関西国際空港2期空港島埋立工事における施工管理

関西国際空港2期空港島埋立工事における施工管理
東洋建設㈱
大阪本店
関西国際空港㈱
建設事務所
○山本
芳生
溝端
堅市
1.工事概要
関西国際空港は、現在供用されている1期空港島に加えて 2 本目の滑走路を設ける2期
空港島の埋立が進められている。2期空港島の埋立工事は、平成 14 年春までに、底開土運
船を用いた直投施工により水中部に約 16m層厚の埋立が完了し、それに引き続き行なわれ
た揚土工事は、滑走路が計画されている部分を始めて陸化させる工事として平成 14 年 4
月より開始した。2期空港島埋立工事(揚土その1)は、2期空港島の北西部に位置し、平
均層厚約 19m の埋立を 90ha 以上の範囲に実施した。埋立土量は、約 1,900 万 m3 であった。
2.目的
2期空港島は、1期空港島よりも層厚が厚い軟弱な原地盤上に建設されることから、埋
立を行なうに際して様々な配慮がされてきた。2期空港島の沖積地盤は全面的にサンドド
レーンで改良されており、埋立初期段階においてはサンドドレーンの機能に障害が出ない
よう、底開土運船を用いて薄層・均一に埋立されてきた。揚土工事においては、揚土船を
用いた直接揚土により陸化させることから、揚土船や土運船の運航経路を確保するために
片押し施工を行うこととなった。そのためこれまでのように薄層・均一な埋立を行なうこ
とができなかった。そこで将来にわたって不同沈下が少ない健全な空港島を造るためには、
より均質な地盤を造成すること、施工履歴の差による残留沈下量の差を抑制することが必
要であり、より正確かつ迅速に施工を行うことが重要であった。
3.施工および施工管理
2期空港島埋立工事のうち揚土工事は、平均-7.5m の既施工埋立天端から-3.0m までを
底開式土運船を用いて直投②工として施工し、その後平均+11.5m までを揚土①工として箱
型土運船で搬入された土砂を揚土船にて施工を行うものである(図−1参照)。当工事にお
いては、埋立完了後 1 ヶ月の沈
▽ +11.5m (平均)
下量が 1m にもおよぶ条件での
揚土①工
(今回工事)
施工であったため、施工管理上
▽ -3.0m
は沈下管理、層厚管理および安
直投②工(今回工事)
▽ -7.5m (平均)
定管理が必要であった。
直投による埋立層
(別途工事)
施工に先立ち、施工および施
工管理を行うための管理ブロッ
クを設定した。施工管理ブロッ
クは、全島で統一の管理手法を
沖積地盤
(サンドドレーン改良)
用いることを前提として、就航
するすべての揚土船の施工能力
より判断して奥行きを 40m とし
図−1
技-5
揚土工事の概要
1
た。また延長方向は 1 日当りの施工能力などより 40m とし、管理ブロックを 40m×40m に設
定した。また、先行工事の管理ブロックが 200m×200m であることからこのブロックを 25
分割することにより、管理データを引き継ぐこととした。
直投②工の施工に先立ち、現海底地盤の状
況を把握するために深浅測量船にて事前測量
測量船
GPSによる位置情報の取得
を実施した。これは、埋立層厚を管理するた
動揺センサーに
よる補正
めに重要となる。深浅測量では、ナローマル
チビームを用いた測深システムを採用した。
ナローマルチビーム
測深ソナー
この測量システムは、先行された護岸工事や
埋立工事にて確立されたものであり、水深の
1.5∼2.0 倍の範囲を 1 回の測量で実施するこ
とが出来るものである(図−2参照)。この測
量システムを用いることにより省力化が図れ
るとともに、海底面の不陸を正確に把握する
図−2
深浅測量システムの概要
ことが可能であった。
直投②工の施工は、前述したように基本的に
40m 奥行きにて進めて行った。底開土運船の長さ
は 40m よりも長く、これまでの直投による埋立と
異なる施工方法が必要であった。そこで、図−3
に例を示すように底開式土運船の長さ方向に 3∼
4 に分割されたハッチの前方 1∼2 ハッチを施工し
た後、投入位置を移動し後方の残りのハッチを施
工する「段落とし」施工を実施した。また直投②
工は、後続する揚土①工の安定のためのカウンタ
図−3
直投②工施工状況
ーウエイトの役割も果たしているため、安定管理
上必要な形状に仕上げる必要があった。そのため
投入位置
日々の施工の完了後、深浅測量を実施し、出来形
の確認を行い、翌日の投入計画を作成した。直投
②工の施工を行う上で施工位置の管理を行う必要
があった。そのため運航管理支援システムを利用
した。投入位置管理モニターを図−4に示す。施
現在位置
工管理職員および船長は、このモニター画面によ
り土運船を指定の場所に誘導し、投入計画に沿っ
図−4
投入位置管理モニター
た埋立を迅速かつ確実に実施した。
揚土①工は、標高-3.0m の直投②工の天端から平均+11.5m まで一気に施工を行った。図
−5に揚土①工の施工状況を示す。土砂を満載した箱型土運船を揚土船に接舷し、揚土船
に備えられたバックホウなどの揚土機にて土砂を揚土船のホッパーに投入する。投入され
た土砂は、船内のベルトコンベアを通じてスプレッダと呼ばれる船外へ送り出すベルトコ
技-5
2
ンベアにて所定の場所に埋立される。揚土
船においては、スプレッダ先端位置を
RTK-GPS を用いて操船室からリアルタイム
に管理するシステムを採用した。このシス
テムにより日々の埋立位置を迅速かつ確実
に把握できるため、ブロック管理を正確に
行うことが可能となった。
揚土完了後の天端は、ブルドーザを用い
図−5
揚土①施工状況
て所定の高さに整地を行なった。整地に際
して、施工層厚を確保する目的として高さ
RTK-GPS
アンテナ
を管理する必要があった。通常の施工であ
れば整地する高さの目印として「丁張り」
を設置することになる。しかし、本工事で
は、図−6に示すようにブルドーザに
RTK-GPS を搭載した整地管理システムを採
用した。このシステムは、走行中のブルド
ーザの平面位置および高さをリアルタイム
図−6
に計測し、モニター表示を行うため、オペ
整地工施工状況
レーターが、モニターに従って施工することにより所定の高さにて整地が可能であった。
沈下管理に重要な沈下計測においては、
日々沈下が進むことにより、仮水準点を設
①
けることが不可能な状況にあったため
RTK-GPS による計測を採用した。工事区域
⑥
②
④
が 1,500m×700m におよんでいることから、
GPS とレベルによる計測では、人員・時間
③
⑤
ともに膨大となることが予想された。そこ
で測量方法の検討を行った結果、自動追尾
図−7
式トータルステーションを用いた測量シス
①
②
③
④
⑤
⑥
機 器 名 称
自動追尾式トータルステーション(ATS-PT)
三脚
ボトルバッテリー(12V)
ペンコンコンピューター
接続ケーブル
シートターゲット
測量システム概要
テムを用いることとした(図−
7参照)。このシステムは、約
携帯型GPSによる計測
新システムを用いた計測
250m 離れた測点の値を計測で
きること、一度視準することに
より、次回以降は前回の計測値
を参考に自動で測点を追尾して
計測することから、計測時間と
計測人員の大幅な削減が図れた
携帯型GPS
新システム
(図−8参照)。また、計測結果
計測方法
各計測点1分計測
自動視準計測
図−8
測点数
22
計測人員
2名
1名
計測時間
90分
30分
護岸動態観測
は電子データにて事務所のデー
技-5
3
タベースに収録できることから、入力時間の削減および正確な入力が可能となった。
本工事においては、現場の立地条件などの要
因より、企業体事務所と現場の間は 6km 以上離
企業体事務所
現場詰所
れていた。また、交通手段としては、比較的高
速な交通船を用いても 20 分∼30 分を要してい
た。そのため作業の効率化を図るため、企業体
事務所と現場詰所の間に無線 LAN を用いたデー
測量船
タ伝送システムを構築した(図−9参照)。この
システムを用いることにより、現場での打合せ
結果や状況写真などを即座に事務所で確認する
ことができ、必要な対応策を事務所から指示で
図−9
きるなど迅速かつ安全な作業を行うことが可能
無線 LAN の概要
であった。さらに、深浅測量船を同システム内部に組み込むことにより、当工事において
クリティカルとなる場合が多かった深浅測量結果の確認を迅速に行うことが可能であった。
4.結論および今後の課題
本工事は、これまで述べてきたように様々な施工管理システムを採用し、大規模急速施
工を安全かつ迅速に実現した。表−1に各システムの特徴をまとめて示す。深浅測量や直
投工に採用したシステム
表−1
は、これまでに実施され
た護岸工事や埋立工事に
工種
て実績が得られたもので
深浅測量
ある。また、揚土工、整
地工および陸上測量に利
用されたシステムは、揚
これらに加えて採用した
無線 LAN を用いたデータ
伝送システムを施工管理
主なメリット
ナローマルチビームを 水深の2倍程度の範囲を1度に測深できる。そのため迅速
用いた測深システム かつ正確な深浅測量が可能であった。
直投工
押船の操舵室にあるモニターにより投入位置を確認できる。
運航管理支援システム
そのため投入位置の測量などに要する人員が削減されると
(船位誘導装置)
ともに迅速かつ確実な投入が可能であった。
揚土工
揚土船の操船室にあるモニターにより施工位置を確認でき
揚土施工管理システム る。そのため埋立位置の測量などに要する人員が削減され
るとともに迅速かつ確実な埋立が可能であった。
土工事の開始に当り新規
に採用したものである。
採用したシステム
各システムの特徴
整地工
RTK-GPSを搭載した
ブルドーザによる
整地管理システム
運転席からモニターにより施工位置と整地高さを確認でき
る。そのため測量などに要する人員が削減されるとともに
迅速かつ正確な施工が可能であった。
自動追尾式トータル 広域の測量を1度に行うことができ、天候や輻輳による危
陸上測量 ステーションを用いた 険な場所での測量を回避できる。そのため迅速かつ正確に
測量システム
安全な計測作業が可能であった。
その他
無線LANを用いた
データ伝送システム
測量データをはじめとする現場の状況を即座に把握できる。
そのため必要な対策を迅速かつ的確に行うことが可能であ
った。
に用いたことは、当工事
の目標を達成するために必要な迅速かつ正確な施工を行う上で有効であった。
今後はこれらの実績を当工事のスケールメリットなどを踏まえて分析し、今後の工事に
役立てることが出来るようにしていく予定である。
<謝辞>
2期空港島埋立工事(揚土その1)は、関西国際空港用地造成株式会社の発注により、関
西国際空港株式会社建設事務所の管理の下、東洋・飛島・錢高・淺沼・吉田特定建設工事
共同企業体が実施したものである。施工管理方法の確立および新技術採用に当って、ご指
導・ご協力いただいた関係各位の方々に文末ながら感謝するものである。
技-5
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