VI-020 土木学会第58回年次学術講演会(平成15年9月) 第二東名・名神トンネルの支保のマルチ化試験施工 日本道路公団 試験研究所 正会員 伊藤 哲男 日本道路公団 試験研究所 正会員 赤木 渉 1.はじめに 現在、建設中の第二東名・名神高速道路の大断面トンネルは、施行命令を受けているものでは、本坑の上下 線別で 142 本(183km)である。また、この中で、TBM導坑を事前に施工するものは、32 本(75km)である。これら の内、平成 14 年 10 月時点の掘削進捗は、本坑で 49 本に着手し 24.2%、TBM導坑では 18 本に着手し 58.8%と なっている。また、既に貫通、竣功しているトンネルも数多くある。 第二東名・名神高速道路の大断面トンネルに適用するJH設計要領は、平成13年1月に制定され、先の試 験施工結果(図-1)から安全で合理的な「標準支保パターン」が示されている。しかし現段階では、地山等級(B、 CⅠ、CⅡ、DⅠ)に応じた4つの支保パターンが掘削工法別に示されており、(2車線断面のトンネルにおい ては6パターンあることからも)必要な支保量に対し、余裕のある設計となるケースが考えられ、その改善の ため標準支保パターンの細分化が求められる。また、同要領には、設計の修正の考え方(支保の増減方向の指 標)が示されるものの、それらを支保パターン化し H11.7 設計指針(案)↓ 平成8年 平成9年 平成10年 平成11年 平成12年 平成13年 トンネル 清水第三 て表すまでには至っていない。 そこで、地山状況に応じた合理的、経済的な支保 パターンを選択できるように、新しく標準支保パ 栗東 静岡第二 TBM導坑 ターンを追加する必要があると考え、支保のマル 本坑 H13.1 設計要領↑ 清水第三TN (中硬岩∼軟岩) チ化案について提案するとともに、確認のため現 TBM導坑先進拡幅掘削工法 地トンネルでの試験施工を開始した。本報文では、 栗東TN (硬岩∼中硬岩) 第二東名・名神トンネルの支保のマルチ化検討に ついて、その経緯と現地で行われた試験施工の進 上半先進工法 上半中壁分割工法 中央導坑先進拡幅掘削工法 捗を報告するものである。 図-1 静岡第二TN (中硬岩∼軟岩) 第二東名・名神トンネルの先行試験施工 2.現行の標準支保パターン JH設計要領(第二東名・名神 H13.1) に示されている標準支保パターンは、表 -1 のとおりである。また、図-2 に標準支 保パターン図を示す。 トンネルの一般部において、表-1 に示 す2つの掘削工法が基本とされ、それぞ れ4つの標準支保パターンが設定され ている。各支保部材については、高耐力、 高強度、高規格の材料を用い、軽量化、薄 肉化を図っている。 3.支保のマルチ化の考え方 支保のマルチ化を検討するうえで、第 二東名・名神トンネルが、過去に検討さ れた2車線トンネルでの検討時と異な 表-1 第二東名・名神トンネルの標準支保パターン 支保 掘進 掘削 地山 パタ 長 工法 等級 ーン (m) ロックボルト(早強モルタル) 吹付け 鋼アーチ支保工 長さ 耐力 周方向 延長方向 受持ち面積 厚さ 上半サイズ 下半サイズ (m) (kN) (m) (m) (m2/本) (cm) 2.5(1.25) 上半 4 170 (上半の T 3.8 10 ― ― B B 2.5 3.0 みSFSC) 拡 千鳥配置 下半 4 170 B 幅 上半 6 290 (上半の M ― 1.5 2.0 2.9 15 ― CⅠ CⅠ 2.0 みSFSC) 掘 下半 4 170 導 削 上半 6 290 坑 1.2 1.5 1.8 15 HH-154 HH-154 CⅡ CⅡ 1.5 工 下半 4 170 先 法 上半 6 290 1.2 1.4 20 HH-154 HH-154 進 DⅠ DⅠ 1.2 1.2 下半 6 170 上半 4 170 (上半の B B 2.0 2.0 ― ― 2.0 3.8 10 みSFSC) 上 下半 4 170 半 上半 6 290 CⅠ CⅠ 1.5 2.0 1.5 15 HH-154 ― 2.9 先 下半 4 170 進 上半 6 290 CⅡ CⅡ 1.2 15 HH-154 HH-154 1.2 1.8 1.6 工 下半 4 170 法 1.0 1.4 20 HH-154 HH-154 DⅠ DⅠ 1.0 上半 6 290 1.5 下半 6 170 ロックボルトの充てん材は早強モルタルを採用する ロックボルトの 290kN は、計測結果により 170kN にすることができる 吹付けコンクリートの一軸圧縮強度:10N/mm2(材齢 1 日) 36N/mm2(材齢 28 日) HH-154(高規格鋼アーチ支保工):SS540 の仕様を基に引張強さ 590N/mm2 以上にし、 破断破断伸び率 17%以上 る点は、「大断面」かつ「扁平」であることから、更なる安全面での注意が必要であるとともに、施工実績数が圧 倒的に少ないという点である。そのため、2車線トンネルでの検討時のように、実績データを分析することに 第二東名・名神トンネル 標準支保パターン マルチパターン 支保軽減 〒194-8508 東京都 町田市 忠生 1-4-1 TEL:042-791-1621 (FAX2380) -39- 試験施工 VI-020 土木学会第58回年次学術講演会(平成15年9月) よりマルチ化の案を提示する手法は、現実的では ない。しかし、①「手探りではなく、2車線トンネ TBM拡幅 170KN B ロックボルト ルでの検討過程や結果を参考とする」、また、前述 吹付け 上半先進 B H鋼 上半先進 CⅠ 290KN ロックボルト のように②「新技術の導入による新しい規格の支 TBM拡幅 CⅠ 保材料を採用したことから、現地での従来規格の ものとの併用は、段取り替えの観点でなるべく避 ける」ことを基本とすると、第二東名・名神トンネ ルの支保の増減は、ある程度その幅が限られるこ TBM拡幅 CⅡ 上半先進 CⅡ TBM拡幅 DⅠ 上半先進 DⅠ ととなり、表-2 に示すとおりとなる。なお、ここで は、標準支保が余裕のある設計となるケースを改 善するという目的から、支保の増強ではなく、軽 減ということに限定している。 4.支保軽減案と試験施工 図-2 表-2 に示す選択肢を表-1 の標準支保パターンに当て はめて設定した支保の軽減案を表-3 に示す。表-3 の軽減 案については、FEM等の数値解析手法により、支保の 軽減化の可能性について、標準支保パターンも含め確認 するとともに、概算の節減額も算出し、支保の軽減化に 表-2 標準支保パターン図 第二東名・名神トンネルの支保の軽減方法 支保の軽減化の案 軽減化しない項目 吹付けコンクリート ・厚さの減(5cmずつ) ・設計圧縮強度の減 ・周方向ピッチを広げる ・引抜き耐力の減(一部採用) ロックボルト ・短尺のものを採用する ・打設範囲を狭める ・従来規格鋼の採用 鋼アーチ支保工 ・下半のものを削除する ・SFSCへの変更 一掘進長 ・延進 よる影響を整理してから現地試験施工を実施した。 試験施工では、原則としてそれぞれ 30m 以 上の標準支保区間と軽減支保区間とを設け た。また、現地状況を考慮しながら、両区間の 間に 20∼30m の距離を設けた。そして、両区 間内のそれぞれ中央付近を計測工Bの実施 断面とし、TBM導坑がある場合には、先行 変位量を把握する目的から、拡幅掘削前から のTBM導坑内の計測工Aも実施した。 5.試験施工の実施状況と今後の計画 試験施工区間は、その目的上、同程度の性 表-3 掘削工法、標準支保パターン別の支保の軽減案 鋼アーチ ロックボルト 吹付け 一掘進長 支保工 [周方向ピッチ] コンクリート 15⇒10cm 1.5⇒2.0m T C (ともに上半 2.0⇒2.2m Ⅰ ∴ 2.9⇒3.2㎡/本 ∴ 2.9⇒3.8㎡/本 B のみSFSC) M C 上下半 1.2⇒1.5m 拡 Ⅱ ⇒上半 ∴ 1.8⇒2.2㎡/本 幅 D 1.2⇒1.5m 1.2⇒1.5m 20⇒15cm ∴ 1.4⇒1.8㎡/本 ∴ 1.4⇒1.7㎡/本 Ⅰ 2.0⇒2.5m C ∴ 2.9⇒3.5㎡/本 上 Ⅰ 2.0⇒2.2m 半 ∴ 2.9⇒3.2㎡/本 先 C 1.2⇒1.5m 上下半 1.6⇒2.0m 進 Ⅱ ∴ 1.8⇒2.4㎡/本 ⇒上半 ∴ 1.8⇒2.3㎡/本 D 1.0⇒1.2m 1.5⇒1.8m 20⇒15cm Ⅰ ∴ 1.4⇒1.7㎡/本 ∴ 1.4⇒1.8㎡/本 状を有する地山が連続して出現すると予想 表-4 される区間、また、土被りや力学特性等の条 件が同程度である区間が必要となる。更に、 検証対象の地山等級の出現を待つ必要もあ ることから、軽減案を数多く行うには限界も あり、時間も掛かったところである。 表-4 には、表-3 に示す軽減案の実施状況 を示す。試験施工は、表中の着色部分に示す 岩石の地山で実施されており、一部は当初案 から少し変更した案を行っている。 T B M 拡 幅 C Ⅰ C Ⅱ D Ⅰ C 上 Ⅰ 半 先 C 進 Ⅱ D Ⅰ ロックボルト [長さと耐力] 上半の長さ:6⇒4m 耐力:290⇒170KN 上半の長さ:6⇒4m 耐力:290⇒170KN 下半の長さ:6⇒4m 上半の長さ:6⇒4m 耐力:290⇒170KN 上半の長さ:6⇒4m 耐力:290⇒170KN 下半の長さ:6⇒4m 支保の軽減案の実施状況 吹付け コンクリート 一掘進長 花崗岩 2.0⇒2.2m ∴ 2.9⇒3.2㎡/本 鋼アーチ 支保工 ロックボルト [周方向ピッチ] ロックボルト [長さと耐力] 砂岩 砂岩、石灰岩、礫岩 砂岩 1.2⇒1.5m 上下半 ∴ 1.8⇒2.2㎡/本 ⇒なし 1.2⇒1.5m 花崗岩 花崗岩 ∴ 1.4⇒1.7㎡/本 2.0⇒2.5m ∴ 2.9⇒3.5㎡/本 2.0⇒2.2m ∴ 2.9⇒3.2㎡/本 1.2⇒1.5m 上下半 泥岩 ∴ 1.8⇒2.4㎡/本 ⇒上半 泥岩 1.0⇒1.2m 1.5⇒1.8m 20cm,25cm ∴ 1.4⇒1.7㎡/本 ∴ 1.4⇒1.8㎡/本 砂岩・泥岩・礫岩 下半の長さ:6⇒4m 上半の長さ:6⇒4m 耐力:290⇒170KN 泥岩 下半の長さ:6⇒4m 現時点までの試験施工は、ほとんどの実施事例において、変位量、発生応力等、問題ない結果が得られている。 また、検証初期に行われた軽減案の中には、後行施工の反対側チューブや他トンネルで、新しく標準支保とし て採用されたものもある。今後は、全ての試験施工結果のとりまとめと事後解析により、有効な支保パターン をJH設計要領に新しく標準支保パターンとして追加する予定であり、発表の際に紹介することとしたい。 -40-
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