情報収集に利用された最初の訪問 心に残る説明が後の大逆転生む

所 在
社
設
資 本
従業員
事業内
地 :埼玉県入間市
長 :樋本明則
立 :1963年11月1日
金 :5000万円
数 :137人
容 :プラスチック射出成形機の保守サービス
ニップラ
発注
アイティフォー
情報収集に利用された最初の訪問
心に残る説明が後の大逆転生む
地道な電話セールスがつないだ“縁”
、周回遅れから案件を獲得
電話セールスでつかんだ顧客に手応えを感じていた。実際には単
それでも、疎かにはできない。
なる情報収集に利用されていただけだったが、このときの訪問が、
城地が販売する ServiceAlliance
後の商談をつかむきっかけとなった。
は、医療機器や情報機器、工作機
(敬称略)
械などの整備・保守業務に特化し
ている。ニッチな市場だからこそ、
アイティフォーのCRM ソリュー
ション事業部営業一部で担当次長
メント)製品「ServiceAlliance」
少ないユーザー企業からの問い合
を売り込むためだ。
わせを待っていてはだめだ。脈が
ありそうな企業のドアを一軒一軒
を務める城地伸幸は、常日ごろか
こうした飛び込み営業のような
ら企業ホームページなどに掲載さ
やり方は、効率が高いとは言えな
れている代表電話番号を頼りにし
い。城地の実感では「ほぼ 95 %の
数%の確率とはいえ、今回はつ
て電話セールスを仕掛けていた。
確率で先方のシステム担当者に取
ながった“縁”が大きな商談をも
城地が販売する米アステア・イン
り次いでもらえない」
。大方は門前
たらした。ニップラのシステムグ
ターナショナルの CRM(カスタマ
払いという、根気の要る地道な作
ループ担当課長である幸松治雄は、
ー・リレーションシップ・マネジ
業の繰り返しだ。
システム構築前に抱えていた課題
●保守サービスの対応情報は紙ベースで管理していたため、
業務効率が悪かった
●保守部品の在庫情報は日次処理で更新していたため、
緊急の対応に時間がかかった
●故障の通報を受けても、現地に出向くまで原因を推定し
づらかった
システム概要
射出成形機の保守
サービス向けCRMシステム
稼働時期
2007年10月
(予定)
受注金額
約5000万円*1
*1 同時に刷新した経理/販売管理システムを含むハード費用と初年度の保守費用の総額
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たたいていくしかない。
「あの時に城地さんの電話を受けて
システム導入による成果
●保守対応の情報と見積もり、請求など売上情報を一つの
システムで管理できるため、業務効率を改善
●在庫情報をリアルタイムに参照、引き当てられるため、迅
速な顧客対応が可能になった
●保守対応の履歴をデータベース化できるため、現地に向
かう前に原因と解決策のめどを立てられる
CRM:カスタマー・リレーションシップ・マネジメント
いなければ、ServiceAlliance を検
討しなかった」と断言する。城地
が幸松に電話を掛けたのは、2006
年4 月下旬のことだった(表)
。
駆け引きは相手が一枚上手
ニップラは、日本製鋼所が販売
表●ニップラから見た、アイティフォーが受注するまでの経緯
社内システムを再構築するプロジェクトを立ち上げる。対象は既存の販売管理/経理シ
2005 年 10月 ステムの刷新と、CRMシステムの新規導入。コンサルティング会社に依頼して新システ
ムの要件を抽出する作業に取り掛かった
2006 年 4 月
5月中旬
5月23日
するプラスチック射出成形機の保
守サービスを手掛けている。Ser
6月
viceAlliance を売り込むには、う
ってつけだった。城地は電話セー
ルスでアプローチを開始。いつも
通り、まずは導入効果からアピー
ルした。ユーザー企業は製品の機
能ではなく、期待できる導入効果
に最大の関心を持つと、城地は経
アイティフォーから電話で売り込みを受ける。新システムの対象となるCRM パッケージ
だったため、情報を収集するつもりで会うことを約束
新システムの構想案が完成。その中で、三つのシステムを一元管理する方針を固めた。
このため SI ベンダーの選定は、CRM/販売管理/経理のすべてを提供可能であることが
条件になった。5 社の SI ベンダーに打診
アイティフォーから直接、製品の説明を受ける。しかしアイティフォーでは経理システムを
手がけていなかったため、
「少し遅かったですね」
と話を打ち切る
4 社の SI ベンダーがプレゼンテーションに参加。そのうち 1 社の提案が要件に近かっ
たが、CRMシステムの機能に不満が残ったことと予算額をオーバーしていたことが懸念
材料となった。そこで、CRM/販売管理と経理でシステムを二分することも選択条件にし
た。SI ベンダーを4 社から3 社に絞り込んだのち、二分した時の見積もりを依頼した
CRM/販売管理のシステムについては、当初の検討で最有力候補に挙がった SI ベンダ
7 月 ーとアイティフォーで比較検討する方針を固めた。アイティフォーに「もう一度話しを聞き
たい」
と連絡を入れる
8 月 アイティフォーがプレゼンテーションを2 回、実施
9 月末
CRM/販売管理システムはアイティフォーへの発注を決定
2007 年 7 月 CRM/販売管理システムが稼働予定
10 月 経理システムの稼働に合わせてエンドユーザー向けリリースを開始予定
CRM:カスタマー・リレーションシップ・マネジメント
験から学んでいたからだ。
ニップラの幸松は、電話口に出
たときから反応が良かった。その
が一枚上手だった。一通りの説明
理由は、幸松が「ちょうどCRM シ
を聞き終えた幸松は、
「少し遅かっ
ステムの導入を検討しているとこ
たですね」と城地に告げた。
ろ」と明かしたことで分かった。
商談の糸口を逃すわけにはいかな
チャンスはまだある
だった。
城地が販売する ServiceAlliance
は、販売管理機能までは実装する
が、経理は外部のシステムとデー
タ連携させる使い方を想定してい
い。城地は「ぜひ説明にお伺いし
最初の電話セールスで幸松が明
る。この点は、幸松も城地に会う
たい」と迫った。こうして 5 月 23
かした通り、ニップラがCRM シス
前から承知していた。それでも幸
日、城地はニップラ本社を訪ねた。
テムの導入を検討していることは
松が城地の訪問営業に応じたのは、
幸松に迎えられた城地は、2 時間
事実だった。ただし、話はもっと
情報収集のためだ。「多くの CRM
かけて ServiceAlliance を説明し
大規模で、既存の経理システムと
製品を知ることで、その良い点を、
た。説明の最中、幸松は「こうい
販売システムを同時に刷新する計
これから構築するCRM システムに
った業務は、どう改善できるのか」
画だったのだ。これら三つのシス
反映させたい」
。その本心を、幸松
などと具体的な事例を引き合いに
テムを、ニップラは SIer1 社に発
は隠していた。
出しながら質問をぶつけてきた。
注する方針を固めていた。一つの
体のいい断りを受ける格好とな
話に乗ってきたとみた城地は心中、
システムとしてデータを管理でき
った城地だが、やすやすと引き下
「これはいける」と期待した。まず
た方が、導入後の運用保守の負担
がるわけには行かない。城地は候
は検討の対象に加えてもらうこと
を軽減できると考えたからだ。ち
補に挙がっている CRM 製品や
が先決だ。受注に向けた攻略は、
ょうど城地がニップラを訪れる数
SIer の名を尋ねた。だが幸松は、
その後でいい。
日前、一手に引き受けられる SIer
頑として口を割らない。そこで城
の 5 社に、提案を依頼したところ
地は CRM 製品や SIer を次々と挙
ところが、駆け引きは幸松の方
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げ、それらの製品情報を提供する
ほかの提案は、射出成形機の保守
件を満たしていた 1 社の CRM/販
振りを見せて、幸松の反応を探っ
業務を想定した使い勝手に仕上が
売管理システムは、社内の関係者
た。城地の読みは「射出成形機の
っていなかったのだ。
の間でも評判が高かった。そこで
保守業務を最適化できるCRM 製品
一方、経理システムの部分は 4
幸松は、この 1 社を最有力候補と
はない」だった。
「近いうちに必ず
社で差が付かなった。幸松は、
しながら、ServiceAlliance も関係
連絡がきます」
。城地は帰社後、上
「CRM/販売管理システム部分を見
者に評価してもらうことにした。7
司である事業部長の山崎秀夫にそ
直した上で、全体のコストも下げ
月下旬、
「もう一度、話を聞きたい」
う報告した。
てほしい」と依頼した。しかし、
と城地に電話した。
各社の返事は「難しい」の一点張
要件を満たす CRM がない
り。そこで思い出したのが、2 カ月
CRM のレベルは落としたくない
城地が訪問した翌月、ニップラ
前に売り込みにきた城地だ。情報
城地が 2 カ月ぶりにニップラ本
では提案の絞り込みが始まった。
収集が目的だったとはいえ、製品
社を訪れたのは 7 月 28 日。幸松の
実際には 1 社から「開発要員を確
自体はニップラの保守業務に「使
口は相変わらず堅く、この時も城
保できない」という申し入れを受
える」印象が強かったからだ。
地には、ニップラ側の選定作業が
ただし、アイティフォーの Ser
難航している状況を露ほども漏ら
viceAlliance を選定対象に加える
さなかった。その日はライセンス
と、システムを CRM/販売管理部
の利用者数や、システム化の対象
ものだった。まず、4 社とも見積額
分と経理部分に分ける必要がある
範囲など見積もりの算出に必要な
が予算額を超えていた。さらに、
(図)。幸松の中ではまだ「システ
情報を提供してもらい、約 2 週間
CRM/販売管理システムの要件を
ムは一つでいきたい」という気持
後のプレゼンテーションに備えた。
満たした提案は、1 社しかなかった。
ちが強かった。先の絞り込みで要
8 月 9 日に実施したプレゼンテー
けたため、残る 4 社がプレゼンテ
ーションを実施した。
結果は、幸松らの期待を裏切る
ションで、ServiceAlliance の評判
は上々。機能面で最有力候補に劣
図●ニップラが検討したシステム構成
らなかった。安定して動作するパ
最終
ッケージだけで構築できる点にも
システムを二つに分けて構築
評価が集まる。さらに、城地が提
当初
一つのシステムで構築
C
R
M
販
売
管
理
業 務の中 核を担う
CRMシステムは妥
協できない
経
理
示した見積額は、全体の予算に収
C
R
M
販
売
管
理
経
理
まった。
「システムは二つに分けよう」。
関係者の考えは一致。プロジェク
トを統括する取締役の堂田和英は、
「CRM/販売管理システムは、保守
売り上げデータ
¥
機能とコストの両面で
納得できる提案がない
業務というニップラの中核を支え
る。だからこそ、CRM のレベルは
落としたくなかった」と、決断の
理由を説明する。ニップラは 9 月
アイティフォーが受注
CRM:カスタマー・リレーションシップ・マネジメント
下旬、アイティフォーへの発注を
決定した。
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(加藤 慶信)S