心筋梗塞患者血清中のphosphoglucomutase(PGM)の動 態

演題No23
●心筋梗塞患者血清中のphosphoglucomutase(PGM)の動
態
池谷
均1、幸野 正吾2、岡 周作2、矢野 康次3、黒崎 祥史2、西成 真琴4、青山 直善4、
小山 紘子5、阪口 佳子5、内田 一弘5、棟方 伸一5、狩野 有作5、小川 善資2
1
神奈川リハビリテーション病院、2北里大学大学院医療系研究科、3北里大学医療衛生学部、
4
北里大学病院循環器内科、5北里大学病院臨床検査部
早期に上昇していて、発症後6−9時間でピーク
【はじめに】
急性心筋梗塞は冠動脈に血栓が形成されること
に達した(145±41 U/L、平均±SD)。3時間ご
で、心筋が虚血状態に陥る疾患である。現在、心
との血清PGM活性と他のマーカーとの関係をみた
筋梗塞の診断法として、トロポニンI、CK-MB、
ところ、0−3時間での相関はCK-MB、トロポニ
ミオグロビンなどの心筋傷害マーカーが測定され
ンI、ミオグロビンの相関は弱かった(r2=0.376、
ている。この心筋傷害マーカーと、胸部痛などの
0.082、0.2659)
。それに対し、9−12時間での相関
臨床症状、心電図によって心筋梗塞は診断される。
が強くなった(r2=0.7023、0.3128、0.3883)。発症
心筋傷害マーカーは細胞膜可溶性分画に存在し、
後24時間経過しても、血清中のPGM活性は持続的
虚血によって細胞膜の透過性が亢進し、血中に出
な上昇をしていた。
現するマーカーであるCK-MBとミオグロビン、虚
【考察】
血が長期になることで心筋の蛋白分解酵素が活性
心筋梗塞発症3時間以内にPGM値は比較的高い
化し、筋原繊維が切断されることで出現するミオ
値を示した。今回発症から24時間の心筋梗塞患者
シン軽鎖、トロポニンIというように分類されてい
を用いた。PGMは発症から24時間にかけて、持続
る。筋原繊維のマーカーの場合、経時的動態をみ
的に高い値を示し、また9−12時間で心筋壊死量
ると、持続的にマーカーが上昇していると言われ
を反映するCK-MBと強い相関を示した。このこと
ている1,2)。PGMは心筋、血小板に存在している酵
からPGM活性は筋原繊維のマーカーの特徴を示
素で、今回、心筋梗塞で経時的にPGM活性を測定
し、心筋の壊死を反映するマーカーであることが
することで、PGMの動態についての特徴を調べ
考えられた。ただし、PGMの値は発症後3時間以
た。
内だと、PGM活性が高いにも関わらず、心筋傷害
マーカーが上昇していない検体があるために、相
【方法】
関が弱かった。そのため、PGMは心筋梗塞発症か
1.サンプル
サンプルは北里大学病院で心筋梗塞と診断され
ら極めて早期に上昇することが考えられた。
【謝辞】
入院した患者27例の血清を使用した。
本研究に当たり、ご協力頂いた北里大学病院臨
2.PGM活性測定
PGM活性測定試薬を用いて神奈川リハビリテー
床検査部の皆様、並びに試薬をご提供頂いた東ソ
ション病院にて測定を行った。
ー株式会社、栄研化学株式会社の皆様に深く感謝
3.トロポニンI、CK-MB、ミオグロビン測定
を申し上げます。
CK-MB、トロポニンI、ミオグロビンはEテスト
1)Seino Y, et al.: Early identification of cardiac
「TOSOH」Ⅱシリーズ(東ソー株式会社)を用い
events with serum troponin T in patients with
て、北里大学病院臨床検査部にて測定を行った。
unstable angina. Lancet 342 : 1236-1237, 1993
2)Seino Y, et al.: Pathophysiological analysis of
【結果】
心筋梗塞患者血清を経時的に測定した結果全て
toroponin T release kinetics in evolving
の患者でPGM活性の上昇がみられた。心筋梗塞発
ischemic myocardial injury. Jpn Circ J 60:265-
症3時間以内の活性は44±52 U/L(平均±SD)と
276, 1996
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生物試料分析 Vol.35 No.1 2012