文書基本法大綱作成に向けて

ISSN 1342-632X
国際資料研究所報 Documenting Japan International Report 国際資料研究所報 Documenting Japan International Report国際資料研究所報 Documenting Japan International Report国際資料研究所報 Documenting Japan International Report
DJI レポート
No.56 号 20040420
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〒251-0045 神奈川県藤沢市辻堂東海岸 3-8-24 fax+phone 0466-31-5061
DJI の主張 文書基本法大綱作成に向けて(6)
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-二つの新聞投稿記事をみる-
◆政府の文書記録は国民財産―1990.9.10 毎日新聞「提言」
事務処理を文書によって行うのは役所の仕事の基
本である。先ごろ、名簿調査で注目された朝鮮人の
強制連行も、当然、日本政府の文書に基づいてその
事務が処理されたはずだ。だが、それから 50 年たら
ずの間にその文書の大半は行方不明となってしまっ
た。「歴史的に重要な公文書(公文書館法第3条)
」
を保存し利用に供する専門家をアーキビストという。
合衆国アーキビストといえば米国国立公文書館長の
ことで、その権限は公文書の作成方法にも及ぶ。
米国ワシントン州シアトルの北西太平洋地域連邦
記録センターには、軍用機格納庫を改造した巨大な
倉庫があり、合計 73 万箱もの書類箱が詰まった、高
さ約5㍍の書棚が見渡す限り並び、コンピュータで
管理されている。米国には国立公文書館本館のほか、
このような記録センターが全国に十四ヶ所もあり、
政府公文書をはじめ、裁判記録、個人文書などを保
管し、将来の利用に備えている。
フランスでは、国立文書館本館のほかに、フォン
テンブロー城隣に地上三階地下五階建ての現代公文
書センターを設け、積み上げれば 171 ㎞に及ぶ最近の公
文書を収蔵し、公開している。西ドイツの連邦公文
書保存法では、作成後 30 年以上の公文書は公文書館
に保存・公開すべきであると明記している。
各国に見る公文書の保存・管理状況は、
「過去の経
験を将来に生かす」努力や文化状況を端的に示して
いる。世界の趨勢は、公文書や情報は納税者のもの
◆公文書保存
だから、過去を将来に役立てるために情報公開や文
書館制度を整備して、情報や文書を人々の共有財産
として活用する方向にある。
さて日本の実態はどうか。先の強制連行朝鮮人名
簿調査では、とりわけ行政サイドの姿勢が日本の文
化状況をよく示していた。行政機関は文書記録を作
るには作っても、保存や利用の実際は「場当たり的」
で、ほんの 50 年足らずの間に、どこにあるのか、い
やそれどころか存在したか否かさえもわからなくな
るというだらしのない状況だ。
他方、先端技術を駆使して非公開情報が政府部内
に着々と集められているらしいのに、情報公開制度
はまだ確立されていない。公文書の管理はずさん、
集めた情報はマル秘扱い、これでは文化後進国と評
されるのも無理からぬところだ。
本来、政府の情報や文書記録は役所や役人の占有
物ではない。納税者である国民の共有財産である。
文書や情報がどこにどうなっているかが、いつでも、
誰にでも簡単にわかるようなシステムが必要だ。
そのためにも、政府側はたとえばファイリング、
そして事務処理終了後の保管・保存など、文書と情報
管理の現状を謙虚な態度で見直し、適切な記録管理
を行えるような制度、手続き、職員再教育などを確
立し、
「文化後進国」から脱却して欲しい。
(アーキビスト 小川千代子)
基本法作り行政の監視を―2004 年 2 月 7 日朝日新聞「私の視点」
小泉首相は1月の施政方針演説で、
「政府の活動の
記録や歴史の事実を後世に伝えるため、公文書館に
おける適切な保存や利用のための体制整備を図る」
と述べた。その方針は大いに歓迎するが、具体的な
方策は伝わってこない。
公文書のうち保存期間満了以前の「現用文書」の
取り扱いを定めているのは、情報公開法である。だ
が、
「行政文書を適正に管理するものとする」と書い
てあるだけで、違反した場合の罰則はなく、文書の
作成・保存に関する強制力はないといっていい。そ
れ以前はこの種の訓示規定を盛り込んだ法律すらな
く、同法の施行直前に大量の公文書が廃棄されたと
も言われている。
一方、保存期間満了後も歴史的文化的価値を持つ
「非現用文書」については、公文書館法などが根拠
法となる。しかし、国と自治体に保存・利用の責務
が課される対象は「歴史資料として重要な公文書等」
と、極めてあいまいな表記になっている。それだけ
の価値がないと判断された非現用文書には適用法そ
のものがなく、各府省庁から国立公文書館に移管さ
れる文書の数は、情報公開法施行後に激減している。
このような混乱や問題が起きるのは、国や自治体
が作成する文書に関する基本法が整備されていない
おもな内容
主張・文書基本法大綱作成に向けて(6)二つの新聞投稿記事をみる………1
福嶋紀子 アーカイブとならない行政文書(2)…………………2
アジア情報/死の灰を運んだ風/電子文献紹介………………………3
ためである。
公文書の扱いを明確に定めておくことは、都合の
悪い事実を隠そうとする傾向に市民が歯止めをかけ、
後世の批判に耐えうる行政を実現させるために、重
要な意味を持つ。役所はどこも「文書主義」を業務
の基本にしているというのに、そこに包括的な法の
根拠がないというのは、いかにもおかしな話ではな
いか。
米国の連邦記録法は、酸性紙の影響などを踏まえ、
政府文書が書かれるべき紙質から始まり、個々の官
庁の保管状況を第三者(国立公文書館記録管理庁)
がチェックするシステムまで、詳細に規定している。
最近は長期保存に不安のある電子文書の普及が著
しい。データが消去・改ざんされる危険や、コンピ
ューターシステムの更新により過去の電子データが
読めなくなってしまう問題も浮上している。長期保
存体制の基盤整備のためにも、基本法づくりは急を
要する。
公文書は、政権がつづる歴史そのものである。現
代を未来世代に伝えるため、公文書は適切に保存さ
れ続けなければならない。
(小川千代子 民間機関国際資料研究所代表)
DJI レポート
No.56 20040420
アーキビストの消息4月1日異動特集………………………………4
国際資料研究所の活動/巻末随想…………………………………5
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