Title ガムを噛むことによるプラークの減少率 Author(s - 東京歯科大学

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ガムを噛むことによるプラークの減少率
四関, 友美
卒業研究論文集, 19(): http://hdl.handle.net/10130/898
Right
Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,
Available from http://ir.tdc.ac.jp/
ガムを噛むことによるプラークの減少率
第 57 期生 21 番 四関
要
友美
約
外出した時など歯磨きができないときに、代わりにガムを噛むことがあるが、ガムを噛むことに
よって、歯面に付着するプラークを減少させることはできるのかどうか、比較検討するために本研
究を行った。
実験は、20 歳女性、東京歯科大学歯科衛生士専門学校の学生、6名を対象に、キシリトールガム
とチューイングガムを毎食後5分間、1日3回歯磨きの代わりに摂取してもらった。このとき口腔
清掃を中止し、ガムを摂取しない期間3日間をコントロールとし、キシリトールガム群、チューイ
ングガム群のそれぞれ3日間を比較した。なお、口腔内の状況をできるだけ同じ条件にするために、
実験開始日に染め出しを行った後、ポリッシングブラシとデンタルフロスを用いて歯面清掃を行い、
実験部位の完全なプラークの除去を行った。
個人のデータを比較して、プラーク付着の多い順に並べると、コントロール、チューイングガム
群、キシリトールガム群という結果が出た。被験者6人の平均を歯面別に比べてみると、右側第二
小臼歯以外はすべての歯でキシリトールガム群が1番プラークの付着が少ないという結果だった。
上顎右側側切歯の唇側、上顎左側犬歯の舌側、上顎右側犬歯の舌側では統計学的な有意差が確認さ
れた。有意差が見られなかったものの、他の部位でもキシリトールガム群が1番プラークの付着が
少ないという傾向が見られた。
ガムを噛むことによって、唾液分泌効果が促進され、唾液の自浄作用が働く。そのため、ガムの
成分だけではなく唾液の作用も含まれていると考えられる。しかし、口腔内の不快感を取り除くた
めには、口腔清掃が必要であり、キシリトールガムは補助的に応用していくと良いだろう。
キーワード:プラーク付着、キシリトールガム、チューイングガム
緒
言
の菓子類へのキシリトール使用のほか、キシ
キシリトールは5炭糖の糖アルコールで、
リトールを配合した歯磨剤や洗口剤などの口
ミュータンスレンサ球菌の基質とならないた
腔衛生関連製品も数多く見かけるようになっ
め、非う蝕誘発性甘味料として、チューイン
てきている
グガムやキャンディーなどの形で世界的に使
用されている
。欧米や、フィンランドでは
1-3)
1,6)
。
日本ではキシリトールの食品添加が 1997
年厚生労働省に許可され、特定保健医療食品
1970 年代初頭からキシリトールの口腔保健
としても認められている
効果を目的として、菓子類に利用されてきた。
成人を対象とした研究では、キシリトール摂
現在は、ガムだけではなく、タブレットなど
取群のプラーク中の S,mutans 数は、スクロ
4-6)
。フィンランドの
ース群、フルクトース群よりも有意に低いこ
水素カルシウム、⑧フクロノリ抽出物、⑨
とがあげられている。このように、キシリト
クチナシ色素、⑩ヘスペリジン、(原材料の
ール の応用で 唾液および プラーク 中の
一部に大豆、ゼラチンを含む)
S,mutans 数の減少が観察されており、口腔
衛生上重要な働きとなっている
。また、長
7)
2)チューイングガム「フリーゾーンガム<
ハイミント>? 、株式会社ロッテ」
期的研究と短期的研究においてもキシリトー
成分:①ショ糖、②ぶどう糖、③水あめ、
ル含有チューイングガムやキャンディーの摂
④還元パラチノース、⑤エリスリトール、
取により、歯面へのプラークの付着量が減少
⑥茶抽出物、⑦カカオ抽出物、⑧柔葉抽出
したことが報告されている
物、⑨ガムベース、⑩香料、⑪軟化剤、⑫
1,4)
。
プラークの形成阻害は、う蝕予防にとって
重要な意味を持っている
1,4,8)
。口腔内ミュー
タンスレンサ球菌が歯の表面に付着し、これ
クチナシ色素、⑬甘味料(アセスルファム K、
スクラロース)、(原材料の一部にゼラチン
を含む)
らの細菌がもっているグルコシルトランスフ
3)歯垢染めだし剤「RED-COTE? ,GUM」
ェラーゼの働きでグルカンを産生し、プラー
3、実験方法
クを形成するということは明白であり
、キ
口腔内の状況をできるだけ同一条件にする
シリトールを定期的に摂取することにより、
ために、コントロール期間、キシリトールガ
歯面に付着するプラークの量が減少するとい
ム摂取期間、チューイングガム摂取期間をそ
う研究結果が報告されている 1)。
れぞれ3日間ずつ設定した。実験部位は、上
3)
本研究は、ガムを噛むことによって歯面に
下顎の唇(頬)側、上下顎舌(口蓋)側3−3であ
付着するプラークを減少させることができる
る。
のかどうか、また、キシリトールを摂取する
1)実験開始日に、実験部位に対して染め出
ことによりどのように変化するのかについて、
しを行い、ポリッシングブラシをコントラ
調べた。なお、キシリトールの配合された製
アングルハンドピースに装着し、ノンフッ
品と配合されていない製品のプラークの付着
素歯面研磨ペースト(p−クリーン歯面研
抑制効果を比較した。
磨ペーストファイン ? 、株式会社モリタ)
を 用い て歯面研磨 を行 った。 また 、
Unflavored
材料および方法
Unwaxed
Floss
?
(Johnson&Johnson)を用いて、隣接面の歯
1、被験者
被験者は 20 歳女性、東京歯科大学歯科衛
生士専門学校の学生6名とした。被験者には、
面研磨を行い、完全にプラークの除去をし
た。
事前に内容を十分説明し、同意を得た上で研
2)ガム摂取方法
究に協力してもらった。
(1) キシリトールガム摂取期間は、毎食後2
2、材料
粒を5分間、1日3回とし、3日間繰り返
1)キシリトールガム「キシリトール・ガム
?
してもらった。この間は、口腔清掃を中止
<ニューフレッシュミント> 、株式会社
してもらい、口腔内をできるだけ変わらな
ロッテ」
い状況にするために、食事や間食の頻度を
成分:①マルチトール、②甘味料(キシリト
コントロール期間と同じにしてもらうよう
ール、アスパルテーム・L-フェニルアラニ
指示した。
ン化合物)
、③ガムベース、④香料、⑤増粘
(2)チューイングガム 摂取期間は、毎食後5
剤(アラビアガム)、⑥光沢剤、⑦リン酸−
分間、1日3回とし、3 日間繰り返しても
らった。キシリトールガム摂取期間同様、
をキシリトールが抑制することなどもプラー
この間は口腔清掃を中止してもらい、食事
ク形成抑制作用の機序のひとつであると言わ
や間食の頻度をコントロール期間と同じに
れている
してもらうよう指示した。
取群でのプラーク付着が 1 番少なかったこと
。本研究でもキシリトールガム摂
1)
3)コントロールとして、3日間口腔清掃を
から、キシリトールガム摂取後にはプラーク
中止してもらい、被験者にはガムを使用せ
の付着が少ない傾向であるということがわか
ず、日常通り生活してもらうように指示し
った。そのため、キシリトールによって、プ
た。
ラークの付着が抑制されたと考えられる。ま
4)各実験群とも、3日後に染め出しを行い、
実験部位の口腔内写真を撮影した。
4、算出方法
た、ガムを噛むことによって、キシリトール
独特の良質な甘味により唾液分泌も促進され
る。その結果、口腔内が潤滑になり、う蝕予
同拡大した口腔内写真の上に、トレース用
の 1 ㎜方眼紙を重ね、被験部位の歯垢染色部
分面積/被験部位の歯冠部面積×100(%表
示)により、歯垢付着面積比を算出した。
防のための保持・増進に役立つと報告されて
いる 4)。
口腔環境内にショ糖が存在すると、菌体外
マトリックスとして不溶性グルカンを産生し、
積極的に歯面に付着し、極めてう蝕原生の強
結
果
いプラークを形成すると報告されている
。
9)
被験者6人の平均プラーク付着率を歯面別
今回、本研究で使用したチューイングガムに
に比較したものを図1−3に示す。右側第2
も、ショ糖が含まれており、プラーク付着は
小臼歯以外はすべての歯で、キシリトールガ
他と比較して顕著に見られたと考えられる。
ム群のプラークの付着が最も少なかった。上
チューイングガム群で部位別にプラークの付
顎の頬側3−3と舌側3−3を比べてみると、 着具合を見たところ、舌側よりも頬側に高い
頬側はチューイングガム群のプラーク付着が
数値を示した。下顎舌側には顎下腺があるた
多いが、舌側はコントロールのプラーク付着
め、ガムを噛むことにより唾液腺が刺激され、
が多かった。
唾液の分泌が増加したことで自浄作用が働い
一元配置分散分析と他重比較(Tukey 法)(p
たと考えられる。
<0.05)を行ったところ、上顎右側側切歯の唇
口腔内全体の中で考えると、頬側はチュー
側、上顎左側切歯の舌側、上顎右側切歯の舌
イングガム群においてのプラーク付着が多く、
側に統計学的有意差が確認された。上顎はチ
舌側は、コントロールにおいてのプラーク付
ューイングガムとキシリトールガムの間に有
着が多いという結果だった。そのことから、
意差が見られ、下顎はコントロールとキシリ
ガムを噛むことによって唾液分泌を促進させ、
トールガムに有意差が見られた。
唾液の自浄作用が高まったためだと考えられ
る。唾液は、3大唾液腺である耳下腺、舌下
考
察
腺、顎下腺から産生される。唾液には流れる
キシリトールのプラーク形成抑制効果は多
ルートがあり、耳下腺付近の上顎第一大臼歯
くの研究で報告されている。キシリトールに
から小臼歯あたりの頬側や、顎下腺付近の下
は静菌作用があり、プラークの形成に大きな
顎の前歯部舌側はう蝕になりにくいと言われ
役 割 を 持 つ と 言 わ れ てい る Streptococcus
ている。そのため、舌下腺の近くにある舌側
mutans の数を減少させると考えられている
はプラークが付着しにくかったと考えられる。
。また、歯面にプラークが付着すること
1,7,8)
しかし、耳下腺付近の上顎頬側ではプラーク
の付着が見られ、唾液の作用が働かなかった
キシリトールガムには少なからず、プラー
と考えられる。角田らによると、食物残渣が
ク抑制効果が期待できるので、外出時や時間
最も付着しやすい部位は上顎頬側で、最も付
がないときなど補助的に応用していくことも
着しにくい部位は下顎の舌側及び、上顎口蓋
良いと言える。しかし、歯科衛生士として今
側であるという報告されている。上下顎とも
後指導を進めていく上で、口腔内の不快感を
に、舌側に比べ頬側部に高い数値を示してい
取り除くためには、やはり口腔清掃が必要で
た
あるということが大切であると考えられる。
。本研究でも同様の結果が得られたので、
10)
食物残渣とプラークの付着する部位は、同じ
であるといえる。
結
論
この研究を行ってみて、ガムを摂取するな
本研究において、有意差の見られた部位は
らば、ショ糖を含んだものよりも、キシリト
少なかったものの、キシリトールガム摂取群
ールを含んだものの方が良いと言うことがわ
ではプラークの付着が少なく、抑制傾向が見
かった。しかし、被験者からは 3 日間も歯磨
られた。また、頬側ではチューイングガム摂
きをしないでいると口腔内に違和感があり、
取期間のプラーク付着が多く、抑制効果は見
気持ちが悪いという意見が多かった。ガムを
られなかった。舌側ではコントロール期間の
噛んだ直後は爽快感があるものの、舌で歯面
プラーク付着が多く、ガムの成分だけではな
を触ったときのざらつき感や粘つき感は取り
く、唾液の自浄作用も関係しているというこ
除くことができなかった。そのため、ガムを
とが言える。
歯磨きの代わりとして代用していくことは難
しいと考えられる。口腔保健効果の目的でキ
謝辞
シリトールを利用して、十分な口腔保健的効
本研究を行うにあたって、統計分析にご協
果が期待できるとは言い難いと言われている
力いただいた、東京歯科大学衛生学講座の杉
4,5)
。しかし、成人においては摂取量を自分で
原直樹先生に深く御礼申し上げます。
コントロールできるため、スクロースの摂取
量や摂取回数の減少を目的として、キシリト
参考文献
ールあるいはその他の非う蝕誘発性甘味料の
1)関野愉、相羽玲子、田代俊男、塚原武典、
使用を勧めて良いと言われている
。また、
岡本浩:キシリトールのプラーク沈着抑制
キシリトールガムには 1 日の摂取量目安が決
効果に関する研究、日本歯周病学会会誌、
まっているため、それも同時に気をつける必
43(3):289-294,2001、
5)
要がある。今回の研究では、摂取量が少なか
2)高橋満、左伯洋二、藤本桂司、松崎久雄、
ったためキシリトールの副作用(下痢など)は
見明康雄、柳澤孝彰:実験的初期う蝕病巣
見られなかったが、過剰摂取による副作用が
におけるフノリ抽出物と第2リン
報告されている
1,5)
。特に小児においては自分
でコントロールできないので、その点にも注
意していくべきである。
酸カルシウムを配合したキシリトール粒ガ
フノリ抽出物と第2リン酸カルシウムを配
ムの再石灰化促進効果の in vivo 評価、歯
合したキシリトールチューイングガムの実
科学報、101:1033-1042,2001、
験的初期う蝕エナメル質に及ぼす再
3)左伯洋二、高橋満、上川新吾、徳本匠、
見明康雄、山田了、奥田克爾、柳澤孝彰:
429,2004
石灰化促進効果、歯基雑誌、42:590-600
4)福田雅臣:キシリトールの歯科保健医療
への 応用の考え 方、群馬県歯科医学会雑誌
3:5-14,1999
5)大嶋隆:
「う蝕予防としてキシリト−ル」
を考える−小児のう蝕予防に必要か−、小
児歯科臨床、9(12):12−19,2004
6)福田正臣、小森朋栄:診療室からのむし
歯予防情報②−キシリトールを利用してみ
よう、日本歯科評論、756:9-11,
7)今井奨、寒河江登志朗:イラストで見る
これからのむし歯予防
キシリトールとア
パタイトを正しく理解する、砂書房、東京、
第 1 版、1997,21,39
8)高水正明、大森かをる、高野公美子、矢
島美雪、桃井保子、福田一郎:デキストラ
ナーゼ配合チューイングガムの歯垢付着に
与える影響、日本歯科保存雑誌、 46(5):
595-603,2003
9)前田伸子:プラーク形成のメカニズム、
歯科医療、春号:5-11,2002
10)Takeya KADOTA、Shinnosuke ABE、
Maki MINAMI、Kimiko NAKAGAWA、
Chenghua PAI、Tatsuhiko KAKEGAWA、
Tsuyoshi HABE 、 Akira SUZUKI and
Shigeru WATANABE : Study on the
Location of Food Debris Accumulation、
明海大歯誌、34(1):131-136,2005
11)晴佐久悟、郡司島由香、筒井昭仁、埴岡
隆:キシリトールガムが、成人の唾液中及
びプラークのミュータンス連鎖球菌に及ぼ
す効果、口腔衛生会誌、54(4):
12)高江洲義矩:う蝕の診断とリスク予測
実践編、クインテッセンス出版株式会社、
東京、第 1 版、2003
コントロール
120
キシリトール
チューイングガム
ー
プ
100
ラ
(
80
ク
付
60
着
率
40
%
)
20
0
15
14
13
12
図1
50
11
21
計測歯
45
プ
ラ 40
35
ク 30
付
25
着
率 20
15
% 10
24
25
コントロール
キシリトール
チューイングガム
90
プ 80
ラ 70
ー
ー
*
23
上顎頬側(平均)
コントロール
キシリトール
チューイングガム
*
22
(
(
60
ク
付 50
着 40
率
30
% 20
)
)
5
0
10
0
23
22
21
11
12
13
計測歯
図2
上顎舌側(平均)
43
42
41
31
計測歯
32
図3 下顎舌側(平均)
33