Pt蒸着による有機低分子の レーザー脱離イメージング質量分析 関西大学 化学生命工学部 化学・物質工学科 教授 荒川 隆一 准教授 川崎 英也 レーザ-脱離イオン化法 (MALDIとSALDI)の違い MALDI(マトリックス支援レーザ-脱離イオン化) 従来法 パルスレーザー光(337 nm) マトリックスと試料の共結晶 を均一に作成することが重要 試料のレーザー 脱離イオン化 高度な塗布技術 マトリックス関連イオン 試料 有機マトリックス (レーザー光を吸収する有機低分子化合物) ステンレス SALDI(表面支援レーザ-脱離イオン化) 最近の方法 パルスレーザー光(337 nm) 試料のレーザー 脱離イオン化 MALDIとは異なり低分子試料 の解析が容易 無機ナノ粒子 (レーザー光を吸収する金属ナノ粒子) 試料 例: Ag, Au, Cu, ステンレス Pt 2 MALDIのイメージング質量分析法(MALDI-IMS) 従来法 O Sample ガン患者の胃粘膜 Matrix シナピン酸 H3CO OH HO OCH3 胃粘膜画像化 ↓ 病理分析へ So¨ren-Oliver Deininger, Matthias P. Ebert, Arne Fu¨tterer, Marc Gerhard, and Christoph Ro¨cken J. Proteome Research, 2008, 7, 5230–5236 3 SALDIを用いたイメージング質量分析法(SALDI-IMS) 最近の方法 Sample 20香港ドル紙幣 Matrix 金ナノ粒子(15秒間蒸着) インクの分布 香港ドル紙幣 Ho-Wai Tang, Melody Yee-Man Wong, Sharon Lai-Fung Chan, Chi-Ming Che, and Kwan-Ming Ng, Anal. Chem. 2011, 83, 453–458 4 Ptスパッタ蒸着法を用いたSALDI-IMSの特色 MALDIによるイメージング質量分析法 (IMS)は既に実用化されて従来の方法であ る。しかし、正しいイメージング図を得るため にはマトリックスと試料の共結晶を均一に作 成する高度な塗布技術が必要である。 マトリックス塗布 今回のPt蒸着法を用いたSALDI –IMSは、 試料表面をPtでスパッタ蒸着する。それを質 量分析装置に導入するだけなので、誰でも 簡便・迅速に測定ができる方法である。 スパッタ蒸着 Pt蒸着SALDI/IMSの検討 基礎検討 Pt蒸着SALDIの原理について(TEM観察) Pt蒸着SALDI、Au蒸着SALDI、LDIの比較 蒸着膜厚と感度の関係 応用検討 UV照射印刷物の分布解析 ガラス基板TLCの分布解析 Pt蒸着SALDI-IMSの原理 Pt deposition in dry process Pt-SALDI-IMS Sample スパッタ蒸着を用いたSALDI-IMSの特徴 簡便な前処理 均一な金属ナノ構造体の作成が可能 Expanded スパッタPt蒸着のTEM観察 ⇒ 空孔を有するナノ構造体 Pt蒸着SALDI、Au蒸着SALDI、LDIのスペクトル比較 x104 2 0 x104 2 0 x104 2 Crystal violet ★ Pt蒸着 (a) Pt Au蒸着 (b) Au Crystal violet N LDI ★ Rhodamin RhodamineB B Pt蒸着 (d) Pt 0 2000 RhodamineB B Rhodamin ★ Au蒸着 ★ LDI 0 2000 0 x104 1 Intensity 0 x104 1 0 x104 1 N Chemical Formula: C25H30N3+ (c)Exact LDI Mass: 372.24 ★ 0 2000 N+ ★ Crystal violet RhodamineB B Rhodamin COOH (e) Au Et2N NEt2 O+ Chemical Formula: C28H31N2O3+ (f) Exact LDI Mass: 443.23 ★ Pt蒸着 Rhodamin 123 Rhodamine 123 Rhodamin 123 Rhodamine 123 ★ Au蒸着 Rhodamine 123 Rhodamin 123 LDI ★ 0 300 325 350 375 400 m/z 425 450 475 500 (g) Pt COOCH3 (h) Au H2N NH2 O+ Chemical Formula: C21H17N2O3+ (i)Exact LDI Mass: 345.12 レーザー強度:60% 525 Pt蒸着SALDI、Au蒸着SALDI、LDIの強度比較 Pt蒸着SALDIが感度面で有利 蒸着膜厚の検討 SO3Na NaO3S Et2N NEt2 O+ Chemical Formula: C27H29N2Na2O7S2+ Exact Mass: 603.12 紙に印刷したマゼンダ染料 蒸着膜厚を変えて SALDI/MS測定 膜厚は10~20nmが最適 印刷物のSALDI-IMSについて 試料調整 インクジェットプリンターで紙にパターン印刷 ⇒ UV照射(30 min) Pt蒸着膜厚:20 nm 測定条件 Laser shot number: 200 Laser pitch: 200 um m/z range: 60-2000 Laser Intensity: 70% Pt蒸着 UV照射した印刷物の写真 5 mm 印刷物は絶縁体のためMALDI-IMSやLDI-IMSが難しい 印刷物の各領域のSALDI-IMSスペクトルの比較 (2) (4) (1) (3) 各領域で特徴的なマススペクトルが得られる SALDI-IMSによるカラーマップイメージ SALDI-IMSにより印刷領域でUV照射により減少する成分を解析 高分解能LC-MSによる未知成分の構造解析 Extract of component (a) Relative Abundance 0 100 0 100 0 100 0 100 0 100 SO3H 559.15765 (Error: 1.66 ppm) 100 559.15790 (Error: 2.11 ppm) 172.20618 (Error: 1.18 ppm) 172.20630 (Error: 1.88 ppm) Et2N NEt2 O+ Chemical Formula: C27H31N2O7S2+ Exact Mass: 559.15672 Extract of component (b) NH2 + H+ 1-Aminoundecane (Standard) 195.12218 (Error: 2.67 ppm) 195.12227(Error: 2.20 ppm) Acid Red 52 (Standard) HO3S Extract of component (c) Tetraethylene Glycol (Standard) Chemical Formula: C11H26N+ Exact Mass: 172.21 HO O O O OH + H+ Chemical Formula: C8H19O5+ Exact Mass: 195.12 0 200 300 400 m/z 500 600 700 高分解能LC-MSによりUV照射で減少する成分の構造を推定 UV照射で減少する印刷領域の成分 (a) Acid Red 52 (pigment) (b) 1-Aminoundecane (additive) NH2 + H+ SO3Na NaO3S Et2N Chemical Formula: C11H26N+ Exact Mass: 172.21 Chemical Formula: C27H29N2Na2O7S2+ Exact Mass: 603.12 O+ NEt2 UV照射により印刷領域の 染料や添加剤成分が減少 (c) Tetraethylene Glycol (additive) HO O O O OH + Na+ Chemical Formula: C8H18NaO5+ Exact Mass: 217.10 UV照射で増加する印刷領域の成分 HO NH2 + H+ NH2 + H+ O Chemical Formula: C11H26NO+ Exact Mass: 188.20 Chemical Formula: C11H24NO+ Exact Mass: 186.19 UV照射による酸化 NH2 + H+ Chemical Formula: C11H26N+ Exact Mass: 172.21 UV照射で増加する印刷領域の成分は添加剤アミンの酸化か? 染料のTLCのSALDI-IMS結果 N+ Chemical Formula: C H N + 25 30 3 Exact Mass: 372.24 N N Chemical Formula: C28H31N2O3+ COOH Exact Mass: 443.23 Et2N O+ NEt2 Chemical Formula: C21H17N2O3+ COOCH3 Exact Mass: 345.12 H2N 光学写真 O+ NH2 マスカラー マップ SALDI-IMSにより目視で困難な 重なった成分の分布と構造解析が可能 糖のTLCのSALDI-IMS結果 Chemical Formula: C6H12NaO6+ OH + Na+ Exact Mass: 203.05 HO O HO HO マスカラー 光学写真 マップ OH HO HO HO Chemical Formula: C12H22NaO11+ Exact Mass: 365.11 O HO OH O HO O + Na+ OH OH HO HO HO Chemical Formula: C18H32NaO16+ O Exact Mass: 527.16 HO OH O HO O + Na+ HO OH O HO O OH OH SALDI-IMSにより染色が必要な糖でも分布と構造解析が可能 Pt蒸着SALDIのまとめ 簡便な前処理で均一なナノ構造体を作製でき イメージングMSに有用な手法である Pt蒸着膜厚は10~20 nmがよい MALDIのイメージングMSが 難しい絶縁性の 試料にも適用できる 低分子成分のイオン化が得意である 新技術の特徴・従来技術との比較 従来技術で問題となる熟練を要する高度な塗布 技術が不要であり、本技術では、誰でも簡便・迅 速に測定ができる。 従来は導電性の基板表面の使用に限られてい るが、本技術のPtスパッタ蒸着法は非導電性の 基板でも使用が可能となった。 本技術の適用により、フイルム、プラスチックな ど材料分野の表面分布解析や生体試料中の薬 物分布解析に有効であることが期待される。 想定される用途 本イメージング技術の特徴を生かすためには、プ ラスチック、フイルム、紙、葉、木片およびその他 の生体試料などの表面に分布する低分子有機化 合物の高感度な分布解析が可能である。 したがって、表面の変性、不良品の検査などが非 常に簡便に適用できる。 レーザー脱離イオン化のために、SIMSと異なり 単分子表面層のみの分析に限定される。 実用化に向けた課題 現在、工業材料についてイメージング質量分析が 可能なところまで開発済み。今後は、生体試料(資 料切片)中の低分子有機化合物やバイオ関連物 質のイメージング質量分析についても検討を行う 予定である。 Ptナノ粒子と試料の相性があるので、有機低分子 であればすべてイメージング測定できるとは考えら れない。今後、添加剤、色素、界面活性剤ついて 実験データを取得し、材料分野に適用していく場合 の条件設定を行っていく。 企業への期待 高度な熟練性が必要であった低分子有機化合物の イメージング質量分析が、Ptスパッタ蒸着技術によ り誰でも簡単にできる 実用化に向けて、簡易なPtスパッタ装置の開発を期 待する 本IMS技術は工業製品の工程管理から生体試料の 分布分析まで幅広く適用できるので、分析対象物を 持つ企業との共同研究を希望 IMS技術は、現在急速に発展している技術であり、 世界の多くの研究者が様々な対象物に適用できる 状況を作るために協力していただける企業の協力 を希望。 本技術に関する知的財産権 発明の名称:白金ナノ粒子蒸着を用いる イメージング質量分析法 出願番号 :特願2012-033258 出願人 :学校法人関西大学 発明者 :荒川 隆一、川崎 英也 【お問合わせ先】 関西大学先端科学技術推進機構コーディネーター 板倉 正 TEL:06-6368-1245 FAX:06-6368-1247 e-mail:[email protected]
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