産学連携による地域イノベーション創出-13 - 島根大学産学連携センター

0615D1300-1
産学連携による地域イノベーション創出-13
(特許の出願件数の推移から見る地方の研究開発力の現状)
○北村寿宏,丹生晃隆(島根大学),伊藤正実(群馬大学),川崎一正(新潟大学),藤原貴典(岡山大学)
1.はじめに
地域イノベーションの創出においては,地域に位置する大学などの研究機関と同様に企業の研
究・開発力が大きな役割を果たす.
地方大学については中小企業を相手先とする共同研究の件数の推移を解析し,一部の大学を除
き,中小企業を相手先とする共同研究の件数は,横ばい,あるいは,減少傾向にある大学が多い
ことを明らかにし,特に地方に位置する大学と中小企業の連携が進んでいないことが問題である
ことを指摘した 1,2).今回は,企業側の研究開発力について検討することを試みた.
80,000
200,000
180,000
70,000
特許出願件数 東京 (件/年)
特許出願件数 (件/年)
2.特許出願件数の推移
特許出願件数 (件/年)
160,000
多くの企業は,研究・開発の成果とし
60,000
140,000
て特許の出願を行っていると推測される.
50,000
120,000
そこで,地方別の企業の研究・開発力を
40,000
100,000
把握するために,今回は都道府県別の特
80,000
30,000
許の出願件数の推移を調査した.ただし,
60,000
20,000
特許出願には,出願人として個人や大学
40,000
なども含まれており,公開されている統
10,000
20,000
計資料 3)から純粋に企業からの出願のみ
0
0
1999
2001
2003
2005
2007
2009
を把握することは困難である.しかし,
西暦 (年)
個人や大学などからの出願に比較し,企
図1 特許出願件数の推移
業からの出願が圧倒的に多いことから,
(東京都,神奈川県,静岡県,愛知県,京都府,大阪府,兵庫県,福岡県)
都道府県別の特許の出願件数をその地域
1,800
の企業の研究・開発力の指標の一つとし
北 海 道
青 森
1,600
て用いることができると考えられる.ち
岩 手
宮 城
1,400
なみに 2010(平成 22 年)年の国内出願
秋 田
4)
山 形
1,200
件数は,344,598 件 で,そのうち個人の
福 島
4)
1,000
出願は 10,929 件 (約 3.2%),大学の出
800
願は 6,490 件(約 1.9%)5),官庁の出願
4)
600
は 34 件 であり,残り約 94%は企業から
400
の出願と推定される.
200
特許庁が発行している特許行政年次報
0
告書〈統計・資料編〉の主要統計のデー
1999
2001
2003
2005
2007
2009
2011
タ 3)をもとに,都道府県別の特許出願件
西暦 (年)
数の推移を調査した.その結果のいくつ
図2 特許出願件数の推移
かを図1~4に示す.
(北海道,青森県,岩手県,宮城県,秋田県,山形県,福島県)
図1には,他の都道府県と比較して出
願が多い東京都,神奈川県,静岡県,愛知県,京都府,大阪府,兵庫県,福岡県の各都府県での
特許出願件数の推移を示した.東京都での出願件数は,他の道府県からの出願に比べて非常に多
い.これは,企業数が多いことや各企業の本社が東京都に位置することが影響していると考えら
れる.全体の傾向としては,愛知県以外は減少傾向が見られる.また,愛知県においても 2008 年
から 2009 年にかけて減少していることが分かる.図2に北海道と東北各県における特許出願件数
の推移を示した.図1に比較し,全体として出願件数が低いことが分かる.また,どの道,県に
おいても特許の出願件数が低位で,概ね横ばいまたは減少傾向にあることが分かる.図3に,関
東・甲信越地方の各県における特許出願件数の推移を示した.図1の都府県と比較すると少ない
ものの他地域の都道府県に比べると多く出願されている.また,減少傾向,横ばい,増加してい
る県など様々であることがわかる.図4に,九州地方の各県における特許出願件数の推移を示し
た.年間 150~300 件程度と他の都道府県の特許出願件数と比較して少ない状態であることがわか
る.また,熊本県での特許出願件数が 2003 年以降急激に減少している.熊本県以外の他の県での
特許出願件数は,横ばい,ないしは,若干減少傾向が見られる.
神 奈 川
静 岡
愛 知
京 都
大 阪
兵 庫
福 岡
東 京
7,000
【謝辞】
本研究は,科学研究費補助金(基盤研究 B 課
題番号 21300292 H21~23 年度)の交付を受けて
行われた.
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
2001
2003
2005
2007
2009
2011
西暦 (年)
図3
特許出願件数の推移
(関東地方)
600
佐 賀
長 崎
500
熊 本
大 分
宮 崎
400
鹿 児 島
沖 縄
300
200
100
0
1999
2001
2003
2005
2007
2009
2011
西暦 (年)
図4
4.まとめ
特許出願件数の推移
(九州地方)
100
中小企業を相手先とする共同研究件数
各都道府県における特許出願件数の推
移を調査した.その結果,特許出願件数は
この 10 年を通し,全体的に減少傾向にあ
ることが分かった.また,特許の出願件数
の少ない地域は,北東北,山陰,四国,九
州の各県であり,これらの地域では大学と
中小企業との共同研究件数も少ない地域
である.このような地域では,地域イノベ
ーションを創出するイノベーション力が
弱いと考えられ,今後,地域の状況に応じ
た対策が必要であると考えられる.
茨 城
栃 木
群 馬
埼 玉
千 葉
新 潟
山 梨
長 野
6,000
0
1999
特許出願件数 (件/年)
各都道府県における研究・開発の動向を
明確にすることを目的に,各都道府県にお
ける特許の出願件数とその地域に位置す
る大学の中小企業を相手先とする共同研
究の件数との関係を調べた.
特許出願件数や共同研究件数が比較的
多い北海道,宮城県,埼玉県,千葉県,神
奈川県,静岡県,愛知県,京都府,大阪府,
兵庫県,広島県,福岡県については,そこ
に位置する大学における中小企業を相手
先とする共同研究の件数とは明確な相関
が無く,特許出願件数に関わらず中小企業
と共同研究が行われていると言える.
これ以外の地方においては,図5に示す
ように,緩やかな相関ではあるが,特許の
出願件数が多い府県ほど中小企業を相手
先とする共同研究件数も多い傾向にある
ように見える.また,特許出願の少ない県
は,北東北や山陰,四国,九州の各県など,
前報 1,2)で調査した中小企業と大学との共
同研究件数が少ないエリアの県とほぼ合
致する.このような地域では,地域イノベ
ーションの創出のためには,人材育成を始
め研究・開発力の向上が必要と考えられる.
特許出願件数 (件/年)
3.特許出願件数と共同研究
90
岐阜
新潟 三重
岡山
80
石川
鳥取
70
60
長野
岩手
群馬
50
富山
徳島 栃木
大分
福井
山形
鹿児島
長崎
宮崎
山梨
熊本
佐賀
秋田
高知
和歌山
沖縄 島根
香川
青森
40
30
20
愛媛
山口
10
0
0
図5
500
1000
1500
特許出願件数
2000
2500
3000
特許出願件数と共同研究件数の関係
(青森,岩手,秋田,山形,栃木,群馬,新潟,富山,石川,福井,山梨,長野,岐阜,三
重,和歌山,鳥取,島根,岡山,山口,徳島,香川,愛媛,高知,佐賀,長崎,熊本,大分,
宮崎,鹿児島,沖縄)
【参考文献】
1) 北村寿宏:共同研究件数の推移から見る中小企業と大学との連携の実状,産学連携学会第8回大会予稿集
0625C1445-4,pp.183-184,2010
2) 北村寿宏,国立大学における共同研究件数の推移から見る産学連携の実状と課題,産学連携学,8(1),pp.39-46,
2011
3) 特許庁:特許行政年次報告書各年版 http://www.jpo.go.jp/index/insatsubutsu.html
4) 特許庁:特許行政年次報告書 2011 年版,
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/shiryou/toushin/nenji/nenpou2010_index.htm
5)文部科学省,「平成 22 年度 大学等における産学連携等実施状況について」
http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/sangaku/1313463.htm
(連絡先:北村寿宏 島根大学産学連携センター [email protected] tel : 0852-60-2290)