研究課題 精神疾患の病態診断と治療評価のためのイメージングバイオマーカーの 開発と臨床応用 課題番号 H22-精神-一般-002 主任研究者 日本医科大学精神医学教室 教授 大久保 善朗 1. 研究目的 本研究では、分子イメージングの技術を用いて精神疾患の、①病態診断のためのバイオ マーカーの開発と臨床的検証、②治療評価のためのバイオマーカーの開発と臨床的検証を 行い、③イメージングバイオマーカーを用いた病態評価に基づく科学的診断法と新しい治 療戦略を開発提案することを目的とした。 2.3.研究方法・結果・考察 (1) [18F]florbetapir によるアミロイドイメージングを導入し、アミロイド陽性率がアルツ ハイマー病(AD)群 85.7%、健常群 7.7%という結果から、同法による AD 診断の妥当性 を確認した。 (2) [18F]florbetapir を用いて軽度認知障害(MCI)におけるうつ病既往とアミロイド病変 の関連を調べた。うつ病既往によりアミロイド陽性率が高くなること、アミロイド陽 性例は遅発性うつ病がより多いことから、アルツハイマー病(AD)前駆症状としての 高齢者遅発性うつ病の存在が示唆された。 (3) 新規ドパミントランスポーター(DAT)リガンド [18F]FEPE2I の脳内動態を調べ、同リ ガンドが DAT 評価に適していること、各種精神疾患の病態解明や向精神薬の薬効評価 への応用が可能なことを確認した。 (4) [18F]FEPE2I を用いて抗うつ薬による DAT 占有率を調べた。 ・ミ (5) [18F]FMeNER-D2 を用いセロトニン・ノルエピネフィリン再取り込み阻害薬(SNRI) ルナシプランによるノルエピネフィリントランスポーター(NET)占有率を調べた。同薬 剤 200mg/日の NET 占有率は 40%で、三環系抗うつ薬・ノルトリプチリン 200mg/日によ る NET 占有率 70%よりも低い値にとどまることを明らかにした。 (6) ドパミン D2 アゴニストリガンド[11C]MNPA を用いて、ドパミン部分アゴニストによるド パミン高親和性部位 D2 受容体占有率を測定した。 4.結論 アミロイドイメージングによって AD、MCI の早期病態診断が可能なことが確かめられた。 MCI ではうつ病既往があるとアミロイド陽性率が高く、アミロイド陽性例は遅発性うつ病が より多いことから、AD の前駆症状としての高齢者遅発性うつ病の存在が示唆された。今後、 アミロイド病変を標的にした早期治療や予防法の開発が期待できる。なお、DAT イメージン グはレビー小体病の診断マーカーとして有望と思われる。さらに、本研究により、NET と DAT の評価法が確立した。今後、各種精神科治療法の奏功機転を明らかにすることによって、 精神疾患の病態に対応した画期的な治療法の開発に結びつく可能性がある。
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