【イベントレポート】 Innovative Retail Seminar 2014 これからの人材

I. 概要
1.
開 催 日: 2014 年 8 月 8 日 (金)
2.
講 演 者 数:
6人
3.
参 加 規 模:
参加者数
134 人
II. 参加登録者データ (講演者、スポンサー企業、主催・協賛団体を除く)
業種別
業種
件数
小売業
飲食
サービス業
その他
111
24
38
41
その他
19.2%
小売業
51.9%
サービス業
17.8%
飲食
11.2%
部門別
部門格
件数
総務部門
経営企画部門
人事部門
営業/マーケティング部門
業務部門
その他
9
50
50
59
16
30
総務部門
4.2%
その他
14.0%
経営企画部門
23.4%
業務部門
7.5%
営業/マーケティング部門
27.6%
人事部門
23.4%
役職別
役職格
社長格
役員格
部長格
次長格
課長格
部門所属格
その他
件数
3
31
63
35
33
36
13
社長格
1.4%
その他
6.1%
役員格
14.5%
部門所属格
16.8%
課長格
15.4%
部長格
29.4%
次長格
16.4%
特別講演
トップマネジメントが挑む経営革新
~MUJI 流人材育成~
育つ“経験主義”の風土があったが、個人の経験値への
株式会社 良品計画
依存が大きく、何か失敗があればその担当者の責任とし
代表取締役会長(兼)執行役員
て処理された。しかし個人のやり方に責任を問うていて
松井 忠三 氏
は永遠に本質にたどりつかない。人のせいにするのでな
く「仕組みと構造」を変えないといけない。
また、経験主義では、商品計画やノウハウはすべて商品
開発担当者の頭の中にあるため、その人材がやめてしま
えば会社の資産も同時に失われてしまうという問題もあ
った。これらの体質から脱却するために、セゾン時代か
ら振り子を大きく反対に振り、
「仕組み化・見える化・風
土づくり」に着手することになった。
「社風を変える」と
いうことはものすごく大変なことだ。しかし変えなけれ
ば、「負けた構造」の抜本的な改革はできない。
1949 年生まれ。1973 年東京教育大学(現・筑波大学)体育学
部卒業。株式会社西友ストアー(現・合同会社西友)を経て 1992
実際に取り組んだことは、人材育成の仕組みを変えるこ
年株式会社良品計画入社。2001 年代表取締役社長に就任、赤
とだ。まず、先輩の背中を見て学ぶ“経験主義”ではな
字状態の組織を“風土”から改革し業績の V 字回復に尽力。
く、やり方を“標準化”するためにマニュアルを作成す
2008 年代表取締役会長に就任、組織の「仕組み化」を継続し
ることにした。次に、個人と会社のニーズがマッチし、
現在に至る。株式会社 MUJI HOUSE 代表取締役社長、株式会社
全体最適となるよう人材の移動と配置を実行に移す『人
アール・ケイ・トラック取締役を兼任。2013 年「無印良品は、
材委員会』を立ちあげた。さらに、教育の仕組みをつく
仕組みが 9 割」(角川書店)を上梓。
る『人材育成委員会』を組織し、私が委員長を務めてい
る。これは、徹底して行うためには「経営」と同列の重
1989 年の設立から順風満帆な成長を続けてきた良品計
きを「人事」に置かなければならないからだ。つまり、
画。しかし 11 年目(2000 年)にして初めて減益に転落
トップ自らが人事に介入して行うか、人事担当が“社長
し、その後、凋落の時代を迎えてしまった。リストラな
のニーズをきわめて的確に”行うしかない。
ど目に見える対策は次々と行ったが、一度落ち込んだ専
門店が復活することは非常に難しい。復活を図ると同時
<オペレーションの標準化>
に次の成長へ向けた準備、つまり「勝つ構造」を作らな
経験主義のやり方では、店長が 100 人いれば、100 通り
ければならなかった。
の手法が生じ、お客さまから見て店に統一感がなかった。
これを改善するためにマニュアルを作成することにした。
<仕組み化・見える化・風土づくりに着手>
最初は人事担当者が作成したが、現場でやってみると使
過去の経営を分析してみると、自分たちが育った「企業
いにくかったので、現場が主体となって作成し直した。
風土」に根本的な原因があるのではないかと思われた。
「自分たちの仕事だから自分たちで作らなければならな
例えば、良品計画の母体であるセゾン時代の仕事のやり
い」というわけだ。こうしてできたのが、13 冊 2000 ペ
方は“文化と感性”によるものであり、
“科学的”な考え
ージに及ぶマニュアル「MUJI GRAM(ムジ グラム)」だ。
方・行動とは言えなかった。そして、先輩の背中を見て
しかしマニュアルにも欠点があった。標準化する機能に
は優れているが、半年、1 年も経って仕事が変われば、
かりすることで彼らは幹部候補として育ち、その上、他
それに対応できなくなるのだ。そこで、
「変わっていくマ
の会社からポストを提示されてもやめなくなった。
ニュアル」を作ることにした。イントラネットを活用し
て、現場から出てきた改善点を販売部門に集め、改訂し
ていくという仕組みだ。これによって、内容が月ごとに
20 ページ、マニュアル全体の 1%が変動するものになっ
た。海外の店舗でも各国の事情で仕事の進め方が異なる
ため、現地の人材が自ら改訂し、ローカル化する仕組み
も作っている。誰が店長になっても同じようにうまくい
く仕組みを作ることで、店舗はほぼ標準化された。
店舗だけでなく、本部でも標準化が必要だ。そこで 9 冊
<風土を変える仕組みづくり>
7000 ページにも及ぶ業務基準書を作成した。本部では定
日本は職能給制度のため、ホワイトカラーの生産性が低
期的に異動があるが、異動の度にゼロからスタートする
くなってしまうという問題がある。これを改善する仕組
ため、知識と経験が薄くなるという問題があった。その
みが必要だ。そのため、
「課題を解決するまでの“デッド
点、業務基準書をすべて読めば業務知識は得られ、あと
ライン”で仕事を管理する」仕組みを作ることにした。
は経験するだけとなる。異動がマイナス要因になること
全員に進捗状況を見えるようにし、できたかどうかを確
を防ぎ、早い段階で経験を積ませることに役立っている。
認できる DINA(ダイナ:Dead line Instruction Notice
この業務基準書も「MUJI GRAM」と同様に、仕事内容の変
Agenda)システムを作った。“報連相”や、ひとつひとつ
化に合わせて四半期に 1 回、書き変えている。
手取り足取り教えてもらうのでは人は育たない。課題を
いつまでに解決するか。これによって生産性を高めるこ
とができる。
また、残業が多い会社だったが、毎日残業が続く働き方
では疲弊してしまう。ノー残業デーを週に 1 日、2 日と
増やし、残業ゼロに移行し、定時退社ができるように仕
組みを変えた。そのために、各個人の仕事量を 1 割減ら
すようにした。挨拶も重要だ。新入社員にいくら「挨拶
をしなさい」と教育しても、店長が自ら実践しなければ、
新入社員もやらなくなる。トップから実践するように徹
底教育し、社長自らも実践していった。このように、
「キ
<人材の異動と配置>
チンとした風土」で仕事ができるように尽力した。
経験主義の会社では、人が一度変わると、それまでの体
制を全否定することになる。つまり人材の異動が起こる
風土をどう変えるか。
「決まったことを決まった通りキチ
たびに戦力ダウンすることになる。これを解決するため、
ンとやる」風土をつくることに尽きるが、このためには
「後継者をうまく作る」仕組みを導入した。部長と課長を
確実にキチンと「実行しきるかどうか」がカギだ。良い
対象に、ポテンシャルとパフォーマンスの評価軸で 5 つ
取り組みも、やめるとすぐに元に戻ってしまう。続けな
のブロックに配分し、後継者候補を見えるようにした「フ
ければいけない。他の一流企業を見ても、
「現場で見つけ
ァイブボックス」だ。これによって最適な人事配置がで
た問題を 100%解決して、それを永遠に続ける風土」が
きるようになった。海外での採用方法も変えた。海外で
強さとなっていると思う。
は現地人のトップを作らないといけないが、現地の一流
大学を出た人々は売り場を経験させるとやめてしまうこ
とがある。そこで日本に連れてきて 3 年間研修を受けさ
せることにした。日本でコンセプトと風土の教育をしっ
事例講演
スシローが考える『ピープルビジネス』とは
~その戦略と課題~
株式会社あきんどスシロー
長することができない。そこでコミュニケーションのスタ
常務執行役員 人事総務本部長(CHO)
イルを変えようと始めたのがコーチング研修だ。結果とし
宇田 武文 氏
て、コミュニケーション力が上がり、話を聞く、目標を立
てる、相手が自立的に考え行動するサポートをする、など
のスキルが身についた。また、昇格研修制度を新設し、こ
れまで課長や店長が店長候補に対して OJT で行っていた
研修を本社の教育部門に移した。OJT では店長によってや
り方が異なるため、他店に配置になった時には新しい店長
にやり方を合わせなくてはならなかったが、本社で統括す
ることで、この無駄をなくすことができつつある。
<アルバイト・パートの人事・教育制度>
1970 年広島県生まれ。大阪大学卒業後、電通国際情報サービス、
そもそも日本の人口は構造的に減少しているため、どのよ
A.T. カーニー等を経て、2008 年(株)あきんどスシローに参画。
うにアルバイト・パート人材を確保して業績・利益を上げ
2009 年同社へ執行役員として転籍。2013 年 常務執行役員に就任。
ていくかが課題だ。以前は人手不足のため、とにかく募集
をしていたが、採用後すぐに辞める人が多く、
“定着率”が
当社は創業以来増収を続けており、特に 2011 年以降は 1
非常に悪かった。新人がきちんと教育されないまま、もの
店舗当たりの売り上げが急上昇して飲食業界で最大とな
すごいスピードが求められるオペレーションに直面し、
「大
った。広告戦略も奏功しているが、それと同時に「人事・
変だ」と思って辞めるという悪い流れがあった。そこで募
教育制度」を大きく変えてきた。現在出ている成果として
集・採用ではなく、まずは入社した人にいかに“定着”し
顕著なのは、退職率が大幅に減ったこと。また、応募・採
てもらい、
「スシローの仕事って面白い」と思ってもらえる
用数が増加し、新入社員の質も向上した。社員へのアンケ
か。ここに焦点をあてることにした。
ートによると「労務環境の改善」による影響が大きい。
新人教育の方法として、「e ラーニング」を活用した。店舗
<経営理念を刷新>
が忙しいと、仕事を教える時間の確保が難しい。しかし e
また、2011 年には企業理念を刷新した。当社は従業員が 3
ラーニングは新人が一人で学習することができ、入ったそ
万 5000 人いる「ピープルビジネス」の会社。当然、
「会社
の日にスピードは遅いものの作業ができる。あとはベテラ
の利益」や「お客様の満足」も大事だが、従業員が助け合
ンがサポートしながら実際に 2-3 回やれば覚えられるとい
って、良い仕事をすることも大切だ。したがって、企業理
う仕組みだ。
念に「仲間の笑顔」を明記し、さらに、滅私奉公になって
また、e ラーニングには副次的効果もあった。新人を教える
燃え尽きないよう、「会社の利益」、「お客様の満足」、「仲
立場にあるスタッフに同じ e ラーニングを受講してもらっ
間の笑顔」の 3 つの真ん中に「自分の幸せ」を置き、社員
たことで、オペレーションの標準化が一気に進んだ。以前
を大切にすることを明文化した。
からあったマニュアルでは得られなかった成果といえる。
<社員の人事・教育制度を刷新>
経営者は、人事のことより業績に意識が偏りがちだ。そこ
教育面ではコーチング研修や昇格研修制度などを新設し、
で経営者に対して、人事の重要度が高いということをマメ
マネジメントスキルを体系だって学べるようにした。上か
にアピールし、小さくとも成果を見せ続けることで、
「人事」
らの指示に従って仕事を進めるだけでは、自分で考えて成
に意識を向けさせることが大事だと考えている。
講演
リテールラーニング、店舗人材育成の未来像
株式会社ライトワークス
ること、そして自分の成長度を“見える化”することが重要
ビジネス開発部長
だ。これによってスタッフのやる気を醸成することができる。
井上 将司
また、
「店長とのコミュニケーションの促進」という面では、
忙しくて時間がなくても一方的な教育にならないよう配慮
し、相互のコミュニケーションを促進することが重要だ。そ
のため、店長の負荷を減らしつつ、少ない時間で質の高い教
育ができることが望ましい。さらに、施策がスタッフの就業
意識にどう影響しているかを「モニタリング」をすること。
これらが三位一体となって、満足度の向上につながると考え
られる。
日本電信電話㈱などを経て現職。
大手フィットネスクラブのタレントマネジメントの仕組みを構築
する(2008 年~)など、企業のビジネスニーズに対応した人材育
成体系の策定やトレーニングの設計に多くの実績を持つ。現在も
多店舗展開企業向けに業績・CS・ES の向上に直結する教育施策の
設計に携わる。ライトワークスビジネスベーシックシリーズ『コ
ーチング』(ファーストプレス社)を執筆。
<人材不足の現状>
<e ラーニングの活用>
日本では今後 50 年で 15~64 歳の生産年齢人口が 3500 万人
これを実現する一例として当社のショップマスターという
減少すると言われている。その中で多店舗展開企業がパー
システムを紹介する。新人が修得すべきスキルの項目を修得
ト・アルバイトといった働き手をどう確保するか考えてみた
タイミングや分野別に整理しているため、新人スタッフは仕
い。当社が多店舗展開企業のスタッフに意識調査を行ったと
事の全体像と「いつまでにどんな仕事を覚えるべきなのか」
ころ、“スキルのある人”ほど、従業員満足度(ES)は高く、
が分かる。また、修得すべきスキルと、そのスキルの獲得に
“スキルが無い”と思っている人ほど仕事に不満を持ち、ES
有効な e ラーニングなどの教育素材を紐付けでき、さらに修
は低いという傾向が見られた。また、店長から定期的にフィ
得状況を本人と店長で確認し合うことができる。
ードバックを受けているという人ほど ES が高く、受けられ
このシステムを活用することによって、新人スタッフは仕事
ていない人ほど低いという傾向があることも分かった。人材
に必要なスキルの修得を通じて、成長を実感することができ
不足の原因の 1 つ、
「定着率の低さ」に着目して考えると、
る。一方店長は新人教育に携わる負担を減らしつつ、フィー
これらの事実から、パート・アルバイトスタッフが「自分の
ドバックを中心としたコミュニケーションにより多くの時
成長を実感できないこと」と、「店長とのコミュニケーショ
間を割くことが可能になる。
ン(フィードバック)不足」が、人材不足や定着率が低い原
因の 1 つだと考えられる。
人材不足という問題に対しては、外国人・女性・高齢者の活
用など雇用機会の拡大に目が行きがちだが、「ワークモチベ
<対処法>
ーション」を高めることによって労働者の流出リスクを抑え
「成長の実感」を得るためには、新人スタッフがはじめに仕
ることがより重要であるといえる。
事の“全体像”と、自分がその仕事で担う“役割”を理解す
パネルディスカッション
今、問われるアルバイト・パート活用
~これからの人材戦略~
先進的な人事育成の取り組みをしている2社の人事責任者、
宇田)スシローでも昨今、パート・アルバイトの不足は厳し
宇田武文氏(あきんどスシロー)と若月貴子氏(クリスピー・
く、先ほど講演したような施策によって、なんとか前年並み
クリーム・ドーナツ・ジャパン(以下 KKDJ))に加え、慶應
を維持できています。
義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)特任教授の岩本隆氏
若月)KKDJ は、実は今のところ人材確保にはあまり苦労し
をお招きし、今後の日本のアルバイト・パート活用について、
ていません。人手不足で営業が回らなくなることもなく、当
「採用」、
「定着化」、
「シニア・女性・外国人の活用」、
「生産
社のカラーに則した人材を選ぶ余地がまだあります。
性の向上」という論点でパネルディスカッションをした。
田中)時給の推移グラフをみてみると、飲食業界で上昇傾向
にあります。
<人材需給の現状>
宇田)景気が回復してきており、行政も最低時給アップの方
田中)各種のデータを見ると、
「人材需給のギャップ」が読
針を打ち出しているので、「上がる」という前提で経営を組
み取れます。10 数カ月の間、求人倍率も上昇しつづけてお
み立てています。さらに社会保険の加入基準も変更されるた
り、飲食・小売業界では 4 割強の企業が「パート・アルバイ
め、労務費は 2020 年までにかなり上がると思います。単純
トを確保できていない」と答えています。人材不足は各ビジ
に教育をしてスキルアップするだけでは今のクオリティを
ネスに影響を与えているようです。
維持することは難しいと考えており、業務内容や設備等、抜
本的な見直しが必要だと思います。
パネリスト
株式会社あきんどスシロー
常務執行役員 人事総務本部長(CHO)
宇田 武文 氏
クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン株式会社
執行役員
管理本部
本部長
若月 貴子 氏
西友の経営企画部門にて海外・金融事業等グループ会社管理を担当、海外マネジャー、広報室マネジャー
を歴任。2007 年、経営コンサルティング会社である経営共創基盤入社。2012 年にクリスピー・クリーム・
ドーナツ・ジャパンに入社し、現職。経営企画・経理・財務・人事・総務・システムを担当。
慶應義塾大学大学院
経営管理研究科(KBS)特任教授
岩本 隆 氏
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)工学部材料学科 Ph.D.。
日本モトローラ株式会社、日本ルーセント・テクノロジー株式会社、ノキア・ジャパン株式会社、株式会社
ドリームインキュベータ(DI)を経て、2012 年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)特任教授
モデレーター
株式会社ライトワークス
取締役(COO)リテールラーニングファクトリー代表
田中 裕樹
日本たばこ産業(株)、
(株)グロービスを経て(株)ライトワークス創業に参画。グローバル企業との提携・
買収から創業支援まで幅広い経験を有する。現在は主に、サービス業等の店舗系企業に対するコンサルティ
ング、人材育成支援に従事するとともに、各種講演、媒体への寄稿多数。東京大学大学院修了、テキサス大
学オースティン校経営学修士(MBA)。
<人材確保の対応>
田中)人材確保のための対応として、未経験者やシニア・女
性・外国人への採用対象拡大、給与などの処遇改善、業務効
率化やアウトソーシングといった対応をする企業が多いよ
うです。
岩本)本質的には、自分の会社が「モテるのかモテないのか」
を考える必要があります。モテない会社がモテる会社の対応
を真似してもうまくいきません。KKDJ はモテることに徹底
的に取り組んでいるので人材確保に苦労しないのだろうと
思います。モテない場合にどうやったらモテられるかを考え
ないといけません。
田中)モテる、つまり魅力ある会社になれば採用もスムーズ
にいくと。そういう意味では、KKDJ は、採用時の選別が結
果としては魅力を高めることなり、応募したがる学生が多い
と聞いています。採用時にオーディションも行っているとか。
若月)創業当初からの取り組みで、グループ面接を行ってい
ます。プレゼンや店頭をイメージした寸劇などを行い、自社
とブランドへのフィット感、そして接客業へのポテンシャル
と適性を見ます。KKDJ のブランドに興味・あこがれを持っ
ている子を採用しやすいです。それがその先の仕事の能力の
長と一緒に確認していきます。さらに次の段階の教育として
「シフトマネージャーブックレット」がありますが、かなり
細かい内容となっているため、店長も多くの時間を割かなけ
ればならないのですが、店長自身にも基本的なスキルが身に
着き、知識を修正する機会となっています。
また「Creating Magic Moment (クリエイティング・マジッ
ク・モーメント)」というフィロソフィーの共有も進めてい
ます。私たちの使命はドーナツを売るだけではなく、
「お客
さまを感動させること」であり、そのために何をするのか、
アルバイトスタッフが中心にになって考え、取り組んでいま
す。これによってモチベーション・従業員満足度の高い職場
が作られ、賃金というよりは「
(フィロソフィーを背景とし
た)働く場所の面白さ」がアルバイトスタッフの間で広がっ
ています。
高さにつながっていくと思います。
<人事は経営>
<定着化の方策>
岩本)人材マネジメントの方法をブラックボックス化してい
田中)それが最終的に定着化・評判につながっているという
る会社がとても多いですが、そのぐらい人材マネジメントが
ことですね。「定着」を採用と同時に図るやり方が重要だと
競争力の源泉になっているということです。
“経営の視点で
いうことが浮かび上がってきます。スシローでは定着化のた
人材教育をする”CLO(チーフ・ラーニング・オフィサー)が
めに他に行っていることはありますか。
欧米では推進されてきているが、日本でも必要だと考えてい
宇田)講演では、個人がどうやって短期間で仕事を覚え、定
ます。
着率を向上していくかについて話しましたが、もう 1 つ、チ
宇田)スシローで人事教育施策を推進できたのは、経営メン
ームワークをどうやって築いていくのかもポイントです。い
バーの中に人事担当役員が入り、経営の視点から人事を計
ま実験的に取り組んでいるのは、自分が担当する工程の前と
画・実行できていることが大きいと思います。人口減少・賃
後の工程をやってみるということ。できる業務を単純に増や
金上昇という流れの中で当社のような労働集約型ピープル
していくのではなく、互いの仕事がわかり、相互理解が進む
ビジネスをどうしていくかは、
「人事」の問題ではなく「経
ことを狙っています。
営」そのものの問題として取り組まないと到底解決できませ
田中)KKDJ では、入社後に、定着化のため取り組んでいる
ん。
ことはありますか?
岩本)欧米に比べて日本の生産性は低いと言わざるをえない。
若月)当社に入るスタッフはもともとブランドに対する思い
サービス業だけでなくスポーツや文化芸術でも同様です。日
入れが強いので、定着率は高いのですが、さらに強化させる
本人は「良いものをより安く」が心地よいようですが、それ
ためにトレーニングを行っています。初めにブランド理解、
は間違い。
「良いものはより高く」売りましょう。
「プライシ
アピアランス(外観、見え方)など基本的なことを学び、続い
ングは経営」ですのでサービス業の価値を上げていくことが
て「トレーニングブックレット」を使って基本的な動作を店
重要です。