木材の化学的識別 に 関する研究 (E) - 鳥取大学研究成果リポジトリ

鳥大農研報 (Bull.Fac.Agric.,TOttOri Univ.)33 65∼ 69(1981)
木材 の化学的識別 に関す る研究
潤
*・
福 田高 史
)
IR吸収 につ い て
タ ンニ ン類 の
岸本
(Ⅱ
*・
作 野 友康
半.古
│1郁 夫
ナ
*
昭和 55年 7月 31日 受付
Studies On the Chemical ldentificatiOn of W00d(Ⅱ
)
On the IR AbsorptiOn Spectra of Tannins
」un
KIsHIMOTO , Takashi FuKUTA , TOmOyasu SAKUNO
and lkuo FuRUKAllrA*
Tannins within wOOd were extracted by ordinary chemical procedures as lvell
as measuring their IR spectra. The IR spectra obtained were classified on a
base Of the presence of characteristic bands and the difference of relative
intensities of bands. COnsequently, 33 sapwood materials
、
vere divided int0 1o
groups, and 22 heartwOOd materials were divided int。 13 grOups.
4 species of gymnosperms did not cOntain hydrolyzable tannins, but some of
the angiosperms cOntained such tannins.
This tendency agreed with the bark
tannins.
In case the chemical identification of trees is investigated by the use Of
tannins, it seems that the presence and quantity of hydrolyzable tannins makes
a tracer of identificatiOn,
緒
言
木材 を化学的 に識別 す る簡便法 と して,前 報 では,材
のヘ ミセルロース と樹皮 タンニ ン類 の赤外線吸収 スペ ク
トル
(以 下
ルロースの
IRと 略す)を 利用 したま)そ の結果 ,ヘ ミセ
皮の場 合 よ りもシャープ な波形 が得 られ,樹 種識別 に利
用 しやすいことがわかった。
本実験 では,辺 材・ 心材 か らるの おの タ ンニ ン類 を抽
IRの 波形 を詳細 に検 討 し,波 形 の特徴 を系
に
し
統的 類別 , これ をもとに検 索表 を作製す ることによ
出 し,そ の
IRは ,針 業樹 と広 築樹 に 2大 別 で きること, って,よ り簡便 な化学的樹種識別 方法 を提案す ることが
また タンニ ン類 の
IRは ,針 薬樹ではイチ ョウ・ チ ャボ
ロ的 である。
ガヤ以外 は,樹 種 に関係 な くほぼ同様 な波形 を呈す るの
に対 して,広 葉樹では,樹 種 毎 に波形 が異 な り樹種識別
材 料 と 方 法
に利用で きる可能性 が うかがわれた。 しか しながら樹皮
タンニ ン類 の場合 は,抽 出物 中 に糖類や タ ンニ ン以外 の
材料 は,広 葉樹 29種 と針 葉樹 4種 の33種 を用 いた。 こ
の うち心材の存在 した樹種 は22種 で あった。これをTaЫ e
抽出成分 が混入す るため,波 形 がブロー ドにな り明確 な
11こ 示す。材 料 の採取場所は,ニ セアカシアは′
島取 砂丘
識別拠点 を得難 い。 そ こで,材 中の抽出成分 , とくにタ
ンニ ン類 について その IRを 予備的 に調 べ た ところ,樹
キ リは′
島取 大学構 内,残 りの樹種 はすべ て鳥取 大学蒜 山
凍 習林内である。
*鳥 取大学農 学部林学科木材工学及林産化 学研究室
,ι
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οTJ」2Jυ 9TsJι υ
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ヶ げ 4=T'c2ザ ι
,
岸木 潤・福田高史・作野友康・古川郁夫
Table l
Tree Species sampled
′
ο力ρ,s Murray (Karamatsu)
ゼ
″′
αSieb et Zucc(Akamatsu)
P,22sど c,dlJlο ″
P,2cc999
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)
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(Yamanarash)
Poplr′ vs S力 bθ ′
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(Noguruni)
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(HannOki )
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S
et Zucc(Kuri
)
S・
H
S・
H
α Thunb
(Konara )
(Mizunara)
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ι
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(Kunugi )
(Kashiva)
MakinO
(Keyaki )
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(Yamaguva)
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(Niseakashia)
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S H
(Akashide)
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(Koshiabura)
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S H
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S,H
S・
H
S・
H
S H
S,H
Yamazakura
S H
S H
S
S H
S H
S H
S・
H
S H
S,H
WAVE NUMBER(CM・
S
S
S
Fig.l IR spectra of sapwood tannins-1
きり識別で きるもので あ る。例 えば,キ リは 1640Cm lに
S H
Sι
Scrο ρ
んv′ αγ,cccα 9
Pα
,
エ ゴノキは1760Cm lに ,ま たヤマザ クラは 1070Cm lに そ
S
れぞれ他 の樹種 で は見 られない特徴的 な吸収帯 が存在す
る。
露ブ
aPο ■
Sieb et Zucc(Egonoki )
υ″
'Cα
tt 2,α ,o292rOda Steudel(Kiri
′
ο
)
“
※ S― sapwood H=heartwood
Sι yTccac?α 9
)
次 にFig。 2に 示 した 5種 の 中で ,ノ グル ミ・ ミズ ナ ラ・
アカシデ・ コブンの
IRで は,上 か ら順 に次のよ うな波
形の変化 が認められた。すなわち,① 2950Cm l,1720Cm i
・1425Cn l・ 1270cm lの 吸収強度が増加 し,② 1330Cm i
タンニン類は,本 粉 60∼ 100gに 対 して蒸留水 900∼
1500 mlを 加 えて,70° C前後で 5時 間抽出 した。抽出後熱
時汗過 した抽出液を,減 圧濃縮 した後 ,酢 酸エチルで抽
出 した。続 いてこの酢酸エチル抽出液 を減圧濃縮 した後
,
過剰 のエーテル中に加 えた。この時生 じた沈殿物 を遠心
分離 し,真 空乾燥 して試料 (粗 タンニン類 )と した。試
料 の IRは ,KBr法 により測定 した。測定 した機器は
,
日立赤外線分光光度計295型 である。
結 果 と考 察
33樹 種の辺材 タンニン類 の IRに ついては,10グ ルー
プに分けることがで きた。その中で,Fig。 1に 示 した 3
種 は,い ずれもその波形 が他 の樹種 と顕著 に異 なりはっ
の吸収波形 がシャープになり,① l120cm iと 1030cm lの
吸収の相対強度が右下がりから右上がりに変化する。1720
Cm lの 吸収帯の強度の変化 から判断 して
グル ミに
つているのに
おいては,加 水分解型 タンニンが主体 とな
''9)ノ
対 して, ミズ ナラ・ アカシデの順 に,加 水分解型 タンニ
ンの占める割合 が少 なくなり,コ ブシでは加水分解型 タ
ンニンが含まれていないものと推定 される。 スギについ
ても1720cm lに 吸収 が存在 しないことから加水分解型 タ
ンニンは含 まれていない と思われる。
これ ら5種 の粗 タンニ ン類 をメタノールに溶解 し,塩
化第二鉄で発色 させたところ,ノ グル ミでは濃青色 に
そして ミズナラ 。アカシデの順 に青色 の呈色 が薄 くなり
,
,
木材 の化学的識別 に関する研究
Table 2
1ndex by IR spectra of sapwood tannins
2
l a 1720cm‐ に吸 収 を持 つ もの
lb 1720Cm lに 吸 収 を持 た な い もの 一 ― ― ― ― ― -7
2a7611em I曲 螂
つ もの
掛
2b760Cal司 に強 い吸 収 を持 た な い もの 一 ― ― ― → 3
NOgurumi 3
3a1640tlm‐ に吸 収 を持 つ もの
3b1640cm‐ に吸収 を持 た な い もの 一 ― ― ― ― 一 → 4
lAohada,Sり
4 a l160Cm‐ に吸収 を持 つ もの
og∃
4 b l160cm‐ に吸収 を持 た な い もの 一 ― ― ― ― 一 → 5
6
5 a lo30Cn‐ に吸 収 を持 つ もの
Mizunara
61
ZOH∽∽H房 ∽Z弱頌卜
71
5b1030Cm lに 吸 収 を持 た な い もの
Ryobu l
6a1720cm Jの 吸 収 が比 較 的 強 い もの
MiZunara,Konara l
6b1720c諄
卿
の
瑯
一
―
7a1760cm‐ に吸収 を持 つ もの
7b1760Cm■ に吸収 を持 た な い もの 一 ― ― ― ― ― -8
8a lo70m‐ に吸収を持つもの
Akashide
9a1330Cnコ に吸 収 を持 つ もの 一
9b1330c耐
KObushi
Table 3
理
性
中
1ndex by IR spectra of heartwood tannins
l a 1720cm‐ に吸収 を持 つ もの
1+lb 1720cm lに
Sugi
││
翌
弊
!ml七
:暫 !写
3b H60Cm[に 吸収 を持 た な い もの
31干
Hlに 験
:描
死
轄 燃H叱 帯
認
績
を
懲
二
51::拝
稼
を
雛難賛
│
│
:│∬ 1身
│
6a1640Cm引 に吸収 を持 つ もの
6(6b1640cm‐
IVAVE NtJMBER(CM‖
2
1R spectra of sapwood tannins― -2
コブン・スギで は青色 を示 さなかった。 これ は, この 5
種 間の波形 の変化 と一致 してお り, とりわけ加水分解型
タンニ ンの量 の変化 と一致 して い るもの と思 われ る。
また,コ ブシとスギの
2
吸収 を持 た な い もの 一 ― ― 一 ― ― → 6
『
猛 瑠H」 仁
縦
え
身 :ニ
検
警
彗
孝を
│
Fig。
Yanazakura l
8b1070cn lに 吸 収 を持 た な い も の 一 ― ― ― ― ― → 9
lRを 比較す ると,両 者 は 1330
劉孔盤Hlに 絵
段
繁筑身
轄 隅 [絵 積
舞駐R
団
『
9{:i;;I罵 」
争
に
を
馬=正三ゴ評亜
雛繁更
m十
il認 潔 ‖
争
死
帯
:IHlに 絲
を
毎
を
Cm lの 吸収 強度 ,お よび■20cm lと 1030Cm lの 吸J又 の相
対強度 において相違 が認め られる。 この両者 の
IRの 全
体的 な波形 は,そ れぞれ広葉樹 と針葉樹 の MWLの IR
'10)こ の傾 向は両者 の
とよ く一致 してお り子
IRの 相違 に
つ いて もあてはまる。 しか しなが ら,こ こで は これ らの
物 質 が,材 中で リグニ ンとどのよ うな関係 にあるのかは
7
に吸収 を持 たないもの一―一―――-8
l帯
1と
津H夏
│
端 洲∬
主設
訴
麓死
維
岸本 潤・福田高史・作野友康・古川郁夫
表では,ヌ ルデ・ハ ンノキ・ ケヤキ・ ヤマザ クラ・ニセ
アカシア・ ヤマグワ・ カラマ ツ・スギ・ ヒノキの 9種 が
,
互 いに他 の樹種 か ら識別す ることがで きた。 これ は,一
般 に抽 出成分 が辺材 よ り心材 に多 く,ま た心材 だ けに合
まれ る心材成分 と呼 ばれ る抽出成分 が存 在す るなど:)
心材部 は量的 にも質的 にも抽 出成分 が増加 し複雑化す る
とい う傾 向 に一致 して い る。
辺材 と心材 タンニン類 の IRを さらに比較 す れば,1720
Cm lの 吸収帯 の有無 につ いては,辺 材 と心材 の
IRに 相
違 はない。す なわち,1720cm lに 吸収 を持 つ樹種 と,持
たない樹種 とい う分 け方 がで きる。 この ことは,樹 木 に
おいて加水分解型 タンニ ンを生成す る樹種 と,生 成 しな
い樹種 とい う分 け方 が可能 な ことを示唆 している。本実
験 に用 いた針 葉樹 4種 には,加 水分解型 タ ンニ ンは含 ま
れていない。 これは岸本 が,針 葉樹 の樹皮 につ いて調 べ
た結果 とも一致 している伊
これに対 して広葉樹 では,加 水分解型 タンニ ンを含む
樹種 と含 まない樹種 がある。 コナ ラ属 の樹種 ,お よび ク
リ・ヌルデが加水分解型 タ ンニ ンを含む ことは,従 来 の
研究 において も指摘 されてい るこ とで ある:'7,8)こ のよ
うに加水分解型 タ ンニ ンは,広 葉樹 ,す なわち被子植物
llrAVE NUMBER(CM・
Fig. 3
の段階では じめて生成 される物質 と推定 され る。 しかも
,
)
広葉樹 間で も これ を含む樹種 と含 まない樹種 があ ること
1R spectra of heartwood tannins
か ら,加 水分解型 タンニ ンの有無 るよびその量 の多少 が
,
識別 における 1つ の指標 になると思 われ る。
不明で ある。
辺材33樹 種 の
IRを ,こ のよ うな特徴的吸収帯 の有無
タ ンニ ン類 の組成 およびその
IRの 波形 を従来 の植物
や吸収強度の相違 に基 づ いて類別 したもの を 1つ の検索
分類 と対応 してみ ると,モ クレン属 の 3種 (〃 α
表 と してまとめ ると,Table 2の よ うになる。
次 に心材 タ ンニ ン類 の IRに つ いては,22樹 種 を13グ
sPク .)は
よく似 た波形 を示 した。また,コ ナラ属 の 4種
ルー プ に分 けることがで きた。辺材 の場合 と同様 に,心
材 タンニ ン類 の
ttα
=,ο
,加 水分解型 タンニンを含 まず ,い ず れもよ く似
た波形 を示 し,モ チ ノキ属 の 2種 (rJ9″ sP勢 )も やは り
IRを 類別 して検索表 にまとめたもの が
,
Table 3で ある。
Fig 3に 示 した ニセ アカシア・ ヤマ グワ・ケヤキの 3
sp?.)は ,そ の
(Qυ ?Tc″ s
IR波 形 に相違 が認 められ,岸 本 らが発表
して い る亜 属間 におけるタンニ ン類組成 にオロ違 が うかが
われたP
しか し,コ ナ ラ属 の 4種 には量 の 多少 はある
種 は,辺 材部では コブシと同様 な波形 を示 したが,心 材
が,い ず れ も加水分解型 タ ンニ ンの存在 が認 め られた。
部で はそれぞれ図 に示 したよ うに,特 徴的 な吸収帯 が存
このよ うに同一属内 の樹種 では,比 較的 よ く似 た タ ンニ
在す ることか ら,互 いに識別す ることが可能で ある。 こ
ン組成 を持 つ ことがわかった。 しか しなが ら,科 の段 階
のよ うに心材 タンニ ン類 の IRが ,辺 材 タ ンニ ン類 の IR
になると,例 えばクル ミ科
と異 なった波形 を示 した樹種 は,ヌ ルデ・ オニ グル ミ・
カシワ・ ハ ンノキ・ ケヤキ・ニセ アカシア・ ャマ グワ 。
うに,加 水分解型 タンニ ンを含み組成 の類似 して い る場
合 もあるが,ブ ナ科
カラマ ツ・ スギの 9種 で あ つた。 このよ うな辺材部 と心
で は加水分解型 タンニ ンを含 まないの に対 して, コナ ラ
材部 の波形 の相違 を利用す ることによって,辺 材 タンニ
属 の樹種や クリで はこれを含 んで い るとい うよ うな場合
(プ vダ
αヵ cc,9)の 2種 のよ
'α
c9α
(Fα
=α
¢)の 樹種 の よ うに,ブ ナ
Tう J,c9α 9)の 2種 で は
(E″ pん ο
IRに 明確 な相違 がみ られた。 この よ うに,同 一
ン類 による検索表では同 じグルー プに合 まれていた樹種
もある。 また,マ メ科
を,心 材 タンニ ン類 の検索表では さらに細 か く類別す る
心材の
ことが可能 となった。 こ うして,心 材 タンニ ン類 の検 索
属 内の樹種 の段 階では,そ の タ ンニ ン組成 に類似性 が認
,
木材 の化学的識別 に関す る研究
め られたが,同 一科 内 の樹種 にまで範 囲 を拡 げると,そ
の タ ンニ ン組成 には相違 がみ られた。
また, タンニ ン類 の組成 につ いてみれば,針 葉樹 は加
水分解型 タ ンニ ンを含 まないの に対 し,広 葉樹 は加水分
樹皮 タンニ ン類 と辺材・ 心材 タ ンニ ン類 とを比較 す る
解型 タンニ ンを合む樹種 と含 まない樹種 の両者 が存在 し
と,針 葉樹 および広 葉樹 のイ タヤ カエ デ ・ニセアカシア
た。 この傾 向は,樹 皮 タ ンニ ンの場 合 とも一致 した。樹
で は,樹 皮で も材で も加水分解型 タ ンニ ンの存在はほと
木 における加水分解型 タ ンニ ンの有無 およびその量 の多
3,4)の
に対 して,ヌ ルデ ・ コナ ラ・ カ
少 は,化 学的植物分類学 の立場 よ り非常 に興味深 い問題
シワで は樹皮 にも材 にも加水分解型 タ ンニ ンの存在 が認
で あ り, タ ンニ ン類 による樹木 の化学的識別 を行 う場合
め られた:'4,9)こ れ らの樹種 では,樹 皮 と材 中 に含 まれ
これが識別 の一つの指標 にな り得 ると思 われた。
ん ど認 め られない
て い るタ ンニ ン類 は,定 す
生的 にイ
以て い るといえよ う。
本実験 では識別 という観点 か ら考察 を進 めたが,ま た
こ うした方法 によ り,実 際 に材 を利用す る上での化学的
以上の よ うに,限 られた樹種 で はある力比 辺材 ・ 心材
タンニ ン類 の
IRに よ り,樹 木 の類別化 がで き,化 学的
な樹種識別 の可能性 が うかがわれた。
性質 を知 るとい うことも可能で あろ う。例 えば,加 水分
文
解型 タ ンニ ンの没食子酸 やエ ラグ酸 を多 く含む クル ミや
ナ ラ類 の材 は,刃 物 の切 削不良 をひ き起 こす
1)こ
とが知
られ,ま たこ うした材 は,実 際 に輸 入 されている南洋材
の中 にも存 在す る:)そ れゆえ,性 質未知 の南洋材 を使
用す るよ うな場合 ,前 述 して きたよ うな方法 によ り,あ
らか じめ材の化 学的性質 を知 ることがで きれば,材 を利
用加工 してい く立場 か らは非常 に有益 なこ とと思 われる。
こ うした面での考察 は,今 後 の課題 で あろ う。
結
論
33樹 種 の辺 材 および心材 か ら各 々粗 タ ンニ ン類 を抽出
IRを 測定 した。 その結果 ,各 々の樹種 におけ
1)今 村博之
献
:木 材工業 ,18(4)11-16(1963)
2)Kawamura,I.,Bland,D.E.:∬ ο′
z力 Tscん ,21(3)
65-74(1967)
3)岸 本
潤 ・福 田高史 ・三原
夫 :鳥 大演報 ,No,11
宏 ・作野友康 ・古川郁
129-139 (1979)
4)岸 本 潤 :京 都大学学位 論文,91-161 (1961)
5)岸 本 潤 ・北村良一 島大演報 ,No.677-83(1973)
6)岸 ホ 潤 ・ 高畠幸 司 :未 発表 (1980)
7)北 尾弘一郎・ 荒木幹夫 :木 材研究 ,No.3457-61
:′
(1965)
る特徴的 な吸収帯 の存在 や吸収帯 の相対強度 の相違 に基
8)岡 村 浩
9)十 河村男
:香 川大学農学部紀要 ,25
づ き,辺 材33樹 種 は10グ ループ に,心 材22樹 種 は,13グ
10)寺 島典二
:リ グエ ンの化学 ,中 野準三編 ,ユ ニ広報
し,そ の
ルー プに分 けることがで きた。
,
:日 林誌 ,43(1)34-39(1961)
7-13(1971)
株 式会社 ,東 京 (1979)ppr 175-181