リーフレット [Leaflet] - 電力中央研究所

環
電力中央研究所報告
境
報告書番号: V 0 9 0 3 5
海底から噴出する気体 CO2 の拡散挙動観測
背
景
二酸化炭素(CO2)の回収・貯留技術(CCS : Carbon dioxide Capture and Storage)
は、CO2 の大気中への排出削減策の一つとして位置づけられている。このうち海底
下地層貯留では、貯留 CO2 の海底面からの漏洩を検知し、その状況をモニタリング
する技術の開発が重要な研究課題となっている。さらに、海底下地層貯留では、貯
留地層上の海底の水深によって、漏洩時の CO2 の状態が気体あるいは液体となるた
め、漏洩 CO2 の検知やモニタリングの技術開発においては、両方の状態に対応して
おく必要がある。しかし現状では、人為的な海域 CO2 注入実験を実施することは極
めて困難である。このため、海底熱水活動によって天然現象として実際に海洋中に
放出している CO2 を対象にした、ナチュラルアナログ(注 1)を実施することは極めて
有効である。
目
的
特に浅海域での海底下地層貯留で懸念される気体状態の CO2 漏洩を想定し、浅海
域に存在する海底熱水活動よって海底から噴出している天然の気体 CO2 の観測を通
して、海洋中における気体 CO2 の拡散挙動を明らかにする。
主な成果
桜島の火山活動に関連した活発な噴気活動(高濃度の気体 CO2 を含む)が確認さ
れている鹿児島湾若尊カルデラの2カ所の噴気地帯(たぎりサイト(水深約 200m)
とハオリムシサイト(水深約 100m))において、海底近傍での直接観察に有効な有
人潜水調査船を用いて、海底から噴出する気体 CO2 の挙動観測を実施した。
1.現場 pH 計測による気体 CO2 の拡散挙動観測
有人潜水調査船に pH/pCO2 センサ等を取り付けて、たぎりサイトの噴気地帯
を中心にした 400m 四方のエリアの 6 層についてマッピング観測を行い、pH の
水平分布図を作成するとともに、2カ所の噴気地帯において pH/pCO2 センサ等
による鉛直分布観測を行った。
この現場 pH 計測によって、海底から噴出する噴気中の CO2 は、浮上する過
程で周辺の海水中に徐々に溶解し、最終的には海底上 80m 付近(水深約 120m)
で完全に溶解していることや、噴気中の気体 CO2 に由来する pH6.5∼7.2 の環境
は、水深約 120m 以深の噴気地帯周辺に集中して存在することが確認できた。
2.噴出した気体 CO2 挙動の現場観測
有人潜水調査船を用いて2カ所の噴気地帯の探査を行い、噴気活動の高解像
度映像を取得するとともに、詳細な噴気孔マップを作成して噴気孔数を確定し
た。
この高解像度映像の取得や現場観測によって、気体 CO2 が海底から噴出する
時の状況や噴出直後の気体 CO2 の挙動を確認することができ、たぎりサイトに
おける噴出直後の気体 CO2 の浮上速度を 15.7cm/秒と見積もることができた。
また、たぎりサイトおよびハオリムシサイトにおける気体 CO2 のフラックスを、
それぞれ 1,509μmol/cm2/秒、534μmol/cm2/秒と見積もることが可能となった。
本研究で実施した有人潜水調査船による直接観測や現場 pH 計測によって、若
尊カルデラにおける、浮上する気体 CO2 の海水中への溶解過程や、確からしい気
体 CO2 フラックスが明らかになった。
今後の展開
ナチュラルアナログ研究の継続によって、気体 CO2 の噴出頻度や噴出規模の異な
る噴気活動地帯での観測や、水深が数十メートル程度の陸域に近い海域での気体
CO2 の拡散挙動観測を実施し、海底下地層貯留に伴う CO2 漏洩の検知・モニタリン
グ技術の高度化を図る。
(注 1)ナチュラルアナログ:天然類似現象;実施が困難な実験について,自然界で起こっている類似した現
象を対象として実験を行う手法。
研究報告
V09035
関連研究報告書
担 当 者
連 絡 先
[非売品・不許複製]
キーワード:CO2 貯留・回収技術,海底下地層貯留,CO2 漏洩,気体 CO2,
天然類似現象
「CO2海洋隔離の環境影響評価のための観測手法開発(その1)−高精度な現場
型pH/pCO2センサの開発−」V05036 (2006)
「CO2海洋隔離の環境影響評価のための観測手法開発(その2)−海洋でのCO2
拡散挙動観測技術の開発−」V05037 (2006)
「CO2海洋隔離の環境影響評価のための観測手法開発(その3)−ナチュラルアナ
ログによる海洋中の液体CO2の挙動観測−」V06018 (2007)
「CO2海洋隔離の環境影響評価のための観測手法開発(その4)−海洋中におけ
る液体CO2の拡散観測−」V08058 (2009)
下島
公紀(環境科学研究所
大気・海洋環境領域)
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平成22年5月
09−022