ヘッドランプ内に発生 する結露・蒸発現象の シミュレーション

シミュレーション技術特集
ヘッドランプ内に発生
する結露・蒸発現象の
シミュレーション
全社製造技術部門 生産技術統括部
生産技術開発部 テープ事業部門 開発統括部
第1開発部
富岡 弘毅
大村 和弘
TOMIOKA Kouki
OMURA Kazuhiro
要 旨
車載用ヘッドランプユニット内に発生する結露・蒸発に対する内圧調整用通気膜の影響を明らかにするために、コン
ピュータシミュレーションを用いて検討を行った。汎用ソフトウエアでは、結露・蒸発のシミュレーションを行う機能がない
ために、自社で開発した結露・蒸発モデルを組み込んだ。
シミュレーションの結果、結露・蒸発はヘッドランプユニットのレンズ面とカバー面の温度差により発生する自然対流に
支配されることが分かった。また、通気膜の有効性を確認するために、通気孔に通気膜がある場合と通気膜がない場合にお
いて結露・蒸発の状態を比較した結果、通気膜がない場合と比較して通気膜がある場合は、結露してから蒸発するまでの時間
が短いことが分かった。この原因は、通気膜がある場合には高湿度の外気がヘッドランプユニット内へ流入しにくくなり、
内部の湿度上昇が防止できたためと考えられる。以上の検討は、実車に搭載されているヘッドランプユニットを用いた実験
結果と合致しており、シミュレーションの妥当性が確認された。
キーワード:結露・蒸発、シミュレーション、車載用ヘッドランプ、内圧調整
キャップシールを内圧調整部材とし
現象とキャップシールからの通気と
て上市している。構造を図1に示す。
の関係を解明することが必要であ
雨などでヘッドランプのレンズ面
る。しかし、ヘッドランプは密封さ
車載用ヘッドランプユニット(以
が冷却されると結露が発生し、外観
れ、かつ内部構造が非常に複雑であ
下、ヘッドランプ)は世界中のさまざ
の悪化やランプ光量の低下などの問
るために温度、流速など物理量の計
まな環境で使用されるため、大きな
題を引き起こす。その解決には、ヘッ
測が難しく、実験的にその関係を解
温度変化にさらされる。温度変化に
ドランプ内部に発生する結露・蒸発
明することは困難である。よって、
1
はじめに
よるヘッドランプの内圧変化によっ
て生じる破損を防止するために、通
TEMISHTM(PTFE 多孔質膜)
気性、防塵性を有する内圧調整部材
キャップシール
がヘッドランプ背面に取り付けら
れている。当社は、ポリテトラフル
オロエチレン(以下、PTFE)多孔質
通気性
防塵、防水性
空気、
水蒸気
ゴミ、
水
エラストマー
膜TEMISH TM と取り付け簡便性を
断面図
考慮したエラストマー部材を用いた
図1 キャップシールの構造
42
91号
(vol.48) 2010年
われわれはコンピュータシミュレー
慮すべき現象および物理量を図2に
ションを用いて、ヘッドランプ内に
示す。計算には汎用熱流体解析ソフ
発生する結露・蒸発のメカニズム解
トウエアFluentを用いたが、図2の相
明を行った。
変化⑦を計算する機能がFluentには
Fluentに組み込んだ結露・蒸発モデ
ないため、われわれは結露・蒸発モデ
ルの模式図を図3に示す。Psは壁面温
ルを開発し、ユーザー関数に組み込
度より決定される飽和水蒸気圧、Pvは
んだ。その結果、複数の現象を同時
空気中の水蒸気圧である。飽和水蒸
に考慮した結露・蒸発のシミュレー
気圧は温度に依存するためにPv>Psの
ションが可能になった。
場合は結露し、逆にPv<Psの場合は蒸
2
シミュレーション手法
ヘッドランプ内で生じる結露・蒸
結露・蒸発モデル
3
発する。結露・蒸発量は以下の式で計
算する。
発のシミュレーションにおいて、考
現 象
物理量
①ヘッドランプ内の空気の流れ
②ヘッドランプ内外のキャップシール効果
圧力、
流速
⑥
③ランプ内の熱移動
④筐体内の熱移動
②
③
①
⑦
温度
④
⑤空気と筐体間の熱移動
⑤
⑥ランプ内における水蒸気の移動
水蒸気量
⑦相変化
(結露・蒸発)
図2 ヘッドランプ内の現象
壁面の飽和水蒸気圧
空気中の水蒸気圧
Ps
Pv
水蒸気境膜厚さ
dx
Ps 飽和水蒸気圧
( )
水蒸気圧
Ps
Pv
Ps
結露
蒸発
水蒸気
水蒸気
Ps < Pv
Ps > Pv
Pv
露点
温度
図3 結露・蒸発モデルの模式図
43
シミュレーション技術特集
また、Ymは水蒸気質量分率であり以下
直方体のヘッドランプであり、厚さ
の式で示される。
2mmのポリカーボネート製の透明
・
ここで、M は単位時間当たりの結
なレンズと、同じく厚さ2mmの不透
露・蒸発量、dxは水蒸気境膜厚さを示
明なカバーから構成されている(図
ここで、ρ v は水蒸気密度、ρ α は乾き
す。またKは物質移動係数であり、温
4a)。通気膜を取り付けるための通
度依存性を考慮すると以下の式で表
空気密度を示す。
気孔が対角線上に2箇所設置されて
される1)。
③Fluentの計算結果より得られる壁
いる(図4b)。また、ヘッドランプ内
面温度から飽和水蒸気圧P sを計算
部にはリフレクターがあり、その中
する。
央部にバルブが取り付けられている
ここで、Dは水蒸気の拡散係数、m v
④式
(1)より結露・蒸発量を計算する。
(図4c)。実験において内部の温度、湿
は水蒸気のモル質量、Rは気体定数、T
⑤結露・蒸発によって増減したヘッ
度を計測するための温湿度センサー
は絶対温度を示す。上記のモデルを
ドランプ内部の水蒸気をFluent側
が左右2箇所、ヘッドランプ内部の
Fluentに組み込むことにより結露・蒸
に受け渡す。
レンズ近傍に設置されている。
発現象を計算した。具体的な計算手
①∼⑤を各タイムステップにおい
順を以下に示す。
て計算することでヘッドランプ内に
①Fluentにおいて流速、温度、圧力、
発生する結露量、蒸発量の時間変化
5
シミュレーション条件
のシミュレーションを行った。
水蒸気質量分率を計算。
②Fluentの計算結果から空気中の圧
シミュレーション条件を図5に示
力、水蒸気質量分率を取得し、以下
の式よりPvを求める。
4
シミュレーション対象
す。レンズ面には外気が、カバー面に
はエンジンルーム内の雰囲気が影響
するために、それぞれの面に異なる
ここで、m aは乾燥空気のモル質量、
シミュレーション対象は幅244
条件、すなわち、レンズ正面に初期状
P mは空気中の静圧(絶対圧)である。
mm、高さ154mm、奥行き134mmの
態から10分までは15℃、10分以降は
バルブ
温湿度センサー
通気孔②
レンズ
カバー
(mm)
154
134
244
(a)
レンズ側
リフレクター
通気孔①
(b)
カバー側
図4 シミュレーションモデル
44
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(c)
内部構造
40℃を境界条件として与え、レンズ
分後にレンズ正面の温湿度センサー
面上部、レンズ面下部、カバー面には
近傍を除く全面に結露が生じてい
40℃の一定温度を与えた。また、通気
る。15℃でレンズ正面が冷却された
膜から流入する空気は40℃/60%RH
結果、レンズ正面近傍の水蒸気が露
条件1および条件2の2分後にお
とした。なお、初期状態のヘッドラン
点以下となったためである。また、温
いてレンズ正面上側に結露が多く発
3
プ内部の水蒸気密度は31g/m(40℃
湿度センサー部分に結露が生じてい
生していることが図6より分かる。
/60%RHに相当)とした。
ないのは、温湿度センサーの温度が
ヘッドランプ内部の温度分布によっ
通気孔の条件を表1に示す。通気膜
低下しにくいために、センサー近傍
て発生する自然対流によりレンズ正
の効果を確かめるために、通気孔に
の温度が露点温度以下にならなかっ
面上側に水蒸気が供給されやすいた
通気度が1.5ℓ/kPa/minの通気膜(品
たためである。
めであると考えられる。2分後の条
7
結露のメカニズム
番:C2-NTF9208-L01)を取り付けた
5分後にレンズ正面上側の両端か
件1におけるヘッドランプ断面の水
場合と取り付けない場合において結
ら結露した水が蒸発し始め、10分後
蒸気分布を図7に示す。3箇所の断面
露・蒸発の違いを観察した。
にはレンズ正面の約4分の1が蒸発
はレンズ面に直交する断面を示し、
しており、条件1よりも条件2にお
色は水蒸気質量分率、矢印は空気の
いて左側の結露が多い。15分後には
流れの方向を示す。図に示すように、
レンズ正面上側において結露した水
自然対流によりカバー側やリフレク
が蒸発し、20分後において条件1よ
ター内の水蒸気がヘッドランプ上側
りも条件2の方が結露した水の質量
へ移動していることが分かる。水蒸
初期状態から20分後までのレンズ
は約5倍多い。以上の結果より、通気
気が15℃で冷却されているレンズ面
正面に発生した結露を図6に示す。こ
膜の存在により結露後の蒸発が早く
で露点温度以下となり結露したため
こで、色は単位面積当たりの結露量
なることが分かった。
に、上側の結露量が多くなったと考
6
ヘッドランプ内の
結露・蒸発メカニズム
(g/m 2)、m cはレンズ表面全体に結露
えられる。
した水の質量(μg)を示す。初期状態
では全く結露は生じていないが、2
レンズ面上部 40℃
表1 通気孔の条件
キャップシールからの
流入空気
40℃60%RH
レンズ正面
①0分∼10分 15℃
②10分以降 40℃
レンズ面下部 40℃
カバー面 40℃
図5 シミュレーション条件
45
条件1
条件2
通気孔①
通気膜あり
通気膜なし
通気孔②
通気膜あり
通気膜なし
シミュレーション技術特集
結露発生時と同様に、内部に発生す
温度分布を図8に示す。図の矢印は空
る自然対流の影響により、カバー側
気の流れの方向を示す。カバー側の
の高温の空気がレンズ側へ移動した
暖かい空気がレンズ面上部に当たっ
図6の10分後、15分後の結果に示す
結果、レンズ面の温度が上昇するた
た結果、レンズ正面上側の温度が上
ように、結露した水が上側から蒸発
めに起こると考えられる。15分後の
昇し、結露した水が蒸発したと考え
していくことが分かる。この現象は
条件1におけるヘッドランプ断面の
られる。
8
蒸発のメカニズム
条件1(通気膜あり)
条件2(通気膜なし)
条件1(通気膜あり)
条件2(通気膜なし)
分後
初期状態
10
mc 0.0 (μg)
mc 0.0 (μg)
mc 130.9(μg)
mc 34.7(μg)
mc 43.8(μg)
分後
2分後
mc 122.4(μg)
15
mc 91.1(μg)
mc 91.7(μg)
6.0 (g/m2)
分後
5分後
20
mc 119.8(μg)
mc 122.7(μg)
mc 1.3(μg)
mc 6.8(μg)
図6 結露量の時間変化
40
(℃)
1.7e-2
(-)
1.2e-2
(-)
15
(℃)
図7 ヘッドランプ内部の水蒸気質量分率
(2分後)
46
図8 温度分布図
(15分後)
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0.0 (g/m2)
通気膜の影響
9
通気膜がないためにヘッドランプ内
10
おわりに
で発生する自然対流の影響を大きく
受け、通気孔①近傍ではレンズ側か
らカバー側へ向かう流れによって通
シミュレーションの結果、通気膜
条件1の通気膜を取り付けた場合は
気孔①からは流出し、通気孔②近傍
を取り付けない場合と比較して通気
条件2の通気膜がない場合と比較し
ではカバー側からレンズ側へ向かう
膜を取り付けた場合は、結露してか
て結露が少ない。通気孔からの空気
流れによって通気孔②からは流入す
ら蒸発するまでの時間が短くなるこ
流入流量の時間変化を図9に示す。
ると考えられる。すなわち、通気孔
とが分かった。また、ヘッドランプ
横軸は時間(min)、縦軸は流量(cc/
②から40℃60%RHの空気が条件1と
内部に発生する自然対流が結露・蒸
min)を示し、外側からヘッドランプ
比較して多く流入する結果、ヘッド
発に大きく影響を与えることが分か
内へ流入する方向を正としている。
ランプ内の湿度が上昇するために結
り、結露・蒸発の発生メカニズムを解
条件1では通気孔①と通気孔②のグラ
露した水が蒸発しにくかったと考え
明することができた。
フが重なっていることから、双方の
られる。また、実車に搭載されている
今回得た知見をもとに、結露・蒸発
流量がほぼ同じであることが分かる。
ヘッドランプを用いた実験において
量をコントロールできるような最適
通気孔①、通気孔②ともに同じ通気
も、通気膜がない場合と比較して通
なキャップシールの通気性、取り付
度であるために、通気度に依存する
気膜がある場合は、結露してから晴
け位置の検討を行い、お客様のご要
流量が同じになったと考えられる。
れるまでの時間が短いとの結果が得
望に応えていく予定である。
図6の20分後の結果に示すように、
一方、条件2では、通気孔①からは
空気が外側へ流出し、通気孔②から
られており、シミュレーションと実
験の整合性を確認することができた。
はヘッドランプ内へ流入している。
■参考文献
条件2のヘッドランプ断面における
1)上田政文、
『 湿度と蒸発』、コロナ社、p.85
(2000)
空気の流れの模式図を図10に示す。
流量
(cc/min)
100
レンズ
条件1通気孔①
条件1通気孔②
条件2通気孔①
条件2通気孔②
バルブ
カバー
通気孔②
0
通気孔①
図10 条件2における流れ場の模式図
-100
0
10
時間
(min)
20
図9 通気孔における通気流量の時間変化
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