form1.2 成果概要 課題番号 hp120070 課題名 高速噴射実形態噴霧の乱流微粒化・噴霧燃焼物理の解明 課題代表者 新城淳史 所属機関 Brunel 大学工学系研究科(英国) 1. 研究の背景と目的 本研究の目的は、 (1)乱流噴霧の形成およびその燃焼を実スケールにまで領域を拡大し物理機構を 解明する、および(2)現存シミュレーションの噴霧・液滴モデルに不足する効果を洗い出し新規実 用数値モデルを創出する、である。 これまでの噴霧の研究において、噴射孔直下の液体比率の高い(濃い)領域は、高速・小スケール の二相乱流であるため計測・解析が困難であり、 長らく正面から研究に取り組むことが困難であった。 しかしながら、この領域の振る舞いは下流域の混合・燃焼特性に強く影響を与える。この領域の知見 が不足しているために、噴霧設計はいまだに試行錯誤から抜け出せずにおり、この領域の解明がボト ルネックになってきた。したがって、噴霧燃焼においてこの領域の研究は最重要課題の一つである。 最近(2009 年以降) 、我々はノズル近傍領域の直接数値計算により噴霧の物理の大部分を解明して きた[1-5]。その結果、液体微粒化機構、乱流生成機構、乱流混合特性について新しい知見を得ること ができ、成果を発表した[1-5]。その際の数値計算には FX-1 ベースの JAXA スパコン JSS を使用した が、 計算機の資源容量の制約により解析は噴射ノズルから直径の 20 倍程度下流までの領域に限定され た。 実スケールへの接続には空間スケールとしては噴射ノズルから直径の 100~200 倍程度の領域まで 含まれていることが望ましく、よりスケールを拡大した解析を行い、さらなる知見を得ることが重要 である。そのため、本研究ではより大規模な計算機である京での解析を目指し、その結果として噴霧 数値解析の知見を実用へ役立てる道を切り拓くことを目的にしている。 2. 計算モデル 本研究では、液滴分裂モデルを入れず液体微粒化プロセスを直接数値計算する。気液界面を直接解 像することで液滴を点近似せず、液滴・液糸の非真球性および体積占有効果(乱流の生成も含めた近 傍の気相への影響)を無視しない。また、燃焼も直接解析し点火過程を追跡する。 ノズル噴射孔直下の噴霧では、液滴自身の体積占有効果が気相速度場の形成や混合等の局所の輸送 現象に重要であるので[1-5]、液滴の形状まで把握するこのアプローチでなければ正確な解を得られな いのは明らかである。このアプローチにより、最小の液滴スケールまで解像したデータが時系列で得 1 form1.2 られ、すなわち乱流噴霧の全てのスケールの理解が可能になる。液滴の変形、液滴に至る前の液糸等 の形状も自動的に扱えるため、これが局所の気相に与える効果も見積もることができ、モデル化の精 度を上げることができる。また、燃焼に関しても火炎モデルなどは与えず化学反応式を直接解く。 このような試みは、実噴霧形状では本研究が初めてであり、これまで知り得なかった世界初のデー タを得ることができる。 3. 並列計算の方法と効果(性能) ノード間の通信は MPI により、スレッド内は自動並列で行う。本課題実施前の FX-1 による解析で は準備期間が限られていたこともあり計算コードのチューニングが十分ではなく、実行効率は 3-4% 程度であり決して高くはなかった。本課題後の改善は次章に示す。 4. 研究成果 本課題は条件付き選定であり、実際の流れ場の解析を行うものではない。そこで、将来の大規模解 析の実施のために計算コードの効率化・高速化を図った[6]。 計算コードは、通信が占める割合は 3%未満であり実行効率を遅くしているのは通信部分以外の場 所である。まず、プロファイラによってパラレルとシリアルの状況を詳しく調べた。その結果、スレ ッド並列がされてないサブルーチンの部分のコストが高く、まずここを改善すべきとなった。入出力 は実際の運用では比較的頻繁には行わないことからこの部分は優先的には改善しないこととした。 表 1 改善前の性能[6] 経過時間 GFLOPS 87.5 GFLOPS /PEAK(%) 4.8 Memory throughput [GB/s] 3.8 Memory throughput /PEAK(%) 6.9 SIMD(%) 10.7 25.8 コストの高いサブルーチンのうち、まずシリアルになっている以下の並列化阻害原因を修正した。 配列で保持している物性値の部分でスレッド間の衝突があるところを変数をスカラー値することで回 避、値のチェックのための入出力を省略してスレッド並列化、ループの分割と OpenMP の併用による スレッド並列化、などである。 さらに、パラレルでありながら SIMD とソフトウェアパイプライン処理ができておらず、さらに高 速化できる部分について改善を行った。例えば、if 文で高速化阻害している部分が多かったことがあ ったため、明示的にマスク付き処理で SIMD 処理した。 これらの結果、実行効率は 8.7%程度にまでコードの効率を向上することができた。圧力の繰り返し 計算についてはさらに改善の余地があるため若干の改良を行っている。そして、これを継続して実際 の大規模計算への適用に向けた準備を進めていく予定である。 2 form1.2 表 2 改善後の性能[6] 経過時間 GFLOPS 38.9 GFLOPS /PEAK(%) 11.1 Memory throughput [GB/s] 8.7 Memory throughput /PEAK(%) 16.1 SIMD(%) 25.1 50.8 5. まとめと今後の課題 本課題によりコードの効率化は向上した。若干の向上の余地も今後追求していく。また、実際の大 規模解析の実施に向けた検討を進めていく予定である。 本作業には高度情報科学技術研究機構のご支援をいただいたので記して謝意を表します。 参考文献 [1] J. Shinjo, A. Umemura, Int. J. Multiphase Flow 36, 513-532 (2010). [2] J. Shinjo, A. Umemura, Proc. Combust. Inst. 33, 2089-2097 (2011). [3] J. Shinjo, A. Umemura, Int. J. Multiphase Flow 37, 1294-1304 (2011). [4] J. Shinjo, A. Umemura, Proc. Combust. Inst. 34, 1553-1560 (2013). [5] J. Shinjo, J. Xia, A. Umemura, accepted for presentation at the 35th Int. Symp. Combust. (2014). [6] 「高速噴射実形態噴霧の乱流微粒化・噴霧燃焼物理の解明」利用支援報告資料、高度情報科学技 術研究機構、2014 3
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