Title Author(s) Journal URL Effect of single-dose amoxicillin on rat incisor odontogenesis : a morphological study 熊澤, 海道 歯科学報, 112(2): 198-199 http://hdl.handle.net/10130/2782 Right Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/ 198 歯科学報 氏 名(本 Vol.112,No.2(2012) くま ざわ かい どう 籍) 熊 澤 海 道 学 位 の 種 類 博 士(歯 学 位 記 番 号 第 1903 号(甲第1155号) (長野県) 学) 学 位 授 与 の 日 付 平成23年3月31日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 学 Effect of single-dose amoxicillin on rat incisor odontogenesis : 位 論 文 題 目 a morphological study 掲 載 論 文 雑 審 誌 査 委 名 Clinical Oral Investigations, DOI 10.1007/s00784−011−0581−4 員 (主査) 新谷 誠康教授 (副査) 井上 孝教授 中川 寛一教授 下野 正基教授 栁澤 孝彰教授 論 1.研 究 目 文 内 容 の 要 旨 的 乳幼児期の感染症には種々の抗生物質が使われるが,その中には,テトラサイクリン系薬剤に代表されるよ うに歯の形成に障害を及ぼすものがある。近年,中耳炎の治療にペニシリン系の Amoxicillin を処方された既 往のある小児の永久歯に色調異常や実質欠損を伴う形成異常がしばしば出現し,注目されている。しかし, Amoxicillin がヒトの歯に形成不全を引き起こす機序については未だ明らかにされていない。 本研究は Amoxicillin と歯の形成不全との関係を明らかにすることを目的に,主に形態学的解析を行ったも のである。 2.研 究 方 法 実験動物には,5週齢(体重約100g) Wistar 系の雄ラット60匹(形態学的解析用:30匹,血液生化学的解析 用:30匹) を用いた。動物をそれぞれ,Amoxicillin 投与群(実験群) と未投与群(対照群) の2群に分けた。実験 群には Amoxicillin の投与量を3. 0g/kg となるように0. 5%カルボキシメチルセルロース液に縣濁させたもの を,対照群には Amoxicillin を含まない溶液を腹腔内に1回投与した。 形態学的観察:投与7日後,麻酔下にて灌流固定を行い,下顎切歯を摘出し,EDTA 脱灰後,厚さ4μm の 矢状断連続パラフィン切片を作製した。切片にヘマトキシリンエオジン染色あるいはヘマトキシリン単染色 を施し光学顕微鏡にて観察した。試料の一部は非脱灰のままポリエステル樹脂(Rigolac) に包埋し,厚さ100 μm の研磨標本とした。軟X線発生装置を用い,加速電圧10kV,管電流3mA,露出時間7∼25分の条件下で コンタクトマイクロラジオグラム(CMR) を作製した。また,樹脂包埋試料に鏡面研磨を施し,これに金パラ ジウムを蒸着した後,走査型電子顕微鏡(SEM) による観察を行った。 生化学的解析:薬剤投与後1,3,7日に腹部大動脈より採血し,4℃で遠心分離を行い,各動物あたり70 μl の血清を採取した。血清中のカルシウム(Ca) ,マグネシウム(Mg) ,および無機リン(IP) について,臨床化 学分析装置で計測した。なお,Aspin-Welch t 検定により実験群と対象群間における有意差の検定を行った。 3.研究成績および結論 形態学的観察:実験群の象牙質基質に異常に拡大した球間象牙質が広範囲に連続して認められた。この球間 象牙質は切端側に向かうにつれ,その拡大の程度を減じた。象牙芽細胞の大きさ,配列および極性に,さらに ―122― 歯科学報 Vol.112,No.2(2012) 199 象牙細管の数や太さ,走行に変化は認められなかった。CMR 観察では,光学顕微鏡で観察された異常球間象 牙質に相当する石灰化障害像が認められた。SEM では,拡大した球間象牙質内とその周囲を通過する象牙細 管の数,太さ,あるいは走行に変化は認められなかった。エナメル芽細胞は基質形成期,成熟期ともに対照群 と同様の所見を呈していた。エナメル基質に変化は認められなかった。 対照群の象牙芽細胞は円柱形で,核は歯髄側に偏在し,象牙細管内に細胞質突起を伸していた。CMR で は,基質形成期エナメル質の石灰化度は象牙質に比べて低いが,成熟期に向かって石灰化度が高まっていく像 が観察できた。象牙質は比較的均一に石灰化していた。基質形成期エナメル芽細胞は背の高い円柱形を示し, 核を近心に偏在させ,トームス突起を形成中のエナメル質に侵入させていた。成熟期エナメル芽細胞は背が低 く,遠心端に刷子縁を認めた。 血液生化学的解析:Amoxicillin 投与後1日で血清中の IP と Mg が対象群と比べて有意に高値を示した(p <0. 05) 。投与後3日には IP,Mg ともに減少し,7日には実験群と対照群はほぼ同じ値を示した。Ca は実験 群と対象群間に差異は認められなかった。 今回,Amoxicillin 投与によりラット切歯象牙質に広範囲にわたる異常に拡大した球間象牙質が出現するこ とを明らかにした。この所見は他にまだ報告されておらず,今回の報告が初めてである。一方,エナメル芽細 胞に異常な所見を認めないことから,Amoxicillin がエナメル質形成不全を引き起こす可能性は従来考えられ ているよりも低いことが示唆された。以上,Amoxicillin は血清無機イオンの変動に伴って象牙芽細胞の石灰 化機能を著しく攪乱させる可能性が伺えたので,そのメカニズム解明に向けた更なる研究が必要と思われる。 論 文 審 査 の 要 旨 乳幼児期に罹患した中耳炎の治療などに処方されるペニシリン系抗菌薬 Amoxicillin が,永久歯に色調異常 や実質欠損を伴う形成不全が出現することが報告されている。しかし,本剤が歯の形成不全を引き起こすメカ ニズムについては未だ明らかでない。本研究は,ラットに Amoxicillin を投与した場合に,歯の形成に起こる 変化について形態学的に検討した。その結果,Amoxicillin 投与群において,象牙質基質に拡大した球間象牙 質が広範囲に連続して認められた。また,エナメル質基質には変化は認められなかった。さらに,エナメル芽 細胞,象牙芽細胞にも形態学的変化は認められなかった。血液生化学的分析の結果では,実験群は対照群と比 較して,血清 IP,Mg の値が有意に上昇していた。以上より,Amoxicillin は血清無機イオンに伴う象牙芽細 胞の石灰化機能に影響を及ぼしている可能性が示唆された。 本審査委員会では,1)Amoxicillin の薬効から考察される歯の形成への影響,2)血液生化学的分析の結 果について,3)薬剤の投与量・投与方法について,4)球間象牙質の増大の理由,5)薬剤投与による全身 状態についてなどの討論が行われ,概ね妥当な回答が得られた。また,論文の構成,表記法,図表の改変など に関する指摘があり,修正がなされた。 以上より,本研究で得られた知見は,歯科医学の進歩発展に寄与するところが大であり,学位授与に値する ものと判定された。 ―123―
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