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ダイバータープラズマにおける熱流束に関する実験的研究
(ガンマ 10 ダイバーター板表面へのシース熱流束の計測)
大阪府立大学 地域連携研究機構 放射線研究センター 松浦 寛人
1
研究の目的
核融合炉のダイバーター板は膨大な熱流束を受けるばかりでなく、プラズマ照射に伴い様々な表面損傷を受け
る。そのため計測対象の表面状態に依存する IR カメラなどではなく、熱電対を用いた直接的な高精度熱流束測
定法が重要になる。そこで、複数のセンターの実験装置を利用したダイバーター熱流束の研究を双方向型共同研
究として申請した。プラズマ研究センターのガンマ 10 装置は核融合炉壁と等価な条件下での照射試験に適した
装置である。「高温タングステン表面へのシース熱流束の計測とその制御、代表:松浦」では銅を受熱板とした
既存のカロリーメーターを改良し、より時間応答の良いサーマルプローブの設計開発を行った。本研究では、こ
れを発展させて異なる素材や表面状態の受熱板への熱流束測定の結果を比較検討する予定である。
2
プラズマ放電前後の熱電対信号
昨年度の実験で導入されたカロリーメーターヘッドの写真
を図 1 に示す。銅製の受熱部分の大きさは直径 13 ミリで、実
験時にはセラミックのカバーで側面からの熱流入を防いでい
る。一昨年までの実験では、ヘッドの温度測定のための熱電
対の固定をプラズマ照射面の裏側の SUS ネジで行っていたた
め、温度が測定される温接点は照射面から 10 ミリ程度も離れ
ており、時間応答が劣っていた。ここでは、受熱部の裏側か
ら穴を開け、銅製の微小パイプを通して K 型熱電対の素線を
導き、パイプ先端で温接点を受熱部の穴の底に押し付け固定
図 1: 改良されたカロリーメーターヘッド。
したため、数十ミリ秒の時間遅れで温度計測ができると期待
される。
CM data offset-corrected
図 2 は、この新しいカロリーメーターの動作試験の結
10
果を示す。データの記録には GRAPHTEC 社の GL900
8
データロガーを用い、サンプリング周期は 1 ミリ秒と
223374
223375
223376
223377
6
不適切な短パルスノイズが常時含まれていることが見
出された。ショット番号 223374 と 223377 の信号はほ
T [deg.]
した。これにより、プラズマ放電前後の熱電対信号に
4
2
ぼ同じ挙動を示し、800 ミリ秒を中心に負のピークを
0
示している。センサーの設計からしてこれだけ速い温
-2
度変化を検出はできないので、磁場コイル電流の立下
-4
りに伴う電磁ノイズと考えられる。磁場のみのショッ
ト (223375) やプラズマガン入射のみ (RF 加熱なし) の
ショット (223376) でも見られることからも、その原因
は明らかである。なお、後者では 2 秒程度で熱電対信
0
500
1000
1500
time [ms]
2000
2500
図 2: プラズマ放電前後の熱電対信号のチェック。
号がゼロレベルにもどっていることから、これまでガ
ンマ 10 で行われてきた、プラズマ照射により熱電対信号のピーク値と熱流束評価への影響はないと考えてよい。
今後は、カロリーメーターの背面に補正用の熱電対チャンネルを設けて、この信号ジャンプを補正するほか、電
磁ノイズに強いより線型の熱電対の導入を検討している。
RF 加熱が行われている 150 ミリ秒の放電中にも大きな熱電対信号のジャンプが見られる。当初は、カロリー
メーターが受ける過電流がデータロガーの一時的動作不能を引き起こしているのではと考えた。しかしながら、
データロガーを共用しているダイバーターモジュールのターゲット板に取り付けられた熱電対にも同様のジャン
プが見られ、チャンネルごとにその大きさが異なることから、やはり電磁的なものの可能性が高い。現在、CHS
や LHD で実績のある絶縁型の熱電変換モジュールの手配を行い次年度の実験に供する手続きを進めている。
3
エネルギー反射係数の影響
高村の教科書等にも記載されているのもかかわらず、
1
C
Cu
Mo
W
イオンのエネルギー反射係数 RiE についてはこれまで
に、Eckstein がビーム実験のデータを元に提唱した経
験式の結果を示す。壁表面に入射したイオンが中性化
し、反射される際に入射熱流束の内、RiE がプラズマ
側に戻され、壁のバルク材への熱負荷には (1 − RiE )
Energy reflection coefficient
一部の基礎研究者以外に注目されていなかった。図 3
0.1
というファクターがかかることに注意しなければなら
ない。すなわち、仮にプラズマ条件が同一であっても
RiE の小さな銅銅製のカロリーメーターで測定してい
る熱負荷はタングステン材が受けるものより大きくな
0.01
0.01
0.1
1
10
H+ ion energy[keV]
図 3: Eckstein の経験式で評価したエネルギー反射係
ると予想される。
そこで、今年度のガンマ 10 実験では形状が同じで異
数。(換算エネルギーで整理されたものを、水素イオ
なる素材を用いた受熱部を併置したカロリーメーター
ンが特定の壁材に入射するとして評価しなおした。)
を作成して熱流束分布を測定した。測定条件は限られ
ているものの、銅製カロリーメーターで評価した熱流
束がタングステン製のそれよりも 20% から 40%程度
80
大きな値を示し、先の Eckstein のデータから矛盾はな
40
Ip[mA]
Ar 10[Pa]
炭素に変えた測定では、両者の熱流束評価値にそれほ
ど大きな違いは現在のところ観測されていない。国内
外のプラズマ熱流束の測定結果によれば、熱流束から
q[W/m2]
い。しかしながら、カロリーメーターの受熱部を銅と
20
40
逆に推定したエネルギー反射率が必ずしもイオンビー
ム実験での文献値と一致しなかったり、表面状態によっ
0
て変化したりすることが報告されており、今後も研究
の余地がある。
0
図 4 は大阪府立大学で測定されたグロー放電プラズ
ガンマ 10 実験の場合、時間応答の問題からバイアスス
キャン条件での熱流束測定は難しい。当面は、異なる
素材の受熱板を用いた相対測定を続けつつ、前述の早
200
300
Bias voltage[V]
マの熱流束−バイアス特性である。あらかじめ電子側
(正バイアス) での測定から電子温度を見積もっておき、
イオン側のデータを再現するように実効的な (イオン
の速度分布平均された)RiE を推定することができる。
100
図 4: グロー放電プラズマで測定された熱流束●およ
びプローブ電流△のバイアス電圧依存性。(RiE = 0.6
を用いて評価した理論値は測定データをよく再現する。
点線は RiE = 0 としたもの。)
い時間での熱電対信号のノイズ対策を進める予定であ
る。もし、バイアス電圧をイオン側で ∆Vp だけ変化さ
せたときの熱流束変化 ∆Q が実測できれば、
∆Q1 − ∆Q2 = (∆Vp1 − ∆Vp1 )Iis (1 − RiE )
という関係よりエネルギー反射係数を決定できることが、グロープラズマの実験で示されている。イオン温度の
寄与の大きいガンマ 10 プラズマでこれが適用できるか興味がある。
4
まとめ
ガンマ 10 の既存のカロリーメーターヘッドの交換可能な高い時間応答特性を持つ受熱ヘッドを製作した。こ
れまでの遅い測定系では感知できなかった熱電対信号の跳びや磁場ノイズの存在が見出され、その対策が検討さ
れている。カロリーメーターの受熱部の素材を変えることにより、同一のプラズマ条件に対しても熱負荷が素材
により異なりうることが示された。今後はバイアススキャンによる熱流束変化のモニターが可能なように放電中
および放電直後のノイズ対策を行い、シース理論やエネルギー反射係数の文献データとの比較検討を行えるよう
にする。
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研究組織
研究代表者 松浦寛人(大阪府大)
研究協力者 坂本瑞樹(筑波大)、細井克洋(筑波大)、
武田寿人(筑波大)、市村和也(筑波大)、
岩元美樹(筑波大)、細田甚成(筑波大)、中嶋洋輔(センター世話人)
永岡賢一(NIFS)、庄司主(所内世話人)
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関連する成果発表
• H.Matsuura et al.: Fusion Science and Technology, 63(2013)180-183.
• M.Iwamoto et al.: 23rd Int. Toki Conf., (Toki, Japan, 2013 Nov.)P2-4.
• 松浦寛人他:物理学会 2013 年秋季大会(徳島大学,2013 年 9 月)28aKB-4.
• 岩元美樹他:プラズマ核融合学会第 30 回年会講演会,(東工大,2013 年 11 月)05aE45P.