欧州のバイオ燃料政策と目標達成に向けた課題 - 石油エネルギー技術

JPEC レポート
JJP
PE
EC
C レ
レポ
ポー
ートト
第 18 回
2012年度
平成 24 年 9 月 13 日
欧州のバイオ燃料政策と目標達成に向けた課題
欧州では2003 年に
「バイオ燃料指令
(Directive 2003/30/EC of the Council of 8 May 2003
on the promotion of the use of biofuels or other renewable fuels for transport)」が制定さ
れてから、バイオエタノール、バイオ ETBE、バイオディーゼル(BDF)等のバイオ燃料
の流通が進んだ。また 2009 年に「再生可能エネルギー指令(Renewable Energy Directive:
以下 RED)(2009/28/EC)」が制定され、運輸部門において最終エネルギー消費における
再生可能エネルギーの割合を、2011~2020 年の 10 年間で 10%以上に引き上げる義務が全
加盟国に課せられるとともに、世界で初めてバイオ燃料の持続可能性基準の条項が組み込ま
れた。
加盟国の国家再生可能エネルギー行動計画(National Renewable Energy Action Plan:
NREAP)によると、RED 目標 10%のうち、9 割以上(エネルギーベース)をバイオ燃料で達
成しようとしている。しかし 10%目標を達成させるためには、現在の燃料品質指令の上限で
ある E10(エタノール 10vol%混合ガソリン)、B7(バイオディーゼル 7vol%混合軽油)を EU
域内全域に普及させるだけでは不十分であり、更なるバイオ燃料の混合量増加させる、或い
は 2 倍カウントが認められている次世代バイオ燃料(廃棄物、残留物、非食物セルロース系
原料およびリグノセルロース系原料から生産されたバイオ燃料)を普及させていく、バイオ
燃料以外の再生可能エネルギー利用を増加させていく、等の取組みが必要となる。
また近年の持続可能性の議論の中で、バイオ燃料の間接的土地利用変化(Indirect Land
Use Change: ILUC)によるバイオディーゼルの GHG 排出の影響が問題視されている。
今回は、これらバイオ燃料の「量」、「質(即ち持続可能性)」の2つの目標に対する課
題について概説する。
1. 欧州のバイオ燃料政策
EU においてバイオ燃料に関係する法令として主要なものは二つある。ひとつは 2003 年
に制定された「バイオ燃料指令」と、後に修正された「RED」で、バイオ燃料を含めた再
生可能エネルギーの使用目標を定めている。もうひとつは「(改訂)燃料品質指令(Fuel
Quality Directive:以下 FQD)(2009/30/EC)」で、燃料品質規格および運輸部門での温
室効果ガス(GHG)削減目標を定めている。
「バイオ燃料指令」では、販売される運輸燃料に占めるバイオ燃料(ガソリンおよびディー
ゼル)の割合を、EU 全体で 2005 年に 2%、2010 年までに 5.75%とする目標を定めた。た
だしこれらの目標はいずれも「目安」であり、法的義務ではなかったため、ガソリン、ディ
ーゼルともに 2010 年の目標達成は見込めず、新たな目標と施策が必要とされていた。
1
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その後、2009 年に制定されたのが RED である。本指令は電力、暖・冷房、運輸の 3 分
野において、最終エネルギー消費における再生可能エネルギーの割合を、EU 全体で(2005
年の 8%から)2020 年までに 20%に高めるという強制力のある指令となっている。また、3
分野のうち「運輸」における再生可能エネルギーの割合については、2011~2020 年の 10
年間で全加盟国一律で 10%以上に引き上げる義務を課している。尚、この 10%目標は従来
のバイオ燃料だけで達成する必要はなく、次世代バイオ燃料にはインセンティブが設けられ
ており、他のバイオ燃料の 2 倍として考慮される(RED 第 21(2)条)。他の電力、暖・冷房
分野については、10%から 49%の負担割合が加盟国ごとに定められている。また本指令で
特徴的なのは、世界で初めて「バイオ燃料の持続可能性基準」の条項が組み込まれたことだ。
RED において、加盟国政府は目標達成に向けたアクションプラン(National renewable
energy Action Plans: NREAPs または NAPs)を 2010 年 6 月末までに策定し、欧州委員会
(European Commission、以下 EC)に報告することとなっており、また 2011 年以降は 2
年ごとに EC へ進捗報告義務がある。NREAPs については 2 章で詳細に述べる。
FQD は燃料品質規格および運輸部門の温室効果ガス(GHG)削減目標を定めたものであ
る。GHG について、当初 EC は 2020 年末までに年率 1%削減の合計 10%削減を求めてい
たが、石油業界からの激しいロビー活動の効果もあり、10%の目標値は残ったものの法的に
義務付けられる削減率は最終的に 6%となった。この 6%削減の手段として期待されている
のがバイオ燃料の利用である。
FQD の燃料品質規格については、2009 年の改訂によりエタノールと含酸素の混合上限が
引き上げられ、新たなエタノール及び含酸素量は 10.0vol%及び 3.7 wt%、新たな FAME 上
限は 7 vol%(給油ポンプにラベルが明示されている場合はそれ以上の混合が可能)となっ
た。尚、エタノール濃度が増加すると古い車では安全性が保証できないことから、2013 年
までは E10 と合わせて E5(エタノール 5vol%混合ガソリン)も供給することが加盟国には
求められている。また、FQD でもバイオ燃料に対して RED と同じ持続可能性基準が定め
られた。
持続可能性基準
RED および FQD では、一定の基準を満たすもののみバイオ燃料としてカウントできる
ようにする、持続可能性基準を設けた。この基準は EU 域内で使用されるバイオ燃料および
バイオ液体に、それらの産地に関わりなく適用される。
持続可能性基準におけるバイオ燃料の要件は 3 項目ある。まず従来燃料と比べた時の
GHG 削減量を義務付けている。バイオ燃料は、従来のガソリン、軽油と比べた時の GHG
最低削減割合が、指令の実施時点でが 35%以上、2017 年からは 50%以上、2017 年以降の
新規製造施設については 60%以上のものが要求される。尚、2008 年 1 月 1 日時点で稼働し
ている製造施設は 2013 年 4 月まで 35%を遵守することとなっている。RED の付属書 V に
2
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おいて記されている各バイオ燃料の石油系燃料に対するGHG 削減率を図1 に示した。
RED
の 2020 年目標年に利用可能なバイオ燃料は、ガソリン代替ではサトウキビ由来エタノール
とリグノセルロース系エタノール、ディーゼル代替では廃動食物油 FAME(脂肪酸メチル
エステル)、ひまわり油 HVO(水素化植物油) 、パーム HVO(メタン回収あり)、リグ
ノセルロース系 FTD(フィッシャートロプシュディーゼル)等、非常に限られていること
が分かる。
図 1 持続可能性基準におけるバイオ燃料の石油系燃料に対する GHG 削減率
持続可能性基準におけるバイオ燃料の 2 つ目の要件として、生物多様性保護のための基準
がある。これは、「高い生物多様性価値」を持つ土地で生産されたものはバイオ燃料から除外
する、というもので、具体的には①原生林②法的に自然保護指定を受けている土地③希少、絶
滅の恐れのある、または絶滅の危機にひんした生態系あるいは種の保護にとって重要と見なさ
れる地域④および生物多様性の高い天然または非天然の草原が該当する。
3 つ目の要件は、2008 年1 月時点で炭素貯留が高いとして分類された土地(湿地、高生育密
度森林、泥炭地)で生産されたバイオ燃料資源は除外する、というものである。
2. RED の 2020 年 10%目標値に対する加盟国の達成シナリオ
図 2 に RED における運輸部門 2020 年再生可能エネルギー目標値:10%に対する各国の
NREAPs(1)における設定目標値と、例としてドイツ、スペイン、スウェーデンの 2020 年ま
での達成シナリオを示した。フィンランド、スウェーデン、ドイツ、スペインのように 10%
目標値に対してより高い目標値を設定している国もあれば、目標値に満たない計画の国もあ
る。また右図からは、ドイツやスペインは主にバイオディーゼルの利用を増加させることで
3
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10%目標を達成しようと計画しており、スウェーデンはエタノール、バイオディーゼル双方
の利用を増加させる計画であることが分かる。
図 2 National renewable energy Action Plan
加盟 国
Au stria
Be lg iu m
Bu lg aria
Cy prus
Cz ech Re public
Ge rmany
De nmark
Esto nia
Gre ec e
Spa in
Finland
Fran ce
Hu nga ry
Ire la nd
Ita ly
Latvia
Lithua nia
Lux embo urg
Malta
Ne the rlan ds
Po lan d
Po rtu gal
Ro ma nia
Sw eden
Slove nia
Slova kia
Un ite d Kin gdom
輸送 用部 門
2 020 年各 国目 標( % )
11.4
10.1
7.8
4.9
10.8
13.2
10.1
2.7
10.1
13.6
20.0
10.5
10.0
10.0
10.1
10.0
10.0
10.0
10.7
10.3
10.1
10.0
10.0
13.8
10.5
10.0
10.3
5000
Germany
4000
Bioethanol/bio‐ETBE
ET/ETBE imported
e 3000
to
k 2000
Biodiesel
Biodiesel imported
1000
Electricity for road transport
0
0
1
0
2
3500
1
1
0
2
2
1
0
2
3
1
0
2
4
1
0
2
5
1
0
2
6
1
0
2
7
1
0
2
8
1
0
2
9
1
0
2
0
2
0
2
Spain
3000
Others(biogas, vegetable oil)
Bioethanol/bio‐ETBE
ET/ETBE imported
2500
e 2000
to
k 1500
Biodiesel
Biodiesel imported
1000
500
Electricity for road transport
0
1 2
1 1
0 0
2 2
0
1
0
2
500
3 4 5
1 1 1
0 0 0
2 2 2
6 7
1 1
0 0
2 2
8 9
1 1
0 0
2 2
Others(biogas, vegetable oil)
0
2
0
2
Sweden
400
Bioethanol/bio‐ETBE
ET/ETBE imported
e 300
to
k 200
Biodiesel
Biodiesel imported
100
Electricity for road transport
Others(biogas, vegetable oil)
0
0
1
0
2
1
1
0
2
2
1
0
2
3
1
0
2
4
1
0
2
5
1
0
2
6
1
0
2
7
1
0
2
8
1
0
2
9
1
0
2
0
2
0
2
【各国NAPより作成】
各国の NREAPs を総合したものを表 1 に示した。RED 目標 10%のうち、9 割以上をバ
イオ燃料で達成しようとしている。具体的には:22%がエタノール、66%がバイオディーゼ
ル、3.1%がその他バイオ燃料、9.4%が再生可能電気となっている。尚、バイオディーゼル
の 7%、エタノールの 9%、他のバイオ燃料のうちの 41%が、ダブルカウントに該当する次
世代バイオ燃料である。
表 1 NERAPs における運輸部門再生可能エネルギー導入計画
2010 年
2020 年
割合(2020 年)
ktoe
ktoe
%
バイオエタノール、ETBE
2,871
7,306
22
バイオディーゼル
10,956
21,649
66
再生可能由来の水素
0
0
0.0
再生可能由来の電気
1,302
3,115
9.4
他のバイオ燃料
210
788
3.1
トータル
15339
32860
100
4
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ちなみに、スロベニア、ポルトガル、ルクセンブルグの 3 カ国は、バイオディーゼルの依
存度が 80%以上となっている。一方、ギリシャ、ハンガリーはバイオエタノールへの依存度
が 55%以上ある。更に一部の国はバイオガス、植物油等の別のバイオ燃料を考えているとこ
ろもある(ラトビア、オーストリア)。再生可能水素の導入を考えているのはルーマニアの
みである。
EU 諸国のうちバイオ燃料消費の多い国について、NREAPs における 2020 年再生可能エ
ネルギー目標(10%)に対する達成方法を図3に示した。図から、各国ともに2020年の目標を達
成させるために第1 世代バイオ燃料を用いることを考えており、更にその多くは第1 世代バイオ
ディーゼル(Biodiesel 1st gen.)としていることが分かる。そして RED 第21(2)条で 2 倍として考
慮される、廃棄物、残留物、非食物セルロース系原料およびリグノセルロース系原料から生産さ
れた次世代バイオ燃料は、10%目標達成の主な手段にはなっていない。即ち多くの加盟国が、
これら次世代バイオ燃料は技術開発のハードルが高く 2020 年時点では広く普及しないとみて
いるといえる。
図 3 バイオ燃料主要消費国の運輸部門 2020 年 10%達成方法
16.0%
Hydrogen from renewables
【各国NAPデータより作成】
14.0%
Renewable electricity road transport
Article 3.4(*2.5)
Renewable electricity non‐road transport
Other biofuels Article 21.2(*2)
1.0%
0.3%
12.0%
10.0%
1.7%
8.0%
0.7%
0.2%
1.1%
4.2%
1.5%
第
6.0%
1.5%
9.2%
9.0%
1
6.8%
5.9%
4.8%
2.0%
0.0%
Germany
France
Spain
世代バイオ
4.0%
0.7%
Italy
United Kingdom
Bioethanol / bio‐ETBE Article 21.2(*2)
Biodiesel Article 21.2(*2)
Other biofuels 1st gen.
Bioethanol / bio‐ETBE 1st gen.
Biodiesel 1st gen.
3. RED および FQD 目標値に対する量的課題
本年 7 月に、
EU のプロジェクト’Blending of biofuels and other ways to market biofuels’
の Stakeholder workshop ‘Biofuels marketing in the EU’が開催された。同プロジェクトは
EC エネルギー総局(DG Energy)により 2012 年 1 月より開始され、①再生可能エネルギ
ー指令の 2020 年運輸部門再生可能エネルギー割合 10%達成のための、NREAPs のバイオ
燃料市場導入シナリオを解析することと、②幾つかのオプションを評価することによって長
期的な自動車・燃料のシナリオを検討すること、を目的としたものである。
5
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具体的には、NREAPs で目標とされているバイオ燃料量と、バイオ燃料のブレンドリミ
ットとの差を評価し、これを解決する実現可能で有効な方法を検討するため、詳細な検討を
コンサルタント
(CE Delft 社と TNO 社)
に委託し、
様々な技術的なオプションを評価させ、
EU レベルで潜在的な政策レスポンスの必要に対するアイデアを提言させている。
評価の結果、NREAPs のシナリオ(BDF は 21639ktoe、エタノールは 7309ktoe の消費
が必要)に対して、「バイオ燃料の流通を E10、B7 に限定し、全加盟国の道路交通部門、
ノンロード部門において B7、E10 が完全に流通している」と仮定した場合には、BDF は
41%(8288ktoe)、エタノールは 8%(621ktoe)消費が不足するという結果を得ている(表 2)。
即ち現状の品質規制(FQD)の上限値から想定されるバイオ燃料の消費量は、NREAPs か
ら出された数値とはかけ離れているといえる。RED10%目標に対して、B7、E10 のみでは、
7%(ダブルカウントを除くと 6.5%)分は貢献できるが、残り(3%)を満足させるために、
B7、E10 車両以外の高濃度バイオ燃料対応車等のオプションが必要ということになる。
表 2 現在のブレンドポテンシャルと、2020 年バイオ燃料必要量との比較
ブレンドの
適応分野
タイプ
B7
E10
B7、E10 が普及した場合の
NREAP シナリオによる
ギャップ
バイオ燃料消費量(ktoe)
バイオ燃料必要量(ktoe)
(ktoe)
21,639
8,288
7,309
621
28,948
8,909
道路交通
12,826
ノンロード
525
合計
13,351
道路交通
6,688
ノンロード
10
合計
6,697
合計
20,039
【Biofuels marketing workshop 資料より抜粋】
The JEC バイオ燃料プログラムは、JRC( Joint Research Centre of the European
Commission)、EUCAR(European Council for Automotive R&D)、CONCAWE の 3 機関
によるコンソーシアムであり、同プログラムにおいて 2008 年から 2010 年の 3 年間に、
RED10%目標の実現性について、評価が実施された(2)。同プログラムは、2020 年までに輸
送セクターで EU 再生可能エネルギー目標を達成するための可能なバイオ燃料インプリメ
ンテーション・シナリオを評価するもので、車両は 7 種類の乗用車(ガソリン、ディーゼル、
FFV、CNG、LPG、プラグイン HV、EV)、3 種類のバン(ガソリン、小型ディーゼル、
大型ディーゼル)、5 種類の重量車(3.5~7.5 トン、7.5~16 トン、16~32 トン、32 トン
以上、バス・コーチ)などがパワートレーンの対象となった。
6
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検討結果を表 3 に示した。RED 目標に対する道路交通部門の貢献は 8.6~9.8%、全運輸
セクターで 9.7~10.9%の貢献が可能であり、E20、B10 燃料等の高濃度バイオ燃料を利用す
るシナリオを選択することで 10%の目標達成は可能であることを明らかにしている
(つまり
E10、B7 では不十分)。また、いずれのシナリオでも FQD の GHG 目標である 6%の到達
は困難であり、目標(6%削減)を達成するためには、化石燃料に対して 63-73%の GHG 削
減効果のあるバイオ燃料を選択しなければならないことも明らかにしている。
表 3 JEC における RED 達成シナリオ
シナリオ
2020年バイオ
燃料混合形態
ガソリン 1
ガソリン 2
ガソリン 3
ディーゼル 1
1
2
3
4
5
6
7
8
9
E5
E10
E10
E20
E5
E10
E10
E20
E5
E10
E10
E20
B7
B7
B7
B7
B7
B7
E5
E10
E85
B7
E10
E20
E85
B7
E5
E10
E85
B7
ディーゼル 2
道路交通部門
RED目標( )
に対する
貢献割合
第1 世代バイオ燃料
HVO,BTL,次世代 EtOH
代替車両
軽量車:CNGV,EV,FFV
重量車:CNGV,ED95V,DMEV
道路交通以
外
道路交通部門合計
鉄道
船舶
航空
その他オフロード
全運輸貢献割合
FQD における GHG 低減割合 -%
B10
B10
B15
B10
(全車両)
(全車両)
(重量車)
(重量車)
6.4%
1.4%
7.0%
1.4%
7.0%
1.4%
7.6%
1.4%
7.2%
1.4%
7.3%
1.4%
6.4%
1.4%
7.0%
1.4%
6.7%
1.4%
0.8%
0.8%
0.8%
0.8%
0.8%
0.8%
1.4%
1.4%
1.4%
8.6% 9.2% 9.2% 9.8% 9.5% 9.5% 9.2% 9.8% 9.6%
0.9% 0.9% 0.9% 0.9% 0.9% 0.9% 0.9% 0.9% 0.9%
0.1% 0.1% 0.1% 0.1% 0.1% 0.1% 0.1% 0.1% 0.1%
0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0%
0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0%
9.7% 10.3% 10.3% 10.9% 10.5% 10.6% 10.3% 10.9% 10.6%
4.4% 4.7% 4.7% 5.1% 4.9% 4.9% 4.7% 5.0% 4.9%
%
0
1
%
(JEC 報告書より作成)
以上のことから、RED(及び FQD)の 2020 年目標を達成するには、①燃料品質指令の
上限である E10、B7 を EU 域内全域に普及させることが前提にあり、②E10、B7 の普及だ
けでなく、E20、B10、E85 等の高濃度バイオ燃料と高濃度バイオ燃料対応車両を普及させ
る③ダブルカウント対象の次世代バイオ燃料(廃棄物、残さ物、セルロース由来)を普及さ
せる④エタノールとバイオディーゼル以外の再生可能エネルギー(バイオガスによる CNG
車、再生可能電気等による EV 等)の割合を増加させる⑤道路交通以外の運輸部門の再生可
能エネルギー割合を増加させる、等の実施が必要となる。
①②の可能性について、現在 E10 が市場導入されているのはフランスとドイツのみであ
る。また、フランスにおける E10 のシェアは 95 オクタンガソリンプールの 22%(2012 年 5
月時点)、
ドイツのそれは15%(2012 年5 月時点)であり、
E10 が浸透しているとは言い難い。
更に E85 車両が普及しているスウェーデンを除いたその他の EU 加盟国は E5 またはそれ
7
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以下というのが現状である。
EU におけるガソリン中のエタノール混合割合の平均値は2011
年時点で 5.0vol%であり、E10 が EU 全域に浸透するまでは相当の時間が掛ることが想定さ
れる。
一方、軽油中のバイオディーゼル(FAME)混合割合の平均値は 2011 年時点で 5.7vol%、
ダブルカウント対象の燃料を考慮すると 6vol%と、上限 7vol%に対して高い混合レベルとい
える。但し今後は後述する持続可能性基準の観点から、FAME 混合割合が現在のレベルを
維持できる、また今後堅調に増加することができるかは疑問が残る。
高濃度バイオ燃料と高濃度バイオ燃料対応車両については、燃料の流通上の問題と車両側
の問題がある。現在、多くのサービスステーションで販売されている燃料はガソリン 2 グレ
ード(98、95-E5)、軽油 1 グレードが一般的であり、高濃度バイオ混合燃料を追加するため
には燃料ロジスティクスを再構築させる必要がある。車両については、技術的な問題から
7vol%を超える FAME 混合軽油の既存車への利用は欧州自動車工業会が反対している。こ
のため、高濃度 FAME 適合の専用車両を開発する必要があるが、新型車の開発には最低で
も 6 年程度はかかり(欧州自動車メーカー談)、法整備等も考えると 2020 年に間に合わせ
るのは非常に難しい。またメーカーが高濃度バイオ燃料対応車を市場投入するには、十分な
マーケットが有ることが前提となる。高濃度バイオ燃料をおよびその対応車を普及させるた
めには、車両、燃料の法規確立等のアクション、また消費者がこのような車両、燃料を購入
するための、強健なバイオ燃料市場戦略のデザインが必要と考える。
バイオディーゼルの中でも HVO(Hydrogenated or treated Vegetable Oil)は、FAME と
は性状が異なり、軽油への高濃度混合が可能である。2010 年に NESTE 社のシンガポール
商業プラントが、2011 年にロッテルダム商業プラントが運転開始されたこともあり、近年
シェアを大幅に伸ばしている。現在、軽油中の HVO 混合割合の平均値は 0.6vol%で、2012
年末には 2 倍程度まで増大することが予想されている。製造コストが課題であるが、将来的
にも更にシェアを伸ばしてくる可能性がある。
③ダブルカウント対象の次世代バイオ燃料の普及の可能性について、上述の通り RED に
おいては廃棄物、残留物、非食料品のセルロース系およびリグノセルロース系原料から作ら
れる燃料を次世代バイオ燃料と位置付け、再生可能エネルギー割合を 2 倍でカウントするこ
とが認められている。これら燃料のうち、廃食油(Used Cooking Oil: UCO)は既に利用可
能な食料とバッティングしないバイオ燃料であり、欧州で広く利用されている。主な供給元
はレストランやホテル等であり、EU 域内だけでは十分な量が確保できないものの、価格が
比較的安価なため、現在 EU では安価な UCO を海外、特に中国から輸入している。2010
年 4 月~2011 年 4 月の再生可能輸送燃料導入義務制度(RTFO)レポート(3)によると、UK
ではバイオディーゼルの原料の半分以上は廃食油であった(図 4)。UK の燃料供給事業者が
積極的に UCO を使用した理由は、他のバイオ燃料の持続可能性に関する証明が不要である
ことと、2 倍カウントが許されているという2つが挙げられる。
8
JPEC レポート
EC の DG Agriculture and Rural
図 4 UK におけるバイオディーゼルの
Development(農業農村開発総局)は、
フィードストック(2010.4~2011.4)
RED 目標 10%のうち、7.5%は既存の
バイオ燃料、1.5%が次世代バイオ燃料
で、廃食油(Used Cooking Oil: UCO)
がこの大半をしめることになると予想
を立てている。その他、EC は次世代バ
イオ燃料の研究開発、特に藻類バイオ
燃料の研究開発に対して、EU として
財政支援を検討しており、今後の開発
と市場導入が期待される。
(Verified RTFO biofuel statistics: obligation year 2010/11 より抜粋)
④エタノールとバイオディーゼル以
外の再生可能エネルギー、及び⑤道路交通以外の運輸部門の再生可能エネルギー割合増加の
可能性について、上述の通り NREAPs を総合すると、RED 目標 10%に対して 1 割弱を再
生可能電気(オンロード、ノンロード含む)が担っており、加盟国が再生可能電気による電
気自動車(EV)、鉄道の普及に期待を持っていることが伺える。ドイツでは、2020 年まで
に国内で 100 万台の EV の普及を目指しており、EV の開発を推進するプロジェクトを支援
している(現在のドイツ国内の乗用車保有台数は約 43 百万台。2020 年も同程度の保有台数
とすると EV の比率は 2.3%程度となる)。但し、道路交通部門における EV 及び充填所の普
及に加え、発電部門において、総発電量に占める再生可能エネルギーのシェアを如何に増加
させるかが課題である。
4. RED および FQD 目標値に対する質的課題
EU は量的課題だけでなく、質的課題にも直面している。近年、バイオディーゼルはバイ
オエタノールと比較して、持続可能性上の問題があることが一般的に受け入れられている。
また、バイオ燃料用作物生産により当該土地で従来生産されていた作物が別の土地で生産さ
れることに伴う土地転換を「間接土地利用変化:ILUC」と呼ぶが、ILUC を考慮した場合、
殆どのバイオ燃料は持続可能性基準を満たさないことが、幾つかの評価機関により指摘され
ている。最近の評価として、2011 年 10 月の IFPRI(International Food Policy Research
Institute)の報告書(4)がある。それによると、ILUC を考慮すると、主な BDF は軽油よりも
GHG 排出量が LCA で増加してしまう(5)。この結果は EU、及び NREAP で RED の 2020
年目標を主にバイオディーゼルで達成しようとしている多くの加盟国にとって頭が痛い話
となっている。
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JPEC レポート
図 5 ILUC のバイオ燃料 GHG 排出量への影響
(icct ‘IFPRI-MIRAGE 2011modelling of indirect land use change’より作成)
ILUC 議論の状況と、バイオ燃料製造業界の姿勢
EC は、2010 年末に ILUC の取り扱いに関してオプションを提示し、より詳細な影響評
価と法令制定を 2011 年 7 月に発表する予定であったが、議論は未だに決着していない。EC
は現在、ILUC の取り扱いとして①化石燃料に対する GHG 削減割合(2011 年:35%、2017
年:50%)を上げる、②ILUC ファクターを各バイオ燃料に設ける、③①と②の組み合わせ、
の3つの選択肢のいずれかを導入することを考えており、早ければ夏前までに結論を出す方
向で進んでいる。
「ILUC は実際に発生している」というのがバイオ燃料のステークフォルダーの統一見解
である。しかし議論が難航しているのは、ILUC 自体の評価の難しさが大きな理由として挙
げられる。ILUC は観察も測定することも出来ず、ある仮定のもとで経済モデリングを通じ
て評価するしか手段がなく、仮定の置き方によって結果が変わってしまうからである。また、
議論は IFPRI が作成した報告書をベースに行われているが、他の報告書との結果が異なっ
ていることもあり、一部の政治家や規制当局者は IFPRI のモデリングを利用することに対
して否定的な立場を取っている。欧州バイオディーゼル製造業者団体である European
Biodiesel Board: EBB(欧州バイオディーゼル製造業者団体)は、BDF 生産時の土地の利
用性が考慮されていない、副産物のメリットが考慮されていない、利用される土地に対して
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JPEC レポート
一貫性がない、原材料が持つ個別の性質が考慮されていない(個々の食物栽培時期、地域等)
などを ILUC 評価の問題点として指摘している。
ただ、評価結果にはばらつきがあるものの、「BDF はエタノールに比べて ILUC のパフ
ォーマンスが悪い」というのはどの ILUC 検討報告書も一致している。このため ILUC の
導入はバイオエタノール製造業界よりもバイオディーゼル製造業界の方が深刻である。
EBB
は、「ILUC は科学的に未熟であり信用できるものでない」として、上述の ILUC の問題点
を主張している一方、ILUC の影響が小さいフィードストックを促進していく、土地の生産
性を上げて GHG パフォーマンスを向上させる等、「バイオディーゼル製造の Good
Practice」に取り組んでいるとのことである。
エタノールについては ILUC パフォーマンスに優れるものの、
欧州バイオエタノール製造
業者団体である the European Producers Union of Renewable Ethanol Association
(ePURE)も ILUC の成り行きを注視している。特に、ILUC によりバイオディーゼルの利
用率が低下し、RED 目標値(10%)が見直され、値が低くなるようなことが起これば、エタノ
ール需要も減少することに成りかねないことを懸念している。またバイオディーゼル、エタ
ノールの両業界とも、持続可能性基準(ILUC)の結論がはっきりしていないため、新規投
資が滞っている状態である。
現在、ILUC の議論は政治的な問題となっており、EC 内ではエネルギー総局と気候変動
総局が対立している。また Green Peace、WWF 等のバイオ燃料に対して否定的な意見を持
っている団体の圧力が強くなっている。更にバイオ燃料の食糧との競合に関連する感情的な
議論も起こっている。
バイオ燃料政策と農業促進との関係
EU におけるバイオ燃料促進は、背後に農業政策があるため、ILUC について政治的要素
が大きいのであれば、バイオ燃料を促進(農業を促進)するように政治的な力が働くはずで
ある。即ち、バイオ燃料業界を崩壊させるような政策は行わないことが想定されるが、現在
は状況が異なるようである。
EU では過去において、「バイオ燃料の促進」を「農業政策」の一つとして実施してきた。
例えば、バイオ燃料のための作物を栽培する場合には農家やバイオ燃料製造業者は様々なイ
ンセンティブを享受することができた。だが現在は、これらインセンティブは終了している。
しかし、EC 農業農村開発総局によると、RED の施行によって、例えばバイオガスの利用
や太陽光発電、風力発電の立地、使用等、バイオ燃料原料の生産以外の多くのメリットを農
家は享受できており、農村の発展に繋がっているとのことである。即ち、敢えてバイオ燃料
を作らなくても、再生可能エネルギーの促進により、現在も農業には多くのメリットが享受
できる状態にあるといえる。
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JPEC レポート
また農業農村開発総局は、RED が公表される前に、農作物バランスへの RED の影響評
価を行い、海外の輸入により EU 域内の農業が閉鎖されることはないという結果を得ている。
即ち、持続可能性基準の導入により、域外からの植物油等の輸入が若干増えても大きな問題
とならない。このように RED10%の目標値は、農業への影響を全て折り込み済みといえる。
農業界は政治的な影響力がある。その他、食料品産業界、自動車業界、石油業界等、影響
力が大きい業界がある。一方、バイオ製造業者は小規模なため影響力は小さく、サポートす
る団体も少ない。勿論、農業界はバイオ燃料に賛成しているが、報酬を受けることが前提に
ある。食料品産業、自動車、石油、どれもバイオ燃料、特にバイオ燃料利用に対して後ろ向
きである。
以上のように、RED により農業界は恩恵を受けているものの、バイオ燃料製造業界への
政治的な力が弱いこともあり、現状は農業政策イコールバイオ燃料製造業者政策とはなって
いない。
4.おわりに
RED において、現在のバイオ燃料の混合上限である E10、B7 が EU 域内全域に普及し
たとしても、2020 年運輸部門 10%目標は難しく、また間接土地利用変化(ILUC)の影響
によるバイオ燃料持続可能性基準の達成も困難な状況にある。RED の規定では、2014 年に
内容の見直しを行うこととなっており、この時点で目標値等の変更が行われる可能性がある。
しかし EC には、加盟国や企業がこれまで実施してきた取組み、投資も考慮されるべきとの
考えがあり、原則は現在の指令と大きく変わらないとの考えもある。いずれにせよ、今後
EU が量(10%)と質(持続可能性)の2つの目標達成に向け、どのような行動をとっていく
かが非常に注目される。
参考
(1)http://ec.europa.eu/energy/renewables/action_plan_en.htm
(2)http://ies.jrc.ec.europa.eu/uploads/jec/JECBiofuels Report_2011_PRINT.pdf
(3)http://www.dft.gov.uk/statistics/releases/verified-rtfo-biofuel-statistics-2010-11/
(4) http://www.ifpri.org/sites/default/files/publications/biofuelsreportec2011.pdf
(5)http://www.theicct.org/sites/default/files/publications/ICCT_IFPRI-iLUC-briefing_Nov
2011-1.pdf
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