1. 案件の概要 国名:パキスタン 案件名:地質科学研究所協力 - JICA

1. 案件の概要
国名:パキスタン
分野:鉱業
所轄部署:鉱工業開発協力部
1990年10月1日∼1995年9月30日
協力
期間
案件名:地質科学研究所協力事業
援助形態:プロジェクト方式技術協力
協力金額
先方関係機関:石油・天然資源省、パキスタン地質調査所
(GSP)、パキスタン地質科学研究所(GeoLab)
日本側協力機関:経済産業省資源エネルギー庁資源・燃料部鉱物
資源課
他の関連協力:
1−1 協力の背景
パキスタン政府は、経済自立促進・経済基盤強化・産業発展と民生の向上の両立を目指し、1983年から実施された第6次5カ
年計画の中で、鉱物資源の自力開発の推進に重点を置いた。パキスタン地質調査所(Geological Survey of Pakistan: GSP)は、建
物の老朽化と機器の陳腐化、資金・技術力の不足から岩石・鉱物の分析のほとんどを海外に依存していた。こうした問題を打
開するために、パキスタン政府は、GSPに地質科学研究所(Geoscience Laboratory: GeoLab)を設立し、自国で地質分析と有用
鉱物資源調査をすること計画し、無償資金協力とプロジェクト方式技術協力を我が国に要請してきた。無償資金協力によっ
てGeoLabの建物と機材が91年10月1日に引き渡されたが、それに先立ちプロジェクト方式技術協力が開始され、人材の育成を行
うことになった。なお、本評価は90年10月1日から5年間にわたって実施されたプロジェクト方式技術協力に対して行われた。
1−2 協力内容
我が国は、パキスタンの鉱物資源の自力開発問題に貢献するために、無償資金協力で建設されたGeoLabの研究者の能力の向
上を図る。
(1)上位目標
パキスタンの鉱物資源開発の国家政策に資することを目的として、地質鉱物探査技術の分野の技術的な支援システムが確立
される。
(2)プロジェクト目標
GeoLabが、テーマ別地球科学関連図や論文作成のための岩石・鉱物の分析ができるようになる。
(3)成果
1)火成岩・変成岩に伴う鉱床探査技術が移転される。
2)堆積岩に伴う鉱床の探査技術が移転される。
3)地化学探査技術が移転される。
(4)投入
日本側:
長期専門家派遣 14名 機材供与 1.4億円
短期専門家派遣 42名 ローカルコスト負担
研修員受入 14名
相手国側:
カウンターパート配置 20名
土地・施設提供
ローカルコスト負担
2. 評価調査団の概要
調査者
現地コンサルタントSemiotics Consultants (Pvt.) Limited に委託
調査期間
2002年12月9日∼2002年12月23日
評価種類:在外事後評価
3. 評価結果の概要
3−1 評価結果の要約
(1)インパクト
地質鉱物探査技術の分野において技術的・専門的な支援システムは確立され、GeoLabは中心的役割を果たしている。貧困削
減戦略として海外投資を歓迎しており、2003年からはオーストラリアと中国の巨大な投資によって金・亜鉛・銅・鉛などの2つ
の探査事業が開始される。アフガニスタンでも鉱物分野の開発が期待されている。GeoLabは政府から、これらの活動において
広範囲に支援サービスを行うように要請されている。また、GeoLabの地質鉱物探査に関する技術的・専門的な支援によって、
北西辺境州にプラチナ、バロチスタン州に鉄鉱物や水脈が発見された。探査件数ではGeoLab開設から案件終了時までの5年
で41、終了時から評価調査時の7年で68に上る。さらに、GeoLabの業績が知れ渡るにつれて、環境・薬剤・生化学・地下水・地
質技術・陶磁器・セメント・皮などの他分野への支援業務が拡大している。最近は宝石やその原石分析の依頼が増加してい
る。その顧客リストには、国内にある116の研究機関や民間機関の名前がある。地質学・古地磁気学・宝石学・南極大陸地質
学・経済地質学における日本・フランス・イタリア・米国、その他国内の研究機関との協同研究が活発になり、プロジェクト
終了時から評価調査時まで60以上の報告書が作成されている。一方、定期刊行誌「GEOLOGICA」が出版され、研究結果を研究
者間で共有するようになった。GEOLOGICAはその質が高く、各号には外国からの投稿もある。
GeoLabはGSPの1部門として設立されたが、GeoLab研究員による2次的な技術移転はGSP内に留まらず、プレミア・エクスプ
ロレーション会社(Premier Exploration)、エル・エム・ケィ会社(LMK)、ファイサラバード農業大学など関係各分野に及ん
でいる。ペシャワール大学は検査機器に関する訓練をGeoLabに委託しているが、同大学検査室は全国でも優秀検査ラボと評価
されている。また、スワット採鉱会社(Swat Mining)・環境保護庁・ブルックス薬品ラボ(Brooks Pharmaceutical Lab)な
ど13の関係機関はGeoLabをモデルにラボの分析能力の向上を図っている。また、第三国集団研修を実施し分析技能や技術を他
国研究員に移転しており、今後も継続予定である。
(2)自立発展性
これまでのところ、移転された技術は確保されており、岩石・鉱物の分析や研究活動は活発に行われている。移転された技
術を応用して、パキスタンの地質図を開発中であり、まもなく完成の予定である。
案件実施中に3つの訓練コースと19のセミナーが実施されたが、終了後の95∼02年の7年間に他の関連機関と共同で実施され
た訓練コースとセミナーはそれぞれ16と48に増加した。また、案件実施中に年間10の講演と32の研究報告書が公表された。評
価調査時、研究者の数が減少しているにもかかわらず、年間の実績は、講演が平均25、研究報告書が30と増加あるいはほぼ同
じだった。
また、本案件終了後、パキスタン側研究者は日常業務を通して自己修練を行っており、技術面での自立発展性を確保してい
る。パキスタン側の自己採点によると、機材に関する知識・技術は、終了時と評価調査時点を比較するとむしろ向上している
とみている。
また、必要な機材は揃っており、良好に整備・使用されている。しかし、ほとんどの機材は無償資金協力によって91年に調
達されたものであり、製造中止モデルのものが多くなり、製造元でもスペアパーツや消耗品の入手が困難になっている。特
に、日進月歩のコンピュータソフトウエアなどでは陳腐化が顕著である。
さらに、終了時評価の際に、研究者を20人から30人に増員する必要があるとの提言があったが、公務員の新規職員採用禁止
令によって増員ができなかったことに加え、離職者があり本事後評価調査時の研究者の数は14人だった。そのうちの4人は留学
や休職で不在であり、実質10人の研究員で調査、研究、検査・分析業務に対応せざるを得なかったため、1人の研究員にかかる
負担が大きくなっていた。また、人員不足によって、施設や機材が最大限に活用できていない。そもそも、カウンターパート
は17人だったが、そのうち7人は待遇を理由として民間や他機関へ転職しており定着率は高くない。GSPとGeoLabの組織の再編
成に伴い近々4人が増員されるものの、以上の技術力の流出はプロジェクトの自立発展性の確保において支障となる恐れがあ
る。
近年、パキスタン政府は鉱物資源開発分野の強化を貧困撲滅の主要戦略とし、全州ごとに鉱物開発部を設置した。この戦略
に沿ったGSPとGeoLabの将来的役割をにらんで、組織の再編成が進行中である。今後、GeoLabはGSPの1部門ではな
く、GeoLab・地域鉱物研究訓練所・鉱物データセンターで構成する国立研究機関の一部に昇格する。予算・研究者・他職員は
この機関で一括配分されるため、今後の変化に対する留意が必要である。
一方、GSP所長が日常的に石油・天然資源省へ働きかけを行っており、運営費、施設・機材の維持管理費などは十分に確保さ
れている。しかし、老朽化しつつある機材を更新する予算は確保できていない。GeoLabは鉱工業・鉱物分野の民間企業への検
査分析業務を請け負っており、そこからの収入が予算の一部となっているが、政府機関であることや、その業務に従事するだ
けの研究者が十分に確保されていないなどの理由で、収益増加の手段としてこの業務を発展させるという検討はされていな
い。
3−2 効果発現に貢献した要因
(1)計画内容に関すること
GSPの所長とGeoLab所長が本案件計画時から参画しているため、オーナーシップの高さが自立発展性の確保やインパクトの発
現につながっている。
(2)実施プロセスに関すること
時間厳守・整理整頓・研究者と助手との割合と予算配分などを日本人専門家と研究したため、その成果が意識や行動の変化と
して表れ職場環境を良くしている。
3−3 問題点及び問題を惹起した要因
(1)計画内容に関すること
該当なし
(2)実施プロセスに関すること
1)公務員の新規職員採用禁止令により研究員の補充ができなったため、1人の研究者にかかる負担が大きい。
2)給料・報奨金・その他勤労意欲を向上させるシステムがないため、研究者の定着率が低い。
3)頻繁に起こる停電により、その度にやり直さなければならない分析が発生するため、そのことが業務の支障となっている。
4)機材のほとんどは調達から10年以上過ぎており、製造中止のモデルも少なくないため、スペアパーツの入手が困難になって
きている。
3−4 結論
本案件は、上位目標達成に大いに貢献しており、GeoLabはそのシステムの中心的役割を担っている。そのため、GeoLabの支
援範囲は地質、鉱物資源開発分野のみならず、他分野にまで拡大している。また、国内外の研究機関との研究活動・第三国集
団研修・国内の他関連分野機関への2次技術移転などの活動も実施している。このように、技術面の自立発展性には問題がな
い。特に、移転された個別技術の質のレベルは確保されているのみならず、各技術の応用と統合によって、パキスタンの地質
図を開発中であり、完成に近い。しかし、機材のほとんどは調達から10年を越えており、スペアパーツの入手が難しい。組織
面では、パキスタン政府は貧困撲滅の戦略の1つとして鉱物分野の強化を図っているが、それに伴って、組織再編が計画され
ている。GeoLabは国立鉱物研究機関の一つに昇格することになるが、今後の動向を見守る必要がある。
3−5 提言(当該プロジェクトに関する具体的な措置、提案、助言)
(1)業務を円滑に遂行するため、研究員の増員ができるような対策を早急に立てるべきである。
(2)研究員の定着率の向上のために、奨励システムを導入するべきである。
(3)電力の安定供給ができるように、発電機の容量の増加を検討するべきである。
3−6 教訓(他の類似プロジェクトの発掘・形成、実施、運営管理に参考となる事柄)
GSPの所長をはじめGeoLabの所長、研究者が案件の計画時から参画しており、プロジェクトの目的を各自が認識、意識して
いることは、自立発展性やインパクトに大きく影響している。プロジェクト実施中に、日本人専門家がカウンターパートに技
術移転するということではなく、日本人専門家とカウンターパートが協同でプロジェクト目標を達成するという意識が生まれ
るような環境をつくるための工夫が必要である。
3−7 フォローアップ状況
該当なし