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朝岡興禎編著『古画備考』各巻の解題
作成
2009年6月
【巻1帝室】
1巻名 古畫備考 帝室 一
2内容 聖徳太子、施基皇子、聖武天皇から後西天皇までの天皇、葛野王から栄子内親王
にいたる親王・法親王・内親王を列伝体で記述。印章、縮図、メモ 類を適宜挿入。
3標題 打付書
4丁数 24 丁
5目録の項目数 61(天皇・親王の末尾に「廿七」「三十三」と書かれているが、実数
は61)
6年記類
庚戌(嘉永3年)8月12日起筆
7特記事項 『山州名跡志』から引用した安楽寿院新塔脇壇の鳥羽天皇、美福門院・八条
女院影の記述について、原本にある朝岡の加えた美福門院伝を図書印本およ
び活字本では割愛する。また良恕法親王の没年月日も、図書印本および活字
本は寛永20年7月16日から15日に訂正する。
【巻2廷臣1】
1巻名 古畫備考 廷臣一 二
2内容 蘇我馬子から従三位有範卿にいたる廷臣、皇后、女御ら 76 人を列伝体で記述。
後半部に『便覧』から引用した藤原隆信らの系図あり。
3標題 打付書
4丁数 29丁
5目録の項目数 76(末尾に「七十一人」とあるが、実数は 76)
6年記類 庚戌(嘉永 3 年)8 月 16 日起筆
7特記事項 原本には貼紙が多く、図書寮印本と活字本ではその貼紙部分は本文に含まれ
るが、新たに付け加えられた頭注が多い。図書寮印本と活字本はほとんど同
じだが、活字本において藤原相信、藤原帥基の項で大きく加筆があり、藤原
隆信朝臣の項には「重盛肖像」の図が加えられる。
【巻3廷臣2】
1巻名 古畫備考 廷臣二 三
2内容 後光厳帝皇后、大納言師賢室から無為閑道人意山にいたる皇后・廷臣 60 人の流
れを列伝体で記述。途中に印章、縮図などを挿入。
3標題 打付書
4丁数 23丁
5目録の項目数 60(末尾に「六十人」とあり実数と一致する)
6年記類 嘉永庚戌(3年)8月24日起筆
7特記事項 原本の後半、とくに「無為閑道人意山」以降は印章類を書写した紙片を未整
理のまま貼っているが、これを図書寮印本と活字本では人物ごとに整理・増
補し、本文に立項する。また、図書寮印本の「近衛信尋公」の条では、明治
30 年に山名義海が「名家真筆帖」第12号から複写した「百幅天神」の大紙
を挿入する。
【巻4武家1】
1巻名 古畫備考 武家一 四
2内容 平安末期から戦国時代にかけて、武家にあって画を善くした人物について取り上
げ、その略歴および作例、落款印章について記述したもの。
3標題 打付書
4丁数 36丁
5目録の項目数 70(末尾に「六十■八」とあるが実数は70、本文は「木下紹栄」を
加えて71)
6年記類
嘉永3年8月晦日起筆
7特記事項 平安時代の武家については、『盛衰記』のような古典的な文献からの引用を
主としている。鎌倉期以降については、『五鳳集』、
『天隠語録』、
『胡蘆集』
、
『京華集』等の文献から、主として画賛の詩文を引用している。全般的には
『本朝画史』
、『画工便覧』
、『拾彙』からの引用が多いように見受けられる。
「正月十六日谷画譚」
、
「大浪蔵古粉本」など、個人的な情報源によると見ら
れるものも散見される。
【巻5武家2】
1巻名 古畫備考 柳營 武家二 五
2内容 家康から家定に至る将軍のうち、七代家継と九代家重を除く11名、およびその
子女、さらに御三家、御三卿、その他の大名を中心とする武家の絵事について、
略歴、逸話、作例、落款、印章などの情報について記す。
3標題 打付書
4丁数 40丁
5目録の項目数 62(末尾に「五十■」とあるが、実数は62)
6年記類 庚戌(嘉永3年)9月8日起筆
7特記事項 将軍の項は『徳川実記』等の引用も見られるが、直接収集された情報が主体
となっている。筆者と同時代の将軍、その子弟達については、絵を指導する
立場にあることから得られる生な情報が豊富に盛り込まれている。一箇所、
『木挽町書留』も引用している。金森宗和、永井尚長、松平定信、細川綱利、
(綱村)
、松平宗政などは、巻末に、多数の落款および印章を記した切り張り
を貼付する。増補版ではこの部分を新たに画家を補って再構成する。
【巻6武家3】
1巻名 古畫備考 武家三 六
2内容 小堀遠州、宮本武蔵を始めとする江戸期の武家の絵事について、人物の略歴、逸
話、作例、落款、印章等の紹介を通じて記述する
3標題 打付書
4丁数 33 丁
5目録の項目数 85(本文では目録にない画家を含め 106 名について記す)
6年記類 嘉永3年9月14日起筆
7特記事項 第五巻同様、文献の引用よりも、直接収集された情報に基づく。「養川院門
人」
「晴川院門人」等、狩野派の門人についての記述が少なくない。文献として
は、
『画工便覧』
、
『拾彙』
『画乗要略』等が比較的目につく。個人の情報源とし
ては、
「立原氏」
、
「志村鉄太郎」等。
【巻7釈門1】
1巻名 古畫備考 釈門一 七
2内容 白鳳・平安・鎌倉初期の絵をよくした僧侶を列記。
3標題 打付書
4丁数 33
5目録の項目数 67(目次後半部に「六十二」の書き込みがあるが、実数は67)
6年記類 嘉永庚戌(3年)9月18日起筆
7特記事項 『本朝高僧伝』や『高野日記』、
『東寺執行日記』、
『天台座主記』あるいは『覚
禅抄』など仏教関係文献からの引用が多い。
【巻8釈門2】
1巻名 古畫備考 釈門二 八
2内容 鎌倉・南北朝時代の画事に関係する僧侶の記事
3標題 打付書
4丁数 26丁
5目録の項目数 55名(本文は58名)
6年記類 嘉永庚戌(3年)9月24日起筆
7特記事項 禅宗の画僧を中心に浄土宗や浄土真宗、法華宗などの高僧も所収するため、
「画史」
(
『本朝画史』
)
、「便覧」
(『画工便覧』)などに加え、僧侶の伝記を記
録する文献からの引用が多い。挿図では、現在は探幽縮図(京博)でのみ知
られる思堪筆一山一寧賛洞庭秋月図を一山一寧筆自賛として載せる。原本(個
人蔵)と模本(東博)が伝わる帰牛図とともに、一山一寧が着賛する初期水
墨画の重要な縮図として注目される。
【巻9釈門3】
1巻名 古畫備考 釈門三 九
2内容 室町時代を中心とする禅余画家および画事に係わる高僧に関する記事
3標題 打付書
4丁数 20丁
5目録の項目数 19名(末尾に「十七」あるが実数は19。
「子建和尚」に傍線を引き、
「釈門四ニ入」と注記する)
6年記類 嘉永庚戌(3年)10月朔日起筆
7特記事項 職業画人ではなく禅余の画家に関する記事が多いため「画史」
(『本朝画史』)
からの引用は署名等を含めても 11 箇所と比較的少ない。僧伝としては「高
僧傳」
(
『本朝高僧伝』
)から4箇所、
「傳灯録」
(『延宝伝灯録』)から3箇所の
引用があり、また禅僧の日記として「臥雲日件録」
(『臥雲日件録』)から4箇
所の引用がある。目録で見消の「子建和尚」の記事も収載するが、本文中に
「釈門四子建西堂アリ同人也」と注記し、図書寮印本、活字本ともに目録お
よび本文からは省かれる。
【巻10上釈門4】
1巻名 古畫備考 釋門四 十上
2内容 室町時代後期から江戸時代初期にかけての画事に係わる高僧に関する記事
3標題 打付書
4丁数 26丁
5目録の項目数 61名(末尾に「七十四」とあるが、中間部の「松花堂」から「岡本仁
意」までの16名を墨線で囲んで省略し、実数は61)
6年記類 嘉永庚戌(3年)10月3日起筆
7特記事項 目録で墨線で囲んだ16名の記事は本文になく見せ消ちであることがわか
る。図書寮印本と活字本では、目録と本文の末尾に「清韓長老」を追加する。
記事は禅僧が半数を占め、中でも大徳寺僧が多いが、ほかにも浄土真宗や浄
土宗、真言宗など、さまざまな宗派の僧侶を収載する。また地域もさまざま
であり、
「尾張名所図絵」や「鎌倉志」など各地の地誌類を多く引用する。な
お、
「拾遺」
(
『続本朝画史』『皇朝名画拾遺』)から 15 箇所、「画史」
(『本朝
画史』
)から 12 箇所、
「便覧」
(『画工便覧』
)から 11 箇所の引用があるが、
前半では「拾遺」からの引用が多く、半ばからは「画史」と「便覧」、末尾近
くに至って再び「拾遺」からの引用が増えるといった傾向がある。
【巻10下松花堂】
1巻名 古畫備考 松花堂流 十下
2内容 松花堂昭乗につらなる画人を扱う。昭乗に関する情報が巻の半分以上を占める。
3標題 打付書
4丁数 26丁
5目録の項目数 19(目録では「南水如件」の次は「松下齋」だが、本文ではこの間に
「季雄」
「修直」が入り、順番に異同がある)
6年記類 なし
7特記事項 松花堂の記事が最も多く、とりわけ『羅山文集』、黙々寺昌俊の『松花堂昭
乗上人行状』から長文を引く。他の者の記事は『拾彙』を主な出典とする。
【巻11釈門5】
1巻名 古畫備考 釈門 十一
2内容 隠元、木庵、逸然、百拙など明人を含む黄檗画僧、および、心越、風外、白隠、
など禅僧、その他、古澗、月僊など、宗派、画の流派、画派、画系を殆ど問わず
に、近世の画僧 86 人をとりあげ、画人ごとの列伝体で記述。途中に系図、印章、
縮図などを挿入。
3標題 打付書
4丁数 36丁
5目録の項目数 86(但し画家数は92)
6年記類 嘉永3年10月13日起筆
7特記事項 『画乗要略』に次いで『名画拾彙』
『書画一覧』が主要な情報元で、各種、
名所図会や評判記も活用される。
『李院扇譜』
(天保 9 年、古藤養山、古筆了
律の序、香雪山晋の識語、仁杉李院の所蔵目録)から相当数の引用がある。
黄檗僧の部分が全体の四分の一を占め、狩野派の絵師との師弟関係が記され、
縮図も比較的多い。図書寮印本において『黄檗宗艦録』により黄檗歴代が増
補される。他に風外、白隠、の情報は多く、縮図はないが、古澗、月僊の既
述が多い。
【巻12上詩人】
1巻名 古畫備考 詩人 十二上
2内容 詩人で絵画に巧みであった人びとを列伝体で記述。途中に縮図、見取り図、印章
などを挿入。
3標題 打付書
4丁数 33丁
5目録の項目数 28
6年記類 嘉永庚戌(3 年)10月21日起筆
7特記事項 諸文献からの引用で列伝を組み立てているが、檜山坦斎の筆記など『古画備
考』ならではの情報を含んでいるところが貴重である。途中に祇園南海の『湘
雲瓚語』
の写本を挟む。この部分のみ半丁あたり十行の罫紙を使用しており、
ほかの部分と料紙が異なる。巻十二上を現状のように作成した際、すでに作
成済みであった写本『湘雲瓚語』を綴じこんだものと考えられる。なお、縮
図のうち新井白石の「皿回し図」は引用文献が描かれていないが、谷文晁の
『本朝画纂』から写したものである。文晁が『本朝画纂』を出した時点です
でに焼失していたものである。直摸ではない縮図が、断りなしに挿入されて
いる事例もあることには注意したい。
【巻12下和歌・連俳・茶香・雑】
1巻名 古畫備考 和歌 連徘 茶香 雜 十二下
2内容 和歌・連歌・俳諧・茶・狂歌・雑・女侠・妓などで絵画に巧みであった人びとを
列伝体で記述。途中に縮図、印章などを挿入。
3標題 打付書
4丁数 29丁
5目録の項目数 51(画家数は55)
6年記類 嘉永庚戌(3 年)12月12日了
7特記事項 諸文献からの引用で列伝を組み立てているが、朝岡が実見した資料のほか、
檜山坦斎の筆記やその著作『學鵜画譚』
(現存不明)など『古画備考』ならで
はの情報を含んでいるところが貴重である。また、破笠に関しては漆工の系
図も参考として掲げている。
【巻13名画1】
1巻名 古畫備考 名画一 上古以来 十三
2内容 飛鳥時代から平安中期(11 世紀)まで、記録に現れる専門絵師(画僧や仏師も含
む)を掲載。
3標題 打付書
4丁数 19丁
5目録の項目数 55(項目の絵師名は55名だが、実際には百済川成の項に3名を貼紙
で付加し、計58名の絵師を記述)。
6年記類 嘉永3年12月14日起筆
7特記事項 表題は「名画一」だが、項目配列は絵師別にする。絵師ではない者として、
書物の編者、また仏師康尚・定朝などの仏師も混在する。年代としては古代
の雄略天皇7年から平安中期の天喜年間(1053~1058)までを掲載。
古代・上代の第一次的史料を広く渉猟し、さらに同時代の説話集、随筆など
の逸話も参照する。逆に江戸期の画譜類はほとんど参照していない。上代作
品は乏しいため、掲出図は聖徳太子像(現御物)のみ。他に現存作に合致す
るものとして天寿国刺繍帳、法隆寺金堂壁画、園城寺黄不動像がある。
【巻14名画2】
1巻名 古畫備考 名画二 自永承至寿永 十四
2内容 前半と末尾に平安中期以降~鎌倉初期の絵仏師、後半部分に大嘗会における宮廷
関係の画事関係者を掲載。
3標題 打付書
4丁数 24丁
5目録の項目数 73(絵師数73名)
6年記類 嘉永4年1月20日起筆
7特記事項 教禅、秦致真、珍海などの平安期の著名な絵仏師、ならびに頼派に触れる。
中には法会の導師なども絵師と混同し掲載されるため注意を要する。大嘗会
に際して、臨時に任命される絵所絵師について掲載するが、これも担当事務
官が絵師とみなされて掲載されており注意を要する。上代の第一次的史料と
して貴紳の日記などは大方渉猟し、さらに法隆寺、東寺関係の寺 誌・縁起、
また覚禅抄などの図像集も参考とする。逆に江戸期の画譜類はまったく参照
していない。図の掲載は唯一、東寺山水屏風(現京都国立博物館)の模本(天
保 7 年7月 21 日玄賞斎こと父の伊川院の下で閲する)が挙げられている。現
存作に該当する記述として、聖徳太子絵伝(旧法隆寺絵殿)、法華堂根本曼
荼羅(ボストン美術館)がある。
【巻15名画3】
1巻名 古画備考 名画三 自寿永文治至承元 十五
2内容 鎌倉期の絵仏師について述べる。
3標題 打付書
4丁数 22丁
5目録の項目数 45(絵師数45名)
6年記類 嘉永4年1月26起筆
7特記事項 定智、尊智などの権門関係の絵仏師から、定禅などの真宗関係、大蔵などの
日蓮関係の絵師まで広く渉猟する。中には湛慶などの仏師まで混在する。配
列は年代順に並べる。参照史料は貴紳の日記類、説話集、寺誌など幅広い。
「本朝画史」は 10 箇所足らずほど、「画工便覧」や「名画拾遺」も数カ所で
引用される。掲載図は「日蓮上人像」(波木井御影)のみ。
【巻16名画4】
1巻名 古畫備考 名畫四 十六
2内容 鎌倉時代から室町時代初期にかけての画人および仏師等に関する記事
3標題の形式 打付書
4丁数 25 丁
5目録の項目数 61 名
6年記類 嘉永4年辛亥2月2日起筆
7特記事項 高階隆兼などの当代を代表する著名な絵所預から、絵仏師、専門画僧、異国
画人、仏像の彩色を担当した仏師や大工に至るまで、きわめてヴァラエティ
に富んだ構成である。逸伝の画人なども多く収載するため、ほとんど伝記を
記さないものも多く、記事の多少の差が大きい。そのためか「画史」
(
『本朝
画史』
)からの引用が 13 箇所あるほかは、その他の引用文献はあまり一定し
ていない。なお、後から印文等を張り込む予定であったものか、記事と記事
との間に4行から5行ほどの空欄がある部分が4箇所ほど見られる。
【巻17名画5】
1巻名 古畫備考 名畫五 自明兆 十七
2内容 明兆から戯墨斎に至る画人を取り上げ、逸話、作例、画賛、落款、印章を中心と
する情報について記す。
3標題 打付書
4丁数 32丁
5目録の項目数 38(末尾に「三十六」とあるが実数は 38)
6年記類 嘉永4年辛亥2月6日起筆
7特記事項 明兆、如拙、周文の項目が特に充実している。明兆の項は、
『本朝画史』を
始めとする絵画史関係の文献以外に『雍州府志』など地誌をも多数引用する。
個人の情報としては「写山楼話」がある。ただ、拙宗等揚の項は他と比較し
て未整理の状態にある。
【巻18名画6】
1巻名 古畫備考 名畫六 曽我派 十八
2内容 初代秀文から曽我蕭白に至る、曽我派の画家に関する記事
3標題の形式 打付書
4丁数 25丁
5目録の項目数 34
6年記類 嘉永4年辛亥2月16日
7特記事項 秀文から二直庵までの画家と最後の蕭白は詳しく記述されるが、それ以外の
記述はおおむね簡略である。そのため他巻に比してボリュームが少ないが、
当巻の主な目的は曽我派を流派として捉え、その系譜を明示することであっ
たと考えられる。
「画史」
「拾彙」
「画乗要略」からの引用が散見されるのみで、
「担斎聞書」
「坂口氏話」等の情報も反映されている。
【巻19名画7】
1巻名 古畫備考 名畫七 自能阿 十九
2内容 阿弥派を中心とする室町時代の画家に関する記事
3標題 打付書
4丁数 24丁
5目録の項目数 32(このほか1名「方所」、目録に見せ消ち)
6年記類 辛亥(嘉永4年)3月4日起筆
7特記事項 丁数は24丁であるが、8丁裏と9丁表の間に一紙を綴じ込み、表面にのみ
周耕の花鳥図(枯木に翡翠図)を写す。目録で見せ消ちの「方所」は本文に
ない。なお活字本では本文巻末に「善阿」の1項目が増補される。内容は、
阿弥派の記事が多いため「蔭凉軒日録」
「季瓊日録」(『蔭凉軒日録』
)からの
引用が合わせて 22 箇所あることが大きな特徴である。このほか「画史」
(『本
朝画史』
)も 17 箇所の引用がある。
【巻20名画8上】
1巻名 古畫備考 二十上
2内容 雪舟に関する記事
3標題 打付書
4丁数 30丁
5目録の項目数 なし(目録に相当する部分はない。本文で取り上げる画家は1名)
6年記類 なし
7特記事項 原本のセットに含まれながら、本巻は写本であり原本ではない(なお当該巻
の原本の存在は確認されていない)
。本巻の最大の特徴は、図書寮印本などに
みられる挿図を全く写さないことである。記述内容については、雪舟関連の
文献を集成する「圖畫考略」(一枝軒梅船翁一道叟『図書考略記』
)を参照す
る項目が 14 箇所あり、翺之慧鳳や横川景三、景徐周麟ら同時代の禅僧の文献
を多く引用することも特徴である。
【巻20名画8下】
1巻名 古畫備考 名畫八下雪舟派 二十下
2内容 雪舟の後継者に関する記事
3標題 打付書
4丁数 39 丁
5目録の項目数 104 名(このほか3名「三谷等宿」
「日野等林」
「雪澗」
、目録に見せ消ち)
6年記類 嘉永辛亥(4年)3月19日起筆
7特記事項 目録で見せ消ちの「雪澗」は本文で画家名のみ見せ消ち、同じく「三谷等宿」
「日野等林」は本文を貼紙で隠し、目録にない「僊可」は本文を見せ消ちに
する。このほか本文の「自家意思」と「登米水月」の間に、
「雪舟帰朝已後杜
詩白砂翠竹江村暮相送柴門月色新句写圖畫」として柴門新月図(藤田美術館)
とほぼ同一の賛文を記す。内容は、各項目の記事が比較的に少なく、掲載し
た画家の人数が多いことが特徴である。そのため「画史」
(『本朝画史』
)から
の引用が合わせて 74 箇所、「便覧」(
『画工便覧』)が 26 箇所みられる。
【巻21上名画9上】
1巻名 古畫備考 名画九上 長享以後 二十一上
2内容 前巻までの主だった水墨画人伝を受け、本巻では室町時代後半の水墨画関係の逸
伝画人を扱う。中には数名の大和絵絵師が混在する。
3標題 打付書
4丁数 27丁
5目録の項目数 98(絵師数98、末尾には「六十七」と墨書)
6年記類 嘉永4年3月21日起筆
7特記事項 逸伝画人群であるため、正史や第一次史料に名がなく、結局は江戸期画譜類
所収の記述がほとんどを占める。中でも「本朝画史」が圧倒的に引用され、
他に「画工便覧」や「名画拾遺」「弁玉集」などが数カ所に引かれるのみで
ある。落款印章なども「本朝画史」からの引用が圧倒的に多く、朝岡が実見
し掲載した作例は数少ない。作品図版も4点が上げられるが、いずれも現在
不明である。
【巻21下名画9下】
1巻名 古畫備考 名画九下 長享天文 二十一下(原表紙の中央部分に「康西堂 啓書
記 雪村」の墨書あり)
2内容 室町後半の水墨画人の中で、仲安真康や祥啓、雪村という関東画人を扱う。
3標題 打付書
4丁数 37丁
5目録の項目数 75(末尾には「七十三」とあるが、最終頁に2名を付し75名と
なる)
6年記類 なし
7特記事項 室町時代の関東水墨画人については、正史に登場する者がほとんどいないた
め、第二次的な画譜類がまず参照されようが、「本朝画史」など京都で編纂
されたものには情報が少なかったのか、引用は少ない。逆に朝岡が実見した
作例の方が多かったらしく、 そのメモや記録による記述が圧倒的に多い。
関東水墨画については土地柄か、江戸地方には情報、作例とも豊富であった
ことを窺わせる。ただし、雪村の弟子たちについては朝岡情報はほとんど無
いいっぽう、「画工便覧」や「本朝画史」の引用がほとんどを占め、双方に
情報量の偏りがあることは興味深い。
【巻22名画10】
1巻名 古畫備考 名画十 自永禄至文禄 二十二
2内容 室町最末期から桃山にかけて、逸伝の水墨画人を扱う。
3標題 打付書
4丁数 23丁
5目録の項目数 68(目録末尾には「六十七」とあるが、李傾を追加し実数は68。本
文には目録にない小嶋應尊があり、記述数は69)
6年記類 嘉永4年3月23日起筆
7特記事項 逸伝の画人ゆえ、逆に「本朝画史」を中心に「画工便覧」や「名画拾遺」所
収の逸伝画人をまず拾い、さらに朝岡が実見した作品に関する画人を付け加
えるという体裁を取る。中には信春、木村長光、松本山雪、遮莫月船など、
近代の美術史研究によって明らかにされた画人たちも含まれていることは、
江戸後期の研究段階を知る上でも興味深い。
【巻23名画11】
1巻名 古畫備考 名画十一 二十三 雲谷 雪舟流 長谷川 海北
2内容 雪舟ならびに雪村を掲げた後に、等顔以下の雲谷派および雪舟末流、等伯以下の
長谷川派、友松以下の海北派を列記。
3標題 打付書
4丁数 38
5目録の項目数 94(目録末尾には「九十一」と記す。目録では「等有」につづく「等
的」が無い。目録にはある「雪僊等英」
「雪洞等禅」は本文中に記述が無
い)
。
6年記類 嘉永4年3月24日起筆
7特記事項 海北派については、海北家末裔の海北友徳からの情報提供が含まれる。
【巻24名画12】
1巻名 古畫備考 名画十二 自慶長至正徳 二十四
2内容 特定の(著名な)画系に属さない画家、あるいは逸伝の画家を列記。
3標題 打付書
4丁数 37
5目録の項目数
167(本文に項目を立てて記述される画家数は169。さらに本文末
尾には「知足」以下 7 名が「時代未考」として、さらに延宝 2 年禁裏新
院造営に関わった絵師が48名列挙される)
6年記類 嘉永4年3月26日起筆
7特記事項 作品に見出される署名・印章のみを掲げる逸伝画家が多い。今日、比較的名
前を知られた山本素軒、素程ら山本姓の画家を含む。
【巻25名画13】
1巻名 古畫備考 名画十三 長崎 二十五
2内容 逸然、費漢源らに始まる長崎画人の画系図、略歴、作品など。
3標題 打付書
4丁数 23
5目録の項目数 36(うち画家数が31、系図が3、作品名2、本文の画家数は31)
6年記類 嘉永4辛亥3月28日起筆
7特記事項 14~17丁目まで白紙。18丁目以降の後半部分はほぼ貼紙。嘉永4年2
月付けで興禎から長崎の荒木千洲に送られた自筆写本が神戸市立博物館・池
長孟コレクションにあり(『崎陽名画録考』)
【巻26名画14】
1巻名 古畫備考 名畫十四 自享保至明和 二十六
2内容 主に狩野派、雪舟派、長崎派、明清画などに学んだ文人画家、広く在野で活躍し
た画家たちを収録。途中に系図、印章、縮図などを挿入。
3標題の形式 打付書
4丁数 32丁
5目録の項目数 70(但し画家数は70)
6年記類 嘉永4年3月28日起筆
7特記事項 『画乗要略』
、
『近世叢語』、
『近世逸人画史』、
『古人物志』
、『坦記』、
『武江年
表』など、様々な文献から引用している。また聞書を起こした箇所もみられ
る。
【巻27名画15】
1巻名 古畫備考 名畫十五 自安永 二十七
2内容 百川以後の唐画の系譜の紹介。宋紫石から宋紫岡や建凌岱にいたる長崎派画人、
宮崎筠圃・御園序尹・浅井図南・山科琮安の平安四竹と称された画人、五十嵐浚
明の越後文人画家の系図、大西酔月から池大雅や与謝蕪村とその弟子にいたる京
都の文人画家、丹羽嘉言や中山高陽など名古屋の文人画家、星嶽山人や栗谷山人
など江戸の文人画家、月岡雪鼎や蔀関月など大阪画壇の重鎮など 44 人を画人ご
との列伝体で記述。狂言図を画いた福王雪岑、春甫など画僧、松林山人など素人
画家など、流派に属さない同時代の画人も登場する。途中に系図、印章、縮図な
どを挿入。
3標題 打付書
4丁数 52丁
5目録の項目数 44(但し画家数は44)
6年記類 嘉永4年4月2日起筆
7特記事項 物故した画人の生没年については系図、墓所一覧、武江年表で調べる。古人
物誌、平安人物誌、書画一覧、逸人画史、近世叢語、画乗要略など多数の伝
記を参照して、住所、出自、逸話を記述する。池大雅に関しては、多数の伝
記から多く逸話を載せ、文政11年に千種房の子息から聞いた話など、浅岡
の関心の高さがうかがわれる。伝記の少ない画家は高陽山人詩稿などの詩集
も加える。暁山など無名画家は柳里恭など同時代画家の随筆を加える。宜陳、
渓鴎子など友人の所持した同時代人の作品の鑑定も行っている
【巻28名画16】
1巻名 古畫備考 名畫十六 自應挙至享和 二十八
2内容 天明・寛政年間を中心とする時代に活躍した画人、円山応挙、三熊思孝、伊藤若
冲など、百名余りを、画人ごとの列伝体で記述。途中に系図、印章、縮図などを
挿入。
3標題 打付書
4丁数 45丁
5目録の項目数 98(但し画家数は97)
6年記類 なし
7特記事項 『近世逸人画史』、
『画乗要略』、『平安人物志』などを主に引用。巻末に寛政
8年秋『東山新書画展目録』の画家名を抜き書きしている。この時代は、い
わゆる長崎派、写生画、文人画などが明瞭に分化していない広義の「唐絵師」
の時代。そのためこの巻の画人の選択・配列は、非常に雑然とした印象を受
ける。そこに現代の流派観が掬い漏らした、絵画史が含まれていると見るこ
ともできよう。円山応挙が、筆頭に置かれて多くの紙数を割り当てられてい
るのに対し、伊藤若冲、浦上玉堂など今日評価の高い画人の記述はごく少な
く、朝岡の関心・情報網に大きな差があったことがわかる。
【巻29名画17】
1巻名 古畫備考 近世一 自文化 二十九
2内容 文化年間を中心とする時代に活躍した画人、呉春、長沢芦雪、野呂介石、鈴木芙
蓉など、160 名余を、画人ごとの列伝体で記述。ただし、人数が膨大なので、名
前だけ記したものも多い。途中に印章、縮図などを挿入。
3標題 打付書
4丁数 55丁
5目録の項目数 170(但し画家数は167)
6年記類 なし
7特記事項 『画乗要略』
、『武江年表』
、『厳島絵馬鑑』、などを主に引用。この時代は京
都で円山派・四条派などが大活躍した時代なので、呉春、景文、豊彦、源琦、
山口素絢、原在中、大阪の森狙仙ら写生画系の画人が多く収録される。その
ため情報源は関西の画人伝である『画乗要略』に著しく偏っている。巻頭に
『浪華画人組合三幅対』、
『平安人物志』
(文化十年版)を書き写す。このうち
『平安画工視相撲』は、文化10年頃の京都の画家の番付で、本文中にも多
く引用される。一枚物の刷り物であったと思われるが、他書には翻刻されて
おらず、この巻の重要な史料となっている。
【巻30上近世2】
1巻名 古畫備考 近世二 文政 三十上
2内容 文政年間を中心とする時代に活躍した画人、岸駒、谷文晁、田能村竹田、渡辺崋
山、山本梅逸など、160 名余を、画人ごとの列伝体で記述。前巻同様、人数が膨
大なので、名前だけ記したものも多い。途中に印章、縮図などを挿入。
3標題 打付書
4丁数 49丁
5目録の項目数 170(但し画家数は 169)
6年記類 嘉永4年辛亥4月9日了
7特記事項 『画乗要略』
、『諸家人名録』
、『厳島絵馬鑑』、
『山陽詩鈔』などを主に引用。
前巻に引き続き、
『画乗要略』を主たる情報源としている。前巻の巻頭にあっ
た『平安画工視相撲』に載る画人をこの巻でも多く載せている。文化年間に
亡くなっている渡辺南岳を本巻に含むなど、前巻と本巻の区分けは必ずしも
明確ではない。巻頭に『古今丹青競』なる番付の写しあり。
【30下近世3】
1巻名 古畫備考 近世 天保 三十下
2内容 『廣益諸家人名録序』
、
『畫乗要畧』、
『山中人饒舌』
『畫意』
『文川畫譜等』の写本。
3標題 打付書
4丁数 44丁
5目録の項目数 5(引用資料の数) 本文の画家数は362名
6年記類 弘化4年7月8日(天保六年版『廣益諸家人名録』
)
嘉永2年1月20日平洲外史書寫畢(
『畫意』
)
7特記事項 目次の引用資料名には『文川畫譜』の記載なし。
『廣益諸家人名録序』は天
保6年版と13年版の二項目に分かれる。
『山中人饒舌』以降の丁は罫線の入
らない紙。
【巻31浮世絵師伝】
1巻名 浮世絵 古畫備考 卅一(図書寮印本からの情報)
2内容 浮世絵。おおよそ時代順の配列、流派ごとのまとまりで、浮世絵師の情報を掲載。
3標題 打付書(図書寮印本からの情報)
4丁数 45丁(図書寮印本からの情報)
5目録の項目数 141(系図等に記載された門人をのぞく)
(図書寮印本からの情報)
6年記類 嘉永辛亥(4年)4月17日起年(図書寮印本からの情報)
7特記事項 朝岡自筆原本は現在確認できない。冒頭部は『骨董集』
『近世奇跡考』など
の随筆等で構成するが、主要部の内容は『浮世絵類考』を主体とし、
『武江年
表』などで補う。嘉永4年という起筆時期にかかわらず、
『浮世絵類考』の内
容を大幅に増補した斎藤月岑の『増補浮世絵類考』は参照されていない。
【巻32巨勢家】
1巻名 古畫備考 巨勢 宅磨 住吉 芝 粟田口 三十二
2内容 伝統的な大和絵の流派である巨勢、宅間、住吉(上代のみ)、芝、粟田口を網羅
する。
3標題 打付書
4丁数 44丁
5目録の項目数 49(絵師名)
6年記類 嘉永4年4月27日起筆
7特記事項
成立の古い流派から年代順に配列しており、朝岡時代においては、上代に遡
ってかなり明確な流派意識が確定していたことがわかる。このうち系図が残
る巨勢派・江戸時代の粟田口派については系図を挙げ、歴代の絵師を列挙す
る。巨勢派、宅磨派については貴紳の日記などの第一次史料をはじめ、説話
や地誌など、現在においても基本資料とされるものを渉猟し、さらに「本朝
画史」「画工便覧」などを援用している。朝岡は絵巻類もよく渉猟し、後三
年合戦絵巻、石山寺縁起絵巻、弘法大師絵伝(東寺)、融通念仏縁起絵巻、
東大寺縁起絵巻、弘法大師絵伝(東寺)など代表作例の多くを把握していた
ことがわかる。
【巻33土佐家】
1巻名 古畫備考 土佐派 三十三
2内容 大和絵師の本流である南北朝期以来の土佐派の系譜を述べるが、基光、隆能、常
盤光長など上代の著名な絵師までも土佐派に組み込み系譜を形作る。
3標題 打付書
4丁数 55丁
5目録の項目数 66
6年記類 嘉永4年5月3日起筆
7特記事項 朝岡においては上代・鎌倉期の史料の博捜度に比べ、室町期については、基
本的文献である「看聞日記」や「実隆公記」などは未見で、「宣胤公記」や
「親元日記」などを引く。ほかは江戸期の画譜類を引用。実作品として清涼
寺融通念仏縁起、清水寺縁起絵巻、当麻寺縁起絵巻、由原八幡宮縁起絵巻、
足利義満像、義尚像などを挙げる。
【巻34住吉家】
1巻名 古畫備考 住吉 板谷 三十四
2内容 住吉如慶から原長順までの住吉家画人と板谷慶舟廣当ら板谷家画人を列伝体で
記述。住吉家系図、板谷家系図を活用。
3標題 打付書
4丁数 21丁
5目録の項目数 住吉家系図として18立項し(画人数17)
、板谷家系図として1項立
てる。
6年記類 嘉永4年辛亥6月8日起筆
7特記事項 原長順の項に配した「中古三十六歌仙」の印章の書き込みに、詞書の巻頭筆
者が鷹司兼熙、巻末筆者が良応親王とあるのを図書寮印本、活字本は誤読し、
別に「良慶親王」の項目を立てる。後半部分に藤原隆能筆「不空・弘法・真
如」三幅対および三者の事歴・裏書を記した紙片を挿入し、原本巻 33 土佐
家の藤原隆能には同作の裏書部分のみを記す。図書寮印本、活字本はこれら
「不空・弘法・真如」三幅対および三者の事歴・裏書すべてを巻 33 土佐家
の藤原隆能の項に移動し、まとめて記載する。
【巻35光悦流】
1巻名 古畫備考 光悦流 三十五
2内容 本阿弥光悦、俵屋宗達、尾形光琳から酒井抱一、酒井鶯蒲にいたる流れを 36 人
の画人ごとの列伝体で記述。系図、印章、縮図などを挿入。
3標題 打付書
4丁数 45丁
5目録の項目数 40(但し画家数は36)
6年記類 嘉永4年6月10日起筆
7特記事項 物故した画人については、酒井抱一編『尾形流略印譜』を『光琳印譜』とし
て集中的に活用し、
併せて現存が確認されない浅井不旧の印譜なども加える。
この『尾形流略印譜』は文化 12 年版ではなく、その後に増補された異本と
看做される。
また抱一や鶯蒲など朝岡と近い時代の画人については、観嵩月、
檜山坦斎などから収集した聞書を起こし、貴重な情報を伝える。流名を「尾
形流」とせず「光悦流」とし、本阿弥光悦の前に松梅院禅昌を置くところに
特徴を有する。
【巻36狩野譜1】
1巻名 古畫備考 狩野譜 中橋一 三十六
2内容 狩野派の始祖正信から元信、松栄、永徳を経て、中橋狩野家の永真安信へ続く絵
師の伝記を記す。永真周辺の時信、親信などは記すが、18 世紀中期の英信の女や
よ、隼人成親で伝記は終わっている。最後に、
「貞享武鑑」
「元禄武鑑」
「宝永武鑑」
「享保十一年御画師」
「狩野格式」などの画人伝以外のものも収録する。途中に系
図、印章、縮図などを挿入。
3標題 打付書
4丁数 47丁
5目録の項目数 26(ただし画家数は20)
6年記類 嘉永4年8月17日起筆
7特記事項 英信以下狩野永徳立信までは、系図には記すが、目次には載せず、伝記本文
もない。貼紙による追記が多い。刊本にはない「摂津住吉郡神宮寺」
(四天王
寺)の狩野山楽筆の絵についての貼紙を目次の前に貼り付ける(刊本では、
「狩野門人譜」の狩野山楽の項目に入れる)。
『本朝画史』などからの引用は
多い。画人伝とは別に、最後に「狩野家当時家式」を記す点が興味深い。
【巻37狩野譜2】
1巻名 古畫備考 狩野譜 鍛冶橋 二 三十七
2内容 はじめに狩野孝信(1571-1618)以下、探原守経(1829-66)までの系図、それに
続けて、列伝。途中に系図、印章、縮図などを挿入。
3標題 打付書
4丁数 26丁
5目録の項目数 5
6年記類 嘉永4年8月19日起筆
7特記事項 系図では探信守政に続けて探船章信、探常守富、探林守美以下探原守常まで
記すが、探船以下項目は立てていない。また、立項されている探信、探雪に
関しても伝記的記述はなく、作品と落款印章についての情報だけを記す。
【巻38狩野譜3】
1巻名 古畫備考 狩野譜 木挽町 三 三十八
2内容 冒頭に狩野尚信(1607-50)から勝川院雅信(1823-90)にいたる木挽町狩野家の
系図を掲げ、その後、列伝体で記述。途中に系図、印章、縮図などを挿入。
3標題 打付書
4丁数 57丁
5目録の項目数 9
6年記類 嘉永4年8月28日起筆
7特記事項 4 代目古信に関しては、雪舟大幅山水図巻の記事を記すのみ。浜町狩野家か
ら養子となった受川玄信が系図には載るが、項目は立てない。17 歳で他界し
たためか。また、冒頭の系図では勝川院まで記すが、伝記部分は晴川院養信
までで終わっている。系図には朝岡家を嗣いだ興禎自身の名も記す。常信の
項で写されている常信宛の書状は、本文の書き出しと終わりの部分が抜き書
きしてあるが、刊本では終わりの部分と署名を誤って掲載する。その他、常
信の項には数カ所の転記漏れがある。末尾に別紙を貼って、晴川院について
の情報を記す。
また、図書尞本では、門人 2 名が追記されている。なお、起筆の日付が図書
尞本では落ちている。
【巻39狩野譜4】
1巻名 古畫備考 狩野譜 諸同家 四 三十九
2内容 「諸同家」という表題のもとに、濱町系図、洞雲系図、秀頼系図、梅栄系図、宗
順系図、春湖元珍、宗巴種信系図、即誉種信系図、休伯系図、休円系図を並べる。
途中に系図、印章、縮図などを挿入。
3標題 打付書
4丁数 44丁
5目録の項目数 立項なし。ただし系図になんらかの情報が記載される人名は 105 名(画
家以外も含む)
6年記類 なし
7特記事項 立項せずに、系図に注釈を加える形式で記述する点で、他と異なる。系図中、
養子などで他家に出た人については、
「在他系図」などと記す。また、おもな
系図とは別に「或本」
「一本云」などとして別系図を添える場合がある。なお、
現在の表紙には「古画備考 狩野譜 濱町家四 三十九」とある。
【巻40狩野門人譜1】
1巻名 古畫備考 狩野門人譜一 四十
2内容 狩野祐清と狩野元信に連なる画人たちを列伝体で記述。途中に系図、印章、縮図
などを挿入。
3標題 打付書
4丁数 51丁
5目録の項目数 画家数は68
6年記類 なし
7特記事項 狩野元信門人の項目に、狩野玉楽、狩野永徳、狩野山楽、狩野松栄に連なる
画人たちがまとめられる。独立した列伝のある画家数は68、但し系図に簡
単な画家伝が記されるもの多数。京狩野家について知るための重要史料で、
その系譜は狩野山楽の父・木村永光から記される。
【巻41狩野門人譜2】
1巻名 狩野門人譜二 四十一
2内容
巻四十に引き続き、宗家・中橋狩野家の松栄、休白(長信)、永徳、光信、貞信、
孝信それぞれの門人および当該門人にはじまる画系を記す。巻四十から続く松栄
門として、表絵師である勝田家を含む。孝信門の興以と興益も門人を記す。
3標題 打付書
4丁数 37丁
5目録の項目数 72(
「○○系」
「○○門人(○○人)」のごとく一括されるもの、署名・
印章が列伝とは別項目となっているもの、
「難弁印○顆」のごとき項目も
ふくめ、それぞれ一律に1項目とする)
。
6年記類 なし
7特記事項 末尾に、元和二年頃の寄合「廿四孝屏風」をはじめ、元信や永徳、光信、孝
信、玉楽、真笑など古い時代の画風を示すとする作品の署名・印章を、多く
貼紙によって列挙、判読できるものは画人名を項目立て、判読が難しいもの
も画風を注記して掲げる。
【巻42狩野門人譜3】
1巻名 狩野門人譜三 四十二
2内容 巻41に引き続き、宗家・中橋狩野家の貞信、永真(安信)
、永叔(主信)、祐清
(英信)
、次いで鍛冶橋狩野家の探幽、探信それぞれの門人および当該門人にはじ
まる画系を記す。貞信門に連なる昌運も門人ならびに門葉を記す。探幽門の小方
(尾形)守房と鶴沢探山、さらに探山門の探鯨、如流斎、牲川充信も門人を記す。
3標題 打付書
4丁数 53
5目録の項目数 18(
「○○系」
「○○門人」のごとく一括されるもの、署名・印章に特
定の文字を含む画人を集めた「○之字」など、それぞれ1項目とする。
図書寮印本は「小柴守典」
「吉田元陳」を加えて 20 とする)
6年記類 なし
7特記事項 貞信門の昌庵吉信の画系なかんずく昌運(とその子・一信)に、一連の門人
譜では異例ともいえる字数をさく。『昌運筆記(昌運秘書)』からの引用もこ
の巻がもっとも多い。昌運および永真は門人(門弟)と区別して門葉を記す
点も特徴である(「常ノ人ニテ慰ニ画ヲ書ハ門葉ト云フ、門弟ニ非ズ」)。門
葉には武家や釈門との重複が多い。永叔門人や探信門人の末尾に、「百燕図
帖」をはじめ、作品中に見出される「安」字、
「探」字、
「守」字を含む署名・
印章を列挙する。
【巻43狩野門人譜4】
1巻名 狩野門人譜四 四十三
2内容 木挽町狩野家の主馬尚信、養朴(常信)、周信、栄川古信、栄川院(典信)、養川
院(惟信)
、伊川院(栄信)
、晴川院(養信)、次いで駿河台狩野家の洞雲、洞春(福
信、美信)
、さらに浜町狩野家の随川甫信、常川幸信、閑川院昆信、融川寛信それ
ぞれの門人および当該門人にはじまる画系を記す。最後に、作品や資料によって
狩野派に連なると考えられる 33 名の画人を掲げる。
3標題 打付書
4丁数 47
5目録の項目数 49(「○○門人」のごとく一括されるもの、署名・印章に「常」字を
含む画人を集めた「常之字」など、それぞれ1項目とする)
6年記類
浜町狩野家の末尾に「已上以狩野幸川之本書写終、天保五年三月廿三日、平洲
外史」とあり
7特記事項 養朴門人の末尾に、「百燕図帖」に見出される「常」字を含む署名・印章を
列挙する。浜町狩野家の末尾に上記の年記がある。
【巻44英流】
1巻名 古畫備考 英流 四十四
2内容 英一蝶から一笑という本家、佐脇嵩之、高嵩谷、観嵩月という門人の流れを記述。
一蝶の文事にも大きく丁を割く。途中に系図、印章などを挿入。
3標題 打付書
4丁数 41丁
5目録の項目数 34(但し画家数は20)
6年記類 嘉永4年辛亥9月15日書写了、嘉永2年己酉9月13日書写★(「己+十」
)
7特記事項 一蝶と門人の列伝、一蝶の挿話、一蝶の文事を中心とした前半(嘉永 4 年書
写終了)と『龍溪小説』巻之五・民蝶半記小伝の写本を収める後半(嘉永 2
年書写終了)によって構成される。
『龍溪小説』は写本で流通したが、現時点
で民蝶半記小伝を収める一本はみいだせていない。山東京山の『一蝶流謫考』
は民蝶半記小伝をダイジェストしているので、原文に最も近いと考えられる
文章で収めているところが貴重である。また、観嵩月・竹本五兵衛などから
収集した一蝶関連の聞書を起こし、同じく嵩月から収集した聞書を収める菅
原洞斎の『画師姓名冠字類鈔』にも記述されていない情報も伝える。なお、
一蝶が江戸狩野派に学んだことからか、
「英流」を「狩野門人譜」の次の巻に
配置しているところに特徴を有する。
【巻45禁裏造営部類】
1巻名 古畫備考 宮殿筆者付 四十五
2内容 御所、大坂城、江戸城、寺院等の障壁画の画題や作者を記した様々な史料を収録。
また、朝鮮に贈った屏風の資料も含む。時代的には、江戸初期の御所や大坂城か
ら、朝岡にとって同時代といえる江戸城の障壁画までと幅広い。
3標題 打付書
4丁数 41丁
5目録の項目数 10
6年記類 弘化2年1月24日以竹本伊豆守本一校了
7特記事項 御所の障壁画の画題・筆者を記した史料は、宮内庁書陵部に集まっているが、
延宝度の分が抜けている。そのため『古画備考』に収録されているものが、
延宝度の画題と筆者を知る第一の史料となっている。
【巻46二十四孝狩野家拾人寄合書】
1巻名 古画備考 合作類 難辨印 四十六
2内容 『二十四孝狩野家拾人寄合書』、印譜、略画譜、朝岡の見聞録など。体系的では
ないが、印譜、略画などは資料的な価値は高い。見聞録は、朝岡の覚え書きであ
り、『古画備考』成立にいたるまでの経緯を彷彿とさせる生々しさがある。
3標題 打付書
4丁数 46丁
5目録の項目数 なし
6年記類 文政戊子11年8月5日(「見聞録」の冒頭に記す)
7特記事項 印譜はイロハ順に記すが、原則として音読みで配列している。したがって、
「正信」が「セ」の項に入っている。10丁目(「難辨印」開始部分)に「古
画備考四七」の題字が記されている。また、37丁目に「見聞録 朝岡」の題
字と年記を記す。ただし、題字、年記ともにうえに貼紙を貼る。
【巻47倭絵名目】
1巻名 古畫備考 倭絵名目 四十七
2内容 古代の『日本書紀』を初め物語・史書・歌集・随筆など文献資料に言及された絵
画制作者、組織、絵・障子・絵壁・屏風の種類や画題・描法などを縮図などを交
えて説明する。
3標題 打付書
4丁数 46丁
5目録の項目数 91
6年記類 なし
7特記事項 文献から絵画に関する語彙を網羅的に収集することによって、現代の美術史
学では絵画に含まれない蒔絵、軽視されるポルノ、また遊びや趣向の絵画ま
で幅広く拾われており、当時の「絵」の概念の幅広さを指し示す貴重な記述
である。本文のみに記述される「さとり繪」
「網代障子」などの項目は、図書
寮印本において改めて目録に立てられる。
【巻 48巻物画像雑類】
1巻名 古畫備考 巻物 画像 雑類 四十八
2内容 作品分野別に障壁画、絵巻物、肖像画部、仏画、神道絵画、さらに雑類として押
し絵や鏝絵など準絵画作品を対象に185項目を記述する。
3標題 打付書
4丁数 40丁
5目録の項目数 27項目(ただし本文中では細目化され、多くの小項目に亘る)。
6年記類 なし
7特記事項 内容の特徴、詳細については以下のようである。①障屏画は四季絵、月次絵
などの上代の障屏画、②絵巻物は鎌倉時代の代表的な作例から室町時代の土
佐派作品、御伽草子絵巻まで広く渉猟する。③肖像画は歌仙絵、歴代天皇像・
貴紳像、天皇影図巻、武将像、僧侶など 他は④仏画、⑤神道絵画、⑥雑類
として鞘絵、押絵、盆絵、とば絵、鏝絵など、技法的なおもしろさをねらっ
た準絵画作品にも目配りを行っている。最後に「東鑑」や「臥雲日件録」な
どの掲載作品で遺漏した絵巻や水墨画を載せる。
【巻 49長崎画人伝】
1巻名 古畫備考 長崎画人伝 四十九(図書寮印本からの情報)
2内容 渡辺秀実(鶴洲)著『長崎画人伝』
、荒木一(千洲)著『続長崎画人伝』
、著者不
明『来舶諸子』の 3 書を収録する。
3標題 打付書(図書寮印本からの情報)
4丁数 21丁(図書寮印本からの情報)
5目録の項目数 なし。本文中で項目を立てる画家数は『長崎画人伝』45、『続長崎画
人伝』46、
『来舶諸子』28(図書寮印本からの情報)
6年記類 書写年代不明。
『続長崎画人伝』原本序(荒瀬勤)に「嘉永辛亥(4 年)九月」
とあり。
7特記事項 朝岡自筆原本は現在確認できず。内容の酷似する伝渡辺秀実自筆『長崎画人
伝』
、伝荒木一自筆『続長崎画人伝』
、著者不明『来舶画家諸子』の写本が神
戸市立博物館・池長孟コレクションにあり。
【巻50高麗朝鮮画人伝】
1巻名 古畫備考 高麗 朝鮮上 五十(図書寮印本からの情報)
2内容 高麗朝鮮書画伝の上。いろは順で名が「い」から「て」で始まる書画家情報を掲
載。
3標題 打付書(図書寮印本からの情報)
4丁数 43丁(図書寮印本からの情報)
5目録の項目数 いろは順で項目が立てられた朝鮮書画家数は112(図書寮印本からの
情報)
6年記類 弘化2年2月27日起筆(図書寮印本からの情報)
7特記事項 朝岡自筆原本は現在確認できない。図書寮印本が確認できるのみ。江白川な
ど中国人画家の情報が混入する。朝鮮通信使として来日した書画家に関する
情報が多い。呉世昌『槿域書画徴』の情報文献の一つ。
【巻51高麗朝鮮画人伝】
1巻名 古畫備考 朝鮮下 五十一止(図書寮印本からの情報)
2内容 高麗朝鮮書画伝の下。いろは順で名が「あ」から「す」で始まる書画家情報を掲
載。琉球、安南の情報も掲載。
3標題 打付書(図書寮印本からの情報)
4丁数 36丁(図書寮印本からの情報)
5目録の項目数 いろは順で項目が立てられた朝鮮書画家数は75。加えて琉球で6、安
南で3つの項目が立てられる(図書寮印本からの情報)
6年記類 弘化2年3月3日起筆(図書寮印本からの情報)
7特記事項 朝岡自筆原本は現在確認できない。図書寮印本が確認できるのみ。朝鮮通信
使として来日した書画家の情報が多い。呉世昌『槿域書画徴』の情報文献の
一つ。