フロントスクワット 1 - NSCAジャパン

©NSCA JAPAN
Volume 15, Number 6, pages 47-51
Te a c h i n g Te c h n i q u e s
連載 12
S&C 専門職のためのエクササイズ指導テクニック
フロントスクワット
The Front Squat
Mark I. Larson, CSCS, Brown University
Joe Weir, University of Nebraska-Lincoln
Gerard Martin, CSCS, Yale University
問
1
フロントスクワットの適切なテク
ニックを指導する場合、初心者に
一般的に見られる誤りは何か。
ールできなくなる可能性がある。この
a.背中を丸めると、下背部の筋では
問題を修正するためには、挙上者は上
なく、支持組織(靭帯)に過度なス
腕を床に平行に保持することが必要で
トレスがかかる。背中はしっかり
ある。このテクニックに関して、いつ
と保持し若干反らす。
Weir :最もよく見られる誤りは、体幹
も同じ問題を経験する挙上者は、腕を
を真っ直ぐに保持できないこと、床か
交差させるクロスアームグリップを用
たり、左右にずれたりすること。
らかかとが離れること、そして肘が下
いることによってうまく挙上できる場
このような不適切な姿勢ではバー
がることである。肘を下げることは、体
合がある。このクロスアームグリップ
をしっかり支えられず、実際に手
幹の直立を保持できないことと関係が
では、三角筋前部よりも高くバーを保
からバーが滑り落ちることになる。
ある。肘が下がることは背中を丸める
持しなければならないため、前方/下
この誤りは、肩や手首の柔軟性が
ことにつながり、前方にバランスを崩
方にバーが滑り落ちることを予防でき
不足しているために起こる場合が
す恐れがある。
(編集注:Weir の回答は
る。
ある。またバーを握るグリップ幅
すべて、クリーンのテクニックを想定
b.肘が下がってバーの後方に位置し
中には、重心を母趾球より前方に移
が広すぎないかチェックする必要
す傾向によって、バランスとコントロ
がある。グリップが広すぎると、肘
ールを失う初心者もいる。かかとの方
を高くあげ、バーより前に出す適
Larson :三角筋前部でバーを支えると
向に重心を移すように指示することは、
切な姿勢をとることができない。
き、初心者は肘が下を向き、バーのコ
このようなテクニックの誤りを修正す
ントロールが困難になる場合がよくあ
る助けとなるだろう。
している)
る。これは大抵、クリーンスタイルで
c.挙上の最下点からバウンドして立
ち上がる。これは膝の支持組織に
過度のストレスをかける可能性が
バーを握ったときに起こる。これによ
Martin :一般的に次のような誤りがみ
ある。挙上は常に滑らかに、コン
ってバランスが崩れ、バーをコントロ
られる。
トロールしながら行う。
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d.挙上の最上部近くでバーをぐっと
押すと、膝の過伸展を起こす可能
コーチのチェックリスト
性がある。リフトは常に滑らかに、
コントロールした状態で行う。
e.膝を内側に入れると、膝関節に過
度のストレスがかかる。膝とつま
先は同一方向に向かなければなら
フロントスクワット
開始前
下ろす動作
□ ウェイトベルトを装着する
□ ゆっくりとコントロールしながら下ろ
す
□ 1 名以上の補助者をおく
ない。両足は肩幅に開き、アスリ
□ 膝はつま先の延長線上におく
ートがパラレルポジションを取る
グリップとスタンス
□ 殿部は「両足の間」に保持する
ときに股関節を開きやすいように、
□ パワークリーン・グリップで握る
□ 股関節が膝関節と平行になるまで下ろ
していく
つま先をやや外に向ける。
f.挙上中につま先に体重が移動する。
荷重の分散が不適切なために基底
面が不安定となり、転倒する場合
□ 両手の幅は肩幅よりやや広めにとる
□ 上腕が床と平行になるように肘を上げ
る
□ 胸を張る
□ 肘を上げて構える
□ 肘を上げる
クロスアームグリップ
る場合がある。足裏全体を常に床
□ 手首の柔軟性が不足しているために、
パワークリーン・グリップでは肘を上
げた姿勢を保持できない選手が用いる
g.頸椎の過伸展。頭部はニュートラ
問
2
□ やや上または真っ直ぐ前を見る
が不足していることによって起こ
かかとにかけて分散する。
□ 背中は真っ直ぐ保つ
□ バーは肩の凹みの部分で支える
がある。これは、股関節の柔軟性
につけておく。体重は中足部から
□ 最下点でバウンドさせない
□ 重心は足の中央もしくはかかとに乗
せ、つま先側に体重をかけない
上げる動作
□ 胸の前で腕を交差させる
□ 両足で床を押す
□ 両手を肩の上に置く
□ 股関節を前方上方へ押し上げる
ルポジションか、若干上向きにす
□ 軽く頸部に押し当てる
□ 肘を上に押し上げる
る。
□ バーは肩の凹みの部分で支える
□ やや上または真っ直ぐ前を見る
□ 上腕が床と平行になるように肘を上げ
る
□ 背中は真っ直ぐ保持する
初心者がフロントスクワットを学
習する際、安全性や補助の方法に
関して特に注意すべきことがある
か。
Larson :補助の方法としては、まずバ
スタンス
□ 胸を張る
□ 挙上の最高点で動作が押し込んだり、
急激に速めたりしない
□ 両足を肩幅に開く
□ つま先は若干外側に向ける
避けるべき動作
□ 足裏全体を床につける
□ 背中を丸める
ーの両端に2名の補助者を置く必要が
□ 胸を張り、背部を前弯させる
□ 最下点でバウンドする
ある。上げる動作段階で失敗しそうに
□ やや上を向く
□ 両膝を内側に入れる
なったら、左右の補助者が平等に補助
□ 肘を上げる
を提供し、挙上者が直立姿勢を取り戻
このチェックリストは専門家によって査読済みで
あり、NSCA のガイドラインにも適合している。
せるように手助けすることが重要であ
る。もし片方の補助者が早々とバーを
つかんで引き上げると、挙上者はひど
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い傷害を負う可能性がある。これを予
合、挙上者を助けようとしてかえって
防するために、常に注意を怠らないこ
コントロールやバランスが失われ、挙
と、十分なコミュニケーションをとる
上者にけがをさせる場合がある。
ことが重要である。私は1名で補助す
動作の最下点でバウンドしない。バ
ることを勧めない。補助者が1名の場
ウンドすると、膝の靭帯に過剰なスト
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レスをかけるおそれがある。
最下点では、体幹を垂直に、下背部
を反った状態に保つ。下背部を丸めて
はならない。
膝を内側に入れないようにする。挙
できる。
上者の重心がかかと付近にあれば、こ
リートはパワークリーン/ハングクリ
れは起こらないだろう。この誤りは、骨
盤の幅が広い女性に頻繁に見られる。
ポジションに引き上げるために、アス
Weir :初心者は軽いウェイトから始め
ーンの動作に習熟していなければなら
て、ゆっくりとウェイトを漸増させる
ない。
Martin :私は安全上、次の点に配慮す
ことが肝心である。多くのアスリート
バーをラックポジションで安全な状
ることを推奨する。
は、まずオリンピックバーだけを使っ
態で保持するためには、手関節と肩関
a.アスリートの中には、基礎筋力/
て練習を始めることが妥当である。バ
節の柔軟性が必要である。直立/前弯
柔軟性の欠如または以前の傷害が
ックスクワットの経験を積んだアスリ
した背部を保持しながら適切なエクサ
原因で、傷害を負いやすい者がい
ートは多くいるが、フロントスクワッ
サイズを行うためには、股関節の柔軟
る。あらゆる体型の異常、下肢長
トは全く新しい課題であるということ
性が必要である。またアスリートには、
差によって生じる、股関節の左右
を指摘しておく必要がある。従って、見
強い体幹(腹部/下背部)の筋力が必要
不均衡や脊柱の異常湾曲などに注
かけは軽い負荷であっても、ストレス
である。ウェイトが身体の重心から相
意を払う。正常な姿勢からの逸脱
はかなり大きいであろう。
当遠くに離れているため、挙上動作を
は、ウェイトを加えることによっ
補助に関しては、バーの両端にそれ
て拡大され、傷害をもたらす可能
ぞれ補助者を置くことが最も望ましい。
性がある。
その際、補助者は油断せずに絶えず注
支えるためには、体幹の十分な筋力が
備わっていなければならない。
b.カラーを用いる。
意を払い、フロントスクワットの適切
Weir :私自身の意見では、常に適切な
c.パワーラック内が十分に広ければ、
なテクニックを理解している必要があ
テクニックに重点を置き、最初は軽い
アスリートはパワーラック内でテ
る。補助者が未経験者であると、補助
ウェイトを負荷として用いる限り、健
クニックを習得できる。パワーラ
するタイミングが早すぎたり遅すぎた
康なアスリートであればフロントスク
ックを用いれば、姿勢を補正でき
りしてバーのバランスが悪くなり、傷
ワットでもバックスクワットでも、行
る。
害を招くおそれがある。もしこの点に
う準備は整っていると思われる。しか
d.補助者を置く。1名を挙上者の後
心配がある場合は、経験の豊富な補助
し、適切な技術を促すためには、若干
ろに配置する。または、左右両側
者を1 名だけで行う。補助者が1名の
の柔軟性が必要である。これには、手
に1 名ずつ配置する。補助者は適
場合は、挙上者の胸のすぐ下に前腕を
関節屈筋群、腸腰筋、股関節伸筋、腓
切なテクニックに習熟しているこ
置いたまま、各レップで挙上者の動き
腹筋/ヒラメ筋、脊柱起立筋などの柔
とはもちろん、アスリートの完了
に従って補助者も上下に動くことが重
軟性が含まれる。
レップ数を把握していなければな
要である。また初心者の場合、バーが
らない。
肩から落下することが当然心配される。
習すると同時に、腹筋群と脊柱起立筋
e.補助のテクニックとしては、コン
従って、補助者はバーをキャッチしな
の筋力を強化することを強調すべきで
トロールされたもので明確な意図
ければならない場合を想定して、トレ
ある。これは傷害の予防に役立ち、適
をもっていなければならない。片
ーニング中は常に意識を集中していな
切なテクニックの向上を促進する。
方の補助者が不用意に突然バーを
ければならない。
Larson :すべての挙上者は、このエク
挙げたりすると、アスリートがバ
ランスを崩し、傷害を負う可能性
がある。
f.エクササイズをパワーラック内で
初心者には、適切なテクニックを学
問
3
アスリートがフロントスクワット
を取り入れる前に、筋力や技術面
で満たすべき条件があるか。
行わない場合は、バンパーウェイ
ササイズを試みる前に、バックスクワ
ットの十分な技術を習得している必要
がある。バックスクワットの補助エク
ササイズとして、またトレーニングバ
トを用いることにより、万一落下
Martin :床から始める場合には、フロ
リエーションの一つとして、この運動
した場合の安全を確保することが
ントスクワットにおいてバーをラック
をトレーニング処方に取り入れる前に、
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アスリートは少なくとも自重の1.5 倍で
保持すること(肘を上げる)
。これには、
ームに注意を集中してスクワット
バックスクワットができる能力を身に
手関節屈筋群の適度な柔軟性が関与し
エクササイズを行う。これが完全
つけている必要がある。
てくる。肘が下がると、上げる動作中
に行えるようになれば、コーチと
すべての挙上者は、三角筋前部のク
に身体が前傾する。第二に、挙上者は
アスリートは、バーの位置と上半
リーンスタイルのラックポジションか
常に真っ直ぐ前またはやや上を見なけ
身の適切な姿勢に集中できる。
ら始めるか、またはクロスアームグリ
ればならない(頭部を上げる)
。最後に、
ップを用いる。このグリップでは、バ
背中を丸めずに、反対に反らして、胸
ーを鎖骨方向へさらに高く引き上げて
から先に動くようにする
(胸を張る)
。そ
支える。グリップは、快適さと個人の
の他の役立つ方法としては、
「2×4」
好みに応じて選択すればよい。クロス
か、何らかのブロックを挙上者のかか
アームグリップでは、バーが喉に近付
との下に置く。これは、かかとが床か
Weir :アスリートによっては、フロン
く傾向があるため、平常な呼吸が妨げ
ら離れないようにし、体幹を真っ直ぐ
トスクワットは、バックスクワットと
られ、呼吸が困難になる可能性がある。
保持するために有効である。また、鎖
対照的に、大腿四頭筋により大きな負
骨部分のパッドの代わりに、厚めのス
荷を課すことができる。これはバック
ウェットシャツを着させるとよい。大
スクワット中、体幹の直立を維持でき
きな市販のパッドや厚いタオルを巻き
ない挙上者に特に有効である。また、長
つけることは、バーが回転する可能性
期間バックスクワットだけをしている
が高くなるので、避けるべきである。
と飽きてしまう可能性があるため、フ
問
4
フロントスクワットを指導すると
きに、これまで特に役立った指導
法はあるか。
Larson :手首の柔軟性:フロントスク
問
5
このエクササイズを用いることは、
アスリートにとって主にどのよう
な利益があるか。
ロントスクワットを取り入れることで
ワットを含むどのようなワークアウト
Martin :私は次の方法を用いている。
トレーニングにバラエティを加えるこ
の前も、常に手首を屈曲伸展させるス
a.ビデオ。ビデオカメラとウェイト
とができる。
トレッチがウォームアップ手順に含ま
ルーム内のモニターを使う。この
れるべきである。
方法では、挙上を完了した後すぐ
Larson :通常のバックスクワットのル
グリップ:上述したように、自分が好
に、自分自身のパフォーマンスを
ーティンにバリエーションを取り入れ
む快適な方法で握る。
観察できる。水溶性マーカーを使
ることができる。下背部への負荷が比
肘:床に平行に保持する。
い、モニター画面上で不適切なフ
較的少ないため、疲労と傷害を受けや
下ろす動作:ゆっくりとコントロール
ォームを修正したり、適切なテク
すい下背部のオーバートレーニングの
しながら下ろす。最下点でバウンドさ
ニックを分かりやすく図示したり
予防に役立つ。バリエーションとして
せない。目は真っ直ぐ前を見る。重心
する。
取り入れることでトレーニングの単調
はかかとの上。体幹は真っ直ぐに保ち、
b.肩にかけ、ラックポジションでウ
さがなくなる。また大腿四頭筋下部と
下背部を前弯させる。つま先は約30 度
ェイトを支持してくれる製品があ
ハムストリングスの筋力向上にも役立
外側に向ける。
る。柔軟性が不足している場合や
つ。フロントスクワットは、中程度か
上げる動作:両足で床を押す。肘を勢
肩の傷害から回復期にある場合、
ら軽い負荷の脚部トレーニングの日に、
いよく上げ、殿部を前方上方へ押し上
または肩の手術を受けた後のリハ
従来のバックスクワットの代わりに用
げる。目は真っ直ぐ前、またはやや上
ビリテーション中には、この製品
いることのできる優れたエクササイズ
を見る。
が役立つ。
である。
c.また、必要な技術を学べるように
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Weir :フロントスクワットを指導/学
ダンベルを活用している。体側に
Martin :このエクササイズは次の理由
習するとき、注目すべき重要なポイン
ダンベルを保持し、適切な背部の
により有益である。
トがある。第一は、肘をしっかり高く
アライメント、足幅、位置、フォ
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フロントスクワットでは、大腿前部
(大腿四頭筋群)により多くの負荷がか
かる。アスリートは、バックスクワッ
れる動作が、一層楽に行えるようにな
る。
トやヒップスレッドの場合よりもかな
このエクササイズによって、股関節/
り軽いウェイトを用いて、脚部の高強
脚部のルーティンのバラエティが増え
度エクササイズを行うことができる。
る。◆
フロントスクワットはクリーンを行
うときの自信を深めることに役立つ。ク
リーンを行うとき、セカンドプルの後
ラックを行うためにバーの下に体を入
From NSCA Journal
Volume 13, Number 1, pages 70-74. 1991.
information
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