CRP-全血免疫分析装置

II. 簡易型検体検査機器・試薬の活用
A. 一般生化学・免疫検査
7. CRP-全血免疫分析装置
(大戸秀夫,杉山庸子)
はじめに
起こるとされている。これらの炎症刺激を受け
てから 24~48 時間以内に血中 CRP 濃度が上昇
臨床検査技術の発展に伴って,検査にも様々
する。さらに血中半減期が 5~7 時間と短いた
な側面が要求されるようになり,より一層の高
め病態を反映しやすいという特徴を持つ 1) 。基
精度化,高感度化,また簡便でより早く,とい
準範囲は健常人で 0.1 mg /dL 以下(LPIA 法)とさ
うニーズが生まれてきている。CRP 測定は従来
れており 2) ,急性炎症時には正常時の数十~数
より広く行われており,炎症の状態を反映しや
百倍以上になることも多い 3) 。CRP 濃度が 0.1
すいことから結果の迅速性も必要とされている
~1.0 mg /dL 以下の軽度増加は炎症性疾患,ウ
項目のひとつである。この迅速性のため,近年
イルス感染症,自己免疫疾患,潰瘍性大腸炎,
全血での CRP 測定が行われるようになり,同
白血病などでみられる。1~10 mg /dL の中等度
時に微量での測定も求められるようになってき
増加は細菌感染症,関節リウマチ,血管炎,悪
た。また,CRP に限らず初期診断に必要な検査
性腫瘍,心筋梗塞,外傷など,10 mg /dL 以上の
を診察の場で行うことで,検査結果をより有効
高度増加は重症細菌感染症,活動性関節リウマ
に活かすことができる。特に災害の亜急性期
チなどの疾患でみられる 4) 。感染症に限った場
(災害発生後 2~3 週間頃)は一般診療とあまり
合,CRP 濃度で起炎菌の推定がある程度可能な
変わらないニーズが生じ,外傷患者,感染症な
場合もあるという。例えば一般細菌感染症では
どの災害時に特徴的な疾患に対する注意が必要
10 mg /dL 以上になることが多く,深在性真菌症
になる。その中でも白血球数(WBC)と CRP と
でも 10 mg /dL 程度になる可能性がある。マイ
いう 2 種類の炎症,感染症関連のマーカーの測
コプラズマやクラミジア,リケッチア感染症に
定を同時に即時に検査することで感染状態,治
おいて上昇はするものの,細菌感染症に比べて
療効果の推移が迅速,簡便に判断できるように
上昇度は低いとされている5)。
なり,臨床現場で広く利用されるようになって
きている。
I.CRP とその臨床的意義
また近年では高感度 CRP(hsCRP)といわれる
0.01 mg /dL 以下のレベルが検出可能な測定方法
も普及してきている。hsCRP は特に動脈硬化の
リスクファクターとして血圧,BMI,喫煙,血
CRP(C-reactive protein)は,急性相反応物質
清脂質などとの関連が認められており 4) ,従来
として代表的な蛋白質である。この項目は炎症
の CRP とは異なった臨床的意義を持つ。また
性疾患,感染症などの経過および予後のパラメ
動脈硬化だけでなく大腸癌,糖尿病などとの関
ーター,また疾患の鑑別診断として重要である。
連がある,としている報告もある。しかし緊急
CRP 濃度の上昇は,感染,組織障害などの炎症
性は高くなく,POCT(Point of Care Testing,臨
刺激に対する生体防御反応の結果,マクロファ
床現場即時検査)6)的に使われることが少ないこ
ージなどの細胞から産生される様々なサイトカ
とから,本稿においては従来からの炎症マーカ
イン(IL-6,IL-1,TNF-α など)刺激によって
ーとしての CRP 測定について述べる。
-75-
-災害医療と臨床検査-
II.迅速検査としての CRP 測定
III.全血 CRP 測定装置について
高感度化とは別の流れで,近年,POCT とい
このような問題を解決するため,全血微量で
う概念が普及してきている。これは 「患者様の
の CRP 測定が可能な装置が開発されてきてお
側ですぐに行うことのできる検査」 という意味
り,表17)にこのような装置をいくつか紹介する。
で,「Turn Around Time(TAT)の短縮」 という大
これらの装置はいずれも小型,少数検体処理,
きな利点がある。POCT の代表的な検査項目と
少ない測定項目数,微量全血測定が可能,という
して,血液ガス分析,電解質などがあり,また
共通点を持っている。測定に必要な時間も 3~
炎症反応の指標として有用な WBC を含む血球
10 分程度と短時間で結果を出すことができる。
項目(CBC)もよく実施されている。CRP 測定は
A.測定原理
単独でオーダーされることも多く,結果に対す
検査室で実施されてきた CRP 測定法は,以
る迅速性も必要とされており,POCT として運
前では一元放射状免疫拡散法(SRID 法)などに
用される検査項目である。しかし小規模診療所
よる定性法が広く行われていた。現在では定量
などで検査を外注している場合,検体採取から
法が主流で,大型分析器などによるラテックス
結果が出るまでに最低でも数時間かかり,細菌
免疫比濁法が多く行われている。表17)で挙げた
感染などのケースでは初期診断に活かせない場
装置は金コロイド標識サンドイッチ法,ラテッ
合がある。検査システムの向上によって即時に
クス標識免疫比濁法,ラテックス標識免疫凝集
検査結果を得られることにより,診察による所
法などの定量法で測定されている。またこの表
見に CRP などの検査結果をその場で加え,総
に挙げてはいないが,装置を使用しないラテッ
合的に判断することで,診断をこれまで以上に
クス標識免疫凝集法による定性試験の CRP 測
迅速,簡便に行うことができる。
定キットもある。CRP の迅速測定という点では,
このように CRP を POCT として利用するこ
とができれば臨床上大変有用である。しかし検
このタイプが最初のものと言えるであろう。
B.全血のまま測定を実施する際の問題点
体が血清(血漿)の場合,遠心分離などの前処理
これらの装置のように検体に全血を使用する
に時間がかかるため,装置での測定時間短縮だ
場合,既存の血清(血漿)を使う装置と異なるの
けでは迅速対応に限界がある。また小児や新生
は,共存する血球成分が検出系の妨害をするた
児などは CRP 測定の機会も多いが,採血が困
め,何らかの方法で血球のような粒子成分を除
難で一度に得られる検体の量が限られてしまう
去する必要が出てくる,という点である。この
場合も多い。そのため必要な検査をすべて実施
点をクリアするためにドライケミストリーのよ
できない場合もある。
うにフィルターなどで血液を濾過することで血
表1
全血 CRP 測定のできる測定装置(文献7)より引用,一部改訂)
製品名
ニコカード CRP
スポットケム IM
SI-3510
Axis-Shield
Poc AS
アークレイ
LC-178CRP
堀場製作所
FL-278CRP
フクダ電子
セルタックケミ
CRP-3100
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会社名
日本光電
検体量
測定時間
5µ L
約3分
50µ L
約 10 分
18µ L
約 4 分 30 秒
5µ L
約 4 分 45 秒
測定原理
サンドイッチ法
(金コロイド)
ラテックス免疫比濁法
ラテックス免疫比濁
rate 法
ラテックス凝集
免疫比濁法
-災害医療と臨床検査-
球成分そのものを除去する方法や,共存する血
期にサイトカインが骨髄を直接刺激することで
球を溶血させて粒子としての影響を取り除くと
数が増加するのに対し,CRP 濃度は急性炎症時
いう方法などがある。どちらにも一長一短があ
にマクロファージから産生される IL-6,IL-1,
り,特に溶血させる場合は測定系に溶血剤,溶
TNF-α などが肝細胞を刺激することにより肝
血された血球成分,血球からでてきたヘモグロ
臓で産生されて上昇する。この増加機序の違い
ビン,といった血清(血漿)成分には含まれてい
から,WBC と CRP 濃度の推移は必ずしも一致
ない物質が存在する。そのためこれら共存物質
しないと考えられている 11) 。また CRP 濃度は
が測定系に与える影響を考慮する必要がある。
急性炎症初期にはあまり上昇せず,病期の進行
このような方法で血球の影響を除いた検体では
とともに上昇し,そのピークは WBC のピーク
大型分析器と同様の抗原抗体反応が可能になる。
とは一致しない,という報告もある 12)。特に小
IV.初期診断時における CRP と
その他の検査項目
POCT として利用することで初期診断に有用
児 感 染 症 で は 図 113) の よ う に 感 染 初 期 (A) に
WBC の 上 昇 が 起 こ り , そ れ に 追 随 す る 形 で
CRP 濃度が上昇する。両項目のピーク差は約 1
日程度とされている。感染直後は WBC が高く,
な検査項目は他にも考えられる。特に病院など
CRP 濃度がそれほど高くならず,治療開始(B)
の初診時には基本検査セットとして生化学,血
直後に CRP 濃度が極大値になる。治療効果が
球関連項目などが組み合わされて行われている
出始めると WBC が下がり始め,それに少し遅
ことが多い。これらが POCT として利用できれ
れて CRP が鎮静化するが,CRP の軽度異常は
ば,初期診断時により迅速,簡便に結果を活か
しばらく残る13)。
すことができる。初診時の基本検査としてよく
このように 2 項目を同時に反復測定すること
用いられている検査項目の調査によると,初診
は感染時期の特定,治療効果の早期判定,疾患
時検査の結果,異常率の高いものの中には赤血
の重症度の把握などに有効であると考えられる。
球沈降速度(ESR),CRP などが上位に上がって
特に災害後には衛生状態の悪化などを原因とす
8)
いた 。また別の調査では炎症性疾患における
る感染症が発生しやすく,初期スクリーニング
CRP,WBC などが病態の把握に有効であった,
で発熱原因が細菌感染かウイルス感染かの鑑別
9)
としている 。これらをはじめとした初期診断
により,抗生物質の適切な投与にもつながる。
に有用な検査結果を CRP にプラスしてその場
その他にも細菌性腸炎の診断補助,熱性痙攣時
で提供することができれば,患者様の症状に対
する客観的情報がより多く提供できると考えら
れる。しかし医院,診療所をはじめとするプラ
イマリケアを担う医療機関の多くは,検査設備
や体制が整っているとはいえず,数多くの検査
項目を実施することは難しいとされる 10)。そこ
で必要最小限の検査として感染症の診断に必要
な WBC と CRP の 2 項目の同時即時測定の有用
性を以下に述べる。
V.WBC と CRP を迅速に同時測定
することによる有用性
WBC,CRP はともに炎症マーカーとして使
図1
細菌感染の発現と治療による WBC / CRP
の変化(概念図)(文献13)より引用)
われているが,WBC は細菌感染などの炎症初
-77-
-災害医療と臨床検査-
の細菌感染症合併診断,下気道感染症およびイ
このシリーズはバージョンアップを重ねなが
ンフルエンザ様疾患の管理などにも有効であ
ら現在までに数機種発売されており,WBC と
る 13)。日本臨床病理学会(現, 日本臨床検査医学
CRP 濃度をその場で知ることができるため,外
会)でも 1989 年に WBC と CRP について 「日常
来初診時などの感染症への対応に有用である。
初期診療における臨床検査の使い方」 に関する
POCT の 「必要な項目を,必要なときに,必要
委員会で検討している。これに基づいた検討で
な場所で,精度よく,簡単に,短時間で検査を
も 「初診時診断には WBC と CRP が炎症重症度
行う」 という目的に対応した検査システムにな
の評価に有効であり,相関性の解離により病態
っている。さらに装置本体も 30×40×41 cm と
の推測が可能である」 としている 9) 。さらに新
小型で,図2に示すように,診察室の机の上に
生児感染症では CRP 濃度のみが経時的に上昇
載せられる大きさである。CRP 濃度の測定範囲
することが知られており 14),「0.1~1.0 mg /dL の
は全血検体で 0.2~20.0 mg /dL である。全血対
範囲内で CRP 濃度の上昇傾向を捉えることで
応装置でも実際には装置で測定する前に前処理
新生児感染症を早期に診断することができる」
が必要なものもあるが,本装置は全血のまま測
という報告もある
15)16)
定することができる。採血後すぐに検体を測定
。
VI.WBC と CRP の同時測定装置
し,約 4 分 30 秒後には結果を出すことができ
るので,患者様が診察室にいる間に結果を見な
これらの有用性を活かすため,WBC と CRP
がら治療方針を決定することも可能である。こ
濃度の同時測定を可能にしたのが自動血球計数
れらの簡便性,迅速性から医院・診療所,至急
CRP 測定装置 「CBC プラス CRP」 シリーズ(堀
検体を測定する緊急検査室など POCT が特に必
場製作所・フクダ電子)である。このシリーズ
要とされる現場で使われている装置である。
の装置は EDTA 加採血管 1 本から全血のままご
く微量のサンプリングを行い,短時間で白血球
3 分類を含む CBC 関連 18 項目と CRP の定量測
定ができる装置である。
図2
VII.ま
め
全血免疫測定装置,なかでも抗原抗体反応を
用いた全血 CRP 測定は迅速性,簡便性,患者
診察室の机の上に備え付けてある CBC プラス CRP シリーズの
装置の一つ,LC-170CRP (シリーズ全て同一サイズ)
(すずえこどもクリニック,院長:鈴江純史先生,徳島県)
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と
-災害医療と臨床検査-
負担の軽減,という意味で非常に有用である。
特に炎症の有無の判断に必要な CRP 濃度 0.5~
10 mg /dL でのスクリーニングに適しており,加
療を要する急性・亜急性の感染症の診断補助に
なると考えられる
16)
。さらに全血での検査が多
項目で実施できるようになれば,採血管の準備,
遠心分離,といった医療現場の負担を軽減する
ことができる。ここで軽減された手間を直接患
者様のケアに向けることも可能になる。このよ
うな患者ケアの観点に立てば,CRP のように特
に迅速性の求められる検査結果が診察している
2) 亀山正邦, 亀田治男, 高久史麿, 他. 今日の診断
指針. 第 4 版, 1997.
3) 水口正人. CRP の今日的測定意義. 循環器情報処
理研究会雑誌 1994; 14: 85-94.
4) 金井正光. 臨床検査法提要. 改訂第 32 版, 2005.
5) 山口惠三, 編. 感染症・INFECTIOUS DESEASES
専門医を目指すケースメソッドアプローチ 12.
日本醫事新報社, 1996 年
6) POCT ガイドライン Ver.1.0. 日本臨床検査自動化
学会会誌 2004; 29, Suppl. 3
7) 宮崎 誠. POCT としての炎症マーカーの測定. 臨
床病理 2002; 50(11): 1029-34.
その場で提示されるということは,病気という
8) 大 原 智 子 , 伊 藤 喜 久 , 伊 東 紘 一 . 外 来 初 診 時の
不安を抱えて診察室に来ている患者様に具体的
「基本的検査」 に対する医師の専門性の影響. 臨
な数値データ,という根拠を示すことにもなる。
床病理 1998; 46(1): 62-8.
それは医師の説明により一層の説得力を与える
9) 竹村 譲, 林 克次, 久貝信夫, 他. 初診時診断確
ことになり,実際の治療による症状の軽減のみ
立における 「基本的検査」 導入の有用性. 臨床病
ならず,患者様の心の落ち着き,という目に見
理 1992; 40(1): 50-60.
えない治療効果を与え,さらには他施設との客
観的データ・治療方針の共有化にもつながって
くると考えられる。
これまで臨床検査の現場では,「血球系検査
は血液検査室で EDTA 採血管を使う,免疫検査
はプレーン採血管で採血して血清検体を使う」
という系で行われていることが多かった。これ
は項目物質の性質や測定原理によって分けられ
10) 藤田直久. Plus CRP Profiling, 2006.
11) 津田 泉, 片上伴子, 田窪孝行, 他. 外来初診患者
における C 反応性蛋白と白血球数. 医学と生物
学 1998; 136(4): 99-103.
12) Eriksson S, Granström L, Carlstöm A. The
diagnostic value of repetitive preoperative analyses
of C-reactive protein and total leucocyte count in
patients with suspected acute appendicitis. Scand J
Gastroenterol 1994; 29: 1145-9.
ているだけで,臨床現場のニーズ,診断に必要
13) 鈴江純史. 小児実地医療において CRP と WBC
な検査,という観点からのものではない。そう
を診察時に即時測定する効果と意義. Read Out
いったなかで CBC と CRP を 1 台の装置で測定
(株式会社堀場製作所技術情報誌) 1999; 19: 68-
可能な 「CBC プラス CRP」 シリーズのような実
73.
際の診断に必要な検査を従来の区分に関係なく
14) 河合 忠, 河野均也, 菅野剛史, 他. 座談会・免疫
1ヵ所,もしくは 1 台の装置で行い迅速に結果
比濁法による血漿蛋白測定上の問題点. 臨床検査
を出すというコンセプトの装置は,臨床検査に
対するこれからのニーズの一つを示唆するもの
であると考えられる。
文
機器・試薬 1997; 20(4): 503-17.
15) 西田 陽, 大谷秀樹, 斉藤正行, 他. 迅速高感度定
量法 Latex Photometric Immunoassay(LPIA)によ
る新生児感染症の早期診断法に関する研究. 日本
献
小児科学会誌 1986; 90(5): 1116-22.
16) 藤田直久, 湯浅宗一, 吉村 学, 他. 自動血球 CRP
1) 巽 典之, 津田 泉, 福森達郎, 他. C 反応性タンパ
ク(CRP)測定の臨床的意義. Read Out(株式会社
測定装置 LC-270CRP の評価. Read Out(株式会社
堀場製作所技術情報誌) 1999; 19: 62-7.
堀場製作所技術情報誌) 1999: 19: 55-61.
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