海水系地下水中におけるカルシウムシリケート水和物 - 電力中央研究所

電中研報告
原子力発電
03−050
海水系地下水中におけるカルシウム
シリケート水和物の化学的変質
−ナトリウムの収着機構とカルシウム溶脱への影響−
背
景
TRU 廃棄物処分における、化学的な放射性核種閉じ込め性能を長期的に評価する
ためには、使用されるセメント系材料の変質を考慮して施設内や処分場周辺の化学環
境の変化を定量的に予測する必要がある。処分候補地は未定であるが、我が国の地下
水の検討によると環境条件により地下水組成が異なるため、従来検討されてきた純水
中の変質現象に加え、海水環境で想定されるような溶存イオンの影響把握が必要とな
る。
変質挙動の評価では、セメント水和物の主要構成鉱物であるカルシウムシリケート
水和物(C-S-H ゲル)の溶脱現象が重要である。C-S-H ゲルは元素組成(Ca/Si 比)
を不定比に変化しながら溶脱するため、長期間にわたる評価では、処分場閉鎖後間も
ない初期のセメント系材料がほとんど変質していない(Ca/Si 比の高い)状態から、
時間が経過して変質が進んだ(Ca/Si 比が低い)状態までを想定した検討が必要であ
る。
目
的
海水を模擬した NaCl 溶液中における C-S-H ゲルの化学的な変質現象を実験的に把
握するとともに、反応機構の検討によって NaCl 濃度が C-S-H ゲルの変質に及ぼす影
響因子を明らかにする。
主な成果
(1) 収着実験による現象観察
C-S-H ゲルの Ca/Si 比、NaCl 濃度をパラメータとして、C-S-H ゲルへの収着実験
を行った。NaCl の影響として、海水起源の地下水程度(6×10-1 mol dm-3)(注1) までの
NaCl 濃度の増加による、C-S-H ゲルからのカルシウム(Ca)成分の溶脱の促進を観
察した(図1)。ナトリウム
(Na)の収着については、実験前後の濃度変化から、C-S-H
ゲルの構成元素である Ca とのイオン交換によって収着することが明らかとなった。
(2) 反応機構の検討
実験結果に関して、熱力学的モデルによる反応機構の解析を実施し、Na の収着デ
ータについて C-S-H ゲル中の Ca とのイオン交換により妥当に再現できることを確認
した(図 2)。
溶脱への NaCl 濃度の影響については、高 Ca/Si 比の C-S-H ゲルでは、NaCl 濃度
の高い条件では Na と C-S-H ゲル中の Ca 成分のイオン交換による溶脱促進の効果も
見られるものの、イオン強度増加によって C-S-H ゲルの溶解度が増加した(注2)として
ほぼ説明できた。一方、低 Ca/Si 比の C-S-H ゲルでは、イオン交換による溶脱促進
の影響が顕著になることが分かった(図 1)。
0.1
3
8
実験値
低 Ca/Si 比 (0.65)
高 Ca/Si 比 (1.2)
6
2
イオン交換モデルも考慮
/ cm g
3 -1
2
0.01
(注3)
8
6
分配比
液相カルシウム濃度 / mol dm
-3
4
4
+
Na とCa2+ のイオン交換
による効果
2
10
9
8
7
6
5
モデル計算値
実験値
(イオン交換)
4
低 Ca/Si 比 (0.83)
高 Ca/Si 比 (1.1)
3
0.001
8
溶解度(イオン強度影響)のみを考慮
6
2
10
-5
10
-4
10
-3
-2
-1
10
10
10
0
-5
10
10
-3
10
-3
-2
-1
10
10
0
10
-3
初期ナトリウム濃度 / mol dm
図 1 C-S-H ゲルからの Ca 溶脱の
Na 濃度依存性
-4
初期ナトリウム濃度 / mol dm
図 2 C-S-H ゲルへの
Na 収着の濃度依存性
(注1) 海水系モデル地下水組成(核燃料サイクル開発機構:わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技
術的信頼性−地層処分研究開発第 2 次取りまとめ−、分冊 3、JNC TN1400 99-023、1999.)に示された濃
度。
(注2) イオン強度は、電解質溶液における(容量モル濃度)×(電荷の自乗)の総和の 1/2 として定義される。
計算解析において、イオン強度の増加により活量係数が低下することで溶解度が増加することが示されて
いる。
(注3) 固相中の Na 濃度と液相中の Na 濃度の比で定義され、収着の程度を表す。
研究報告
T03056
キーワード:放射性廃棄物処分、セメント水和物、海水系地下水、収着等温線、
熱力学的モデル
関連研究報告書
「収着基礎データに基づくセメント水和物への核種収着機構のモデル解析」
T02025(2003.4)
担当者
杉山 大輔 (狛江研究所・材料科学部)
連 絡 先
(財)電力中央研究所 狛江研究所 事務部 研究管理担当
Tel. 03-3480-2111(代)
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