Quiz 連載1 2 0 この患者をどう診断するか 解答は1 3 9∼1 4 0ページ 出題 脊椎破壊性病変の鑑別は? 愛知医科大学 放射線医学 愛知医科大学 放射線医学教授 松田 譲 石口恒男 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! <症例> 7 0歳代後半、男性 <主訴> 腰痛 <既往歴> 2年前、大脳鎌髄膜腫に て手術施行。 <家族歴> 特記すべきことなし <現病歴> 2週間前より腰痛が増強 し、1週間前より立位困難となった。 他院の腰椎 MRI で異常を指摘され、 精査・加療目的に入院となった。 <入院時現症> 右前脛骨筋および長 拇趾伸筋の軽度筋力低下と、両足内・ 外側および足背(L4・5・S1レベ ル)の知覚鈍麻を認める。 <血液学的検査(正常値) > WBC4 1 0 0/µL(4 5 0 0∼5 1 0 0) 、CRP1. 2 8$/ dL(<0. 3 8) 、ALP4 5 5(1 0 0∼3 5 8) 、 その他異常なし。 73 CLINICIAN ’04 NO. 528 <腰 椎 単 純 撮 影(図!) > L2/3 レベルの椎間腔の狭小化および L2・ 3椎体終板の破壊を伴う変形を認める。 椎体周囲には不整形の石灰化を認める。 <腰椎 MRI> T1強 調 矢 状 断 像(図 !)では、L2・3の圧壊および信号 低下が見られ、椎体前・後面に腫瘤性 (図 病変が認められる。T2強調矢状断像 ")で病変は不均一な高信号を示し、 椎体後面の腫瘤による硬膜嚢の圧迫も 明らかである。造影 T1強調矢状断像 (図#)では不均一な増強を認め、L 1椎体への広がりも明らかである。 <問題> 最も考えられる疾患は? また、鑑別すべき疾患は? (3 2 7) !腰椎単純 X 線 "腰椎 MRI(T1強調) #腰椎 MRI(T2強調) $腰椎造影 MRI(T1強調) (3 2 6) CLINICIAN ’04 NO. 528 72 出題は7 2∼7 3ページ 解答 この患者をどう診断するか 結核性脊椎炎 愛知医科大学 放射線医学 愛知医科大学 放射線医学教授 松田 譲 石口恒男 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! <解説> CT ガイド下生検により、Langhans 型多核巨細胞を含む類上皮肉芽腫が証 明され、結核性脊椎炎と診断された。 L2レベルの造影 CT(図!)では、 椎体の破壊が明らかで、椎体周囲およ び左大腰筋内に cold abscess(冷膿瘍) を思わせる径1 0∼2 0#の低濃度域を 認め、辺縁に増強効果と石灰化を伴っ ている。 脊椎破壊性病変の鑑別として、結核 性脊椎炎、化膿性脊椎炎、転移性脊椎 腫瘍が挙げられる。 結核性脊椎炎は骨結核の2 5∼6 0% を占め、骨軟部領域の結核のなかで最 も高頻度に認められる。臨床症状とし ては、全身倦怠感、軽度熱発、局所殴 打痛や比較的長期にわたる腰背部鈍痛 などが見られる。下部胸椎および上部 腰椎(とくに L1)に好発する。経動 脈性の血行性感染が多く、終板直下の 椎体前縁が最初の感染巣となる1)。感 染巣が前方へ進展すると前縦靭帯直下 を上下に広がる。また上・下方へ進展 すると椎間板の狭小化をきたす。さら に、椎体周囲の靭帯・軟部組織に進展 すると傍脊柱膿瘍が形成される。腸腰 (3 9 4) 筋 膿 瘍(冷 膿 瘍:cold abscess)は 約 5%に認められ、大きな膿瘍を形成す る傾向があり、膿瘍壁の多形性あるい は涙滴状の石灰化が結核に特徴的であ る。椎弓・椎弓根や関節突起など後方 成分への病変の進展は約1 0%に見ら れ、それに伴う脊髄麻痺を Pott 麻痺 と呼ぶ。 画像および臨床症状での鑑別疾患と して最も重要なのは化膿性脊椎炎であ り、腰椎に好発し、次いで下部胸椎に 多い。病巣の進展経路は結核性脊椎炎 と同様で、起炎菌としては黄色ブドウ 球菌が最も一般的である。主な鑑別点 を表"に示す。 とくに病変が多椎体に及ぶ場合には 転移性脊椎腫瘍が鑑別として重要とな る2)。転移性脊椎腫瘍では、椎間板の 変化が認められないことが最も重要な 鑑別ポイントとなる。転移性脊椎腫瘍 では、腰椎(とくに L5)に好発し、 まず椎体外側後部(つまり椎弓根の前 方椎体)に転移が起こり、椎弓根に進 展するとされる3)。また、後方成分へ の進展が多く、MRI の T2強調像にて 脊椎炎ほど著明な高信号を呈さないこ とも鑑別点となる。しかしながら、結 CLINICIAN ’04 NO. 528 140 !造影 CT 像 "結核性脊椎炎と化膿性脊椎炎の主な鑑別点 結核性脊椎炎 化膿性脊椎炎 好発年齢 6 0歳代 4 0歳代 性差 男性に多い なし 病勢 結核性に比し急速 緩徐 椎間板の破壊・椎間腔の狭小化 多いが初期には少ない 高頻度かつ高度 罹患椎体数 約半数で3椎体以上に及ぶ4) 2椎体までの場合が多い 高度で楔状変形をきたす 比較的軽度で変形は少ない 椎体の破壊 ない、または軽度 骨硬化 多く、骨棘形成も認める 多く、大きく広範囲 膿瘍形成 少なく、小さい あり 膿瘍壁の石灰化 稀 造影剤による膿瘍の増強 辺縁が増強される 均一に増強される 椎体は腹側に凸で楔状(亀背)椎体の硬化ないし象牙質化 終末像 核性脊椎炎で椎体の単発性の圧迫骨折 と椎間板が保たれていることを初発所 見とすることも実際には多いとされ、 鑑別に苦慮することも多い。 文献 1) 江原 茂:4−特殊菌による感染症: 骨・関節の X 線診断、金原出版株式 会社、東京、3 0 8∼3 0 9頁、1 9 9 5年 2) 前原忠行 編:3−脊椎炎と椎間板 炎:脊 椎・脊 髄 の MRI、南 江 堂、東 139 CLINICIAN ’04 NO. 528 京、1 4 2∼1 4 4頁、2 0 0 3年 3) Algra, RR., Heimans, JJ., Valk, J., et al. : Do metastases in vertebrae begin in the body or the pedicles? Imaging study in 45 patients. AJR, 158, 1275∼1279(1992) 4) Smith, AS., Weinstein, MA., Mizushima, Y., et al. : MR imaging of characteristics of tuberculous spondylitis vs vertebral osteomyelitis., Am J Neuroradiol., 10, 619∼625(1989) (3 9 3)
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