国際的な産学官連携を進める上で問題となるアジア各国 - 経営工学専攻

Tokyo Institute of Technology
平成 18 年度 文部科学省 大学知的財産本部整備事業
21 世紀型産学官連携手法の構築にかかるモデルプログラム事業
国際的な産学官連携を進める上で問題となるアジア各国と日本との特許制度に
おける相違点に関する調査研究
平成 19 年 3 月
東京工業大学
産学連携推進本部
調査研究委員会
委員長:東京工業大学イノベーションマネジメント研究科准教授
1
田中義敏
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目
次
はじめに
第Ⅰ章 調査研究の目的及び方法
Ⅰ-1.実施機関について
1
Ⅰ-2.調査研究の目標について
Ⅰ-3.調査研究の内容について
Ⅰ-4.本調査研究による効果について
2
Ⅰ-5.本学に於けるこれまでの取り組み実績について
―参考文献サイト
第Ⅱ章
各国における産学官連携の現状、組織体制および役割に関する調査
Ⅱ-1.中国おける産学共同研究の状況
5
Ⅱ-2.日本の大学から中国企業へのライセンシングの可能性
6
Ⅱ-3.海外大学のアウトソーシング先としての可能性
7
Ⅱ-4.日本企業と中国の大学との共同研究契約
8
Ⅱ-5.ベトナムとの産学連携の現状
8
Ⅱ-6.日本の大学とアジアの国家機関
8
―参考文献サイト
第Ⅲ章
アジア各国と我が国との間で産学官連携を進める際に障害となる事項の調査
Ⅲ-1.制度上、法律上の問題に関するもの
10
Ⅲ-2.政治上の問題に関するもの
29
Ⅲ-3.先進国と発展途上国との間における技術的もしくは経済的な格差に起因するもの 30
Ⅲ-4.コストが原因となるもの
32
Ⅲ-5.言語の違いによるもの
33
―参考文献サイト
2
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第Ⅳ章
国際的産学官連携に影響を及ぼす各国特許制度上の比較調査
Ⅳ-1.新規性喪失の例外
35
Ⅳ-2.共同出願
36
Ⅳ-3.共有特許
37
Ⅳ-4.職務発明
37
Ⅳ-5.ライセンス
39
Ⅳ-6.権利譲渡
41
Ⅳ-7.強制実施権
42
Ⅳ-8.出願言語
46
―参考文献サイト
第Ⅴ章
国際的産学官連携に関する当該国における現状及び当該国訪問によるニーズ調査
Ⅴ-1.中国
48
Ⅴ-2.韓国
49
Ⅴ-3.タイ
53
Ⅴ-4.フィリピン
55
Ⅴ-5.ベトナム
57
第Ⅵ章
調査研究の総括
VI-1 大学と産業界の競争力バランス
67
VI-2 国際コミュニケーションの充実
67
VI-3 商業化への準備と決断
68
VI-4 秘密漏洩への対策
68
VI-5 アジアにおける知的財産権の取得
68
VI-6 国際的マネジメント力の強化
69
VI-7
70
国際的産学連携への第一歩
3
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はじめに
新産業創出に向けて産学官連携が叫ばれて久しい.文部科学省、経済産業省の支援によ
り、各大学には、大学での研究成果を活用したベンチャー企業の設立、大学から民間企業
へのライセンス等、これまでになく社会および産業へ大学が目を向けるようになってきた.
そして、大学ごとに特色ある産学官連携に取り組み、解決すべき課題は未だ多いものの、
それなりの事例とともに大きな成果を挙げてきている.しかしながら、これらの産学官連
携は、日本国内に限られており、海外の大学あるいは企業との産学官連携となると、未だ
緒に就いたものとは言いがたい.一方で、21 世紀は、まさしくグローバル化の時代を向か
え、我が国産業界も着実に国際化の進展に向けた事業活動に取り組んでいる.大学の研究
活動についても国際化への対応が強く叫ばれている中で、国境を越えた研究活動への発展
を模索しなければならない段階を迎えている.
本調査研究においては、国際的産学官連携のあり方を検討する上での第一歩として、ア
ジア地域に目を向け、現状認識および解決すべき課題を抽出する基礎的な情報収集の成果
を提供できるものと考える.
第Ⅰ章 調査研究の目的及び方法
Ⅰ-1.実施機関について
大学等名:東京工業大学
産学連携推進本部
(実施体制)
委員会委員長:東京工業大学イノベーションマネジメント研究科助教授
委員:(社)発明協会アジア太平洋工業所有権センター長
委員:東京工業大学産学連携推進本部教授
鈴木伸一郎
国吉浩
委員:東京工業大学産学連携推進本部助教授
委員:国際連携コーディネーター
田中義敏
細野光章
紫村次宏
Ⅰ-2.調査研究の目標について
アジア地域を中心とする国際的な産学官連携の強化にあたり、アジア各国における産学
連携の現状調査を行うとともに、今後、産学連携を推進していく上で、重要視されるアジ
ア各国における特許制度上の課題を抽出し、この課題解決のために留意すべき事項に対し
予め検討する.これにより、効率的な産学官連携の場を創出すると共に、アジア各国に対
する我が国のリーダーシップを発揮する.
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Ⅰ-3.調査研究の内容について
Ⅰ-3-1.本調査研究の対象とするアジアの国
中国、韓国、タイ、フィリピン、ベトナムの 5 カ国
Ⅰ-3-2.調査項目
・各国における現状の産学官連携にかかる組織体制および組織の役割に関する調査
・産学官連携に対する当該国のニーズ調査
・我が国との間で産学官連携を進める際に障害となる事項の調査
・前期障害となる事項の除去のための方策に関する調査
・産学官連携に影響を及ぼす各国特許制度の比較調査
Ⅰ-4.本調査研究による効果について
本調査結果により、各国においてこれまでに構築してきた産学官連携体制と我が国にお
ける産学官連携の仕組みのコラボレーションを促進すると共に、各国の実情を踏まえた産
学官連携活動を相互のパートナーシップのもとに効率的に推進することが期待される.ま
た、当該国のニーズと我が国のニーズとをすりあわせることにより、各国において国際的
なマーケットプル型の産学官連携の仕組みを構築することができる.
国際的産学官連携の推進にあたり、障害となる事項を事前に把握し、相互協力の下で障
害除去のための活動に着手することが期待される.国際的な活動を推進していくためには、
お互いがかかえる課題を抽出し、この課題を両国による共同作業で解決する議論の場を設
けることが必要であり、本調査研究は、このような場の構築、更には国際的ネットワーク
の構築を推進していくことに貢献できる.また、これまで推進してきた本学における産学
官連携を、更に、国際的な舞台での活動に一歩進める手がかりとなることも期待される.
更に、各国の特許制度の違いが産学官連携に及ぼす影響を事前に把握し、不要な権利紛
争を未然に防ぐことができると共に、当該調査活動が国際的な産学官連携活動を誘発する
ことを期待できる.
Ⅰ-5.本学に於けるこれまでの取り組み実績について
Ⅰ-5-1.清華大学との合同プログラムにより、中日間での人的ネットワークを構築
清華大と東工大は、1986 年に学術交流協定を結んでから、さまざまな研究室のあいだで交
流や共同研究を深めてきた.どちらも理工系大学で、しかも文系を重視している点も似て
いる.2002 年、東工大が国際室を設けたのを機会に、清華大とのあいだで大学院合同プロ
グラムの計画がもちあがり、2年の準備を経て、2004 年9月からナノテク、バイオの両コ
ースがスタートした.これも、両大学の信頼関係に基づいていると言える.
2005 年9月からは、社会理工学コースが加わり、博士課程にも拡大される.東工大 から
5
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は常時4名の教員が北京に常駐し、合同プログラム北京事務所も開設された〔1〕.
Ⅰ-5-2.韓国 KAIST との研究協力による産学官連携の着手のための基盤作り
拠点大学交流事業(平成17年度)
日本側拠点機関: 東京工業大学
韓国側拠点機関: 韓国科学技術院
(和文):有機・高分子材料工学・高機能・環境順応型ソフトマテリアル創生と応用
(英文):Science for Organic and Polymeric Materials ・Preparation and Applications
of Functional and Ecological Soft Materials
交流実施期間(業務委託期間):平成17年4月1日~ 平成18年3月31日〔2〕
Ⅰ-5-3.タイ国NTSDAとの研究交流および本学タイ分校の設立
東京工業大学では 1993 年から 7 つの分野で国際大学院コースをスタートさせ,入学試験に
日本語を課さず,留学生が入り易い ように 10 月入学とし,講義も英語によるものを用意
している.
一方, 教育工学開発センターでは,1996 年に衛星通信遠隔教育 (Academic Network for
Distance Education by Satellite) システムを設置し,各種のプログラムを配信してきた.
配信講義はタイ側からの要望と講義担当教員の同意により決定しており, これまで, 下記
を配信した〔3〕.
2002 年度
前期:VLSI 設計論(國枝博昭教授), 信号処理特論(西原明法教授)
後期:VLSI システム設計(一色剛助教授), 波動論 II(高田潤一助教授)
前期:無線通信工学(荒木純道教授)
2003 年度 後期:信号処理特論(西原明法教授)( e-Learning による),
データ工学特論(横田治夫教授)(インターネット TV 会議システムによる)
2004 年度
前期:無線通信工学(荒木純道教授),VLSI 設計論(國枝博昭教授)
後期:Rural Telecommunications(高田潤一助教授)
Ⅰ-5-4.フィリピン分校の設立
2005 年 9 月 29 日東京工業大学はフィリピン国デラサール大学との協力の下で、フィリ
ピンマニラ市の中心にある同大学内に拠点オフィスを開設した.
このオフィスは東工大としてはバンコクについで 2 番目の海外オフィスである.東工
大は学術振興会(JSPS)事業、国際協力機構(JICA)事業などを通してフィリピンとは
強いつながりがあるが、このオフィスはそのような現有プロジェクトのより効率的かつ
円滑な運営に資し、つながりを強化するとともに、新たなる共同研究の推進、講義配信
など教育サービスの提供を行う.オフィスには遠隔会議システム・衛星電波受信設備な
どをおき、遠隔協力が出来るようにする.自由なふれあいの場として教員だけでなく学
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生の交流も含めた全学的な利用が可能である〔5〕.
Ⅰ-5-5.ベトナムにおける実績
①ベトナム知的財産セミナーにおける企業の知的財産戦略の構築に関する講演および
人的ネットワークの構築
2004 年ベトナム知的財産セミナー「起業の発展を目指して」
11 月 23 日ホーチミン市、11 月 25 日ハノイ市〔4〕
②ホーチミン法律大学における知的財産教育にかかる協力
平成 17 年度
ホーチミン法律大学にて知的財産教育
2005 年 7 月 23 日~8 月 20 日〔4〕
Ⅰ-5-6.世界知的所有権機関開催の Technology Management Office の果たすべき役割に関
する講演協力
2006 年 8 月 1 日~8 月 2 日
スリランカ コロンボにおける WIPO 主催のシンポジウムが開催された〔4〕.
―参考文献サイト
〔1〕http://ttjp.ipo.titech.ac.jp/about%20program.html
〔2〕http://www.jsps.go.jp/j-bilat/core/data/07-1_jissi/KOSEF_toko.pdf
〔3〕http://www.ttot.ipo.titech.ac.jp/act_j.html
〔4〕http://www.me.titech.ac.jp/~ytanaka/tanaka_report.html
〔5〕http://www.ttop.ipo.titech.ac.jp/index_j.html
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第Ⅱ章
各国における産学官連携の現状、組織体制および役割に関する調査
本章においては、既存文献調査により、これまでに推進されてきたアジア地域における
産学連携の現状を把握することとする.
Ⅱ-1.中国おける産学共同研究の状況
中国においては、1992 年 4 月に「産学共同研究開発プロジェクト」が実施され、2002 年
末の統計データによると、産学共同研究開発プロジェクトによって、520 件あまりの国家
レベルの重点産学共同研究技術産業化プロジェクトが実施され、全国に 8200 余りの産
学開発機構および企業が設立された.そのうち 4000 余りの産学研究開発機構がハイテク企
業として成長し、当初提携していた大学が、これらの企業株主となっている〔1〕.
例えば、清華大学は、1995 年に「有料会員制」により、企業に技術、研究開発および人材
育成等におけるサービスを提供する「清華大学と企業による合作委員会」を設立した.2002
年末の時点で、宝鋼、燕山石化などの 138 社の中国企業、ならびに米国の IBM、GE、Motorola,
韓国の Samsung, 日本の東芝、松下、ソニー、日立等 33 社の外国企業が当該委員会の会員
となっており、これらの会員企業は、清華大学と共同で共同研究開発機構を設立した〔1〕
.
中国は、大学と産業界と後からバランスにおいて、我が国とはまったく異なる状況が存
在する.「中国の場合、大学に資源の優位性がある.日本では R&D センターや開発の中心は
企業の中にあるが、中国では経済成長追求のために、企業は技術の開発はほぼしていない.
したがって大学が中心となって中国経済発展のための技術移転を行っている」のである〔2〕.
それがゆえ、現在の中国の大学の研究は、中国産業界の要望に幅広く応えるものとなって
いる.中国国内における産学連携が盛んな理由としては、大学が産業界の「成熟」「産業化
水準」よりの、利益に直結するような技術の要請に応えているからである〔3〕.
これに対し、日本の大学の研究対象は、技術ステージで言うと基礎よりであり、中国の
大学の研究対象は、技術ステージで言うと応用よりである.大学と産業界とのバランスに
おいて、日本が政策として、産業化に近い技術の研究・開発を奨励し促進している「応用
シフト」の方向性であるのに対して、中国は「基礎シフト」を始めているとも言える〔3〕.
上記の現状認識は、中日の大学における教育面においても影響している.これまで、日本
の大学と中国の大学は、大学間で授業の単位に互換性を持たすなど、教育面においては、
ある程度協力関係を構築することができたが、研究面においては、技術ステージにおいて
接近しつつあるとはいえ、強い協力関係を構築するまでには至っていない.
また、追加的な事項としては、中国においては、日本の大学の知名度はあまり高くないの
が現実であり、知名度をあげるための努力が必要となるという意見もあり、これまでの日
常的なコミュニケーションの欠如を感じるところである〔2〕.
コミュニケーションの欠如は、国際的産学連携を推進していく上で、最初に必要になるこ
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とであり、これが十分でなければ連携の着手もままならない.日本企業が中国において、
信頼できるパートナー企業や、優秀な人材を見つけることは非常に難しいが、その部分を
土地勘のある現地の大学が補い、現地でのスクリーニングの結果、信頼できる企業や人材
を紹介するというモデルは有効である.中国の大学は、多くの場合、個別企業と出資関係
にはなく、グループ企業ということもない.民間のコンサルティング会社に依頼する場合
に比べ、大学はより中立的な紹介が可能といえる.また、日本語が堪能で、さらに専門用
語にまで精通した語学力がある中国人留学生の OB の方こそ、国際技術移転のコーディネー
トにおける貴重な存在といえる〔3〕.
この点は、日本の大学にも言えることで、中立であるが故のメリットを活かす事例も存在
する.九州大学知的財産本部(IMAQ)は、九州大学と上海交通大学との日中間のビジネス
連携の強化を目的とした国際産学連携を基盤として、JETRO「先導的貿易投資環境整備実証
事業」に対し、九州電力(株)、西日本技術開発(株)と共同提案し、深刻な電力不足に悩
む上海市を対象に、省エネルギー化推進のためのシステム導入実証のプロジェクトに取り
組んでいる.
このように、国境を越えた産学連携に当たり、まずは大学間で基礎的な研究および十分
なコミュニケーションを踏まえた連携関係を構築し、ここに、基礎研究の成果を踏まえた
商業化のために民間企業を巻き込んだ体制を構築し産学連携を推進していくというケース
も存在する.また、大学の中立性をプラスに捕らえ、国境を越えた企業間協力への貢献も
可能といえる.企業間の連携において、大学と周辺企業および大学間の信頼をベースにし
た、日中企業間連携の手伝いを大学がすることが期待されている〔3〕.
しかしながら、現実問題としては、日本の大学と中国の企業とのマッチングは難しい.現
状では、中国の企業は産業化水準の技術を求めているのに対して、日本の大学の技術は、
基礎よりすぎて需要と供給が一致しない.中国の企業が求めるものは、日本の中小企業以
上に、産業化水準に近いもの、あるいは大学ではすでに研究の対象でなくなった実用技術
であることが多いからである.また中国の企業は、日本の大学で開発された技術をビジネ
スに転化する力が弱いことも理由としてあげられる〔3〕.
Ⅱ-2.日本の大学から中国企業へのライセンシングの可能性
日本の大学から中国企業へのライセンシングに関しては、日本の特許を日本企業にライセ
ンシングするのと同様に、中国出願を終えた特許を中国企業にライセンスするモデルが考
えられる.しかし当時(2002 年)では、ライセンシングに必要な環境が整備されておらず、
中国企業にライセンシングすることは困難であった.以下理由をあげる.
①求めている技術ステージの違い
中国における大学の位置づけは、産業界における技術力の不足を補う形で活用されてい
る.日本企業における研究開発力の高さとの差異が大きいがゆえに構築された現象とい
ってよいだろう.
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②出願費用の問題
大学、TLO で独自に特許を取得する場合、海外特許も単願で出すことになるが、これは
国内出願に比べて、多額の費用がかかる.限られた出願費用予算の使途として、費用対
効果を考えると、中国特許の出願は限定せざるを得ない.
③マーケティング・ライセンシングの問題
旅費等の負担をかけて中国まで出かけていって、ライセンス先を見つけ、かかる経費を
まかなうほどのライセンス料を入手できる可能性が極めて低い.それがゆえ、中国に対
して積極的にライセンス活動を展開する状況がそもそも存在しない.
④フォローアップの問題
当該特許の権利侵害が発生した場合、広大な中国で侵害の当事者を突き止めることは難
しく、損害賠償を請求する法的な手続きにかかる費用等の問題も生じる.
よって、中国での特許化、ライセンシングについては、共同出願を行い、共願相手のリソ
ースに頼ることが現実的な方法である〔3〕.
また有限責任中間法人大学技術移転協議会では、現在の大学・TLO は国内に偏った出願を
行い、海外出願をほとんど行っていない.そのため、公開後、外国においては日本特許情
報を IPDL 等のデータベースを通じて自由に閲覧することができ、日本からの技術の漏洩に
つながることを危惧している〔3〕.これに加えて、日本国民の税金でなされた研究成果を、
日本企業ではなく外国企業に技術移転することの是非については、考える必要がある.日
本の産業界に利益をもたらすのかどうかという視点も重要である〔3〕.
ただし、中国の企業の日本やアメリカの大学に対する関心が、今後高くなっていくと推測
される.中国企業もこれからはコストではなくイノベーションで勝負していく時代である.
そのためには日本やアメリカの大学との連携も必要となってくるといえる.また、世界の
マーケットをターゲットにするのであるならば、知的財産に対する関心を高めざるを得な
いであろう〔2〕.
Ⅱ-3.海外大学のアウトソーシング先としての可能性
日本の大学の教員は、自分の学術的な興味に一致しなければ、企業からの単純な測定等の
ニーズには対応しないのが一般的であるが、中国の大学はこうした要望にも積極的に応じ
るところがある.特に為替の違いが大きく効いて、日本企業にとってリーズナブルな価格
で引き受けてくれるとすれば、非常に魅力的といえる〔3〕.
加えて、中国に進出している欧米企業の中には、中国の大学にいる優秀な人材を確保する
ことや、中国の大学から中国共産党への人脈作りを目的とする企業もあり、中国の大学と
連携する意義は大きいといえ、日本の企業も中国の大学との間に、より幅の広い意図を持
った連携を深めていくことが大切である.
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Ⅱ-4.日本企業と中国の大学との共同研究契約
日本企業と中国の大学との間で、共同研究契約が締結されていることが多い.中国の大学
との共同研究契約に関しては、高等教育機関知的財産権保護管理規定が適用されることに
留意する必要がある.高等教育機関知的財産権保護管理規定 8 条において職務発明の規定
があり、職務発明は大学に帰属することとされている.同条は、大学と発明者との間の関
係を規定するものである.大学と日本企業との間の共同研究契約により、研究成果は日本
企業が原始取得する旨規定しておけば、当該大学における職務発明を日本企業が原始的に
取得することが可能である(契約法 340 条 1 項前段)〔1〕
.
Ⅱ-5.ベトナムとの産学連携の現状
2005 年 3 月、東芝はベトナム国家大学*ハノイ校およびベトナム国家大学*ホーチミンシ
ティ校の2大学と、修士および博士課程の大学院生を対象とした奨学金制度に関する協定
を締結した.東芝は、本奨学金制度により、当社はベトナムの科学技術分野を中心とした
人材育成への貢献を目指す.奨学金の支給を受ける院生は、理工系の学生が主体ですが、
文科系の学生も対象とし、広い分野で将来ベトナムと日本の橋渡しをする優秀な学生との
関係作りを図る.また、東芝では、本奨学金制度のほかにも、将来的な両大学との幅広い
産学連携の展開を視野に入れており、当社から大学への講師派遣、両大学のハイテク分野
研究者の研修生としての当社での受け入れ、院生のインターンシップとしての日本での受
け入れ、および、共同研究、委託研究へと連携協定の内容を拡大する予定であるという.
今後、東芝は長期的な幅広い分野での連携を通じて、現地での自社のビジネス拡大に資
する有能な人材を発掘・育成し、これらの人材を通じた研究開発の現地アウトソーシング
や、現地法人での採用等、成長市場での事業機会の確保に向けた取り組みを進めていこう
としている〔4〕.
Ⅱ-6.日本の大学とアジアの国家機関
東京工業大学は、タイ王国が進める太陽光発電に関する科学技術政策に協力しており、
2003 年 12 月に、タイ王国国家科学技術開発庁との太陽電池分野における教育研究協力協定
を締結した.共同研究やワークショップの実施、本学大学院での人材養成を通じて、薄膜
太陽電池の高効率化に関する研究開発等を行い、同国の科学技術振興に寄与すること目標
としている〔5〕.
―参考文献サイト
〔1〕遠藤誠:中国知的財産法,商事法務,333-410,2006.
〔2〕「日中間の技術移転における大学の役割」
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http://www.ryutu.ncipi.go.jp/seminar_a/2006/pdf/D3_j.pdf
〔3〕東京工業大学:「日中国際技術移転に関する調査研究」報告書,2006.
http://www.ryutu.ncipi.go.jp/pldb/download/download/H17nichu.pdf
〔4〕東芝プレスリリース
http://www.toshiba.co.jp/about/press/2005_03/pr_j1403.htm
〔5〕東京工業大学ホームページ― 進化する東京工業大学
http://www.titech.ac.jp/publications/j/shinka2005/p11_12/index.html
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第Ⅲ章
アジア各国と我が国との間で産学官連携を進める際に障害となる事項の調査
本章においては、今後、アジア諸国との間で産学連携を推進していくに当たり、事前に
認識した上で、必要な対策を講じる点を整理してみた.
Ⅲ-1. 制度上、法律上の問題に関するもの
日本からアジア地域に技術移転を行う場合には、様々な困難に直面することが多い.日
本は中国、韓国、ASEAN 諸国などのアジア諸国と同じアジア地域に属するとはいえ、これら
の国々とは文化的に大きな差異があり、法律等の制度上の問題などを含めた様々な障壁が
存在する.
中国では技術に対する認識が低く、装置等に付随していると見る向きが多く、この認識
が、政府の規制を含め、技術移転の対価を低く押さえる原因になっている.また、合弁企
業設立、法律・税制等の制度が、複雑であり、突然変更になることもあり、また運用担当
者の裁量の余地が大きく、許認可の手続について対応を困難にしている.
この中でも、技術移転に関係ある制度で特に障害になっているものは、技術導入契約管
理条例及び同条例施行細則である.この条例については、外国企業に対して、①技術目標
への到達の保証、②特許技術の紛争処理の義務、③移転技術の第三国輸出制限の禁止、④
契約期間後の技術ライセンスの所有権の自動消滅などが明文化されており、外国企業が先
進技術の移転に躊躇する結果となっている.
また上述のように、日本企業がアジア地域に対して技術移転を行う場面としては、日本
企業が現地の企業に対して、①製造のみを委託する場合、②現地企業と共同開発を行う場
合、③日本企業が現地企業に対し技術ノウハウを提供する場合、さらには④特許のライセ
ンシングを行う場合などがあげられる.よって各国の制度上、法律上における国際技術移
転の課題について4つの視点からさらに考察していきたい.
Ⅲ-1-1. 現地企業に製造を委託する場合
中国
①研究開発について ~研究開発を行う意義~
日本企業が中国において、研究開発を行う意義としては、①中国の安い労働力の利用、
②生産・販売拠点の中国移転に伴う効率化、③日本製品を中国の実情に見合うように変
更する現地化、④中国の優秀な人材によるハイテク分野における高度な研究開発、⑤税
金の優遇政策、補助金の交付等があげられる〔3〕.
②研究開発について ~中国における研究開発のパターン~
1.中国に研究開発拠点を設立する場合
外商投資企業(合弁・合作・独資)を新規設立する、もしくは、既存の外商投資企業
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の内部に、研究開発センターを、一部門または分公司として設立することがあげられ
る.
2.中国に研究開発拠点を設立しない場合
中国企業との間で、開発委託契約、もしくは、共同開発契約を締結する〔3〕.
③研究開発について ~外商投資研究開発センター~
研究開発拠点としての外商投資研究開発センターの設立については、「外商投資研究開
発センターの設立に関する問題についての通知」
(対外貿易経済合作部制定、2000 年 4 月
18 日公布)が具体的事項を規定している.これは様々な優遇政策を用意し、外国企業の
投資による中国国内における研究開発を一層推進しようとする政策の一環として、中国
政府が制定したものであり、研究開発センターの経営範囲、設立条件、手続きを明確化
するとともに、自社用設備についての関税免除や営業税免除等の優遇措置を設けている.
外商投資研究開発センターの形態としては、
「外国投資者が法により設立する中外合弁、
合作または外資独資企業、および、外商投資企業の内部に設立する独立部門または支店」
がある(1 条 1 項)〔3〕
.
④研究開発について~外商投資企業たる研究開発拠点への知的財産権による現物出資~
1.一般的規制
外商投資企業たる研究開発拠点を設立する場合、知的財産権による現物出資が可能で
ある(会社法 27 条 1 項).
ただし、出資する知的財産権について価値評価を行い、財産を事実に基づいて審査し
なければならず、高くあるいは低く価値評価してはならない(会社法 27 条 2 項).
また現金による出資が、登録資本の 100 分の 30 を下回ってはならない(会社法 27 条 3
項).
知的財産権を出資する場合は、所有権の移転が生じるため、所有権者変更手続きが必
要である.例えば、特許出願権を譲渡する場合は、法により国務院特許行政部門で登録
を行わなければならない(特許法実施細則 88 条).また、登録商標を譲渡する場合は、
譲渡人を譲受人が譲渡契約を締結し、共同で商標局に申請を提出し、変更手続を行わな
ければならない(商標法 39 条).なお、投資性会社の場合については、現物出資はでき
ないという規則がある(「外国投資家が投資により投資性会社を設立・運営することに
関する規定」7 条)〔3〕.
2.外国投資者が現物出資する場合の規制
中外合弁企業法実施条例 25 条により、外国投資者が、外資企業へ出資する工業所有
権またはノウハウは、①製品の性能、品質、生産効率を著しく高めることができる場合、
②原材料、燃料、動力を著しく制約することができる場合を条件とする.
外国投資者が工業所有権またはノウハウで出資する場合、工業所有権またはノウハウ
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の関連資料を提出しなければならない.その際、特許権証書または商標登録証のコピー、
有効状況とその技術特性、実用価値、価値の計算根拠、中国側合弁当事者と締結した価
値評価協議等関連書類等を、合弁契約の付属書類として提出する(中外合弁企業法実施
条例 2 条)〔3〕.
⑤中国に於ける研究開発の実務上の留意点~研究開発に関連した知的財産紛争の増加~
中国における研究開発の増加という新しい動向に伴い、今後中国における研究開発に
関連した知的財産権紛争が増えてくることが予想される.
1.中国における日系現地法人が中国人従業員から職務発明の報奨金を求めて訴訟を提
起される
2.研究開発センターで働いていた中国人研究者が、職務上の研究成果を会社に無断で
自己または第三者名義で特許出願してしまった
3.研究開発センターで働いていた中国人研究者が、重要な実験データや研究開発成果
を無断で持ち出し、ライバル企業に転職してしまった.
4.日本企業と中国の大学とで共同研究していたところ、その実験データや研究開発成
果等の情報が、当該大学と共同研究しているのにもかかわらず、他の企業に漏出し
た、などの様々な問題が生じる可能性がある〔3〕.
⑥中古の機械設備の輸入について
中古の機械設備の輸入は輸入管理規定(「中古機電製品の輸入管理強化に関する通達」
1997 年(施行 1998 年 1 月 1 日およびその「補充通達」1998 年 11 月 1 日付)に従い全面
的に禁止されている.即ち、特別な理由により商務部が許可したもの以外の中古機械・
電気設備は全て輸入することはできない.
ただし、外資出資企業が出資先の子会社で使用するための場合は、総投資額内で輸入
が可能である.この場合でも生産の安全に関わる圧力容器、人身の安全に関わる電機・
医療機器、環境保全に関わる設備・輸送機器などの一部については、前記輸入管理規定
に従い商務部の許可が必要となる.その他の機器については、税関にて企業の契約、認
可を受けた輸入設備内容、中国の商品検査機関が発行する中古機械設備の検査報告書を
審査し個別に輸入が許可される〔4〕.
⑦建築基準法等
電力事情や建築基準法等、日本の常識が通じないことがある.事前に十分な調査をす
ることが必要である〔1〕
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韓国
①PL 対策(製造物責任法)~製造物責任の取り扱いの現状とその対策・留意点について~
韓国では、制定過程で日本の製造物責任法をモデルとして策定されたといわれている「製
造物責任法」が 2002 年 7 月施行された.法律施行後、クレーム数の増加が懸念されたが、
現状では PL 訴訟案件は予想されたほど多くはないと報告されている.しかし公式に判決
数が発表されているわけでないので、法に基づく判例は別としても、PL トラブルは増加
傾向にあるといわれており、予断を許さない状況が続いている.
1.韓国の「製造物責任法」
(1)責任主体:販売業者が一般的な責任主体(製造者、輸入業者、OEM 生産者)を知り、ま
たは知ることができたにもかかわらず、相当期間内にこれを被害者に告知しなかった場
合、当該販売業者も製造物責任を負う.
(2)免責事由:製品を引き渡した当時の法令基準を遵守した場合が追加された.
(3)免責特約:原則として無効.(日本法では特に規定は無い.民法、独禁法、下請法な
どの規定に従う)
(4)連帯責任:同一損害に対して賠償責任のあるものが 2 人以上ある場合は連帯してその
責任を負う.
(日本法には規定なし.民法に従う.)
(注)その他:対象となる製造物、欠陥の定義、責任発生要件、消滅時効、他の法律の適
用等については日本法とおおむね同じである.
2.訴訟制度
大法院、高等法院、地方法院からなる 3 審制で、地方法院が 1 審管轄権を持っている.
3.保険制度
PL 保険制度はあり、現地で付保することもできるが、日本企業の場合、輸出品として日
本で日本の損保会社に付保した方が現地での事故対応に関しては便利である.
4.留意点
一般的に韓国人は、日本人と比較して権利意識が強く、紛争解決につき話し合いよりも
裁判による解決を好むといわれている.但し弁護士数が人口比で日本より少なく、大手
の法律事務所も少ない現況では、PL クレームからの防御に精通した弁護士を企業が確保
することはかなり困難であると予想される.
5.対策
韓国法が日本法より内容が更に強化されているので、以下の対策を講じる必要がある.
(1)製品出荷前に、事前に充分な事故予防対策(製品自体の欠陥と警告・表示上の欠陥の
防止等を含む製品安全対策)、事故防御対策(クレームを提起されてからの訴訟対策等)を
実施しておく.
(2)プレス機械及び本機を構成している要素機器類に対して、日本で輸出品対象の「製造
物責任賠償保険」を付保しておく.
(3)現地販売代理店との事故発生時の手順、費用負担割合の特約を事前に締結しておく.
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(4)上記(1)(3)について、同用品の市場でのクレーム内容の事前調査も含め韓国事情に精
通した弁護士のアドバイスを受ける.
タイ
①PL 対策(製造物責任法)~製造物責任の取り扱いの現状とその対策・留意点について~
製造物責任(PL)とは製品の製造者や販売者が、製品によって被害をこうむった被害者の
損害に対して負う法律上の賠償責任のことである.多くのアジア諸国ではこの責任は民
法等に基づく契約上の責任や過失責任として取り扱われている.
タイでは PL に関する特別法はなく、タイの法制度は基本的には大陸法系に属している
が、PL 事故発生の増加傾向に併せて既に製造物責任法を制定している他のアジア諸国(日
本、中国、台湾、韓国など)に追随して、現在、政府により PL 法の立法作業が進められ
ている.
近々PL 法が制定されることでもあり今後は米国型製造物責任制度に発展することが予
想される.よって、(1)日本で輸出品対象の「製造物責任賠償保険」を付保しておくこと、
(2)現地販売代理店との事故発生時の負担割合を事前に特約しておくことなどの対策が
考えられる〔4〕.
Ⅲ-1-2. 現地企業と共同開発を行う場合
①技術開発契約について~開発委託契約の留意点~
委託者である日本企業が成果を原始取得する場合、当該日本企業が、中国企業に所属
する職務発明者に対し、奨励・報酬を支払う義務があるか否かが問題となる.この場合、
委託者は受託者に対し、開発委託の報酬の中から、職務発明者に対し、報酬を支払って
いるはずであり、受託者は、その得た開発委託の報酬の中から、職務発明者に対し、奨
励および報酬を支払うことになるであろう〔3〕.
中国の「技術輸出入管理条例」では、技術輸出入の対象となる行為が、法的な「譲渡」
または「使用許諾」行為のみに限定されているわけではない.したがって、委託者が開
発委託契約の成果を原始取得する場合、法的な「譲渡」または「使用許諾」行為ではな
くても、理論上は技術輸出入管理条例の規制に服するとされる可能性があり、開発委託
契約を締結する時点では、まだ技術成果物が存在していなくても、技術輸入の許可審査
または登録を行うべきことになる.ただし、まだ開発の成果が上がっていない時点にお
いては、「技術」の内容が十分に特定しておらず、そのため、輸入禁止・制限類に該当す
るか否かの判断ができないケースのあり、問題が残る〔3〕.
また中国側に開発を委託した場合に、成果物の数量・種類などの点検、受け取りに関
して、委託者である日本企業で十分に行う必要がある.日本企業が、中国企業の実績や
能力を信頼して開発を委託している場合、無断で開発事業が他の企業に下請け・再委託
されるような事態は避ける必要がある〔3〕.
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②技術開発契約について~共同開発契約について~
中国における共同研究開発がどのような形態であるにせよ、日本から中国に技術を移
転し、あるいは逆に、中国で生じた技術成果を日本に移転しようとする場合、技術輸出
入管理条例が理論上は適用される可能性があるので、注意が必要である〔3〕.
共同研究開発が国際的になされる場合、独占禁止法上の規制も考慮しておく必要があ
る.日本企業は一般的に中国企業よりも強い立場にあるので、日本企業側に一方的に有
利な契約を締結しがちである.中国においては、いまだに独占禁止法は締結されていな
いが、日本の「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」(平成 5 年 4 月)によると、
日本の独占禁止法は、日本の市場に影響が及ぶ限りにおいて、共同研究開発の主体が日
本国内の事業者であるか外国事業者であるかを問わずに適用される.したがって、日本
企業と中国企業が共同研究開発契約等を締結する場合においても、日本の独占禁止法の
適用の有無について、一定の配慮をすることが必要である〔3〕.
Ⅲ-1-3. 日本企業が現地企業に対し技術ノウハウを提供する場合
①法的責任
中国では、技術輸出入管理条例において技術輸出入における犯罪、違法行為の法的責
任を明確に規定しており、禁止類の技術を輸出入する場合は、密輸罪、違法経営罪、国
家秘密漏洩罪およびその他の犯罪を構成する可能性があり、刑事責任を構成しない場合
でも、違法所得の没収、違法所得の 1 倍から 5 倍以下の過料、および対外貿易経営権の
取消等の行政罰を課される可能性がある(技術輸出入管理条例 46 条)〔3〕.
②制限条項
技術輸出入管理条例では、29 条において禁止される制限条項を具体的に列挙しており、
これらの制限は一律に禁止される.
ⅰ)不可欠ではない技術、原材料、製品、設備または役務の購入を含む、技術輸入に
不可欠ではない付帯条件の受け入れを受入側に要求するもの.
ⅱ)特許権の有効期間が満了し、または特許権の無効が宣告された技術について、使
用費の支払または関連する業務の負担を受入側に要求するもの.
ⅲ)受入側が供与側の供与した技術を改良することを制限し、または受入側がその改
良した技術を使用することを制限するもの.
ⅳ)供与側の供与した技術を類似の技術もしくはこれと競合する技術を、受入側が他
の供給源から入手することを制限するもの.
ⅴ)受入側が原材料、部品、製品または設備を購入するルートまたは供給源を不合理
に制限するもの.
ⅵ)受入側の製品の生産数量、品種または販売価格を不合理に制限するもの.
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ⅶ)受入側が輸入した技術を利用して生産した製品の輸入ルートを不合理に制限する
もの.
技術輸出入管理条例 29 条の 1 号から 4 号までは絶対的に禁止される事項であるが、
5 号から 7 号までは、合理的な制限があれば規定できることになっている.ただし、合
理的な非合理的かについて明確な基準はなく、問題は残る〔3〕.
③技術譲渡契約
中国の技術譲渡契約とは、特許権の譲渡、特許出願権の譲渡、技術秘密の譲渡、特許
実施許諾契約を含む(契約法 342 条 1 項).技術譲渡契約の中の、譲渡人の譲受人に対す
る技術実施のための専用設備、原材料の提供または関連の技術コンサルティング、技術
サービスの提供についての約定は、技術譲渡契約の構成部分に属する.これにより生じ
た紛争は、技術譲渡契約に従い処理される(技術契約司法解釈 22 条 2 項)〔3〕.
④技術譲渡契約について~保証義務~
中国の技術輸出入管理条例 24 条、349 条、353 条には、技術輸出入管理条例および契
約法の両方において、技術の品質面および権利面におけるライセンサーの保証義務が定
められている.しかし、中国においては、まだ、保証義務規定の強行性につき、判例お
よび実務が確立されているわけではない.学説上、契約法上のどの部分が強行規定(当
事者が合意したとしても、規定違反の契約ができない法律の規定)であるかについても、
中国ではあまり議論されておらず、明確な結論を述べることは困難である〔3〕.
⑤技術譲渡契約について~技術ライセンス契約におけるロイヤルティの比率~
中国企業と技術ライセンス契約を締結する場合のロイヤルティの比率については、以
前は「技術導入契約の締結および審査許認可の指導原則」により、純販売額を基準とし
て5%を超えてはならず、かつ、契約製品の純利益の 20%を超えてはならない(15 条)
と規定されていたが、上記指導原則は、1993 年 4 月 28 日に廃止された.
しかし、ロイヤルティが売上高の 5%という従来からの範囲を逸脱した場合には、一定
の事実上のリスクが生じる可能性はある〔3〕.
また源泉徴収に関しては、技術のライセンスを受ける中国企業が源泉徴収義務者とな
り、税務機関に申告の上、国庫に納付することになる.技術ライセンス契約におけるロ
イヤルティについては、一定の要件および手続きを満たせば、中国において、営業税お
よび企業所得税の減免が受けられる〔3〕.
営業税の減免措置のための手続きに関しては、
「外商投資企業および外国企業ならびに
外国籍個人の若干の税務行政審査認可事項の取消および下位行政機関への権限委譲に係
る善後管理の問題に関する通達」
(国税発〔2004〕80 号)
(国家税務総局制定、2004 年 6 月 25 日公
布、2004 年 7 月1日施行)による.同通達によれば、2004 年 7 月1日以降は、営業税免税に
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ついての審査認可を不要とされが、中国国内のライセンシーは、ロイヤルティに関し、
①国家主管部門が認可した技術移転の認可文書、②技術移転契約が必要であるとした.
〔3〕.
また、ロイヤルティの企業所得税が減免される場合としては、
ⅰ)農業、林業、牧畜、漁業における生産の発展のために次に掲げる専有技術を提供
して受け取る使用料
土壌・草地の改良、荒れ山の開発および自然資源を十分に利用する技術
動植物の新品種の栽培および高効率低毒性農薬生産の技術
農業、林業、牧畜、漁業における科学的生産管理の実施、生態バランスの保持、
事前災害防御能力向上等の分野の技術
ⅱ)科学院、大学およびその他の科学研究機構のために、あるいはこれらと共同で科
学研究、科学実験を行う際に専有技術を提供して得る使用料
ⅲ)エネルギー開発、交通運輸発展の分野で専有技術を提供して得る使用料
ⅳ)省エネルギーおよび環境汚染防止・対策の分野で専有技術を提供して得る使用料
ⅴ)重要科学技術開発の分野で次に掲げる専有技術を提供して得る使用料
重要・先進的機械・電子設備の生産技術
原子力技術
大規模集積回路の生産技術
光素子、マイクロウエーブ素子およびマイクロウエーブ集積回路の生産技術およ
びマイクロウエーブ真空管製造技術
超高速コンピューターおよびマイクロプロセッサの製造技術
光通信技術
遠距離超高圧直流送電技術
石炭の液化、気化および総合利用技術〔3〕.
⑥技術譲渡契約について~技術ライセンス契約におけるロイヤルティに対する税務上の
取り扱い・企業所得税~
中国における外商投資企業(合弁企業、合作企業、独資企業等)および外国企業の企
業所得税については、「外商投資企業および外国企業所得税法」(1991 年施行)が適用さ
れる.これによると、中国における外商投資企業が、中国国内および国外に源泉を有す
る所得について企業所得税を納付する義務があるのに対して、外国企業(日本企業を含
む)は、中国国内に源泉を有する所得についてのみ、企業所得税を納付する義務がある
(企業所得税法 3 条).
特に、外国企業が、中国国内に機構・場所を設立せずに、中国国内に源泉を有する産
業財産権等使用料等を取得したような場合には、20%の企業所得税を納付することとさ
れており、かつ、源泉徴収されるものと規定されていた.しかし、「外国企業の中国源泉
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利息等の所得に対して企業所得税を軽減することに関する通知」
(2000 年施行)、
「日中租
税条約」(1983 年締結により、ロイヤルティの源泉地国での適用税率は 10%を超えない
ものと規定されている〔3〕.
⑦技術譲渡契約について~技術ライセンス契約におけるロイヤルティの企業所得税が減
免される場合~
企業所得税法 19 条 3 項 4 号は、「科学研究、エネルギーの開発、交通事業の発展、農
林牧畜業の生産ならびに重要技術の開発のためにノウハウを提供して取得するロイヤ
リティーについては、国務院税務主管部門の認可を受けて、軽減し 10%の税率に従い、
所得税を課税することができる.このうち技術が先進的であるか、または条件が優遇さ
れている場合は、所得税を免除することができる」と規定している〔3〕.
⑧技術譲渡契約について~技術ライセンス契約におけるロイヤルティに関する、日本で
の外国税額控除~
外国税額控除とは、外国で納付した税金の全部または一部を、日本で支払うべき法人
税額から控除できる制度をいう.この制度は、国際的な二重課税を防止する観点から、
一般に採用されている.日中租税条約 23 条 4 項によれば、中国で課税される企業所得
税は、日本での外国税額控除の対象になると規定されている.しかし、日本企業に対し
て支払われるロイヤリティーに対して課される営業税については、収入に課税されるも
のであり、所得に対する課税ではないため、日本での外国税額控除の対象とはならない
〔3〕.
⑨技術コンサルティング契約、技術サービス契約
技術コンサルティング契約は、特定技術プロジェクトについて提供するフィジビリテ
ィスタディ(新製品や新サービス、新制度に関する実行可能性や実現可能性を検証する
作業のこと)、技術予測、専門技術調査、分析評価報告等の契約を含むものとする(契
約法 356 条 1 項).
技術サービス契約とは、一方当事者が技術知識をもって他の一方の特定の技術問題を
解決するために締結する契約をいい、建設工事契約および請負契約は含まない(契約法
356 条 2 項)〔3〕.
技術コンサルティング契約、技術サービス契約の履行過程で、受託者が委託者の提供
した技術資料および仕事条件を利用して完成させた新たな技術成果は、受託者に帰属す
るものとする.委託者が受託者の仕事の成果を利用し完成させた新たな技術成果は、委
託者に帰属するものとする.当事者が契約で別途定める場合、当該契約の定めに従う〔3〕.
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⑩技術コンサルティング契約、技術サービス契約
~技術指導契約~
技術指導契約により、一定の製造方法技術が移転することは、技術輸出入管理条例の
規制に服するかが問題となる.この点、
「技術輸出入管理条例」では、技術輸出入とは、
中国国外から国内、または中国国内から国外へ、貿易、投資もしくは経済技術協力の方
式により技術を移転する行為を指すと定義している(2 条 1 項).そして、技術指導契約
は、中国国外から国内への、一定の製造方法技術の移転を内容としていることから、技
術輸出入管理条例の適用対象となる「技術輸出入」に該当する可能性がある〔3〕.
⑪強制実施権
強制実施権を行使する場合とは、特許権者から許諾を得る努力を行って,合理的な期
間内にその努力が成功しなかった場合,政府または政府に任命された第三者が,特許権
者の承諾を得ていない特許対象を使用するという場合である.つまり製薬業界であれば、
政府は,製薬企業の承諾を得ていない医薬品を自国の製造業者に製造させることができ、
それにより,医薬品を自国民に安価で提供することができるのである.発展途上国では、
医薬関係のニーズが特に強く、強制実施権の行使の持つ意味合いは強い.
これまでは,強制実施権の発動を認めるための規定が明確でなく,また,この権利を
行使しようとすると経済制裁などの圧力がかるため,発展途上国が実際に強制実施権を
発動することは事実上困難であった.しかし最近,各国政府は,制裁を恐れることなく,
強制実施権を行使できることが明確にされつつある〔7〕.
―中国における強制実施権制度の概要
1)概要
中国における強制実施権に係る規定は、特許法 48 条から 55 条及び特許法施行細
則第 72 条から 73 条に規定されているが、さらに詳細な手続きを規定した国家知的
財産権局局長令が制定されている.
例えば、中国特許法では、
「実施する条件を備えた単位が合理的な条件によって発明または実用新案の特許権
者にその特許の実施許諾を求め、合理的な期間内にかかる許諾を得ることができな
かった場合には、国務院特許行政部門は、その単位の申請に基づいて、その発明特
許または実用新案特許の実施の強制許諾を与えることができる(特許法 48 条)」
としている.
ただし、中国特許法実施細則では
「国務特許行政部門が行った強制許諾の決定は、中国国内市場の需要に応えるもの
に限定しなければならない.強制許諾に係る発明創造が半導体技術である場合には、
強制許諾による実施は、公共の非営利的な使用、もしくは司法手続または行政手続
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を経て反競争行為と確定されて救済を与えるための使用に限られる(特許法実施細
則 72 条 4 項)」
としており、注意が必要である〔6〕.
また、特許法第 14 条には、国有企業事業単位や中国人の特許について、国または
公共の利益に重大な意味を持つ場合に、行政府が普及・応用を許可できる規定があ
る.また現行制度は 2000 年に改正されたものであるが、2000 年改正では強制実施
権についても TRIPS 協定に整合させるための改正が行われている〔12〕.
2)強制実施が認められる要件
以下の場合に強制実施権の設定が許諾される
ⅰ)特許を実施できるものが、合理的な条件の下でライセンス交渉を行ったが、合
理的な期間に承諾を得られなかった場合
ⅱ)国家緊急事態や非常事態が生じた場合、または、公共の利益のためである場合
ⅲ)利用関係特許の場合(ただし、先の特許発明から顕著な経済的意味とともに大
きな技術的進展が得られた場合に限る)
さらに、許諾される強制実施権については以下の規定がある.
・利用関係特許の強制実施権が認められた場合、先の発明の特許権者は後の特
許発明の強制実施件を請求できる.
・半導体技術に関する特許については、公的非商業的使用並びに司法または行政
手続きを経て反競争的とされた慣行の是正に限定される.
・発明と実用新案のみであり、意匠には適用されない〔12〕.
国有企業または国立研究所等の特許について、国または公共の利益に重大な意
味を持つ場合は、行政府が国務院の認可を受け、普及・応用することを決定し、
指定された者に実施を許可することができる.また中国集団所有制単位や中国人
(個人)の特許についても、国または公共の利益に重大な意味を持つ場合には同
様の取り扱いができる〔12〕.
3)手続き等について
強制実施権の付与に関しては、特許権付与後 3 年以上経過した後は、いかなる
機関も国家知的財産局に強制実施権の裁定を請求できる.国家知的財産局は、強
制実施権許諾請求書の副本を特許権者に送達し、意見を陳述する機会を設ける
〔12〕.
強制実施権は排他的なものとし、強制実施権を認める決定後、当事者間で実施
料額について協議し、双方の協議が成立しなかった場合は、国家知的財産局が
裁定する.
強制実施権を認めた理由が消滅しかつ再び発生していない時には、特許権者の
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申し出により強制実施権を撤回することができる〔12〕.
―韓国における強制実施権制度の概要
1)概要について
韓国特許法には、所定の法廷要件に該当する場合に特許権者の意思に関係なく
第三者に通常実施権を付与する強制実施権に係る規定の他、利用関係特許に関す
る通常実施権許与の審判及び政府による特許権の収容に関する規定がある〔9〕.
2)通常実施権設定の裁定
特許発明を実施しようとする者は、以下の①から④の場合に、特許庁長に通常実
施権設定の裁定を請求することができる.ただし、①及び②については、実施権許
諾に関する協議ができなかったかまたは協議の結果合意が成立しなかった場合に
限られる.
ⅰ)不実施の場合
特許発明が、天災・地変その他不可抗力または大統領令に定める正当な理由も
なく継続して 3 年以上国内で実施されなかった場合
ⅱ)不足実施の場合
特許発明が正当な理由なく継続して 3 年以上国内で相当な営業規模で実施され
なかった、もしくは適当な程度の条件で国内需要を満たすことができなかった
場合
ⅲ)公共の利益の場合
公共の利益のために非商業的に特許発明を実施する必要がある場合
ⅳ)不公正取引の是正の場合
司法または行政手続きによって不公正な取引行為と判断された事項を是正する
ために、特許発明を実施する必要がある場合〔9〕
3)利用関係特許に関する通常実施権許与の審判(特許法第 138 条)
利用関係の特許について、他の特許の権利者の許諾が得られなかった場合には、
自己の特許発明の実施に必要な範囲内で通常実施権許与の審判を請求できる.た
だし、自己の特許発明が他の特許発明に比べて相当な経済的価値がある重要な技
術的進歩をもたらすものでなければならない〔9〕.
4)政府による特許権の収用(特許法第 106 条)
政府は、戦時等の非常時において国防上必要なときには、特許権を収容するか、
自ら実施するかまたは第三者に実施させることができる.ただし、特許権者、専
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用実施権者及び通常実施権者に対して補償金を支払わなければならない〔9〕.
5)手続き等について
ⅰ)強制実施権の付与
特許庁長は、裁定の請求があった時には、請求書の副本を特許権者、専用実施
権者等に送達して、答弁書提出の機会を与える.
請求項ごとに実施権設定の必要性を検討し、実施権の範囲及び時期、対価、そ
の支払方法及び時期を決定する.
特許庁長は裁定をしようとする時、産業財産権紛争調停委員会の意見を聞かな
ければならない(この委員会の意見には拘束されない).
ⅱ)強制実施権の付与に伴う実施料の支払い
裁定を受けた者が指定された時期までに対価を支払わなかった場合には、その
裁定は効力を失う.
ⅲ)強制実施権の撤回
①強制実施権を付与された者が、裁定を受けた目的に適合するように実施しな
かった場合や、②強制実施権を許可した事由が消滅し、その事由が再び発生し
ないと認められる場合には、特許庁長は、利害関係人の請求または職権でその
裁定を取り消すことができる.ただし、②の理由により、取り消す場合には、
強制実施権者の正当な利益が保護され得る場合に限定される.
強制実施権を取り消す場合にも、答弁書の提出、産業財産権紛争調停委員会の
意見聴取が必要〔9〕.
Ⅲ-1-4. 特許のライセンシングを行う場合
①ライセンス契約
中国では、技術輸出入管理条例に基づき、技術ライセンス契約を対外経済貿易部門(商
務部)に登録しておかないと、日本へのロイヤルティの送金ができなくなる等の問題
が生じる可能性があるので、注意が必要である〔3〕.
②保証義務
中国では、ライセンサーは、供与する技術の合法的所有者であるか、または譲渡、ラ
イセンスを行う権利を有するものであること、提供する技術の完全性、無瑕疵性、有
効性を保証し、契約で定める技術目標を達成できることを保証しなければならない(同
24 条 1 項および 25 条)
.第三者の権利を侵害した場合は、ライセンサーが責任を負う
(同 24 条 3 項).
契約で定める技術目標が達成できるかどうかは、使用する原材料や機械の品質、技術
者の習熟度等のさまざまな環境により左右されるため、成果を保証することはライセ
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ンサーにとっては厳しい要求である〔3〕.
Ⅲ-1-5. 通関上の手続きについて
中国
現在の中国貿易管理制度の概略としては、2001 年 12 月の中国の WTO 加盟を契機に、次の
ような変更を実施している.
①貿易権の開放
従来、中国では外国との輸出入業務は企業が自由に行うことは許されておらず、外国
投資企業も自社工場の生産活動に必要な資材や原料の輸入、生産した製品の輸出に限っ
てのみ貿易が認められており、一般的な輸出入業務は、商務部対外貿易司が認可した国
有企業によって、個別に指定された品目の輸出入が認められてきた.しかし、WTO 加盟
により外資系企業にも貿易権が認められることになり、まず国内の非国有企業に貿易権
が開放され、2004 年 7 月には新しい「対外貿易法」が施行されて、外資系を含む全ての
企業に貿易権が解放された.これは、加盟後 3 年以内という WTO 加盟時の約束を 6 ヵ月
前倒ししての実施がされた.商務部対外貿易司ないしはその地方の委託機関に登記すれ
ば、国営貿易として指定される品目を除き、自由に輸出入取引ができることになった.
また、個人も登記をすれば貿易を行うことも可能になった〔8〕.
②国営貿易の指定品目
しかしながら、一部の特定の品目については、いまなお国家が主導的に管理する方
式が維持されている.例えば、輸入では、タバコ、原油、石油製品について、輸出では、
米、とうもろこし、タングステン、石炭、原油、石油製品、アンチモン、銀などについ
て、国家が指定する国有企業がその輸出入業務を行っており、一般企業が輸出入業務を
行なうことはできない.
具体例としては、タバコは中国煙草進出口総公司が一元的に輸入業務を行い、とうも
ろこし、豆は中国糧油食品進出口総公司が一元的に輸出業務を行っている〔8〕.
③指定品目の開放
上記以外の品目でも、中国での生産活動に使用する目的で輸入される指定品目で、
既に特定の企業(多くの場合国有企業)が輸入業務の許可を得ているものについては、指
定経営貿易として独占的な輸入が継続されてきたが、そのうち、天然ゴム、木材(1999
年に先行廃止済み)、合板、毛織物、化学繊維、鉄鋼製品については、WTO 加盟時の約束
どおり、加盟後 3 年目に当る 2004 年 12 月 11 日より、指定経営貿易が廃止され、自由
化されている.
中国の貿易管理制度はしばしば改定される上、近年は一貫して輸出入許可品目を削減す
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る方向にあるので、注意が必要である〔8〕.
根拠法:
対外貿易法 (2004 年 7 月 1 日施行)
貨物輸出入管理条例 (2002 年 1 月 1 日施行)
韓国
中古車を韓国に輸出する場合について
①輸入通関
(1)通関書類は、輸入申告書、商業送状、包装明細書、自己認証書、環境(排出ガスと騒
音) 、認証書等で、関税等納付後、引取り可能となる.
(2)輸入関税率:関税課税価格は中古車の価格、保険料および運賃の合計.(税関は中古
車価格の確認のため「blue book」を参照する)
バス(HS8702:10%)、乗用車(HS8703:8%)、トラック(HS8704:無税または 10%)
(3)輸入に係わる内国税
1) 特別消費税(基本税率):排気量により、関税課税価格と関税の合計額の 5%から 10%
2)教育税:特別消費税の 30%
3)付加価値税 (日本の消費税に該当): 関税課税価格、関税、特別消費税および教育
税の合計額の 10%
②その他
2003 年 1 月より輸入通関の前の段階で、輸入者の義務事項が新たに設けられた.車両
を受け取る韓国側の輸入者は、韓国政府(建設交通部)に事前に「製作者登録」を行わ
なければならない(「製作者」には「輸入者」が含まれる).
タイ
タイでの輸入通関時に、しばしば直面する問題は、高い輸入関税と、通関に時間がかか
る場合があるということであり、BOI による輸入税の減免措置を受ける場合についても留意
する必要がある.
①輸入関税率
輸入申告時に、品目毎に適用される関税率が決定されるが、どの HS コード(関税分類
番号)にあてはまるのかが問題で不明確な商品名の場合は厳しく税関で判断され高い方
の税番・税率が適用される場合がある.これを防止し、適切な HS コードの適用を受け
る為には、輸入申告にあたり、インボイス記載では適切で明確な品目名とし、当該商品、
機械の説明書、仕様書、写真等を予め準備し、審査官に説明し納得を得ることが必要と
なる.
27
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また、タイでは輸入申告書に添付されているインボイス上の価格が必ずしも関税の算
定基準になるとは限らず、審査官は他社扱いインボイスを含めて、過去の実績の中から、
同品目で高い方の単価を基準にして、輸入関税を決定することもあり、注意が必要であ
る.インボイス価格の妥当性を示す為には、プライスリストやインボイスに日本の商工
会議所の認証を受けるのも一助となる.
さらにもう一点注意を要するのは課税対象が CIF 建値となりますので、インボイスが
FOB 建や CFR 建となっている場合、輸入申告時には、保険料の明記された保険証券ない
し保険料領収書を提出し、実際に支払った保険料を申告価格に加算することが必要とな
る.これらの書類を提出できない場合は、税関では FOB 金額の 5%を保険料とみなして加
算されるため、注意が必要である.
②通関に掛かる時間の短縮
2004 年 12 月より輸入手続きのスピードアップ化が図られ、輸入申告してから 1 日から
2 日程度で貨物の引取りができるようになってきているが、インボイスに記載されている
品目が多く、申告項目が多い場合は更に日数がかかる.この日数を極力短縮する為には、
上述の HS 番号決定のための説明資料を多く準備しておく等の配慮が有効である.
③BOI 輸入税減免措置を受ける場合の注意点
タイでは投資委員会(BOI)の認可を受けた企業には税制面で多くの恩典が与えられてお
り、進出地域により恩典の度合いは異なるが、日本からの進出企業の多くがこの制度を
利用している.BOI 企業に認定されますと、生産に必要な機械設備等を輸入する際には減
免税の特典を受ける事ができる.この場合注意すべき事項としては、BOI に対し申請して
から許可までに約 2 ヵ月、国内市場目的で 5 億バーツ超の大型案件の場合は、3 ヵ月を要
するので、早めに申請を起こすことが大切である.
フィリピン
通関時には、輸入・内国歳入税申告様式、船荷証券、商業インボイス、パッキングリス
トなどを、税関局に提出する.加えて、輸入品がフィリピン国家規格に該当する場合は、
貿易産業省製品標準局から輸入商品許可証の発給を受けねばならない.
フィリピン経済区庁(PEZA)登録企業の輸入手続簡素化(2005 年 7 月 7 日開始)
木材梱包材の検疫規制(2005 年 1 月 1 日開始)
税関公共保税倉庫(CBW)利用料金の改定(2004 年 5 月 6 日)
通関時には以下の書類を関税局に提出する.
(1)輸入・内国歳入税申告様式(関税局様式 236)
(2)船荷証券または航空運送状(Air Way Bill)
(3)商業インボイス
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(4)パッキングリスト
(5)その他関税局が義務付ける追加書類
輸入品が、貿易工業省製品標準局(BPS)が管轄する強制的な規格制度である、フィリピン
国家規格(Philippine National Standards)に該当する場合は、輸入商品許可証(Import
Commodity Clearance)の発給を受ける必要がある.輸入商品許可証は、輸入品の品質が、
フィリピン国家規格または BPS が認める国際・外国規格に合致していることを証明するも
のである.
発給のための申請書は、最寄りの貿易工業省地域・州事務所で入手できる.発給を申請
する際は、申請書 3 通に以下の書類を添付して、最寄りの貿易工業省地域・州事務所に提
出する.
(1)パッキングリスト
(2)輸入許可の認証謄本
(3)商業インボイス
(4)船荷証券または航空運送状(Air Way Bill)
(5)関税調査官の所見の認証謄本
(6)貿易工業省の事業登録証明書/証券取引委員会の登録証明書
(7)対象製品のバッチ番号、シリアル番号の概要
(8)委任状(申請書が、輸入商品許可書を発給する会社を、管理・監督する人物により提出
される場合)
(9)取締役会の決議書(申請書が、輸入商品許可書を発給する会社を、管理・監督する人物
により提出される場合)
(10)該当する場合、原産国の認定試験所から得た試験報告書の原本は、申請書を提出する
貿易工業省地域・州事務所に直接送付される.
ベトナム
外資系企業に対する輸出入許可申請について
2006 年 7 月 1 日以前は外国投資企業の事業運営については外国投資法に準拠するもので
あった.外国投資法においては外国投資企業に対し様々な優遇措置を設定しており、その
中に、外国投資企業が固定資産となる機材や設備などを輸入する場合にそのような固定資
産については関税と付加価値税が免除とする規定があった.また、外国投資法に定める特
別な条件を満たす外資系企業については、それに加えて一定期間の関税の免除や輸出用物
品に対する輸入関税を免除にしていた.
ただし、輸入関税免除の適用を受けるには、投資ライセンス、フィジビリティスタディ
などとともに免税対象となる輸入物品のリスト及び輸入計画書を商業省もしくは商業局へ
提出し、承認を得なければならなかった.
しかし、2006 年 7 月 1 日から投資法が施行され、今までの外国投資法に取って代わった
29
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ため、外資系企業に対する上述のような優遇措置が、外国投資企業ではなく奨励業種に対
して付与されることになったため、今までの外資系企業に対する輸出入認可申請の取扱い
について不明な点が発生した.それを受け商業省は、2006 年 6 月 20 日付で外資系企業の固
定資産輸入に関わる関税免税の決定について発表し、2006 年 1 月 1 日以降に投資ライセン
スの発行を受けた外資系企業については、外国投資法に基づいた固定資産の輸入計画書の
登録は商業省が行うが、輸入計画書の登録が認められた外資系企業については、その関税
免除を受けるに当たり、税関において自主的に免税の申請をするよう求めている.一方、
2005 年 12 月 31 日以前に投資ライセンスが発行されている外資系企業については、外国投
資法及びその他関連法に従い、商業省が輸入計画書の登録を行い、固定資産の関税の免除
についてもその可否を検討する、と定めている.
尚、輸入計画書は、以下に記載する輸出入手続の際に提示が求められている.
Ⅲ-1-6. 現地法人を設立する場合について
韓国
韓国への外国人投資については、外国人投資促進法により、次の規定がある.
①投資金額は 1 件当たり、最低資本金が 5 千万ウォン以上(複数で出資する場合は、1 人
あたり 5 千万ウォン以上)
②外国人投資比率は原則として 10%以上とする.
③韓国で新しく法人を設立する際の手続き上の流れ
(1)外国人投資申告
(2)資本金送金
(3)法人設立(登記)
(4)事業者登録
(5)外国人投資企業登録
(6)(必要に応じ)個別業法の許認可となる.
④外国人投資申告の申告者は、外国人投資家本人かその代理人であり、投資申告の受付
窓口は、韓国国内銀行の本支店、外国銀行の韓国内支店、KOTRA(大韓貿易投資振興公
社)の海外貿易センター、および韓国内地方事務所などである.
提出書類は、
「新株等の取得による外国人投資許可申告書」2 通、代理人が申告の場合の
委任状等で、申告は直ちに処理され申告済み証が交付される.
⑤資本金の導入方法としては、主に次の 2 つがある.
(1)韓国内外為銀行の本支店、または外国銀行の韓国内支店に、別段預金勘定を開設し
資本金を送金する、または外国人投資申告後、投資申告書記載の現地法人名義の預
金口座を開設して資金を送金する.
(2)現金やトラベラーズチェック等を持ち込み、韓国内の外為銀行に非居住者外貨勘定
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を開設し、入金する.
⑥法人登記は、現地裁判所に定款他必要書類を提出して行う.現地会計事務所または
司法書士(法務士)に依頼した場合、所要期間は約 1 週間かかる.費用として資本金 5
千万ウォン規模の法人設立の場合、登録税、債券購入費用(韓国国内規則で義務付けら
れているもので、資本金の 0.1%相当額の都市鉄道債券等の購入が必要となる.後日満
期時に還付される)、印紙代などの実費や手数料が、必要となる.
なお、KOTRA 本部内に設置された INVEST KOREA(旧外国人投資支援センターKISC: Korea
Investment Service Center)による法人設立支援のサービスが受けられる.この場合、
手数料は不要であるが、登録税、債権購入、印紙代等の実費は、依頼人が負担しなけ
ればならない.
⑦事業者登録を、管轄税務署で行う.なお、INVEST KOREA(KISC)での申請も可能である.
⑧外国人投資企業登録を、同申請書に登記簿謄本等を添えて、上記の外国人投資申告受
付機関で行う.
⑨韓国の個別業法で必要とされる場合は、事業の許認可の取得を行う.〔8〕
ベトナム
①単独出資と合弁の得失
海外直接投資をする場合、単独出資か合弁かは重要なキーポイントで、一般的には次の
ような得失がある.
(1)単独出資:自社経営方針が徹底できる.反面、単独出資ゆえに合弁と比較してリスク
が大きくなる.政府機関との関係など独自に人脈の構築が必要である.外資の単独出資
が認められない場合があるなどのデメリットが考えられる.
(2)合弁:リスクを負担軽減できる.合弁相手の政治力、販売力や設備を利用できる.反
面合弁相手の選択が難しく、開発途上国では資金力などの点で信頼に足る相手が少ない
などの難点がある.会社経営方針や配当方針を巡る合弁相手との紛争もありうる.
(3) 日本国内で生産し、輸出と国内販売をしてきたが、生産コストを下げるべくベトナ
ムで生産し、全量を引取り国内販売、一部輸出を考えているような場合、製造輸出品目
が特別な禁止品目に該当する場合を除き、単独出資(100%外資)が認められるばかりか、
輸出加工企業として税法上の恩恵を十分期待できるといえる.工業団地、輸出加工区に
立地を求めれば手続きも比較的簡素になるため、単独出資が一般的な選択である〔8〕.
② ベトナムでの企業設立について
企業の法的代表者はベトナム国内に居住している必要がある.なお、2006 年 7 月 1 日に
施行された「統一企業法」および「共通投資法」への移行(旧外国投資法の廃止)により、
合弁企業の設立と運営に関わる下記条件が無くなった.
外資の出資率条件---投資の目的が「共通投資法上」の「条件付投資分野」に該当する場
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合を除く.
取締役の国籍条件
取締役会の全会一致条件〔8〕
Ⅲ-2. 政治上の問題に関するもの
Ⅲ-2-1. 政治体制の違い
アジアには、中国、韓国をはじめ様々な国が存在するが、同じアジアに属するといっても
各国の政治体制は大きく異なる.韓国、フィリピン、タイなどは民主主義体制であり自由
主義経済であるが、中国やベトナムは共産主義体制である.
中国では、鄧小平指導体制の下、1978 年から改革開放政策が実施され、80 年からは経済
特区が設置されるなど市場経済の導入が急速に進んだ.またベトナムでは、86 年頃からド
イモイ政策が実施され、市場メカニズムの導入や対外開放政策が進み、経済面では大きな
成果をあげてきた.
しかし中国は、ベトナムともに共産党の一党支配体制であることに変わりはなく、中国で
は開放政策により、農村部と都市部、沿岸部と内陸部における経済格差が拡大し、内部矛
盾が深まっている.
よって特に中国における技術移転を考える際には、技術移転を行う地域が、沿岸部である
のか、それとも内陸部であるのか、またその地域に共産党の影響力が及んでいるのかどう
かについても検討する必要がある.
中国については、他のアジアの国々と異なり、外国企業に対する直接投資の回収が難しく
技術移転に対する対価の支払いに関して、不十分であることも傾向として得られている.
まず前提として中国は、共産主義の国であり、経済、経営に関する感覚が十分成熟してい
ないということが挙げられる.経済全体の運営は、市場の個別動向を把握した運営をする
のではなくマクロ経済に基づく経済運営をとっている.
また、製造工程をとって見ても生産システムを全体として捉えず、製造設備の一部を更新
すれば、品質や効率が向上すると考えている.従って、企業間の連携を含めて工程全体に
かかる技術的、経営的ノウハウの重要性を理解した企業運営を行っていないなどの前提が
ある〔11〕.
Ⅲ-2-2. 現地の政府との関係
中国の地方政府は、現地企業の競争力を強化し、また企業の成長を助ける施策の推進が極
めて需要であると考えている.しかし技術移転事業などにおいては、現地政府からは、政
府と関係の良い企業だけを紹介されることが多い.また紹介された企業は、政府の面子を
立てるために技術提携事業の開始までは着手したにもかかわらず、後で放棄してしまうケ
ースが多い.
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Ⅲ-3. 先進国と発展途上国との間における技術的もしくは経済的な格差に起因するもの
Ⅲ-3-1. 技術的な格差に関するもの
先進国の資本集約的な先端技術は、低廉な過剰労働力をかかえた発展途上国にとって、
適切な技術とはいえない場合がある〔2〕.
①環境問題
日本の環境基準は世界でも、最も厳しい水準になっていることに加え、日本社会も
法体系で定められた環境基準を超えたレベルの環境対策を求めるようになっているた
め、日本企業はこのような社会的要求に適合する高度な環境装置・技術を開発・生産し
ている.しかしながらこのような高度な技術は、途上国の実情に照らしてオーバースペ
ックとなる場合が多く、各国の実情に適合する使用にスペックダウンしてコスト削減を
図るとともに、途上国の脆弱な技術基盤に適合したメンテナンスフリーを実現する等、
簡易型技術を開発普及させることが必要である〔5〕.
韓国
日本から中古車を輸出する場合
環境(排出ガスと騒音)認証
(1)全ての自動車が対象になる.韓国の環境部交通環境管理課・国立環境科学院で書類
審査により、認証書を発給(有効期間 1 年)するが、通関後、有効期間内に検査を受けね
ばならない.認証書発給に必要な期間は約 20 日、排出ガス試験料 547,000 ウォン、騒
音試験料は 69,000 ウォンである.
(2)必要書類:排出ガス感知・低減装置、燃料効率関連装置などに関する書類、排出ガ
ス試験結果に関する書類・・・これらの書類については、日本の自動車メーカーの排出
ガス関係書類、または、韓国自動車輸入販売組合の保証書で代替可能である.騒音認証
用として、自動車の諸元明細および騒音低減に関する書類等〔8〕.
②メンテナンス、部品の現地調達の問題
技術移転に際し、日本から装置を持っていって、自分たちで据え付けていくだけとい
う形の場合、現地とのコミュニケーションが不足し、中国側としては、技術を学べない
という不満が生じることとなる.日本の技術は欧米よりも安価な場合もあるが、部品が
中国で調達できないことにより、運転が継続できないこともあり、結果として高くつく
事例が見られる.この問題を解決するためには、現地に企業を作ってアフターサービス
を向上させるか、国産化に向けて協力することが重要となる〔5〕.
製造工程全体をシステムとして運営していないため、様々な産業基盤が未発達であ
るその第一は、社会インフラストラクチャーであるが、製造物や原材料を輸送する手
33
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段である鉄道、道路が整備されておらず、遠隔地との取引が困難になることがあり、
電気、ガス、水道などの整備が需要に追いつかず、稼働した工場が予定した生産量を
上げることが出来ないこともあるという.
さらに、企業間連携が体系的に行われていないため、部品等を供給する周辺製造産
業の成熟度がアンバランスであり、外国企業が部品の現地調達を行おうとする場合、
国内製造品と同等の品質を保証するのが難しく、キーテクノロジーについては、部品
工場も併せて持ってくるか、コストが上昇しても輸入部品を使うかのいずれかを選択
しなければならない.従って、移転された技術が、現地に根付いていくことを妨げる
結果となっている〔11〕
.
③品質に対する意識の違い
日本企業はすでに、多品種少量生産の段階に入っており、新たなニーズに応じて背品
の個性化、高級化を志向している企業が多い.これに対して、中国企業は、依然として
大量生産を重視する企業が多く残っており、技術移転の際には、多くの中国企業がロッ
ト数、製造コスト、技術レベルというような要因を基準にしているようである〔1〕.
中国は大量生産によって市場を占有することが必要と考えている、また大量生産に慣
れていない〔1〕.
中国の大企業は、多品種少量部品の委託加工は、絶対数が少ないため引き受けてく
れない.しかし中国の中小企業も、あまり多品種少量部品の加工になれていない〔1〕.
欧米からの単一品種の大量生産を好む傾向があり、日本からの多品種少量生産に対
応できる企業が少ない〔1〕.
では、なぜ中国企業は単一品種の大量生産を好む傾向があり、日本からの多品種少量生
産に対応できる企業が少ないのか.
機械で大量生産する場合には、機械のコストの占める比率が大きく、人件費の比率は小
さい.人件費が安いことの差が出ないはずである.それにもかかわらず、規格品の大量
生産型でコスト的な強みを発揮しているのは、人件費の極端な安さを利用して、機械を
入れる部分を人手でやっているからである.人件費が高くなれば成り立たないモデルで
はあるが、現在のところ人手でやる方が、機械を入れる初期投資、その償却のための価
格への転嫁が発生しないため、製品の価格が抑えられるわけである〔1〕.
Ⅲ-3-2. 経済的な格差に関するもの
技術移転に際しては、途上国では、自然環境も含めて製品の使用環境が多様で、たい
ていは日本よりも過酷な条件で使用されることに留意する必要がある〔1〕.
①工場管理に対する認識不足
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中国の中小企業では、整理整頓が行われている工場は少ない.多くの工場では、工具
や金属片が床に散らばっており、ひどい場合には図面管理も行われていない.中国の大
企業ではこのようなことはないが、中小企業では、工場管理の重要性に対する認識が欠
けている〔1〕.
また直接、経済的な格差に関連するわけではないが、経済的な成熟度が低い場合、コ
ンサルティングというような見えないサービスに対する理解が、あまり浸透していない
場合がある.
②コンサルティングに対する意識不足
中国にはまだコンサルティングという概念が広く浸透しておらず、プロジェクトの途中
で、日本のコーディネーターを経由せずに、直接日本の会社と交渉しようとすることが
ある.コンサルティングのように見えないサービスに対して報酬を支払うことに、抵抗
感が残っている可能性がある〔1〕.
Ⅲ-4. コストが原因となるもの
①部品のコストの問題
中国国内で調達できる部品は国内で調達し、自社で加工できる部品は自社で加工する.
それでも調達することができない部品だけ日本から輸入するというやり方を取ることが、
最もコストパフォーマンスが良い方法である.しかし部品をすべて日本から輸入すると
いう方法をとる場合には、結果的にコストが高くなり、技術移転を阻害する要因になる
〔1〕.
②人件費に関する問題
人件費が元々安いので、コストに含まれる人件費の比率が低いため、圧縮圧力がなく、
さらに改善可能な余地が残されている〔1〕.
③通関費用等に関する問題
大量に生産しない場合にはコストが高くつき、通関費用なども考慮すると、日本で生
産した方が安くつくこともある〔1〕.
④技術指導員のコストの問題
日本から技術指導員を派遣する場合、派遣される指導員の宿泊費や手間等のコストが
生じる〔1〕.
⑤加工技術者の人材不足
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中国の若者も日本の若者と同様に、加工技術者になりたがらない.給料が低く、長時
間労働で、工場の環境もあまり衛生的ではないからである.また、中国の輸出型企業は、
コストを重視するあまり、人材育成、高付加価値の研究開発をあまり行わないため、高
度技術者を育成しにくい状況にあることも理由としてあげられる〔1〕.
中国全体が、社会主義体制にあるため、政府も含めて各企業間で連携し、生産システ
ムを構築するためのネットワークの整合性を欠き、人材の層が薄いため、製造工程の各
要素に能力の揃った人材を揃えることが難しく、外国企業が自国と同じスペックの生産
システムを構築することを困難にしているといえる〔11〕
.
Ⅲ-5. 言語の違いによるもの
文化の壁として、最も大きな障害としてあげられるのが言語である.
実際には、技術移転において、移転先の言語を完全に習得することは難しく、現場で
は様々な言語にまつわる問題が生じる.
企業間において契約を交わす際には、契約書の作成や理解において言語による問題は
大きい.特許を記述するような専門用語、術後の意味範囲の違い、契約書等の法律文書
について正確に理解することは非常に難しく、契約書を正確に読めないため、問題が生
じる場合もある〔1〕.
また海外で特許を出願する際には、現地の言語に正確に翻訳することが必要であり、
十分に正確な翻訳ができなかった場合には、日本企業が意図していない形で権利が登録
されることになるため、十分に注意することが必要である.
さらに外国人とのディスカッションの場面においても、ビジネス上の議論や駆け引き
を行うことができるような語学力を身につけることは、とても難しく、専門的な複雑な
話になると適切に訳してもらえることは稀である.
例えば、日本人と中国人がディスカッションを行う場合には、英語等、第三言語を通
じて意思疎通を図るよりも、日本人が中国語に、もしくは中国人が日本語に精通してい
て、どちらかの母語で意思疎通を図るほうが、良い結果を招く可能性が高い〔1〕.
また、外国出願時の翻訳文作成(引用があればその文書も翻訳する必要がある)にお
いては、一件につき約 300 万円といわれる外国出願時のコストのうち、4 割が翻訳料に
なっており、外国出願における障害となっている〔10〕.
―参考文献サイト
〔1〕東京工業大学:「日中国際技術移転に関する調査研究」報告書,2006.
http://www.ryutu.ncipi.go.jp/pldb/download/download/H17nichu.pdf
〔2〕小原喜雄:国際的技術移転と法規制,日本評論社,9,1995.
〔3〕遠藤誠:中国知的財産法,商事法務,333-410,2006.
〔4〕国際貿易振興機構(ジェトロ)ホームページ
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http://www.jetro.go.jp/biz/world/asia/cn/qa_01/04A-021216
〔5〕文部科学省、科学技術政策研究所:「中国の環境問題と日本の技術移転」,2002.
http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/mat082j/mat82j.pdf
〔6〕AIPPI・JAPAN:外国工業所有権法令集,3,2006.
〔7〕バイオテクノロジージャーナル、バイオキーワード集
http://www.yodosha.co.jp/btjournal/keyword/104.html
〔8〕日本貿易振興機構(JETRO)ホームページ
http://www.jetro.go.jp/biz/world/asia/asean/
〔9〕「韓国における強制実施制度の概要」
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/strategy_wg09/file4_3.pdf
〔10〕アジア太平洋機械翻訳協会「「2003 年度報告会・講演会」レポート」
http://www.babel.co.jp/mtsg/aamt/aamt0406/aamt0406.htm
〔11〕「日中の技術移転に関する調査研究」
http://www.nistep.go.jp/achiev/abs/jpn/mat050j/mat050aj.html
〔12〕「中国における強制実施制度の概要」
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/strategy_wg09/file4_4.pdf
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第Ⅳ章
国際的産学官連携に影響を及ぼす各国特許制度上の比較調査
国際的産学連携を推進するにあたり、国際共同研究の研究成果にかかる知的財産権の取
得および権利行使に関連し、各国の特許制度上の比較を行い、相違点を抽出しておくこと
は意義深い.本調査研究においては、国際的産学連携に関して事前の確認および対応が必
要となるであろう条文を 8 項目抽出し、制度比較から論点を確認した.
Ⅳ-1.新規性喪失の例外
以下に、新規性創出の例外規定に関する 6 カ国の比較表を示す.
タイ、フィリピンでは、救済期間が 12 ヶ月であるのに対して、その他の国においては、
6 ヶ月となっており、わが国における救済期間に関する実務と同様の対応が可能であろう.
また、タイ、フィリピンについては、12 ヶ月となっているが、この点に関しては、米国が
12 ヶ月という制度を持っており、わが国企業にとっては、米国への対応を通じて、12 ヶ月
という救済期間にも慣れていると考えられ、大きな困難性を伴うものではないだろう.救
済対象の開示手法については注意が必要である.韓国は日本の救済対象とよく似ており、
日本と韓国を除いては、救済対象が限られたものとなっている.各国の政府主催の博覧会
または会議での開示のみが対象となるため、出願前の発表時には検討と確認が必要になる.
新規性喪失の例外
救済期間:6 ヶ月
日本
試験、刊行物、電気通信回線、特許庁長官指定の学術団体の研究集会、特許庁長官指
定の国内外の博覧会で発表・展示
救済期間:6 ヶ月
中国
政府主催または認可の国際博覧会、認可された学術会議等
出願人の同意なく出願
救済期間:6 ヶ月
韓国
試験、刊行物、大統領令が定める電気通信回線、
経済産業エネルギー省が定める学術団体、博覧会出品
権利者の意に反して公表
救済期間:12 ヶ月
タイ
政府後援又は公認のタイ国内で開催された博覧会
非合法的に取得され公表
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新規性喪失の例外
(続き)
救済期間:12 ヶ月
フィリピン
発明者によってなされた公表
と居長により別の出願に記載され、開示すべきでなかった開示
当該情報を得た第三者による開示
救済期間:6 ヶ月
ベトナム
科学研究発表、
ベトナム全国博覧会または認可された国際博覧会
権利者の意に反して公表
Ⅳ-2.共同出願
以下に、共同出願の規定に関する 6 カ国の比較表を示す.
共同出願および共有特許に関する規定も、国際的産学連携を推進していく過程で得られ
た研究成果の保護について重要な点である.基本的には、6 カ国とも、共同でなされた発明
は、当該発明に関与した発明者らが特許を受ける権利があるとの原則においてはほぼ一致
している.タイで多少異なる規定があり、「特許出願に参加しなかった共同発明者は、特許
が付与される前であれば、いかなる時点でも後日かかる出願に参加することを請求できる」
という規定があり、不要のトラブルを防止し円滑な協力関係を維持していくためには、共
同研究において発明活動に関与した者を特定することが重要である.また、共同出願に加
え、発明者への報奨金に関する制度運用にも目を向けておくことが重要であろう.
共同出願
日本
中国
韓国
特許を受ける権利が共有にかかるときは、他の共有者と共同で特許出願
他の共有者の同意なしで持分譲渡できない.
特許を受ける権利は、当該発明創造の共同者に帰属する.
出願が認められた後は、当該共同者は特許権者になる.
特許を受ける権利が共有にかかるときは、他の共有者と共同で特許出願
特許出願に参加しなかった共同発明者は、特許が付与される前であれば、如何なる
時点でも後日かかる出願に参加することを請求できる.
タイ
特許を受ける権利が共有にかかるときは、他の共有者と共同で特許出願
特許法施行規則(特許法に基づく省令第 24 号)第 4 条
2 以上の従業者が共同で1の発明を行った場合、報酬の請求は共同でも個別にも行う
ことができる.
39
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共同出願 (続き)
フィリピン
ベトナム
特許を受ける権利は、当該発明の共同者に帰属
2 つ以上の組織や個人が共同で行った創造や発明は、これらの組織や個人に登録の権
利があり、これらの同意のもとに行われる.
Ⅳ-3.共有特許
以下に、共有特許の規定に関する 6 カ国の比較表を示す.
共有特許については、第三者に対してライセンスする際の制限条項が問題になる.共有
者の同意が原則であるが、中国のように、公共の利益を優先させて国家権力による判断を
もつ規定もある.共有特許を実施する際に、制限事項に関する制度および運用をチェック
する必要がある.
共有特許
他の共有者の同意なしで持分譲渡および質権設定できない.
日本
各共有者は他の共有者の同意を得ずに、実施できる.
他の共有者の同意なしで専用実施権または津上実施権の許諾ができない.
中国の集団所有制単位及び個人の発明特許が国の利益又は公共の利益にとって重要
中国
な意義を有し、普及・応用の必要がある場合は、国務院の関係主管部門及び省・自
治区・直轄市人民政府は、国務院の認可を得て、認可範囲の内で普及・応用を決定
し、指定単位が実施することを認めるものとする.
他の共有者の同意なしで持分譲渡および質権設定はできない.
韓国
各共有者は他の共有者の同意を得ずに実施できる.
他の共有者の同意なしで排他的実施権または非排他的実施権の許諾ができない.
他の共有者の同意なく自己の権利を行使できる.
タイ
ただしライセンスの付与又は特許の譲渡については、共同所有者全員の同意を得な
ければならない.
他の共有者の同意なくして実施権の許諾または譲渡できない.
各共有者は、他の共有者の同意を得られなければ又は他の共有者と持分に比例して
フィリピン
利益を分配しなければ、実施許諾を与え又は自己の権利、所有権若しくは利害関係
若しくはその一部を譲渡することはできない.
ベトナム
共同所有者による著作権法、関連法の譲渡には全ての共同所有者の同意が必要であ
る.
40
Tokyo Institute of Technology
Ⅳ-4.職務発明
以下に、職務発明規定に関する 6 カ国の比較表を示す.
発明者への報奨金規定に関しても、各国ごとに、職務発明の規定を確認し、共同研究契
約の時点で契約内容に盛り込むことが必要あろう.特に、共同研究に、相手先の政府資金
が関与する場合には、事前の詳細な検討が必要になる.職務発明としての権利の機関帰属
にも注意が必要である.
職務発明
従業者が業務上の範囲に属する発明について特許を受けた場合には、使用者等は通
常実施権を有する.
日本
使用者等に権利帰属を定めた場合には、従業員は相当の対価を受ける権利を有する
相当の対価の合理性
職務発明でない場合の権利帰属を定めた契約等は無効.
所属機関の任務により、または、所属機関の設備等を利用した職務発明創造は所属
中国
機関に帰属する.
所属機関の設備等を利用した発明創造は、別途契約がある場合にはその定めに従う.
従業者が業務上の範囲に属する発明について特許を受けた場合には、使用者等は非
排他的実施権を有する.
韓国
公務員の職務発明は国または地方公共団体に帰属する.
国立または公立の教員による職務発明は、技術移転促進法に基づく管掌機関に帰属
する.
職務発明でない場合の権利帰属を定めた契約等は無効
雇用契約または業務委託契約による発明は、使用者または業務委託者に帰属する.
雇用契約に基づき利用できる設備等を利用した発明は使用者に帰属する.
従業者の発明により使用者が利益を得る場合には、発明者は報酬を受ける権利を有
タイ
する.
報酬の請求は省令および規則に定める手続きによる.
報酬額の決定を促すため、長官は、報酬の請求人たる従業者又は使用者を召喚して
自らの質問に答えさせるか又は何らかの書類若しくは証拠を提出させることができ
る.
発明行為が職務の一部でない場合には、使用者の設備を使用しても、特許は発明者
フィリピン
に帰属する.
発明が職務遂行の結果である場合には、特許は使用者に帰属する.
41
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職務発明 (続き)
当事者による同意がない場合には、仕事上の任務、雇用の形で、作者に資金や材料
ベトナム
設備を投資してきた組織や個人が登録の権利を有する.
政府は国家予算による資金、材料、技術的な施設の使用により創造された発明を登
録する権利を規定する.
Ⅳ-5.ライセンス
以下に、ライセンス規定に関する 6 カ国の比較表を示す.
ライセンスに関する考え方は、基本的に 6 カ国ともほぼ同じものと考えてよいだろう.
注意点としては、ライセンスの登録義務に関して、政府機関への届出を怠らないようにす
ることである.登録申請に対する審査運用については、インタビュー調査によれば、特段
の厳しい条件があるものではなく、むしろ申請によるメリットを活用することも考える価
値がある.タイのように、
「不当な販売競争条件、制限、ロイヤリティーを課してはなら
ない」という規定を有する国もある.ライセンス条件によっては、「長官に拒絶権限」
を有する場合もある.
ライセンス
特許法第 77 条
専用実施権者は、設定行為で定めた範囲内で実施をする権利を専有する.
日本
専用実施権は登録により効力を生じる.
専用実施権は特許権者が実施する事業とともに移転できる.
専用実施権は特許権者の承諾により通常実施権を設定できる.
特許法第 12 条
如何なる単位又は個人も他人の特許を実施する場合には、特許権者と書面による実
中国
施許諾契約を締結し、特許権者に特許実施料を支払わなければならない.被許諾者
は契約に定める以外の単位又は個人にその特許の実施を認める権利を有さない.
特許法施行細則第 88 条
特許実施許諾契約の届出は、国務院特許行政部門に登録する.
韓国
特許法第 101 条
特許権又は排他的ライセンスの許諾、移転等は、登録しなければ効力が発生しない.
42
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ライセンス
(続き)
特許法 38 条、39 条、41 条
ライセンス付与において、特許権者は、不当な販売競争条件、制限、ロイヤリティ
タイ
ーを課してはならない.
特許期間満了後にロイヤリティーを請求してはならない.
ライセンス契約及び特許の譲渡、書面によることを要し、省令に定める要件及び手
続きに従って登録しなければならない.長官は不当なライセンスを拒絶できる.
特定の取引先を義務化する条項、販売価格を定める権利を許諾者が留保する条項、
生産量制限条項、非排他的ライセンスにおいて競合する技術の使用を禁ずる条項
使用しない特許に基づきロイヤリティーを要求する条項
フィリピン
許諾者の侵害訴訟責任を回避する条項
知的財産権法第 92 条
第 86 条、87 条の規定を満たす技術移転取り決めは、資料・情報・技術移転局に登録
することを要さない.第 86 条、87 条の規定を満たさない技術移転の取り決めは、登
録が必要となる.
知的財産権法第 133 条
省庁や省庁レベルの機関は、国家のために、発明の所有者やライセンシーの許可を
得ることなく、公的な非商業的な目的、国家の防衛、安全、病気の予防、治療、人々
への栄養のためのそれぞれの経営の分野における発見を使用する、もしくは他の組
織や個人に使用を許可するものとする.
知的財産権法第 145 条(発明の強制ライセンシングの基礎)
a)発明が、国家防衛、安全保障、国民の健康、栄養、その他社会の緊急の要請を
満たすような、公的で非商業な目的である場合
b)第 136 条第一段落、第 142 条第 5 段落に規定されているような発明の出願登録
の出願日から 4 年が満了する、そして発明特許の発行の日から 3 年が満了する場合
ベトナム
において、発明を使用する排他的権利の保有者がこのような発明の使用義務を満た
すことに失敗した場合
c)発明を使用したい人が、適切な価格と商業的な考慮のもとで、合理的な期間、交
渉の努力を払ったのにもかかわらず、排他的権利の保持者と合意することに失敗し
た場合
d)発明を使用する排他的権利の保有者が、競争法のもとで禁止されている反競争法
令を実行しようとしている場合
本条項の第 1 節に規定されている強制ライセンスの基礎が、終了により発明のライ
センシーにとって不利とならない条件で、終了しそして、繰り返されそうにもない
場合において、発明を使用する排他的権利の所有者は、このような使用権の終結を
要求する権利を有する.
43
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強制実施権
(続き)
知的財産権法第 146 条
半導体技術に関する発明に関しては、強制的なライセンシングは、公共の非営利的な
ベトナム
目的、もしくは競争法のもとでの反競争的な法令のみを目的とするものとする.
(続き)
知的財産権法第 136 条
第 145 条、146 条に規定されているように、国家権力は他者に対して発明のライセン
スを認めることができる.
Ⅳ-6.権利譲渡
以下に、権利譲渡の規定に関する 6 カ国の比較表を示す.
国際的産学連携の研究成果の商業化段階にあっては、実際に事業を受け持つ企業または
新たに設立したベンチャー企業などへの権利譲渡の必要性が出てくる場合もある.権利譲
渡には登録が必要であり、万一、権利侵害が発生した場合に訴訟的確についての問題が出
てくるため、この点もしっかり抑えておく必要がある.実施権の設定が良いか権利譲渡が
良いかについても関係法令を確認したうえで、また必要があれば、現地の弁護士を含めた
検討が重要である.
権利譲渡
特許法 98 条
日本
特許権の移転(相続その他一般承継による場合を除く)の場合には、これを登録し
なければ、その効力が発生しない.
組織または個人が、特許を受ける権利または特許権を譲渡する場合は国務院関係所
中国
管部門の承認および登録が必要
譲渡は登録日から効力を生ずる.
特許法第 99 条
特許権が共有の場合は、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を
譲渡し、又はその持分を目的とする質権を設定することができない.
他の共有者の同意を得ないでその特許発明を自ら実施することができる.
韓国
他の共有者の同意を得なければ、その特許権の排他的ライセンス又は非排他的ライ
センスを許諾することができない.
特許法 101 条
特許権の移転(相続その他一般承継による場合を除く)の場合には、これを登録し
なければ、その効力が発生しない.
44
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権利譲渡 (続き)
特許法第 41 条
タイ
特許の譲渡は書面によることを要し、省令に定める要件及び手続きに従って登録し
なければならない.
知的財産権法第 104 条
譲渡は、特許及び特許に係る発明における若しくはそれらに対する権利、所有権若
フィリピン
しくは利害関係の全体について、又は特許及び発明の部分についてすることができ、
後者の場合において、関係者は共同の特許権者となる.
譲渡は、特定の地域に限定してすることができる.
知的財産権法第 148 条
産業財産権の譲渡の契約は、産業財産権の国家、行政機関への登録においてのみ有
ベトナム
効となる.
知的財産権法第 98 条
産業財産権譲渡契約の登録における決定は、産業財産に関する国家登録に全て記録
されるものとする.
Ⅳ-7.強制実施権
以下に、強制実施権の規定に関する 6 カ国の比較表を示す.
強制実施件に関する規定および運用については、アジアにおける発展途上国では慎重な
対応が求められる.WTO の TRIPs 協定における議論でも、発展途上国の国益に関する事項と
して詳細な議論がなされている事項である.先進国においては、とかく忘れがちな条文で
あるが、各国の条文を見てもわかるように、詳細な規定がおかれている.国際的産学連携
の研究成果について、国家権力によって第三者に実施権を設定されてしまっては、その後
の連携に影響が出てくる.強制実施権のことを考えると、むやみに国際的産学連携を研究
レベルだからといって安易に進めるのではなく、商業化主体を含めた議論を早いうちに進
めておくことの必要性を感じるところである.
強制実施権
特許法第 93 条
特許発明の実施が公共の利益のために必要であるときは、その特許発明の実施をし
日本
ようとする者は、特許権者又は専用実施権者に対し通常実施権の許諾について協議
を求めることができる.
前項の協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、その特許発明の実
施をしようとする者は、経済産業省の裁定を請求することができる.
45
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強制実施権
(続き)
特許法第 14 条
国有企業、事業単位の発明特許が、国の利益又は公共の利益にとって重要な意義を
有する場合には、国務院の関係主管部門及び省・自治区・直轄市人民政府は国務院
の認可を得て、認可の範囲内で普及・応用を決定し、指定単位が実施することを認
めるものとする.また実施単位は国の規定に基づき特許権者に実施料を支払うもの
とする.
中国
特許法第 48 条、第 49 条、第 50 条
合理的な期間に許諾を得ることができなかった場合
国に緊急事態または非常事態が発生
経済的意義の著しく重要な技術進歩
特許法第 55 条
特許権者及び強制実施許諾を取得した単位又は個人が、国務院特許行政部門による
強制実施許諾の実施料に不服がある場合は、通知を受け取った日から 3 ヶ月以内に
人民法院に訴訟を提訴することができる.
特許法第 41 条
国防上必要な場合には、その発明を秘密として取り扱うことを命じることができる.
また特許の付与を拒絶することができ、また特許を受ける権利を収容することがで
きる.
特許法第 106 条
戦時、事変、非常時
経済的価値のある重要な技術的進歩
特許法第 107 条
韓国
特許庁長に非排他的ライセンス許諾に関する裁定を請求することができる.ただし
(ⅰ)及び(ⅱ)に基づく裁定の請求は、その特許発明の特許権者又は排他的実施
権者と協議をすることができず、又は協議において合意がなされない限り、するこ
とができる.
(ⅰ)特許発明が天災地変、不可抗力その他大統領令で定める正当な理由がある場
合を除き、継続して 3 年以上大韓民国内で実施されていない場合
(ⅱ)特許発明が正当な理由なしに継続して 3 年以上大韓民国内において相当な規
模で業として実施されなかった場合、又は適正な程度までかつ適切な条件で特許発
明に対する国内需要を満たすことができなかった場合
ただし特許発明の出願日から4年を経過していない場合は、これを適用しない.
46
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強制実施権(続き)
特許法 46 条
何人も、申請の時点で特許権者が次の通りその合法的権利を不当に行使していない
と思われる場合は、特許の付与から満 3 年後、又は出願の日から満 4 年後の何れか
遅い時期に随時、長官にライセンスを申請することができる.
正当な理由なく、本国内で特許製品が製造されていないとき、又は特許が利用され
タイ
ていないとき
国内で不当に高い価格で販売されているとき
公衆の需要を満たしていないとき
状況に見合う条件、対価を提示したが、合理的な期間に合意に達することができな
かったとき
公共消費のためのサービス、国防にとって極めて重要なサービス、天然資源若しく
は環境の保護若しくは実現のためのサービス、食料、医薬品等
知的財産権法第 74 条第 1 項
政府機関又は政府の許可を得た第三者は、特許権者の同意がなくても次の場合には
発明を実施することができる.
(a)政府の適当な機関が定める公共の利益、特に国家の安全、栄養若しくは健康
又はその他の分野の発展のために必要な場合
(b)特許権者又は実施権者による実施の態様が反競争的であると司法機関又は行
政機関が決定した場合
知的財産権法第 93 条
国家非常事態その他の極度の緊急事態
国家の安全、栄養、健康、国の経済その他重要な分野の発展のために必要な場合
フィリピン
特許権者又はその実施権者による実施の態様が、反競争的であると司法機関又は行
政機関が決定した場合
正当な理由なくしてフィリピンにおいて商業的規模で実施されていない場合
状況に見合う条件、対価を提示したが、合理的な期間に合意に達することができな
かったとき
半導体技術に係る特許の強制実施許諾の場合には、反競争的と決定された行為を是
正する目的のためのみ
知的財産権法第 94 条
強制実施権は、93.5(正当な理由なくして、商業規模で実施されていない場合)に
いう理由に基づく場合については、出願日から 4 年の期間又は特許日から 3 年の期
間のうち遅く満了する期間が満了するまでは申請することができない.
47
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強制実施権
(続き)
知的財産権法第 95 条
第1項
実施権は、申請者が合理的な商業上の条件の下で特許権者から許諾を得る努
力を行ったにもかかわらず合理的な期間内にその努力が成功しなかった場合に限り与
フィリピン
える.
(続き)
知的財産権法第 96 条
半導体技術に係る特許の強制実施許諾の場合には、実施権は、公的な非商業的使用の
場合において又は司法上若しくは行政上の手続きの結果反競争的と決定された行為を
是正する目的のためにのみ与えることができる.
知的財産権法第 133 条
省庁や省庁レベルの機関は、国家のために、発明の所有者やライセンシーの許可を得
ることなく、公的な非商業的な目的、国家の防衛、安全、病気の予防、治療、人々へ
の栄養のためのそれぞれの経営の分野における発見を使用する、もしくは他の組織や
個人に使用を許可するものとする.
知的財産権法第 145 条(発明の強制ライセンシングの基礎)
a)発明が、国家防衛、安全保障、国民の健康、栄養、その他社会の緊急の要請を満
たすような、公的で非商業な目的である場合
b)第 136 条第一段落、第 142 条第 5 段落に規定されているような発明の出願登録の
出願日から 4 年が満了する、そして発明特許の発行の日から 3 年が満了する場合にお
ベトナム
いて、発明を使用する排他的権利の保有者がこのような発明の使用義務を満たすこと
に失敗した場合
c)発明を使用したい人が、適切な価格と商業的な考慮のもとで、合理的な期間、交渉
の努力を払ったのにもかかわらず、排他的権利の保持者と合意することに失敗した場
合
d)発明を使用する排他的権利の保有者が、競争法のもとで禁止されている反競争法令
を実行しようとしている場合
本条項の第 1 節に規定されている強制ライセンスの基礎が、終了により発明のライセ
ンシーにとって不利とならない条件で、終了しそして、繰り返されそうにもない場合
において、発明を使用する排他的権利の所有者は、このような使用権の終結を要求す
る権利を有する.
Ⅳ-8.出願言語
以下に、出願言語の規定に関する 6 カ国の比較表を示す.
研究成果物について知的財産権を取得する際の最大の問題が出願言語といっても良いか
も知れない.英語での出願を受け付け、これを原本として扱ってもらえるのは、フィリピ
48
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ンだけである.他のすべての国において、原本となる言語は各国の言語である.すなわち、
外国語で出願された場合には、これを現地語に翻訳したものが原本となるため、翻訳ミス
が、権利範囲に大きく影響してしまう場合があり、現実の外国出願では深刻な問題になっ
ている.幸い、国際的産学連携の場には、現地の人材の参加があり、現地語での詳細なチ
ェックが可能である.資金面から知的財産権取得は日本側のみでという対応は好ましくな
い.適切な権利取得も国際的産学連携の成果として考えるべきであろう.
出願言語
特許法第 36 条の2
明細書、特許請求の範囲、必要な図面、及び要約書に関しては、「外国語書面出願」
日本
をすることができる.
この場合には出願人が特許出願の日から 2 ヶ月以内に日本語による翻訳文を、特許庁
長官に提出しなければならない.
特許法施行細則第 4 条
中国
各種書類には、中国語を使用しなければならない.
外国の人名、地名及び科学技術用語に統一的な中国語の翻訳語がないものについては、
原文を注記しなければならない.
特許法施行細則第 4 条
韓国
基本的には韓国語で提出
委任状、国籍証明書、優先権主張に関する書類等外国語で記載した書類には、その書
類の提出時に韓国語に翻訳した翻訳文を添付しなければならない
特許法施行細則第 12 条
原則としてタイ語で提出
提出すべき書類が外国語である場合、出願人はその書類をタイ語の翻訳文と共に提出
しなければならない.
タイ
出願人が既に外国で特許又は小特許の出願を行っている場合、出願人は、発明の説明、
クレーム及び要約を原出願における外国語で提出することを要求することができる.
特許法施行細則第 15 条
委任状、又は証明書が外国語である場合は、そのタイ語への翻訳文を、当該委任状及
び証明書の翻訳文が正確であることの翻訳者及び代理人による認証を添えて添付しな
ければならない.
フィリピン
知的財産権法第 32 条
出願はピリピーノ語または英語でなければならない.
49
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出願言語(続き)
知的財産権法第 100 条
出願者と知的財産権の国家行政機関との間における産業財産登録出願と伝達文書はベ
トナム語で作成されなければならない.
ベトナム
ただし以下の場合には他の言語で作成することができるが、国家行政機関の要請に応
じ、翻訳するものとする.
a)委任状、b)登録の権利を立証する文書、c)優先権を立証する文書、d)出願
に役立つ文書
―参考文献
AIPPI・JAPAN:外国工業所有権法令集
50
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第Ⅴ章
国際的産学官連携に関する当該国における現状及び当該国訪問によるニーズ調査
第 IV 章までの既存文献による調査を踏まえ、対象 5 カ国の関連機関に対して訪問調査を
実施した.以下に、その概要をまとめた.
Ⅴ-1.中国
Ⅴ-1-1.中国清華大学(Oversea R&D Management Office 清華大学)
清華大学の産学連携の仕組みは 4 つ
① 国内企業との連携
② 外国企業との連携
③ 政府との連携(IT等国家戦略に関するもの)
④ 特別プロジェクト
外国企業が清華大学と連携する目的は 4 つ
① 清華大学の技術を導入すること、外国で研究開発するよりも安価に成果物を入手できる
こと、言わば、Outsourcing
② 清華大学の優秀な人材を獲得すること
③ 清華大学との共同研究には、中国の巨大市場のニーズが反映される、市場としての捉え
方
④ 人脈作り(会議では具体的に触れられなかった)
清華大学の教授クラスについては、外国企業に長期派遣されることはない.むしろ、外
国企業の研究開発者が清華大学の教授の下で共同研究を進めている.清華大学の学生をイ
ンターンとして長期派遣するケースはある.外国企業と中国の大学の連携の大きな成果は
海外からの資金調達と言って良い.
中国の国内企業と外国の大学が共同研究することのニーズはほとんどないと言ってよい
だろう.ただし、中国企業、外国大学、中国大学という組み合わせはあり得るだろう.中
国の国内企業については、外国企業にとっては安価な製造拠点という役割しかなく、技術
移転が適切に推進されているとは思えない.そのような状況において、中国の大学が一緒
に参加する仕組みは、中国企業への適切な技術移転を促進する可能性は大きい.この場合、
中国の大学は、外国の企業の保有技術を中国国内に真に根付かせる手伝いができると思う.
今後の姿になるだろう.
産学連携をスムーズに推進するために重要なこととして、産学連携のマネジメントを強
化することが挙げられる.清華大学には、SACC という産学連携の役員会のような組織を意
思決定の舞台としており、ここでは、すべての参加企業及び研究者を含めた上での方向付
けがなされる.決められた方針についての成果物の評価もここで行なっており、産学連携
の結果に結びつけられる.
51
Tokyo Institute of Technology
Ⅴ-1-2.中国国家知識産権局(International Cooperation Department, Patent Licensing
Department, State Intellectual Property Office of P.R.C; SIPO)
中国特許法には、ライセンスの登録制度があり、これは強制的ではないが、登録により、
外為上の優遇措置、関税での優遇措置などが適用される.そもそもの登録制度の目的は、
特許権の適切な保護および市場管理である.登録には、特許証のコピー、ライセンス登録
申請書、書面契約書の写しが必要であり、契約時点から 3 ヶ月以内に届け出をしなければ
ならない.登録件数は年間 100 件程度で、それほど多くない.あくまでも中国で成立した
特許権についてのライセンスであり、中国での出願および権利化が前提となる.出願せず
の実質的に技術移転しようとすれば、それは危険なことになる.実務的な対応をしておか
なければならない.
(中国への出願については、明細書および特許請求の範囲の翻訳の適否、権利化までの時
間などが大きな問題になっており、適切な権利化を前提とする技術移転はかなり難しいか
もしれない.技術流出があったとしても法的な救済を求めることが難しいことになる.ま
ずは、技術移転の目的をはっきりさせて、その目的の達成と中国企業の技術力強化とのバ
ランスをどのように捉えるかについて、しっかりとした議論をしておく必要がある.)
技術移転を専門に行なう民間企業としては、特許技術開発会社(正式名称は要確認)が
あり、ウェブで要検索.
国際的産学連携に関する法令等、契約法、トレードシークレット法、対外貿易法、技術
移転条例、貿易法、特許法、著作権法、コンピュータソフトウェア保護法等を確認する必
要がある.所管官庁としては、技術契約という点では商務部、技術移転という点では科学
技術部、中国科学技術院になる.研究協力という点では中国科学技術院(ここは研究所)、
また、地方の知識産権局も技術移転促進機関の役割を担っている.
Ⅴ-2.韓国
Ⅴ-2-1.Korea Technology Transfer Center: KTTC, 韓国技術移転センター
Technology Evaluation Division, KTTC
Technology Infrastructure Division, KTTC(技術移転の基盤作りの役割)
Gyeongbuk(慶北)Technology Transfer Center (RTTC の一つ)
(韓国政府指定の技術移転機関の一つで、慶北地域の技術移転を担当)
Beijing Gyeongbuk Techno Mart
(北京・慶北地域の技術移転を担当)
Overseas Marketing Coordinates, Global Marketing Division
(技術取引、大学―企業の橋渡し、RTTC に対する支援)
①全般
KTTC のネットワークについて
韓国のネットワーク
52
Tokyo Institute of Technology
・8の RTTC(地域技術移転センター)
・韓国産業技術協会
・中小技術振興公団
・テクノパーク、公共 R&D 団体、大学
・ベンチャーキャピタル、銀行、一般投資者
海外ネットワーク
・海外技術移転支援センター
―5 カ国(中国、米国、日本、ロシア、マレーシア)での8の OTTC
・パートナーシップ協約の下で、外国で KTTC を代表
・技術移転関連協力
②サービスについて
技術移転
・技術移転と知的財産権ライセンシングを通じた新製品及びビジネス化支援
・公共研究機関開発技術に対するビジネス化支援
・国内技術の海外輸出及び海外技術導入支援
・技術特許、知的財産、事業化段階、技術説明、技術応用などの様々な技術情報サービ
スの提供
技術評価
・企業の技術力及び事業性評価を通じた技術価値評価
・産業分野及び特性別に KTTC の自主評価モデルの開発
・技術水準、市場性、経営能力、無形資産、技術開発能力などを総合的に考慮した技術
評価システム提供
技術金融
・創業を準備している優秀な技術を有した企業や研究所に対する M&A 支援
・分社、合併、売却、買収などの企業構造調整戦略支援
・創業企業に金融機関からの投融資斡旋及び初期創業資金支援
・技術購買及び再加工を通じた技術商品化促進事業支援
技術事業化
・顧客に新しい技術市場の紹介
・最高の技術評価サービス提供
・顧客のビジネス価値を最大化できるビジネスモデル開発
・企業を対象にグローバルネットワークを通じた新技術保育基盤事業の実施
・投資者、技術販売者、購買者のための技術マーケット作り
・初期段階の創業企業への投資を重視
・金融機関、銀行、ベンチャー金融会社などと広いネットワークを構築
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技術マーケティング
・オンライン技術取引を通じた多様なビジネスチャンスを提供
・技術販売者と購買者間の効率的な連携
・2005 年 12 月基準、21000 件以上の優秀技術情報保有
・技術説明、技術活用、知的財産権、技術発展段階、ライセンス条件などの総合的な技
術関連サービス提供
・月に 1 から 2 回の定期的なオフライン技術取引マーケットを開催
・投資者、技術購買者、販売者に効率の高い技術取引をしてもらうために技術マーケッ
トを開催
韓国でも、KTTC の役割は、研究開発がいかに投資を増やしていくかということが中心
であった.R&D 投資の成果である技術をもとに事業化するところまで力が及ばなかった.
大学や国立研究所の中にも TLO が設置されているが、研究活動自体が中心となっており、
成果としての技術を事業化していこうという活動には躊躇している感がある.ただし、
技術移転に対しては、政府も極めて前向きであり、今後の進展を期待するところである.
KTTC は、官民共同出資の特別財団であり、政府からの投資及び自己利益をもとに、
年間 130 億ウォン(100 円≒750 ウォン)の支援事業を行っている.自らの年間利益は、
50 億ウォン程度である.また日本の経済産業省にあたる産業資源部によって作られた
組織である.当初は R&D 投資が中心で技術取引に結びついていなかったため、まずは
2000 年に NTB(National Technology Bank)の DB 構築により、技術移転を対象とす
る技術情報のオンラインサービスを開始した.その上で、各種インフラ整備に着手し
た.技術移転は、民間に全て任せていてはリスクもあり進歩しない.そこで、半分程
度は資金面での支援を政府から行い、2003 年からは、各地に地域技術移転センター
(RTTC)を設置し、地域の企業の技術導入又は導出に協力できる体制を整備した.海
外に技術を輸出するための説明会も開始した.2006 年からは TLO への支援も RTTC が担
うこととなった.
KTTC は4つの部門から成り立っている.
1)企画推進本部
2)基盤調整(整備)本部(この部門は、100%国の出資により運営)
3)技術評価本部(民間資金(民間企業からの技術評価依頼による収益)50%、政府
資金 50%、年間 25 億ウォン程度))
4)金融部(民間資金 50%、政府資金 50%)
今後は独自投資に力を入れていく.またコンサルティング能力を高め、New business
Model を構築し、有望な投資先を検討していく.
KTTC 全体では、40~50%が政府からの支援(純粋な支援金に加えて KTTC として
競争的資金に申請し、資金調達をしている)であり、残りが民間からの収益である.
KTTC の活動内容としては、
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・NTB データベースの構築
・新技術販売促進支援
・国内の地域技術移転と海外ネットワークの構築
・専門人材養成と支援
・常設技術移転説明会(年 2~3 回)
・ネットワークの活性化
③地域技術移転センターRTTC(TLO)
RTTC は、技術移転促進法第 9 条に基づき、公共研究機関に対する支援を行っており、
国の研究機関の技術成果を民間に活用させる役割を担っている.
RTTC と地方自治体との共同事業
また博士登録者の 80%を登録しており、技術系人材の登用を支援している.
2003 年からは、全国に 8 ヶ所の地域テクノマートを設置し、支援事業を始めた.
2006 年からは先導的技術移転支援として、全国の大学 TLO 約 100 ヶ所と国立研究機関
の TLO 約 50 ヶ所のうち、18 の優秀な大学の TLO を支援している.選択と集中でこれ
から成果を出してくところである.
先導的 TLO を選定して、育成し、技術力を高めていくことが必要であり、国家的均衡
を考慮した CK21 事業を推進している(CK: Connect Korea).これまで大学は資金獲
得のみを目的としており、大学の技術成果を社会に還元していないとの批判があった.
大学も事業活動に参画すべきとのことで、従来は学術振興財団が一括して資金活動を行
ってきたが、現在は KTTC からも大学を支援しており、KTTC と学振が共同して活動を推
進していくことが期待されている(日本も、文部科学省、学振からの支援が中心であっ
たのに対して、最近は経産省、特許庁にも大学支援の組織が設置され、大学技術シーズ
の事業に期待が寄せられているが、文部科学省と経済産業省との間での協働については、
特段議論が進んでいない.Flexibility を高めていくことが必要.).
現在、KTTC として支援しているのは、大学 TLO と研究所 TLO 合わせて先導 TLO と
して 28 機関である.各大学には、産業協力団が設置されており、政府資金が毎年 8 億
ウォン投資されているが、技術移転だけで収益を上げて経費をまかなっていくことは難
しい.
韓国における技術移転に関する情報:Techmonitor.net を参照
④KTTC に対する企業側に期待
韓国企業は、大企業中小企業も含めて、製品の多角化、新製品の導入により企業競争力
の強化を進めており、新技術紹介、企業が抱える技術的課題解決へのニーズは高いとい
える.
KTTC は会員制をとっておらず、広く企業に対してニュースレターの配信、ダイレクト
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メール(1 回/週)、テクノパーク等のイベントでの説明会、新聞でのお知らせ、個別企
業訪問などを行い、相談にのっている(相談件数 100 件/週).
NTB はすべての技術情報を扱っているのに対して、企業のかかえる休眠特許専用データ
ベースも構築している.休眠特許として登録されているのは約 6000 件(全体の現存特許
が 30~40 万件、登録されている休眠特許は 2~3%).
2005 年 9 月から開始したが、2006 年末までの 1 年半で 41 件の休眠特許がライセンス
された.概して休眠特許へのニーズはあまり高くなく、NTB に対するニーズ及び有効性
の方が高いといえる.
⑤課題
KTTC のサービス提供に関連する課題は以下の通り
・すぐに使える技術が少ない
・技術的中身の乏しいものもある
・KTTC の応答をもっとスピーディーにする必要がある
・KTTC が直接資金提供できる体制があればもっと効果的に機能するが、相談だけでは
不十分.
⑥技術評価
KTTC が提供する技術評価は企業により有効に活用されている.
・技術等級評価―銀行から融資を受ける際には、国の保証基金の証明が必要であり、こ
れにより国は銀行に対して 85%まで資金協力してくれる.この保証基金の証明を得る
ために、KTTC はじめ 4 機関が技術評価を請け負っている.2006 年から開始したシ
ステムであるが、ニーズは高い.20 件(2006.9~現在)
この技術等級評価(T1~T10)は有料(1 件あたり 500 万ウォン)であり、KTTC
の収益となる.
・技術価値評価―技術移転に際して行われる価値評価で、特に海外技術導入の際に使わ
れる.費用は 1 件あたり 3000 万ウォン~9000 万ウォン.2006 年に 20 件.
特許権侵害時に請求されることもある.主観的な予測が入らざるを得ない面もある.
・事業化妥当性評価―1 件あたり 1500 万ウォン、70 件/2006 年
Ⅴ-3.タイ
Ⅴ-3-1 . Public Private Technology Development and Transfer Center, Kasesart
University
当センターが大学研究成果物の技術移転および知的財産保護を担当している.産学連携
については、基本的に企業から大学研究者に直接依頼が来る.したがって大学の TLO を通
らずにここの研究が進められているのが現状.研究者が直接依頼を受けても内容によって
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は学部、TLO と依頼案件が回ってくる場合もある.当センターに依頼が来た場合には契約関
係についての支援も行なう.契約締結に至るケースとしては、2 通りのケースがある.一つ
は、未だアイデア段階であり商品化を念頭としない研究.もう一つは、商品化を目的とし
た研究開発で、この場合には、商品化後の利益配分が大きな論点になる.
本学には、約 4000 人を超える教員、そのうち、工学系の教員が約 300 人.その墓に、研
究者が約 100 人となっており、研究者のうちの約 80%の者が政府からの奨学金により研究
を進めている.
本学の得意分野は、Computerized Numerical Control Machine: CNC であり、その他には、
12 分野の工業分野のうちの 1 分野ではあるが、農業技術も得意としている.
大学で行われている研究開発のうち約 20%は外部からの依頼で行っており、残りの 80%
は、教員および研究者自らの問題提起により進められており、この 80%のうち約 3 割は商
品化に結びついていると考えられる.外部から依頼を受ける研究開発については、当該外
部の民間企業から 20-40%の出資、政府から 60-70%の出資により、研究開発の補助を受け
ることができる場合がある.民間企業との共同研究に関する産学の温度差としては、大学
としては研究成果を公表したいが、民間としては公表に乗り気でないことがあげられ、一
つのガイドラインとして、大学で発明があった場合には、発明後 3 年間は一般に公表しな
いという体制をとっている.ソフトウェア関連の発明が多いが、特許出願をする場合はほ
とんどなく、むしろ秘密管理をしている傾向が強い.
以前に、農業技術関連で産学連携の研究開発を進めたケースがあるが、民間企業が商品
化を急ぐあまり契約違反を起こしたケースがあり、大学研究者と民間企業との考え方ある
いは開発の進め方の違いについてのトラブルもある.
本学では、学生による卒業前の Project 提案という制度があり、毎年 1000 人近くの学生
が応募する.このうち、一人の学生が選ばれ、優れたアイデアを生み出した学生を Project
リーダーとして、個別の部屋を与え会社を起業し、民間企業を選択し、産学協力でアイデ
アを商品化まで導く.大学からも Fund を与え、学生、大学、企業の 3 者で契約を結び事業
化推進を行っている.
Ⅴ-3-2.King Monghut Institute (Lartkrabang)
大学は財務省からの資金を、国立研究機関、高等教育委員会などの Research Agency を
通して受けている.各組織の Research Agency は、大学の研究成果を監査しており、優れ
た研究成果を出すと翌年の予算要求で優遇される.知的財産管理については、専門の IP 管
理部門があるが、外部の民間法律事務所にも委託している.委託事項は、ライセンス関連
が中心.
本学の研究成果は、毎週 11 チャンネルの午後 4 時からの Lartkrabang 大学によるテレビ
番組があり、ここで大学研究成果の公表をしており、ここで興味を持った民間企業が担当
の研究者のところに連絡をしてくる.以前に人工フカヒレの製造技術について成功した事
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例がある.研究成果の発表の場としては、大学研究成果発表会を毎年行っている.2006 年
11 月には、Pratheep 皇女を招き盛大な発表会を行った.研究成果の取り扱いに関する規定
は特に整備していない.大学研究者が直接民間企業とやり取りをしている.研究者の発明
をすべて大学が把握できないが、今後は、研究者の業績について発明を対象とすることに
したため、改善の方向に向かうだろう.学内に、インキュベーションセンターが整備され
ており、これは研究者に限らず学生も利用することができ、商業化プロジェクトを組むこ
ともできる.
最近の事例としては、Lartkrabang の大学の近くにある天然素材を使った Design 作品を
商品化することを狙った研究が進められている.
また、輸出先を中国に絞った新たなプロジェクトが始まっている.小魚のおつまみの製
品化プロジェクトで、魚の飼育からスタートし、食品加工、パッケージを含めた商品化ま
でのすべてを大学間の共同で進めている.それぞれのプロセスで開発された発明の特許出
願も行っていく予定である.
Ⅴ-3-3.Corporate Technology and Intellectual Property Center, SIAM Cement Group
サイアムセメントは、従業員 2000 人を有し、海外市場 50 カ国に進出するタイ国では最
大の自国企業である.石油、紙、セメント、建設、物流の 5 つの事業部を持つ.2006 年か
ら 全 社 的 に 経 営 改 革 を 推 進 し て お り 、 How to change people’s behavior, Manage
Innovation, Operational Change, Innovation Awards, Technology Roadmap, Knowledge
Management など、多くの改革を推進しているところである.1997 年の金融危機以降しばら
くの間、研究開発予算が削減されたが、数年前から研究開発への投資が活発になり、最近、
知的財産センターも設立された.現在 10 名が知的財産管理を行っている.5 つの事業部の
担当者も入れると合計 20 名程度.マネジメント、研究開発本部、人事部を一緒になって知
的財産教育を推進している.特許出願は、年間 10 件程度であり、まだ少ない.ライセンス
関係の仕事もいくつか動いている.
産学連携については、あまり前向きには考えていない.社内でできないことを委託する
ほどのレベルを期待することもできないし、できないことは、他社にアウトソーシングし
て、よりやすくよいものを調達することができる.タイの大学は、国内の SME の抱える問
題解決のために協力してあげるのが良いのではないか.ドイツ、フランス、米国の大学と
の共同研究は行っている.
Ⅴ-4.フィリピン
Ⅴ-4-1.Technology Application & Promotion Institute(TAPI), Depertment of Science
and Technology; DOST)
TAPI は、科学技術省の中に 1987 年に設立された組織であり、現在 60 名の職員がいる.
TAPI の任務は、技術の商業化促進、研究活動の推進、技術指導、ベンチャー企業の育成等
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である.全国 114 の国立大学に対する支援を行なっているが、知的財産に関する認識とし
ては、そのうちの 10%の大学において普及啓蒙を行なっている程度であり、まだ遅れてい
る.私立大学についても、10 大学で知的財産教育を行なっている程度である.フィリピン
では、知的財産の普及啓蒙活動は、CHED(Commision of Higher Education)、IPO(フィリ
ピン知的財産庁)、Ayala Foundation が中心になって進めている.2006 年 3 月 5 日から 7
日まで全国の 30 以上の大学学長を集めて全国会議を開催し、大学が、基礎研究と商業化に
ついてどのようなバランスを取っていくかに関する CHED のガイドラインを作成した.また、
各大学に対しても知的財産の重要性を認識させる良い機会になったと考えている.しかし
ながら、参加大学すべてが IP Policy を作成するまでには浸透していない.DOST としても、
Presidential Coordinating Counsel on Research and Development を組織し、全省庁、大
学、産業界等をまたがる R&D 活動の調整、R&D Budget の管理等に着手する決定がなされた
ところである.また、技術移転法案も審議にかかっているが、議会通過は選挙後になるで
あろう.TAPI としては、National Computer Center(NCC)と協力して”One Stop Shop of
Matured Technology”を推進、また、”Mine to Market Program”として、技術の商業化
推進を行なっている.今後の課題としては、技術評価手法を習得することと、関係者のス
キル向上を図っていくことである.
Ⅴ-4-2.Fujitsu Philippines
フィリピンは、日本にとって近いようで遠い国の存在かもしれない.キリスト教への信
仰心が極めて高く、Justice & Charity の意識が様々な局面に関係している.知的財産に関
する意識としては著作権のみ、特許に関する認識はほとんどないと言ってよいかもしれな
い.大学で研究された成果物について特許権を取得して排他的権利を受け市場化へ進める
という発想もないかもしれない.フィリピン人は英語が話せるという利点があり、世界企
業の管理系業務のアウトソーシングの受け皿になってきている.いわゆる Business Process
Outsourcing であるが、サービス産業において力を発揮すると思う.日本企業は、英語レベ
ルで劣っているといわざるを得ず、日本のサービス産業が国際化に勝っていけるとは思わ
ない.日本企業は、物作りの周囲をしっかりと固めてハードを機軸とするビジネスを展開
していけば世界の競争に対向することができる.富士通フィリピンとしても大学との関係
は大切にしている.ただし、共同開発というのではなく、現地で優秀な人材を確保するこ
とが目的である.産学連携としては人材確保であり、日本からフィリピンの大学に研究委
託することは全くない.昨年も 40 数名のインターンシップを受け入れた.優秀な人材が米
国に行ってしまうのも課題の一つである.特に、SE 等は高賃金で雇用され、富士通から引
っ張られてしまう場合もある.インテルフィリピンでは、6000 人を超える米国育ちの優秀
なフィリピン人が働いている.
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Ⅴ-4-3.UP-Ayala Techno Park, フィリピン大学
Techno Park は、フィリピン大学内に設置され産学連携の拠点となっている.インキュベ
ーション施設を持っており、現在 9 社が入居しベンチャー企業としての成長に努力してい
る.IT 関連企業が多く、Business Process Outsourcing をねらった起業が多い.日本の大
学の技術をもとにフィリピンでベンチャー企業を立ち上げるという可能性も大いにあると
考える.Techno Park の物理的な位置付けを変更することを考えている.理工学部のどの技
術分野の研究員とも日常的な意見交換をできるようにしてあげることが重要.インキュベ
ーションセンターへの入居者が大学の有するあらゆる智恵を活用する体制が重要.これら
の活動に加えて、海外企業に学生をインターンとして派遣するためのコーディネーター役
も行なっている.TI や Intel には多くの学生を送り込んできた.その際の秘密保持契約な
ども管理指導している.
Ⅴ-5.ベトナム
Ⅴ-5-1.国家知的財産権庁
National Office Intellectual Property, NOIP
Examination Division Ⅱ, NOIP
Legislation Official, NOIP,
Information Center, NOIP
ベトナムもようやく WTO への加盟が正式に実現した.2006 年 11 月 7 日午後 5 時に正式に
加盟が承認された.WTO 加盟を目指して国内法の整備を精力的に進めてきたが、ベトナム産
業界および大学、研究機関は、知的財産権については、まだまだ意識が低く、登録件数(2005
年における登録件数は、ベトナム企業:27 件、外国企業:641 件)も少ない.したがって、
特許権が成立した後に当該特許権に基づく技術移転契約が行なわれたケースというのは、
ほとんどないと言って良いと思う.知的財産権のライセンス登録も義務づけられており、
2005 年に、ベトナム企業間のライセンス数:77 件、ベトナム企業と外国企業:79 件、外国
企業間:22 件となっているが、これらのうち特許権に関するものはないと思う.
外国の企業がベトナムに進出してくるのは、本国の資本でベトナム国内に設立される子
会社であり、製造拠点および販売上拠点としての役割を期待したものであり、純粋なベト
ナム企業ではなく、外国企業間での技術移転しか行なわれていない.この場合には、現地
工場での社員への技術指導であり、ベトナム企業への技術移転は行なわれていない.今後
については、登録された特許権に基づくライセンスも促進していかなければならないが、
現在のところ特許ライセンスを専門に扱っている企業も存在しない.強いて言えば、特許
出願を受けている法律事務所であるが、その活動もまだまだである.
特許権に限定せず、技術の博覧会のようなものとしては、結構大きな規模で毎年解され
ている.科学技術省が開催している展示会であるが、NOIP も参加して知的財産の普及啓蒙
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活動を行なっている.
技術移転に関する監督官庁は、科学技術省の Department for Technology Assessment &
Verification という部門である.当該部門は、技術監視(Observe Technology)と新技術開
発(Invent New Technology)という任務を持っている.根拠法としては、現在のところ、Civil
Code 2005, Chapter1, Decree 11 であるが、新しい技術移転法(案)がすでにできており、
2006 年の 11 月には施行される見通しである.知的財産権法も技術移転に関連しているが、
こちらについては、2006 年 7 月 1 日付で施行された新知的財産権法を参照して欲しい.
産学間のもしくは産業間における国内、海外の技術移転に関して、何か関心のある規制は
ありますか?
2005 年 11 月以前においては、技術移転に伴うロイヤリティー額について一定の制限があ
った.産業保護の観点からであるが、すべての契約書が届出の対象になっていた.
以降の現在の技術移転関係の法令としては、Civil Code 2005, Chapter1, Decree 11 で
あるが、新しい技術移転法(案)がすでにできており、2006 年の 11 月には施行されるだろ
う.現行の Decree 11 との違いは、技術移転専門の担当組織が設立されることである.
産学間もしくは産業間における国内、海外の特許ライセンスに関して、何か関心のある規
制はありますか?
特許ライセンスの登録手続きがある.以前は強制的なものであったが、新知的財産権法
の下では、強制的なものではなく、第三者対抗要件の有無の違いがでるだけである.
他に関連すると言えば、職務発明に関して移転された場合の対価の支払い義務がライセ
ンスまたは譲渡によってどのように影響を受けるかである.これまでは事例があるわけで
はないが、今後は検討事項になると思う.
技術移転、パテントライセンスに関して、NOIP における現在の組織、機能、プロセスは何
でしょうか?
NOIP にも関連部門として、Dept. of Support & Consultation という部門があるが、出
願に当たっての相談などへの対応程度であり、活発に技術移転の支援に取り組んでいるわ
けではない.
もうひとつは、NOIP の IP Information Center である.ベトナムには、National S&T
Information Center という組織があり、毎年開催される展示会に参加して知的財産権の普
及啓蒙をしている.特許のライセンスの促進にまで成果が出ているとは言い難いところで
ある.Techno Mart では、多くの技術が紹介され、産業振興の一翼を担っていると言えるだ
ろう.
ベトナムの大学においても、TLO(Technology Licencing Organization) の設立の検討が
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進んでいる.しかしながら、ベトナムの大学では、特許権の取得者についてのルールが未
だ出来ておらず、原則的には発明者である研究者が自ら特許権を取得している状況である.
TLO が設立された場合には、このような内部ルールの構築からはじめなければならない.
今のところ、研究者個人が所有する特許について、大学 TLO が企業に対してライセンスす
るという活動は出てこない.TLO 自身も特許ライセンスのために設立されるわけではなく、
特許権とは離れた技術移転が中心になる.
ベトナムには技術移転やパテントライセンスをサポートする公的もしくは私的機関は何か
ありますか?
専門の特許ライセンス民間機関はない.出願の依頼を受けている特許事務所が、多少役
割を期待されているのではないだろうか.特許事務所としては、クライアントからの依頼
があれば協力する程度.
技術移転やパテントライセンスの今までの結果や、将来の期待は何でしょうか?
特許権に基づいて新会社を立ち上げたケースがある.事例は、後日調べて資料を送る.
新技術をもとにベンチャー企業を立ち上げたいというニーズはある.コーディネーター
やアドバイザーがいないため、現実的なものにはなっていないようだ.要求も多くない.
技術移転やパテントライセンスに関して、何か障害はありますか?それは法的な障害でし
ょうか.現場や商業的な障害でしょうか.
いくつかの障害がある.
①資金調達の困難性
②知的財産権に対する認識不足
③発明自体が無い、技術レベルが低い
④技術移転に対する要求が低い
⑤協同発明に関する取り扱い
我々はこのような障害に打ち勝つことができるのでしょうか?できるとすればそれはいか
に行うべきでしょうか?
法律上の障害というのはあまり無いと思う.問題は、技術移転の要求が無いこと.要求
があるならば、解決できない問題は無いだろう.
Ⅴ-5-2.Institute of National Products Chemistry Vietnam Academy of Science and
Technology
本研究所は、天然生物から化学的にエッセンスを抽出し各種傷病へ適用できる天然薬品
を研究開発している.GCMS(カスクロマトグラフ質量分析計)、ATLC などの設備を有してい
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る.実験のみに留まらず、実証ベースのパイロットプラントも保有している.Example:
Anti-Micro bio, Anti-Bacteria, Anti-Malaria.アンチマラリアについては、Ministry of
Health に技術移転を行い医薬会社が設立された.移転前に特許出願をしていたわけでもな
く、と言っても、当時は、特許で技術的アイデアを保護するという仕組み自体に認識が無
く、実験データ、抽出成分、関連するすべての知識を提供したケースであう.10 年ほど前
の事でした.
それ以降、NOIP の方からの説明などあり、特許取得の必要性についても少しずつ理解し
てきている.出願するか否かについては、もっぱら研究者にかされており研究所としての
権利取得という考えはないし、そのためのルールも無い.自分自身は 2 件の特許権と出願
中のもの 1 件がある.
外国の研究所や起業との共同研究については、意欲はあるがいろいろ障害がある.なん
といっても大きいのが資金調達.以前、欧州企業から共同研究の申し出があったが、当時
は国際的共同研究に関する知識不足もあり進まなかった.もちろん自らの技術を保護して
おく必要性についても認識が無かった.
国際共同研究の障害事項は特に無い.むしろ、意義が大きい.
①国際的に科学技術知識の交換が出来ること
②共同開発による大きな成果が期待できること
③資金調達が出来ること
④知的財産権に関する知識習得が出来ること
Ⅴ-5-3.ハノイ工科大学、Science & Technology Office
ベトナムの大学と日本の企業との間の連携は、現在どのような状況ですか?
ベトナムの大学と日本の産業界とのコラボレーションは現在どのような状況でしょうか?
ハノイ工科大学は、これまで海外の大学または外国企業との連携も多少は行なっている
が、そもそも緒に就いたばかりであり、順調に進んでいる状況ではなく十分とも言えない.
産学連携を進めなければならないという認識は持っている.
コラボレーション、技術移転に関してベトナムの大学における現在の組織、機能、プロセ
スはどのような状況でしょうか?
組織的な TLO を未だ設立していないし、設立するにしても TLO の役割も明確になってい
ない.したがって、現状では、研究者の成果物については、研究者自らが独自に特許出願
をしており、研究者から産業界への技術移転についても大学が何ら関与せず行なわれてい
る.出願自体についても研究者自らが行なっているようであり、いくつかのケースについ
ては外部の特許事務所に依頼して行なっているようである.特許権侵害事件というのは
我々には全くポピュラーでない.
2006 年 7 月 1 日に、新しい知的財産権法が施行された.今後は、研究成果を知的財産権
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Tokyo Institute of Technology
として保護していくことについて認識は徐々に高まっていくことと思うし、加えて、技術
移転も少しずつ進んでいくと期待している.昨年、ハノイ工科大学の科学技術部(Science &
Technology Office)に小さいながらも IP Unit というのを設けた.米国や日本のようには
できない.現在のところ、知的財産権の取得に関する支援を研究者に対して行なっている
だけである.ただし、2005 年から 2006 年現在までに、全学で 20 件以上の出願を行なった
ようである.これらについては、ハノイ工科大学の名前で出願をしている.
連携や技術移転をサポートする公的もしくは私的機関は何かありますか?
ベトナムには、技術移転を専門に扱う機関はないと思う.
連携における今までの結果と、将来への期待はありますか?
ハノイ工科大学には、17 の Research Center と 6 の Institute および 2 つの会社がある.
大学発の技術の商業科による収益の 2.5%のロイヤリティーがこれらの会社に還元され、
また、数%が Research Center または Institute に還元され、残りは大学に入ってくる仕
組みで運営している.問題は、発明者補償に関するルールが全くできていないことである.
研究者のモチベーションダウンにも繋がってしまうため、早急に学内ルールの作成をしな
ければならない.今後充実させていきたい.これらの大学発ベンチャー企業は、すべて大
学によって管理運営されている.特許権に基づく起業ではない.
日本企業との連携する際のベトナムの大学の真のニーズは何でしょうか?
日本の大学または企業との協力は大いに期待している.これまで、共同研究までいった
ケースは一つもない.共同研究 Co-research ができれば新しいステップになると思う.ま
た、ベトナムの研究者またはベトナム企業が日本で特許を取得できるようにもなりたい.
日本での制度実務に関しても勉強していかなければならない.
産学連携に関する障害は何かありますか?それは法的な障害ですか.現場や商業的な障害
でしょうか?
大学と産業界が連携する際に問題となるような障害はないと思う.むしろ、新たに技術
移転法が施行されるということなので、将来は、技術移転がスムーズのなると期待してい
る.
技術移転上の障害ではないが、まずは、ベトナムでは、研究成果を知的財産権で保護す
るという認識が低いことである.そもそも自国の技術が商業化または産業発展に貢献でき
るという考え方も十分に認識されていない.さらに、大学の研究者は自分で直接産業界と
コンタクトしており、効果的でなく、自らのアイデアを商業化することは大変難しいこと
であり、これを研究者自身がわかっているので、なお悪い方向に動いている.
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Tokyo Institute of Technology
我々はこのような障害に打ち勝つことができるのでしょうか?できるとすればそれはいか
に行うべきでしょうか?
障害はないと思うが、実行を徐々に充実させていく.
知的財産権に対する認識を高めること、TLO の機能を支援し充実させること、日本のトッ
プの大学に代表団を派遣して勉強させたい.是非、我々の訪問を受け入れていただきたい.
国際的技術移転をコントロールするために、ベトナムにはどのような種類の法律がありま
すか?
新たに技術移転法が施行されると聞いている.
発明の機関帰属と発明者への報償については?
発明の機関帰属と報償については、新技術移転法の制度運用にあたり、大学における IP
の扱い、技術移転について、国家知的財産権庁とも相談して決めた.IP の教育についても
協議している.
企業との連携に関しては、2つの流れがある.一つは大学が特許をとって企業に流すと
いう公式の流れと、それよりもより一般的な非公式な流れがある.科学技術省は大学に対
して、実行する前に分析するようにと要請している.科学技術省と大学が協力し、協議す
るようになっている.我々は今まで特に規則は作ってこなかったが、大学の資産に関して
も、大学と政府との関係においても将来規則を作る.我々にとってこれは課題である.
研究者や研究所でできたものは大学に帰属し、55%(最大で 70%)が教官に帰属し、45%
が大学に入る(教官の個人収入になる).IP 法、技術移転法が制定されたが、この法律では
10%~30%が研究者の収入になることになっている.しかしこれでは十分でない.大学ご
とに規制を作っていくことが必要である.ベトナムとしては、①TLO を組織する、②結果を
ウェブサイトに載せる.③Tech-mart の活用が必要となってくるであろう.
教官は大学が規制することを好まないだろう.しかし 2006 年には 20 の特許が大学の所有
となった.スカラシップやトレーニングサポートがあれば、この流れをより完全なものに
することができる.
Ⅴ-5-4.Tran H.N. & Associates (Law Firm)
Civil Code 2005, Chapter1, Decree 11 に基づき、IPR ライセンス、商業化のための技
術移転、ノウハウまたは技術コンサルティングなど、あらゆる形態の技術移転が届出と登
録の義務を課せられている.これは、無理な支払い義務を排除するためのロイヤリティー
限度額の確認、環境への悪影響を及ぼさないことの確認であるが、強制的なものである.
ただし、この Decree 11 は、2006 年 1 月に一部改正されており、外国から入ってくる技術
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については緩和され容易になってきたと考える.外国に出て行く技術については、以前、
厳しい監視下にあると言える.
ベトナムの研究者は、十分に動機付けされているとは言い難い.研究のためのインフラ
ストラクチャーは全くできでいない.GDP の 2%が研究費であり、十分な設備を導入できな
い.また、研究者自身が知的財産権について知らなすぎる.所属する組織内での発明者へ
の補償の規定もない.
Ⅴ-5-5.Mekophar Company
今年で創業 25 年目を迎えている.従業員は 600 人.ベトナムの製薬関連の企業の中では
トップ企業のうちの一つであり、様々な製品を販売している.例えば infusion(点滴、注
入液等)である.ハノイに支店がある.毎年 15%の成長を達成しており、昨年の営業利益
は 500billion ベトナムドン.海外市場としては、ナイジェリア、コンゴ等のアフリカ諸国
や、ミャンマー等に輸出し、5 million US ドルの収益をあげている.技術者:R&D20 人、
製造従事者:400 人、品質管理従事者:30 人
優秀な人材を確保するために、ベトナムで行うべきことは何ですか?
給料の問題もあるが、最も大切なことはコミュニケーションであり、経営者と従業員の
behavior(応対の仕方)であると考えている.
そもそもベトナムの大学との間で連携はありますか?
まだあまり大学とは繋がっていない.薬学の大学はあまり近代的ではない.より高度な
技術を有した大学が必要であろう.現在では外国の企業がわが社に製品を売る(ローマテ
リアル、製造、設備等)ことが主である.ただし日本の企業はあまりいない.海外の企業
との間にジョイントベンチャーが作られたが、大学・研究所との繋がりはあまりない.
ベトナム企業は知的財産をどの程度重視していますか?
ベトナムでは商標は比較的守られている.技術のいくつかは守られている.アンダーソ
ンの支店がベトナムにはあり、こちらを活用している.わが社では、QC・QA の部門で知財
を扱う一人の社員が責任を持っている.
日本の大学に対して何を求めますか?
日本との間に障害はない.利益を与えてくれればよい.
Ⅴ-5-6.Tien Dat Company
TV、CD、DVD、カラオケ等の製造販売を主な製品としている.家電に関しては、1992 年か
ら.ヴィンロン、ホーチミンに工場がある.CD プレイヤー、モニター、MD ファイル等を製
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造しており、製造に当たる従業員は 400 人.マーケティング、営業は 200 人なので、600 人
の会社である.
2002 年までは、あまり Electric Industry はなかった.その後この業界にたくさん参入
してきた.そのため現在当社のマーケットシェアは下がっている.
ベトナム東南部の市場にシェアを持っている.商標はビジネスを立ち上げるのに必要であ
る.今は LG(韓国企業)
、フィリップスとも提携している.TCM(中国企業)は商標をベト
ナムへアウトソーシングしている.ただしわが社は OEM、ライセンス契約等はしていない.
日本企業からの部品は高いのであまり買わない.中国から輸入する時には、税金について
優遇措置があるが、日本からだとそのような優遇措置はない.現在は韓国のサムスンが高
いクラスを占めているが、ベトナム企業は中流クラスである.将来的には高いクラスを目
指したい.R&D 部門は 20 人いて、韓国や中国との連携を模索している.3 ヶ月間専門家を
招いたりした.ベトナムの大学との繋がりについては、小さな単位では連携は存在するが、
あまり連携はしていない.大学はあくまで訓練機関である.大学に testing や分析を頼む
ことはないとはいえないが、大学には十分な設備はなく、あまり利用価値がない.外国の
大学に対して委託することは、その技術を買うことよりもお金がかかるので、委託はでき
ない.
商標の保護に力を入れているが技術の保護にはあまり力を入れていない.たまに商標に
関して争いが起こる.技術はシークレットにしようと思っている.情報の保護に関しては、
雇用の際に契約するようにしている.海賊版が中国から入ってきたら、同質で価格が低い
ため、どうしようもない.解決策は交渉しかないが、過去に侵害された際には製品をスト
ップさせることはできたが、損害賠償は請求できなかった.20%のロスが生じた.このよ
うな海賊版を防ぐには、公的な機関に合法的なボーナスを与えることが必要となっている.
Ⅴ-5-7.Thuan Le International Company
まだ最近創業したばかりのソフトウェア企業である.
2005 年 9 月まで 1 年半日本にいた.ベトナムと日本の間で違うのは考え方である.日本
では「ほうれんそう」に見られるような組織的な考え方がある.ベトナム人は上司が何か
を言ってもリアクションが薄いため、いちいち報告させるようにしている.
事業内容としては、オンラインショッピングシステムの構築、e-learning system の構築.
従業員は全員プログラマーであり、経営者は一人.ベトナム人は高校大学等では e-learning
system を活用することによって、勉強するようになるだろう.ベトナムの教育では考えさ
せるというやり方はとっていない.
日本の大学とベトナムの企業が連携することについて全く問題はない.むしろやりたい.
何をすべきから、なぜすべきかに移行していくことが必要であり、やり方を教えてその通
りするのではだめ.主体的に動き、1 つのことを成し遂げるごとに reflection(復習)が
必要である.日本に行くことが大切である.仲間と仕事をすると集中できる.製造業より
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も日本と手を組みやすいのではないか.日本人に求めることとしては、親切な人が良い.
産学連携に関しては、人材が大切であるので、大学が人材を育成することが必要である.
ソフトウェア企業に関しては、規制はシンプルである.また初期投資もいらない.私の目
標は日本とベトナムとの間の架け橋になることである.ベンチャー企業を歓迎する.大学
の役割としては、プロジェクトが大切であろう.日本の大学とベトナムの企業が連携する
ことは大いに歓迎する.しかし IT であっても、同じ職場で働くことが大切である.わが社
に関しては、できるだけ早く会社を大きくしたいが、それに関しては慎重である.口コミ
で広げたい.
Ⅴ-5-8.University of Technology of Ho Chi Min City
TLO は 50 billion ベトナムドンの技術移転が行われている.教官はそれぞれ企業を持っ
ているので、詳細は分からない.システマティックな集金方法はない.個別に研究に対し
て企業からお金をもらっている.ハノイとホーチミンでは状況が違う.ハノイの方が政府
からの補助金が大きい.研究者は非常にアクティブである.企業は大学の研究成果につい
て、メカニカルなものを求めている.
全ての国には長所と短所がある.フランス政府は今も予算面での援助を行っている.ス
イスは科学省のレベルで援助を行っている.第一段階は市場に対するものであったが、現
在は第二段階として大学に対するものに変わっている.日本に関しては JICA が大きな役割
を担っている.
大学は農業や環境に関して技術的な援助を行っており、メコンデルタでは魚、えびを輸
出しているため、水質汚染は重要な問題である.
政府からは TLO を設立するようにいわれているが、とても仕事が忙しい.また人を新た
に雇うお金がない.インフラと新しいシステムを連動させることが必要である.
ハノイは基礎研究が中心であるが、ホーチミンは応用研究が中心である.よってホーチ
ミンは企業と連携しやすいといえる.しかし先生が儲かるが大学はもうからない.
技術移転は現在 12 名のスタッフで行っている.IP 担当者はいない(自分だ).WTO に加
盟したので、我々は変わらなければいけない.
教員は海外に向けて積極的に情報を発信していますか?
IEEE 学会が先週行われた.シンガポールや韓国などで大きな学会がある.
Ⅴ-5-9.ハノイ国家情報センター
マーケットには 5 つのタイプがある.
1. Goods market
2. Function market
3. Estate
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4. Labor market
5. Technology market
IP が大切である.また、技術移転法が昨年成立し、今年になり施行された.技術市場の
発展には重要である.Tech-mart は 20 年前から始まったが、5 年前からさかんになってき
た.National tech mart は 2 年ごとに 8 月の終わりに開催されている.会場は 7000 ブース
あり、大学等が参加している.イスラエル、韓国なども参加している.国際的な催しであ
る.日本はもっと積極的にならなければならない.韓国、ウクライナとも関係がある.な
ぜ日本は来ないのか?B to B の協力関係がとても重要であり、外国からの直接投資(foreign
direct investment)が重要である.大学は基礎的な研究を行っている.
Ⅴ-5-10.Vietnamese Academy of Science and Technology
本研究所は最も大きい科学技術機関のひとつ.学生はいない.首相の直属である.25 の
研究所、2000 人のスタッフがおり、全ての領域を網羅しているといっても過言ではない.
1975 年から 30 年の歴史がある.人間科学の研究所もあるが、この研究所も大きい.2004
年から今の名前になった.1993 年からは科学よりも技術の方が重要になった.官庁と協力
している.
企業との連携に関しては政策性の違いにより、段階がある.
1.最初に企業と連携する.研究者と企業
2.25の研究所と企業が連携する.
3.VAST と企業が連携する.
プロジェクトやエリアサイズによって 3 つを使い分ける.連携する企業は主に国内であ
る.技術移転や設備を導入するために、国際的な企業と連携することもある.ベトナムで
は新しい技術が欲しければ、企業から買うのが通常である.VAST を通すことは稀である.
VAST から技術を移転するときに VAST と関係がなければ、B to B でやってもらえばよい.
VAST は農業技術等に関して、地方政府と提携している.VAST の研究者の中にはスピンオフ
ベンチャーを作る人もいる.IP はとても大切である.しかし技術移転法施行後はコストフ
ァイナンスが問題となるであろう.日本とベトナムは連携しなければならない.ベトナム
の市場は広い.まだまだ開拓の余地はある.ベトナム企業はまだまだ設備面でも成熟して
おらず、改善の余地がある.ベトナムでは起業家精神が受け入れやすい面がある.
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第Ⅵ章
調査研究の総括
本調査研究の結果、これまで着手できなかったアジア諸国における産学連携についての
おおよその土地勘を持つことができたと思う.以下に、調査研究結果を総括する.
VI-1.大学と産業界の競争力バランス
まずは、大学と産業界のバランス、力関係において、我が国の感じる常識が異なってい
ることがあげられる.我が国の発展を支え築いてきた日本の産業界には、商業化技術にと
どまらず、基礎研究分野においても大きな成果と競争力を築いてきたといえる.すなわち、
いわゆる大手企業においては、社内の研究開発部門が現状製品周りの技術にとらわれるこ
となく、将来の製品化を睨んだ基礎的研究領域においても人材、資金を投資し、国際競争
力を維持してきている.このような産業界の発展状況の中で位置づけられる大学での研究
活動は、我が国を始め先進諸国におけると同様、技術分野ごとの優劣はあるものの、むし
ろ、大学と企業が相互に競争し合える関係にあるといっても良いだろう.しかしながら、
アジア諸国では、この点がまったく異なることに驚かされる.一部の企業を除き、アジア
諸国においては、当該市場を維持する企業に多くの外資系企業の国内支社が存在しており、
これらの外資系企業は、アジア諸国を製造拠点または市場として捕らえ、これまでのとこ
ろ、本国で製品化したものを製造販売するにとどまり、アジア諸国での研究開発の対象と
なる市場ニーズに対する開発体制を有していない例が大半である.外資系以外の企業につ
いては、既存製品の改良程度の未熟な研究開発体制しか有しておらず、それが故、国内に
おける産業界の技術的ポテンシャルは、当該国の大学における研究開発力と比較してそれ
ほど高いものになっていない.アジア諸国においては、企業活動の中で生じた技術的課題
について大学へ研究委託をし、相談にのってもらうという力関係の中で、大学における研
究活動を捉えている.アジア諸国との産学連携を進めていく上で重要な視点である.これ
を踏まえ、アジアの大学あるいは企業がどのような目的あるいはニーズを持って日本の大
学あるいは企業との連携関係を深めていこうとしているかの認識を整理する必要がある.
VI-2.国際コミュニケーションの充実
言うまでもなく、アジア諸国には、各国語との自国言語がある.今回の調査対象国であ
る中国、韓国、タイ、ベトナム、フィリピンにも、日常的に使用する独自言語がある.言
語の違いにより他国とのコミュニケーションが十分になされない.産学連携のみについて
の問題ではないが、特に、これまでに行っていない新たな活動に着手する際には際立った
現実的な課題として存在する.英語を共通語としてコミュニケーションを図ろうとしても、
今回の対象国の中では、戦後米国から大きな影響を受けたフィリピンは別として、その他
の国においては、必ずしも英語によるコミュニケーションは歓迎されないかもしれない.
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何よりも、我が国の交渉窓口、研究推進者の英語力を向上させなければならないと考える.
これにつけて痛感することがある.韓国の各種機関を訪問した結果の感想であるが、韓国
では、米国への留学生が非常に多く、米国で身につけた英語力およびマネジメント力を活
かし、先進国およびアジア諸国への活動を推進している.要するに、日本流に言う帰国子
女をうまく活用し、しかも組織の主要ポストにつけて対外交渉を含めた若手国際人材を活
用している.各国の国際人材の比較研究が行われたとすれば、この点は明確な結果を出す
ことと思う.加えて、各国は、独自の歴史の中で独自の文化を築いてきている.この独自
の歴史と文化を共有し相互理解をするためにも英語力が必要になってくる.産学連携を推
進し現実的な成果を出すためには、早急な人材育成と適材適所な人材活用が重要となる.
VI-3.商業化への準備と決断
アジア諸国への産学連携に関し、わが国からの移転技術または共同研究の成果に基づく
商業化を目指す場合には、新規投資によりビジネスをスタートし、そのオペレーションを
現実の市場において展開していく当事者として学外の企業体が存在しなければならない.
企業が積極的に産学連携に参加していくためには、当該産学連携の素材となる技術が将来
の市場化により相応の商業的価値を期待できるものでなければならない.例えば、産学連
携の初期段階としてわが国の大学とアジア諸国の大学の間で基礎研究を推進し、当該基礎
研究の成果をもとに商品化技術および製造技術の具体的開発に入ろうとした場合には、こ
の時点で事業主体となる企業の参加を求めなければならない.この参加の判断には、単に、
技術的評価だけでなく、市場評価やマネジメント体制などをはじめ多くの課題の整理と決
断が必要になってくる.この時点での決断が難しいとすれば、大学間で進めてきた研究成
果を産学連携という形に進めることができず、実質的な成果の見えない国際的基礎研究の
段階で終わってしまう.現地の優秀な人材を確保し、日ごろから人的ネットワークを構築
し、アジアの市場ニーズがどこにあるかを把握しておくことが研究成果を事業化する時点
での決断を促すことの重要な準備段階になるであろう.また、一部のアジア諸国において
は、我が国の大学と同様の機能を有するインキュベーション施設を有する大学が存在して
いる.特にソフト分野でのベンチャー企業の設立とインキュベーションが多く行われてお
り、すでに、わが国産業界からの Business Process Outsourcing: BPO を受注し、それな
りの売り上げ規模まで成長しつつある事例も存在する.将来の市場化への期待を持って、
これらのアジアの大学における安価なインキュベーション施設の利用と低賃金の現地での
人材の雇用に踏み込めるかも大きな経営判断が必要であろう.商業化に向けて計画を実行
していく舞台は存在する.
VI-4.秘密漏洩への対策
アジア地域での模倣品問題が問われ始めて久しい.産学連携は技術移転の一つの形態と
考えることができる.民間企業同士での技術移転についても重要技術の漏洩対策が慎重に
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なされている.企業においては、秘密漏洩が直接ビジネスに大きな影響を与えるため、秘
密情報の取り扱い規定、従業員との秘密保持義務契約などを通じて可能な限りの対策を講
じることとなるが、産学連携においては、ビジネスの推進主体となりえない大学という存
在が秘密漏洩への真剣な取り組みを怠ってしまっては企業の積極的参加を促すことの障害
になることである.この点、我が国の大学では、学内規定を設け産業界との契約事項の中
で秘密保持義務の規定を盛り込む体制が出来上がっているが、アジア諸国の大学において
は、十分な体制および認識形勢が出来上がっていない面がある.産学連携の研究プロジェ
クトに参加する研究者に加え、参加学生を含めた秘密漏洩の対策を講じるよう指導してい
かなければならない.
VI-5.アジアにおける知的財産権の取得
秘密漏洩への対策に関連して議論されなければならないこととして、アジア諸国におけ
る知的財産権の取得がある.国際的産学連携の共同研究過程で創造された発明等知的財産
は、我が国における権利取得にとどまらず、当該アジア諸国においても権利取得していか
なければならない.グローバル経済の進捗とともに、また模倣品対策という観点からも、
我が国の企業がアジア諸国への出願を徐々に重要視するようになってきている.しかしな
がら、現実としては、中国、韓国への出願は積極的に進められているものの、その他のア
ジア諸国への出願は未だなきに等しい状況といってよいだろう.WTO への加盟条件としての
加盟国の知的財産権制度の整備は進んでいるものの、制度の運用については、まだ取り組
みを開始して間もない状況の中で、出願をしても確実に他の先進諸国と同様な保護が与え
られるかなど不透明な部分も多く、それが故、アジア諸国における権利取得に積極的な取
り組みが見えず、また、権利取得に関連した経験も十分に積んでいないのが現状であろう.
アジアの巨大市場へのビジネス展開の進捗にあわせて知的財産権取得への取り組みも徐々
に強化されていくと思うが、アジア諸国での知的財産教育の遅れ、一般国民の知的財産認
識の低さ、アジアの産業界で働く従業員の知的財産マインドの育成など、産学連携活動へ
の取り組みと動じ並行的に推進していかなければならない課題も多く存在する.
VI-6.国際的マネジメント力の強化
国際的産学連携を推進していくことは、共同研究をどのように立ち上げ商業化を含めた
計画の立案と実行のためのマネジメントが必要になる.日本国内での産学連携に関しては、
産業界からの参加があり、産業界の有するマネジメント力を活用して共同研究からビジネ
スの立ち上げまでをマネジメントすることができるが、言語、文化、習慣、歴史の異なる
アジア諸国におけるマネジメントは、国内におけるマネジメントと同様に扱うことはでき
ない.まして、海外進出する日本の大学が国際的マネジメント力を有するには課題が多す
ぎる.どこかにその人的リソースを求めなければならない.私見ではあるが、産学連携を
推進する当該アジア諸国の人材を活用することが必要と考える.大学間の共同研究の段階
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であれば、当該大学とわが国の大学におけるマネジメント人材がいれば、そのような人材
を研究当事者に加えて参加させることである程度解決できるかもしれない.しかしながら、
研究成果に基づく商業化段階では、これでは不十分で、商業化に参画する現地企業のマネ
ジメント人材を一緒に巻き込んでいくことが必要になる.今後のグローバル化への進展に
伴って、わが国企業の国際マネジメントと人材も徐々に育成されていくことと考えるが、
進出国によって異なる面は簡単にはいかないであろう.
VI-7.国際的産学連携への第一歩
第 III 章において、既存文献レビューにより国際的技術移転における障害を整理したが、
細かな点では、制度上および実務上の課題は多く存在する.しかしながら、実際に現地を
訪問して制度上の課題等を聴取した感想としては、特に大きな障害となるような制度上の
違いはないと思う.また、第 V 章で触れた特許制度上の課題に関しても、関連する法律条
文の比較で多少の差異は存在するが、事前に制度を把握し対応することによって解決でき
ない問題はないと考える.むしろ、今日において、我が国の大学が、産学連携を国際的に
チャレンジし、ベストイグザンプルとなる事例を蓄積していくべき責任があるといってよ
いであろう.訪問先の機関からも大きな期待が寄せられていることを実感した.しかしな
がら、本総括ですでに述べたように、国際的産学連携については、まだまだなすべき事項
が多く存在し、いきなり産学連携というよりは、まずはアジア諸国の大学と我が国の大学
の間で、具体的研究テーマを絞り、商業化は次の段階として、大学間共同研究から取り組
んでいくことが最も現実的な姿のように感じる.このような活動を推進していく中で、国
際コミュニケーションおよび人的ネットワーク作りを進め、現地の産業界とのネットワー
クを含め、現地の大学と産業界のポジショニングの正しい理解の下に商業化に向けた計画
立案を進めていくことが良いと考える.幸い、アジアの大学とは、これまで多くの教育関
係での契約を締結してきており、これを土台として、具体的研究テーマの設定、共同研究
の開始へつなげていくことが期待される.その過程の中で、アジア諸国が日本の大学に対
して何を期待しているか等、現地のニーズを把握した上での国際的産学連携への着手がな
されていくものと考える.
以上
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