって,電子線の線量評価は実質的に平行平板形 電離箱を用いることになる. 電子線における線量評価手順は,PDI を知ることから始まる.これに より,電離量半価深 I 50 が明らかになる.I 50 は外見上エネルギーの次元 をもたないが,電子線の線質であるエネルギーを知ることと同等の機能 をもつ.すなわち,電離量であって吸収線量ではない I 50 から吸収線量 の 50% 深部である R 50 が計算による変換処理により得られる.この点 が標準測定法 01 の最大の特徴である. 入射放射線が光子の場合には,放射線治療で注目する媒質や深さによ る線質の変化は実務的に無視できた.その結果,線質指標は深さ 10 cm と 20 cm の区間における減弱に基づいて規定された.しかし,電子線 の場合には,以下の点で光子と異なる. ● 荷電粒子である電子は初期運動エネルギー E 0 で媒質に入射し,静止 するときには運動エネルギーはゼロとなる. ● E 0 → 0 の間で電子は連続的にエネルギーを失う. ● 運動エネルギーが大きいほど電子の速度は大きい.そのとき媒質中の原子 9 (原子核と軌道電子)の近傍に存在する時間は短くなる.よって,相互作 用によるエネルギー損失は少ない.このことより阻止能は深さ依存である. 吸収線量評価の基本は次のように表された. 空洞電離箱による測定電荷から吸収線量を 評価する(空洞気体の吸収線量) → D gas = Q W m gas 知りたいのは媒質(水) s Dw= Dgas → ( Bragg-Grayの関係式) ρ の吸収線量 Dw である w,gas ただし,上記では擾乱補正を 1.0 としている.ここで,電子線の線量評 価に固有の要素として入ってくるのが,上記のエネルギーの連続的低下 に伴う阻止能比 s がエネルギー E の関数となるということである.標準 測定法 01 では E を R50 の関数とすることで,s(R50) を得ているのである. 標準測定法 01 は I50 から R50 への変換,R50 から校正深 dc の算出,R50 によ る阻止能比の決定が, すべて変換式で可能となった実務的な線量評価法である. 電子線の線量評価の手順は X 線と比較するとステップが多い.そこで, 作業の道しるべとして利用できるように図 1.1 に全体の流れを示して おく.このような全体的見通しをもって電子線の線量評価に向かうと, 個々の作業の意味も把握しやすいであろう. ◆電子線における円筒形(Farmer 形)電離箱の空洞補正係数 Pcav は校正深以外では不明である. ◆深部電離量百分率の測定には平行平板形電離箱のみが使用可能 である. ◆円筒形電離箱は校正深の測定にのみ可能である. 10 第 1 章 電子線の吸収線量評価 + 正の極性で得た深さdの測定値をMraw (d)とする 処理1 温度気圧補正係数kTP,電位計補正係 数kelec,極性効果補正係数kpolおよびイオン再 真の測定値 + M(d)=Mraw (d)・kTP・kelec・kpol(d)・ks(d) + (d)に乗じる. 結合補正係数ksをMraw 極性効果とイオン再結合は 深さに依存する 処理2 M(d)を用いて深部電離量百分率を求 める.この曲線の線形に電離量が低下する領 域のデータから電離量半価深 I50を求める. 処理3 I50から線量半価深R50を 次式で求める. (1)I50≦10g/cm2の場合 R50=1.029I50−0.06 処理4 R50から線質変換係数kQ(d)を求める. [(L / ρ)w.air Pwsll Pcav Pdis Pcel]Q,d kQ(d)= [(L / ρ)w.air Pwsll Pcav Pdis Pcel]60Co この式をそのまま用いることは日常ない. (2)I50>10g/cm2の場合 R50=1.059I50−0.37 処理7 校正深dcの決定 dc=0.6R50−0.1 処理5 各深部の阻止能比の決定 a0+a1x+a2x2+a3y L (R50d)= 1+a4x+a5x2+a6x3+a7y ρ w,air 処理8 校正深での吸収線量の 決定 Dc=M(dc)・ND,w・kQ(dc) 処 理 6 深 部 線 量 百 分 率 PDD を 求 め る . PDDはピーク線量に対する相対値であるので, k Q(d c) は電離箱別に標準測定法 01表A4.11にR50に対して与えら れる. 完全なkQ(d)は不要. PDD(d, A0)= M(d)(L / ρ)w.air (R50,d) ×100 M(dmax)(L / ρ)w.air (R50,dmax) 処理9 (1)モニタ線量計の校正(ピー ク深) (2)任意の深さの線量の決定 図 1.1 電子線の線量評価手順の概要. 11 1.2 平行平板形電離箱を用いた測定 測定条件 測定対象:公称エネルギー 6 MeV ファントム:水 照射野サイズ:10 cm × 10 cm 線源表面間距離:100 cm 電離箱:平行平板形電離箱 Roos(図 1.2 参照) 電位計:電離箱と一体で校正 3 Nc:2.130 × 10 −[ (C kg − 1)/nC] kD, X:37.85 [Gy/(Ckg − 1)] ND,w,Q :8.0621 × 10 − 2[Gy/nC]このときの極性と印加電圧は− 300 V 0 線源側の 面を示し ている ビーム入射方向 中空構造とすることで,PMMAによる 後方散乱の影響を抑えている 図 1.2 Roos 電離箱の寸法と外観(PTW 社のカタログから一部引用) . ■ 電離箱取扱い上の注意 1)非防水タイプの電離箱を水中で用いるためには防水カバーを装着す る必要がある.防水カバーとしてラバーを用いることは空気の混入 12 第 1 章 電子線の吸収線量評価 やゴムの内側に塗布されている粉が問題になるので,ラバーの使用 は勧められない.防水カバーを装着した場合,電離箱によっては電 離空洞の通気口が塞がれるものがある.この場合には,水温や気圧 の管理に注意が必要である.一方,電離箱自体が耐水処理された防 水形電離箱はケーブルラインを通じて外気と通気している.よって, 空洞内温度は室温となるが,電離箱を囲む水温の影響も大きく受け る.以上のことを考慮して,防水形電離箱の場合には,水温と室温 の平衡をはかることが必要である. 2)防水形電離箱を水中で長時間用いるときは注意が必要である.通常, 耐水設計は 8 〜 12 時間である.それ以上の水中での使用は防水の 破壊などにより漏れ電流の増加を招く.また,水中で使用した後は 除湿箱などで保管し,使用後のケアを十分に行う. 3)電離箱や防水鞘の周りに気泡が付着することがある.これらの気泡 は取り除くように処理する. 4)Roos 電離箱は図 1.2 に示すように,電離空洞の背後が中空構造にな っている.これは電離箱 体後 方からの余剰な散乱を排除し, 媒質を水とするための構造であ る.電離箱の位置設定やスキャ ン中に空中で処理すると,この 中空部分に気泡が入る.気泡の 混入は測定値に影響を及ぼすの で,十分な注意が必要である. 5)近年,Markus 電離箱の改良版で ある Advanced Markus が市販さ れた.この二つの電離箱は外形 寸法がまったく同じである.異 なるのは,保護電極幅と空洞高 ●防水形電離箱であっても空 洞内空気は外気と通気して いる. ●水中での防水形電離箱の使 用時間は 8 時間程度が限 度. ●使用後の電離箱は除湿箱で 保管する. ● Roos 電 離 箱 の 中 空 部 に 気泡を入れない. ● 同 じ 外 形 を も つ Markus と Advanced Markus の 取り違いに注意. 13 である.ユーザが Markus 用の電離箱保持具や固体ファントムを有 している場合,Advanced Markus も同様に使用することができる. これが PTW 社が同一外形とした理由である.しかし,このことが 災いして Advanced Markus のつもりで Markus を,あるいはその 逆でユーザが電離箱を用いた場合,測定値は2倍程度の相違となる. くれぐれも両者の区別に間違いのないように注意をする. 1.3 電離箱に固有の補正係数 個々の電離箱に固有の補正係数 に,極性効果補正係数とイオン再結 合補正係数がある.これらの補正は, 電離箱の機能特性検証という意味で 重要な因子であり,電離箱購入時に 実施すべき検証項目である.これら の特性は X 線と電子線で異なる.ま た,電子線の場合,深さ方向でのエ ネルギーの変化が入射平均エネルギ ーからゼロまで分布するが,これら の補正係数はエネルギー依存である ●電離箱の応答特性に関わる 因子として「極性効果」と 「イオン再結合」がある. ●極性効果補正係数とイオン 再結合補正係数は電離箱購 入時に機能特性検証として 求める. ●これら係数に対する影響因 子として,放射線のモダリ ティ(X 線や電子線) ,線 量率,エネルギーがある. ことを忘れてはならない. ◆電子線では深さに伴うエネルギー変化があるので,補正係数の 値をいくつかの深さで確認する. ◆電離箱と放射線の種類,エネルギーで決まる係数であるので, 毎回の校正時に測定する必要はない. ◆平行平板形電離箱のみではなく,円筒形(Farmer 形)電離箱 14 索 引 い 校正深 30 一般再結合 83 校正深と深部吸収線量半価深 30 初期再結合 83 勾配法 39 イオン拡散損失 83 後方散乱線強度 , EBI 80 イオン再結合補正 14, 17 個体検出器 59 Weinhous と Meli の方法 17 簡易チェック 18 判定基準 19 一般的測定深 21 水ファントムスキャナーでの影響 46, 48 Jaffé の図 49, 85 さ 差分商法 39 し Jaffé の図 49 2 点電圧法 50, 85 実効 SSD 89 所定の電圧比がとれない場合の補正 86 出力校正 35 インサートフィールド 77 校正深の線量評価 35 え 任意の深さの線量評価 37 出力係数 , OPF 76 エネルギー 擾乱補正係数 電子線の深さに伴うエネルギー変化 9 電離箱の種類と擾乱補正係数 16 電子の運動エネルギー 9 エネルギー変動 39 か カットアウトフィールド 77 き 空洞補正係数 Pcav 9 円筒形電離箱と Pcav 9 深部吸収線量百分率 , PDD 33 平行平板形電離箱と PDD 33 PDI との関係 35 ダイヤモンド検出器の PDD 67 小照射野での PDD の変化 77 吸収線量半価深 , R50 25, 75 深部電離量百分率 , PDI 9, 26 I50 から R50 への変換 27, 75 平行平板形電離箱と PDI 10, 26 校正深と R50 の関係 30 極性効果補正 14, 21 一般的測定深 21 判定基準 24 水ファントムスキャナーでの影響 46 92 こ イオン再結合 83 深部吸収線量半価深 R50 への変換 27 せ ひ 線質変換係数 33 標準測定法 01 による電子線線量評価の特徴 25 電子線の線質変換係数 33 ビルドアップ 線量半価深 電子線のビルドアップ 72 R50 9, 75 飛程 74 そ 阻止能比 10, 31 深部吸収線量半価深 R50 からの算出 31 校正深に対する阻止能比 32 た ダイヤモンド検出器 59 予備照射の有効性 66 て 最大飛程 74 実用飛程 74 治療飛程 76 ふ Bragg-Gray の関係式 10, 61 へ 変動係数 , CV 15 ほ 電子後方散乱係数 , EBF 80 防水 電子と物質との相互作用 73 防水カバー 12 電離量半価深 ラバーシース 12 I50 9, 11 防水形電離箱の耐水時間 12 I50 と R50 の関係 25, 27, 75 Boag の理論 15, 17, 49 と 等価厚係数 , CET 81 な 内部遮蔽 78 遮蔽体からの後方散乱線 78 み 水ファントムスキャナー 43 基準線量計の有効性 45 め 面積密度 28 に 2点電圧法 50 93 高エネルギー電子線の線量評価の実際 —実務的諸問題を中心に— 2008 年4月4日 第1版第1刷発行 監 修 日本放射線治療専門技師認定機構 編 著 保科正夫 発行者 中村幸子 発行所 株式会社日本放射線技師会出版会 〒 160-0023 東京都新宿区西新宿 7-22-9 西新宿ワイビル 4 階 T EL:03-3227-6131 FAX:03-3227-2040 表紙・本文デザイン 渡部拓也 印刷・製本 株式会社 光邦 〈検印省略〉 ISBN978-4-86157-039-1 Printed inJapan ※定価はカバーに表示してあります. ※乱丁・落丁本はお取替えいたします. ※本書の無断転載・複写複製(コピー)することは,法律で認められた場合を除き,著作者および出版社の権 利の侵害になります.予め小社あてに許諾を求めてください.
© Copyright 2024 ExpyDoc