多気筒パルスデトネーションエンジンの連続運転における 気体力学的

多気筒パルスデトネーションエンジンの連続運転における
気体力学的気筒間干渉
○日野太郎,山口敏治(広大院工),室 寿人,AZMAN HASSAN(広大工)
八房智顕、遠藤琢磨,滝史郎(広大院工),金光俊典(広島ガス)
Gasdynamic interference between tubes in a multi-tube pulse detonation engine
HINO Taro, YAMAGUTI Toshiharu, MURO Hisato, AZMAN Hassan
YATUFUSA Tomoaki, ENDO Takuma and TAKI Shiro (Hiroshima University)
KANEMITU Toshinori (Hiroshima Gas Co.,Ltd.)
Hiroshima University, 1-4-1 Kagamiyama, Higashi-Hiroshima, Hiroshima 739-8527, Japan
Abstract
A multi-tube pulse detonation engine (PDE) with four detonation tubes was developed to study the interference of
pressure waves between tubes. Hydrogen-air mixture was used as the detonable gas for easiness of the detonation
initiation. The Shchelkin spirals were installed in the tubes. Multi-cycle tests with four tubes were carried out.
Gasdynamic interference between adjacent or diagonal tubes was studied. In the experiments, we used two types of
collecting duct, and the pressure histories at the exit of the common converging nozzle were measured.
Key Words : Multi Tube, Pulse Detonation Engine, Gasdynamic Interference
1.はじめに
パルスデトネーションエンジン(Pulse Detonation
Engine : PDE)は燃焼行程にデトネーションを用い
た内燃機関であるため,圧縮比が低くても比較的高
い熱効率が期待できる 1).しかし、間欠的な排気か
ら推力や動力を取り出そうとした場合,ノズルやタ
ービンとの相性が問題となる.効率的に排気エネル
ギを利用するためには,複数本のデトネーション管
を束ね多気筒化することにより排気のない時間をな
くし、排気を平滑化することが有効である.しかし
多気筒化は,気筒間の排気干渉により吸気・パージ
等が妨げられる可能性がある.我々は、水素・空気
混合気を用いた4気筒のPDEを試作し、多気筒運
転時の気筒間の排気干渉を調べた.また,排気集合部
の形状を変更した時,排気干渉および排気の平滑化
にどのような影響をもたらすかを調べた.
2.実験装置の概要
多気筒 PDE の仕様を表 1 に、概略を図1に、デト
ネーション管への混合気充填用配管を図2に示す.
本装置は 4 本のデトネーション管から構成され,管
の内径は 29.8mm、長さ 1090mm、容積 743ml である.
それぞれのデトネーション管には管端から 425mm
の位置より 150mm 間隔で 5 ヶ所、圧力ゲージまた
はイオンプローブを設置することができる.デトネ
ーション管内にはデトネーションへの遷移距離を短
縮させるためのシェルキンスパイラルが設置されて
いる.シェルキンスパイラルは,径が 4mm の銅線
をピッチ約 35mm でコイル状にしたもので,固定部
から 300mm の長さで設置されている.デトネーショ
ン管の閉端付近には水素と空気の噴射ポートがあり,
管内で混合させる.噴射ポート下流には,1 気筒あ
たり 2 個の点火プラグが設けられている.
デトネーション管の下流には4本のデトネーショ
ン管の排気をまとめる共通ノズルが設けられている.
排気集合部は図1に示すように半頂角が 15 度のコ
ーン型であり,各気筒は集合部入口に内接する.コ
ーン部の容積は 1063ml であり,デトネーション管 1
本の容積の約 1.5 倍に相当する.
水素・空気のデトネーション管への導入制御には
空圧駆動式電磁バルブ(MAC 社製 H2 : 55A-11FOB-GM-G DFA-1BA , Air : 55B- 12 -PI-871BA)を用
いている. 図 2 に示すように,供給ガスはボンベか
ら大流量のレギュレータによって 0.8MPa 以下に調
整され,空圧駆動式電磁バルブを通して管内に充填
される.バルブ開閉および点火タイミングの制御信
号はデジタル IO ボードによってパーソナルコンピ
ュータから出力する.ただし,水素,空気制御用空
圧駆動式電磁バルブには入力信号から実際の作動ま
での時間に個体差が存在するため,各電磁バルブに
応じて修正した制御信号を入力している.
Fig.1 Experimental apparatus
Regulator
80
100
300
1090
Fig.2 Configuration of piping
Table 1 Details of multi-tube PDE
Number of tubes
4
Detonable gas
H2 and Air
H2 : 18.4L/s
Maximum flow rate per tube
Air : 37.5L/s
Dimensions [mm]
Detonation tube
Φ29.8
Length : 1090
Common nozzle
Inlet : Φ130
Exit : Φ29.8
Length : 220
Taper angle : 15deg.
System
Width : 320
Height : 320
Length : 1310
3.4気筒連続作動時における気筒間干渉
まず,4気筒の連続作動実験を Tube1-Tube2-
Tube3-Tube4 の起爆順で行った.各気筒の運転位相
差は 1 サイクルを 4 気筒で等分した.気筒間干渉を
調べる圧力ゲージは Tube1 の閉管端から 425mm、
1025mm に設置し、それぞれ P1、P2 とした(図 1 参
照).表2に実験条件を示す.図3は1気筒あたり
10Hz , 20Hz で 実 験 を 行 っ た 時 の あ る サ イ ク ル
(Tube1→Tube2→Tube3→Tube4→Tube1)の燃料充
填と点火のタイミング,および Tube1 に取り付けた
圧力ゲージ P1 の圧力波形を示す.P1 に初めに現れ
る 1.4MPa 程度の圧力ピークは Tube1 でデトネーシ
ョンが伝播したことを示しており,その後に続く
0.1MPa 程度の3つの圧力ピークはそれぞれ Tube2,
3,4 から Tube1 の内部へと回り込んできた衝撃波を
示す.ここで Tube4 から回り込んできた衝撃波の時
刻(図3の破線)に着目してみると,(a)10Hz/Tube
では Tube1 の燃料充填時刻よりも前であるのに対し,
(b)20Hz/Tube では Tube1 の燃料充填期間内に Tube4
からの衝撃波が進入したことがわかる.実際に
10Hz/Tube で 5 サイクルの連続実験では,4気筒す
べてのサイクルで火炎の伝播速度が C-J 速度に達し
ていた.一方 20Hz/Tube で 5 サイクルの実験を行っ
た場合では,およそ 75%のサイクルでしか伝播速度
が C-J 速度に達していなかった.このことから,気
筒間におけるこのような干渉が安定なガス充填およ
びデトネーションの伝播を妨げていると考えられる.
Ignition timing
injection end
H2 : 0.8MPa
Air : 0.8MPa
H2 : 5.6%
Supply pressure
Accuracy of volumetric
gaseous supply (Standard
deviation)
Accuracy of ignition timing
Air : 5.2%
Better than 1ms
126 1.8
26
7.2
14.8
1.6
107.2
51
1.4
114.8
33.7
41.8
Ignition
Air
H2
1.2
76
1
0.8
101
59.3
0.6
67.1
0.4
84.1
0.2
90.1
P1
Pressure [MPa]
14
0
0
20
40
60
80
100
120
140
Time [ms]
(a) 10Hz / tube (Total frequency 40Hz)
76
26
7.2
1.2
51
29.3
1
0.8
64
34.3
0.6
42.1
0.4
46.6
0.2
52.6
P1
0
1.4
64.8
21.2
Ignition
Air
H2
1.6
57.2
39
14.8
1.8
Pressure [MPa]
Air
Tube4 Tube3 Tube2 Tube1
H2
30
Spark plug
Tube3 Tube2 Tube1
Main valve
Table 2 Experimental conditions
Mixture fill fraction in tube
0.9-0.96
section
Equivalence ratio of mixture 1.66-1.75
Neumann P. : 2.8MPa
Neumann and CJ pressure
CJ-P : 1.5MPa
H2 : 300ml / tube
Injection volume per cycle
Air : 420ml / tube
Purge(Air) : 330ml / tube
Tube4
Emergency stop valve
0
20
40
60
80
Time [ms]
(b) 20Hz / tube (Total frequency 80Hz)
Fig.3 Time sequence of the injection and ignition, and
measured pressure histories in the 1st detonation tube in
multi-cycle operation with four tubes (Time=0 : Start of
PC signal)
ここで(b) 20Hz/tube において Tube4 から Tube1 へ進
入してくる衝撃波の詳細について図 4 のように単純
化して考える.ただし,以下のことは実際に P1,P2
で得られた結果をもとに考えるものとする.はじめ,
T=65.35ms に Tube4 から Tube1 内におよそ 0.1MPa,
440m/s の 衝 撃 波 が 進 入 し て く る . 衝 撃 波 は
T=66.72ms で P1 の位置まで進入し,T=67.19ms で供
給混合気(流速:およそ 90m/s)と出会う.衝撃波が通
過した供給混合気は衝撃波によって,およそ 120m/s
で逆方向へと流れが逆転する.T=67.69ms で衝撃波
は管端で反射され,T=67.95ms に供給混合気の境界
面と出会う.その後,供給混合気は再び開放端へと
広がってゆく.そして T=76ms で点火が行われる.
もし,衝撃波の進入がなければ,点火時刻において
管端から 1057mm まで混合気が充填されているのだ
が,衝撃波で圧縮を受けた分だけ混合気の充填長さ
が短くなる。我々は P1,P2 間にイオンプローブを
設置し火炎の伝播速度を測定しているため、このよ
うな衝撃波の進入により供給混合気の充填長さが短
くなった場合,デトネーションが伝播しているのに
もかかわらずデトネーションが伝播していないと判
断する恐れがあることがわかった.
Air + H2
Pressure wave from tube4
0.1MPa
P1
P2
T=65.35ms
T=66.72ms
T=67.19ms
装着した状態で上記と同様に 10Hz/tube,20Hz/tube
で連続作動実験を行い,Tube1 へ他管からどのよう
な衝撃波が進入してくるのかを P1 で比べたところ,
図 6 のような違いが出た.まず,(a) 10Hz / tube で
は,ガイド無しのときに比べてガイドを取り付け
た場合,Tube4 から回り込んでくる衝撃波が
0.2MPa まで強くなり,立ち上がりが鋭くなってい
た.また,衝撃波の進入時刻はガイドを装着して
も変化しないことがわかった.(b) 20Hz / tube も同
様に,装着後は進入してくる衝撃波の圧力が上昇
し,進入時刻に変化はなかった.衝撃波の圧力が
上昇したことはガイドを装着することにより排気
集合部の容積が大幅に減少し,そのため各気筒か
らの衝撃波がガイド無しのときに比べてあまり減
衰せずに Tube1 へ進入したことが原因であると考
えられる.図 7(a)は排気集合部の P3 での圧力履歴
を示しているが,ガイド有りの場合の方が高い圧
力を示している.またガイド有りの場合,各気筒
によって圧力のピークに差がある.これは圧力ゲ
ージ P3 の位置が Tube1 の延長上に位置するためで
あり,P3 から等距離にある Tube2,Tube4 のピーク
は等しく、対角上に位置する Tube1 と Tube3 のピ
ークには大きな差がある.図 7 の(b)は排気集合部
の P4 での圧力履歴を示す.ガイド無しと比べてガ
イド有りの方が圧力ピークが高いが,高圧力の持
続時間に違いはなく,背圧を維持することはでき
なかった.図 7(c)は(b)での最後の衝撃波(★)の
圧力履歴を詳細に示したものである.ガイド無し
と比べると,ガイド有りでは,ピーク圧力が緩や
かに減衰していくのがわかる.
T=67.69ms
T=67.95ms
P3 P4
Guide
T=68.86ms
T=70.04ms
T=76ms
1063ml
381ml
(a)
(b)
Ignition
1057mm
Fig.4 The detail of gas dynamic interference from Tube4
4.排気集合部の形状変更による気筒間干渉および
集合管での圧力の変化
図 5(a),(b)に示すように排気集合部の形状をガ
イドを装着することにより変化させ,気筒間の干
渉および排気集合部,ノズルでの圧力履歴の変化
を調べた.ガイドを装着することにより排気集合
部の容積が 1063m から 381ml へと変更され,また
デトネーション管はおよそ 72mm 延長され,さら
に 15 度の角度でノズルへと導かれるようになった.
図4(c),(d)はガイド本体の写真である.ガイドを
(c)
(d)
Fig. 5 The Collecting duct and Guide
1.5
1.6
Gauge:P1
W/ the Guide
+0.5MPa
W/O the Guide
1.0
0.2MPa
0.5
0.1MPa
0.0
40
60
80
100
Pressure [MPa]
Pressure [MPa]
2.0
W/ the Guide W/O the Guide
+0.5MPa
Gauge:P3
1.2
0.8
0.4
T1
30
40
(a) 10Hz / tube (Total frequency 40Hz)
1.5
W/ the Guide Gauge:P1
+0.5MPa
W/O the Guide
1.0
0.12MPa
0.5
0.085MPa
0.0
30
40
50
60
Time [ms]
70
1.2
T1
60
70
80
Gauge:P4
★
0.8
T1
0.4
0.0
T2
T3
T4
T1
W/O the Guide
80
30
40
50
60
Time [ms]
70
80
(b) Collecting duct (P4)
Pressure [MPa]
The difference of pressure histories in Tube1(P1)
between with and without the guide at 20Hz/tube
(Total frequency 80 Hz)
50
Time [ms]
W/ the Guide
+0.5MPa
(b) 20Hz / tube (Total frequency 80Hz)
Fig.6
T4
(a) Collecting duct (P3)
Pressure [MPa]
Pressure [MPa]
2.0
T3
0.0
120
Time [ms]
T2
Gauge:P4
1.2
W/ the Guide
+0.5MPa
0.8
0.4
W/O the Guide
★
T1
0.0
74
76
78
80
Time [ms]
82
84
(c) Detail of Collecting duct (P4)
6.まとめ
4 気筒で連続作動実験を行い,供給混合気に対す
る 気 筒 間 干 渉 の 影 響 を 調 べ た . 10Hz/tube に 比 べ
20Hz/tube では燃料充填期間内に隣接管から衝撃波が
進入し,供給混合気の充填長さが短くなることがわ
かった.ただ,現時点では管内の気体力学的な現象
を正確に把握できておらず,今後より詳細な研究が
必要である.
また,排気集合部の形状を変更し,容積を減らし
た状態で,4気筒連続作動実験を行った.ガイドを
装着することによる隣接間からの衝撃波の進入タイ
ミングの変化はなく,さらに進入してきた衝撃波の
圧力が上昇した.これは排気集合部の容積減少によ
り,衝撃波が弱まることなく進入して来たことが原
因であると考えられる.また,集合管ではガイドの
取り付けにより圧力のピークが緩やかに減衰するよ
うになったが,依然として背圧を維持することはで
きなかった.今後、排気平滑化,背圧維持,圧力波
回り込みの抑制に効果のある排気集合部の形状パラ
メータを調べる.
Fig.7 The difference of pressure histories in Collecting
duct (P3,P4) between with and without the guide at
20Hz/tube (Total frequency 80 Hz)
参考文献:
1) 遠藤琢磨,八房智顕,滝史郎,笠原次郎,パル
スデトネーションタービンエンジンの性能に関
す 熱 力 学 的 解 析 , Science and Technology of
Energetic Materials,Vol.65,pp.103-110, 2004.
2) Yatsufusa.T, Experiments on Inter-Tube Interference
in a Four-Tube Pulse Detonation Engin, 20th
International Colloquium on the Dynamics of
Explosions and Reactive Systems August 15,2005,McGill University, Montreal, Canada