米国白内障・ 屈折矯正手術学会レポート

May1 - 5, 2004, San Diego, CA, USA
米国白内障・
屈折矯正手術学会レポート
2004年5月1日∼5日、米国サンディエゴにおいて米国白内障・屈折矯正手術学会(ASCRS)
が、
サンディエゴコンベンションセンターにて開催された。
本年度は、
「 Educational and Entertaining な会議に」の趣旨のもと、
従来のコース等に新企画“ 3 minutes paper presentation ”を加え、
より多くの科学的情報を短時間で効率よく習得するものになった。
その他に、
「Technology Center」と題する情報ステーションが会場随所に設けられ、
インターネットやメールを利用する人で、常時、順番待ちの状態であった。
CONTENTS
Course Report
白内障・屈折矯正手術をめぐる話題
●
Special Issue
ASCRS 私の体験記
●
2003-2004年度会長
Dr. Stephen S. Lane
Film Festival Report
2004-2005年度会長
Dr. Priscilla P. Arnold
絶えず順番待ちのTechnology Center
●
Survey
ASCRS 会員へのアンケート調査結果
2004年9月作成
11060 02 0I4 01
Opening General Session
前年度会長のDr. Stephen S. Laneは、
その在任期
間中に、各臨床委員会の自主性を増強したことを取り
上げ、ここから将来のリーダーが育つものと期待感を
表明した。また、本年米国退役軍人局が一部の地域で、
検眼医にレーザー手術の実施を許可したことに対し、
その一時阻止に成功したと報告した。
新会長のDr. Priscilla P. Arnoldは、
「Surgery by
Surgeon」の標語をかかげ、眼科手術の専門性保護
今後のASCRS開催予定と開催地
●2005年4月16日∼20日
ワシントンDC
●2009年4月4日∼8日
サンフランシスコ
●2006年3月18日∼22日
サンフランシスコ
●2010年4月10日∼14日
ワシントンDC
●2007年4月28日∼5月2日
サンディエゴ
●2011年3月26日∼30日
サンディエゴ
●2008年4月12日∼16日
シカゴ
●2012年4月21日∼25日
シカゴ
のため、自身の経験と強力な人脈を駆使して活動する
●2013年4月20日∼24日
サンフランシスコ
ことを誓った。さらに、白内障手術の治療費低下問題
に対して、
「Open Your Eyes」プロジェクトを立ち上げ、
研究データを基に現代の白内障手術の価値をアピー
ルすると発表し、就任の挨拶とした。
Course Report
ASCRSの発表から、白内障手術関連の話題について
おり、
この新しい術式に対する欧米での関心の高さにびっくり
常岡寛先生、永原幸先生、柴琢也先生、山内康照先生に、
させられた。本術式に関するインストラクションコースは9コース
屈折矯正手術関連の話題について大野建治先生、山田
もあり、会場が満席で立ち見がでるコースもあった。今回発表
英明先生に報告していただく。
されたASCRS会員アンケート調査では、術者の約40%が本術
式を経験しており、約20%が本術式を第一選択にしていると
のことであった。日本では、
まだ「マニアの手術(?)」と思われ
ているようであるが、本術式に対する日本と欧米での温度差
を実感することになった。
常岡 寛
Hiroshi Tsuneoka
東京慈恵会医科大学附属
第三病院 眼科 診療部長
日本では“ 極小切開白内障手術 ”という名称で定着して
いるが、欧米では様々な名称がつけられていた。スリーブを
外した超音波チップを用いた超音波乳化吸引術が注目され
たのは、1985年にAIIS(American Intraocular Implant
Society Congress)のFilm Festivalで、原 孜先生が「水
晶体s内フェイコ」を発表されてグランプリを取られた時である。
極小切開白内障手術
10年以上経過した2000年のASCRSでインドのAgarwalが
“ PHAKONIT”という名称で、私が“ Ultrasmall Incision
今 学 会 では 、極 小 切 開 白 内 障 手 術( M i c r o i n c i s i o n
Phaco”という名称で本術式を発表したのだが、その時はあ
Bimanual Phaco Surgery)に関する演題が非常に増えて
まり注目を浴びなかった。しかし、2002年になるとDr. Fine,
01
ASCRS 2004 Report
Prof. Olson, Prof. Chan, Prof. Alioなど欧米のオピニオン
リーダーと言われている術者たちがこぞってこの術式の将来
性を認め始め、宣伝したため、昨年のASCRSではブレイクした、
永原 幸
という感じであった。米国では未だ極小切開創から挿入でき
Miyuki Nagahara
るIOLが認可されていないため、各術者で「Micro Incision
東京大学医学部附属病院
眼科・視覚矯正科 講師
Bimanual Phaco」
「Bimanual Phaco Surgery」
「Micro
Phaco」などと名付けて呼んでおり、欧州では1.5∼1.8mmの
切開創から挿入できるIOLが手に入るため「Micro Incision
Cataract Surgery」
「MICS」などと呼んでいた。
私自身 5 年 間 、様々なトラブルを解 決しながら改良してき
小児白内障手術について
た術式であるが、欧米でこれ ほど評価されてしまうと、ちょっ
と戸惑ってしまうのが正直な感想である。発表されていた講
成人に対する眼科手術は質に重点が置かれ、白内障手術
演を聴くと、殆どの演 者は本 術 式 のメリットがc l o s e d e y e
においては調節やモノビジョンなどを視野に入れた研究が行
surgeryであると考えているようであった。AMO社のWhite
われている。これらの研究が可能になった背景には、小切開
Star technologyの登場によって、創口熱傷の心配が少なく
で行える超音波白内障手術が低侵襲で、術後成績について
なったことから、超音波チップを挿入する創口をできるだけ小
も満足できる水準に到達した実績がある。
さくして 創 口 からの 漏 出をなくせ ば 完 全な c l o s e d e y e
一方、小児の白内障手術では麻酔、眼内レンズ(IOL)の
surgeryになり、
より安全で効率的な乳化吸引ができる、
とい
適応(年齢)、術後の偏位、屈折の変化や後発白内障(PCO)
うことが強 調され ていた。彼らの術 式をまとめてみると、幅
など未解決の問題があり、各国の術者が様々な報告を行って
1.2mmの創口から20ゲージの超音波チップと20ゲージの灌
いた。Hot topicsのシンポジウムでは発展途上国における小
流チョッパーを挿入し、灌流ボトルを高さ100cm以上にしてフ
児の白内障手術が取り上げられ、麻酔やIOL、粘弾性物質の
ェイコチョップで核を乳化吸引する、
というものであった。米国
コストの問題があること、手術はvitrectomy用のカッターで水
では、IOL挿入のために幅2.6∼3.0mmの角膜切開創を別の
晶体の吸引と後s切開、前部硝子体切除を前房(灌流も)か
部位に作成しており、創口の大きさだけを考えたらあまりメリッ
ら行っていること、眼内レンズはs内へ挿入し、後sを光学部
トはないようであるが、
それでもBimanual Phacoで核を処理
へキャプチャーさせる手技を紹介していた。
した方が通常のPhacoで処理するよりも侵襲が少ない、
と考
えられているのである。
ポスターでは、網膜芽細胞腫に対する放射線治療が原因
で白内障になった6症例(3∼6歳)に対して白内障IOL(アク
創口をできるだけ小さくすれば、創口からの漏出がなくなり
リソフ )手術を行ったところ、術後1∼2年にPCOを発症した
前房の安定性は良くなるが、果たしてそれで低侵襲の手術が
症例は1症例だけで、
それ以外は発症していないこと、発症し
できるのか、疑問に思っている。外径0.9mmの超音波チップ
た症例についても軽微なもので、光学部までは混濁していな
を1.2mmの創口から挿入すれば、狭い創口に無理やり硬い
いと報告していた。私自身も網膜芽細胞腫の白内障手術を
チップを突っ込むことになり、創口は円形に変形してしまう。
担当した経験があるが、腫瘍細胞の活動性がないと分かって
創口熱傷を起こさないとしても、チップの動きなどによって創
いても、後s 切開については非常に迷うところである。硝子
口は機械的な外圧を受け、
ボロボロになってしまう危険性があ
体中に播種した腫瘍細胞に活動性があった場合、後s 切開
り、閉鎖性も悪くなると思われる。私は、創口を1.4mmにし、灌
によって眼外へ 転移する可能性がある。この結果は放射線
流ボトルは80cm以下の高さにしてdivide and conquer法で
治療がPCOの抑制になっていると考えられ、安全な手術の適
乳化吸引した方が眼球への侵襲は少なく、
よりきれいな手術
応に有用な報告であると考える。
ができると確信しており、今回のインストラクションコースでも、
その点を強調して講演した。
多数のIOLメーカーが極小切開用のIOLを開発中であり、
4ヵ月から18ヵ月(15症例)の白内障に対するIOL(アクリソ
フ )挿入の報告では、13眼に後s 切開を行い、7眼に前部
硝子体切除を行い、術後合併症として、瞳孔領の膜形成が3
米国でも1.5mmの切開創から挿入可能なThinOptX IOLが
眼、PCOが7眼、虹彩前癒着が2眼、後癒着が3眼、前房出血
FDAの治験に入ったことから、今後も本術式に対する期待は
が1眼あり、再手術率は33%(5眼)
と報告している。生後1年
高まるものと思われる。創口が小さいことは、低侵襲手術の必
未満の症例ではIOLの偏位、PCO、虹彩癒着が高率に発症
要条件であるが十分条件ではない。創口を小さくすることに
しているようで、今後の問題点であると考える。
より、かえって侵襲が大きくなったり術後の結果が悪くなった
この他にも、小 児における白内 障の術 後 屈 折の変 化、外
りしてはいけない。極小切開白内障手術が、真の低侵襲手
傷 性 白 内 障 術 後 経 過 、屈 折 矯 正 手 術など、有 用な報 告が
術に成熟していき、来年のASCRSではさらに進歩した極小切
多かった。
開白内障手術の手技が発表されることを期待している。
ASCRS 2004 Report
02
緑内障手術について
A S C R Sで緑 内 障のシンポジウム、セッションやコースが設
けられるようになったのは、緑内障と白内障を合併している
患 者 が 少なくないという背 景とR .
S t e g m a n nが提 唱した
viscocanalostomyがASCRSから広がっていった経緯がある
柴 琢也
Takuya Shiba
東京慈恵会医科大学
眼科学教室
ように思われる。私が1994年に本学会に参加したときは、緑
内障のセッションやコースなどはなく、角膜切開のセッションで
角膜切開の白内障手術と同時に行ったviscocanalostomy
をStegmannが報告していた。
2000年の本学会で臨床成績が発表されて以来、従来の
本年は緑内障のシンポジウムが設けられ、各種緑内障手術
多焦点IOLとは機序が異なる調節可能なIOLが注目を集め
の術後成績の比較や、治験中のEye Passという前房からシュ
ている。今回も多くの発表がされ、
また、新しい多焦点IOLの
レム管へ留置するチューブの術後成績(10mmHg前半)が報
発表も幾つかなされていたので報告する。
告されていた。Viscocanalostomyについてはラーニングカー
ブがあること、白内障手術と同時(phacoviscocanalostomy)
Accommodative IOL
に行うと眼圧がより下がることが報告されていた。私自身は
viscocanalostomyやphacoviscocanalostomyを行い、術後
① CrystaLensTM(Eyeonics, USA)
経過を観察しているところだが、ブレブがないこと、難症例に
このIOLは2000年の本学会にてAT-45 accommodative
おいても術後に抗緑内障薬の点眼を追加すれば10mmHg
IOL(C&C vision, France)
として臨床経過が報告されてお
前半を4年以上維持している症例もあることから、症例を選択
り、光学部を移動させて屈折度数を変更する方式を取り入れ、
すれば有用な術式であると考える。
臨床的に採用された最初のIOLである。その構造は光学径
本学会で発表される内容は、短絡的なものから科学的根拠
4.5mm、長径11.5mmのmulti peaceのsilicone IOLとなっ
を証明しているものまで幅広い。例えば数年前、
レーザーによ
ている。大きな特徴として光学部と支持部の境に溝が入れら
る白内障手術は非常に注目されていたが、今年はブース展示
れており、毛様体筋の収縮により光学部が前方移動して焦点
になかった。日本では某メーカーが既に開発しており、手技的
を近方に合わせるように設計されている。M. Colvardは、両眼
にも新しくないが、内視鏡とレーザーが一体になっているプロ
にこのIOLを挿入した4年後の結果を発表していた。それによ
ーブで毛様体光凝固を行う機器が市販され、R. J. Mackool
ると70%以上が遠方裸眼視力20/30以上、全ての症例で近方
が発表していた。
裸眼視力がJ3以上であるとの事だった。また、後発白内障のた
前s切開用にプラズマブレードを開発したRichard J. Fugo
めYAG laserによる後s切開術が必要になったのは450眼中3
が、本装置をFugoブレードとして市販している。剥離手術に
眼と低率であり、IOLが動いている事が後発白内障の発生を
使うテーパー状のジアテルミー針に似たブレードの先端からオ
抑えている可 能 性 があると話していた 。 また、光 学 径 が
レンジ色のプラズマが出ている。この装置を緑内障に応用し
4.5mmと小さいために夜間のグレアが気になるところだが、単
た発表も数年前から行われているが、角膜輪部近傍の強膜
焦点IOLと比べて有為差は認めないとしていた。実際に使用
から毛様溝へ刺して、後房から結膜下へ房水を出すという濾
する際の注意点として、術後早期にIOLの中心固定が得られ
過手術である。ある先生はダイアモンドナイフのように切れると
ない場合は速やかに修正して、
それでも元に戻らない場合は
表 現されていた。確かに非 常によく切れる( 緑 内 障 手 術や
3週間以内に単焦点IOLに入れ替えるべきであるとしていた。
DCRは5分でできると発表されている)ようだが、私の錯覚で
また、術後早期に屈折誤差があれば交換を勧めていた。
なければ切断されている周囲の強膜は熱によってものすごい
② Akkommodative 1CU(HumanOptics, Germany)
勢いで縮んでいるように見えた。手術を受けた緑内障の小学
このIOLは光学径5.5mm、長径9.8mmのone peaceの
生が翌日から学校へ登校できるという話もあるが、手術は5分
hydrophilic acrylic IOLである。光学部と支持部の境に溝が
で終わるので詰まればまたあけるという方針のようである。
入れられている点は上記のものと同様だが、hapticが4方向か
このように毎年いろいろな医療機器や手技が開発され注目
ら出ていて、調節レンズには特に必須である中心固定が良好
を浴びているが、受け入れられなかったものについては速や
であるとの事である。R. Hoffmanの発表では、
このレンズを挿
かに消えていくようである。
入した症例の調節力は平均2.02Dであるとの事であった。
③ BioComFold 43E(Morcher IOL, Germany)
本稿を執筆中に超音波装置を開発したCharles D. Kelman
先生の訃報が知らされました。癌との厳しい戦いだったようで、
この紙面をお借りしてご冥福をお祈りいたします。
03
ASCRS 2004 Report
このレンズも1CUと同様に一体型の調節IOLである。
以上、3種類のsingle opticの調節IOLを紹介したが、H. B.
Dickによると、IOLが後房内で前方に移動する事によって生じ
る近視化は、IOL及び患者の角膜の屈折力で大きく異なる。そ
のため、十分な調節を行うためには、1枚のIOLの移動のみで
は不十分な事も多い。そこで少しの移動でより効率的に調節
を行う事を目的として、2枚のレンズを組み合わせたIOLが開発
私の体験記
された。
A
④ Synchrony lens(Visiogen, USA)
このレンズはs状をしたone peaceのシリコーンIOLである。
今回、ASCRSに初
参加あるいは2回目
の参加となる3名の
先生方に、ASCRS
での体験や感想を
語っていただいた。
SCRSに参加するきっかけ
は、国 外 の 臨 床 系 学 会を
体 験するとともに、国 内で
光学径5.5mmのプラスレンズを前面に、6.0mmのマイナスレ
は発表となっていない最新の手術デバ
ンズを後面に配して、水晶体sが収縮する事によりその距離
イスなどを見学してみては、
と上司に薦
を縮めて屈折力を変化させようというものである。立体構造
をしているが、折り畳んで4.5mmの創口から挿入可能であり、
インジェクターが開発されれば3.5mmの創口から挿入可能と
いう事である。R. Hoffmanによると、2.5Dの調節力を得るため
に20Dのsingle peaceの調節IOLでは2.0mmの移動が必要
であるが、前方+40D/後方−20Dの本レンズでは0.9mmの移
動で可能との事である。H. B. Dickによると、実際の臨床結果
められたためでした。幸い、現在取り組
松井 英一郎
Eiichiro Matsui
獨協医科大学
眼科学教室
んでいる“アクリルレンズに発生するグ
リスニンングの再現性”というテーマが
学会の趣旨に一致したため、参加させ
ていただくこととなりました。ASCRSは
一昨年のフィラデルフィア、昨年のサンフランシスコと毎年異な
る都市で開催され、本年のサンディエゴは南カルフォルニアに位
置する雨が少なく温暖な気候、青く高い空に眩い陽光、変化に
では平均2.55Dの調節が得られたと述べていた。まだ、欧州で
富んだ美しい海岸線を臨む風光明媚な都市です。学会は市内
治験中であるが興味深いコンセプトを持ったIOLである。
の中心部に位置するサンディエゴ・コンベンションセンターに世
界各国からの参加者を集め5月1日から5日間開催されました。私
新しいMultifocal IOL
は過去3回CCRGミーティング(日米白内障研究会議)に参加さ
せていただいたことがあり、海外学会の雰囲気は何となく理解し
① Acri. Twin (Acri. Tec, Germany)
白内障術後の屈折を、片眼を遠方、
もう片眼を近方に合わ
せるmono visionという方法があるが、本レンズはこれを利用し
ている。Single peace/3peace、hydrophobic/siliconeの違い
で3つのモデルがあるが、いずれも同様の機序を持つ。遠方:
ていたつもりでしたが、
日本の臨床眼科学会並みの規模であり、
空母に乗船できるアトラクションを始め、会場内外のディスプレイ、
学会関係者の出迎えの華やかさにまず驚いたのが第一印象で
した。発表形式は一般演題、ポスター、
コース、Film Theaterに
分かれており、中でも興味深かったものはFilm Theaterです。日
本のビデオセッションとは異なり、特殊効果を凝らしたもの、会場
近方=7:3のmultifocal IOLを片眼に、遠方:近方=3:7の
の笑いを誘うようなユニークな内容の作品が多く、
さながらショー
multifocal IOLをもう片眼に挿入する事により、良好な遠方、
を見ているようでした。私は一般演題でのエントリーでしたが、
日
近方の裸眼視力を得られるとの事である。Monofocal IOLを
本と異なり、1つの会場に演台が2個所あり、交互に発表となって
用いたmono visionよりも左右差がないために戸惑う事が少な
おりました。このような形式は初めてで、
まったく気づかず前演者
いとの事であるが、充分な適応の見極めが必要であると思わ
と同じ演台に上ってしまい、実に恥ずかしい思いをしました。また、
れる。
いざスピーチ開始という時にスライドが動かなくなったりと、ハプ
② Restore lens(Alcon, USA)
このレンズは 同 社 のアクリソフ  をベースに開 発され た
multifocal IOLである。光学部中心の3.6mmがmulti zoneに
設計されていて、眼鏡換算で3.2Dの加入がされている。R.
ニング続きでしたが、最終的には口演を無事に終了することがで
き、今となっては良い思い出となっております。
一般演題を聞いて感じたことは、
日本と比較して斬新なアイデ
アを含む発表が多いことでした。しかし、中にはアイデアが先行し
すぎているもの、データに基づいていないものも多数ありました。
Packardの報告では、38眼に挿入した結果、94.8%が遠方の裸
このことから日本の発表は信頼性が高く、堅実なことが特徴であ
眼視力が20/30以上、近方の裸眼視力がJ2以上との事であった。
り、国外に誇るべき点なのだと感じました。海外学会と聞くと敷
③Array 2(AMO, USA)
居が非常に高いと感じるかもしれませんが、ASCRSに関しては
わが国でも使用されている、同社のAR40eにArrayのmulti
投稿受領が実にオープンであり、国内で通用する内容であれば
zoneを追加したモデルである。欧州で発売されたばかりで、今
十分通用し、積極的に投稿する価値はあると感じました。国内学
後の経過が興味深い。
会と異なる点に機械展示場が非常に広大であることが挙げられ
IOLの分野は未だ完成には至っておらず、今後もさらなる研
究が重ねられると思われるが、高齢化社会を迎えお元気な老
人が増えているわが国こそ、
この様なIOLを必要としている人
が大勢いるのかもしれない。今後も目の離せない分野である。
ます。約300社が参加しており、国内では未発売のデバイスや、
国内価格の1/2から1/3の価格で販売されている機械など、1日か
けても見足りない程の充実ぶりでした。この機械展示を見るだけ
でもASCRSに足を運ぶ意義はあると思います。ASCRSへの参
加は、今後の診療、研究の刺激となったとともに、国内と海外双
方の学会の良い点、足りない点を理解する良い機会となりました。
これを期に来年以降も続けて参加できるよう精進していきたいと
思います。
次に粘弾性物質にて前房作成した後PEAを施行していた。
一方「リンガーズ」は、ハイドロディセクション時の問題、小瞳孔
への対処、PC rupture -Vitrous loss、
チン氏帯脆弱あるいは欠
山内 康照
Yasuteru Yamauchi 昭和大学医学部
眼科学教室
如症例、難症例のPEAについて発表していた。ハイドロディセク
ション時の問題では、大きな核の症例に小さいCCCを作成した
後のハイドロディセクションはcapsular block syndromeを引き起
こすため注意が必要である。小瞳孔に対しては様々な機材があ
る。Beehler Dialater、iris retracter、pupil expanderなどがあり
個々の症例にあわせ選択していた。PC rupture-Vitrous lossで
Intraoperative complications of Cataract
Surgery and Refractive Surgery
はPCR後の処理は粘弾性物質をpars planaより注入し、前房に
はViscoat Trapを作りpars plana Vitrectomyを行い、
Bimanual
phacoで核処理後、前房内の硝子体をケナコルト染色で処理し
本コースはチャレンジカップというセッションで、白内障手術なら
ていた。チン氏帯脆弱あるいは欠如症例については、主訴がグ
びに屈折矯正手術中における合併症について、2チームに分か
レアの64歳男性の症例を提示した。矯正視力0.5でIOLは下方
れて発表し、
その優劣を競い、
チャレンジカップというトロフィーを
偏位、PCRはなく、強い後s混濁があり、網膜は問題ない症例で、
争うものであった。ここでは白内障手術について述べる。10名
治療法はIOLの交換であった。グレアはTruncted edge、IOL
の眼科医が5名ずつ「エマルシファーズ」と
(ロード・オブ・ザ・リン
dislocation、PCOなどマルチファクターにより生じる。YAG la-
グの)
「リンガーズ」
という2チームに分かれ、
各演者が手術中の様々
serにて後発切開をする前は、常にIOL positioningに気をつけ
な合併症への対処法につき発表した。
なければいけないと強調していた。難症例のPEAについては、
「エマルシファーズ」はPosterior capsule rupture(PCR)発生
後の硝子体手術のテクニック、
Rock Hard白内障手術の注意点、
チン氏帯脆弱症例への手術、白内障手術の完全な光学結果、
小瞳孔症例に粘弾性物質を注入し、瞳孔拡大した後チョッパー
付の灌流チューブでmicro phacoを施行していた。
このセッションは白内障手術中合併症とその対処法について
特殊症例におけるPEAについて発表していた。PCR発生後の硝
であったが、全体に目新しさはあまり感じなかったものの、白内障
子体手術のテクニックでは、PCR発生後はPCR拡大を避け、
かつ
手術中に起こり得る様々な合併症について発表されており、大
カプセルの支持を維持するために低眼圧と不必要な灌流は避け
変興味深く、勉強になった。実際、私たちはトラブルの発生しそう
るべきであると強調していた。4+nucleusのRock Hard白内障手
な症例、
あるいはトラブルが生じた時、
いかに安全に処理するか
術の注意点としては、前s切開時の視認性において必要ならトリ
を考え手術に臨まなくてはいけないと再認識した。
パンブルー染色を用い、水晶体sにやさしい核処理を行う。また
後s は薄いので注意すべきである。チン氏帯脆弱症例への手
術では硝子体をいかに水晶体の後ろにキープするのかがゴール
Hall of Fame 2004
であり、やさしいハイドロディセクション、iris hook、capsular
Hall of Fameは、眼科臨床におけ
tension ringを用いてのlow vacuum、low aspirate、low bottle
る技術や治療、機器の発展に貢献し
のPEAを心がけるべきであると強調していた。白内障手術の完
た眼科医の功績を称えることを目的
全な光学結果を得るには乱視のコントロール、精密な測定、特定
として1999年に創設されている。毎年、
の式の3 つが必 要である。特 定の式について、短 眼 軸では
HofferQかHolladyⅡ、長眼軸ではSRK/T、IOL masterを使用
ASCRSメンバーによる投票で決定さ
れるため、人気投票的色合いの感が
するものの、その功績は賞賛される
するときにはHaigisを用いていた。
また眼内レンズパワーエラーは
に値するものである。今年度は3名
後部ぶどう腫など様々なもので生じるが、屈折矯正術後眼につい
の眼科医が選ばれたので紹介する。
て強調しており、Masket Post Excimer Nomogramを用いレー
ザーの総量で眼内レンズパワーの調整を行っていた。−1∼−3D
の近視に対しエキシマレーザーにて矯正手術を施行した症例では、
従来のIOL powerを決め、
さらに+1D加える。+1∼+3Dの遠視
に対してエキシマレーザー矯正手術施行例では、従来のIOL
powerに−1Dを加える。同様に−3.5∼−6Dの近視に対しては
+2Dを、
+3.5∼+6Dの遠視に対しては−2Dを加え、
−6.5∼−9
Dの近視では+3Dを、
+6.5∼+9Dの遠視に対しては−3Dを加
え調整していた。Short eye、Shallow ACなどの特殊症例に対す
るPEAは、
まず25Gにてpars planaより前部硝子体切除を行い、
05
ASCRS 2004 Report
●Claes H. Dohlman, M.D./米国 優れた教育者で角膜研究
の第一人者として名高い。特に角膜移植におけるパイオニア的存在で、
角膜浮腫に関する生理学的研究、角膜創傷治癒や潰瘍形成に関する
生化学的研究を行ってきた。
●Govindappa Venkataswamy, M.D./インド インドにおける
白内障手術の近代化と失明予防運動の旗手であるだけでなく、WHO
と共同で開発途上国における失明患者を減少させることに尽力。また、
ビタミンA不足が小児の失明に関係していることを証明した。
●Jonas S. Friedenwald M.D.(1897-1955)
/米国 “The
Pathology of the Eye and Atlas and Textbook of Ophthalmic
Pathology”の中心的著者。眼生理学、眼薬理学、光学分野において
活躍した。糖尿病網膜症の病因を特定。
大野 建治
私の体験記
Kenji Ohno
独立行政法人国立病院機構
東京医療センター 眼科
東京慈恵会医科大学
眼科学教室
今
回私のような若輩者にこのよ
山田 英明
Hideaki Yamada
京都府立医科大学
眼科学教室
うな機会をお与えくださいまし
た大鹿先生をはじめ関係者の皆様に感謝いたします。
私はASCRSに参加させていただくのが今回で2回目となります。
まず海外の学会に参加する最大のメリットは、
日本の学会に比べ
学会全体の個人的印象
て情報量が多いことがあげられると思います。今更なぜこのよう
な内容の発表がオーラルなの?というものも中にはありますが、世
ASCRSはやはり派手な学会であった。この学会の目玉であ
るFilm Festivalの派手さは誰もが知るところだが、今回のレセ
プションはUSA海軍の現役航空母艦の上で行われた。イラク
戦争の後始末もうまくいっていない状況で、空母でのレセプ
ションもどうかと思ったが、
そうそうない機会であろうと、留学中
の友人とでかけた。とにかく、大盛況 。我々を含め大喜びで
の中の先生方が何を考え、
また何を目指しているのか、現在何が
トピックスなのか、
そしてこれからの屈折矯正手術の方向性につ
いて知ることができます。しかし逆に発表数が多いだけに何かに
的を絞って話を聞かないといけないと思います。今回マイトマイシ
ンCの使用についてと、Epi-LASIKについて集中的に話を聞こう
と思っていましたが、Epi-LASIKのコースが2つともキャンセルに
なり大変悲しい思いをしました。
写真をとっている眼科医たちの集まりだった。あと、学会費が
また日本人が少ないので(外国なので当たり前ですが)、
日本
さすがに高 すぎるのではないかと気になった。会 員でもo n
では演台上でしか見たことがなく、畏れ多くてお話ができない偉い
siteで$945( 10万円以上)する。また、少々演題数が多すぎる
先生方と知り合いになれるチャンスがあります。今回も発表を聞
し、内容がピンきりである。前もってプログラムを吟味し、
ピンの
くだけでなく、
そういう偉い先生方からいろいろと勉強させていた
演題を聴講しに行っても、突然キャンセルされていることもある。
だくことができました。また論文で名前を見たことのある海外の著
本学会は確かに最新情報が得られるものの、派手さはこのぐ
らいにして、
さらなる内容の充実を考えたほうがいいようにも
感じた。今後のASCRSに期待する。
明な先生が間近で発表されているのを見て、
「こんな人だったのか」
と、
あまり発表内容と関係ないところで感心することもありました。
今回、LASIK後のドライアイで有名なSteven Wilson先生が、
シ
ンポジウムで松葉杖をついて話をしていたのが印象に残っていま
す。話の内容は論文のままで期待はずれでしたが。
Wavefrontについて
昨年初めて参加させていただいた時にも感じたことなのですが、
やはり英語でのコミュニケーションの重要性を痛感しました。質疑
Wavefront関連の発表は一般演題だけでも、4日間で12セ
応答については、大体はわかっていても具体的な細かい内容まで
ッションもあり、合計145演題にものぼり、
コースやポスターをあ
がわからず歯がゆい思いをしました。ポスターの内容について質
わ せると200演題近くと、関心の大きさが伺えた。しかし、内
問しようとしても自分の言いたいことがうまく表現できず、
また私が
容としては、Wavefront-guided LASIKを行った結果はSafe
発表したポスターについて質問してくれた先生がおられたのですが、
and Effectiveだと結論している同じような演題が多い。エキ
シマレーザーを販売している会社は多数あるので、
この会社
のものが良いとか、そういう形で演題数が多くなってしまうの
は致し方ないのだろうが、聞いていて印象に残らない。その
中で気になった発表をいくつかあげる。
D. D. KochはZernike多項式の限界について、波面収差
うまく内容が伝わらず大変失礼なことをしたと思います。しかし、
懲りずにいろいろと質問してくれた髭の先生が1人おられ、最後に
握手していただいて大変ありがたく思いました。
今回会場近くのホテルが取れず、
かなり離れた郊外の避暑地
のような場所にホテルを取ってしまいました。空港で買った観光
ガイドを見ると、近くに電車が走っていることに気づきました。サン
ディエゴに着いた当日にホテルの受付で、片言の英語で駅まで
の解析はZernike多項式で展開する方法が最も一般的であ
の行き方を聞きました。駅に着くと今度は自販機で切符の買い方
るが、角膜に局所的に急峻な部分があるような不正乱視は
がわかりません。仕方がないので、近くにいたやや怖そうな黒人
Zernike多項式では再現できない。そのため、新たなアルゴリ
のお兄さんにやり方を聞きながら切符を買いました。電車に乗っ
ズムの使用が有効ではないかと提案していた。S. T. Awwad
て今度は背の高いやさしそうな白人のお兄さんに乗り換え方法を
は、Wavefront測定の際、瞳孔縁から0.25mmの周辺のデー
タは不正確な傾向にあり、高次収差を過剰に拾ってしまう可
能性があったと発表していた。Wavefront-guided LASIKの
ための、収差測定は照射オプティカルゾーンより0.5mm以上
大きい瞳孔状態で行う必要がある。C. Campbellは波面収
差解析装置から作成される、PSFシミュレーションは人眼の光
聞き、降りる時にはオロオロしている私におばあさんが“good luck”
と笑顔で声を掛けてくれたのも良い思い出です。
最後に私事で恐縮ですが、今年の1月に娘が生まれました。国
際社会でも通用するように星空(せいら:Sarah)
と名付けました。
星空、
お父さんのように英語に困らないようにちゃんと勉強してね。
星空、名前負けしないでね。
学特性を反映しておらず、不十分なものであると報告していた。
Refractive Surgery Complications
山田 英明
Hideaki Yamada
J. GüellとJ. Hiattは、LASIK術後の重篤な合併症の一つ
京都府立医科大学
眼科学教室
であるkeratectasia( 角膜拡張症)
を報告した。残存角膜ベッ
ドを250μm以上にした症例でもectasiaが起こり得ることは知
られているが、発表の症例でもその基準は守られていた。治
療法として、初期のectasiaには抗眼圧薬を使用することが効
果あり、
と紹介していた。進行したectasiaでは円錐角膜の治
LASIK術後の合併症
療に用いられているFerrara Ringを角膜実質内に挿入して
いた(INTACSとして知られているカーブした棒状のPMMA
LASIK術後の合併症であるkeratectasiaの治療として、
β-
を角膜実質内に挿入する方法)。日本ではまだ、一般的では
blockerの点眼が有用であるとの症例報告があった。本邦でもβ-
ないと思うが、
このFerrara Ringはectasiaの治療法だけでな
b l o c k e r 点 眼 でケラト値 は 変 化しない が L A S I K 術 後 の
く、進行した円錐角膜には、角膜移植の時期を少しでも延期
r e g r e s s i o n が 戻るとの 報 告 がある。今 回 の 発 表 では 、
できる可能性、移植が不要になる可能性があるのであれば、
keratectasiaに対してβ-blockerを点眼し眼圧を下げることでケ
有用な方法ではないかと個人的に注目している。
ラト値が実際にフラット化、角膜形状も正常化し、矯正視力も1.0
R. D. StultingはLASIK術後のMycobacteriumによる角
まで向上したと報告していた。LASIK術後のドライアイについては、
膜炎の発表であった。MycobacteriumはLASIK後に2∼8週
これまでに神経の走行から上方ヒンジより鼻側ヒンジの方が術
で起こり得る無痛性の角膜炎で、50以上の文献報告がある。
後ドライアイの程度が軽いと言われているが、
さらに小さなフラッ
早期診断にはグラム染色、培養が必須であり、抗菌薬として
プ径、
長いヒンジが術後ドライアイの程度が軽いと報告されていた。
はアミカシン、
クラリスロマイシン、
カナマイシンなどが第一選択
感染症に関しては、Mycobacteriumの頻度がここ数年横ばいか
薬となる。フラップ除去が治療に必要なことが多い。発表の症
やや低下傾向で、
そのかわりにグラム陽性球菌が増加傾向にあ
例でも、術後2週程度で発症しており、迅速な培養、
フラップ
るとのことであった。LASIK、PRK術後のMRSA感染症につい
除去などの治療にも関わらず、角膜混濁を残して治癒したため、
ての発表もみられた。9例11眼のうち8例が医療関係者であった。
7ヵ月後には全層角膜移植を受けていた。知っておくべき、恐
ろしい感染症である。
屈折矯正手術後のnight vision
G. Tamayoは医原性の不正乱視をエキシマレーザーでの
治療症例について報告し、RK、AK、偏心照射のLASIK、角
これまで、瞳孔径が大きいほど収差が増加し、night visionの
膜移植後などの症例が選択されていた。LASIKは強度の不
qualityが低下するといわれている。今回グレア、ハローなどの
正乱視症例に対して、
フラップ合併症が起こりやすく、
もともと
night vision complaintは瞳孔径とはまったく関係なく、矯正量
角 膜 厚が不 足していて適 応とならないことが多い 。P R K 、
にのみ相関するとの発表がいくつかみられた。夜間の運転、戦
LASEKが有用であるが、角膜手術がなされている角膜には
闘機のパイロットのvisual performanceについての発表があり、
Hazeの発生が危惧される。そこで、Haze予防策として、マイト
実際瞳孔径が大きくてもvisual performanceには影響を与え
マイシンCの使用が非常に有用であるということであった。今後、
なかったと報告されていた。
マイトマイシンCの使用によりPRKが見直されていくのではな
いだろうか。
遠近両用LASIK
H. K. Wuはペルシード角膜変性にAKとLASIKを施行して
しまった症例を発表した。ペルシード角膜変性はトポグラフィー
昨年のASCRS同様、中央部を遠見、周辺部を近見とする
で蝶ネクタイ型のパターンが特徴的である。治療として、円錐
Pseudo-accommodative corneaの発表があった。近視の場合、
角膜と同様に初期にはハードコンタクトレンズ、進行例には大
まず照射径最大8mmで全体を2回照射し、次に中心部を照射
径ドナー角 膜を用いた角 膜 移 植が必 要となる場 合がある。
径3.5∼5.0mmでさらに2回照射する方法であった。遠近とも裸
LASIK、PRK、AK、RKなどの屈折矯正手術はEctasiaの発
眼視力は良好であるが、
コントラスト感度の低下が認められた。
生を助長する可能性があり、禁忌である。
他に複数回に分けて異なるablation zoneでレーザーを照射す
ることで角膜をmultifocalにするpresbyopic multifocal LASIK
という発表もみられた。
しかし、照射回数は2回以上必要だが実
際必要な回数は決まっておらず、
また独自のノモグラムが必要と
のことであった。全体的に遠近両用LASIKは術後遠近とも視
07
ASCRS 2004 Report
力は良好だが、術後のregression、
コントラスト感度、瞳孔径の
個人差が問題になるようである。
マイトマイシンC(MMC)併用PRK、LASEK
今回、MMCを使用することでhazeが出にくいのではなく、
“出
ない”という内容の発表が目立った。−8D以上の症例に対す
るLASEKで、MMC使用の有無について30例ずつで比較した
私の体験記
昨
年秋、出張病院から大学へ戻
山内 康照
Yasuteru Yamauchi
昭和大学医学部
眼科学教室
ったときのことです。医局長の
清水先生から「アメリカへ行きたくないか?」と言われ「行
きたいです」と言ってしまったのが今回参加した本当の理由です。
ところ、MMC使用群ではhazeがゼロであっという発表、他に
恥ずかしい話ですが、私はこれまで海外の学会に参加したことが
MMC併用LASEK再手術でもhazeが出なかったとの発表がみ
ありませんでしたので、抄録、
レジストレーション、
など心配なことだ
られた。また動物実験で、MMC使用の有無についてPRK術後
らけでした。
しかし、医局長から、
“大丈夫、大丈夫”といわれ楽観
に紫 外 線を当てて検 討したところ、M M C の 使 用によって
視しておりましたが、
そうこうしているうちに抄録のリミットが来てし
activateされたfibroblastの増殖が抑えられたとの発表がみら
れた。また、
−4∼−12Dの48眼に対してPRK+MMCを施行し、
視力、矯正精度を検討した発表などがあった。視力、矯正精度
は良好でGrade2以上のhazeはなかったとのことである。PRK
まいました。
“やばい”。しかし、30wordsで端的に表現するのは
なかなか難しく、共同演者の岩田先生のお知恵を拝借し何とかエ
ントリーしたのがリミット当日です。
“ホッ”としているうちにすぐにレ
ジストレーションの時期になりました。何とかこれもクリアーして、発
表の準備を整え、
いざアメリカへ!
!
術中にMMCスポンジをのせる時間を12秒、1分、2分と分けて
サンディエゴは気候もよくいい町で、
まずはレジストレーションを
hazeを比較した発表がみられたが、3者ともhazeはみられず、12
するためにコンベンションセンターに向かいました。すごく大きな会
秒 でも2 分と同 様 の 効 果が 得られると報 告していた。また
場でしたがひとつひとつの部屋が隣接しており移動は便利でした。
ASCRS会員対象のアンケートでは、全体の30.8%が屈折矯正手
また機械展示場も日本の2∼3倍はあり、
“日本もこんな会場がい
術時にMMCを用いており、
そのうちPRKでは50.9%、LASEKで
くつもあればいい”と医局長が言っておられ、私も同感でした。
は20.0%が初回手術時にMMCを使用していると報告していた。
どの報告もMMCはcorneaにtoxicであるとは一言付け加えて
いるが、MMCの合併症については報告がみられなかった。
私はポスターセッションであったため、ポスターを初日に貼り終え、
チェックしていた発表を聞きに走り回りました。今回の眼内レンズ
関係のトピックスの1つは、accomodating IOLではないかと思わ
れましたが、
その他様々なセッションがありました。初日のセッショ
ンで総括のように主要な一般演題の要旨を発表させたり、
また、
RK後の再手術について
最終日にはチャレンジカップという名のチーム対抗戦のようにして
白内障手術と屈折矯正手術それぞれの合併症についてのセッシ
LASIKでの再手術では、epithelial ingrowthやフラップに切開
が入る可能性があり、
また再々手術時にリフティングする場合癒
着が問題となること、PRKでは術後のhazeが問題となる。そこで
ョンがあったりと、
なかなか面白いものがありました。
ASCRSに初めて参加して感じたことは日本の眼内レンズ屈折
矯 正 手 術 学 会とはカラーが大 分 異なっているという点です。
LASEKの変法であるAdvanced surface ablation(ASA)
がこの
ASCRSは“新しいものはどんどんやっちゃえ”のような感がありま
場合有効との発表がいくつかみられた。特にMMCを併用した
す。ですから、
まだ参加されたことのない先生方でいろいろなアイ
ASAの報告では、hazeが出たためしがなく、
さらに有効であると報
告していた。
しかしASAでは、
アルコールを使用することでPRKに
比べて術後数日間の疼痛が増える可能性があるとの発表もみら
れた。LASEKは、
日本では眼表面にアルコールを使用するため
デアを持たれている先生は、
どんどん発表されたほうがいいのでは
ないかと思います。発表は一般演題、ポスター、
ビデオセッションな
どありますが、同行した医局長によりますと“演題数は少なくなっ
ているよ”と言っておりました。
最後に私の失敗談をお話します。今回レジストレーション時に
あまり活発に行われていない術式であるが、海外ではLASEK、
さ
もらったプログラムのシンポジウムなどはabstractがついていなか
らにはASAがPRKよりも盛んに行われている印象を受けた。
ったため、
タイトルだけをみて行動しておりました。Film Theaterの
タイトルのなかには“Mission Impossible”などすごいタイトルの
Epi-LASIK
ものもありました。ASCRSは世界中から眼科医が参加します。英
語の苦手な私はこのスピーカーは聞きやすいなどそんなことはよく
今回Epi-LASIKの発表に期待していたが、Epi-LASIKのコー
スが2つともキャンセルとなった。その他のEpi-LASIKの発表では
術後視力、矯正精度の報告がいくつかあった。Pallikarisの発
表では、Epi-LASIKの症例404例を調査し、術後2時間は灼熱感
があること、術後6ヵ月での視力0.5以上が96%、0.8以上が92%、
術後3ヵ月でのmild hazeが5%であり、術後6ヵ月でのtrace haze
が8%で矯正視力の低下例は認められなかったと報告していた。
わかりませんでした。ある日の朝8時からの白内障手術難症例の
セッションを聞きにがんばって行ったのですが“どうも雰囲気がち
がうなー”と思いながらも耳を傾けると聞こえてきた言葉が“ムー
チョ”、
“ ムーチョ”だったのです 。プログラムをよく見ると
presented in Spanishと書いてあり、
そのまま他の会場へ足を運
んでしまいました。このような経験が出来たのも海外の学会ならで
は?ですね。
まだASCRS未体験の先生方ぜひ参加されてみてください、
きっ
と面白いですよ。
Film
Festival
Report
加治 優一
Yuichi Kaji
筑波大学臨床医学系眼科 講師
ASCRSにはFilm Festivalという楽し
発表されるたびに、会場は興奮と拍手の
いイベントがあります。これは、ASCRSの
渦に巻き込まれ、出身国に合わせた音楽
発表形式のひとつであるフィルム部門の
が演奏されます。受賞者はそれぞれステ
中から、独創的で優れたものを表彰する
ージに上がり、黄金のカップをもらいます。
式典です。フィルムは、白内障手術法、白
またWinnerは、提出したフィルムのハイラ
内障手術合併症、屈折矯正手術、屈折
イトが会場の大画面に放映されたあと、簡
矯正手術合併症など10個のカテゴリーに
単なスピーチを行います。
分けられ、
それぞれ優勝と準優勝が、
さら
私は「ステロイドホルモン中間体を用い
に全ての分野の中から一つのフィルムに
た破s後の硝子体可視化法」を白内障
対して最優秀賞が与えられます。
手術合併症部門に応募しましたが、残念
およそ200本のフィルムは米国だけでな
く、
ドイツ、
インド、韓国、
日本など世界各国
なことに名前が呼ばれることはありません
でした。放心状態でぼんやりしていると、
から出展されます。これらは、ほとんど却下
「Visualization of vitreous body・
・
・」と
されることなく、演題として採用されるそう
のアナウンス。僕と似たような研究をして
です。そのため、
その内容はCGを駆使し
いる人が他にもいたのだな、
と思った途
て教育番組にも使用できるような完成度
端「Yuichi Kaji」と呼ばれました。応募
の高いものから、術中のビデオをほとんど
と異なるin-house productions部門で
編集せずに流す程度のものまで千差万
Winnerになっていたのです!目眩がする
別です。全てのフィルムは2つのTheater
ほどの照明とフラッシュ、
「さくらさくら」の
で上映されると同時に、別室で9人の審
演奏に包まれながら、死に物狂いでスピー
査員が独創性、内容、応用しやすさと教
チを行いました。
育効果、
わかりやすさ、見栄えの良さに対
米国の学会にもかかわらず、米国以外
して点数をつけます。審査結果は学会3日
の出身者が受賞者の3分の2を占めると
目の夕方から行われるFilm Festivalの発
いう、
ある意味で米国の公平さと度量の
表が行われるまで誰にも知らされません。
深さに驚かされました。今年の日本人の
F i l m F e s t i v a lはA S C R Sの最大のイ
受賞者は赤星先生、深作先生、私の3人
ベントと言えるでしょう。今 年 の F i l m
でした。赤星先生は先端を丸めた超音波
Festivalは学会場のボールルームで行わ
チップKnuckle Tipを開発し、破s の危
れました。会場入り口前ではシャンパンと
険性を減らしながら皮質まで吸引可能な
簡単な料理が用意され、会の気分を盛り
手術法を示され、最優秀賞を受賞されま
上げます。会場のドアが開かれると、そこ
した。深作先生は、
トリアムシノロンを用い
はアカデミー賞の授賞式を思わせるほど
た硝子体可視化法を報告されWinnerに
の荘厳な雰囲気に包まれていました。オ
選ばれました。
ーケストラが生演奏を披露し、
ステージ上
会場の参加者たちは取りつかれたよう
には正装した審査委員が緊張した面持ち
に来年のASCRSに向けてフィルム作りに
で座っておられます。学会参加者たちはこ
励むことでしょう。Film Festivalは、
日本
ぞって前の席を目指しなだれ込み、会場
の学会では決して味わうことができない
は記念撮影のためのフラッシュの光であ
ほどの知的興奮と感激を与えてくれます。
ふれます。審査結果を待つ参加者たちの
また、
日本のトップサージャンと知り合いに
はやる気持ちをさらに刺激するような音楽
なり、率直な意見を交わすことのできる絶
と照明につつまれ、会が始まる前から心
好の機会でもあります。来年のASCRSの
臓が張り裂けそうになるほどの興奮と熱
Film Festivalに一人でも多くの日本の先
狂に満ち溢れます。
生方が参加されることを期待しております。
まず、審査委員長のPaul Arnold
がFilm Festivalの趣旨、審査員の
紹介、審査の様子などを軽快に楽し
く話しました。そしていよいよ発表です。
各部門に対して、
まずはRunner-up
(準優勝者)
が、次にWinner(優勝者)
が発表されました。受賞者の名前が
今年度受賞者の集合写真
09
ASCRS 2004 Report
ASCRS会員へのアンケート調査結果
1984年からDr. David V. Leamingが行っているアンケート
図1 屈折矯正手術の年間施行例数(推計)
調査も20年目を迎えた。調査開始当時は術者の75%が水晶
1000000
体s外摘出術(ECCE)
を行い、超音波乳化吸引術を行って
900000
いるのはわずか25%であった。過去10年間で特記すべきはや
800000
はりLASIKの普及で、1997年ではわずか17%であったのが、
LASIK
LAEK
700000
600000
2000年には61%の会員が施行していたが、2000年度をピーク
500000
に減少傾向にあり、2003年は約20%減である
(図1)
。一方、白
400000
内障の手術件数は1998年∼1999年に落ち込み、白内障手術
300000
医からLASIK医に転向する眼科医が相次いだが、
ここ2、3年
200000
はこの動きにも安定化がみられている
(図2)
。
PRK
100000
0
1997
白内障手術の麻酔法は、
やはり局所麻酔(眼内麻酔 ・ 点眼
1998
1999
2000
2001
2002
2003
麻酔)が約60%と主流で、
リドカインでの眼内麻酔が43.5%と
最も多く、球後麻酔は24%、眼球周囲麻酔は約17%であった。
切開の位置は耳側切開が63.3%で、12時の位置では18
%のみ、切開部位は透明角膜に置くとしたものが約70%であ
図2 白内障手術件数の推移
ECCE
3000000
Phaco
2500000
った。核分割法は四分割が約53%と現在も最も好まれてい
る手法で、次がチョップの25%、チョップのなかでも約60%(全
体の15%)がstop and chopを採用している。現在、bimanual
microincision phacoを行っている術者は16.5%であるが、1年
2000000
1500000
1000000
以内に本術式に切り替える予定との回答が約20%あり、今後
の動向が注目される。眼内レンズについては、好みの光学部
500000
素材としてアクリルソフトは依然高い人気があり、
その使用比
0
1997
率は1995年はわずか9%であったのが、今年は70%近くに達し、
1998
1999
2000
2001
2002
2003
次に多いシリコーンレンズの約3倍となっている。また、
どのレン
ズが小切開創法に有望かという質問でも、
やはりアクリルソフト
図3 小切開創法に有望なレンズは?
40
Sillicone
両眼性の白内障患者を手術する場合、3週間以内にもう一
35
Acrylic
方の眼も手術するとの回答は半数以上(65.1%)で、同日もしく
30
5.5mm PMMA
は2、3日中が2%未満、
2ヵ月以上間隔をあけるは約5%であった。
25
Hydrogel
フェイコマシーンのチューブを再利用するかとの質問には、約
20
Injectable lens
material
80%が「しない」と回答しており、
その割合は過去8年間ほぼ
15
Thin Optics
変化はみられていない。
10
Other
が最も支持されていた
(図3)
。
屈折矯正手術に関して、Phakic IOLは現在の施行数は約
5
7%と少ないものの、70%以上の会員が今後施行したいと考え
0
2003
ていることがわかった。現在施行している術者にPhakic IOL
でレンズを挿入する位置を質問したところ、虹彩と水晶体の間
との回答が最も多く、
次いで隅角支持、
虹彩支持であった
(図4)
。
図4 Phakic IOLで、
どの位置がレンズ挿入に最適か?
薬物で良好にコントロールされている緑内障を合併する白
70
内障手術(IOP=14)は、95.8%が超音波乳化吸引のみを行う
60
と回答した。一方、薬物でのコントロールが不良(IOP=28)の
50
場合、約50%が超音波乳化吸引と抗代謝薬を使用したトラベ
40
クレクトミーを実施、約40%が超音波乳化吸引と抗代謝剤を使
2000
2001
2002
2003
30
用しないトラベクレクトミーを行うと回答した。
驚いたのは、過去3年間に診療所で横領や従業員の不正
20
行為があったかとの設問に対して、
「あった」と回答した割合が
10
17%を超えており、
中には$100,000を超える被害も報告されて
0
虹彩と水晶体の間
隅角支持
虹彩支持
いた。
オリジナルデータは、Leamingsurveys.com(http://161.58.79.325)を参照されたい。
ASCRS 2004 Report
10
EXHIBITS
サンディエゴ・コンベンションセンターでは、機械展示
用にあてられたスペースは、東京ドームのグラウンドが
2つも入るほどの広さで、そこに最新型の手術・診断・レ
ーザー機器、眼内レンズ、医学書など、300社を超える
企業が出展していた。各ブースで行われている最新機
器や薬剤のブースセミナー、ウェットラボは、どこも最新
情報を入手すべく集まった人々で盛況であった。また、
会場内には随所にカフェテリアが設けられているので、
見学に疲れても一休みすることができ、その他にスター
バックスコーヒーを無料で提供してくれるドリンクコー
ナーもあった。
今年の機械展示場での目玉は、総額5万ドルのギフト
券が当たるクイズゲームが開催されたことだろう。会期
中3日間、計11回、クイズが行われ、幸運な24名の勝者
には、最高額4,500ドル∼1,000ドルの機械展示場内
で使用できるギフト券がプレゼントされた。
次回開催地
ワシントンDC
2005年4月16∼20日開催予定
今回開催地
サンディエゴ
2004年5月1∼5日開催
LOOK BACK ON
ASCRS
監修
大鹿 哲郎
筑波大学臨床医学系眼科 教授
昨年は日眼総会と日程が一部重
取材協力
な っ た こと 、ま た イラ ク 戦 争 と
SARSの影響で、日本からの参加者が非常に少なかった
ASCRSだが、今回はやや持ち直していたようである。
西海岸のサンディエゴで行われたという場所の要因もあ
ろう。たいてい、西海岸が会場の場合は日本を含めてア
ジアからの参加者が増え、ヨーロッパからの参加者は減
る傾向にあり、東海岸が会場の場合はその逆である。
ASCRSがいつも活気をおびているのは、その自由さ、
間口の広さにある。とにかく思いついたことは何でも発
表して良いという雰囲気であり、細かいデータや考証は、
また後日なのである。ばかげた発表もあるが、素晴らし
大野 建治
独立行政法人国立病院機構東京医療センター 眼科
東京慈恵会医科大学眼科学教室
加治 優一
筑波大学臨床医学系眼科 講師
柴 琢也
東京慈恵会医科大学眼科学教室
常岡 寛
東京慈恵会医科大学附属第三病院 眼科 診療部長
永原 幸
東京大学医学部附属病院眼科・視覚矯正科 講師
松井 英一郎
獨協医科大学眼科学教室
山内 康照
昭和大学医学部眼科学教室
く斬新な発想もある。過去、この学会から優れたアイデ
山田 英明
アが少なからず生み出されている。
京都府立医科大学眼科学教室
敷居の低い学会である。発表のあとの質疑応答があ
まり厳しくないというのは、日本人の先生方、とくに初め
ての海外学会参加者にとって嬉しい点であろう。また、
これまでに演題が不採用という話を寡聞にして知らない。
とても参加しやすい学会である。来年は4年に1度の
World Cornea Congressに続いて行われる。
学会後1ヵ月たった6月1日、Charles D. Kelman先
生が逝去された。 Kelman先生はASCRSの初期のメ
ンバーの一人だが、なにより超音波乳化吸引術の発明者
として有名である。今日の眼科の栄華は、Ridley先生と
Kelman先生に負うところ大と思う。74歳。ご冥福をお
祈りしたい。
(大鹿 哲郎)
(敬称略、50 音順)
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