虚血性心疾患の治療 − PCIとは? 虚血性心疾患に対する治療法として、1977年スイスではじ めてバルーンによる冠動脈の拡張術(一般的にいわれる風船療 法 Percutaneous Coronary Intervention 経皮的冠動脈形 成術:PCI)が施行され、日本でも1981(昭和56)年に初め て実施されました。以後、この治療法は器具の改良、技術の進 歩とともに急速に広まっています。新日鐵八幡記念病院でも 1994(平成 6 )年より開始されました。今回は、当院にて行 っているPCIについてご説明いたします。 循環器科主任医長 狭心症と急性心筋梗塞 虚血性心疾患とは、何らかの原因で心臓の筋肉(心 筋)への血液の供給が不足して起こる病態で、おも 特 集 虚 血 性 心 疾 患 の 治 療 ︱ P C I と は ? に狭心症と急性心筋梗塞に大別されます。 狭心症とは、心臓をとりまいて心筋へ血液を送り 込む冠動脈が動脈硬化をおこして血液の流れがもと もと悪いか、冠動脈がけいれんをおこし血流がとど こおった際に、一時的に心筋が酸素欠乏状態となり、 おもに前胸部に締めつけられるような痛みや圧迫感 を生じる病気です。 急性心筋梗塞は、冠動脈硬化の部分に傷がついて、 そこに血栓といわれる血のかたまりがついてしまい、 ステント 薬剤溶出性ステント(DES) この弱点を克服する方法として、さまざまな器具 再狭窄の可能性を大幅に減少させる手段として、 の進歩がなされてきました。当院で行っている方法 薬剤溶出性ステント(Drug Eluting Stent:DES)が としてステント留置術があります。これは、バルー 開発されました。これは、ステントに再狭窄を予防 ンにステントという金属の網目状の筒をのせて病変 する薬液(免疫抑制薬や制がん薬)を染み込ませ、そ 部で拡張し、血管の内側から支えるという方法です。 の薬液が徐々にしみだして再狭窄を予防するという ステントは血管の内側に押しつけられて固定され、 ものです。実際に使用されてまだ数年しか経過して 取りだすことはできません。 いませんが、現在のところ、きわめて良好な成績を この方法により急性冠閉塞はほぼなくなり、再狭 収めています。 窄の確率も大幅に改善しました。しかし、ステント を留置しても、なお6ヵ月後に確認しますと約20% の部位が再狭窄をおこしています。 ステントのイメージ 加世田 繁 ガイドワイヤー通過 てガイドワイヤーというきわめて細い金属製のワイ ヤーで狭窄部(閉塞部)を通過させます。病変部にバ 薬剤溶出性ステント(青色がしみ出た薬剤のイメージ) ルーンカテーテルという先端に風船のついた管を挿 入し、風船をふくらませて病変部を拡張し、その後 風船をしぼめて抜去するという方法がPCIの原理 (Plain バルーンステント拡張 Old Balloon Angioplasty:POBA)です。急性心筋 PCI症例数 ………………… 135例 梗塞の場合は、POBAの前に血栓を吸引カテーテル うちステント留置術 ……… 130例 〃 DES実施 ……………… 69例 を使って吸いとります。 しかし、POBAの弱点として、拡張した直後に急 ステント留置 に閉塞してしまう(急性冠閉塞)危険性や、3ヵ月後 くらいにまた狭くなってしまう(再狭窄)危険性がみ PCIは、狭心症の根本である悪くなった冠動脈の 血液の流れを、外科的バイパス術よりも軽い負担で POBAの原理 改善させる方法として開発され、以後今日までその 病気です。一刻も早く血流を再開させる必要があり 欠点を克服すべく、さまざまな工夫がなされてきま ます。 的冠動脈形成術(PCI)、冠動脈バイパス術の3つに した。DESの導入により最大の弱点であった再狭窄 につきましても、大幅に改善されました。血液をサ 2 1 血管狭窄部 ガイドワイヤー通過 分けられます。狭心症状を即座に改善でき、また閉 ラサラにする効果のより強い薬を長期間内服しなけ 1 PCI前 2 拡張時 塞をできるだけ迅速に解除して、心筋の壊死を最小 ればならないこと、すべての冠動脈狭窄部位には挿 入できないこと、10年後、20年後の長期的な成績が 限に食い止める治療法として、PCIが広く認められ るようになりました。 おわりに 冠動脈造影 られます。 冠動脈が突然閉塞して心筋が壊死をおこしてしまう 虚血性心疾患の治療は、内服薬による治療、経皮 2006(平成18)年診療実績 まだないことなどの問題はありますが、今後もさま 3 バルーンカテーテル挿入 4 ざまな工夫改良がなされていくと予想されます。 バルーン拡張 当院でも、より安全に最適な治療を患者さんに提 経皮的冠動脈形成術(PCI)の実際 供できるよう、努力を重ねていきます。 足のつけ根、手首、肘のいずれからかガイディン グカテーテルという直径2mm程度の管を動脈の中 に入れて冠動脈の入り口に留置し、その中をとおし 5 6 バルーン抜去 施行後 3 留置されたステント 4 PCI後 循環器科 TEL 093-671-9302 特 集 虚 血 性 心 疾 患 の 治 療 ︱ P C I と は ? 虚血性心疾患の治療 − PCIとは? 虚血性心疾患に対する治療法として、1977年スイスではじ めてバルーンによる冠動脈の拡張術(一般的にいわれる風船療 法 Percutaneous Coronary Intervention 経皮的冠動脈形 成術:PCI)が施行され、日本でも1981(昭和56)年に初め て実施されました。以後、この治療法は器具の改良、技術の進 歩とともに急速に広まっています。新日鐵八幡記念病院でも 1994(平成 6 )年より開始されました。今回は、当院にて行 っているPCIについてご説明いたします。 循環器科主任医長 狭心症と急性心筋梗塞 虚血性心疾患とは、何らかの原因で心臓の筋肉(心 筋)への血液の供給が不足して起こる病態で、おも 特 集 虚 血 性 心 疾 患 の 治 療 ︱ P C I と は ? に狭心症と急性心筋梗塞に大別されます。 狭心症とは、心臓をとりまいて心筋へ血液を送り 込む冠動脈が動脈硬化をおこして血液の流れがもと もと悪いか、冠動脈がけいれんをおこし血流がとど こおった際に、一時的に心筋が酸素欠乏状態となり、 おもに前胸部に締めつけられるような痛みや圧迫感 を生じる病気です。 急性心筋梗塞は、冠動脈硬化の部分に傷がついて、 そこに血栓といわれる血のかたまりがついてしまい、 ステント 薬剤溶出性ステント(DES) この弱点を克服する方法として、さまざまな器具 再狭窄の可能性を大幅に減少させる手段として、 の進歩がなされてきました。当院で行っている方法 薬剤溶出性ステント(Drug Eluting Stent:DES)が としてステント留置術があります。これは、バルー 開発されました。これは、ステントに再狭窄を予防 ンにステントという金属の網目状の筒をのせて病変 する薬液(免疫抑制薬や制がん薬)を染み込ませ、そ 部で拡張し、血管の内側から支えるという方法です。 の薬液が徐々にしみだして再狭窄を予防するという ステントは血管の内側に押しつけられて固定され、 ものです。実際に使用されてまだ数年しか経過して 取りだすことはできません。 いませんが、現在のところ、きわめて良好な成績を この方法により急性冠閉塞はほぼなくなり、再狭 収めています。 窄の確率も大幅に改善しました。しかし、ステント を留置しても、なお6ヵ月後に確認しますと約20% の部位が再狭窄をおこしています。 ステントのイメージ 加世田 繁 ガイドワイヤー通過 てガイドワイヤーというきわめて細い金属製のワイ ヤーで狭窄部(閉塞部)を通過させます。病変部にバ 薬剤溶出性ステント(青色がしみ出た薬剤のイメージ) ルーンカテーテルという先端に風船のついた管を挿 入し、風船をふくらませて病変部を拡張し、その後 風船をしぼめて抜去するという方法がPCIの原理 (Plain バルーンステント拡張 Old Balloon Angioplasty:POBA)です。急性心筋 PCI症例数 ………………… 135例 梗塞の場合は、POBAの前に血栓を吸引カテーテル うちステント留置術 ……… 130例 〃 DES実施 ……………… 69例 を使って吸いとります。 しかし、POBAの弱点として、拡張した直後に急 ステント留置 に閉塞してしまう(急性冠閉塞)危険性や、3ヵ月後 くらいにまた狭くなってしまう(再狭窄)危険性がみ PCIは、狭心症の根本である悪くなった冠動脈の 血液の流れを、外科的バイパス術よりも軽い負担で POBAの原理 改善させる方法として開発され、以後今日までその 病気です。一刻も早く血流を再開させる必要があり 欠点を克服すべく、さまざまな工夫がなされてきま ます。 的冠動脈形成術(PCI)、冠動脈バイパス術の3つに した。DESの導入により最大の弱点であった再狭窄 につきましても、大幅に改善されました。血液をサ 2 1 血管狭窄部 ガイドワイヤー通過 分けられます。狭心症状を即座に改善でき、また閉 ラサラにする効果のより強い薬を長期間内服しなけ 1 PCI前 2 拡張時 塞をできるだけ迅速に解除して、心筋の壊死を最小 ればならないこと、すべての冠動脈狭窄部位には挿 入できないこと、10年後、20年後の長期的な成績が 限に食い止める治療法として、PCIが広く認められ るようになりました。 おわりに 冠動脈造影 られます。 冠動脈が突然閉塞して心筋が壊死をおこしてしまう 虚血性心疾患の治療は、内服薬による治療、経皮 2006(平成18)年診療実績 まだないことなどの問題はありますが、今後もさま 3 バルーンカテーテル挿入 4 ざまな工夫改良がなされていくと予想されます。 バルーン拡張 当院でも、より安全に最適な治療を患者さんに提 経皮的冠動脈形成術(PCI)の実際 供できるよう、努力を重ねていきます。 足のつけ根、手首、肘のいずれからかガイディン グカテーテルという直径2mm程度の管を動脈の中 に入れて冠動脈の入り口に留置し、その中をとおし 5 6 バルーン抜去 施行後 3 留置されたステント 4 PCI後 循環器科 TEL 093-671-9302 特 集 虚 血 性 心 疾 患 の 治 療 ︱ P C I と は ?
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