1.強皮症

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,413―419,2006(平18)
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皮膚科セミナリウム
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第 13 回
膠原病(2)
1.強皮症
尹
要
浩信(熊本大学)
および治療について概説した.
約
1.汎発性強皮症の分類基準
汎発性強皮症は均一な疾患ではなく,多様な臨床像
を呈するため,診療にあたって戸惑うことも多い.そ
汎発性強皮症(systemic sclerosis:SSc)の診断に際
の診断,評価には各種診断基準,病型分類,重症度や
しては国際的にはアメリカリウマチ協会の分類予備基
予後と相関する特異抗核抗体が用いられ,また内臓病
1)
準が広く参考とされている(表 1)
.大基準である近
変の精査の後,個々の患者の重症度・予後を判定し,
位皮膚硬化が存在するか,あるいは小基準(強指症,
治療方針を決定することが可能となる.本稿では汎発
指尖陥凹状瘢痕,両側性肺線維症)の 2 項目以上が存
性強皮症の各種診断基準,病型分類,内臓病変,特異
在すれば SSc と診断される.
抗核抗体,治療方針の立て方について解説した.また
2003 年に厚生労働省強皮症研究班(班長:竹原和彦
限局性強皮症の病型分類,検査,治療方針についても
教授)によって,本邦における SSc 診断基準(表 2)が
言及した.
改定された2).以前の研究班による診断基準は項目数
が多く,記憶しにくいという問題点があったが,今回
はじめに
の改定では国際的に広く用いられているアメリカリウ
汎発性強皮症(systemic sclerosis:SSc)の診断,治
マチ協会の分類予備基準をそのまま採用し,小基準を
療において最も重要な点は,本疾患が均一ではなく多
1 項目追加した形となり,記憶しやすくなった.加えら
様な臨床像を呈するということである.従って SSc
れた小項目は「抗トポイソメラーゼ I(Scl-70)抗体ま
では皮膚硬化の範囲・程度,特異抗核抗体を評価して
たは抗セントロメア抗体陽性」であり,これらの自己
病型分類を行って大まかな把握を行い,さらに内臓病
抗体は,SSc 特異的で SSc の診断上不可欠であり,また
変を精査して,予後を推定するとともに治療方針を決
保険収載となっており一般臨床の場でも容易に測定可
定する.また限局性強皮症においては皮疹の形状,範
能である.
囲によって病型分類を行い,活動性・重症度の指標と
2.皮膚硬化と病型分類
なる血液学的検査を参考にして治療方針が決定され
る.本稿では汎発性強皮症および限局性強皮症の診断
SSc においては皮膚硬化が最も重要な症状である.
表 1 全身性強皮症の分類予備基準 (アメリカリウマチ協会による,1980年)
大基準
近位皮膚硬化(手指あるいは足趾より近位に及ぶ皮膚硬化)
小基準
1.手指あるいは足趾に限局する皮膚硬化
2.手指陥凹性瘢痕,あるいは指腹の萎縮
3.両側性の肺基底部の肺線維症
大基準あるいは小基準 2項目以上を満足すれば全身性強皮症と診断
ただし限局性強皮症と ps
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oder
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414
皮膚科セミナリウム
第 13 回
膠原病(2)
表 2 厚生労働省強皮症研究班による全身性強皮症の診断基準
大基準
手指あるいは足趾を越える皮膚硬化*
小基準
1
)手指あるいは足趾を限局する皮膚硬化
2
)手指尖端の陥凹性瘢痕,あるいは指腹の萎縮**
3
)両側性肺基底部の線維症
4
)抗トポイソメラーゼ I
(Sc
l
70)抗体または抗セントロメア抗体陽性
判定:大基準あるいは小基準 1)及び 2)~ 4)の 1項目以上を満たせば全身性強皮症と診断
*限局性強皮症(いわゆるモルフィア)を除外する
**手指の循環障害によるもので,外傷などによるものを除く
表 3 LeRoyによる全身性強皮症病型分類
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SSc
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(70~ 80%)
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皮膚硬化の範囲により病型分類がなされ,本邦では
Barnett 分類が一般的に用いられている.I 型(強指症
のみを有する)
,II 型
(四肢および顔面の皮膚硬化)
,III
されない.
3.汎発性強皮症の早期診断(ポイント制診断基準案)
型(躯幹に及ぶ皮膚硬化)に分類され,一般に I 型は内
SSc 患者の診断は皮膚硬化が十分に出現し,近位皮
臓病変を伴わないか軽症で予後良好であるのに対し,
膚硬化や手指の皮膚硬化が明瞭である時点では以上の
III 型は重症で予後不良の例が多いことが報告されて
分類基準,病型分類を用いて診断し,分類することは
い る.LeRoy ら は limited cutaneous systemic sclero-
容易である.さらにこのような定型的な SSc 患者では
sis ( lcSSc ) と diffuse cutaneous systemic sclerosis
皮膚硬化に加えて,指尖虫喰状瘢痕や手指屈曲拘縮な
(dcSSc)の 2 型に分類することを提唱し,世界的に広
どの SSc 特異的な症状を高率に伴うため診断の確実
3)
く使用されている .この分類は皮膚硬化の範囲だけ
性が増す.しかしながら,早期例,軽症例においては
ではなく,いくつかの臨床所見,検査所見を加味した
SSc の診断あるいは他の膠原病との鑑別は必ずしも容
総合的分類である(表 3)
.Barnett 分類 I 型および II
易ではない.またレイノー現象を有する人は全人口の
型 の 一 部 が lcSSc に 相 当 し,II 型 の 一 部 と III 型 が
数%に及ぶと言われ, その中には多数の SSc 早期例,
dcSSc に相当する.
軽症例が見過ごされていることが指摘されている.こ
しかしながら,これらの分類基準,病型分類は SSc
のような SSc 早期例,軽症例の評価には SSc 定型例だ
の定型例を抽出,分類することを目的として作成され,
けを抽出し,分類する従来の分類基準,病型分類はほ
早期例,軽症例はこの分類予備基準では強皮症と診断
とんど無力である.
1.強皮症
415
表 4 SSDにおけるポイント制診断基準案
ポイント
皮膚硬化
肺線維症
抗核抗体
レイノー現象
爪上皮出血点
躯幹におよぶ皮膚硬化
10
近位皮膚硬化
強指症
5
3
手指の腫脹
1
胸部 Xpにて肺線維症(+),%VC低下
4
胸部 Xpにて肺線維症(+),%VC正常
2
抗トポイソメラーゼ I抗体陽性
抗セントロメア抗体または抗 U1RNP抗体陽性(抗 U1RNP抗体+抗 Sm 抗体陽性を除く)
5
3
抗核小体抗体陽性
2
その他の抗核抗体陽性(抗 U1RNP抗体+抗 Sm 抗体陽性を含む)
三相性
1
3
二相性かつ両側性
二相性または両側性
2
1
3指以上
1あるいは 2指
2
1
1980 年 Maricq らは SSc およびその関連した病 態
らに SSc と他の膠原病患者で比較した場合,ポイント
を連続したスペクトラムとして捉えることを試み,
制 診 断 基 準 案 は SSc に 対 し て 感 度 88.7%,特 異 度
scleroderma spectrum disorder(SSD:強皮症関連病
100% を示し,ポイント制診断基準案は SSc 典型例の
態)
という概念を提唱した4).SSD は SSc 定型例,早期
みならず早期例の診断に関して有用である5)6).
例,混合性結合組織病,皮膚硬化を伴わないものの将
4.SSc の皮膚症状
来 SSc に進展する可能性の高いレイノー病などを包
括した概念である.Maricq らの報告では,SSD は人口
a.皮膚硬化
10 万人当たり 67∼265 人と推定されており,SSc 定型
SSc の皮膚硬化は四肢末梢,顔面より始まり,次第に
例の 10∼20 倍程度存在するものと考えられている.
体の近位に拡大する.硬化の初期は「硬い」というよ
SSc 定型例を除く SSD(狭義の SSD)の臨床症状と
りは「腫れぼったい」感じであり,患者は「指輪が入
してはレイノー症状,手指の腫脹(いわゆる強指症と
りにくい」などと自覚することが多い.触診でも「厚
は異なり,皮膚硬化を伴わない)
,爪上皮出血点(爪郭
く」触れるため注意深く触診を行う必要がある.
部出血点:NFB)があげられる.臨床検査所見として
皮膚硬化の評価として近年,触診のみで皮膚硬化を
は抗核抗体(特に抗トポイソメラーゼ I 抗体や抗セン
半 定 量 化 す る,modified Rodnan total skin thickness
トロメア抗体)の出現が特徴的である.
以上の点をふまえて,SSc 典型例のみならず早期例,
score(modified Rodnan TSS)
が国際的に広く使用され
ている
(表 5)
.modified Rodnan TSS では体を 17 の部
軽症例を含む SSD を評価するために我々は,ポイント
位に分け,皮膚硬化を 0 から 3(0 が正常,1 が軽度,
5)6)
制診断基準案を作成し,報告している
(表 4)
.この
2 が中等度,3 が高度)の 4 段階で評価し,総計は 0 か
診断基準案は,従来の分類基準において採用されてい
ら 51 になる.modified Rodnan TSS は SSc の進行度を
る皮膚硬化,肺線維症,抗核抗体の項目に加えて,SSD
モニターしたり,薬剤の有効性の判定基準となる.さ
の診断に重要であるレイノー症状のパターン,爪郭部
らに,高い skin score を有する患者は高率に腎病変,心
出血点の項目を採用している点が特徴的である5)6).
筋障害,肺線維症を合併し,生存率が低いことが知ら
5 項目(表 4)のポイントの合計が 9 ポイント以上が
れ,skin score は臨床的に予後を反映すると考えられ,
SSc,5∼8 ポイントは SSc 確実例を除く SSD となる.
定期的に記録する必要がある
我々の解析では,ポイント制診断基準案は SSc に対し
.
て感度 88.7%,特異度 97.7% を示し,
SSc 確実例を除く
b.爪上皮出血点(爪郭部出血点:NFB)
SSD に対して感度 87.5%,特異度 65.1% を示した.さ
NFB は爪上皮内の点状ないし線状の出血点として
416
皮膚科セミナリウム
第 13 回
膠原病(2)
表 5 Modi
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eの記録シート
患者名 患者番号 (右)
手指
0
1
2
手背
0
1
2
前腕
上腕
0
0
1
1
2
2
診察日 3
(左)
手指
0
1
2
3
3
手背
0
1
2
3
3
3
前腕
上腕
0
0
1
1
2
2
3
3
顔
0
1
2
3
前胸部
0
1
2
3
0
3
1
2
大腿
3
0
1
2
3
3
下腿
0
1
2
3
足背
0
1
検者名 2
3
大腿
0
1
腹部
2
下腿
0
1
2
足背
0
1
2
合計(mRo
dna
nTSS) 3
認められ,通常第 4 指に最も高率で,第 1 指では比較
5.SSc の内臓病変
的稀である.SSc では特に皮膚硬化が手指に限局する
軽症型でほぼ全例に陽性となる.他方皮膚硬化が体幹
a.肺線維症
に及ぶような重症型の SSc では NFB の陽性率は低下
抗トポイソメラーゼ I 抗体あるいは抗 U1RNP 抗体
するが,これらの症例でも初期にはより高率に NFB
陽性患者に高頻度で合併するが8),抗セントロメア抗
が観察される.NFB は SSc 早期例,軽症例で高率に検
体陽性患者では稀な合併症であり,SSc の予後を左右
出され,SSc の早期診断上重要な皮膚所見である5)6).
する因子である.胸部 X 線では下肺野中心に網状陰影
を呈する.胸部 CT はさらに鋭敏で,スリガラス陰影→
c.レイノー症状
網状影→honey comb 状を呈する.呼吸機能検査では
レイノー症状は,広く膠原病一般に認められる症状
まず%DLco の低下が見られ,肺線維症 が 進 行 す る
であるが,SSc では特に高率に出現し,かつしばしば初
と%VC 低下が見られるようになる.活動性の判定に
発症状となる点で重要である.臨床的にレイノー症状
は気管支肺胞洗浄液(BALF)所見(好中球や好酸球の
を正しく評価することが重要であり,レイノー症状の
増加)や血清 KL-6 値,SP-D 値が参考とされる.
色調の変化,片側性か両側性かを詳しく問診する必要
がある.三相性の変化(白→紫→赤)を呈するものが
b.肺高血圧症
最も典型的であり,次いで二相性かつ両側性,その次
高度な肺線維症を有する患者では二次性肺高血圧症
に二相性または両側性の順で多いと考えられている.
を認めることがあり,また高度な肺線維症を伴わない
原発性肺高血圧症も SSc 患者の 10% 程度存在するこ
d.その他の皮膚症状
とが知られている9).心ドップラーエコーで評価する
指尖虫喰状瘢痕や手指屈曲拘縮は特異性が高いもの
が,心カテーテルで確認を行う.
の皮膚硬化が進んでから出現する.瀰漫性色素沈着も
皮膚硬化が強い部位に認められ診断に役に立つことは
c.消化器症状
少ない.舌小帯短縮が明確な患者では皮膚硬化は明ら
SSc 患者全般に高頻度で(80% 程度)逆流性食道炎
かであるため診断上あまり有用ではない.抗セントロ
を合併する.食道粘膜固有層の平滑筋に線維化が生じ
メア抗体陽性 SSc 患者の手や顔で認められる,境界明
る結果,食道下部括約筋の弛緩,食道下部の蠕動運動
瞭で,円形から楕円形を呈する,紫紅色の斑状毛細血
低下,拡張が認められる.このため胸焼け,逆流感,
管拡張は診断上有用である場合もある7).
胸のつかえ感が生じる.食道造影で診断される.また
食道と同様の症状が下部消化管に生じると下部消化管
蠕動運動が低下し,便秘,下痢をくり返す.進行する
と偽性腸閉塞を生じる.
1.強皮症
417
表 6 SScにおける抗核抗体とその臨床的意義
抗体
陽性率
臨床的特徴
抗トポイソメラーゼ I抗体
15~ 30%
di
f
f
us
e型 SSc
抗セントロメア抗体
抗 U1RNP抗体
10~ 30%
5~ 30%
l
i
mi
t
e
d型 SSc
色素沈着
肺線維症
肺線維症
抗核小体抗体
抗 U3RNP抗体
4~ 7%
di
f
f
us
e型 SSc
抗 Th/
To抗体
抗 RNAポリメラーゼ I
/I
I
I抗体
5
%以下
5
%以下
l
i
mi
t
e
d型 SSc
di
f
f
us
e型 SSc
強皮症腎
心筋障害
d.強皮症腎
ロメア抗体は SSc 患者の 30% 程度に陽性となり,他
強皮症腎は経過中に急激に発症し,急速に進行する
の膠原病や原発性胆汁性肝硬変でも検出される.抗セ
高血圧・腎不全である.葉間∼小葉間動脈に多発する
ントロメア抗体陽性例の臨床的特徴として limited 型
内腔狭窄によって生じ,SSc の予後を規定する重要な
で,毛細血管拡張(CREST 型)
,皮膚石灰沈着,原発
合併症である.ACE 阻害剤によって予後は著しく改善
性胆汁性肝硬変の合併があげられる.抗 U1-RNP 抗体
された.欧米では強皮症腎の合併率は約 20% 程度であ
は SSc 患者の 30% 程度に陽性となり8)11),肺線維症,
るが,本邦では約 2% 程度と稀である.突然頭痛,悪
肺高血圧症,筋炎の合併が多く8)11),また経過中混合
心,視力低下をきたし,高度の高血圧を認め,検査上
性結合組織病と診断されることが多く,また他の膠原
腎機能障害が確認される.血中レニン活性の上昇を伴
病を合併しオーバーラップ症候群と診断されることも
う.
多い.
抗核小体抗体はヒト培養細胞(ヒト喉頭癌細胞由来
e.心病変
の Hep-2 細胞など)を用いた蛍光抗体間接法で核小体
心囊炎と伝導系の線維化による不整脈があげられ
型を呈する抗核抗体の総称である.抗トポイソメラー
る.特に AV block などの不整脈は突然死の原因とな
ゼ I 抗体などの前述した抗核抗体と比較して頻度が低
ることもある.
いが,SSc 特異的であることが知られている.抗 U3RNP 抗 体 は SSc の 4∼7% 程 度 検 出 さ れ,diffuse 型
f.その他
SSc が多い12).抗 Th!
To 抗体 は SSc の 5% 以 下 に 検
関節の変形を伴わない関節炎を伴うことがある.ま
出され,limited 型 SSc が多い13).抗 RNA ポリメラー
た抗セントロメア抗体陽性患者に軽度の原発性胆汁性
ゼ I!
III 抗体は,欧米では約 20% 程度と報告されてい
肝硬変が合併することがあり,γ-GTP や LDH の軽度
るが,本邦では SSc の 5% 以下に検出される.抗 RNA
の上昇を認めることがある10).
ポリメラーゼ I!
III 抗体陽性例は,diffuse 型 SSc で,強
6.抗核抗体
特異抗核抗体
(表 6)
は病型,予後などと強く相関し,
また早期より出現することが知られ SSc の診断に不
可欠である.
皮症腎,心肺病変を呈し,重症型となることが多い.
7.治
療
基礎治療として二重盲検試験で有効性が確認された
薬剤はない.そのため治療のポイントは 1)
逆流性食道
抗トポイソメラーゼ I 抗体は,SSc 患者の 30% 程度
炎に対する対症療法によって QOL が改善される,
に陽性となり,他疾患では検出されない.抗トポイソ
2)
レイノー症状を抑えることにより皮膚硬化の進行を
メラーゼ I 抗体陽性例の臨床的特徴として diffuse 型
抑制しうる可能性があるためレイノー症状に対する治
で皮膚硬化の進行が早く,皮膚硬化が高度であり,肺
療を行う,3)
早期よりプロスタグランジン製剤内服を
線維症を高率に合併することがあげられる.抗セント
開始して原発性肺高血圧症を予防する,となる.
418
皮膚科セミナリウム
第 13 回
膠原病(2)
a.副腎皮質ステロイド
による胸のつかえ感や下部消化管蠕動運動の低下によ
皮膚硬化に対して用いられる.1)皮膚硬化出現 5∼
る便秘に対しては消化管蠕動運動を亢進させるクエン
6 年以内の早期例,2)浮腫硬化が主体である例,3)急
酸モサプリド(ガスモチン)が有効である19).
速な皮膚硬化の進行が認められる例では 20∼30mg!
日の少量のステロイド内服が行われる14)15).皮膚硬化
f.強皮症腎の治療
には有効であり QOL 向上には役立つと考えられる
直ちに短期作用型 ACE 阻害剤であるカプトリルを
が,肺線維症には無効であり生存率を向上させるかは
開始し,漸次増量して血圧の正常化を目指す.血圧が
不明である.二重盲検試験が必要であろう.しかしな
正常化しない場合,ACE 阻害剤に加えて Ca 拮抗薬な
がら,欧米では多量ステロイド内服は強皮症腎を誘発
どの他の薬剤を追加する.これらの降圧剤を投与して
することより使用には慎重である.
も腎機能が悪化する場合は透析療法を早期に開始す
る.
b.D-ペニシラミン
古くから皮膚硬化,生存率を向上させるために SSc
8.限局性強皮症
に使用されてきた薬剤であるが,近年欧米で二重盲検
限局性強皮症は汎発性強皮症とは異なり,内臓病変
試験が行われ,有効ではないと報告されている.本邦
を伴わず,皮膚,皮下脂肪織,時には筋や骨に限局し
でも検討され有効ではないと考えるのが一般的であ
て線維化を伴う疾患である.一般にレイノー症状を欠
る16).
き,皮膚硬化も境界明瞭であり,四肢末端より硬化が
始まる汎発性強皮症とは異なる.皮疹の形態により斑
c.シクロフォスファミド(エンドキサン)
状 強 皮 症(morphea)と 線 状 強 皮 症(linear
肺線維症の進行を抑制する可能性のある薬剤として
scleroderma)
に大きく分類され,さらに全身に多発す
注目を集め,現在欧米で二重盲検試験が進行中である.
るものを generalized morphea と呼ぶ.
検査所見として,抗核抗体陽性20),リウマチ因子陽
d.血管拡張剤
性,抗 ssDNA 抗体陽性21),抗ヒストン抗体陽性22),免
SSc における末梢血管障害に対する薬物治療は一般
疫グロブリン上昇,血清可溶性 IL-2 受容体(sIL-2R)
高
的にはビタミン E 製剤
(ユベラニコチナートなど)
,カ
値23)などの種々の免疫学的異常を呈し,特に general-
ルシウム拮抗薬(ヘルベッサーなど)
,プロスタグラン
ized morphea に高頻度に認められる.sIL-2R 値,抗ヒ
ジン製剤(プロサイリンなど)
,セロトニン拮抗薬(ア
ストン抗体抗体価,抗 ssDNA 抗体抗体価は重症度を
ンプラーグなど)
,血小板凝集抑制薬(ペルサンチン)
反映することが知られている21)∼23).
などが頻用される.四肢に潰瘍,壊疽が生じた際には
病理組織学的所見として,表皮は著変がないか萎縮
リポ PGE1(リプルなど)静注や抗トロンビン薬である
し,真皮から皮下脂肪織にかけて膠原線維の膨化・増
アルガトロバン(ノバスタンなど)
点滴が有効である.
生が見られ,真皮の血管周囲にリンパ球主体の細胞浸
皮膚潰瘍に対する外用剤は bFGF(フィブラストスプ
潤が認められる.診断は特徴的臨床像と生検による病
レー)
,プロスタンジン軟膏,ユーパスタ軟膏,アクト
理組織学的所見により行う.
シン軟膏などを用いて適切な処置を行う.
治療として基本的には副腎皮質ステロイド外用薬を
用いる.初期病変や硬化局面にランクの高い(ベリー
e.消化器症状の治療
ストロング程度の)副腎皮質ステロイド外用薬を皮膚
症状の強い例では,節食障害,消化管出血による貧
萎縮や血管拡張の局所的副作用に気をつけながら用い
血,悪心,嘔吐を伴い,著しく QOL が低下する場合も
る.病勢がおちつけば外用剤のランクを下げる.また
あり,これらの症状を改善することは QOL の向上を
1)
臨床的に炎症所見が強く,急速に拡大している,2)
もたらし,臨床上非常に重要である.SSc の逆流性食道
機能障害を伴っているか,あるいは将来的に機能障害
炎に対して H2 ブロッカーは効果が不十分であるが,
プ
が懸念される,3)
将来的に成長障害が懸念される,4)
ロトンポンプ阻害剤によって劇的に改善される17).ま
筋病変を伴い,抗 1 本鎖 DNA 抗体が高値を示す,場合
たエカベトナトリウム(ガストローム)の併用にてさ
は副腎皮質ステロイド内服(PSL 0.5mg!
kg!
day 程度)
らに症状の改善が期待される18).食道蠕動運動の低下
適応となる24).病勢が落ちつけば漸減する.また一定
1.強皮症
期間の観察を行い,皮疹の拡大傾向がないことを確認
419
上手術の対象になりやすい.
後外科的治療も考慮される.特に剣創状強皮症は整容
文
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