3本編(PDF:4104KB) - 長野県

平成 25 年度
職員による政策研究
研究報告書
「グループ№3
東海地域を視野に入れた産業振興」
平成 26 年 2 月
グループメンバー
下伊那地方事務所
地域政策課
矢澤雄一
商工観光課
伊藤和広
農政課
小林茂樹
林務課
松本英仁
農政課
大沢美帆
林務課
今井
翔
目次
1
研究の背景
1-1
はじめに
1-2
飯伊地域の概況と課題
2
1-2-1
概況
1-2-2
課題
「交流」による産業振興
2-1
・・・P5
研究手法
2-1-1
飯伊地域の“食資源”の抱える現状と課題~伝統野菜・ジビエ~
2-1-2
2-1-3
観光施設から見る“南信州観光”の現状と課題
東海地域との結びつき(交流)の強化
2-2
「人」の交流
2-2-1
2-2-2
2-2-3
2-2-4
2-2-5
2-3
2-4
飯伊地域の「人」の交流
薪について
現在の利用状況
薪の利用と野生鳥獣被害対策
薪取りによる地域振興と交流促進
「物」の交流
2-3-1
2-3-2
2-3-3
2-3-4
2-3-5
2-3-6
2-3-7
2-3-8
個性豊かな農畜産物の生産
飯伊地域の農業の特徴
農畜産物の流通・販売
地産地消と直売所、贈答品
都市と農村の交流
菓子・漬物・食品加工等の食品産業
課題
対応策
「食(食文化)」の交流
2-4-1
2-4-2
2-4-3
3
・・・P1
食文化からみた飯伊地域と東海地域
コラボレーションの実現に向けて
考えらえる食文化等のコラボレーション
まとめ
・・・P20
1
研究の背景
1-1
はじめに
飯伊地域は、三遠南信自動車道の全線開通やリニア中央新幹線の開業による
移動時間の短縮により、都市圏との人、物、情報の流れが活発化することが期
待されている。
特に、東海地域との産業の結びつきがより深まることが期待されることから、
今から東海地域を視野に入れた戦略的な産業振興の取り組みを展開していくこ
とが求められる。
そこで、当地域の現状を分析し、東海地域に対する農林畜産物等の販路の拡
大や、交流人口増加のための施策を研究する。
1-2
飯伊地域の概況と課題
1-2-1 概況
(1)地勢
飯伊地域は、長野県の最南端に位置し、岐阜・愛知・静岡の3県と境を接し、
1市3町10村で構成されている。面積は、1,929 ㎢で大阪府や香川県より広く、
その約 87%を森林が占め、耕地はわずか5%程度となっている。
県庁からの距離は、飯田市で約 160km、県境の根羽村までは 200km を超え、東
側を南アルプス、西側を中央アルプスに囲まれた盆地で、ほぼ中央部を天竜川
が北から南へ流れている。中央構造線などの断層が走っており、急傾斜地が多
い地形である。
太平洋側の気候に属し、地形が複雑なため各地域によって異なるが、県内他
地域と比べ年間降水量が多い地域である。
(2)産業
●農業
地形的には中山間傾斜地が多く、一戸当
たりの耕地面積は 76aと県平均 104aより
小規模であるが、温暖な気候と標高差を活
かし、多種多様な作物が生産されている。
伝統野菜についても当地域は県下 10 地域
で最も多い 10 種類が認定されている(平
成 26 年2月現在)。
農業生産額は、果樹・畜産が全体の約5
割を占めており、農産物の加工やグリーン
ツーリズム等、農業・農村資源を活用した
取組も見られる。
写真 1 伝統野菜「清内路かぼちゃ」
1
●林業
森林率は約 87%で、県平均の 78%を大き
く上回っている。素材生産量は年によって
変動はあるが、30,000 ㎥前後の生産量とな
っている。
根羽スギ・遠山スギなどの信州木材認証
製品センターの認証を受けた建築用材のほ
か、土木用材、木質バイオマス燃料として
加工され、地域内外で利用されている。
写真2 木材の搬出状況
●観光
観光客数は延べ 384 万人(平成 24 年)で、
県外客が7割を占めている。自然景観や豊
富な温泉等を資源としているが、都市圏域
の農山村への関心の高まりにより、各種ツ
ーリズムの取り組みが活発になっている。
また、歴史的に東西文化が交わった要所で
あり、数百年受け継がれてきた民族芸能や
祭りが多数残る地域で、これらの資源を活
かした観光振興にも力を入れている。
写真3 観光イベント
当地域は中京
圏からの観光
客が多い
図1
長野県内各エリアへの観光動向(2010 年から 2011 年の間)
出典:観光部観光企画課(H24.3) 東日本大震災後の長野県への観光動向・意向調査
2
1-
1-2-2 課題
(1)
(1)農林業
担い手の高齢化、農業生産額の減少などにより農業を取り巻く環境は厳しさ
を増している。また、中山間地域が多いことから、将来にわたり農業を維持し
ていくことが困難になる地域も生じてくることが懸念される。
ていくことが困難になる地域も生じてくることが懸念され
このような環境を克服し東海地域に販路を拡大していくためには
このような環境を克服し東海地域に販路を拡大していくためには、特色を活
、特色を活
かした農畜産物の生産、経営規模の拡大、6次産業化などの取組を進める必要
があ
がある。
木材産業を含む林業についても、担い手の高齢化など農業と同様に厳しい環
境にある。
また、
また、管内の野生鳥獣による農林業被害総額は、平成
管内の野生鳥獣による農林業被害総額は、平成 24 年度には
年度には3億9
3億9千万
円余となっている
円余となっている。被害額の内訳は林業が
被害額の内訳は林業が
被害額の内訳は林業が2億5
2億5千万円余となっており、その
千万円余となっており、その
発生原因としてはニホンジカによる
発生原因としてはニホンジカによる被害が全体の約4
被害が全体の約4割を占めてい
割を占めてい
割を占めている。こうい
うい
った被害は中山間地の耕作放棄地の増加原因
った被害は中山間地の耕作放棄地の増加原因の一つにも
もなっていると考えられ
なっていると考えられ
る。
その他
14%
5
4
3
3.51
3.3
2.73
3.14
鳥類
9%
2.55
億円
サル
10%
2
1
シカ
42%
1.2
1.21
1.49
1.38
1.38
0
H20
H21
農業被害
H22
H23
イノシシ
7%
H24
林業被害
シカ
図2 飯伊地域の野生鳥獣による農林業被害額の推移
写真4 ニホンジカによる林業被害
クマ
クマ
18%
イノシシ
サル
鳥類
図3 鳥獣別の被害割合(
鳥獣別の被害割合(H24)
写真5
写真
夜間に移動するニホンジカ
3
その他
(2)観光
平成 15 年を境に、観光客数、消費額ともに減少傾向が続いている。
600
200
消費額
観光客数
474 477 476 475 478
500
(
127
300
151
145
351
132
138
146
142
146
180
458
448 440
428 426
388 383 384
141
135 132
140
128
121
122
160
億
115 114
)
102 103
200
消
費
額
120 円
)
万
人
403
400
467
428
(
利
用
者
延
数
493
514
98
100
100
80
0
60
H6 H7 H8 H8 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24
図4
飯伊地域の観光客数、観光消費額の推移
小規模分散型の観光地であり、中京・東海方面を中心とした県外客が7割、
また、日帰り客が8割を占める通過型の観光地である。これは一人当たりの観
光消費額が少ないことからも伺われる。
高速交通網の整備により観光旅行客の周遊の広域化や日帰りの増加が予想さ
れることから、この地域はより通過型観光にシフトしてしまう懸念がある。
地域間や近接県との連携強化を図り、観光旅行者が繰り返し訪れ、地域内の
周遊を楽しめる魅力ある観光づくりのほか、地域の食をうまく活かした魅力づ
くりに取り組む必要がある。
消費額(円)
管内(一人当り)
5,000
平成24年
県内・県外比
全県( 同 )
日帰り・宿泊比
(4,553)
消費単価
(円 )
4,500
(4,189)(4,185)(4,187) (4,055)
4,000
飯 伊
全 県
3:7
3:7
8:2
7:3
宿泊一人1日当たり
6,109
5,877
日帰り一人1日当たり
1,659
2,577
利用者平均
2,564
3,655
(3,942) (3,883)
(3,912)
(3,822)(3,778)
(3,696)(3,730)(3,702)(3,649)(3,709)(3,650)
(3,599)(3,632)(3,655)
3,500
(3,464)
3,000
(3,164)
(3,153)
(3,089)
(3,072)
(3,046)
(2,978)(2,973)
(2,956)(2,907)
(2,914)
(2,886)
(2,822)
(2,746)
(2,697)
(2,626)(2,686)
(2,564)
(2,499)
2,500
2,000
H6
H7
H8
H9
H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24
図5
一人当たり観光消費額の推移
4
2
「交流」による産業振興
2-1
研究手法
課題解決の新たな方策を検討するにあたり、飯伊地域の現況を把握するため、
観光地の農産物直売所や地域資源である伝統野菜の生産・販売者、温泉施設等
の観光施設の状況について、関係者に聞き取り調査を行った。
2-1-1 飯伊地域の“食資源”の抱える現状と課題~伝統野菜・ジビエ~
飯伊地域は農林業が盛んであり、地域固有の「食資源」を多く有している。
その一つとしてあげられるのが、「伝統野菜」である。
伝統野菜とは、県内で栽培されている野菜で、
「来歴」、
「品種特性」、
「食文化」
について、一定の基準を満たすものであり、長野県では、それらの基準を満た
した野菜を「信州の伝統野菜」として選定し、風土や歴史を大切にした生産へ
の支援を行っている。
飯伊地域は、県下でも「伝統野菜」の数が多く、各地域で様々な伝統野菜が
生産されている。
佐久
上小
諏訪
上伊那
下伊那
木曽
松本
北安曇
長野
北信
選定数
4
1
6
1
20
9
10
1
13
5
認定数
2
1
1
1
10
5
7
1
9
5
表1
地域別認定野菜の状況について(H26.2 月現在)
下伊那地域の伝統野菜
選定数(注 1)
20
認定数(注2)
認定された野菜(10 種)
10
下栗芋、親田辛味大根、ていざなす、赤根大根、清内路きゅうり、
清内路かぼちゃ、清内路黄いも、鈴ヶ沢なす、鈴ヶ沢うり、飯田か
ぶ菜(源助蕪菜)※蕪菜は 2 団体が認定されている
表2
下伊那地域の伝統野菜について(H26.2 月現在)
(注 1)「信州の伝統野菜の選定」…来歴、食文化、品種特性の
3 つの選定基準を満たすものを選定。
(注2)「伝承地栽培認定」…選定のうち伝承地で栽培する生産者グループが伝承地栽培の認定を申請して認定されたもの。
今回の研究では、その中でも飯伊地域を代表する伝統野菜「ていざなす」を生
産している「天龍村ていざなす生産組合」(下伊那郡天龍村)に聞き取り調査を行
った。
「ていざなす」は、大きいものだと 30 ㎝以上にもなる大きななすで、とろけ
るような食感が特徴であり、焼きなすが定番の料理となっている。天龍村にあ
る観光施設「龍泉閣」でも季節限定で「ていざなす定食」がメニュー化されて
おり、JR 飯田線を使って天龍村を訪れた観光客も多く利用するため、知名度は
5
年々上昇してきている。また、東京や名古屋などの都市圏の高級量販店などへ
も出荷されており、全国的にも注目を集めて
いる他、地元の農産物直売所でも販売され、
直売所の販売数が一番多い状況である。
本年度からは、商品の統一化を図るため、
生産者組合の中で、共同選果へ向けた話合い
なども行われ、安定的な生産供給体制が確立
してきている。
一方で、課題としては、生産するに当たっ
て、野生鳥獣による被害が多いことや「てい
写真6 「ていざなす」
ざなす」に適した農地不足、後継者不足が挙
げられる。また、販売においても、注文があっても運送ルートが限定されてい
るため、なかなか販路を確立できないという課題が挙げられる。
これらの課題は、他の伝統野菜においては更に顕著であり、県内外における
知名度も低く、地域固有の「食資源」がうまく活かされていないのが現状であ
る。
もう一つ、地域固有の食資源として「ジビエ(gibier)」が挙げられる。
「ジビエ」とは、野生鳥獣の肉を指すフランス語で、日本では一般的に「山
肉」として知られている。飯伊地域は、古くから狩猟文化が根付いており、山
国の味として「ジビエ」が食されてきた地域である。そのため、現在、長野県
下にある野生獣肉処理加工施設 17 施設の内、半数以上の 10 施設が飯伊地域に
集中している。
No
市町村
施設名称
1
飯田市
㈲星野屋
2
飯田市
遠山ジンギスと山肉の製造所
3
阿南町
新野猪肉組合
4
大鹿村
ヘルシーMeat 大鹿
5
売木村
農協売木事業所選果場
6
阿智村
料理山荘
7
阿智村
掘割
8
大鹿村
ヘルシーMeat 大鹿(北川処理場)
9
阿智村
阿智村ジビエ加工施設
10
根羽村
ネバーランド㈱
表3
四季かわのべ
飯伊地域の野生獣肉処理加工施設一覧
飯田市南信濃の㈲星野屋では、処理したニホンジカやイノシシの肉を店舗消
費の他に、主に東京、名古屋、大阪などの都市部の高級フランス・イタリアレ
ストランへ卸している。他の野生獣肉処理加工施設でも同様に、野生獣肉の出
6
荷先は県外が 8 割、県内が 2 割となっており、
「ジビエ」の主要な出荷先は、都
市圏を中心とした地域外が大半を占めていることが明らかとなった。
その背景には、現代の一般家庭では「身近な味」として「ジビエ」が浸透し
てないことがあると考えられる。また、販路も限定的であることから、新たな
販路拡大に向けて一般家庭での消費が促進されるよう、効果的な PR 方法の確立
が課題である。
このように、飯伊地域には伝統野菜やジビエといった地域固有の“食資源“が
あるものの、
「一般の人への知名度が低い」、
「販路が限られている」など共通の
課題を抱えていることが明らかとなった。
2-1-2 観光施設から見る“南信州観光”の現状と課題
次に、飯伊地域の観光産業について、飯
総合順位
温泉名
下呂 (岐)
6
伊地域の観光施設1へ聞き取りを行ったと
奥飛騨温泉郷 (岐)
13
ころ、「食」と「観光形態」の2つの観点
高山 (岐)
16
修善寺 (静)
22
でご意見をいただいた。
白骨 (長)
29
一点目は、「食」についてである。飯伊
昼神 (長)
30
地域には、昼神温泉という温泉街があり、 湯田中渋温泉郷 (長)
33
熱海 (静)
34
「にっぽんの温泉 100 選」(2012 年度、観
長良川 (岐)
40
光経済新聞社2)によると、総合で 30 位とな
伊東 (静)
46
稲取 (静)
っているが、食文化のカテゴリーでは 50
野沢 (長)
位と順位を下げていることから、食に関す
る評価が低いことが伺われる。
表4
郷土の食文化 順位
11
9
10
39
42
50
24
42
19
46
にっぽんの温泉 100 選(2012 年度)
出典:観光経済新聞社
実際に飯伊地域を訪れる観光客は、
「山国でしか食べられないもの」、
「信州な
らではのお土産」を求めて訪れる方が多いが、
「農産物直売所では安定的に地元
産品が揃っていないこと」や「目玉となるお土産がない」など、各観光施設に
おいて需要と供給のミスマッチから生じる課題を抱えており、地域の食材を有
効的に PR できていないことが明らかとなった。
二点目は、観光形態である。飯伊地域は、豊かな自然はあるものの、核とな
る観光地がないことから、観光客を惹きつける魅力に乏しい地域である。また、
リニア中央新幹線や三遠南信自動車道開通が開通すれば、都市圏との時間的な
距離が近くなる一方で、今まで飯伊地域を訪れていた観光客が、有名な観光地
がある安曇野地域や長野地域などの遠い地域まで訪れることができるようにな
るなど、「通過型観光」化が危惧されている。
そのような厳しい環境の中で、観光客を呼び込むためには、他地域とは異な
った観光戦略を展開する必要がある。実際、飯伊地域では、他の地域に先駆け
て「農家民宿による農業体験」をはじめとするグリーン・ツーリズム(都市農村
交流)が盛んに行われており、平成 24 年度の都市農村交流人口は、県全体の約
1
2
「平谷温泉」(平谷村)、「昼神温泉」(阿智村)、「かぐらの湯」(飯田市南信濃)、「ネバーランド」(根羽村)
長野、愛知、静岡、岐阜、三重県から上位 50 位まで総合と郷土の食文化カテゴリーから抽出
7
57 万人のうち
万人のうち、約4割にあたる
約4割にあたる 22 万人が下伊那地域を訪れており
万人が下伊那地域を訪れており、県下で最
、県下で最
も多くなっている。
またその中でも、近年は「収獲体験ツアー」の人気が高く、飯伊地域の都市
またその中でも、近年は「収獲体験ツアー」の人気が高く、飯伊地域の都市
農村交流人口約 22 万人のうち、約
万人のうち、約 6 割にあたる 13.5 万人がりんご・いちご狩
りをはじめとする収獲体験のために飯伊地域を訪れている。
図6 下伊那地域の都市農村交流人口目的別内訳(平成 24 年度)
これらのことから、
これらのことから、都市圏からの観光客
都市圏からの観光客
都市圏からの観光客が飯伊地域の観光に求めているもの
が飯伊地域の観光に求めているもの
は、都市ではできないことが体験できる、身近な
は、都市ではできないことが体験できる、身近な「体験型観光」であるといえ
「体験型観光」であるといえ
る
2-1-3 東海地域との結びつき(交流)の強化
地域内外の関係者に聞き取り調査を実施した結果、飯伊地域の強みは、
「地域
独自の農畜産物やジビエ等の食資源が豊富であること」、「都市と農村の交流活
動が盛んであること」、「身近な農山村体験ができること」であり、一方で、地
域の弱みは、
「優れた食資源が豊富にあるが知名度が低い」、
「販路が限定的
「販路が限定的であ
る」、「地域食材を活かした名産品やお土産がない」、「核となる観光
「核となる 観光スポットが
スポットが
ない」ことであることが明らかとなった。
これらの課題を解決し、飯伊地域の産業振興を図るためには、より多くの人
に飯伊地域の魅力を知ってもらい、需要を高めることが必要である。そのため
にも、地理的に近く三遠南信自動車道等のインフラ整備により、更なる関係の
強化が期待されている東海地域との結びつき(交流)を今以上に強いものとし
ていく施策が必要と考えた。
そこで、今回の聞き取り調査の結果をもとに、
そこで、今回の聞き取り調査の結果をもとに、
「人」、
「物」
「食(食文化)」の
3つの切り口から飯伊地域の地域振興を図っていくために「東海地域と南信州
を結ぶ体験・
を結ぶ体験・食の交流事業」を提案したい。
食の交流事業」を提案したい。
8
2-2
「人」の交流
2-2-1 飯伊地域の「人」の交流
地域の多くが農山村で占められている飯伊地域は、農作業体験や体験型修学
旅行などのグリーンツーリズムを中心に、都市と農山村との交流が古くから盛
んであった。今後、リニア中央新幹線の開業や三遠南信自動車道の供用開始に
より、国内外からの交流人口の拡大が期待されることから、新たな地域資源を
発掘して観光資源として育て上げることが必要である。
2-2-2 薪について
薪は日本では古来から燃料として非常に重要な森林資源であった。立木を伐
採し、薪として焚き火に利用することは、はるかな過去から行われ、縄文時代
にはすでに木炭への加工、利用も始まっていたとされる。
物流が盛んになった近世以降は、森林資源の豊富な山村での木炭の生産がさ
らに盛んになり、都市住民へ販売することにより山村住民の生活を支える重要
な生産物となった。
昭和 30 年代に入ると燃料革命が起こり、木炭の需要が急速に減少した。高度
経済成長の時代になると、山村での村をあげての木炭生産はほぼなくなり、同
時に、風呂や調理用として主に家庭用燃料の主役であった薪も、石油や電気、
ガスにその座を追われた。
なお、薪に使用される樹種は針葉樹、広葉樹を問わず様々であるが、針葉樹
は主に建築用材としての使用が中心であったため、広葉樹が使用されることが
多い。薪や木炭の生産が盛んであった頃の農山村集落の周辺は、疎林や禿山、
採草地が広がり、現在の景観とはかなり異なったものであった。
燃料としての使命を終えた薪ではあるが、しいたけやなめこ等のきのこ類を
栽培する際のほだ木としての需要は現在もある。
(単位:トン)
消費量
国内生産量
輸入量
昭和 25 年
2,002,708
2,002,390
322
昭和 35 年
1,522,476
1,503,636
20,508
表5
昭和 45 年
290,700
275,036
15,765
昭和 55 年
92,654
74,278
18,468
平成 2 年
103,094
83,225
19,905
平成 12 年
160,348
67,427
93,119
平成 17 年
155,076
44,919
110,660
平成 21 年
149,469
34,449
115,487
木炭の消費量、生産量、輸入量の推移
出典:林野庁業務資料及び貿易統計
2-2-3 現在の利用状況
(1)薪の用途
現在における主な薪の用途について、以下に述べる。
● 薪ストーブ、暖炉
いずれも暖房器具・施設であるが、暖炉は日本の住宅事情では一般的でない
ため、平均的な戸建住宅で暖炉を設置することは少ない。
9
薪ストーブは昔から根強い人気があったが、近年では地球温暖化防止対策の
ひとつとして木質バイオマス利用が認知されてきたこと、化石燃料を使用した
暖房器具よりも家屋全体が温まりやすいこと、炎の揺らぎを見つめることによ
る癒し効果、立木から薪への加工や薪割りは大変な作業ではあるが、必要な器
具をそろえ技術を向上させる過程は趣味性が強いこと等により、薪ストーブの
導入を検討し、購入する人々が確実に増加している。
● 薪ボイラー
前項で述べたように、木質バイオマス利用促進の機運が高まり、薪ボイラー
の利用も脚光を浴び始めている。薪ボイラーは給湯・暖房用のものの他に、発
生した水蒸気により発電を行うタイプのものも登場している。
● 原木栽培
しいたけやなめこ等のきのこ類の原木栽培用のほだ木として利用される。こ
れらのきのこ類の生産は施設内での菌床栽培が主流であるが、原木栽培された
ものはより天然物に近い味の良さがある。一般的には菌床栽培のものよりも高
価であるが、贈答品などに利用されている。
しかしながら、特用林産物生産統計調査(農林水産省)によると、しいたけ
栽培における原木伏込量は昭和 55 年の 260,851 千本(2,047,405m3)をピーク
に減少の一途をたどっており、平成 24 年では 35,198 千本(437,008m3)にとどま
っている。
● 窯業
石油ボイラーや電気窯での生産が主流であるが、炎と灰の組み合わせによる
人為を越えた出来上がりにこだわる陶芸家は、薪(アカマツが最良とされる。)
により作品の製作を行っている。
● 調理
一般的にはアウトドアキャンプでの調理用燃料として好まれているが、ピザ
専門店等では石窯の燃料としての需要がある。
(2)新しい取組
かつてのような大量生産・大量消費が行われなくなった薪ではあるが、薪の
利用をきっかけとする新しい取組が全国各地で始まっている。
昭和 30~40 年代に大量に植林された針葉樹が保育の期間を経て利用の時代
を迎え、木材の利用促進が大きな課題となっている。また、かつては薪炭林や
採草地として利用されていた農山村集落周辺の森林・草地は、高度経済成長の
時代以降、その利用価値を失い、ほぼ放置されるままとなり、いわゆる里山と
呼ばれる地域は実際には広葉樹が巨木化したり、草地がうっそうとした竹林や
ヤブとなってしまうなど、景観、防災、防犯、野生鳥獣被害対策等の面からも
整備が必要となっている。
10
これらの課題の対策として、森林整備と木材の搬出・利用が積極的に進めら
れており、結果として、木材としては商品価値が低い、いわゆるC材・D材も
産出されている。薪の元となる木材もこのクラスである。林業として見た場合
は全く採算に合わないため、これまでは多くが林地残材として現地に放置され
るままであった。
高知県の NPO 法人「土佐の森・救援隊」では、これらの林地残材を森林所有
者自らが所有するチェーンソーで薪や丸太のサイズに切断して軽トラで持ち寄
ってもらい、これを地域通貨と交換するとともに、集まった林地残材を木質バ
イオマス等として販売・利用する仕組みを立ち上げ、成功を収めている。
この事例は、
「木の駅プロジェクト」として標準化され、飯伊地域でも根羽村
や阿智村で取組が始まっている。この取組が優れているのは、参加する森林所
有者は初期投資をほとんど必要とせず、また、生産量やコスト、採算等も考慮
する必要がないため、誰もが気軽に参加できる点にある。
また、本来の森林整備とは異なる取組ではあるが、国土交通省千曲川河川事
務所では河川内で繁茂した立木の伐採希望者を公募し、伐採した木を持ち帰っ
てもらっている。薪ストーブ用の薪となる樹木が無償で入手できるため人気が
高く、抽選を行っている。
2-2-4 薪の利用と野生鳥獣被害対策
薪や木炭の利用が盛んであった時代は、農山村集落の周辺は現在よりも見晴
らしが良く、集落住民の往来も頻繁であったため、ニホンジカ、ツキノワグマ、
イノシシ、ニホンザル等の野生鳥獣が集落や耕作地に出現することはほとんど
なかった。しかし、現在では里山が放置され、野生鳥獣の格好の隠れ場所とな
っている。このため、野生鳥獣は昼間はここで安心して休憩し、夜間になると
わずかな移動距離でストレスなく栄養豊富なエサが容易かつ大量に確保できる
集落や耕作地へ侵入できるようになった。
図7
里山の荒廃と動物の分布変化
出典:新潟県南魚沼地域振興局健康福祉環境部
11
このようにして増加した野生鳥獣
被害対策のひとつとして、緩衝帯整備
が行われている。「緩衝帯」とは、集
落や耕作地と野生鳥獣の本来の生息
地である奥山との間に設けられる「野
生鳥獣侵入防止帯」のことである。具
体的には整備の遅れた里山の樹木を
一定の幅で帯状に伐採し、集落や耕作
地からの見晴らしを良くすることに
よって野生鳥獣の隠れ場所をなくし、
侵入を防止しようとするものである。 写真7 集落周辺の緩衝帯実施個所(林地残材有)
緩衝帯整備だけでは野生鳥獣被害対策としては十分ではないが、隠れ場所をな
くすことは野生鳥獣に確実にストレスを与え、集落や耕作地への侵入に対し一
定の抑止効果が期待できる。
緩衝帯整備を行う箇所は広葉樹林や竹林となっている箇所が多く、整備後に
は未利用の林地残材が出ることが多く、この中には薪として利用可能な広葉樹
材等も含まれている。地理的に集落や耕作地に近いため、近距離に道路が通過
している箇所も多い。
一方、都市部や新興住宅地に暮らす薪ストーブユーザーの多くは、薪を調達
できる森林を持たず、薪ストーブ販売店等から薪を購入している。おおよその
推定値ではあるが1シーズン 120 日間における薪ストーブ1台の薪使用量は
2,000~3,000 ㎏で、薪代は 100,000~150,000 円程度になると思われる。彼ら
はなるべく安く薪を購入することに苦心しており、また、自分で薪作りを行う
ことに憧れを抱く者も多い。
農山村では未利用のまま道路の近傍で朽ち果てる広葉樹材等がある一方で、
都市部では安価な薪を探し求める薪ストーブユーザーが存在している。両者を
うまく結びつける方法はないだろうかと考えた。
2-2-5 薪取りによる地域振興と交流促進
「木の駅プロジェクト」や河川支障木の伐採イベントは、人気が高く成功し
ている事例も多い。しかし、参加者は地元や周辺地域の住民であり、遠距離地
域や県外の住民の参加を想定した事業やイベントはほとんど実施されていない。
飯伊地域は東海地方に隣接しており、特に愛知県三河地域、尾張地域、岐阜
県東濃地域からは2時間以内で到着できる。当地域は県下有数の野生鳥獣被害
発生地域であり、様々な被害防止対策が行われている。緩衝帯整備も今後も継
続して実施して行く必要があり、実施に伴って発生する林地残材の利用も課題
となる。
この林地残材を利用する手法として、東海地方の薪ストーブユーザーに緩衝
帯整備に参加してもらい、発生した林地残材のうち、薪として利用可能なもの
は持ち帰ってもらうことを検討する。
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まず、参加者には軽トラや SUV 車等、ある程度荷物が積載できる自動車で来
てもらう。現地での伐採作業は危険を伴う作業であるため、森林組合の作業員
に実施してもらい、伐採木の枝払いや参加者が欲しい薪の寸法に合わせた玉切
り、道路までの搬出は
り、道路までの搬出は、参加者にも体験してもらう。搬出した薪は希望する量
、参加者にも体験してもらう。搬出した薪は希望する量
を無償で提供し、自動車に積載して持ち帰ってもらう。積みきれない薪は主催
者が責任を持って保管し、参加者が都合の良いときに取りに来てもらうのであ
る。参加者数は多すぎると事故の危険性が高まるため、1回につき 30 名程度と
し、1~2日間の作業とする。
東海地方の都市部から当地域にやって来る参加者にとって、移動距離と移動
時間は疲労しない程度の適切なものと思われる。また、中央道を利用すればよ
り快適なドライブにもなり得る。恵那山トンネルを抜けて眼前に広がる雄大な
南アルプスと
南アルプスと広々とした伊那谷の景観は、参加者にとって大きな感動を与える。
広々とした伊那谷の景観は、参加者にとって大きな感動を与える。
参加者には緩衝帯整備と薪取りで一汗かいてもらった後は、最寄の温泉施設
で疲れを癒し、道の駅などで地元の特産品を購入したり、観光名所を訪ねたり
して、当地域の良さを実感してもらい、当地域のファンそしてリピーターにな
ってもらうことを目指したい。
少人数の参加者であっても、満足してもらえる内容であれば口コミやネット
で評価は一気に広がる。
同様の取組が当地域内の各地で徐々に盛んになり、薪を介した当地域と東海
地域の地域間交流が盛んになることを期待したい。
図8
事業効果と予算額
13
2-3
「物」の交流
2-3-1 個性豊かな農畜産物の生産
飯伊地域は、南北に連なる南アルプス(赤石山脈)と中央アルプス(木曽山
脈)の谷あいを太平洋に向かって天竜川が流れ、河岸段丘の標高差や降雪が少
なく比較的温暖な自然条件を活かし、りんご、なし、もも、市田柿等の果樹や、
きゅうり、アスパラガス等の野菜、カーネーション、ダリア等の花き、ぶなし
めじ等のきのこの園芸作物に加え、肉用牛肥育や酪農、養豚等の畜産、水稲な
どの多種・多様な農業が営まれているほか、古くから地域に受け継がれている
伝統野菜や、南部の温暖な地域では、お茶の栽培もされている。
なお、これらの当地域の農業産出額は、平成 23 年度には約 213 億円あり、そ
の構成比は果樹が 29.6%と最も多く、次いで畜産が 16.9%、野菜が 11.7%、米
穀、きのこと続いており、県内有数の農畜産物の総合供給産地として地域を確
立している。
2-3-2 飯伊地域の農業の特徴
飯伊地域の農業は、農家戸数が 11,689 戸(うち販売農家戸数 6,289 戸)と、
総世帯数のおおむね2割を占める農業が盛んな地域であるが、山間傾斜地が多
い複雑な地形のため、農家1戸当たりの耕地面積が 76.3a(県平均 103.7a)
と経営規模が小さく、園芸作物・畜産を中心とした小規模で集約的な農業が営
まれている特徴がある。
これは、河岸段丘の標高差を利用したリレー作型や適地・適作により、効率
的な労力配分が可能であること、また、気温の日格差が大きいことによる高品
質な果物や花きの生産が可能であることなど、恵まれた自然条件を活かす取り
組みが、小規模でも収益性の高い農業に結びついている要因のひとつである。
また、農閑期における農家の貴重な収入源のひとつである地域特産品として、
平成18年に地域団体商標登録も取得した干し柿「市田柿」の産地化が進んで
おり、さらには、飯田市上村、阿智村、下条村、天龍村等の中山間地域には、
信州の伝統野菜として認定を受けている「下栗芋」
「鈴が沢なす」
「ていざなす」
「親田辛味大根」
「清内路かぼちゃ」等の伝統野菜が栽培されており、地域の特
産品として地域の活性化に結び付けている特徴がある。
2-3-3 農畜産物の流通・販売
飯伊地域で生産された農畜産物は、地元はもちろんではあるが、名古屋を中
心とした中京方面及び大阪・京都・神戸を中心とした阪神方面の市場や大型量
販店等へ、生産者団体である農協等を通じて主に流通・販売されている。
これは、中央自動車道等の高速交通網の整備により、名古屋へ1時間半、大
阪へ3時間程度の短時間で輸送が可能な当地域の「地の理」があり、輸送コス
トの低減と鮮度保持による高品質販売が可能であることが主な要因である。
また、近年は、地産地消(飯田市は域産域消)が定着し、地域で生産された
農畜産物は地域で消費する取り組みが推進されているが、飯伊地域の人口は、
16 万 5 千人程度であり、消費人口が非常に少なく、大量に生産された管内の農
14
畜産物を有利販売することは不可能であり、消費人口の多い大都市をターゲッ
トにすることは当然の摂理と考えられる。
管内には、総合農協のみなみ信州農業協同組合、果物販売を主体とした専門
農協の下伊那園芸農業協同組合、乳製品の販売を主体とした専門農協の龍峡酪
農業協同組合、南信酪農業協同組合、市田酪農業協同組合の農協組織のほか、
花き生産者自ら組織する飯田花き組合等の販売組織があり、一定のまとまった
物流を前記の消費地へ有利販売している。
2-3-4 地産地消と直売所、贈答品
飯伊地域には、生産者の顔が見え、消費者が安全で安心して地元産の農畜産
物を購入できる「地産地消」の場として、生産者自らや農協等が運営する直売
所が約 100 か所(無人を除く)設置されており、販売額が1億円以上の直売所
も4か所あるなど、農家の貴重な収入源のひとつとして賑わいを見せている。
直売所は、生産者自らが価格を付け名前を表記して消費者に販売することに
より、生産意欲の高揚と品質向上につながるメリットがあり、農業の活性化ば
かりでなく、消費者との交流促進や高齢者の生きがい対策の場として、地域に
おいて大きな役割を果たしている。
なお、管内の主要国道等に設置されている道の駅「信州平谷」
「信州新野千石
平」「遠山郷」「信濃路下條」には直売所が併設されており、主に愛知県、岐阜
県、静岡県等の隣接県の顧客を中心に、飯伊地域の農畜産物を販売・PRする
ことにより、情報発信の基地としても重要な役割を果たしている。
また、お歳暮等の贈答品として、これら直売所や農家からりんご(ふじ)を
宅配便等で直接送付する固定客も多数おり、重要な販売ツールとなっている。
2-3-5 都市と農村の交流
飯伊地域は、農業や農村について体験、収穫、学ぶなどの都市農村交流活動
が古くから盛んな地域であり、平成 24 年度の交流人口は 22 万人と、当地域の
人口を上回る方が、東海地域を始め全国から訪れている。
これは、飯田市が平成7年に中学・高校生の修学旅行の誘致活動を始めたこ
とがきっかけとなり、以降着実に受入れ団体を増やし、平成 13 年にプロモーシ
ョン機能を持って南信州地域の体験型観光による地域振興を図ることを目的と
した南信州観光公社が設立され、グリーンツーリズムの礎を築いたことが大き
な要因であり、現在、農家民泊は飯田市のほか南信州全域において行われてい
る。
また、農作物等の収穫体験として、松川町や飯田市を中心とした果物狩り(り
んご、なし、さくらんぼ、ブルーベリー、もも)、喬木村を中心としたイチゴ狩
り、平谷村でのトウモロコシの収穫体験などへ 12 万 5 千人余りの方が訪れ、地
域の味を堪能し、物(農畜産物)の交流に結び付いている。
さらに、リンゴの木のオーナー農園、そば・コンニャク・ジャムづくり体験、
竹の子狩りなど、各市町村で地域の特色を活かした様々な取組がなされ、都市
と農村住民の交流拡大が図られている。
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2-3-6 菓子・漬物・食品加工等の食品産業
飯伊地域は、飯田市が城下町として栄えたことから、古くから京文化の影響
を受けた上品な菓子づくりや、漬物・味噌、凍豆腐、農産加工などの食産業が
盛んな地域であり、天恵製菓、旭松食品、マルマンなどの全国に販売網を持つ
企業もある。
特に、菓子は昭和 25 年に下伊那菓子組合が設立され、大正時代には 200 を超
える菓子工場があり、水分を 30%以下にして日持ちを良くした半生菓子は、全
国の約 40%のシェアを占めている。
また、農家から農産物の委託加工等を受け、ジャム、ジュース等を製造する
農産加工施設も複数あり、農家経営を支えているほか、天龍村、泰阜村におい
て生産されている、ゆず、くるみなどの山の恵みを上手に活かした加工品の「ゆ
べし」は、保存食・山里の珍味として人気を得ている。
さらに、県南に位置する天龍村等では、天竜川の川霧が立ち込める恵まれた
風土により良質なお茶を生産しており、みなみ信州農協では「赤石銘茶」とし
て地元を中心に販売している。
2-3-7 課題
飯伊地域における農畜産物等の物の交流は、農協等の系統組織を通じた販売
と、直売所や贈答、収穫体験等を通じて行われている実態であるが、今後、三
遠南信自動車道の開通や将来のリニア新幹線の駅設置により、人や物の流れが
大きく変革することが予想される。
また、農業従事者の高齢化や農産物価格の低迷等により、大量生産・大量販
売による産地維持や農地の維持は、難しい状況になっている。
このような中、飯伊地域の農業を維持・発展させるためには、
① 市田柿等に代表されるような、この地域でしかない特産品の開発と商品化
② 伝統野菜、柚餅子、鹿肉等の地域資源や加工品等の知名度向上と活用促進
③ こだわりの栽培方法等による高付加価値化による生産・販売
が重要であり、これらの生産された「物」(農畜産物)の「交流」(販売)を
いかに促進させるかが地域活性化、産業振興の鍵でもある。
飯伊地域を訪れた方に、当地域の特産品をお土産として購入してもらうなど、
いかに当地域でお金を使い、お金を落としてもらうかが、大きな工場や観光資
源の少ない当地域が潤い、将来に向かって発展する上での課題である。
2-3-8 対応策
県では、昨年度からスタートした第2期長野県食と農業・農村振興計画にお
いて、「信州ブランドの確立とマーケットの創出」を重要施策として掲げ、「お
いしい信州ふーど(風土)」の知名度向上とマーケットニーズを的確に把握し、
戦略的な生産・販売を展開しているほか、農畜産物の販売フェア等を開催して
販売促進等を積極的に支援しているが、現段階では面的拡大には至っていない。
このため、今後の「物」
(農畜産物)の交流(販売)の一つの方法として、既
に、農業者や農業団体、菓子・漬物・食品加工業者が個々に生産・販売してい
る地域特産品等を、複数組み合わせた地域特産ギフトづくりを提案したい。
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これは、一つ一つでは弱い商品力を季節商品ごとに複数組み合わせ、お中元、
お歳暮の時期を中心として、
「故郷“南信州・山のギフト”
(仮称)」として、関
係団体が連携して受注販売することにより、当地域のブランド力の強化と物の
交流促進に結び付けていく考えである。
具体的には、核となる組織が協賛団体へ商品のラインアップを公募して実施
する方法が考えられるが、この検討の中で「新たな名産品」の開発が進むこと
も予想され、物の交流を通じて地域の産業振興に繋がる効果が期待される。
17
2-4
-4 「食(食文化)」の交流
2-4
2-4-1 食文化からみた飯伊地域と東海地域
飯伊地域に
飯伊地域には
は、古くから固有の味や独特の栽培方法を受け継いでいる伝統野
、古くから固有の味や独特の栽培方法を受け継いでいる伝統野
菜に代表されるように、気候条件や地
菜に代表されるように、気候条件や地理的条件を活かした個性豊かな農畜産物、
理的条件を活かした個性豊かな農畜産物、
漬物、味噌、醤油などが生産されている
漬物、味噌、醤油などが生産されている。
一方、東海地域には、味噌カツやきしめん、浜松餃子など地域固有の食文化
が存在しており、近年
が存在しており、近年では
ではB級グルメの開発や
グルメの開発や掘り起こしにも力を入れている
グルメの開発や掘り起こしにも力を入れている
ことから、これまでには無かった新たな食文化も定着しつつある。
現在、
現在、下伊那
下伊那地方事務所でも「南信州うまいもの商談会」や「南信州うまい
地方事務所でも「南信州うまいもの商談会」や「南信州うまい
ものフェスティバル」と題して、地域内での商談会の開催や、東海圏で食の魅
力を
力を発信するイベントを行っているが、
するイベントを行っているが、
するイベントを行っているが、東海地域での販路開拓が十分に進んで
東海地域での販路開拓が十分に進んで
いるとは言い難い。
そこで、
そこで、南信州
南信州の食の魅力を更に強力に発信していくために、南信州の個性
の食の魅力を更に強力に発信していくために、南信州の個性
豊かな食材を東海地域の食文化とコラボレーション
豊かな食材を東海地域の食文化とコラボレーション(食の交流)
コラボレーション(食の交流)
(食の交流)して食文化
して食文化・
食の魅力の発信
食の魅力の発信や食材の販路拡大を図れば、食
や食材の販路拡大を図れば、食
や食材の販路拡大を図れば、食を中心とした産業振興、食材の
を中心とした産業振興、食材の
生産者・提供者等関係者の一層の意識高揚につながると考えられる
生産者・提供者等関係者の一層の意識高揚につながると考えられる
層の意識高揚につながると考えられる。
南信州の伝統野菜
ていざなす
清内路かぼちゃ など
南信州の農畜産物
市田柿
りんご
なし
南信州牛
南信州ジビエ など
南信州の食品加工品
野沢菜等の漬物
味噌醤油 など
その他
五平餅
半生菓子・生菓子
飯田ねぎだれおでん など
×
18
中京・東海地域の有名な特産品・
食の文化
味噌カツ
名古屋コーチン
きしめん
名古屋の珈琲文化
伊勢の赤福
浜名湖のうなぎ
浜松餃子
静岡おでん
静岡茶
三ケ日みかん
岡崎の八丁味噌
豊橋のちくわ
豊川のいなりずし
2-4-2 コラボレーション実現に向けて
すでに、多くのローカルフードや B 級グルメが存在する中で、いかに魅力的
なメニューを開発し PR するかが課題となってくる。また、東海地域では、飯伊
地域の食資源の認知度が低いことから、食資源の認知度向上のための取組も充
実させる必要がある。
そこで、新たなメニューや食材の組み合わせを開発するための調理等研究会
や開発したメニューの試食会、飯伊地域の食材の魅力を発信するための商談会
や体験会に対する支援が必要と考えられる。
また、食文化の交流を継続的な取り組みとしていくためには、飯伊地域の生
産者、製造者等の営業意識を向上させることも欠かせない。
2-4-3 考えられる食文化等のコラボレーションの例
(1)浜松餃子をねぎだれにつけて食べ、野沢菜漬をトッピング。
(2)薬味、付け合せとして南信州の食材を提供する。
(3)名古屋の喫茶店で冬の期間、珈琲セットとして市田柿を提供。
(4)静岡茶に市田柿を添える。
(5)豊橋のちくわと共に、飯田のねぎだれを一緒に販売。
(6)伝統野菜を生地にねりこんだ洋菓子や和菓子を開発し百貨店で販売。
(7)きしめんの具に南信州の農畜産物を使用。
(8)テーマを持たせた食のイベントを開催。
和菓子サミット、地酒サミット、おでんサミット など
(9)イタリア、フランス料理店で南信州ジビエ&ワインフェアを開催。
(10)三ケ日みかんと南信州りんごをつかったスイーツ開発。
・・・etc
19
3
まとめ
飯伊地域は、近い将来、三遠南信自動車道やリニア中央新幹線の開通を控え、
都市圏との距離が一層近くなることにより、産業の転換点を迎えようとしてい
る。
インフラ整備は、物流の活性化や移動時間の短縮など多くの恩恵をもたらす
反面、飯伊地域の観光産業が抱える課題である「通過型観光」に拍車がかかる
のではと懸念されている。また、全国規模で物流が活性化することにより、飯
伊地域の農産物の価値を向上させなければ、他産地との「産地間競争」により
これまでの販路を脅かされることも懸念される。
このような、時代の転換点を迎え、新たな交通新時代に対応し、飯伊地域の
産業の更なる振興を図っていく上では、長野県とりわけ下伊那地方事務所が果
たすべき役割は大きく、今から様々な施策を講じていくことが重要である。
今回の研究では、
「交流」をテーマに人・物・食(食文化)の観点から様々な
施策を提案させていただいた。提案させていただいた施策は、産業振興に直結
する施策ばかりではなかったが、様々な角度から地域内の隅々までスポットを
当てて、地域全体の協働によって飯伊地域の産業振興を図る取組みである。
これらの取組みを着実に遂行し、交通新時代の到来を地域の危機(ピンチ)
とするのではなく、地域の飛躍(チャンス)への足掛かりとし、飯伊地域の産
業が更なる活性化されることを望んでいる。
最後に、研究を進めるに当たって熱心にご指導いただいた北川 CA、居戸 TA、
中村 SS や聞き取り調査にご協力いただいた管内の関係者の皆様に感謝申し上げ
て、研究のまとめとさせていただきます。
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