添付資料1 [2.41MB PDF] - 八戸市

八戸市一般廃棄物最終処分場屋根崩壊状況調査報告書
平成26年2月28日
株式会社エスイイシイ
目
・・・・・・・・・・・・・・・・
1
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
1.調査の目的と内容
2.調査概要
次
・・・・・・・・・・・・・・・・
3
4.積雪等の気象状況調査
・・・・・・・・・・・・・・
11
5.監視カメラ記録の調査
・・・・・・・・・・・・・・
18
・・・・・・・・・・・・・・・・・
20
3.屋根崩壊状況調査
6.崩壊原因と考察
1.調査の目的と内容
本市の一般廃棄物最終処分場は、ごみの飛散防止等のための屋根付き(被覆型)処分場と
して平成 25 年 6 月に完成し 7 月から供用開始して半年を過ぎている。
平成 26 年 2 月 15 日から 16 日にかけて、関東地方から東北地方において例年にない大雪
となったことで、16 日未明に現在埋立てを行っている第 1 区画の屋根が崩壊したため、その
原因を探るため、現地において屋根の崩壊状況と周辺の積雪状況を目視および計測等により
調査を行ったものである。
2.調査概要
1) 調査日時
平成 26 年 2 月 18 日(火) 午前 9 時 00 分
午前 11 時 45 分
2) 調査立会者
環境部
妻神部長、岩澤次長
清掃事務所
久保田所長、大里副参事、高橋主査、釜石技師
環境政策課
寺下課長
環境保全課
澤山課長
建設部
石橋部長、吹越次長兼建築住宅課長
建築住宅課
上野参事、吉田副参事
港湾河川課
尾田川主幹
設計者
株式会社エスイイシイ
施工者
安藤ハザマ・石上・小幡特定建設工事共同企業体
株式会社安藤・間
協力会社
早川
三浦、水谷、柴田、藤沢
元旦ビューティ工業株式会社
武末、浅沼、山内、中瀬
3) 調査項目
(1)屋根崩壊状況調査
(2)積雪等の気象状況調査
(3)監視カメラ記録の調査
4)埋立施設概要
所在地 :八戸市大字櫛引字湯ノ沢 2-6
規模
:建築面積・延べ床面積 4270.64 ㎡
地下1階平屋建て
貯留構造体間口 34m×奥行 120m×4区画、深さ 16m、北側一部 4.2m
下部構造:鉄筋コンクリート造
上屋構造:鉄骨造膜屋根
骨組/鋼管製高力ボルト締め立体トラス(元旦テクノトラス)、妻面鉄骨造
膜材/フッ素樹脂・酸化チタン混合光触媒コート不燃膜(帝人 FG-8F+)
1
写 2-1 完成時の北側面
5)施設位置と地理的条件
約 12 ㎞
・海岸線からの距離
・標高
96m(南側搬入車路)
、83m(北側搬入車路)
・八戸ニュータウン南端から南西側に位置し山の北向き斜面頂部
N
八戸市
最終処分場
対象事業実施区域
南部町
階上町
10k
0
図 2-1 最終処分場の位置
2
縮尺 1:30 万
3.屋根崩壊状況調査
1) 屋根全体の崩壊状況
本建物は切妻屋根形状で、妻面は H 型鋼による鉄骨構造の壁面が幅約 35mあり、桁行
方向は鋼管材による立体トラス構造で南側約 100m の長さの棟と、約 7m下がって北側約
20mの棟がつながっている形状の建物である。
崩壊状況は、南側長さ約 100mの棟が全体的に崩壊し、内部埋立地内に V 字状に垂れ下
っている。北側約 20m の棟は、棟段差部の妻面が南側屋根の崩壊で下方向に押されること
で崩壊しているが、北側妻面は若干の曲りはあるものの形状は保持されている。南側棟、
北側棟とも立体トラス構造は崩落せずに、破断、座屈変形しているものの柱脚は基礎のコ
ンクリート構造体に固定されている。
〔 崩壊するものの崩落しなかった 〕
図 3-1 南北方向断面図(上)、東西方向断面図(下)
写 3-1 北東側から全景を見る
写 3-2 南側面より北を見る
3
2) 構造体各部の損傷状況
(1)南側約 100mの棟の立体トラス
トラス構造の崩壊は、次にあげる特徴がみられた。
①約 100mの棟が共通して直下に崩壊し垂れ下がり、図 3-1(下)に示すように切妻屋根
の片側に偏った変形はみられない。
②崩壊垂れ下りの度合いは、図 3-1 に示すように棟長さ約 100m をおおよそ3つに分
かれて段々に下がっている。南側の棟長さ1/3ほどは、埋立地床面に着くほど下が
っており、北側の棟段差のある妻面までは、徐々に垂れ下がりが少なくなっている。
写 3-3 北搬入口から南を見る
写 3-4 北西から南を見る
③V 字型に崩壊して垂れ下っている中央部の棟部分のトラス(写 3-5、6)は、ほとんど
パイプ中央が座屈して曲がり、トラス下弦材破断は一部であった。
写 3-5 棟中央の座屈
写 3-6 棟中央の座屈接写
④屋根傾斜部を補強している方杖は、各所共通してボルト穴位置で破断欠損し、方杖
を接合している屋根面トラス2節目の支点(写 3-7,8)で屋根が谷折れしている。
写 3-7 東側トラスの谷折れ
写 3-8 西側トラスの谷折れ
4
⑤壁面の立体トラス(写 3-9)は、換気ガラリ上位置の方杖の接合部で若干の曲りがみら
れる。また、トラス柱脚のボルトとベース鋼材の損傷は見られなかった
写 3-9 壁面倒れ
写 3-10 柱脚パイプ 90 度曲り
⑥柱脚からの壁の倒れ角度が、南側端部はほぼ水平であるが北側の棟段差部付近は、
倒れ角度が 60 度程で保持している。
写 3-11 南側ほど壁倒れ 90 度
写 3-12 南側の棟北端の壁倒れ 60 度
(2)北側約 20mの棟の立体トラス
棟の段差部側の中央の棟の崩壊が大きいが、両側の壁と北側妻面が変形にとどまり
自立して残っていた。
写 3-13 北側の棟段差部側の崩壊
写 3-14 北側の棟の壁面
(3)南側妻面鉄骨
南側妻面は、H 型鋼の柱で約 3mピッチに建てているが、棟の崩壊荷重に引っ張ら
れたことにより柱脚アンカーボルトが破断し崩落していた。
5
写 3-15 南妻面柱崩落
写 3-16 破断アンカーボルト
(4)北側妻面
北側妻面は、H 型鋼ラチス組柱を約 1.5mピッチに建てているが、棟段差部の崩変
形に引っ張られて壁面頂部が内側に若干湾曲している。
写 3-15 柱のそり
写 3-16 北側壁面
(5)棟の段差部の壁面
棟の段差部の壁面は、H 型鋼の柱を約 1.5mピッチで建てているが、中央より外側
の H 型鋼ほど、くの字に曲がっている。南側の棟の段差部が崩壊で下へ押し下げる
力働き、北側の棟の妻側が崩壊せずに形状保持しているために、大きな圧縮力で曲
がっている。
写 3-17 端部ほど H 型鋼の曲りが多い 写 3-18 中央の H 型鋼は曲がっていない
6
3) 屋根崩壊状況の考察
(1)崩壊の過程
立体トラスについて 2)
(1)で記述した損傷状況から、次に示す順で山形形状の立
体トラス屋根形状が崩壊に至る順が推測される。
↓①屋根が積雪荷重でたわみはじめ、両側の壁トラスの軒位置は外に曲り、壁と屋根
の変形を補強する方杖に圧縮力が掛っている状態で、中央の棟が下がり始める。
↓②積雪荷重が立体トラス構造耐力の限界を超え、中央の棟部分のトラス材パイプが
座屈する。
↓③棟位置の座屈により、中央棟位置で鉛直方向に約 20m屋根面が落ちていき、両側
壁のトラス柱脚が室内側に曲がった。
↓④屋根中央が陥没するように落ちていくが、トラス材パイプが破断しなかったため
宙吊りになり、屋根トラスの端部から 2 節目の方杖接合部で谷折れを生じ、雪と
鉄骨の荷重に落下時の加速度が加わり大きな引張り力がトラスの下弦材に働き、
下弦材と方杖がボルト穴位置で破断した。
↓⑤南側端部の妻面の鉄骨は、南側の約 100mの棟中央が崩壊した後、屋根崩壊に伴
い内側に引っ張られて屋根崩壊の約 10 数秒後に妻壁が崩落した。これは、後に記
載する映像記録で判明した。
図 3-2 屋根崩壊過程推測図
この推測した崩壊の過程は、パイプ材の座屈が始まりとなり崩壊している。構造物
を設計する際に接合部は母材強度以上に強度を持たせていることから、設計方法に適
合して崩壊していると考えられる。
(2)構造体の損傷から推測する積雪について
立体トラスと妻面の骨組について 2)で記述した損傷状況から、原因思われる積雪
荷重に関して次の点が推測される。
①切妻屋根の両側の傾斜屋根面に均等に降雪し、東西方向(短辺方向)は偏荷重がな
かったものと推測される。
②南北方向(長辺方向)が南側の第 3 ブロックから第 7 ブロックが V 字に崩壊して床
7
に着くほどに下がり下弦材の破断もある状況から、南側の棟約 100mの屋根の中央
あるいは南側寄りに積雪量が偏って多かったのではないかと推測される。
写 3-19 南側端部
写 3-20 南側の棟の中央部
③風向や降雪の状況は、計測値と気象データ等で検証するが、鉄骨の崩壊状況を見る
限り①と②の推測から風向が北方向からであり、山斜面に吹きつけて長い建物の尻
側(南側)屋根に吹きだまったのではないかと推測される。
④南側の第 3 ブロックから第 7 ブロック崩壊が大きかったことは、南側端部の妻面の
鉄骨が崩落して、妻面の中央から内部に出っ張っている控え壁のコンクリートにあ
たって止まっていることや、妻面高さ約 10mが倒れても南側の棟の 1/3 の 30mを超
える範囲まで影響は考えにくいので、主に積雪荷重が原因で崩壊が大きかったので
はないかと思われる。
(3)構造体の損傷から推測する風の影響について
風の影響を受けやすい棟段差部の妻面や北側妻面に、トラス屋根面の変形状況から
水平方向に台風クラスの強風の影響を受けた形跡は見られなかった。南側の棟の端部
は段差部妻面の鉄骨柱との接合が破断している立体トラスは、水平方向の変形がみら
れないことやトラス全体が風下側に倒れていないためである。ただし、瞬間的な強風
に伴い崩壊の限界強度に近い状態あった構造体に風圧が加わり、崩壊を誘引した可能
性も考えられる。
写 3-21 棟段差部
写 3-22 棟段差部
8
4) その他の損傷
(1)膜材
酸化チタン加工不燃膜は、屋根と壁に使用し、屋根面の立体トラス約 1.5mのグリッ
ドに張り込まれているが、全体面において雪の荷重によって伸びてたるんでいる所や
破断しているところはみられない。トラス崩壊の V 字状の谷に集中してたまっている
部分は膜がはらんでいるものの切れていない。
屋根トラスのV字に崩壊している角度の高い傾斜面の膜に雪が残っていることから、
雪質が湿っていることや膜材が滑りにくいことが考えられる。
(2)基礎躯体
上屋鉄骨を鉄筋コンクリート基礎構造体アンカーボルトで固定している。立体トラ
スの柱脚は固定された状態にあり、目視の限りではコンクリートが損傷して欠損して
いる所は見られない。
南側妻面はアンカーボルトが破断したベースプレート下のモルタルが破損している。
コンクリートのひび割れ等の状況調査は、壁トラスが倒れて基礎にかぶっているため
調査できなかった。東側基礎は外に手すりがないので調査は、トラスを撤去してから
になる。
(3)遮水シート
遮水シートは、床面と壁面に張り込まれているが、崩壊したトラスが床についてい
ないことや、壁に当たっていないので損傷があったとしても少ないと思われる。南側
妻面が崩落して内部に出っ張っている控え壁に損傷を与えていることも考えられるが、
屋根を撤去してから全面を確認することが必要になる。
(4)設備
①監視システム(漏水検知、ガス検知)
屋根崩壊は、監視システムの漏水検知装置の異常信号から受電装置の遮断機が落
ちて知ることになった。
漏水検知システムの配線ターミナルボックスが南側妻面の室内側にあり妻面崩落
で自立盤が転倒損傷している。ガス検知装置も南側妻面にあり転倒損傷している。
ガス検知装置盤内部の損傷や、ケーブルの破断等は今後の調査になる。漏水検知
装置盤、地下水測定盤は、屋外自立のため損傷はない。
写 3-13 南側の機器
写 3-14 分電盤、制御盤
9
②分電盤、制御盤
照明、排水ポンプ、散水システム制御等の自立盤は、北側妻面に設置されている
ため損傷はない。
③散水配管、屋内散水栓(消火栓ホース箱)
建物の桁行方向の基礎上に散水配管があるため、立体トラスの壁部分が倒れて被
さり損傷があると予想されるが、目視確認ができない。本管から分岐してスプリン
クラーヘッドを付けているため、トラス壁の倒れで分岐管の電磁弁のジョイント部
から破断して室内に 4 個落下していた。
⑤ルーフファン、給気ファン
屋根の棟に 9 か所設置しているルーフファンは、トラスの崩壊に伴い損傷してい
ると思われるが雪が被さり状況は見えない。北側の棟の1台は屋根が傾いていると
ころにとどまっている。
給気ファンは、東壁面、西壁面に各2台あるが壁ごと倒れこんでいるため、ファ
ン本体は損傷がないものもあると思われるが、架台は壁とともに損傷している。ま
た、ダクト部やボックス部に変形等があると考えられる。南側妻面壁の給気ファン
は、壁とともに崩壊している。北側妻面は支障がない。
⑥その他
点検通路に取り付けた蛍光灯は埋立地内に落ちていないので、おそらく壁トラス
に着いたままと思われる。監視カメラとスピーカの南側面は崩落で損傷していると
考えられる。
出入口シャッターは、北側が倒壊せずに残っているが南側は倒壊している。
写 3-15 給気ファン
写 3-16 散水スプリンクラー
5) 被害総額
屋根の崩壊に伴う建物の被害は、請負額の内訳より被害部分を合計して概算2億9千万
円と推定される。
内訳
268,000,000 円
屋根
監視システム、カメラ
6,000,000 円
散水、換気、照明、配線設備
9,000,000 円
建具、シャッター、手摺等
7,000,000 円
10
4.積雪等の気象状況調査
1)積雪量
(1)測定結果
建物周辺の積雪量を測定した。調査は屋根崩落の 2 日後であり、16 日の午後から天候が
回復し晴れているため、気象データでは 16 日昼に積雪量がピークとなるが、18 日午前に
は 16 日未明の積雪量より解けて少ない数値であったため、調査当日の積雪測定値は崩壊時
より少ない調査データとなる。 〔16 日崩壊時積雪量 > 18 日調査時積雪量 〕
図 4-1 積雪測定地点図・測定値
11
(2)測定地点状況写真
№1
№4
№7
№2
№3
№5
№6
№8
(3)東側車路に沿った積雪状況
写 4-1
写 4-2
写 4-3
写 4-4
12
管理棟(浸出水処理施設)から埋立施設の東側車路を進み、南側車路に向かう道中の状
況写真を写 4-1 写 4-4 に示した。図 4-1 の測定結果に示すように南側車路の 4 か所平
均は 101 ㎝の積雪量であった。 〔 南側車路積雪量実測平均 101 ㎝ 〕
北側車路は、№7 の地点で積雪量が 80 ㎝であるが、建物の壁面では雪がさらに 30
㎝ほど吹き上がっていたため、風上であり横に吹く風が強かったことがうかがえる。
(4)屋根の積雪量の推定
屋根の積雪量は、地上の周辺の積雪量からの推定のほかに、埋立地内に落下した雪
と屋根面に残った雪から体積を計算して下図に示す計算で推定をした。
〔
屋根の積雪量の推定値
= 101 ㎝以上 〕
ただし、一週間ほど前に降った雪が屋根に残って室内が暗かった状況があるので、
工事中の体験から推察すると、この推定量の中に 5 ㎝以上の残雪が含まれていること
が考えられる。
図 4-2 屋根積雪量の推定計算図
写 4-5 屋根からの落雪の計測、高さ
写 4-6 屋根からの落雪の計測、幅
13
2)積雪重量
気象庁アメダス八戸(湊町字館鼻)の観測記録では、天候がみぞれ、湿度 97%であり、本
施設は標高 96mの内陸になるので雪であった。今回の雪は比較的重いことが考えられたた
め、2 日後ではあるが重量を測定した。
測定結果は図 4-1 の表に示すとおりであり、周辺 3 か所と屋根の落雪の 1 か所で採取方
法はスコップで切り出し立方体を計測した。採取の詳細は次の表とおりである。
表 4-1 積雪重量採取状況
採取場所
採取位置の詳細
1 ㎝あたり 1 ㎡の重量
1
積雪の最上面から厚さ 18.5 ㎝を採取
2.0 ㎏
2
上面から 30 ㎝ほど下の積雪の中間場所
2.2 ㎏
3
上面から 20 ㎝ほど下の積雪の中間場所
1.8 ㎏
4
屋根から埋立地室内に落ちて体積した雪の側面
2.9 ㎏
周辺の 3 か所の平均は、2.0 ㎏である。時間経過で水分が沈降することが考えられるこ
とや、隣接する市町村の多雪区域では建築基準法で 3.0kg(30N)を採用しているので 1m
以上の積雪の平均的な重量は、2.9 ㎏に近似し多値が推測される。少なく見込んで積雪断面
の中央で測定した 2.2 ㎏以上としても妥当と考えられる。
〔 建物周辺の積雪重量の推定値 =2.2 ㎏以上(2.9 ㎏に近似)
№1
№2
№3
№4
14
〕
3)気象データ(積雪量、風向等)
気象データは、気象庁観測と青森県観測の 2 か所のデータがある。気象庁は湾岸にある
ため内陸の青森県観測所と数値が大きく異なっているので積雪量は参考にならない。
表 4-2 観測所の所在地
名称
所在地
地理
標高
気象庁八戸特別気象観測所
八戸市大字湊町字館鼻
湾岸
27m
青森県観測所
八戸市大字尻内町字渡ノ葉
八戸駅西側内陸平地
13m
青森県観測の積雪量は、屋根が崩壊した5時ごろではデータがないが 66 ㎝程度とみなせ
る。風向は気象庁の記録では北東から北にかけて吹き、低気圧の通過に従って風向が回っ
ていることがわかる。積雪のピークは 16 日午前 11 時前後でその後、徐々に積雪量が減っ
ていくことがわかる。本施設は標高が 96mで高いので気温や積雪量も違いがある。
表 4-3 15日午後5時から16日午後4時までの観測データ
青森県観測
気象庁観測
積雪量
気温
風速
積雪量
気温
風向
風速
㎝
℃
m/s
㎝
℃
16 方位
m/s
15 日 17:00
37
0.7
空欄は
26
1.0
北東
16.9
18:00
39
0.4
未調査
26
0.6
北東
17.8
19:00
41
0.3
27
0.6
北東
17.1
20:00
44
0.4
27
0.7
北東
16.0
21:00
45
0.6
28
0.9
北東
16.5
22:00
46
-0.1
28
0
北東
12.4
23:00
49
-0.6
32
-0.4
北北東
11.0
16 日 00:00
55
-0.8
7.4
39
-0.2
北北東
10.5
01:00
60
-0.8
8.4
43
-0.5
北北東
12.6
02:00
62
-0.3
4.1
46
-0.2
北北東
11.2
03:00
64
-0.5
4.9
48
0.0
北北東
8.2
04:00
65
-0.4
5.1
50
0.0
北北東
11.1
05:00
データなし
-0.4
3.4
51
0.1
北
13.2
06:00
68
0.2
51
0.6
北北東
13.3
07:00
69
-0.5
52
0.0
北北西
10.1
08:00
73
-0.5
57
-0.5
北西
10.9
09:00
76
-0.3
60
-0.4
北西
10.0
10:00
76
0.2
61
-0.1
北西
9.5
観測時間
11:00
74
0.6
61
0.1
北西
8.3
12:00
71
1.7
59
0.9
北西
7.5
13:00
69
27
57
2.0
北西
7.4
14:00
67
3.1
56
3.1
北西
6.3
15:00
65
2.9
54
3.3
西北西
9.1
16:00
64
2.1
52
2.6
西北西
10.7
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
18 日 8:00
57
-3.8
4.9
45
-3.6
西南西
9.5
9:00
57
-2.5
5.8
44
-2.8
西
15.1
10:00
57
-2.6
6.6
44
-2.0
西
10.4
15
4)地形による積雪状況の考察
積雪量の調査結果で推測した風向は、気象観測データと一致したので、やや強い風で北
から雪が吹き堆積したものと断定できる。風の影響で実測値のとおり北側の棟と、棟の段
差部の妻面に吹き溜まりはさほどできず、南側の棟約 100mの屋根全体に積もり、南寄り
に多少多く積もったものと考えられる。
図 4-3 屋根積雪推測断面図
図 4-4 敷地南北方向断面図
本施設の立地条件は北側に広がる平野
部が終わり、山の傾斜面になる場所に面し
ている。おおよそ標高 110mの山地の頂上
部に近い斜面の窪地形状(沢の上流の緩い
谷地)を利用して造成している。
標高 96mで工事中から平野部と気候が
若干異なることを感じていた。
地形の影響により平野部から緩い谷の
中央にある建物付近に風の流れが集まる
ように吹き、積雪量が多くなったことが考
えられる。
写 4-7 北方向(沢方向)を見る
16
5)建築基準法の積雪荷重
構造計算に用いる雪の積雪荷重は、建築準法施行令第 86 条、八戸市建築基準法施行細則
で次のように定められている。
〔 旧八戸市区域:垂直積雪量 85 ㎝ 積雪量 1 ㎝ごとに 1 ㎡につき 20N以上とする。
〕
(ただし、標高 10m以下の場合は、70 ㎝または建設省告示により求めた数値とすることができる。)
〔
旧南郷村
:垂直積雪量 110 ㎝ 積雪量 1 ㎝ごとに 1 ㎡につき 30N以上とする。〕
また、近隣市町村の数値は次の図 4-3 のとおり、処分場に近い南部町は 80 ㎝と低く、階
上町、旧五戸においては 90 ㎝であり、いずれも今回の現地調査で測定した結果の 100 ㎝
より低い数値である。しかし、多雪区域であり単位荷重で 30N を採用していことは、今後
参考にして検討する資料になる。
図 4-3 青森県建築基準法細則(抄)の多雪区域の指定等の図
17
5.監視カメラ記録の調査
1)崩壊時間
本施設は、監視カメラが南側妻面と北側妻面の室内上部に設置されている。南側の監視
カメラに、薄明りの早朝の映像に崩壊の様子が記録されていた。
記録映像では、朝の 4 時 40 分を過ぎると南側の約 100m棟の屋根がたわみ始め、41 分
から大きく変形し始め中央の棟が下がりながら 41 分 45 秒で崩壊が終わった。
〔 屋根崩壊日時 : 平成 26 年 2 月 16 日午前 4 時 41 分 45 秒 〕
監視カメラは映像のみで音声入力機能を持たないため、崩壊時の接合部の破断で生じる
特有の音などはわからなかった。
2)崩壊状況
写 5-1 4 時 41 分 00 秒
画像の日時表示の位置に南と北の棟の段
差部で、その下が北側妻面の鉄骨柱が見え
る。段差部妻面の柱ピッチ 1472 ㎜であるの
で北側の棟の屋根は雪で影になっている
が、立体トラスの影は、はっきり見えない。
写 5-2 4 時 41 分 15 秒
南側の棟の屋根がたわんでいる。北側の
屋根形状に変化はない。
写 5-3 4 時 41 分 16 秒
南側の棟中央が下がり水平になりつつあ
る。まだ北側の棟の屋根形状の変化は見られ
ない。北側の屋根形状に変化はない。
18
写 5-4 4 時 41 分 17 秒はじめ
南側の棟の屋根が水平に崩壊しつつあ
る。東側壁面も薄明りがまだ見える。北側
の棟と妻面形状に変化はないので、おそら
く南側の棟の中央部で大きくたわむが、南
と北の棟の段差部の壁形状は保持されてい
ると考えられる。
写 5-5 4 時 41 分 17 秒終わり
南側の棟が崩壊し水平になっている。
■
18 秒から 45 秒までは真っ暗い映像
■
■
写 5-6 4 時 41 分 45 秒
45 秒に南側妻面が最後に転倒して鉄骨が
倒れ落ち膜から薄明りが見えて終了した。
3)映像記録からの考察
現地調査において、立体トラスと鉄骨の変形、座屈、破断をみておおよその崩壊過程を
推測したが、この映像が裏付けとなり崩壊過程をほぼ断定できる。
崩壊の始まりは、写 5-4 に表れている南側の棟のたわみが始まりで、位置は棟の長さ約
100mの中央と思われる。
南側の南端部であれば、映像の視野外なので、いきなり崩壊になる映像であろう。南側
の棟の北側の段差部からであれば、屋根のたわみとともに北側の棟の屋根形状が変形する
映像になるはずである。このことでほぼ断定してよいと思われる。
〔
屋根崩壊の始まりは、南側の棟の屋根中央のやや広い範囲 〕
19
6.崩壊原因と考察
1)屋根積雪量、積雪荷重の推定結果
建物周辺の積雪量は、実測値が標高 83mの北側車路で最少 78 ㎝、標高 96mの南側車路
で平均 101 ㎝、建物東側で最大 115 ㎝であった。建物周辺の積雪荷重は、1 ㎝あたり 2.2
㎏/㎡以上と推定した。
2 日後に測定のため、天候回復に伴い解けて積雪量が減少しているので、屋根崩壊時間
の積雪量は気象データを用いて推定した。
気象庁
16 日 5 時:51 ㎝ → 18 日 10 時:44 ㎝
比率=1.16
青森県
16 日 5 時:66 ㎝ → 18 日 10 時:57 ㎝
比率=1.16(採用)
ここで、比率 1.16 を採用し当日の積雪量を推定すると設計の約 1.4 倍の 117 ㎝になる。
〔
屋根の推定積雪量 : 101×1.16= 117 ㎝
〕
117cm
15 日夕方から 16 日朝までの新雪 60 ㎝程
数日前から 15 日夕方までの締まった雪 35 ㎝程
1 週間前の締まった雪 5 6cm程度
推定積雪断面
屋根に積もった雪は、落ちずに以前から積もっていた雪に 15 日、16 日の大雪が被っ
た。締まった雪を屋根落下雪の実測値 2.9 ㎏、新雪を実測値 2.2 ㎏とすると積雪荷重は 1
㎝あたり 2.5 ㎏/㎡を超えると考えられる。
推定算式:60 ㎝×2.2+(35+6)×2.9)/101=2.48
〔 屋根積雪荷重推定 = 1 ㎝あたり 1 ㎡で 25N以上 〕
建築基準法による 1cmあたり 1 ㎡で 20N(ニュートン)なので、今回の積雪荷重を
20Nでの積雪量に換算すると、25÷20=1.25 になり、117 ㎝の 1.25 倍となり、建築基
準法の 85 ㎝の基準に対して 146 ㎝相当(1.72 倍)の積雪量であったことになる。
2)構造耐力について
建築基準法に従って 85 ㎝、20N/㎡で積雪荷重を構造計算しているが、それを超えた積
雪の場合に、崩壊するまでどの程度余力があるか。地震力であれば 2 倍程度であろうが積
雪荷重や固定荷重は実質を想定しているので余力的な概念はない。本設計計算書の検定値
が 1.0 に最も近い数値の差が数値的な余裕とすれば一般的に 5%から 10%程度であろう。
構造体の一部に予定外の応力が加わると損傷等を引き起こすことになる。さらに崩壊す
るまでは、鉄骨部材であれば鉄が伸びて破断するまでの多少猶予がある。鉄骨部材の終局
耐力は、短期の 1.1 倍で終局耐力に至るまで余裕度が 10%あるともいえる。終局耐力に対
しては 15%から 20%程度の余力度があると考えられる。反対に 15%から 20%の予定外の
応力が加わったら、終局耐力を超える部材の座屈等が始まり、建物の変形が進み形状が保
持できなくなり崩壊する。
20
建築基準法の 85 ㎝の積雪量で設計した構造体では、20%とすると 85×1.20=102 ㎝で
限界になる。調査結果の推測した屋根の積雪量は 117 ㎝であり崩壊する限界値を超えた。
積雪荷重も基準法の基準より少なくとも 1.25 倍多いと推測したため、基準法の 1 ㎝あた
り 20N/㎡に換算した場合は、積雪量が 146 ㎝相当になる。これは、基準より 1.7 倍の積
雪であったことになる。
1 ㎡あたりの荷重で表すと、建築基準法では 170 ㎏/㎡であるが、293 ㎏/㎡以上、つまり
1.7 倍の屋根荷重になったことになる。これらのことより本施設の屋根の崩壊は、地理的条
件や気候の条件が重なり積雪荷重オーバーになったことが主たる原因と考えられる。
〔 屋根崩壊の原因 = 設計積雪荷重の 1.7 倍以上の超過 〕
3)崩壊の状況と構造設計について
構造体の損傷状況を調査し、監視カメラの記録映像で南側の棟の屋根が中央の棟が座屈
して崩壊したことが分かった。中央の棟付近で部材が破断したのであれば、崩壊後の状況
がV字の宙吊り状態にならないからである。
構造設計において、ボルト接合部、溶接部などが必要な強度以上に設計され、それ以外
の部分の母材が変形や座屈するようにしている。この屋根の崩壊の状況は、それに合致し
て座屈が先行しているので、適切な設計であったと言える。
屋根中央部の立体トラスは、パイプがくの字に座屈し、接合部も曲げ変形して屋根全体
が崩壊したことを写 6-1 が物語っている。
写 6-1 屋根中央部立体トラスのパイプの座屈
21
4)今後の設計見直しの提案
本施設においては、現行法規準の〔垂直積雪量 85 ㎝ 積雪量 1 ㎝ごとに 1 ㎡につき 20
N以上とする。〕の「以上とする。」とありますので、本敷地特有の条件として任意に安全
を図り構造計算において多雪地域同じ 30Nとし積雪量 100 ㎝を採用することが望ましいと
思われます。
〔
積雪量 100 ㎝、1 ㎝あたり 1 ㎡で 30N 〕
調査結果から基準法の積雪量 85 ㎝、30Nで計算すると次のとおりの数値です。
85 ㎝×20N=1700N/㎡ ⇒ 85 ㎝×30N=2550N/㎡
これは今回の積雪で 117 ㎝、積雪荷重推定 25Nですと足りません。
117 ㎝×25N=2925N/㎡ > 85 ㎝×30N=2550N/㎡
また、さらに安全を見て積雪量を 100 ㎝にして(100 ㎝×30N)数値的には満足します。
117 ㎝×25N=2925N/㎡ < 100 ㎝×30N=3000N/㎡
22