第48回日本理学療法学術大会(名古屋) P-A運動-012 Draw in を行う条件の相違が腹直筋と内腹斜筋の筋活動量の割合に及ぼす影響 森山 信彰 1), 浦辺 幸夫 1), 前田 慶明 1), 篠原 博 1), 笹代 純平 1), 藤井 絵里 1), 高井 聡志 2) 1) 広島大学大学院医歯薬保健学研究科 , 2) 介護老人保健施設エルダーヴィラ氷見 key words Draw in・内腹斜筋・筋活動 【はじめに、目的】 体幹筋は,表層に位置するグローバル筋と,深部に位置するローカル筋に分類される.ローカル筋は骨盤の固定に寄与 しており , 下肢と骨盤の分離運動のためにはローカル筋の活動が不可欠である.今回,選択的にローカル筋の活動を促す Drawing-in maneuver(以下,Draw in)といわれる腹部引き込み運動に着目した.主に下肢の運動中にローカル筋による骨 盤固定作用を得るために,グローバル筋の活動を抑えながら,ローカル筋の筋活動を高める Draw in の重要性が知られて きている. 座位では背臥位に比べ内腹斜筋の活動が増加することや(Snijder et al. 1995),腹直筋が不安定面でのバランスに関与す ることから(鈴木ら 2009) ,Draw in を異なる姿勢や支持面を持つ条件下で行うとこれらの筋の活動量が変化すると考えら れる.今回,Draw in 中のグローバル筋である腹直筋と,ローカル筋である内腹斜筋を対比させながら,この活動量の比率 を求めることで,どのような方法が選択的な内腹斜筋の筋活動量が得られるか示されるのではないかと考えた.本研究の 目的は,姿勢や支持面の異なる複数の条件下で行う Draw in のうち,どれが選択的に内腹斜筋の活動が得られるかを検討 することとした.仮説としては,座位にて支持基底面を大きくした条件で行う Draw in では,腹直筋に対する内腹斜筋の筋 活動が高くなるとした. 【方法】 健常成人男性 6 名(年齢 25.8 ± 5.7 歳,身長 173.0 ± 5.2cm,体重 65.4 ± 9.0kg)を対象とした.Draw in は「お腹を引っ 込めるように」3 秒間収縮させる運動とし,運動中は呼気を行うよう指示した.Draw in は,背臥位,背臥位から頭部を拳上 させた状態(以下,頭部拳上) ,頭部拳上で頭部を枕で支持した状態(以下,頭部支持),足底を接地しない座位(以下,非接 地座位) ,足底を接地させた座位(以下,接地座位)の 5 条件で行った.筋活動の計測には personal EMG(追坂電子機器社) を用い,下野(2010)の方法を参考に腹直筋,内腹斜筋の右側の筋腹より筋活動を導出した.試行中の任意の 1 秒間の筋活 動の積分値を最大等尺性収縮時に対する割合(% MVC)として表し,各条件について 3 試行の平均値を算出した.さらに, 腹直筋に対する内腹斜筋の筋活動量の割合(以下,O/R 比)を算出した.5 条件間の腹直筋および内腹斜筋の筋活動量と, O/R 比の比較に Tukey の方法を用い,危険率 5 %未満を有意とした. 【倫理的配慮、説明と同意】 対象には事前に実験内容を説明し,協力の同意を得た.本研究は,広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学 講座倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号 1123). 【結果】 背臥位,頭部拳上,頭部支持,非接地座位,接地座位での腹直筋の% MVC はそれぞれ 28.0 ± 24.2%,46.4 ± 29.0%,23.0 ± 22.0%,13.2 ± 7.2%,10.6 ± 5.9%であった.頭部拳上では,非接地座位および接地座位より有意に高かった(p<0.05) . 内腹斜筋の% MVC はそれぞれ 48.7 ± 44.1%,49.0 ± 36.9%,47.9 ± 40.8%,45.4 ± 32.1%,50.6 ± 28.4%となり,各群間で 有意差は認められなかっ た.O/R 比はそれぞれ 2.67 ± 3.10,1.31 ± 1.52,2.58 ± 2.74,3.33 ± 2.62,4.57 ± 2.70 であり,接 地座位では頭部拳上より有意に高かった(p<0.05) . 【考察】 内腹斜筋の活動量には条件間で有意差がなく,今回規定した姿勢や支持基底面の相違では変化しないと考えられた.腹 直筋は,頭部拳上では頭部の抗重力位での固定の主働筋となるため,筋活動量が他の条件より高いと考えられた.さらに, 有意差はなかったが背臥位では座位に比べて腹直筋の活動量が高い傾向があった.背臥位では,頭部拳上の条件以外でも, 「お腹をへこませる」運動を視認するために頭部の抗重力方向への拳上と軽度の体幹屈曲が生じ,腹直筋の活動が高まった 可能性がある. O/R 比は腹直筋の筋活動の変化により,条件間で差が生じることがわかった。背臥位で行う Draw in では,腹直筋の活 動を抑えるために,頭部の支持による基底面の確保に加えて,頭部位置を考慮する,もしくは座位で行うことが有効であ ると考えられた. 【理学療法学研究としての意義】 Draw in を行う際に背臥位から頭部を挙げる条件では,内腹斜筋の活動量が同程度のまま腹直筋の筋活動が高まり,結 果として O/R 比が低下するという知見が得られ,効果的に行うためにはこのような条件をとらないよう留意すべきことが 示唆されたことは意義深い.
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