解説シート #14 非文字史料としての文化的景観(PDF/445KB) - 平取町

びらとり
平取町文化的景観解説シート
非文字史料としての文化的景観
14
関連シート:15
非文字史料の重要性
非文字による情報の蓄積は、ア
イヌ文化の景観を読み解く重要な
キーワードといえます。ウパシク
マ(言い伝え)として語り継がれて
きた様々な情報は、アイヌの民具
やアイヌ伝承地を解釈する上で有
たなごころ
益な内容を数多く含んでおり、地
域の近代史を構築していく上で
度々用いられます。
さ
る
沙流川流域では、今日において
もアイヌ文化の聴き取り調査と地
域史への反影が行われています。
様々な内容を糸口に、実際に人々
が暮らしを営んできた歴史情報を
引き出すことが比較的容易な地域
写真1 ワカルパの肖像写真(金田一
1943より)。大正2(1917)年7月に上京
し、金田一のユカ ラ 採録に協力した。同
図1 ワカルパの家系図(金田一 2004)。家系
年12月、51歳の若さで病没
をたどる際、初代は神だから本名をはばかっ
て伝えないのだといわれている。
といえます。
ワカルパの逸話
協力者で、金田一から「アイヌの
らんじている」(金田一 前掲)ほど
ワカルパ(1863-1913)はかつて
ホメロス」とも評されました。ワ
の才覚をもっていました。何世代
「平取から下、沙流川の川筋に、
カルパは突出した弁才・記憶力の
も前もの祖先の記憶は、古老のウ
この人の右に出るものがない」(金
持ち主で、「詞曲や神曲のことの
パシクマが歴史的史料の役割を果
田一 2004)と言われた紫雲古津の
みではなく、たとえば近郷在住の
たすことを示すものであり、アイ
ユカラ伝承者です。
ものはいうにおよばす、東方の奥
ヌ語・アイヌ口承文芸の大きな特
金田一京助によるアイヌ口承文
地の果までも、名だたる名門数十
質といえます。
芸の筆録(大正2:1913年7月)の
家の家系おば、掌をさすようにそ
し う ん こ つ
名工 エモンパウク
ワカルパが口述した家系図(図1)
に「エモンパウク(近世の彫刻の名
人)」の名があります。ワカルパの
祖父であるオシリカラツプの従兄
弟にあたります。
氏が制作したとみられるイタ(盆)
が北海道開拓記念館に収蔵されて
います(写真3)。
「裏面のラベルおよび旧蔵先で
ある北海道拓殖館の作品解説に
は、日高のえもんぱが制作したも
のであると記されている。このえ
もんぱは日高の平賀に暮らした
写真2 ユックチカウシからみた紫雲古津市街(西側から撮影)。ワカルパのほか、幾人も
のユカラ伝承者を輩出した由緒ある土地柄として紹介されている(金田一 2004)
ママ
イモンパウクという男性と推定さ
道の財産として保管されてもいる
歩きやすいが、両側は崖で、その先
のです。ワカルパによる口述は、
が切れてクッになっている。今はだ
死後100年を超えた今日において
いぶ崩れたが、昔はもっとけわしい
沙流川流域のアイヌ工芸にも一層
崖であった。」(山田 1969)とされて
の重みを与えているといえます。
います。
急峻な崖からの追い落としは、
写真3 エモンパウク制作のイタ。直径
97cmで、現存するアイヌの木製円形盆
としては最大級の大きさをほこる。北海
道開拓記念館蔵
エゾシカの狩猟を物語る景観
かつてエゾシカ捕獲の有効な方法
平取町の南端から日高町平賀に
であったと言われています(アイヌ
かけた沙流川右岸側に、サントゥ
文化保存対策協議会 1969)。そう
(san tu)とよばれる細長く伸びる丘
した場所を古老の記憶とともに、
陵があります。その根もとあたり
かつての狩猟場としてみることが
にユックチカウシ(yuk kut ika us i)
できます。
とよばれるシカ落としの伝承地が
ユックチカウシは明治前半代の
あります(写真4)。
エゾシカ激減により、その役割を
平賀さだも媼いわく「山がちね(尾
果たせなくなりそのまま使われな
根)なりに来たのが、どっと切れて
くなりました。現地の様子や狩猟
いる。クッはけわしい山。イカウ
道具の分析だけでは解明しえない
れている。イモンパウクは明治9
シはユク(鹿)の落ちる処の意味だ。
シカ猟の姿を教えてくれる一事例
(1876)年に開拓史に雇われ、これ以
あすこの突き出したちねは、上は
といえます。
降、主に博覧会出品のために各種の
木工芸品の制作を行った人物」(北
海道立近代美術館、アイヌ文化振
興・研究推進機構編 2006)とされる
作品です。
いたどりまる
ワカルパが謡った「虎杖丸の曲」
あしまる
「蘆丸の曲」など14編2万行に及
ぶユカラは、金田一による『アイヌ
叙事詩ユーカラの研究』(1931)に収
録され、広く世に知れ渡ることにな
りました。
一方であまり知られていません
が、芸術家肌を幾人も輩出したと
されるワカルパの家系出身の名工
エモンパウクによるイタが、北海
写真4 特徴的な岩塊ではあるが元々は繋がっており、昭和20年代の崩落で現在の形にな
った。写真の中央、丘陵の奥側から崖の頂に向かってシカを追い込み、落ちたところを捕
獲したと伝えられる(南側から撮影)
幌毛志 振内町
沙
荷負
流
むかわ町
日高町
日高地区
237
岩知志
長知内
B: 二風谷区域
F: 沙流川区域
仁世宇川
仁世宇
重要文化的景観選定区域
川
豊糠
C: 芽生区域
額平川 E: 額平川区域
「アイヌの伝統と近代開拓による沙流川流域の文化的景観」
2007(平成19)年7月26日、重要文化的景観(国文化財)に選定
D: 宿主別区域
看看川
貫気別
二風谷
本町
←苫小牧方面
日高自動車道
日高富川IC
紫雲古津
荷菜
去場
川向
235
日高町
富川地区
シラウ川
↓浦河方面
旭 貫気別川
芽生
宿主別川
新冠町
■文化的景観についてのお問い合わせ
アベツ川
平取町立二風谷アイヌ文化博物館
小平
Nibutani Ainu Culture Museum
日高町
門別地区
ユックチカウシ視点場
442 457 442
N
A : ピラウトゥルナイ区域
ユツクチカウシ
日高町
0m
5km
10km
平取町
〒055-0101
北海道沙流郡平取町字二風谷55番地
電話:01457-2-2892
FAX:01457-2-2828
発行:2014年6月