当日配布資料(2.69MB)

植物遺伝子にサイレンシング変異を
発動させる簡便システム
接ぎ木による品種改良
弘前大学
農学生命科学部 生物資源学科
教授 原田 竹雄
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研究背景
接ぎ木を利用する果樹栽培において、台木が穂木に与える影響は多
接ぎ木を利用する果樹栽培において、台木が穂木に与える影響は多
様なものがあることがわかっていたが、その原因は不明であった。
様なものがあることがわかっていたが、その原因は不明であった。
近年の遺伝子解析技術により、遺伝情報の長距離輸送システムの
近年の遺伝子解析技術により、遺伝情報の長距離輸送システムの
存在が判明してきた。
存在が判明してきた。
リンゴ果実の分子遺伝学的研究を行ってきたが、上記のことから、次
リンゴ果実の分子遺伝学的研究を行ってきたが、上記のことから、次
の新技術の開発研究を発想した。
の新技術の開発研究を発想した。
植物の長距離輸送システムを利用して遺伝情報を
台木から穂木へ運搬させて穂木の形質を改良する。
2
接ぎ木 → 多くの果樹、蔬菜、花木で行われている
耐寒性、耐乾性、
病害虫回避、矮性
果 樹
蔬 菜
花 木
サクラ
リンゴ、ナシ、カキ、
ブドウ、モモ、スモモ、ウメ、アン
ズ、オウトウ、クリ、クルミ、イチ
ジク、キウイフルーツ、ブルーベ
リー、カンキツ、ビワ、マンゴー
土壌病害回避
トマト、ナス、
ピ−マン、キュウリ、
メロン、スイカ
開花早期化
サクラ、カイドウ、モクレン、ツバ
キ、バラ、ハナミズキ、ボタン、モ
ミジ、ライラック
ハナミズキ
3
リンゴの接ぎ木作業 青森市
原田種苗株式会社 2009年2月撮影
独立行政法人農業・食品産業技術総合
研究機構(農研機構)
生物系特定産業技術研究支援センター
ホームページより
4
4
長距離輸送とは?
輸送インフラとして導管と篩管がある
導管(mM)
篩管(mM)
ショ糖
ND
460.0
アミノ酸
2.2
83.0
カリウム
5.2
94.0
ナトリウム
2.0
5.0
リン酸
2.2
14.0
マグネシウム
1.4
4.3
Biochemistry & Molecular Biology of Plants p739
5
篩管によるRNA長距離輸送
篩管要素 PPU
伴細胞
タンパク質
mRNA
RNA結合タンパク
small RNA
特定のRNA分子が選択的に輸
送され、輸送先で機能している。
6
既報の篩管輸送RNA
植物名
報告者
PP16
カボチャ
NACP
カボチャ
Xoconostle-Cázares et al.
1999
Ruiz-Medrano et al. 1999
PFP-T6
トマト
ジャガイモ
Kim et al. 2001
Kudo and Harada 2006
トマト
シロイヌナズナ
リンゴ
ジャガイモ
Haywood et al. 2005
Ham et al. 2009
Huang and Yu 2009
Xu et al. 2010
Banerjee et al. 2006
Banerjee et al. 2009
Omid et al. 2006
Kanehira et al. 2010
RNA
mRNA
GAI
BEL5
AUX/IAA14
メロン
リンゴ
miRNA
miR399
miR172
siRNA
PAI
GSA
IR71
シロイヌナズナ
タバコ
Lin et al. 2008
Pant et al. 2007
Kasai et al. 2010
シロイヌナズナ
タバコ
Molnar et al. 2010
Kasai et al. 2011
Dunoyer et al. 2010
赤字は我々のグループ
7
リンゴにおけるphtRNAシステムの解析
SLR/IAA14のmRNAは伴細胞に。
マルバ台ふじ2年木
台木のmRNAを穂木で確認。
8
研究の最終目的
•
•
•
•
輸送機構を応用し特定の遺伝情報(RNA)をより的確に運搬できるシステムを開発。
その系を付与した組換え台木に接ぎ木することによる、穂木の新規品種改良技術を
創出。
本技術の特徴は、既存の栽培品種を台木に接ぎ木するだけで改良できること。
穂木には導入DNAが存在しないため、花粉飛散による組換え遺伝子の漏出問題をク
リアできること、さらに、果樹や蔬菜などの多くの園芸作目に活用できる。
9
接ぎ木伝搬性RNA発現ベクター I
mRNA用
伴細胞特異的発現プロモーター
選抜マーカー遺伝子
ジベレリンの働きを止める遺伝子
矮性マルバカイドウ
台木品種の作出
10
遺伝子の働きを止める(サイレンシング)ための
RNAを増幅するシステム
11
接ぎ木伝搬性RNA発現ベクターIII
siRNA用
特許申請
リンゴ果実のエチレン合成遺
伝子一部
siRNAが機能するとリンゴ果実の
日持ち性が良くすることができる台木となる。
12
転写型サイレンシング機構
娘細胞にも維持・伝達される
13
サイレンシングが起きている
TGS
control
1 cm
転写型サイレンシングを発動するRNAを台木から輸送させることで
標的遺伝子をサイレンシングさせることができる。
14
維管束周辺細胞からサイレンシングを受けている。
接ぎ木面付近
(横断)
新展開葉付近
(縦断)
TGS
control
bar=100 μm
15
遺伝子サイレンシングは遺伝する。
16
穂木がコントロールでは
台木の根はサイレンシン
グがない。
穂木がサイレンサーでは、
根にサイレンシングがみら
れる。
17
サイレンシング
発動
コントロール
台木の側根ではサイレンシングが強く起きている。
Siobhan M. Brady, et al.
側根は内鞘細胞から形成される。
18
リンゴ果実のエチレン合成遺伝子
のプロモーターの一部
siRNAが穂木に輸送されて機能し、穂木のリンゴ果実の日持ち性を
高めるように遺伝子を変異させることができる台木となる。
19
根系不定芽(Root Sucker)がエピジェネティック変異体となる → 特許申請中
20
根からの再分化
根系不定芽の獲得
既存品種の形質転換(品種改良)が可能
GM植物に該当しない
TGS発動
産業分野への実用が期待
形質転換
台木
http://www.gardenplansireland.com
21
想定される用途
•
果樹
従来の品種改良には数十年を必要とする果樹では画期的な技術となる。
一度台木にこのシステムを付与し、それに接ぎ木することで既存の優良品種に
目的の形質を付与できる。得られた個体は栄養繁殖により増殖できる。
リンゴ、ナシ、オウトウ、モモ、ブドウ、カンキツ等
•
蔬菜
トマト、ナス、スイカ、メロン、カボチャ等の接ぎ木栽培の蔬菜にも適用が可能である。
形質転換体は組換え遺伝子を含まないことも、本形質転換法の大きなメリットである。
•
想定されるユーザー
種苗会社
果樹・花木 全般、 トマトなど蔬菜
22
実用化に向けた課題
どの遺伝情報を輸送させて、どのような形質を変えるのか?
ストレス耐性、耐病性、高品質性など
使用するプロモーターをさらに改良する必要があるか?
根系育種技術として活用できる可能性は?
企業への期待
接ぎ木による品種改良法を確立するための基礎技術の開発研究に協力し
て欲しい。
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本技術に関する知的財産権
•
•
発明の名称
出願番号
:siRNA産生用ベクター
:特願2010-68480
•
•
発明の名称
出願番号
:台木と穂木の接ぎ木を介して行う植物の形質転換方法
:特願2010-271452
•
•
出願人
発明者
:弘前大学
:原田竹雄、葛西厚史、白 松齢、山田かおり
お問い合わせ先
国立大学法人 弘前大学地域共同研究センター産学官連携コーディネーター
工藤重光
TEL:0172‐39‐3989 FAX:0172‐36‐2105
E‐mail shige‐[email protected]‐u.ac.jp
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