発電所の耐震補強壁における 乾燥収縮ひび割れ対策の試み

発電所の耐震補強壁における
乾燥収縮ひび割れ対策の試み
平成22年6月
長岡高専 岩波 基
報告内容
・舞鶴発電所の工事概要
①事前予測解析
②試験計画
③要素試験(室内試験)
④モデル試験(現場試験)
⑤実施工予測解析
⑥対策工の選定
⑦実施工開始
位置図
工事費(契約)の特徴
z 極めて厳しい予算
z 数量精算なし
→要求品質を満足すれば数量減でも
減額されることはない。
→要求品質を満足するために数量が
増えても増額されることがない。
・構造やコンクリート配合を変更ができない
対策をすべきかの選択
対策工(検討)を実施しても増額はない。
→頑張っても予算を悪化させるだけの可能性がある。
→コンクリートがひび割れるのは当たり前、余計な検討で
お金を使わなくてよい(施主の意見)。
[施工者の意見]
・予算悪化は認めない(補修費>検討費+対策費)。
・いいものを造るために、出来る限りのことをしたい。
検討開始の決定
対象工事の概要
z サイロ増設に伴う既設サイロ架台の耐震対策
(増し壁)←改正建築基準法への適合
z 増し壁厚・・・200~500mm(増設壁含む)
z 外壁は大規模・・・H9.3m×L37m×t250mm
工事概要
4,000
16,000
300
250
500
37,000
Type1:既設壁に拘束される箇所(h=9.3m)
Type2:既設壁+柱に拘束される箇所(h=7.2m)
Type3:既設柱に拘束される箇所(h=7.2m)
500
増し壁の構造例(外壁)
増設壁 既設壁
250
300
鉄筋
D16@250
スタッドジベル
D13xL200@1000
増し壁のコンクリート配合
コンクリート
の種類
呼び
強度
普通
24
粗骨材の
スランプ
最大寸法
(mm)
20
種
(cm)
15
3
単位量(kg/m )
水
W
180
剤
セメント
C
267
混和材※1
F
67
細骨材
S
758
剤
W/
C+F
(%)
54
減水剤
粗骨材
G
混和剤※2
A
977
3.34
1.67
検討フロー
①事前予測解析
②試験計画
③要素試験(室内試験)
④モデル試験(現場試験)
⑤実施工予測解析
⑥対策工の選定
⑦実施工開始
①事前予測解析
z 温度応力解析・・・ASTEA-MACS
z 乾燥収縮の考慮
①事前予測解析モデル1
z 外壁(増し打ち)・・・300+250(増し厚)
平 面 図
1
2
3
2
4
5
6
4000
4000
500
500
11200
500
D
4200
C
1
4000
4800
5200
14800
6800
4200
500
TYPE1
B
4800
A
250
500
600
1
200
500
600
500
500
37000
5400
500
600
8000
9000
35800
2
8000
5400
600
500
①事前予測解析モデル2
・・・300+500(増し厚)
平 面 図
1
2
3
2
4
5
6
500
500
11200
500
4000
4000
TYPE2
500
D
4200
C
1
4000
4800
5200
14800
6800
4200
B
4800
A
250
1
200
500
500
600
500
500
600
z 内壁(増し打ち)
37000
5400
500
600
8000
9000
35800
2
8000
5400
500
600
①事前予測解析モデル3
z 内壁(増設)・・・500
平 面 図
1
2
3
2
4
5
6
TYPE3
500
500
11200
500
4000
4000
D
4200
C
1
4000
4800
5200
14800
6800
4200
500
4800
B
A
250
500
600
1
200
500
500
600
500
37000
5400
500
600
8000
9000
35800
2
8000
5400
500
600
①事前予測解析結果
z
モデル
最高温度
(℃)
最小指数
乾燥無視
乾燥考慮
1
32.0~35.8
2.36
0.61
2
40.1~43.4
0.67
0.29
3
41.1~44.8
3.19
0.74
乾燥収縮を考慮するといづれもひび割れ発生の可能
性が高い
①事前予測解析
ひび割れ指数分布(モデル1)
1.09
④リフト
③リフト
1.11
0.83
②リフト
0.61
①リフト
既設
ひび割れ発生確率が高く、貫通ひび割れの可能性もある
施工上の課題
大規模な増設壁
1.既設壁・柱の拘束作用によるひび割れ発生
→機能障害:耐久性・美観
2.フライアッシュ(Ⅱ種)の収縮特性が不明確
→事前に把握する必要あり(文献により見解が
分かれる)
①事前予測解析のまとめと
②試験計画の基本方針
乾燥ひび割れの発生が避けられない
対策案
1.膨張材・混和剤などの添加
2.表面養生剤などの塗布
3.施工方法の工夫(湿潤養生など)
実験的アプローチ
1.実際に使用するコンクリート特性の把握
2.対策案効果の定量化
②試験計画(試験項目)
(室内試験)
z 圧縮強度試験
z 割裂引張強度試験
z 長さ変化試験
~ 基本物性試験
~ 収縮ひずみ測定
z 質量変化測定 ~ 水分減少率測定
(現場試験)
z ひび割れ抑制効果確認試験 ~ モデル試験
(添加剤2種類+塗布材3種類)
②試験計画(室内試験)
圧縮強度・静弾性係数 割裂引張強度試験
コンクリートの種類
試験材齢
長さ変化試験
普通,膨張剤添加,混和剤添加
3日,7日,28日
28日まで毎日測定
②試験計画
z ひび割れ対策リスト(効果確認)
添加材料系
材料種別
材料名称
説明
混和材
デンカ パワーCSAタイプS
収縮量補填の膨張材
混和剤
ポゾリスNo.100R
遅延効果によるひび割れ抑制効果
養生剤(被覆系)
バーティキュア
(パラフィン系)被覆保護膜による乾
燥防止
養生剤(含浸系)
クラックセイバー
保水効果の高い含浸系保護剤
補修・保護材
アドバンテージ工法
クラックの補修を兼ねた保護材
塗布系
②試験計画 概略試験工程
z モデル試験第1リフト
2月1日打設
z 基本物性試験用供試体作成
z モデル試験第2リフト
3月5日打設
z 追加基本物性試験用供試体作成
z 計測・管理
: 3月5日~5月7日
③要素試験 室内試験状況
④モデル試験 現場試験 モデル1
z 添加剤系(無対策・膨張剤・混和剤)
→ ひずみ発生状況観察
④モデル試験 状況
④モデル試験 現場試験 モデル2
z 塗布剤系(無対策・塗布3種)
→経過観察
③要素試験 結果
③要素試験 圧縮強度試験結果
平均圧縮強度(N/mm2)
3日
7日
28日
標準
標準養生
10.2
21.4
31.6
膨張剤
標準養生
17.8
24.8
35.4
混和剤
標準養生
15.2
23.4
33.9
③要素試験 圧縮強度試験結果
40
35
NH
25
2
圧縮強度(N/mm )
30
BH
20
■ : 膨張材
PH
● : 遅延剤
BH
NH
15
PH
10
◆ : 無対策
5
0
0
5
10
15
材齢(日)
20
25
30
③要素試験 引張強度試験結果
2
平均割裂引張強度(N/mm )
標準
標準養生
膨張剤
標準養生
混和剤
標準養生
3日
7日
28日
1.52
1.49
2.08
1.81
1.89
1.94
1.85
2.01
1.83
③要素試験 引張強度試験結果
2.50
2
引張強度(N/mm )
2.00
1.50
NH
■ : 膨張材
1.00
BH
PH
NH
● : 遅延剤
0.50
BH
PH
◆ : 無対策
0.00
0
5
10
15
材齢(日)
20
25
30
③要素試験 弾性係数
2
弾性係数(N/mm )
3日
7日
28日
標準
標準養生
17648
21728
29475
膨張剤
標準養生
22643
-
31798
混和剤
標準養生
19440
26113
34181
③要素試験 弾性係数変化
40000
35000
25000
2
弾性係数(N/mm )
30000
N
20000
■ : 膨張材
B
P
15000
N
● : 遅延剤
B
10000
P
◆ : 無対策
5000
0
0
5
10
15
材齢(日)
20
25
30
③要素試験 乾燥収縮ひずみ
700
▲ : 無対策
B
B推定値
N
N推定値
P
P推定値
600
● : 遅延剤
500
◆ : 膨張材
ひずみ
400
300
200
100
0
0
2
4
6
8
材齢(日)
10
12
14
③要素試験 乾燥収縮ひずみ
z 乾燥収縮ひずみの最終値は、要素試験に
よって同定された値を使用
種別
ε’sh
標準
1,790
膨張材
765
混和剤
1,000
乾燥収縮予測式
z 下記の乾燥収縮予測式を適用
εcb(t、t0)=[1-exp{-0.108(t-to)0.56}]・ε’sh
ε’sh=-50+78[1-exp(RH/100)]+38logeW– loge(V/S/10)]2
ここに、
ε’sh:収縮ひずみの最終値(×10-5)
RH :相対湿度(45%≦RH≦80%)
W :単位水量(kg/m3)(130≦W≦230)
V/S :体積表面積比(mm) (25≦V/S≦300)
z 相対湿度は屋外65%を仮定
④モデル試験
④モデル試験1 ひび割れ発生状況
z 添加なしと混和剤添加:ヘアークラック、50mm間隔
z 膨張剤添加:規則的なひび割れなし
無対策
型枠との隙
間0.6mm
膨張材
型枠との隙
間0.2mm
混和剤
型枠との隙
間0.6mm
④モデル試験2 結果
無対策
バーティキュアー
クラックセ
イバー
④モデル試験2 結果
アドバンテ
ージ工法
④モデル試験2
ひび割れ発生状況(塗布系:無対策)
端部にごくわずかなひ
び割れ(本数は多い)
④モデル試験2 質量減少率
0.00%
×:クラックセイバー
最初の質量に対する減少率
N平均
A平均
V平均
C平均
▲:バーティキュアー
-0.50%
◆:無対策
-1.00%
■:アドバンテージ工法
-1.50%
-2.00%
-2.50%
0.0
2.0
4.0
6.0
8.0
10.0
時間(day)
12.0
14.0
16.0
18.0
⑤実施工予測解析
⑤実施工予測解析施工条件
z 1週間の型枠養生
z 脱型後、1週間の散水養生
z 膨張材の添加
⑤実施工予測解析 同定に使用した式
z
弾性係数・圧縮・引張強度特性等は試験によっ
て同定された値を使用
a)圧縮強度の算定式
fc(t)={t/(a+bt)}×d(28) fck
b)引張強度の算定式
ft(t)=afcb (N/mm2)
c) 弾性係数算定式
Ec(t)=ψ×4700×√fc(t) (N/mm2)
⑤実施工予測解析
同定された定数一覧表
項 目
a
b
d(i)
標準
5.40
0.960
1.15
膨張剤添加 3.84
0.973
減水剤添加 5.00
0.970
f’c(91)
c
γ
g
α
31.800
0.37
0.50
3400
0.62
1.05
37.000
0.40
0.47
4900
0.53
1.15
34.000
0.53
0.40
3300
0.66
2
(N/mm )
⑤実施工予測解析
打設方法(リフト分割)
外壁部リフト割
内壁部リフト割
(B=500)
内壁部リフト割
(B=200)
200
2200
2400
3600
2400
①
③
②
①
7200
②
④
2400
200
3400
②
グラウトモルタル
③
7200
2100
2400
③
9300
④
2400
グラウトモルタル
①
⑤実施工予測解析
乾燥収縮ひずみの評価
700
B
B推定値
N
N推定値
P
P推定値
600
500
養生期間後の収縮
ひずみを評価
ひずみ
400
300
200
100
0
0
2
4
湿潤養生期間
6
8
材齢(日)
10
12
14
⑤実施工予測解析結果(無対策)
1リフト
2リフト
3リフト
4リフト
⑤実施工予測解析結果(膨張材)
1リフト
2リフト
3リフト
4リフト
⑤実施工予測解析結果(混和剤)
1リフト
2リフト
3リフト
4リフト
ひび割れ指数算定結果
無対策
膨張剤
混和剤
1リフト
0.24
0.44
0.26
2リフト
0.39
0.67
0.41
3リフト
0.57
0.95
0.6
4リフト
0.58
0.91
0.61
考察
z 膨張材の効果が最も高い。
z それでも、第1リフトのひび割れ指数は、
0.44と非常に小さく、ひび割れの発生は避
けがたい。
z 最大ひび割れ幅予測
→ 0.3~0.4mm
(鉄筋比0.4%)
⑥対策工の選定
⑥対策工の選定
ここで考えていた対策工
z 膨張材添加→プラントで人力投入
z 1週間の型枠養生+天端湛水養生
z 脱型後、1週間の散水養生
z 直射日光を避けるためのシート養生
対策工の見直し
③’ 再要素試験
追加対策
z 初期養生が重要なため、型枠養生期間を
最低2週間確保し、効果を実験で確認
z 脱枠後も高湿度確保
z 施工目地の工夫によるひび割れの低減
z 膨張材添加量を20kg/m3から25kg/m3
③’ 再要素試験(養生期間延長)
長さ変化試験
コンクリートの種類
膨張剤添加
乾燥開始材齢
2日,4日,7日,14日,28日
③’ 再要素試験(養生期間延長)
600
2日養生
4日養生
7日養生
14日養生
28日養生
500
乾燥ひずみ
400
300
200
100
0
0
20
40
60
材齢(日)
80
100
120
③’ 再要素試験(養生期間延長)
乾燥開始材齢
2
4
7
14
28
最終ひずみ量
700
630
605
580
500
最終ひずみ量
800
最終乾燥ひずみ
700
600
500
400
300
200
最終ひずみ量
100
0
0
5
10
15
養生日数
20
25
30
③’ 再要素試験(周辺高湿度確保)
自動散水設備
外気温・湿度の計測
③’ 再要素試験(周辺高湿度確保)
z 自動散水システムを脱枠後も稼働し、
工事シートで周辺を仕切ることで湿度
77%を確保
施工目地概要(目地の工夫、打設幅の低減)
z 外壁面に誘発目地設置
既設柱部
• 鉄筋は連続
• 10mm壁を増厚
• エキスパンドメタル+
既設壁
化粧目地による誘発目地
エキスパンドメタル
鉄筋
(先行ブロック)
(後行) (先行ブロック)
10×10mm(化粧目地)
設計厚
(200mm)
増し厚
(10mm)
⑤’ 再実施工予測解析
⑤’ 再実施工予測解析(外壁)
z 予測解析時と再予測解析時の違い
予測解析時
再予測解析時
相対湿度
65%
77%
養生期間
打設後1週間
打設後2週間
最終ひずみ
310μ
47~72μ
9.0m(柱中心間 7.8m(施工目地間
モデルサイズ
)
)
膨張材配合
20kg/m3
25kg/m3
⑤’ 再実施工予測解析(外壁モデル1)
最小ひび割れ指数分布
実施工予測解析
再実施工予測解析
⑤’ 再実施工予測解析(外壁モデル1)
ひび割れ指数算定結果
リフト番号
予測解析
再解析
1リフト
0.4
6.0
2リフト
0.7
5.8
3リフト
1.0
5.4
4リフト
0.9
1.5
⑤’ 再実施工予測解析(内壁)
乾燥収縮ひずみの補正
z 予測解析時と再予測解析時の違い
相対湿度
予測解析
50%
養生期間
打設後4日
最終ひずみ
310μ
膨張材配合
20kg/m3
再予測解析
70%
1リフト4日
その他1週間
モデル2 69~94μ
モデル3 138~163μ
25kg/m3
1.2m
0.2m
3.6m
1.2m
3.2m
1リフト
既設
2リフト
3リフト 既設
最小ひび割れ指数分布モデル2
既設
増 壁
既
1 2m
4.0m
1.2m
予測解析
再予測解析
1.2m
0.2m
3.6m
1.2m
3.2m
1リフト
既設
2リフト
3リフト 既設
最小ひび割れ指数分布モデル3
既設
増 壁
既
1 2m
4.0m
1.2m
予測解析
再予測解析
ひび割れ指数算定結果
内壁(モデル2)
内壁(モデル3)
予測解析
再予測解析
予測解析
再予測解析
1リフト
0.7
0.9
0.7
1.3
2リフト
1.9
1.2
0.8
1.5
3リフト
0.5
1.4
0.4
1.5
⑥’対策工の再選定
⑥’対策工の再選定
z 膨張剤添加→プラントで人力投入
z 直射日光を避けるためのシート養生
z 初期養生が重要なため、型枠養生期間を
最低2週間確保(自動散水システム)し、効
果を実験で確認
z 脱枠後も高湿度確保
z 施工目地の工夫によるひび割れの低減
z 膨張材添加量を20kg/m3から25kg/m3
その他の工夫
①開口部ひび割れ防止
→ビッグレンを設置
⑦実施工開始
外壁施工完了 ひび割れ無し
ひび割れ発生状況モデル2
4200
0.2
ひび割れ発生状況モデル3
裏面
4000
0.15
まとめと今後の課題
z 再予測の解析結果は,ある程度現実のひび
われ状況と一致
z 養生期間を長くすることは有効
z 平均相対湿度約70%以上を確保することに
よる影響が大
z 水分移動を考慮した解析でのフィッティング
を実施中
ありがとうございました