原油輸出税を 6月1日から導入 - JOGMEC 石油・天然ガス資源情報

カザフスタン:原油輸出税を
6月1日から導入
・原油輸出税は2009年1月からの導入が示唆されていたが、これが前倒しされることとなり、マシモフ
首相は4月8日、原油輸出税を導入するための法律にサイン、6月1日に発効した。
・当初の税率は、原油輸出1トンあたり109.90ドル(およそ15ドル/バレル)。その目的は国内製油所へ
の原油供給を増加させ、併せて国内市場への石油製品供給量を増加させることにあるといわれる。
ただし、そのもくろみが実現するかどうかは不透明である。
・カシャガン油田など国際コンソーシアムの事業は、石油契約に基づき原油輸出税が免除されると見
られていたが、2009年からは、契約条件にかかわらずすべてのプロジェクトに原油輸出税を課した
いとの財務大臣発言があり、雲行きが怪しくなってきている。
・国営石油会社Kazmunaigaz(カズムナイガス)傘下のKazmunaigaz Exploration and Production
(KMG E&P)は業績上も大きな影響を受ける見通しであり、反発している。KMG E&Pは資本投資、
生産量、埋蔵量、買収計画などの抜本的見直しに入っている。
・カザフスタンの原油輸出税の負担は、ロシアに比べれば小さく、カザフスタンの地質的ポテンシャ
ルを考慮すれば、すぐに外国投資がストップするわけではないだろう。しかし、現在政府が検討中
とされる他の税制・石油法制(2009年1月施行見込み)の仕上がり方によっては、カザフスタンの石
油産業への投資の阻害要因となり得る。
1. 原
油輸出税の導入前倒し
とその対象事業について
ル/トン(およそ15ドル/バレル)”は、
この原油輸出税の前倒し施行に先駆
2008年第1四半期の平均原油価格(97.53
けて、マシモフ首相からの指示に基づ
ドル/バレル)に基づいて計算されてお
き、2008年5月19日には石油製品の輸出
カザフスタンでは2008年2月、石油・
り、これによりカザフスタンの国庫は
を禁止する規制が施行された *2 。加え
ガス産業からの税収を非エネルギー産
10億ドルの増収が見込めるともいわれ
て、ロシアとカザフスタンのエネルギー
業の育成や加工製品の輸出促進等の政
る(算定方式については本稿末の参考
当局者が、今後、2020年までエネル
策に充てることを目的として、ナザル
資料参照)。
ギー・燃料の需給バランスを適正に保
バエフ大統領、マシモフ首相が政府に
原油輸出税を導入する目的は、カザ
つための共同プログラムを検討するこ
よるエネルギー資源管理の強化や石
フスタン国内の石油製品価格の上昇を
とになったり、政府当局が石油製品の
油・ガス産業に対する税制の抜本的見
抑えることにあるとされている。すな
価格操作の疑いで捜査を始めたりして
直しの方針を打ち出した。
わち「原油輸出への課税⇒輸出した場
いるとの報道もある。カザフスタンで
そのなかでは新たに原油輸出税
合と国内製油所向けに販売した場合の
も石油製品の価格高騰が喫緊の課題に
*1
(Export Duty)を2009年1月から導入
ネットバック価格 の接近⇒国内製油所
なっているのは間違いないだろう。
する方針が示唆されていたのだが、そ
向けの原油販売インセンティブ増⇒国
次に、原油輸出税の対象だが、国際
の導入が早まり、必要な改正法案にマ
内製油所での石油製品精製量増大⇒国
コンソーシアムが開発・生産に取り組
シモフ首相が2008年4月8日にサイン、
内市場への石油製品供給量増加⇒国内
むテンギス油田、カルチャガナック油
6月1日に発効している。
製品販売価格下落」といったシナリオ
田、カシャガン油田(図1)といったプ
その税率、“原油1トンあたり109.90ド
が期待されているのである。
ロジェクトは、石油契約で税制の安定
*1:石油製品の加重平均販売価格から、運賃、保険料、精製コスト、マージンを控除し、逆算して得られる原油FOB価格。
*2:この措置は2008年6月1日から9月1日までの限定的なものであり、その目的は穀物の収穫に必要な農耕用機械向け燃料価格を抑えることにあるとされる。
67 石油・天然ガスレビュー
全体像次第では、投資意欲が格段に落
RUSSIA
NORTH CASPIAN
NORTH
CAUCASUS
なお、原油輸出税の導入に伴い、2004
カシャガン油田
収されているExport Rent Tax*4との二
テンギス油田
Tengiz
GEORGIA
ARAL SEA
CASPIAN
SEA
KURA
AZERBAIJAN
重課税を避けるための緩和措置がとら
Kumkol
NORTH USTYURT
ARMENIA
年の税制改正により導入され、現在徴
KAZAKHSTAN
Kenkiyak TURGAY
カラジャンバス油田
TURKEY
ち込むことが懸念される。
カルチャガナック ガス田
VOLGOGRAD
れる、あるいは現在検討中の税制改正
カズゲルムナイ
ウゼン油田
ALMATY
ACG
Shah Deniz
Cheleken
UZBEKISTAN
TURKMENISTAN
KYRGYZSTAN
Kotur Tepe
ASHGABAT
Shatlyk
Yoloten Gunorta
AMU DARYA
Taxを緩和する、あるいは税制そのもの
を簡素化する方針であるとの情報もあ
FERGANA
SOUTH CASPIAN
においては、法人税やExcess Profit
り、引き続きフォローアップが必要で
TAJIKISTAN
ある。いずれにしても、石油・ガス開
Dauletabad
Amu Darya
発投資の促進のためには早急に明確な
制度の構築が望まれるところである。
出所:JOGMEC作成
図1 カスピ海周辺の主要油・ガス田
2. 原
油輸出税の影響を大
きく受けるKMG E&P
性が規定されていることから原油輸出
ところ、輸出が継続している模様であ
税が適用されることはないと見込まれ
る。
KMG E&Pは国営石油会社である
ており、実際に政府が5月18日に発表し
原油輸出税がカルチャガナックなど
Kazmunaigazの
た原油輸出税対象企業のリスト(表1)
の既存事業にも適用されるとなると、
一翼でありなが
にも、国際コンソーシアムプロジェク
その採算性に悪影響を与える可能性が
ら、原油輸出税の
*3
トは含まれていなかった。しかし、カ
ある 。また、中長期的にもカザフスタ
悪影響を最も受け
ザフスタンのジャミシェフ財務大臣は、
ンでの新たな石油・ガス開発投資を阻
るといわれてい
議会で、これらの国際コンソーシアム
害する要因となることが心配される。
る。KMG E&Pが
にも2009年以降は原油輸出税を支払わ
カザフスタンには膨大な地質的ポテン
50%株式を保有し
せたい、と発言したと報じられており、
シャルがあり、大規模埋蔵量も期待さ
ている一部のプロ
雲行きが怪しくなってきている。ただ
れる残り少ないエリアであるため、潜
ジェクト(カズゲルムナイ、カラジャ
し、一時期、6月からの輸出が税関に差
在的投資家が急にいなくなることはな
ンバス)は税制の安定性を定めた条項
し押さえられる恐れがある、と報じら
いだろうが、2008年3月から抜本的見直
が存在していることから原油輸出税の
れたカルチャガナックからは、いまの
しが行われている税制・石油関係法制の
対象にはならないとのことだが、ウゼ
カザフスタン政府が5月18日に発表した
表1 原油輸出税の対象となる事業会社
1. Kazmunaigaz Exploration Production
11. Tasbulat Oil Corp.
21. Kazneftekhim Kopa
31. NBK
2. Kazakhturkmunai
12. Khazar Munai
22. Sazankurak
32. Tobearal Oil
3. Kazakhoil Aktobe
13. Karakudukmunai
23. Alties Petroleum
33. JV Matin
4. Petrokazakhstan Kumkol Resources
14. Zhalgiztobemunai
24. Atyraumunai
34. Potential Oil
5. Turgai Petroleum
15. Emir Oil
25. Svetland Oil
35. Ekogeoneftegas
6. Oil Co. KOR
16. Firma Fiztech
26. Arnaoil
36. Embavedoil
7. CNPC-Aidan Muna
17. Lancaster Petroleum
27. Gyural
37. Samek International
8. South Oil
18. Caspi Neft TME
28. Caspi Neft
38. Kozhan
9. Zhaikmunai
19. Sagiz Petroleum Co.
29. Pricaspian Petroleum Co.
10. Fial
20. Aral Petroleum
30. Adai Petroleum Co.
出所:Nefte Compass
*3:一部には、2004年以降の厳しい税制・石油法制が適用されている事業の場合、原油輸出税の影響は極めて限定的になるとの分析もある。
*4:Export Rent TaxはPSAでは免税。JV契約や利権契約が課税対象となる。原油価格に応じた税率を原油の輸出価額に乗じて算出される。ただし、税率の上限は原
油価格40ドル/バレル以上の場合の33%にすぎず、現在の高油価に応じた税収を確保できない構造になっている。
2008.7 Vol.42 No.4 68
カザフスタン・テンゲ (KZT)
24,990
23,611
22,233
Rebased closing price
Rebased closing price
米ドル
32.5
30
27.5
25
22.5
20,855
19,477
18,099
16,720
15,342
13,964
20
12,586
2007.9
2007.12
2008.3
2006
10.02
2008.6 年月
2007
4.23
2007
1.17
2007
7.26
2007
10.28
2008
2.06
2008 年
5.20 月日
(注)1KZT=約0.89円
出所:KMG E&P社ホームページより
出所:KMG E&P社ホームページより
ロンドン株式市場における
カザフスタン株式市場における
図2 KMG E&P株価の推移
図3 KMG E&P株価の推移
ン油田等同社の主力油田は原油輸出税
株価が下落すれば国民にとっても大き
退任したプーチン氏は、翌日の首相就
の対象になる。このため、KMG E&Pは
な損失となることから、親会社である
任時の所信表明演説で、石油・ガス開
原油輸出税の導入には早くから懸念を
KMGやKMG株を多く保有している国の
発を促進するために石油・ガスの開発
表明していた。また、原油輸出税の導
資産管理会社Samrukは政府に相当なロ
に関連する税制を緩和する方針を明ら
入が6月にずれ込んだのは、KMG E&P
ビー活動を行ったのだが、結局、政府
かにした。その後、ヤマル半島やティ
からの陳情によるものであって、KMG
はKMGを免税にしなかった。
マンペチョラ地域、また海上での油田
は5月中にできるだけ余剰在庫の輸出に
ただ、直近のKMG E&P株価を見ると、
開発にかかる資源産出税課税を緩める
努めたとも言われている。
このところ皮肉にも好調であり、必ず
方針も発表されている。
次に財務面のインパクトについてだ
しも株式市場が原油輸出税の導入を悲
また、ロシアの原油輸出税は、現在
が、原油輸出税は8億ドルのコスト増に
観的に評価しているわけではないよう
は1トンあたり340.1ドル(約46ドル/バ
なるとKMG E&Pは発表しており、別の
だ(図2、図3)。
レル)、また6月からは油価の上昇を反
試算でも売り上げの1/4程度に相当する
と見積もられている。KMG E&Pの2007
年の売り上げは約40億ドル、純利益は
3. ロ シアの原油輸出税と
の比較
13億ドルであり、8億~10億ドルのコス
映して398.15ドル(約54ドル/バレル)
にも達すると見られている。資源産出
税などの減税だけでロシアの原油生産
量を回復するのは不十分であるとの観
ト増のインパクトは決して小さくない。
お隣のロシアでは、原油生産量の減
測から、原油輸出税を引き下げる可能
KMGの株式はカザフスタンの年金基金
少が徐々に顕著になってきていると言
性もささやかれ始めており、カザフス
も大量に購入していると言われており、
われている。2008年5月7日に大統領を
タンが原油輸出税を新たに導入するの
12
10.0
10
9.8
(単位:百万b/d)
10.2
(単位:百万b/d)
14
8
6
4
9.6
9.4
9.2
9.0
19
8
19 5
8
19 6
87
19
8
19 8
8
19 9
90
19
9
19 1
9
19 2
9
19 3
94
19
9
19 5
9
19 6
97
19
9
19 8
9
20 9
0
20 0
01
20
0
20 2
03
20
0
20 4
05
20
0
20 6
07
0
年
出所:BP統計
2006.5
2006.6
2006.7
2006.8
2006.9
2006.10
2006.11
2006.12
2007.1
2007.2
2007.3
2007.4
2007.5
2007.6
2007.7
2007.8
2007.9
2007.10
2007.11
2007.12
2008.1
2008.2
2008.3
2008.4
2008.5
2
出所:ロシア産業エネルギー省
ロシアの石油生産量
図4 (原油のほか、NGL等を含む)
69 石油・天然ガスレビュー
図5 ロシアの原油生産量
年月
とは対照的である。この原油輸出税は、
CIS・バルト海諸国のガソリン価格
表2 (米ドル/1リットル)
ロシア企業にも外国企業と同様に等し
く課される負担であることから、例え
Early 2007
ばLukoilのアレクペーロフ社長などもそ
Country
の弊害についてたびたび言及している。
レギュラー
Early 2008
ハイオク
レギュラー
ハイオク
Azerbaijan
0.45
0.53
0.65
0.71
Armenia
1.12
No change
1.18
No change
ザフスタンはカシャガンプロジェクト
Belarus
0.86
0.98
0.99
1.13
の生産開始も控えていて、あまり生産
Georgia
0.76
0.85
1.04
1.12
量減少を心配しなくてもよく、逆に言
Kazakhstan
0.68
0.76
0.76
0.87
えば、そのような実害が発生しなけれ
Kyrgyzstan
0.7
0.77
0.71
0.8
ロシアと比較して、いまのところカ
Latvia
ば、その政策を一気に転換させること
は難しいのかもしれない、とロシアの
動きをウォッチしていると考えさせら
れる。
No sale
1.03
No sale
1.38
Lithuania
1.14
1.30
1.5
1.6
Moldova
0.87
0.91
1.17
1.23
Russia
0.92
0.96
0.84
0.9
Tajikistan
0.7
1.06
0.83
1.12
0.017
0.02
0.13
0.16
Ukraine
0.84
0.91
0.97
1.01
Uzbekistan
0.48
0.55
0.62
0.76~1.16
No sale
1.0
No sale
1.4
Turkmenistan
4. 国
内の製品供給量の増
加につながるか
Estonia
出所:Turan Energy
表2を見ると、カザフスタン国内のガ
ソリンの小売価格は、他のCIS、バルト
海諸国のそれと比較して、決して高い
精製能力があると考えられ、もし国内
国際市場での原油
わけではない。ただ、確かに昨年と比
製油所に原油が供給されれば、製品生
価格の騰勢があま
べて上昇していることは間違いなく、
産量が増加する余地は十分にあるもの
りに急で、原油輸
別の情報源でもカザフスタンの石油製
と思われる。
出税額の調整(2
品価格は2005年、2006年、2007年に、
ただし、KMG関係筋からは、「カザフ
カ月ごと)が追い
それぞれ10%、18%、14%上昇している
スタン国内には原油の売り先はないの
つかないため、や
とのことである。
で、結局輸出しなければならない。そ
はり輸出したほう
また、2007年にカザフスタンで実際
のため、原油輸出税はコストが増える
が経済的に有利になっているような事
に精製された原油は約8,800万バレル(日
という財務上の問題にしかならない」
例もあることから、原油輸出税の導入
量およそ24万バレル)であり、これは
との声もある。これを裏づけるように、
によってカザフスタン国内の石油製品
カザフスタンの主力製油所(アティラ
15ドル/バレル程度の原油輸出税では負
供給量の増加や国内製品価格の下落に
ウ、パブロダール、シムケント)の精
担が軽すぎて、カザフスタンの国内向
実際につながるかどうかは不透明であ
製能力のおよそ65%にすぎないと分析さ
け原油販売価格(30ドル程度?)に到底
る。
れている。別の情報によっても、2006
近づくことはできず、原油を輸出する
年は53%、2007年は60%の稼働率である
ほうがまだ高いネットバックが得られ
との分析があり、国内製油所には余剰
るとの分析もある。また、ロシアでは
(古幡 哲也)
【参考資料:カザフスタンの原油輸出税 その課税額算出方法】
原油の平均価格:P(米ドル/バレル)
原油輸出税 算出方法
19 < P ≦ 60
Pと19ドルの差の5%
60 < P ≦ 75
2.05ドル+(Pと60ドルの差の22.83%)
75 < P ≦ 90
5.48ドル+(Pと75ドルの差の38.21%)
90 < P ≦ 105
11.21ドル+(Pと90ドルの差の48.48%)
105 < P ≦ 120
18.48ドル+(Pと105ドルの差の55.82%)
120 < P
26.85ドル+(Pと120ドルの差の61.34%)
出所:現地新聞、報道より
2008.7 Vol.42 No.4 70