芝浦工業大学大宮校舎(システム棟)のエネルギーシステムの検証-コー

芝浦工業大学大宮校舎(システム棟)のエネルギーシステムの検証
−コージェネレーションの導入選択−
1.研究の背景と目的
年々増すばかりであるエネルギー消費量の削減は不可
欠である。それにもかかわらずその成果はあまり見られ
ない。発電機により電力を供給し、同時に排熱を有効利
用し熱効率を高め、省エネルギー性・環境性・経済性を
目的とした新たなエネルギーシステムとして、本研究で
はコージェネレーションシステム(以下 CGS と示す)
に着目する。
本研究では、具体的に本校の大宮校舎システム棟に
CGS を導入した場合の評価を行う。
2.CGS運転方式に関するシミュレーション
(熱負荷最大の7月)
従来型の 2005 年 3 月から翌年 2 月の間のデータを、
CGS を導入した場合と比較する。熱の需要にそって最大
3台運転し回収熱からの放熱がある場合とない場合、
CGS1台だけ運転する場合で行う。祝日など熱の需要が
少ない時には運転しない。電力、熱負荷を分析し、その
データをもとにシミュレーションし、CGS の有効利用回
収熱、発電量、燃料消費量を算出し、評価する。
本研究では熱需要が最も高く、下記のシミュレーショ
ンに示す通り、複数のCGSの運転が必要となる 7 月を
選択した。
熱主電従運転シミュレーション[放熱あり]
ガ スエ ンジン 式 CGS(150kW) の 見 込 み回 収熱は
900MJ/h(ジャケット冷却水回収熱 540MJ/h、排気ガス
回収熱 360MJ/h)である。CGSの運転方法は熱負荷に
あわせて回収熱分だけ発電する。熱負荷 450∼1350 MJ/
hでは CGS を 1 台運転し、
1350∼2250 MJ/hでは 2 台、
2250 MJ/h以上では 3 台運転する。
表1
CGS1台運転
16
17
18
19
20
21 22 23 24
8.3% 7.4% 7.3% 4.3% 4.3% 4.3% 0% 0% 0%
2,424 2,169 2,143 1,250 1,250 1,250
2,700 1,800 1,800
900 900 900
-276
369 343
350 350 350 0 0 0
2,424 1,800 1,800
900 900 900
450
300 300
150 150 150
CGS2台運転
7月
図1
図2
指導教員
松下
潤
7月
図 3 熱負荷運転パターン
図4
電力負荷運転パターン
年間 CGS1台運転シミュレーション
CGS を 1 台だけ導入した場合での熱負荷にあわせて
回収熱分だけ発電する。表1と同様な手法で、熱負荷
450MJ/h以上では CGS を 1 台運転する。
7月
図5
7月
熱負荷運転パターン
図6
電力負荷運転パターン
3.CGS導入方式に関するシミュレーション(年間)
2 章分析方法と同様な方法で年間のシミュレーション
を行う。放熱なしの場合は熱需要が少ない 3・4・5・11 月
は運転せず他の 8 ヶ月間運転する。放熱あり、CGS1台
の場合は 4・5 月以外の 10 ヶ月間運転する。
(1)使用量の比較
表2
システム棟年間消費電力の比較(kWh)
電力消費量(KWh)
月
後(放熱あり)
前
3
189,400
188,800
4
198,000
5
234,400
6
247,684
7
172,056
8
171,714
9
238,057
10
210,107
11
165,162
12
241,695
1
169,887
2
計 2,426,962
消費
134,800
188,800
198,000
140,800
131,434
64,956
60,114
185,557
163,907
93,162
165,795
121,587
1,648,912
発電量
54,600
0
0
93,600
116,250
107,100
111,600
52,500
46,200
72,000
75,900
48,300
778,050
後(放熱なし)
消費
189,400
188,800
198,000
152,500
157,684
83,856
85,314
200,557
210,107
114,762
189,945
135,387
1,906,312
発電量
0
0
0
81,900
90,000
88,200
86,400
37,500
0
50,400
51,750
34,500
520,650
後(CGS1台)
消費
134,800
188,800
198,000
179,800
195,184
127,956
121,314
185,557
160,607
114,762
193,395
121,587
1,921,762
発電量
54,600
0
0
54,600
52,500
44,100
50,400
52,500
49,500
50,400
48,300
48,300
505,200
計
731,639
697,500
667,683
116,250
CGS3台運転
7月
熱負荷運転パターン
拓明
7月
7 月の CGS 出力、回収熱、熱負荷シミュレーション結果
15
8.6%
2,526
2,700
-174
2,526
450
黒羽
熱主電従運転シミュレーション[放熱なし]
熱負荷にあわせて回収熱をすべて利用するように発電
する。表1と同様な手法で、熱負荷 900∼1800 MJ/hで
は CGS を 1 台運転し、1800∼2700 MJ/hでは 2 台、
2700MJ/h以上では 3 台運転する。
1 2 3 4 5 6 7
8
9
10
11
12
13
14
7月消費熱量
(731,639MJ)
0% 0% 0% 0% 0% 0% 0% 4.3% 7.7% 8.3% 8.7% 8.7% 9.0% 8.9%
熱負荷(MJ)
1,250 2,245 2,424 2,551 2,551 2,628 2,603
回収熱(MJ)
900 1,800 2,700 2,700 2,700 2,700 2,700
過不足(MJ)
0 0 0 0 0 0 0 350
445 -276 -149 -149 -72 -97
有効利用回収熱(MJ)
900 1,800 2,424 2,551 2,551 2,628 2,603
発電量(KWh)
150
300
450 450 450 450 450
日数 25日
(祝日除)
熱負荷(MJ)
回収熱(MJ)
過不足(MJ)
有効利用回収熱(MJ)
発電量(KWh)
r03030
電力負荷運転パターン
表3
システム棟年間消費熱量の比較(ガス㎥還元)
ガス消費量(m3)
月
前
3
5,870
4
2,169
5
2,517
6
14,666
7
17,801
8
15,899
9
15,909
10
8,039
11
4,902
12
10,826
1
10,736
2
7,700
計 117,033
後(放熱あり)
ガス
0
2,169
2,517
1,131
1,556
973
1,028
1,190
0
1,090
705
1,053
13,413
CGS
15,942
0
0
27,328
33,942
31,270
32,584
15,328
13,489
21,022
22,161
14,102
227,168
後(放熱なし)
差
10,072
0
0
13,794
17,696
16,344
17,703
8,480
8,587
11,286
12,130
7,456
123,548
ガス
5,870
2,169
2,517
2,710
4,663
3,023
3,295
2,564
4,902
3,468
3,181
2,664
41,026
CGS
0
0
0
23,912
26,277
25,752
25,226
10,949
0
14,715
15,109
10,073
152,015
後(CGS1台)
差
0
0
0
11,956
13,139
12,876
12,613
5,474
0
7,358
7,555
5,036
76,007
ガス
0
2,169
2,517
6,695
10,137
9,461
8,551
1,190
0
3,468
3,685
1,053
48,927
CGS
15,942
0
0
15,942
15,328
12,876
14,715
15,328
14,453
14,715
14,102
14,102
147,504
差
10,072
0
0
7,971
7,664
6,438
7,358
8,480
9,551
7,358
7,051
7,456
79,398
熱主電従運転シミュレーション[放熱あり]
CO2 排出量 36.0t-CO2 減少する。CGS の CO2 削減
率は約 7.0%、
建物全体の CO2 削減率は約 3.1%である。
熱主電従運転シミュレーション[放熱なし]
CO2 排出量 38.2t-CO2 減少する。CGS の CO2 削減
率は約10.6%、
建物全体のCO2 削減率は約3.3%である。
年間 CGS1台運転シミュレーション
CO2 排出量 25.1t-CO2 減少する。CGS の CO2 削減
率は約 7.5%、
建物全体の CO2 削減率は約 2.1%である。
(3)経済性
電力、
表 5 システム棟年間電力・ガス料金(万円)
放熱あり
放熱なし
CGS1台
区分
導入前
導入後
導入前
導入後
導入前
導入後
ガスの
電力
電力
2326.9
1,573.0
2326.9
1820.0
2326.9
1,840.7
(万円)
▲ 753.9
▲ 506.9
▲ 486.2
差分
双方の
ガス
439.1
52.2
439.1
158.6
439.1
180.4
熱
CGS
850.7
561.1
562.2
(万円)
△ 463.8
△ 280.6
△ 303.5
差分
料金は
差分合計
▲ 290.1
▲ 226.3
▲ 182.7
定額の基本料金と料金(単価)×消費量で決まってくる。
大宮校舎では全建物の消費量の和で精算されているため、
経済性の検証は消費量の増減で算出する。
熱主電従運転シミュレーション[放熱あり]
買熱量は従来型に比べ約 2.1 倍、買電量は CGS 発電
により約 2/3 となり、
年間約 290 万円の削減が見込める。
熱主電従運転シミュレーション[放熱なし]
買熱量は従来型に比べ約 1.6 倍、買電量は CGS 発電
により約 4/5 となり、
年間約 226 万円の削減が見込める。
図 7 システム棟年間 1 次エネルギーの比較
年間 CGS1台運転シミュレーション
熱主電従運転シミュレーション[放熱あり]
買熱量は従来型に比べ約 1.7 倍、買電量は CGS 発電
熱回収率約45.6%(有効回収率約91.2%)よりCGS エネ
により約 4/5 となり、
年間約 183 万円の削減が見込める。
ルギー効率は約 73.6%、建物全体で約 54.0%となる。
4.考察、まとめ
CGS 省エネルギー率は約 18.7%、建物全体の省エネル
電力の需要に
ギー率は約 8.0%。CGS 発電が占める割合は電力負荷全
対して熱の需要
体の約 32.1%、熱負荷全体の約 88.5%である。
が少ない分、
熱主電従運転シミュレーション[放熱なし]
CGS 導入には、
熱を有効に利用
熱回収率約50.0%(有効回収率約100%)よりCGS エネ
ルギー効率は約 80.0%、建物全体では約 53.8%となる。 することが重要
である。省エネ
CGS 省エネルギー率は約 21.6%、建物全体の省エネル
図8 1次エネルギー、CO2排出量
ルギー性の面で
ギー率は約 6.4%。CGS 発電が占める割合は電力負荷全
は、CGS エネル
の比較(1kWh 当り)
体の約 21.5%、熱負荷全体の約 65.0%である
ギー効率を 53.6%(有効回収熱 47.2%以上)にできれば省
年間 CGS1台運転シミュレーション
エネは可能となる。環境性の面では、CGS エネルギー効
熱回収率約 46.2%(有効回収率約 92.5%)より CGS エ
率を68.1%(有効回収熱76.2%以上)にできればCO2排出
ネルギー効率は約 76.2%、建物全体では約 54.6%となる。
削減は可能となる。経済性の面では、電力とガス料金の
CGS 省エネルギー率は約 19.1%、建物全体の省エネル
差で CGS のメリットが示されるものの、本来では用水
ギー率は約 5.3%。CGS 発電が占める割合は電力負荷全
費・保守費等を見込む必要がある。なお、設備コストが
体の約 20.8%、熱負荷全体の約 58.2%である。
CGS1 台当り2250 万円(CGS 本体で15 万円/kWが目安)
(2)環境性
であるため、コストを回収するには、CGS3 台運転の放
表 4 システム棟年間二酸化炭素排出量の比較(t-CO2)
熱あり・なしの場合では約 24 年、CGS1 台の場合では約
放熱あり
放熱なし
CGS1台
区分
導入前
導入後
導入前
導入後
導入前
導入後
12
年かかる。
電力
電力
924.7
628.2
924.7
726.3
924.7
732.2
(t-co2)
▲
296.5
▲
198.4
▲
192.5
差分
省エネルギー性・環境性ではメリットがでやすいが、経
ガス
246.8
28.3
246.8
86.5
246.8
103.2
熱
CGS
479.0
320.5
311.0
済性ではメリットを望むことが難しいことがわかった。
(t-co2)
熱主電従運転シミュレーション[放熱あり]
CGS 運転により、その分の燃料が加算され、ガス消費
量は従来型に比べ約 2.1 倍になる。その分 CGS により
電力消費量の約 1/3 を発電できる。
熱主電従運転シミュレーション[放熱なし]
同様にガス消費量は従来型に比べ約 1.6 倍になる。そ
の分 CGS により電力消費量の約 1/5 を発電できる。
年間 CGS1台運転シミュレーション
同様にガス消費量は従来型に比べ約 1.7 倍になる。そ
の分 CGS により電力消費量の約 1/5 を発電できる。
(1)省エネルギー性
従来型システムの発電効率は約 40%、ボイラー効率約
95%、建物全体のエネルギー効率は約 50.4%である。
CGS 運転は発電効率約 30%、
発熱回収率約 50%である。
差分
差分合計
△ 260.5
▲ 36.0
△ 160.2
▲ 38.2
△ 167.4
▲ 25.1
*CO2 排出量 =熱消費量(都市ガス)×51.3(g-CO2/MJ) (参考:NEDO)
=電力消費量×381(g-CO2/kWh)
(参考:東京電力)
(参考文献・参考資料)
電設技術者のための CGS の実務/社団法日本電設工業協会
NEDO・東京ガス・東京電力の H.P 記載技術資料