無塗装耐候性橋梁のさび安定化評価法の改善 - 土木学会

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土木学会第59回年次学術講演会(平成16年9月)
無塗装耐候性橋梁のさび安定化評価法の改善
阪神高速道路公団
○川上順子*
正会員
西岡 勉**
吉原 聡***
阪神高速道路管理技術センター
正会員 石崎嘉明 奥尾政憲
住友金属テクノロジー 正会員
原
修一
1.はじめに 阪神高速道路北神戸線北延伸部(神戸市北区有野町唐櫃∼有野)はその鋼桁材料に耐候性鋼材
を使用(約 13,200t)し 1),平成 10 年 4 月の供用開始後 5 年を経過した。当該部は六甲山系北側山間部に位置
し,冬期には凍結防止剤が散布される。当公団では維持管理ならびに今後の設計指針に資するため定期追跡
調査を実施してきた。当該橋梁におけるこれまでのさび安定化(保護性)評価は,目視外観調査に加え,過去
の調査
2)
に基づきフェロキシル試験法を基本としていた。最近の報告 3)を踏まえ,電位法への移行を図るべく,さ
び厚,外観評価との相関性の良否により両者を比較し,同時に,他機関で実績のあるイオン透過抵抗値評価
法とも比較し,その妥当性の検証を行い,さらに電位法評価図の経年変化を考慮した改善案を検討した。
表-1 調査対象橋梁および測定箇所
2.追跡調査方法
さび安定度
測定箇所 調査点数
8
東伸部路線と 端支点上
4径間連続
南北
水無橋上り
中間支点上
4
立体交差
非合成Box桁
端横桁
2
端支点上
8
比較的橋脚高
3径間連続
南北
オドロ第一橋上り
中間支点上
4
い
非合成Box桁
端横桁
2
桁下高さが低 端支点上
8
オドロ第二橋下り 単純合成I桁 南北 く,橋台付近
法面が迫る
端横桁
2
端支点上
8
橋脚が高い
中間支点上
4
(40m級)大型橋
4径間連続
東西
有野五社橋
端横桁
2
梁(橋長
鋼床版Box桁
耳桁
4
323m)
鋼床版
桁下高さ低
8
松尾崎橋上下 単純合成I桁 東西 く,北側の風 端支点上
通し悪い
端横桁
4
橋梁名
調査対象橋梁・調査項目
調査対象橋梁および測定箇
所,調査項目をそれぞれ表
-1,2 に示す。調査項目中,電
位は H12,15 年度,イオン透過
抵抗,X 線定量分析は H15 年
度のみ実施した。
構造形式
橋軸
方向
特徴
合計
3.調査結果
3.1
68
表-2 調査項目
板厚
調査点数
20
10
2
20
10
2
調査項目
外観
板厚減少
さび安定化
24
2
16
8
2
4
6
塩分量
詳細項目
全体外観
接写外観
板厚測定
フェロキシル試験
電位法
イオン透過抵抗
X線定量分析
飛来塩分
付着塩分(拭取り法)
付着塩分(さび分析)
24
4
154
フェロキシル試験と電位法の比較
図-1(左)に示すフェロキシル
試験値とさび厚の増加すな
600
600
500
500
400
400
び厚が増大しているにもか
かわらず,値が 0 を示し,さ
300
さ び 厚 ( μ m)
と、L-Flg(上)では明らかにさ
さ び 厚 (μ m)
わち腐食量との相関をみる
L-Flg(上)
200
評価を生ずる。これは,さび
100
厚が厚くなる場合の評価に
は適さないことを意味する。
一方,図-1( 右)に示す 電位
0
0
300
200
Web
びが安定化したとの誤った
L-Flg(上)
Web
100
1
2
3
0
-400
-300
-200
-100
0
100
200
電位(mV)
フェロキシル試験(個数/cm2)
さび安定化
さび安定化
は,フェロキシル試験に比べて
L-Flg(上)の評価が改善さ
れることがわかった。
図-1 さび厚の増加とフェロキシル試験および電位との関係
(○:H12 年度測定値
●:H15 年度測定値)
キーワード: 鋼橋,耐候性鋼,維持管理,凍結防止剤,フェロキシル試験,電位,イオン透過抵抗,さび安定化
*
神戸管理部調査設計課 〒650-0041 神戸市中央区新港町 16-1 TEL:078-331-9801 [email protected]
**工務部設計課 TEL:06-6252-8121
***保全施設部保全技術課 TEL:06-6252-8121
-233-
300
400
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土木学会第59回年次学術講演会(平成16年9月)
3.2 イオン透過抵抗評価と電位法の比較
図-2,3 に紀平ら 3)によるイオン透過抵抗評価図(補正)および電位評価図(補正)に平成 15 年度(5 年後)の
計測結果をプロットしたものを示す。原図は評点 2(今後要観察さび)領域と評点 3,4(問題のないさび)領域と
のさび厚境界を 400μm としているが,5 年程度の比較的早期の評価であるため,領域の境界を半分の 200μm
に補正した。プロット数字に示す今回の外観調査による評点と領域とはイオン透過抵抗,電位ともによく一
致し,両者の有効性を示していた。しかし,今回のような任意の経過年数での1年分の評価のみでさび安定
化評価を行うには、さび安定領域の範囲設定に依存するところが大きい。
100
400
I-4
3
E-4
3
H15年度 5年後のさび判定 補正図
さび安定化領域
4
H15年度 RST判定 補正図
300
200
4443 4 232
2
43 3
3 2 2
4 3333
3
4
2
544445 443
54333
454533335 35
54545 533
3
5
1
2
2
電位(mV)
イオン透過抵抗(kΩ)
さび安定化領域
10
2
要観察さび領域
5
55
0.1
0
-100
I-1
I-2
3
4
4444 4
3
5 5 44
4453 5335 4
55455434343
55 3 5
5 43433
4 33
3 333
100
55
5
-200
5
I-5 I-3
-300
0.01
0
200
400
600
800
要観察さび領域
2
2
2
33
2
2
22
3
E-1
E-2
2
2
E-5 E-3
-400
1,000
0
200
400
さび厚(μm)
600
800
1,000
さび厚(μm)
図-3 電位評価図と外観評点との対応
図-2 イオン透過抵抗評価図と外観評点との対応
4.経年変化を考慮したさび評価図の提案
3.で述べた課題を改善するためには経年変化に着目する必要があると考えられる。3 年間の経年変化を図
-5 のベクトル (ベクトル始点は H12 年度,終点は H15 年度を表す) 図で示した。これにより,Web のさびが
ほとんど安定域に移行しており,L-Flg のさびは良好なものと要観察すべきものとに分離され,腐食量(さ
び厚増加量)とほぼ明確に対応した定量的さび安定化評価ができると考えられる。
300
300
E-4
E-4
Web(下,中) H12→H15変化
200
200
L-Flg(上) H12→H15変化
電位 mV
電位 mV
100
100
0
0
-100
-200
-100
E-5
E-3
-300
E-2
-200
E-2
E-5 E-3
-400
0
100
200
300
400
0
100
さび厚 μm
200
300
400
500
600
さび厚 μm
図-5.経年変化を考慮した電位・さび厚評価図(左;Web(下,中),右;L-Flg(上))
参考文献
5.結言
1) 鈴木,水谷,南荘,石崎,徳林:橋梁と基
5 年経過後の北神戸線 5 橋梁調査を基にし,耐候性鋼橋梁さび安定
化の定量評価法として,電位法をさび厚および外観と対応付けてフェ
礎,99-6,p21-28
2) 阪神高速道路公団・阪神高速道路管理技術
ロキシル試験法,イオン透過抵抗法等と比較し,その妥当性を検討した。
センター;耐候性鋼材の橋梁に適用性に関
その結果,電位法はイオン透過抵抗法と同等の有効性を示した。さ
する研究報告書,1996.3
らに,経年変化を考慮した電位評価図の改善方法を提案し,そのさ
3) 紀平,塩谷,幸,中山,竹村,渡辺:土
び評価における有効性を報告した。
木学会論文集 No745/Ⅰ-65,P77-87,2003.10
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