マグネシウム合金用 塗装前処理システム “マグダイン SF-950 システム” 要旨 有機化合物吸着型化成処理システム「マグダインSF950システム」を開発・実用化した。本システムは、環 R 境・人体に悪影響を及ぼす重金属イオンや有機化合物を 用いることなく、マグネシウム合金の耐食性と塗装密着 性を向上させる。本稿では、SF-950システムの特徴およ Surtau treatment for Mgalloy, “Magdyme SF-950 system” び基本性能について述べる。 ファインケミカル事業本部 蓬原 正伸 Fine Chemicals MASANOBU FUTSUHARA 化成皮膜性能に影響する重要な工程である。マグダイン 1.はじめに SF-400は、フッ素化合物を添加したリン酸ベースの酸洗 剤である。フッ素化合物は、合金中のアルミニウム成分 紹 介 「マグダインSF-950システム」は、携帯電話やパソコ のエッチングを促進する働きがある(図2)。合金を均 ンといったIT機器のハウジングの塗装前処理プロセスと 一にエッチングとするこが可能となり、化成処理後の外 して開発された。環境・人体に悪影響を及ぼす重金属イ 観に半金属光沢を保持することができる(図3)。 オン・有機化合物を用いずに、低電気抵抗を保ちつつ、 これら製品に必要な耐食性と塗膜密着性を付与できる。 昨年度、市場での評価を受け、半金属光沢を持つ外観と 優れた塗装性が認められ、株式会社千代田にて採用され た。ここでは、マグダインSF-950システムの特徴および その基本性能について紹介する。 2.マグダインSF-950システムの特徴 2. 1 化成処理皮膜の設計思想 マグネシウム合金の化成処理は、脱脂、酸エッチング、 図1 Chemical bonding states on surface of magnesium alloy finished by SF-950 process 脱スマット処理、化成処理より行われるのが一般的であ る。現在化成処理は、浸漬法によるリン酸マンガン処理 100 “ - が主流である。非処理物をリン酸マンガン処理液に浸漬 Atomic concetration(Atomic%) マ グ ネ シ ウ ム 合 金 用 塗 装 前 処 理 シ ス テ ム マ グ ダ イ ン S F 9 5 0 シ ス テ ム “ すると、マグネシウム合金の溶解反応が進行する。これ により、被処理物/溶液界面のpHが上昇し、被処理物 表面にリン酸マンガン皮膜が堆積する。 これに対して、マグダインSF-950システムは、①マグネ シウム合金がアルカリ性溶液中で水酸化マグネシウムを 形成すること、②有機化合物の水溶液中での吸着作用を 利用している。チオール化合物とアミン化合物の吸着し Mg 80 60 1vol.% SF400 10wt.% H2SO4 10wt.% H2PO4 40 20 Al た水酸化マグネシウム層を形成することにより、IT機器 製品に必要な耐食性と塗膜密着性を確保している(図1) 。 0 Zn Xylene Glyceline Acid Alkali Process 2. 2 酸洗剤の設計思想 図2 Variation of chemical composition on surface of a magnesium alloy at each process マグネシウム合金の化成処理において、酸洗工程は、 TECHNO-COSMOS 2005 Mar. Vol.18 60 結果、SF-950システムは、これら要求性能をすべて満足 できることが確認された。それを受けて、家電メーカー からの材料承認を得て、株式会社千代田にて携帯電話ハ ウジングの塗装前処理システムとして採用された。その 後約1年間、問題なく稼動している。 表1 SF-950システムの薬品と機能・役割 50μm 分類 図3 Appearance and SEM images of a portable phone housing finished by SF-950 system 商品名 タイプ SF-100 シリケート・低エッチングタイプ 脱脂剤 マグダインSF-420は、硫酸―硝酸系エッチング剤であ SF-120 機能・役割 マグネシウム合金表面に付着した油分・ゴ ミ等の除去し、次工程での濡れ性を確保 する。SF-120(エッチングタイプ) は、 キレー ト効果により合金を溶解させて、 特にアルミ ニウム含有領域の離型剤を積極的に゙除 縮合リン酸・高エッチングタイプ 去する働きをもつ。離型剤の汚染が激しい 製品に特に有効である。 る。処理後の外観は、灰色となり、金属光沢は失われる。 SF-400 SF-400と比べて、エッチング力が高いため、離型剤の除 フッ素含有タイプ(外観重視型) マグネシウム合金成分を溶解させること 硝酸―硫酸タイプ(耐食性重視型) より、合金中に侵入している離型剤を除 去するために行う。塗装密着性・耐食性 SF-460 シュウ酸タイプ(外観重視型) に影響する重要なプロセスである。ユー ザーニーズに応じて、 外観重視型、 耐食性 SF-465 シュウ酸―硫酸タイプ 重視型および両立型を設定している。 (外観・耐食性重視型) SF-420 去性に優れる。離型剤による汚染の激しいダイキャスト 酸洗剤 部材・部品に有効である。 第1化成剤 SF-350 アルカリ性・有機分子吸着型 合金表面に水酸化マグネシウム・炭酸マグ ネシウム層を形成させる。溶液中の有機成 分が吸着することにより、 マグネシウム合金 に耐食性と塗膜密着性を付与する。それ と同時に、酸洗工程で生じたスマットを除 去して、合金表面を平滑かつ均一にエッ チングする。 第2化成剤 SF-950 アルカリ性・有機分子吸着型 第1化成層上に、 有機成分を吸着させるこ とにより、 耐食性・塗膜密着性が向上させる。 以上の設計思想から、マグダインSF-950システムには 以下の特徴がある。 (1)クロムやマンガンなどの重金属イオンを用いな い、有機化合物化成処理システムである。 (2)半金属光沢を持つ平滑な表面を持つため、非常 に優れた塗膜外観を得ることができる。 紹 介 (3)酸洗剤の選択により、幅広いダイキャスト部 表2 SF-950システムの基本性能 性能項目 試験法 (4)粉体塗装を用いた場合でも、微小なピンや凹み といった塗膜欠陥の発生がない。 3.マグダインSF-950システムの 薬品と役割 電気抵抗値 2探針法 未塗装耐食性 サイクル試験 塗装1次密着性 碁盤目試験 試験条件 三菱化学製電気抵抗値ロレスターを使用して 2探針法で測定。 SST8h(5%NaCl,35℃),室温放置16時間を2 サイクル。腐食発生状況をRN基準で目視判定 塗膜に1mm角の碁盤目をいれる。テープ剥離 試験を行い、 塗膜の剥離状態を観察する。 性能 0.6Ω以下 RN:8以上 剥離なし 湿度90%、 温度60℃の雰囲気に72h放置。取 表1にマグダインSF-950システムに使用する薬品と、 恒温恒湿試験 り出してから1時間放置後に、1mm角の碁盤 剥離なし 目を塗膜に刻みテープ剥離試験を行う。 それらの役割を示した。脱脂は、被処理物表面にゆるく 塗装2次密着性 付着した油分や金属粉を除去するために行う。酸洗工程 50℃の温水に72時間浸積。取り出してから1 温水浸漬試験 時間放置後に、 1mm各の碁盤目をいれてテー は、先に述べたように、離型剤の除去が目的である。 剥離なし プ剥離試験を行う。 第1化成の役割は、酸洗工程で生じたスマットの除去、 塗装外観 ピンヘコ およびチオール化合物の吸着した水酸化マグネシウム層 塗装表面を目視にて観察。 発生なし - を形成することである。第2化成では、さらにアミン化 マ グ ネ シ ウ ム 合 金 用 塗 装 前 処 理 シ ス テ ム マ グ ダ イ ン S F 9 5 0 シ ス テ ム “ “ 品・部材に対応できる。 合物を吸着させる。チオール化合物は塗装密着性向上に、 アミン化合物は塗装密着性および未塗装耐食性を良くす 5.おわりに る働きがある。塗装密着性の向上は、合金表面に導入さ れたチオール基およびアミノ基と塗膜中の樹脂の間に化 有機化合物吸着型化成処理システム「マグダインSF- 学結合が形成するためと推定している。 950システム」を紹介した。SF-950システムは、当社工 業用塗料事業本部にて開発された粉体プライマー塗料と 水性上塗り塗料と共に、環境配慮型マグネシウム合金塗 4.マグダインSF-950システムの 基本性能 装システムとして市場に展開している。環境に優しい塗 装システムとして、より多くのユーザの支持を受けるこ 表2に、ノート型パソコンおよび携帯電話のハウジン とを期待している。 グの要求項目、試験法およびマグダインSF-950システム の基本性能をまとめた。昨年度、市場での評価を受けた 61 TECHNO-COSMOS 2005 Mar. Vol.18
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