三次元解析による想定地滑り土塊の挙動予測 - 土木学会

土木学会第66回年次学術講演会(平成23年度)
Ⅵ-406
三次元解析による想定地滑り土塊の挙動予測
(株)大林組
正会員
1.はじめに
○下村哲雄,保科孝雄,松本暢史,西浦秀明
3.三次元解析による管理基準値の設定
氷見第 11 トンネルは、高岡と七尾を結ぶ能越自動車
前述のような特徴を有する坑口部において安全に施
道の一部となる全長 778m のトンネルである。高岡側坑
工するため、三次元解析により地滑りに対する計測管
口部は地滑り地形となっているため、坑口切土時およ
理基準値を事前に設定するとともに、種々の計測によ
びトンネル掘削時の地滑りの再活動が懸念された。本
り地滑り土塊の挙動を把握した。三次元解析には、ト
工事では、地滑り土塊の挙動を的確に把握し、安全に
ンネル本体と斜交した地滑り土塊を精度よくモデル化
施工するため、三次元解析により管理基準値を設定す
するため、HCItasca 社の有限差分法解析プログラム
るとともに、高精度な計測管理を採用した。本報では、
(FLAC3D)を用いた。地山は弾性体としてモデル化し、
三次元解析および計測結果ついて報告する。
地滑り面は不連続面を表現する方法として一般的に用
2.地形・地質
いられる Coulomb のすべりモデルを適用した。
本トンネルは富山県氷見市に位置し、掘削対象地山
既存の地質情報に基づいて実施した三次元解析結果
は中新世中期∼後期新第三系の姿泥岩層である。坑口
を図-2(坑口切土時)、図-3(トンネル掘削時)に示す。
部の地質構成は表-1 のとおりであり、第 1 層(表土層)
この結果に基づき、動態観測の計測位置および工事着
は第四系の崖錐堆積物、第 2 層以深は堆積年度に応じ
手時点での管理基準値を設定した。
て風化が進展した強度の小さい泥岩層である。地下水
位は地表面下 4∼14m である。
0.25∼ 0.3
―
2.8
2
1.0∼ 9.0 ≦ 10
D
0.5∼ 0.6
104
2.6
風化泥岩
1.0∼ 25.0 10∼ 30
CL
1.0∼ 1.2
143
11.6
4
弱風化泥岩
CM
1.6∼ 1.9
406
111.0
30≦
―
mm
48 .3
強風化泥岩
3
m
.7m
49
2
m
.1m
50
≦4
変形係数
0.0
5.0
10.0
15.0
20.0
25.0
30.0
35.0
40.0
45.0
50.0
55.0
mm
(MN/m )
―
0.5∼ 5.0
2
坑 口
50 .3
(kN/m )
岩級区分
mm
(粘性土)
一軸圧縮強度
(km/s)
N値
50 .0
土砂
弾性波速度
層厚(m)
m
.8 m
49
1
岩種区分
m
地層
変位量
地質構成
m
52.0
表-1
想定地滑り土塊
高岡側坑口部には、図-1 のようにトンネル軸線にや
mm
や斜交して地滑り地形が認められた。活発な動きを示
図-2
坑口付け切土時の三次元解析結果
す変状は認められないものの、坑口部の掘削時には想
定地滑り土塊の末端を施工することになるため、地滑
坑 口
m
32 .9
m
m
mm
も滑落崖地形が認められ、地滑りが再活動した場合に
3 3.5
m
33 .4
りの再活動が懸念された。また、想定ブロック後背に
変位量
0.0
5.0
10.0
15.0
20.0
25.0
30.0
35.0
m
25 .5
m
mm
m
8m
2 8.5
3 0.
m
.6m
31
は範囲の拡大や進行性破壊などの可能性も考えられた。
遷急線
想定地滑り土塊
mm
図-3
氷見第 11 トンネル
坑口
トンネル掘削時の三次元解析結果
(※トンネル掘削時の変位増加量のみ表示)
管理基準値の精度を上げるためには、現場の計測結
想定地滑り土塊
図-1
キーワード
連絡先
果を迅速に数値解析にフィードバックすることが重要
高岡側坑口部平面図
である。また、既存の地質情報では、地滑り面の物性
トンネル坑口、地すべり、三次元解析
〒935-0422
富山県氷見市宇波 234 (株)大林組
氷見第 11 トンネル工事事務所
-811-
TEL 0766-78-8001
土木学会第66回年次学術講演会(平成23年度)
Ⅵ-406
を示す粘着力(c)と内部摩擦角(φ)に関するデータが
いて、変位量は 10mm 程度であり、解析時のように大
なかったため、近接する氷見第 9 トンネルでの地滑り
きな変位は発生しなかった。また、管理レベルⅠ以下
面の c とφを採用して解析を行っていた
1)
。そこで図
であり、地滑りの兆候は現れていない。
-4 のフローに従って、坑口切土時の計測結果から c・
想定地滑り土塊
φに関するパラメータスタディを行い、c・φを決定し
30mm
4.8
た。決定した c・φを用いた解析の結果、トンネル上半
2.9
坑口直上部
切羽 TD=32m の時点で図-5 に示すように滑り土塊上部で
結果が得られた。よって、この解析結果を用いて管理
TD=32m
B
5.3
12.4
11.1
3.4
5.9
4.8
1.8
1.1
4.8
始
3.6
2.2
7.3
1.8
13.9
6.2
開
8.2
1.4 13.2
5.6
6.1
16.9
基準値の再設定を行った。
6.9
8.8
17.3 1.7
10.3
4.5
24.3
トンネル
掘進方向
8.5
4.9
15.4 7.5
の相対せん断変位量が急激に増大する(=地滑り発生)
7.9
15.1
高岡側坑口
TD=0m
3.6
※ベクトル数値は、GPSセンサーの平面2次元合成値(mm)を表す
自重解析時に地すべりが発生しない
粘着力・内部摩擦角の決定
図-6
計測結果【平面図】
掘削解析の実施
7.2
8.1
すべり面の相対せん断変位量の算出
5.7
変位量は許容値か
所定の掘削は完了か
No
坑口直上部
許容値を超過した箇所のみ粘着力低減
Yes
地すべり発生か
33.5
No
26.0
2.9 8.7
6.5
13.9
21.4
粘着力の低減率の見直し
Yes
高岡側坑口
TD=0m
現場計測の実施
管理基準値の設定
終
図-4
OK
概ね一致
計測結果と比較
図-7
No
了
TD=32m
計測結果【縦断図(A-A 断面)】
150
すべり面の材料特性の見直し
管理レベルⅢ (120mm)
すべり面の材料特性決定法と管理基準値の設定
100
変位 (mm)
地滑り土塊上部で相対せん断変位が増大
地滑り土塊上部で相対せん断変位が増大
⇒
⇒ 地滑り発生と判断
地滑り発生と判断
解析値
50
管理レベルⅡ (90mm)
トンネル
上半掘削
(進捗 )
管理レベルⅠ (60mm)
50
0.00
75
TD=32m
掘削解析を実施
25
切羽進捗 (m)
粘着力の低減率を決定
10.00
坑口切土掘削
20.00
実測値
30.00
0
40.00
0
8/19
50.00
60.00
図-8
70.00
坑口
坑口
80.00
図-5
9/8
9/18
9/28
10/8
時系列グラフ【計測点 B】
5.まとめ
90.00
100.00
8/29
坑口部の地滑りが懸念された区間について、三次元
mm
相対せん断変位コンター図(上半 TD=32m)
解析による事前検討を基に、計測監視体制を整えた上
4.計測結果
で慎重に施工を行った。その結果、地滑りを発生させ
上半切羽 TD=32m における計測値を図-6∼7 に示す。
ることなく、無事に坑口部を掘削することができた。
地表面変位のうち、坑口直上部を除いて変位は小さい。
本報における施工報告が、類似のトンネル坑口部施
坑口直上部は特に土被りが小さく、坑口部切土掘削、
工の参考になれば幸いである。
トンネル掘削に伴う影響を受けやすい箇所であるが、
参考文献
管理レベルⅠ以下であり地滑りではないと判断した。
1)
図-8 は想定地滑り土塊のほぼ中央に位置する計測点
中川光雄他;地すべりに対するトンネル坑口部の 3 次元
有限差分法解析による合理的設計、土木学会トンネル工
B の時系列グラフである。上半切羽 TD=32m 地点にお
-812-
学報告集第 19 巻、pp.225-236、2009.11