1 2 10 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 フッ素樹脂表面に、無機珪素

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(57)【特許請求の範囲】
【0002】
【請求項1】
フッ素樹脂表面に、無機珪素化合物の存
【従来の技術】フッ素樹脂は他の樹脂類に比べて、撥水
在下において、紫外レーザー光を照射することを特徴と
撥油姓、摺動性、防汚性、耐熱性、耐薬品性および電気
するフッ素樹脂の紫外レーザー光を用いる表面改質法。
的特性等の点において優れているために、多様な用途を
【請求項2】
有しているが、その不活性な表面に起因して、接着剤や
無機珪素化合物を水溶液として、フッ素
樹脂表面と接触させる請求項1記載の方法。
塗料等の塗布が困難なだけでなく、他の材料との複合化
【請求項3】
が難しいという欠点がある。
無機珪素化合物が珪酸塩である請求項1
または2記載の方法。
【0003】このような欠点を改良するために、従来か
【請求項4】
らいくつかのフッ素樹脂表面改質法が提案されている。
紫外レーザー光がKrFエキシマレーザ
ー光またはArFエキシマレーザー光である請求項1か
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例えば、(i)金属ナトリウムとナフタリンのテトラヒド
ら3いずれかに記載の方法。
ロフラン溶液から調製される錯体溶液を用いて処理する
【発明の詳細な説明】
方法[ネルソン(E.R.Nelson)ら、Ind.Eng.Chem.,
【0001】
第50巻、第329頁(1958年)参照]、(ii)グロー
【産業上の利用分野】この発明は、化学的および物理的
放電を利用する方法[角田ら、工業材料、第29巻(第2
に不活性なフッ素樹脂表面の新規改質法に関する。
号)、第105頁(1981年)参照]、(iii)低圧下での
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(2)
特許第3176740号
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高周波スパッタエッチングによって処理する方法(特公
コポリマー(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PV
昭53−22108号公報参照)、(iv)B(CH3 )3 やAl
DF)およびポリフッ化ビニル(PVF)等またはこれら
(CH3 )3 等の特殊なガス雰囲気中において、レーザー光
の任意の混合物が挙げられる。
を照射する方法(特開平2−196834号公報参照)お
【0009】本発明によって処理されるフッ素樹脂の具
よび(v)エキシマレーザー光を直接照射する方法(特公平
体的形態は特に限定的ではないが、シート、フィルム、
3−57143号公報参照)等が挙げられる。
パイプ、多孔質膜およびその他の任意の形状を有する成
【0004】しかしながら、これらの改質法には次の様
形体等が例示される。
な問題点がある。方法(i)の場合には、処理中に引火の
【0010】本発明において使用する無機珪素化合物と
危険があり、処理液も不安定なために、作業衛生上問題
しては、珪酸塩(例えば、珪酸ナトリウム、珪酸カリウ
があるだけでなく、太陽光照射や高温条件下で、改質表
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ム、珪酸リチウムおよび珪酸アンモニウム等)、酸化珪
面の接着性等が大幅に低下するという欠点がある。方法
素、窒化珪素および炭化珪素等が例示されるが、特に珪
(ii)には、ポリエチレン等のフッ素不含ポリマーに比べ
酸塩が好適である。
て、表面改質効果が著しく低いという難点がある。方法
【0011】フッ素樹脂表面上に無機珪素化合物を存在
(iii)の場合には、処理速度が遅く、エッチングされた
させる態様は特に限定的ではなく、微粉末状の無機珪素
樹脂分が高価で大型の真空系処理装置内部に付着するだ
化合物をフッ素樹脂表面上に直接的に存在させてもよい
けでなく、樹脂表面に形成される易摩損性凹凸が、低流
が、表面改質効率および作業性等の観点からは、無機珪
動性の接着剤や塗料等に対して十分な接着性や塗装性等
素化合物を水溶液、水性分散液または水性懸濁液、就
をもたらさないという問題がある。方法(iv)の場合に
中、水溶液としてフッ素樹脂表面に接触させるのが好適
は、処理速度が遅く、また、毒性の強いガスと高価で大
型の処理装置を必要とするという問題がある。さらに、
である。水溶液の濃度は、使用する無機珪素化合物の種
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類および使用する紫外レーザー光の波長に強く依存す
方法(v)の場合には、フッ素樹脂表面の接着性と濡れ性
る。例えばArFエキシマレーザー光を用いたメタケイ
を十分に改良できないという難点がある。
酸ソーダ水溶液の場合、1重量%で著しい効果を示し、
【0005】本発明者らは先に、上記諸問題を解決し、
水ガラス水溶液の場合には10重量%で、その効果は著
フッ素樹脂表面の接着性や濡れ性を大幅に改良し得る方
しい。無機珪素化合物の水性液をフッ素樹脂表面と接触
法を提供した(特願平4−145595号明細書参照)。
させる具体的な態様としては、フッ素樹脂製フィルム等
しかしながら、この改良法の場合には、光吸収性物質を
を水性液に浮遊させる方法、フッ素樹脂製多孔膜等に水
予めフッ素樹脂に混練した後、レーザー光を照射しなけ
性液を含浸させる方法、フッ素樹脂製パイプ内に水性液
ればならないため、既製のフッ素樹脂成形体等の表面改
を満たす方法等が例示される。
質には適用できないという難点がある。
【0012】本発明においては、上述のような態様等に
【0006】
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より、フッ素樹脂表面に無機珪素化合物を存在させた状
【発明が解決しようとする課題】この発明は、本発明者
態において、該樹脂表面に紫外レーザー光を照射するこ
らによる先の特許出願に係わる上記難点を解決し、汎用
とによって、該樹脂表面の改質をおこなう。紫外レーザ
的にフッ素樹脂表面の接着性や濡れ性等を大幅に改良し
ー光としては、波長が400nm以下の紫外レーザー光が
得るフッ素樹脂表面の改質法を提供するためになされた
好適である。特に、高出力が長時間にわたって安定して
ものである。
得られるKrFエキシマレーザー光(波長:248nm)およ
【0007】
びArFエキシマレーザー光(波長:193nm)等が好まし
【課題を解決するための手段】即ちこの発明は、フッ素
い。紫外レーザー光は、通常、室温大気中でおこなう
樹脂表面に、無機珪素化合物の存在下において、紫外レ
が、酸素雰囲気中でおこなってもよい。また、紫外レー
ザー光の照射条件は、フッ素樹脂や無機珪素化合物の種
ーザー光を照射することを特徴とするフッ素樹脂の紫外
レーザー光を用いる表面改質法に関する。
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類および所望の表面改質度等によって左右されるが、一
【0008】本発明において使用するフッ素樹脂は、含
般的には、フルエンス約10mJ/cm2 /パルス以上およ
フッ素ポリマーであって、例えば、ポリテトラフルオロ
びショット数約5000以下である。
エチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ペルフ
【0013】
ルオロアルコキシエチレンコポリマー(PFA)、テトラ
【実施例】以下、本発明を実施例によって説明する。
フルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマ
実施例1
ー(FEP)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロ
水ガラス10%水溶液を含浸させたPTFE製多孔質膜
プロピレン−ペルフルオロアルコキシエチレンターポリ
(平均孔径:0.1μm、寸法φ47、厚み0.045mm)
マー(EPE)、テトラフルオロエチレン−エチレンコポ
を該水溶液に浮遊させ、該多孔質膜に、上方から波長1
リマー(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン
93nmのArFエキシマレーザーを照射した(フルエン
(PCTFE)、トリフルオロクロロエチレン−エチレン
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ス:100mJ/cm2 /パルス、全エネルギー:10.6J
(3)
特許第3176740号
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/cm2 )。照射処理した多孔質膜の濡れ性は、純水で十分
マレーザーを照射した(フルエンス220mJ/cm2 /パ
洗浄し、乾燥させた後、JISK6768に規定された
ルス、全エネルギー10.2J/cm2 )。照射処理した多
濡れ指数標準液で測定した。即ち、表面張力が順を追っ
孔質膜の濡れ性は、純水で十分洗浄し、乾燥させた後、
て変化する一連の混合液を該多孔質膜に順次滴下してゆ
JISK6768に規定された濡れ指数標準液で測定し
き、該多孔質膜を濡らすと判定される混合液の最高の表
た。即ち、表面張力が順を追って変化する一連の混合液
面張力を濡れ指数として評価したところ、44dyn/cm
を該多孔質膜に順次滴下してゆき、該多孔質膜を濡らす
であった。この濡れ指数は、紫外レーザー光を照射しな
と判定される混合液の最高の表面張力を濡れ指数として
いPTFE製多孔質膜の値(31dyn/cm未満)に比べて
評価したところ、33dyn/cmであった。この濡れ指数
著しく大きい。このことは、本発明によってフッ素樹脂
は、紫外レーザー光を照射しないPTFE製多孔質膜の
表面の濡れ性が大幅に改善されたことを示す。なお、照
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値(31dyn/cm以下)に比べて大きい。このことは、本
射処理した多孔質膜の表面を、X線光電子分光法によっ
発明によってフッ素樹脂表面の濡れ性が明らかに改善さ
て分析したところ、極性基であるカルボニル基の生成が
れたことを示す。
確認された。また電子顕微鏡観察の結果、多孔質膜組織
【0017】実施例5
に変化は見られなかった。
FEPフィルム(寸法φ47、厚み0.100mm)を水ガ
【0014】実施例2
ラス10%該水溶液に浮遊させ、該フィルムに、上方か
水ガラス10%水溶液を含浸させたPTFE製多孔質膜
ら波長193nmのArFエキシマレーザーを照射した(フ
(平均孔径:0.1μm、寸法φ47、厚み0.045mm)
ルエンス220mJ/cm2 /パルス、全エネルギー10.
を該水溶液に浮遊させ、該多孔質膜に、上方から248
2J/cm2 )。照射処理したフィルムの接触角は、純水で
nmのKrFエキシマレーザーを照射した(フルエンス41
0mJ/cm2 /パルス、全エネルギー20.6J/cm2 )。
十分洗浄し、乾燥させた後、協和界面科学(株)製接触角
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測定器(FACE
CA−A型)で測定したところ、90
照射処理した多孔質膜の濡れ性は、純水で十分洗浄し、
度であった。この接触角の値は、紫外レーザー光を照射
乾燥させた後、JISK6768に規定された濡れ指数
しないFEPフィルムの値(112度)に比べて小さい。
標準液で測定した。即ち、表面張力が順を追って変化す
このことは、本発明によってフッ素樹脂表面の濡れ性が
る一連の混合液を該多孔質膜に順次滴下してゆき、該多
明らかに改善されたことを示す。
孔質膜を濡らすと判定される混合液の最高の表面張力を
【0018】比較例1
濡れ指数として評価したところ、41dyn/cmであっ
PTFE製多孔質膜(平均孔径0.1μm、寸法φ47、
た。この濡れ指数は、紫外レーザー光を照射しないPT
厚み0.045mm)に、上方から波長193nmのArFエ
FE製多孔質膜の値(31dyn/cm未満)に比べて著しく
キシマレーザーを照射した(フルエンス100mJ/cm2
大きい。このことは、本発明によってフッ素樹脂表面の
/パルス、全エネルギー10.6J/cm2 )。照射処理し
濡れ性が大幅に改善されたことを示す。
30
た多孔質膜の濡れ性を、実施例1の方法に従って測定し
【0015】実施例3
たところ31dyne/cm未満であった。
メタケイ酸ナトリウム1%水溶液を含浸させたPTFE
【0019】比較例2
製多孔質膜(平均孔径:0.1μm、寸法φ47、厚み0.
PTFE製多孔質膜(平均孔径0.1μm、寸法φ47、
045mm)を該水溶液に浮遊させ、該多孔質膜に、上方
厚み0.045mm)に、上方から波長248nmのKrFエ
から波長193nmのArFエキシマレーザーを照射した
キシマレーザーを照射した(フルエンス410mJ/cm2
(フルエンス220mJ/cm2 /パルス、全エネルギー1
/パルス、全エネルギー20.6J/cm2 )。照射処理し
0.2J/cm2 )。照射処理した多孔質膜の濡れ性は、純
た多孔質膜の濡れ性を、実施例1の方法に従って測定し
水で十分洗浄し、乾燥させた後、JISK6768に規
たところ31dyne/cm未満であった。
定された濡れ指数標準液で測定した。即ち、表面張力が
順を追って変化する一連の混合液を該多孔質膜に順次滴
【0020】
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【発明の効果】本発明によれば、化学的および物理的に
下してゆき、該多孔質膜を濡らすと判定される混合液の
不活性なフッ素樹脂表面を、フッ素樹脂の特性である優
最高の表面張力を濡れ指数として評価したところ、43
れた耐熱性、耐薬品性および電気的特性等を損うことな
dyn/cmであった。この濡れ指数は、紫外レーザー光を
く、効果的に改質することができ、これによって、フッ
照射しないPTFE製多孔質膜の値(31dyn/cm未満)
素樹脂の濡れ性、接着性、印刷性および塗装性等は大幅
に比べて著しく大きい。このことは、本発明によってフ
に改善される。従って、本発明によって表面改質された
ッ素樹脂表面の濡れ性が大幅に改善されたことを示す。
フッ素樹脂成形体等は、多様な印刷や塗装処理および他
【0016】実施例4
の樹脂類や無機材料との複合化処理等の二次加工に供す
水ガラス10%水溶液を含浸させてから乾燥させたPT
ることができ、該成形体等の付加価値は飛躍的に増大す
FE製多孔質膜(平均孔径:0.1μm、寸法φ47、厚み
る。
0.045mm)に、上方から波長193nmのArFエキシ
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(4)
特許第3176740号
フロントページの続き
(72)発明者
清水
(72)発明者
雄一
大阪府寝屋川市三井南町25−1
日本原
河西
紡績株式会社技術研究所内
俊一
大阪府寝屋川市三井南町25−1
(72)発明者
洋介
大阪府寝屋川市下木田町14番5号 倉敷
子力研究所高崎研究所大阪支所内
(72)発明者
江口
(56)参考文献
日本原
特開
平3−272846(JP,A)
子力研究所高崎研究所大阪支所内
特開
昭60−226534(JP,A)
杉本
国際公開90/8805(WO,A1)
俊一
大阪府枚方市楠葉野田2−8−9
(72)発明者
田中
(58)調査した分野(Int.Cl.7 ,DB名)
忠玄
大阪府寝屋川市下木田町14番5号
C08J
倉敷
紡績株式会社技術研究所内
−4−
7/00